説明

トロイダルトランス

【課題】
突入電流を低減しつつも製造が容易なトロイダルトランスを提供する。
【解決手段】
珪素鋼板等の磁性材料からなるフープ材を環状に巻回して構成されるコア2に、1次側巻線3と2次側巻線4とを互いに絶縁した状態で巻き付けてなるトロイダルトランスのコア2に、少なくとも最外周を周方向に途切れなく連続する連続部として残した状態で周方向に離隔したギャップ部7を設けた。このギャップ部7は、長さLがフープ材の幅と同一、幅Wが0.14mm、深さ(奥行き)Dがコア2の径方向の厚さの80%に設定され、コア2の残りの20%の部分、即ち、ギャップ部7よりも外周側の部分は連続部9として残している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状のコアに1次巻線及び2次巻線を巻き付けて構成されるトロイダルトランスに関し、特に、電源投入時の突入電流を抑制することが可能なトロイダルトランスに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、トロイダルトランスは、例えば、珪素鋼板等の透磁率の高い磁性材料からなる薄帯を複数回巻回して構成された環状のコア(トロイダルコア)を有し、このコアに1次側の巻線と2次側の巻線とを互いに絶縁した状態で層状に巻き付けて構成されている。
【0003】
このトロイダルトランスは、磁路が環状に閉じた形状であるため、リーケージフラックス(漏れ磁束)が少なく、また、小型・軽量化ができるという利点があり、例えば、遊技機(パチンコ台)やオーディオ機器等の電子機器の電源トランスとして用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平10−277216号公報(第1図、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記のトロイダルトランスは、コア(磁心)の残留磁束等により電源投入時にコアの磁気飽和が起こり易く、この磁気飽和に起因して定格電流の数十倍の突入電流が発生するという欠点がある。そのため、特許文献1の第1図に示されるようにトロイダルトランスと遊技機の組を複数使用する場合、突入電流によってブレーカが作動して電源供給が遮断されるのを避けるべく、1つのブレーカに対するトランスの使用数を減らさざるを得ないという問題があった。例えば、定格電力が300VA(3A)のトロイダルトランスを用いる場合、理論上では容量20Aのブレーカ1つに対して6台のトロイダルトランスを使用できるはずであるが、突入電流を考慮すると、実際にはそれに満たない台数しか使用できない。
【0006】
この突入電流を抑える手法としては、磁気飽和が起こり難い磁心を使用することが考えられるが、コストが増大してしまうため、現実的に採用することは難しい。
【0007】
また、コアを切断して磁路にギャップを設けるという手法も考えられるが、トロイダルコアは極く薄い金属製の薄帯(フープ材)を幾重にも巻回して作成されているため、切断部分からフープ材が剥離したり分解してしまい製造が困難であるという問題があった。このフープ材の剥離を防止するために、コアを樹脂含浸してから切断するという方法も提案されているが、樹脂がフープ材の隙間に入り込んでしまうと、磁気抵抗が増加してトランスとしての特性が著しく低下してしまうという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、突入電流を抑制しつつも製造が容易なトロイダルトランスを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1に記載のものは、磁性材料からなる薄帯を環状に巻回して構成されるコアに、第1の巻線と第2の巻線とを互いに絶縁した状態で巻き付けてなるトロイダルトランスにおいて、
前記コアに、少なくとも最外周を、周方向に途切れなく連続する連続部として残した状態で、コアの周方向に離隔したギャップ部を設けたことを特徴とするトロイダルトランスである。
【0010】
請求項2に記載のものは、磁性材料からなる薄帯を環状に巻回して構成されるコアに、第1の巻線と第2の巻線とを互いに絶縁した状態で巻き付けてなるトロイダルトランスにおいて、
前記コアに、前記薄帯の巻回始端から巻回終端までに亘って途切れなく連続する連続部を少なくとも残した状態で、該コアの周方向に離隔したギャップ部を設けたことを特徴とするトロイダルトランスである。
【0011】
請求項3に記載のものは、前記ギャップ部が、前記薄帯の幅方向に延在するスリット状に形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のトロイダルトランスである。
【0012】
請求項4に記載のものは、前記ギャップ部は、前記コアの内周部における前記巻回始端と対向する位置に設けられたことを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のトロイダルトランスである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のトロイダルトランスによれば、次のような優れた効果を奏する。
すなわち、請求項1に記載の発明によれば、トロイダルトランスのコアに、少なくとも最外周を、周方向に途切れなく連続する連続部として残した状態で、コアの周方向に離隔したギャップ部を設けたので、連続部が薄帯を結束する機能を果たし、薄帯の剥離や分解を防止して製造を容易にすると共に、電源遮断後におけるコアの磁束の残留を低減することができ、次回電源投入時の磁気飽和を防止して突入電流を抑制することができる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、トロイダルトランスのコアに、薄帯の巻回始端から巻回終端までに亘って途切れなく連続する連続部を少なくとも残した状態で、該コアの周方向に離隔したギャップ部を設けたので、連続部が薄帯を結束する機能を果たし、薄帯の剥離や分解を防止して製造を容易にすると共に、電源遮断後におけるコアの磁束の残留を低減することができ、次回電源投入時の磁気飽和を防止して突入電流を抑制することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、前記ギャップ部を、前記コアの内周部における前記巻回始端とは反対側の位置に設けたので、ギャップ部の形状が安定し、トランス毎のばらつきを低減して品質を安定させることができる。その結果、歩留りの向上が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、最良の形態を図面に基づき説明する。図1は、本発明のトロイダルトランスの構成を説明する断面図であり、図2は、図1におけるA−A線断面図である。このトロイダルトランス1(以下、単にトランス1という)は、環状のコア(磁心)2に、1次側巻線3(本発明における第1の巻線に相当)と2次側巻線4(本発明における第2の巻線に相当)とを互いに絶縁した状態で層状に巻き付けて概略構成されている。このトランス1は、本実施形態においては、例えば、100Vの商用電源を24V程度の動作電圧までに降圧させる降圧トランスである。
【0017】
上記コア2は、例えば、厚さ0.3mm程度の珪素鋼板等の磁性材料からなる薄帯(以下、フープ材という)を幾重にも巻回することで断面矩形の環状(トロイダル型)に作製されており、フープ材の巻始め(巻回始端8:図3参照)と巻終わり(巻回終端:図示せず)は、コア2の本体に溶接されることで固定されている。
なお、フープ材に関し、その表面を例えばAl等の酸化膜で被覆することで層間を絶縁することが望ましい。
【0018】
このようなトロイダル型のコア2は、磁路が閉じているため他のコアと比べて保磁力が高く、電源を遮断した後でも比較的多くの磁束が残留するため、次回の電源投入時に電圧が印加された際、瞬間的に磁気飽和が起こり易い。この磁気飽和が起こるとコア2が磁気的に短絡に近い状態(励磁インピーダンスが低い状態)となるため、電圧の位相によっては定常時の数十倍の突入電流が発生し、この突入電流によってブレーカが作動して電源の供給を遮断してしまう等の問題がある。
【0019】
ここで、コア2の最大磁束密度をBm、残留磁束密度をBr、インダクタンスをL、巻線(1次側巻線)の巻数をn、コア2の断面積をSとすると、最大突入電流Imは、以下の式(1)で求められる。
Im=n(2Bm+Br−2S)/L …(1)
つまり、残留磁束密度Brを可及的に低減することができれば、突入電流のピーク値を抑えることが可能であることが分かる。そのため、本発明のトランス1では、コア2の一部に磁路を円周方向に離隔するギャップ部7を設けることで電源遮断後の磁束の残留を低減し、これにより電源投入時の突入電流のピーク値を抑えるように構成している。このギャップ部7については後述する。
【0020】
コア2の表面は、絶縁テープ等の絶縁部材5Aで被覆し、本実施形態においては、この絶縁されたコア2の表面に、先ず低圧用の2次側巻線4を巻き付けて2次側コイル4´を形成する。そして、この2次側コイル4´の表面に絶縁部材5Bを被覆した後、その絶縁部材5Bの表面に高圧用の1次側巻線3を巻き付けて1次側コイル3´を形成する。つまり、2次側巻線4と1次側巻線3とは、絶縁部材5Bを間に挟んだ状態で層状にコア2に巻回されている。このときの巻数比は、本実施形態においては100Vの商用電源に対して24Vの動作電圧が出力される値に設定されている。
【0021】
なお、1次側巻線3の始端部3Aと終端部3B、及び、2次側巻線の始端部4Aと終端部4Bは、各々シリコンチューブ等で被覆された状態で接続端子としてトランス1の外側に引き出され、始端部3Aと終端部3Bは商用電源側に、始端部3Bと終端部3Bは負荷側(例えば、パチンコ遊技機)にそれぞれ接続される。
【0022】
次に、上記のギャップ部7について説明する。
図3は、本実施形態におけるコア2の構成を説明する斜視図である。
同図に示すように、コア2には、半径方向の切り込みを入れることでコア2の一部を周方向に離隔するギャップ部7を設けている。本実施形態においては、コア2をワイヤカット放電加工によって内周部側から外周部側に向けてその途中まで切断することによって、フープ材の幅方向に延在するスリット状のギャップ部7をコア2に形成している。このスリット状のギャップ部7は、長さLがフープ材の幅と同一、幅Wが0.14mm、深さ(奥行き)Dがコア2の径方向の厚さの80%に設定され、残りの20%、即ち、ギャップ部7が設けられている部分よりも外周側の部分は連続部9として残している。
【0023】
つまり、コア2の一部を切断してギャップ部7を設ける際に、フープ材が剥離したり分解したりすることのないように、フープ材を結束するバンドとして機能する部分として連続部9を残している。したがって、本実施形態においてはギャップ部7の深さDをコア2の径方向の厚さの80%に設定した例を示したが、これには限らず、要は、少なくとも最外周を、周方向に途切れなく連続する連続部9として残した状態で、ギャップ部7を設ければ良い。
【0024】
また、本実施形態においては、コア2の内周部における巻回始端8に対向する位置から外周部側に向けてギャップ部7の加工を行っている。即ち、ギャップ部7は、コア2の内周部における巻回始端8と対向する位置に設けられている。このようにすると、ギャップ部7の断面にバリ等が生じ難く形状が安定することが実験的に分かっている。これにより、製造されたトランス1の個体毎のばらつきが少なく品質が安定するため、歩留りを向上させることが可能となる。
【0025】
ここで、コア2の保磁力をHc、コア2の磁路長をLi、ギャップ部7の大きさ(幅W×長さL×深さD)をGとすると、残留磁束密度Brは、以下の式(2)で表される。
Br=S×Hc×Li/G …(2)
この式(2)から、ギャップ部7を大きくするほど、残留磁束密度Brを低減することが出来ることが分かる。
【0026】
図4は、磁界Hの変化に対する磁束密度Bの変化を表す所謂磁気ヒステリシス曲線を示す図であり、(a)はコアにギャップ部を設けない場合、(b)はコアにギャップ部を設けた場合を示している。
図4(a)に示すように、ギャップ部を設けない場合、コア自体の透磁率が高いため磁界Hの変化に対して磁束密度Bは比較的急峻な変化を示し、電源遮断後の残留磁束Brも高い値を示す。一方、図4(b)に示すように、コア2にギャップ部7を設けた場合、このギャップ部7が磁気抵抗となり、磁界Hの変化に対して磁束密度Bの曲線は比較的なだらかな変化を示すが、電源遮断後の残留磁束Brはギャップ部7を設けない場合と比較して低い値となることが分かる。
【0027】
図5は、電源投入時における突入電流を観測した図であり、(a)は、コアにギャップ部を設けていない従来のトランスにおける突入電流の波形、(b)は、コア2にギャップ部7を設けた本発明のトランス1における突入電流の波形である。
この図5に示すように、本発明のトランス1では、電源投入時の突入電流の波形に関し、ギャップ部7を設けていない従来のトランスの突入電流の波形と比較して、ピーク値を約15%程度低く抑えることができ、また、発生時間についても25%程度短くなっている。したがって、本発明のトランス1は、従来と比較して突入電流(実効値)を抑制することができることが分かる。
【0028】
以上のように、上記トランス1においては、連続部9を少なくとも残した状態でコア2にギャップ部7を設けたので、連続部9がフープ材を結束する機能を果たしてフープ材の剥離や分解を防止し、製造を容易にすると共に、電源遮断後におけるコア2の磁束の残留を低減することができ、電源投入時の磁気飽和を防止して突入電流を抑制することができる。したがって、1つのブレーカに対するトランス1の使用数を増やしたとしても、突入電流によるブレーカの誤作動を防止できるので、このトランス1は、例えば複数のパチンコ遊技機を設置する遊技店等に好適である。
【0029】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図6は、本実施形態におけるコア2の構成を説明する斜視図である。
同図に示すように、本実施形態においては、フープ材の幅方向の一部(図において下側)を連続部9として残した状態でコア2の内周部から外周部に亘って切り込みを入れることでコア2にギャップ部7を設けている点が上記実施形態と異なる。即ち、フープ材の巻回始端8から巻回終端(図示せず)までに亘って途切れなく連続する連続部9を少なくとも残した状態でギャップ部7を設けている。本実施形態のギャップ部7は、長さLがフープ材の幅の2/3、幅Wが0.14mm、深さDがのコア2の径方向の厚さと同一に設定され、フープ材の下側1/3を連続部9として残した状態でコア2の内周部から外周部に亘って延在している。
【0030】
本実施形態においても、コア2の一部を切断してギャップ部7を設ける際に連続部9がフープ材を繋ぎ止める機能を果たすので、上記第1の実施形態と同様に、フープ材の剥離や分解を防止して製造を容易にすると共に、電源遮断後におけるコア2の磁束の残留を低減することができ、電源投入時の磁気飽和を防止して突入電流を抑制することができる。
【0031】
ところで、ギャップ部7に関し、上記各実施形態で例示した態様には限らない。例えば、上記実施形態では、コア2にギャップ部7を一箇所だけ設けた例を示したが、図7に示す第1の変形例のように、コア2に複数のギャップ部7を設けるようにしても良い。
また、ギャップ部7の形状に関し、上記各実施形態では縦長なスリット状に形成した例を示したが、これには限らず、図8に示す第2の変形例のように、コア2の内周部から外周部に亘って貫通した円筒形状のギャップ部7としても良い。図8の例では、円筒形状のギャップ部7をフープ材の幅方向に3箇所並べて開設している。この場合、各ギャップ部7の間と上下に連続部9が形成される。
このように、ギャップ部7の大きさ(幅、長さ、深さ)、形状、又は数を適宜変更することで、トランスとしての特性と突入電流の大きさとのバランスを調整することが可能である。
【0032】
なお、ギャップ部7の加工に関し、図9に示すように、複数のコア2を重ねた状態でこれらのコア2に対して同時にワイヤカット放電加工することで、一度に複数のコア2にギャップ部7を形成することができる。これにより、製造効率を向上させることが可能である。
【0033】
前記した実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明は、上記した説明に限らず特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】トランスの構成を説明する断面図である。
【図2】図1におけるA−A線断面図である。
【図3】コアの構成を説明する斜視図である。
【図4】磁気ヒステリシス曲線を示す図であり、(a)はコアにギャップ部を設けない場合、(b)はコアにギャップ部を設けた場合を示している。
【図5】電源投入時における突入電流を観測した図であり、(a)はコアにギャップ部を設けていない従来のトランスにおける突入電流の波形、(b)はコアにギャップ部を設けた本発明のトランスにおける突入電流の波形である。
【図6】第2の実施形態におけるコアの構成を説明する斜視図である。
【図7】コアの第1の変形例を説明する斜視図である。
【図8】コアの第2の変形例を説明する斜視図である。
【図9】複数のコアに同時にギャップ部を形成する例を説明する斜視図である。
【符号の説明】
【0035】
1 トロイダルトランス
2 コア
3 1次側巻線
4 2次側巻線
5 絶縁部材
7 ギャップ部
8 巻回始端
9 連続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材料からなる薄帯を環状に巻回して構成されるコアに、第1の巻線と第2の巻線とを互いに絶縁した状態で巻き付けてなるトロイダルトランスにおいて、
前記コアに、少なくとも最外周を、周方向に途切れなく連続する連続部として残した状態で、コアの周方向に離隔したギャップ部を設けたことを特徴とするトロイダルトランス。
【請求項2】
磁性材料からなる薄帯を環状に巻回して構成されるコアに、第1の巻線と第2の巻線とを互いに絶縁した状態で巻き付けてなるトロイダルトランスにおいて、
前記コアに、前記薄帯の巻回始端から巻回終端までに亘って途切れなく連続する連続部を少なくとも残した状態で、該コアの周方向に離隔したギャップ部を設けたことを特徴とするトロイダルトランス。
【請求項3】
前記ギャップ部は、前記薄帯の幅方向に延在するスリット状に形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のトロイダルトランス。
【請求項4】
前記ギャップ部は、前記コアの内周部における前記巻回始端と対向する位置に設けられたことを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のトロイダルトランス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−140243(P2006−140243A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−327227(P2004−327227)
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(000105660)コビシ電機株式会社 (8)