説明

トルク受け部の保護クリップ及びその取り付け溝加工方法

【課題】装着が容易で、組み付け姿勢を維持できるトルク受け部の保護クリップ及びその取り付け溝加工方法を提供する。
【解決手段】保護クリップ10は、ブレーキパッドの耳部が挿入されるトルク受け部の凹部に嵌合し、前記凹部のロータ半径方向の外周側及び内周側の壁面に沿って接するクリップ挿入部20と、前記クリップ挿入部の一端から屈曲して前記トルク受け部の取付下側面に沿って延出する受圧部30と、前記外周側の壁面に接する前記クリップ挿入部の他端から前記トルク受け部の取付上側面へ折り曲げて、前記凹部の開口に跨って形成された一対の凹溝の一方に嵌合する第1抜け止め爪40と、前記クリップ挿入部と前記受圧部の間であって、前記取付下側面から前記凹部へ向けて折り曲げて、前記一対の凹溝の他方に嵌合する第2抜け止め爪50と、前記クリップ挿入部の他端から前記外周側の壁面に沿って突出するクランプ爪60とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はディスクブレーキを構成するキャリパボディのトルク受け部の保護クリップ及びその取り付け溝加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両性能の高性能化、車両重量の増加、ブレーキロータのサイズアップに伴って、ディスクブレーキを構成するブレーキパッドの面積が拡大され、その重量も増加する傾向にある。また、タイヤ性能の向上に伴い、ブレーキの制動トルクも上がってきている。
【0003】
このため、例えば対向型キャリパのように、アルミ部で、制動トルクを受ける機構では、ブレーキパッドの振動や、高重力(G)の制動トルクから、アルミ部材、ブレーキパッドのトルク受け部の当接面を、パッドグリップなどの高強度部材を用いて保護する必要がある。また、パッドグリップは、一般にロータとの間で摩擦力を生じさせるためのブレーキパッドをロータの軸方向に摺動させるためのガイド、およびブレーキパッドを安定して保持するために用いられている。
【0004】
従来、このようなブレーキパッドのトルク受け部の当接面を高強度部材で保護する技術として、特許文献1〜3のディスクブレーキ構造が挙げられる。
特許文献1は、摩擦パッドのトルク伝達面を支承して、摩擦パッドをディスク軸方向へ案内するパッドリテーナを敷設した車両用ディスクブレーキである。パッドリテーナは、キャリパボディにねじ手段でディスク半径方向及びディスク軸方向へ移動可能に取り付けている。
【0005】
特許文献2は、キャリパのトルク受け面にブレーキパッドをディスク軸方向へ案内するリテーナを取り付けたディスクブレーキである。リテーナは、トルク受け面のディスク半径方向中間部に形成された断面V字状のリテーナ取付凹部に、リテーナ取付凹部のV字状に対応した断面V字状の取付部をボルト止めしている。
【0006】
特許文献3は、キャリパに形成されたトルク受け部とブレーキパッドとの間にライナを有する対向型ディスクブレーキである。ライナは、トルク受け部に固定される固定部を備えており、この固定部の孔に挿入された締結部材を所定のトルクで締め付けてトルク受け部の端面に固定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3198397号公報
【特許文献2】特開2010−159818号公報
【特許文献3】特開2007−321844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜3に開示のように高強度部材をねじなどの締結手段によって取り付ける構造では、トルク受け部に雌ねじ穴を形成しなければならない。また、狭隘な場所で締結ボルトを螺合しなければならず組付性に問題があった。特にロータの軸方向に高強度部材を取り付ける構造では、固定のための雌ねじが狭隘な箇所であり加工が極めて困難であった。また、ロータのインナ側とアウタ側でトルク受け部のパッドクリップの形状が異なる場合には、それぞれ専用の形状に加工しなければならなかった。このように締結手段による高強度部材のトルク受け部への取り付けは、部品点数が増えるばかりでなく、製造工程も多くなるという問題があった。
【0009】
また、締結手段による高強度部材の組み付けのほかにも、クランプ式、すなわちバネ力による保持又は挟持手段でトルク受け部に組み付け可能な高強度部材がある。クランプ式にした場合、締結手段と比べて保持力が下がるため、制動時に高強度部材がロータの軸方向にがたついたり、装着性を考慮して、高強度部材とキャリパボディのわずかな隙間を設定する必要がある。また、ブレーキパッドの振動により締結手段と比べて、クランプ式では高強度部材の摩耗やダメージが生じ易くなっていた。
【0010】
そこで、上記従来技術の問題点を解決するため、本発明は、装着が容易で、組み付け姿勢を維持できるトルク受け部の保護クリップ及びその取り付け溝加工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のトルク受け部の保護クリップは、ディスクブレーキのブレーキパッドの耳部が挿入されるキャリパボディのトルク受け部の凹部に嵌合するトルク受け部の保護クリップであって、前記凹部の外周側の壁面から前記トルク受け部の取付上側面へ折り曲げて、前記凹部の開口に跨って形成された一対の凹溝の一方に嵌合する第1抜け止め爪と、前記トルク受け部の取付下側面から前記凹部へ向けて折り曲げて、前記一対の凹溝の他方に嵌合する第2抜け止め爪と、を備えたことを特徴としている。
上記構成により、凹溝に嵌合した第1及び第2抜け止め爪によって、凹溝の横壁に抜け止め爪が挟まれて固定され、クリップが軸方向にずれることがない。従って、クリップのがたつきを防止することができる。
【0012】
本発明のトルク受け部の保護クリップは、ディスクブレーキのブレーキパッドの耳部が挿入されるキャリパボディのトルク受け部の凹部に嵌合し、前記凹部のロータ半径方向の外周側及び内周側の壁面に沿って接するクリップ挿入部と、前記クリップ挿入部の一端から屈曲して前記トルク受け部の取付下側面に沿って延出する受圧部と、前記外周側の壁面に接する前記クリップ挿入部の他端から前記トルク受け部の取付上側面へ折り曲げて、前記凹部の開口に跨って形成された一対の凹溝の一方に嵌合する第1抜け止め爪と、前記クリップ挿入部と前記受圧部の間であって、前記取付下側面から前記凹部へ向けて折り曲げて、前記一対の凹溝の他方に嵌合する第2抜け止め爪と、前記クリップ挿入部の他端から前記外周側の壁面に沿って突出するクランプ爪と、を備えたことを特徴としている。
【0013】
上記構成により、クリップ挿入部とクランプ爪により容易に凹部に組み付けることができる。第1及び第2抜け止め爪は、凹部の開口を跨がる凹溝のそれぞれに嵌合させている構成のため、制動時に爪の側面が凹溝の側面に当たることによって、保護クリップが抜けることがない。従って保護クリップの組み付け状態を長期にわたって維持することができる。
【0014】
この場合において、前記クランプ爪は、前記クリップ挿入部の他端であって、前記第1抜け止め爪を挟む位置に一対形成したことを特徴としている。
上記構成により、凹溝に嵌合した第1抜け止め爪の付け根を凹部の外周側の壁面に沿って両側から支持することができ、保護クリップの組付け姿勢を安定化させることができる。
【0015】
また、前記クリップ挿入部は、前記外周側の壁面に沿って接する第1支持片と、前記内周側の壁面に沿って接する第2支持片と、前記第1支持片と第2支持片を連結する連結片とからなり、前記連結片の長さをαとし、前記第2支持片から対向する前記クランプ爪の先端までの長さをβとし、前記凹部の開口幅をγとしたときに、α<γ<<βの範囲を満たすように設定し、前記第1支持片は、前記凹部に組み込んだときに湾曲して前記外周側の壁面との隙間を小さくしていることを特徴としている。
【0016】
上記構成により、第1支持片を凹部の外周側の壁面に沿って配置し、第1支持片と壁面との間に生じる隙間(クリアランス)を大幅に減らすことができる。よってブレーキパッドに振動が生じた場合であっても、保護クリップの破損を防止することができる。また、保護クリップの耐久性を大幅に向上させることができる。
また、前記第1及び第2抜け止め爪は、爪先端と対向する前記凹溝の底面との間に隙間を設けたことを特徴としている。
【0017】
保護クリップの組みつけの際、爪先端が凹溝の底面に当接する構成では、寸法交差によって当接したり、しなかったりすることがあり、組み付け性が安定しない虞がある。しかし上記構成により、保護クリップをトルク受け部の凹部へ組み付けした状態のときに、寸法公差のばらつきに関わらず、第1及び第2抜け止め爪の先端と凹溝の底面が当接することがない。従って、寸法公差に起因する組み付け性のばらつきを防ぐことができる。
【0018】
本発明のトルク受け部の保護クリップの取り付け溝加工方法は、回転刃を備えた切削加工手段をキャリパボディのロータ側の開口からロータの半径方向へ挿入し、前記回転刃をトルク受け部に形成された凹部の開口からロータの円周方向に移動させて、前記凹部の開口に跨った位置に一対の凹溝を形成することを特徴としている。
【0019】
上記構成により、切削加工治具の回転刃を凹部の深さ方向(ロータの円周方向)に移動するだけで凹部の開口を跨るように凹溝を形成することができ、加工時間、加工コストを抑えて、生産性を向上させることができる。
【0020】
前記回転刃は、半径方向に移動させて前記凹溝を形成することを特徴としている。
これにより、凹溝の曲面が垂直方向に緩やかに形成することができる。従って、溝の深さ方向に深く加工する必要がない。
【発明の効果】
【0021】
本発明のトルク受け部の保護クリップ及びその取り付け溝加工方法によれば、取り付けが容易で、長期にわたって組み付け状態を安定化させると共に維持することができる。
【0022】
またトルク受け面に締結手段を用いて保護クリップを固定する必要がないため、加工工程の増加や加工コストの上昇を抑えることができる。保護クリップは、プレス加工で、一体形成することができ、製造工程を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のトルク受け部の保護クリップの受圧部の下方から見た斜視図である。
【図2】本発明のトルク受け部の保護クリップのクリップ挿入部の上方から見た斜視図である。
【図3】本発明のトルク受け部の保護クリップの組み付け状態を表す斜視図である。
【図4】トルク受け部の保護クリップのクリップ挿入部の部分拡大した側面図である。
【図5】トルク受け部の凹部の斜視図である。
【図6】トルク受け部の凹部の凹溝の加工方法の説明図であり、(a)は(b)のA−A断面図であり、(b)は側面の断面図である。
【図7】クリップ挿入部の折り曲げの設定範囲の説明図であり、(a)は凹部とクリップ挿入部の対比の説明図であり、(b)は第1支持片の部分拡大図である。
【図8】本発明のトルク受け部の保護クリップを取り付けたディスクブレーキの説明図であり、(a)はブレーキパッドを取り付けた状態の側面の断面図、(b)はブレーキパッドを除いた斜視図である。
【図9】本発明のトルク受け部の保護クリップを取り付けた変形例1のディスクブレーキの斜視図である。
【図10】変形例1のディスクブレーキの説明図であり、(a)はブレーキパッドを取り付けた状態の側面の断面図、(b)はキャリパボディの側面の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のトルク受け部の保護クリップ及びその取り付け溝加工方法の実施形態を添付の図面を参照しながら、以下詳細に説明する。
図1は、本発明のトルク受け部の保護クリップの受圧部の下方から見た斜視図である。図2は、本発明のトルク受け部の保護クリップのクリップ挿入部の上方から見た斜視図である。図3は、本発明のトルク受け部の保護クリップの組み付け状態を表す斜視図である。図4は、トルク受け部の保護クリップのクリップ挿入部を部分拡大した側面図である。
【0025】
先ず始めに、本発明のトルク受け部の保護クリップの取り付け対象となるディスクブレーキ70について説明する。図8は、本発明のトルク受け部の保護クリップを取り付けたディスクブレーキの説明図であり、(a)はブレーキパッドを取り付けた状態の側面の断面図を示し、(b)はブレーキパッドを除いた斜視図を示している。図5は、トルク受け部の凹部の斜視図である。
【0026】
図8に示すように、ディスクブレーキ70は、キャリパボディ72、ブレーキパッド80、トルク受け部の保護クリップ10を基本として構成されている。
キャリパボディ72は、ブレーキパッド80とトルク受け部の保護クリップ10を支持している。キャリパボディ72は、ロータ100を跨いでロータ100の回入側と回出側にそれぞれ配置されるトルク受け部74と、トルク受け部74を図示しない支持部材に固定するための取付け孔76を有している。
【0027】
本実施形態の保護クリップ10が取り付けられるトルク受け部74は、凹部75を有している。凹部75は、後述するブレーキパッド80を支持するための支持部の役割を担っている。また本実施形態の凹部75は凹溝90を有している。凹溝90は、凹部75の取付上側面74a及び取付下側面74bの間の開口77であって、ロータ100の半径方向、換言するとトルク受け部74の取付上側面74a及び取付下側面74b上であって、ブレーキパッド80の摺動方向と直交する方向に跨って円弧状に形成されている。なお、取付下側面74bは制動トルクが付加した時の受圧面となる。
【0028】
図6はトルク受け部74の凹部の凹溝の加工方法の説明図であり、(a)は(b)のA−A断面図であり、(b)は側面の断面図である。図示のように凹溝90の加工は、切削加工手段となる切削加工治具92を用いている。切削加工治具92は、本体94の先端側部に形成された刃具支持部96に回転刃98が回転可能に取り付けられている。本体94内部には、複数のギア(不図示)が長手方向に沿って連結されている。刃具支持部96の回転刃98は着脱可能に支持され。任意の切削幅の回転刃98を取り付けることができる。なお、切削加工治具92は、キャリパボディ72の開口幅Dよりも小さい幅の治具を用いている。
【0029】
この切削加工治具92がキャリパボディ72のロータ側(内側)の開口から挿入している(矢印Bの方向、ロータの半径方向)。このとき、図6(a)に示すように、刃具支持部96及び回転刃98はキャリパボディ72の開口幅Dよりも小さい幅であるため、容易に凹部75まで挿入することができる。そして、図6(b)に示すように、回転刃98を凹部75の取付上側面74a及び取付下側面74bの間の開口77から凹部75の深さ方向(矢印Cの方向、ロータの円周方向)に移動させている。回転刃98の厚みは、凹溝90の幅に設定することによって容易に凹溝90を形成することができる。このように切削加工治具92の回転刃98を凹部75の深さ方向に移動するだけで凹部75の取付上側面74a及び取付下側面74bの間の開口77を跨るように円弧状の凹溝90を形成することができ、加工時間、加工コストを抑えて、生産性を向上させることができる。
【0030】
なお、図中の切削加工治具92は、本体に回転刃98を1枚取り付けた構成であるが、回転刃を取り付けた本体の裏面にも回転刃を取り付けた2枚の回転刃(換言すると、本体のギアを間に挟む位置に2枚の回転刃)を供えた切削加工治具を用いることにより、ロータのアウタ側とインナ側の凹溝90を1つの加工工程にて一括して行ったり、僅かな移動で形成したりすることができ、加工時間の大幅な短縮化が図れる。
【0031】
ブレーキパッド80は、金属で構成されたプレッシャプレート82と、ロータ100との間で摩擦力を生じさせるライニング84から構成されている。ブレーキパッド80は、ライニング84を対向させるようにしてロータ100のインナ側とアウタ側とにそれぞれ配置され、それぞれロータ100の回入側と回出側に設けられたトルク受け部74の間に備えられる。そしてプレッシャプレート82には、耳部86と呼ばれる凸部が設けられている。耳部86はトルク受け部74の凹部75に挿入される際に、後述の保護クリップ10によって保持されている。
【0032】
本発明のトルク受け部の保護クリップ10は、図1に示すように、ディスクブレーキ70のブレーキパッド80の耳部86が挿入されるキャリパボディ72のトルク受け部74の凹部75に嵌合し、前記凹部75の対向するロータ半径方向の外周側及び内周側の壁面75a,75bに沿って接するクリップ挿入部20と、前記クリップ挿入部20の一端から屈曲して前記トルク受け部74の取付下側面74bに沿って延出する受圧部30と、前記外周側の壁面75aに接する前記クリップ挿入部20の他端から前記トルク受け部74の取付上側面74aへ折り曲げて、前記凹部75の取付上側面74a及び取付下側面74bの間の開口77に跨って形成された一対の凹溝90の一方に嵌合する第1抜け止め爪40と、前記クリップ挿入部20と前記受圧部30の間であって、前記取付下側面74bから前記凹部75へ向けて折り曲げて、前記一対の凹溝90の他方に嵌合する第2抜け止め爪50と、前記クリップ挿入部20の他端から前記凹部75の外周側の壁面75aに沿って突出するクランプ爪60と、を主な基本構成としている。なお本実施形態の保護クリップ10は、強度に優れるステンレス等の不錆性金属板をプレス加工により一体形成することができる。また、保護クリップ10の幅は、トルク受け部74の取付上側面74a及び取付下側面74bの幅と略同じ長さに設定している。
【0033】
クリップ挿入部20は、トルク受け部74の凹部75に嵌合する部材である。クリップ挿入部20は、トルク受け部74の凹部75に取り付けられたときに、ブレーキパッド80の耳部86を支持すると共に、ブレーキパッド80がロータの軸方向に摺動することをサポートする役割を担っている。クリップ挿入部20は、外周側の壁面75aに沿って接する第1支持片22と、内周側の壁面75bに沿って接する第2支持片24と、第1支持片22と第2支持片24を連結する連結片26とから構成され、断面視略コ字状に形成されている。第1支持片22は凹部75の外周側の壁面75aに沿って接する部材である。第2支持片24は凹部75の内周側の壁面75bに沿って接する部材である。連結片26は、凹部75の開口幅、即ちロータの半径方向の長さよりも僅かに短い長さに設定されている。このような連結片26によれば、クリップ挿入部20と凹部75の隙間を少なくすることができる。
【0034】
クリップ挿入部20の第2支持片24と連結片26の間の屈曲は略直角に設定している。一方、第1支持片22と連結片26の屈曲は、所定の傾斜角に設定されている。図7はクリップ挿入部20の折り曲げの設定範囲の説明図であり、(a)は凹部とクリップ挿入部20の対比の説明図であり、(b)は第1支持片の部分拡大図である。図示のように、クリップ挿入部20の第2支持片24をトルク受け部74の凹部75の下面と一致させたときに、連結片26の長さ(連結片26の端部の屈曲部間の長さ)をαとし、第2支持片24からクランプ爪60の先端までの長さをβとし、凹部75の開口幅をγとしたときに、α<γ<<βの範囲を満たすように設定している。また、前記第1支持片22は、前記凹部75に組み込んだときに湾曲して前記凹部75の外周側の壁面75aとの隙間を小さくしている。さらに、第1支持片22は、対向する第2支持片24とは反対側に弓なりに湾曲形状に形成している。このような範囲に設定することにより、第1支持片22と第2支持片24との間に拡開方向の付勢力が生じて、拡開支持することができ、第1支持片22と第2支持片24と、対向する凹部75の外周側及び内周側の壁面75a,75bとの間で組み付け性を安定的に確保することができる。また第1支持片22は、対向する第2支持片24とは反対側に弓なりに湾曲形状に形成しているため、凹部75の外周側の壁面75aを均一に横圧することができる。このため、第1支持片22を凹部75の外周側の壁面75aに沿って配置し、第1支持片22と外周側の壁面75aとの間に生じる隙間(クリアランス)を大幅に減らすことができ、ブレーキパッド80に振動が生じた場合であってもクリップの破損を防止することができる。従って、保護クリップ10の耐久性を大幅に向上させることができる。
【0035】
受圧部30は、クリップ挿入部20の第2支持片24の端部からトルク受け部74の取付下側面74bに沿って延設させた平滑板である。具体的に受圧部30は、第2支持片24の端部から鋭角に屈曲させて、さらに鈍角に屈曲させて、取付下側面74bに沿って延出させている。そして第2支持片24と受圧部30の間の屈曲は、ブレーキパッド80の配置方向へ向けて突出した凸状に形成されている。これにより、保護クリップの組み付け状態のときに、第2支持片24と受圧部30との間の屈曲が、凹部75の取付上側面74a及び取付下側面74bの間の開口77の隅部と当接することがない。このため、保護クリップ10の組み付けの際、寸法公差に起因する組み付け性のばらつきを防ぐことができる。
【0036】
第1支持片22の自由端22aには、第1抜け止め爪40と、クランプ爪60が形成されている。
第1抜け止め爪40は、壁面に接するクリップ挿入部20の先端からトルク受け部74の取付上側面74aへ折り曲げて、凹部75の取付上側面74a及び取付下側面74bの間の開口77に跨って形成された一対の凹溝90の一方に嵌合させた部材である。第1抜け止め爪40の固定端40bは、第1支持片22の自由端22aの中心部に形成されている。第1抜け止め爪40の自由端40aは、第2支持片24と反対方向に向けて屈曲したフック状に形成されている。また、第1抜け止め爪40の幅は、凹溝90の溝幅と略同じか僅かに短い長さに設定し、ロータ軸方向にわずかな隙間を設けている。図4は、トルク受け部の保護クリップのクリップ挿入部の部分拡大した側面図である。図示のように、第1抜け止め爪40は、制動トルクが付加していないときは、爪の先端と凹溝90の間に隙間を設けて、先端が凹溝90に当接しないように設定している。このような構成により、保護クリップをトルク受け部74の凹部75へ組み付けした状態のときに、第1抜け止め爪40の先端(自由端40a)と凹溝90が当接することがない。このため、保護クリップ10の組み付けの際、寸法公差に起因する組み付け性のばらつきを防ぐことができる。
【0037】
クランプ爪60は、クリップ挿入部20の第1抜け止め爪40の先端から凹部75の外周側の壁面75aに沿って突出した部材である。クランプ爪60は、第1支持片22の自由端22aであって、第1抜け止め爪40を中心に挟む位置に一対形成している。このようなクランプ爪60を第1支持片22の自由端22aの両隅に一対形成した構成により、ブレーキパッド80が摺動方向に移動したり、ブレーキパッド80に振動が生じたりした場合であっても、保護クリップ10の姿勢を安定化させることができる。また、保護クリップ10の組み付け性を長期にわたって維持することができる。
【0038】
受圧部30と第2支持片24との間の屈曲には、第2抜け止め爪50が形成されている。
第2抜け止め爪50は、クリップ挿入部20と受圧部30の間であって、取付下側面74bから凹部75へ向けて折り曲げて、一対の凹溝90の他方に嵌合させた部材である。第2抜け止め爪50の固定端50bは、第2支持片24と接続する側の受圧部30に形成されている。第2抜け止め爪50の自由端50aは、受圧部30と第2支持片24の屈曲箇所へ向けて屈曲したフック状に形成されている。また、第2抜け止め爪50の幅は、凹溝90の溝幅と略同じか僅かに短い長さに設定し、ロータ軸方向にわずかな隙間を設けている。図4に示すように、第2抜け止め爪50は、制動トルクが付加していないときは、爪の先端と凹溝90の間に隙間を設けて、先端が凹溝90に当接しないように設定している。このような構成により、保護クリップ10の組み付け状態のときに、第2抜け止め爪50の先端(自由端50a)と凹溝90が当接することがない。このため、保護クリップ10の組み付けの際、寸法公差に起因する組み付け性のばらつきを防ぐことができる。
【0039】
また第1及び第2抜け止め爪40,50は、凹部75の取付上側面74a及び取付下側面74bの間の開口77を跨がる凹溝90のそれぞれに嵌合させている構成のため、制動時に爪の側面が凹溝90の側面に当たることによって、保護クリップ10が抜けることがない。従って保護クリップ10の組み付け状態を長期にわたって維持することができる。
【0040】
上記構成によるトルク受け部の保護クリップ10は、組み付け時に凹部75の取付上側面74a及び取付下側面74bの間の開口77からクリップ挿入部20を凹部75の外周側及び内周側の壁面75a,75bに沿ってロータの円周方向へ挿入する。凹部75の取付上側面74a及び取付下側面74bの間の開口77には、予め開口77を跨る位置であって、ロータの半径方向に凹溝90が形成されている。そして、第1及び第2抜け止め爪40,50が凹溝90に嵌合するまで挿入し位置合わせを行っている。保護クリップ10を凹部75に嵌め合わせたとき、第1及び第2抜け止め爪40,50は、爪の先端と凹溝90の間に隙間を設けて、先端が凹溝90に当接しないように設定している。そして、クリップ挿入部20の第1支持片22は、連結片26の長さ(連結片26の端部の屈曲部間の長さ)をαとし、第2支持片24からクランプ爪60の先端までの長さをβとし、凹部75の開口幅をγとしたときに、α<γ<<βの範囲を満たすように設定し、前記第1支持片22は、前記凹部75に組み込んだときに湾曲して前記凹部75の外周側の壁面75aとの隙間を小さくしている。
【0041】
このような保護クリップ10によれば、クリップ挿入部20と凹部75、クランプ爪60と凹溝90の嵌め合い構造によって、容易に凹部75に組み付けることができる。第1及び第2抜け止め爪40,50は、凹部75の取付上側面74a及び取付下側面74bの間の開口77を跨がる凹溝90のそれぞれに嵌合させている構成のため、容易に位置合わせを行なうことができると共に、制動時に爪の側面が凹溝90の側面に当たることによって、保護クリップ10が抜けることがない。従って保護クリップ10の組み付け状態を長期にわたって維持することができる。特に対向型ディスクブレーキの場合、レイアウト上、トルク受け部にクランプ式のパッドクリップを設けることは難しく、凹溝と抜け止め爪に隙間を設けて、凹溝に抜け止め爪を緩く嵌合させることは有効である。
【0042】
図9は、本発明のトルク受け部の保護クリップ10を取り付けた変形例1のディスクブレーキの斜視図である。図10は、変形例1のディスクブレーキ70の説明図であり、(a)はブレーキパッドを取り付けた状態の側面の断面図、(b)はキャリパボディの側面の断面図である。図示のように、変形例1のディスクブレーキ70Aのキャリパボディ72Aは、キャリパボディ72Aと、ブレーキパッド80Aと、トルク受け部の保護クリップ10を備え、図示しない支持部材に固定するための取付け孔を備えたサポート(不図示)をトルク受け部74Aの下面の取付け穴99に取り付け可能な構成である。このような変形例1のディスクブレーキ70Aは、図8に示すディスクブレーキ70に比べてキャリパボディ72Aの開口がサポートで狭くなった構成であるにも係らず、切削加工治具を挿入でき、容易に凹溝90Aを形成することができる。また保護クリップ10を凹部75Aに容易に取り付けることができ、同様の作用効果を得ることできる。
【符号の説明】
【0043】
10………トルク受け部の保護クリップ、20………クリップ挿入部、22………第1支持片、24………第2支持片、26………連結片、30………受圧部、40………第1抜け止め爪、50………第2抜け止め爪、60………クランプ爪、70,70A………ディスクブレーキ、72,72A………キャリパボディ、74,74A………トルク受け部、75,75A………凹部、76………取付け孔、77………開口、80,80A………ブレーキパッド、82………プレッシャプレート、84………ライニング、86………耳部、90,90A………凹溝、92………切削加工治具、94………本体、96………刃具支持部、98………回転刃、99………取付け穴、100………ロータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクブレーキのブレーキパッドの耳部が挿入されるキャリパボディのトルク受け部の凹部に嵌合するトルク受け部の保護クリップであって、
前記凹部の外周側の壁面から前記トルク受け部の取付上側面へ折り曲げて、前記凹部の開口に跨って形成された一対の凹溝の一方に嵌合する第1抜け止め爪と、
前記トルク受け部の取付下側面から前記凹部へ向けて折り曲げて、前記一対の凹溝の他方に嵌合する第2抜け止め爪と、
を備えたことを特徴とするトルク受け部の保護クリップ。
【請求項2】
ディスクブレーキのブレーキパッドの耳部が挿入されるキャリパボディのトルク受け部の凹部に嵌合し、前記凹部のロータ半径方向の外周側及び内周側の壁面に沿って接するクリップ挿入部と、
前記クリップ挿入部の一端から屈曲して前記トルク受け部の取付下側面に沿って延出する受圧部と、
前記外周側の壁面に接する前記クリップ挿入部の他端から前記トルク受け部の取付上側面へ折り曲げて、前記凹部の開口に跨って形成された一対の凹溝の一方に嵌合する第1抜け止め爪と、
前記クリップ挿入部と前記受圧部の間であって、前記取付下側面から前記凹部へ向けて折り曲げて、前記一対の凹溝の他方に嵌合する第2抜け止め爪と、
前記クリップ挿入部の他端から前記外周側の壁面に沿って突出するクランプ爪と、
を備えたことを特徴とするトルク受け部の保護クリップ。
【請求項3】
前記クランプ爪は、前記クリップ挿入部の他端であって、前記第1抜け止め爪を挟む位置に一対形成したことを特徴とする請求項2記載のトルク受け部の保護クリップ。
【請求項4】
前記クリップ挿入部は、前記外周側の壁面に沿って接する第1支持片と、前記内周側の壁面に沿って接する第2支持片と、前記第1支持片と第2支持片を連結する連結片とからなり、
前記連結片の長さをαとし、前記第2支持片から対向する前記クランプ爪の先端までの長さをβとし、前記凹部の開口幅をγとしたときに、α<γ<<βの範囲を満たすように設定し、
前記第1支持片は、前記凹部に組み込んだときに湾曲して前記外周側の壁面との隙間を小さくしていることを特徴とする請求項2又は3に記載のトルク受け部の保護クリップ。
【請求項5】
前記第1及び第2抜け止め爪は、爪先端と対向する前記凹溝の底面との間に隙間を設けたことを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1項に記載のトルク受け部の保護クリップ。
【請求項6】
回転刃を備えた切削加工手段をキャリパボディのロータ側の開口からロータの半径方向へ挿入し、
前記回転刃をトルク受け部に形成された凹部の開口からロータの円周方向に移動させて、
前記凹部の開口に跨った位置に一対の凹溝を形成することを特徴とするトルク受け部の保護クリップの取り付け溝加工方法。
【請求項7】
前記回転刃は、半径方向に移動させて前記凹溝を形成することを特徴とする請求項6に記載のトルク受け部の保護クリップの取り付け溝加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−113417(P2013−113417A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262755(P2011−262755)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】