説明

ドライブシャフトのベアリングのダストカバー構造

【課題】 簡単かつ安価な構成でありながら、ドライブシャフトをアクスルハウジングの駆動輪側端部等に対して回転自在に支持するベアリングを、外部から侵入する水、砂などの異物から確実に保護することができるダストカバー構造を提供する。
【解決手段】 本発明に係るダストカバー構造は、ドライブシャフト110をアクスルハウジング120に対して回転自在に支持するベアリング122の外側に設けられるダストカバー構造であって、ドライブシャフト110と所定隙間Xを持って配設される円環状の円盤状部材201が備えられる一方で、ドライブシャフト110側に略一体的に取り付けられて半径方向外側に延在されるドライブシャフト側環状部212と、ドライブシャフト側環状部212から前記円盤状部材201方向へ延びてこれと当接する当接部と、を含んで構成されるドライブシャフト側カバー部材210が備えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車その他の車両のドライブシャフトを回転自在に支持するベアリングのダストカバーの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関等の燃焼機関(エンジン)を駆動源として搭載した車両においては、エンジンの回転出力を変速機により変速した後、図示しないディファレンシャル装置(差動装置)を介して、左右のドライブシャフトに負荷に応じて動力を分配し、ドライブシャフトに取り付けられた駆動輪(ホイール及びタイヤ)を介して路面に動力を伝達するように構成されている。
【0003】
ここで、大型車両等においては重量が大きいことから、駆動システムにも信頼性が高く丈夫なシステムが採用される傾向にあり、このため、図3に示したように、ディファレンシャル装置(図示せず)と左右のドライブシャフト110(図では片方のみ表示)を共通のアクスルハウジング120に収容する構成とし、このアクスルハウジング120の左右の駆動輪側端部121付近に、ドライブシャフト110をアクスルハウジング120に対して、回転自在に支持するためのベアリング122を配設するようにした構成のものがある。そして、このアクスルハウジング120を、車両に対してスプリング及びダンパーからなるサスペンションに懸架するといった構成(所謂リジッド式サスペンション)となっている。
【0004】
なお、図3は、前輪駆動車や四輪或いは全輪駆動車の前輪を示しており、操舵を行うために、ステアリング操作に連動して軸A廻りに揺動されるナックル150の動き(ドライブシャフトの長手方向と交差する方向への動き)を、駆動輪(ホイール160及びタイヤ170)に伝えるための等速ジョイント130が、ドライブシャフト110とホイール160の間に配設されている。なお。符号140は、操舵方向に揺動自在な等速ジョイント130を、水、砂などの異物による攻撃から保護するための可撓性のある樹脂製ブーツである。
【0005】
ところで、車両は様々な環境の下で使用されるため、水、砂などの異物がベアリング122の軸受部へ侵入しないように、ベアリング122の軸受部外側に保護シール123などが設けられている(図4参照)。
【0006】
しかし、この保護シール123が劣化したり、保護シールの隙間などから水、砂などの異物が軸受部へ侵入するおそれもあるため、図3に示したように、保護シール123の更に外側にダストカバー124を設けるようにしたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平04−75781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、図4に示したように、ダストカバー124は、ドライブシャフト110の外周との間に半径方向のクリアランス(隙間)Cを有して取り付けられている。
【0009】
このようなクリアランス(隙間)Cを設ける理由の一つとしては、ドライブシャフト110には曲げモーメントが作用するため、たわみ(曲げ変形)が生じるおそれがあるため、このたわみ(曲げ変形)に伴い発生するおそれのあるドライブシャフト110とダストカバー124との接触を回避して、ダストカバー124の変形や脱落などを抑制しようとするためである。
【0010】
従って、このように半径方向にクリアランスCがある結果、図3及び図4に示したようなダストカバー124では、水、砂などの異物に対してある程度の保護は可能であるものの、前記クリアランスCから水、砂などの異物が多少なりとも浸入してしまうおそれがあるため、更なる改良が望まれている。
【0011】
ここにおいて、特許文献1には、駆動輪の操舵装置に備えられる等速ジョイントを保護するプロテクタが記載されているが、このプロテクタ35は、図5に示すように、等速ジョイント3及びブーツ33を広範囲に亘って包囲するようなプロテクタ35及びダストカバー43を採用し、このプロテクタ35及びダストカバー43により、ドライブシャフトを回転自在に支持しているベアリング1及びベアリング2を同時に包囲するような構成となっている。
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載されているプロテクタ35の駆動輪側は、操舵のための等速ジョイント3の揺動と連動する部分に接続される構成であるため、操舵による接続部の揺動動作をダストカバー43の樹脂部の変形等により吸収する必要があるため耐久性に劣るおそれや操舵抵抗が大きくなって操作性が悪化するおそれがあると共に、プロテクタ35及びダストカバー43のための設置スペースが大きく、操舵装置の設計自由度を制限するおそれがあり、更には、構成が複雑であるため製品コストが増大するおそれや、組み付け作業が煩雑になるなどのおそれがある。
【0013】
本発明は、かかる実情に鑑みなされたもので、簡単かつ安価な構成でありながら、駆動輪を駆動するドライブシャフトをアクスルハウジングの駆動輪側端部等に対して回転自在に支持するベアリングを、外部から侵入する水、砂などの異物から確実に保護することができるダストカバー構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このため、本発明に係るダストカバー構造は、
車両の駆動源からの回転動力を駆動輪に伝達するドライブシャフトをアクスルハウジングに対して回転自在に支持するベアリングであって最も駆動輪に近いベアリングの外側に設けられるダストカバー構造であって、
ドライブシャフト外周と所定隙間を持って配設される円環状の円盤状部材であって、アクスルハウジング側に取り付けられドライブシャフト側に向かって延びて前記ベアリングの軸方向外側の少なくとも一部を覆う円環状の円盤状部材と、
ドライブシャフト側に略一体的に取り付けられて半径方向外側に延在されるドライブシャフト側環状部と、ドライブシャフト側環状部から前記円盤状部材方向へ延びて該円盤状部材と当接する当接部と、を含んで構成されるドライブシャフト側カバー部材と、
を含んで構成したことを特徴とする。
【0015】
本発明において、前記当接部は、前記円盤状部材と当接する側の先端部と、ドライブシャフト側環状部に接続される基端部と、の間に、ドライブシャフトに沿った方向に弾性変形可能な弾性部を含んで構成されることを特徴とすることができる。
【0016】
本発明において、前記当接部の先端部は、前記弾性部による弾性付勢を受けて、前記円盤状部材に押圧されることを特徴とすることができる。
【0017】
本発明において、前記円盤状部材の先端部は、ドライブシャフト側環状部の方向を向くようにドライブシャフトに沿った方向に折り曲げられた折り曲げ部を有すること特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡単かつ安価な構成でありながら、駆動輪を駆動するドライブシャフトをアクスルハウジングの駆動輪側端部等に対して回転自在に支持するベアリングを、外部から侵入する水、砂などの異物から確実に保護することができるダストカバー構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施の形態に係る車両の駆動装置に利用されるダストカバー構造の一例を拡大して示す拡大図である。
【図2】同上実施の形態に係るダストカバー(図1のD部)を拡大して示す拡大図である。
【図3】従来の車両の駆動装置に利用されるダストカバー構造の一例を拡大して示した図である。
【図4】(A)は図3のB部(ダストカバー)を拡大して示した図であり、(B)は(A)をドライブシャフト方向から見た側面図である。
【図5】(A)は、従来(特許文献1)の車両の駆動装置に利用されるダストカバー構造の一例を拡大して示した図であり、(B)はダストカバー部を抜き出して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態について、添付の図面を参照しつつ説明する。なお、以下で説明する実施の形態により、本発明が限定されるものではない。
【0021】
本実施の形態に係る車両の駆動装置100は、図1に示すように、内燃機関等の燃焼機関(エンジン)、電動モータ、或いはこれらを結合した所謂ハイブリッドを駆動源として搭載した車両に備えられる駆動装置であって、内燃機関等の駆動源からの回転駆動力が入力されると共に当該入力された回転駆動力を左右のドライブシャフト110に負荷に応じて分配するディファレンシャル装置(図示せず)と、駆動輪(図3のホイール160及びタイヤ170を参照)に連結される左右のドライブシャフト110(図では片側のみを表示)と、を共通のアクスルハウジング120に収容するように構成されると共に、このアクスルハウジング120の左右の駆動輪側端部121付近(図では片側のみを表示)に、ドライブシャフト110をアクスルハウジング120に対して、回転自在に支持するためのベアリング122が配設されている。
【0022】
なお、本実施の形態に係る車両の駆動装置100は、このアクスルハウジング120を車両に対して左右のスプリング及びダンパーからなるサスペンションにより懸架する所謂リジッド式サスペンションとして構成されている。
【0023】
ここで、本実施の形態に係る車両の駆動装置100は、前輪駆動車や四輪或いは全輪駆動車の前輪を示しており、操舵を行うために、ステアリング操作に連動して揺動されるナックル(図3のナックル150を参照)の動き(ドライブシャフト110の長手方向と交差する方向への動き)を、駆動輪(ホイール160及びタイヤ170)に伝えるための等速ジョイント(図3の等速ジョイント130を参照)が、ドライブシャフト110と駆動輪との間に配設されている。
【0024】
なお、等速ジョイント130の周囲には、等速ジョイント130を、外部から侵入する水、砂などの異物から保護するための可撓性のある蛇腹状のブーツ140が配設されている。
【0025】
ところで、本実施の形態に係る車両の駆動装置100のように、ディファレンシャル装置と、左右のドライブシャフト110と、を共通のアクスルハウジング120に収容するように構成した場合、比較的大きな曲げモーメントがドライブシャフト110に作用した場合、ベアリング122を支点としてドライブシャフト110に曲げ変形が生じるおそれがある。
【0026】
このため、図4に示したように、外部から侵入する水、砂などの異物からベアリング122を保護するためのダストカバー124を設けたとしても、ダストカバー124の内周とドライブシャフト110の外周とを密着させることが難しく(図4のクリアランスCを参照)、十分な保護を行うことができなかった。
【0027】
このため、本実施の形態では、図2に示すように、ダストカバー200を以下のように構成した。
すなわち、アクスルハウジング120側に固定されアクスルハウジング120とドライブシャフト110の間に介装されるベアリング122の軸方向外側を覆うようにドライブシャフト110を所定半径方向隙間Xをもって挿通しつつドライブシャフト110の中心に向かって延びる円環状の円盤状部材201が備えられると共に、
ドライブシャフト110の外周に略一体的に嵌合されて半径方向外側に延在される断面L字状のドライブシャフト側環状部212と、ドライブシャフト側環状部212から円盤状部材201方向へ延びて円盤状部材201と当接する当接部213と、を含んで構成されるドライブシャフト側カバー部材210が備えられている。
【0028】
かかる構成のダストカバー200によれば、ドライブシャフト110の外周と円盤状部材201の内周との間に所定にクリアランスXを確保しつつ、円盤状部材201と、ドライブシャフト側カバー部材210と、により、ベアリング122の外側を包囲することができるため、ドライブシャフト110にたわみなどが生じても円盤状部材201等が損傷を受けることなく、外部から水、砂などの異物がベアリング122に侵入することを確実に回避することができる。
【0029】
従って、本実施の形態に係るダストカバー200によれば、ドライブシャフト110にたわみなどが生じても円盤状部材201等が損傷を受けることを防止しながら、ベアリング122を異物混入等から保護することができるため、長期に亘って高い信頼性の駆動装置を提供することができる。
【0030】
ここで、ドライブシャフト110に沿って延びるドライブシャフト側カバー部材210の当接部213は、円盤状部材201と当接する側の先端部213Aと、ドライブシャフト側環状部212に接続される基端部213Bと、の間に、ドライブシャフト110に沿った方向に弾性変形可能な弾性部213Cを含んで構成されることができる。
【0031】
弾性部213Cは、例えば、図2に示すように蛇腹状に形成され、ドライブシャフト110に沿った方向に弾性付勢して、円盤状部材201の側面に先端部213Aを押圧して密着させるように機能する。
【0032】
従って、弾性部213Cを設けることで、円盤状部材201の側面と、先端部213Aと、を確実に密着させることができるため、より一層確実に、ベアリング122を異物混入等から保護することができるため、長期に亘って高い信頼性の駆動装置を提供することができることになる。
【0033】
すなわち、本実施の形態によれば、簡単かつ安価な構成でありながら、駆動輪を駆動するドライブシャフト110をアクスルハウジング120の駆動輪側端部121などに対して回転自在に支持するベアリングを、外部から侵入する水、砂などの異物から確実に保護することができるダストカバー構造を提供することができる。
【0034】
ところで、本実施の形態に係るダストカバー200では、円盤状部材201の先端部を折り曲げてドライブシャフト110に沿った方向に延びる折り曲げ部201Aを設けて構成したので、例えば、当接部213の先端部213Aと円盤状部材201との間から水、砂などの異物が浸入したとしても、折り曲げ部201Aにより、当該異物がベアリング122の方へ侵入することを阻止することができる、という所謂ラビリンス機能を有して構成されている。
【0035】
従って、本実施の形態に係るダストカバー200によれば、一層確実に、ドライブシャフト110を回転自在に支持するベアリング122を、外部から侵入する水、砂などの異物から保護することができる。
【0036】
なお、ドライブシャフト側環状部212と、当接部213と、を含んで構成されるドライブシャフト側カバー部材210は、金属製とすることができるが、可撓性を有する樹脂或いは当該樹脂と金属の組み合わせなどにより製造することができる。
【0037】
また、ドライブシャフト110を回転自在に支持するベアリングとしては、図1や図2のベアリング122に限定されるものではなく、ドライブシャフト110を回転自在に支持する最も外側(駆動輪側)のベアリング(図5のベアリング2など)に対するダストカバーとしても採用することができる。
【0038】
また、本実施の形態では、操舵輪のための駆動装置100のドライブシャフト110を回転自在に支持するベアリング122のダストカバー200として説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、後輪などの操舵輪でない駆動装置のドライブシャフトを回転自在に支持するベアリングのダストカバーにも適用可能である。
【0039】
また、本実施の形態では、ディファレンシャル装置を備えた場合を例示したが、例えば左右の駆動輪間において負荷に応じて差動させる(回転速度差を与える)ことなく、常に左右輪を同一速度で駆動するような歯車装置(所謂デフロック)が備えられたものにおいても適用可能である。
【0040】
なお、本発明に係る駆動装置の駆動源は、内燃機関に限定されるものではなく、外燃機関等の他の燃焼機関であっても良い。また、電動モータ、或いは電動モータと内燃機関等の燃焼機関とを組み合わせたハイブリッドなどであって良いものである。
【0041】
以上で説明した本実施の形態は、本発明を説明するための例示に過ぎず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0042】
100 駆動装置
110 ドライブシャフト
120 アクスルハウジング
122 ベアリング
123 保護シール
124 ダストカバー
130 等速ジョイント
140 ブーツ
200 ダストカバー
201 円盤状部材
201A 折り曲げ部
210 ドライブシャフト側カバー部材
212 ドライブシャフト側環状部
213 当接部
213A 先端部
213B 基端部
213C 弾性部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源からの回転動力を駆動輪に伝達するドライブシャフトをアクスルハウジングに対して回転自在に支持するベアリングであって最も駆動輪に近いベアリングの外側に設けられるダストカバー構造であって、
ドライブシャフト外周と所定隙間を持って配設される円環状の円盤状部材であって、アクスルハウジング側に取り付けられドライブシャフト側に向かって延びて前記ベアリングの軸方向外側の少なくとも一部を覆う円環状の円盤状部材と、
ドライブシャフト側に略一体的に取り付けられて半径方向外側に延在されるドライブシャフト側環状部と、ドライブシャフト側環状部から前記円盤状部材方向へ延びて該円盤状部材と当接する当接部と、を含んで構成されるドライブシャフト側カバー部材と、
を含んで構成したことを特徴とするダストカバー構造。
【請求項2】
前記当接部は、前記円盤状部材と当接する側の先端部と、ドライブシャフト側環状部に接続される基端部と、の間に、ドライブシャフトに沿った方向に弾性変形可能な弾性部を含んで構成されることを特徴とする請求項1に記載のダストカバー構造。
【請求項3】
前記当接部の先端部は、前記弾性部による弾性付勢を受けて、前記円盤状部材に押圧されることを特徴とする請求項2に記載のダストカバー構造。
【請求項4】
前記円盤状部材の先端部は、ドライブシャフト側環状部の方向を向くようにドライブシャフトに沿った方向に折り曲げられた折り曲げ部を有すること特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1つに記載のダストカバー構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−113395(P2013−113395A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261215(P2011−261215)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】