説明

ドリルおよび切削加工物の製造方法

【課題】切屑排出性に優れるドリルおよび切削加工物の製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明の実施形態に係るドリル1は、先端部に位置している第1領域10と、直径が第1領域10側から後端部側に向かうにつれて大きくなる段部25を有し、段部25側の端部20aにおいて第1領域10に連続している第2領域20と、を有する略円柱状の切削部3を備え、第2領域20は、複数の第2切刃21および複数の第2溝23の間に位置している複数の第2すくい面を有し、前記複数の第2すくい面はいずれも、回転軸Sに平行な方向における長さW2が、外周部側に向かうにつれて小さくなる第2中央面と、前記第2中央面よりも前記外周部側に位置し、前記長さW2が前記外周部側に向かうにつれて大きくなる第2外方面と、を有する。このドリル1を用いて切削加工物を製造する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリルおよび切削加工物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
径寸法が途中で変化している段付穴や、開口部に面取りが形成されている面取り付穴を一度に加工可能なドリルとして、段付ドリルが知られている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、特許文献1に記載されているような従来の段付ドリルは、切屑排出性に劣るという問題があった。それゆえ、従来の段付ドリルを用いて例えば貫通孔を形成すると、生成する切屑が貫通孔の内部に詰まり易く、貫通孔の内壁面が損傷したり、切刃が欠損するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−7831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題の1つは、切屑排出性に優れるドリルおよび切削加工物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態に係るドリルは、先端部に位置している第1領域と、回転軸に垂直な断面視において、直径が前記第1領域側から後端部側に向かうにつれて大きくなる段部を有し、前記段部側の端部において前記第1領域に連続している第2領域と、を有する略円柱状の切削部を備え、前記第1領域は、先端に位置している複数の第1切刃と、前記切削部の外周部に位置している第1外周部と、前記複数の第1切刃の後端部側から前記切削部の前記後端部側に向かって前記第1外周部において螺旋状に位置している複数の第1溝と、を有し、前記第2領域は、前記段部に位置している複数の第2切刃と、前記切削部の前記外周部に位置している第2外周部と、前記複数の第2切刃の後端部側から前記切削部の前記後端部側に向かって前記第2外周部において螺旋状に位置している複数の第2溝と、前記複数の第2切刃および前記複数の第2溝の間に位置している複数の第2すくい面と、を有し、前記複数の第2すくい面はいずれも、前記回転軸に平行な方向における長さW2が、前記第2外周部側に向かうにつれて小さくなる第2中央面と、前記第2中央面よりも前記第2外周部側に位置し、前記長さW2が前記第2外周部側に向かうにつれて大きくなる第2外方面と、を有する。
【0006】
本発明の実施形態に係る切削加工物の製造方法は、上述した実施形態に係るドリルを回転させる工程と、回転している前記ドリルの前記複数の第2切刃と、被削材とを接触させる工程と、前記被削材と前記ドリルとを相対的に離隔させる工程と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態に係るドリルは、段部に位置している複数の第2切刃の後端部側に位置している複数の第2すくい面がいずれも、回転軸に平行な方向における長さW2が、第2外周部側に向かうにつれて小さくなる第2中央面と、第2中央面よりも第2外周部側に位置し、長さW2が第2外周部側に向かうにつれて大きくなる第2外方面と、を有している。したがって、第2溝のうち第2切刃側に位置している端部は、第2中央面と第2外方面との境界部に向かうにつれて第2切刃側に凸状になる。これにより、第2切刃から生成する切屑は、切屑の排出方向に向かってある程度送られると、第2すくい面と第2溝の第2切刃側の端部とを同時に通過するようになる。そして、切屑のうち第2切刃側の端部近傍に位置している第2溝を通過する部分が、第2溝の形状に沿って湾曲されて、切屑の幅が第2切刃の長さよりも小さくなる。その結果、切屑が第2溝の内部をスムーズに通過するようになり、切屑排出性を向上させることが可能となる。
【0008】
一般に、ハンドドリル等を用いる孔加工においては、パワー不足等を補うため、予め所望する孔径よりも小さな径の下孔を被削材に形成しておき、その下孔の上方から所望する大きさの径を孔加工するという加工方法が採用されている。ここで、下孔はパワー不足等を補う観点などからは貫通していることが好ましいが、貫通していなくても良い。本発明の実施形態に係るドリルは、上述した理由から切屑排出性に優れるので、貫通孔を形成する際に生成する切屑が加工中の孔の内部に詰まるのを抑制することができ、それゆえ、例えばハンドドリル等に適用すれば、下孔の加工工程を省略して製造コストを低減できるとともに、第1切刃に基づく下孔径と第2切刃に基づく最終加工径との取り違えによる品質のバラツキ等の発生を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係るドリルを示す側面図である。
【図2】図1のドリルを示す拡大先端視図である。
【図3】(a)、(b)は、図1のドリルの先端部近傍を互いに異なる方向から見た部分拡大側面図である。
【図4】図1のドリルの先端部近傍を示す部分拡大説明図である。
【図5】(a)〜(c)は、本発明の実施形態に係る切削加工物の製造方法を工程順に示す説明図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係るドリルの先端部近傍を示す部分拡大側面図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係る切削加工物の製造方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<ドリル>
以下、本発明の実施形態に係るドリルについて、図1〜図4を用いて詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態のドリル1は、回転軸Sを中心に矢印A方向に回転可能であり、基端部側から順にシャンク部2と、切削部3と、を備えている。
【0011】
シャンク部2は、工作機械の回転軸に把持される部位であり、ドリル1の基端部に位置している。シャンク部2を把持する工作機械としては、例えばハンドドリル、マシニングセンタ等が挙げられ、特にハンドドリルが好ましい。
【0012】
切削部3は、被削材と接触する部位であり、シャンク部2の一端側に位置している。本実施形態の切削部3は、略円柱状であり、ドリル1の先端部に位置している第1領域10と、第1領域10に連続している第2領域20と、を有している。
【0013】
第1領域10は、ドリル1の先端に位置している複数の第1切刃11と、切削部3の外周部31のうち第1領域10に位置している第1外周部12と、複数の第1切刃11の後端部側から切削部3の後端部側、すなわちシャンク部2側に向かって第1外周部12において螺旋状に位置している複数の第1溝13と、を有している。
【0014】
複数の第1切刃11は、図2に示すように、先端視において、互いに所定の間隔をおいて回転軸Sに対して回転対称となるように位置している。先端視とは、ドリル1の先端部側からドリル1を見た状態を意味するものとする。本実施形態では、第1切刃11の数は3つであり、これら3つの第1切刃11の各々が、先端視において、回転軸Sに対して120°の回転対称となるように位置している。これにより、被削材を加工する際のドリル1の直進安定性を向上させることが可能となる。なお、第1切刃11の数は3つに限定されるものではなく、通常、2〜5つ程度の範囲から任意に選定することができる。
【0015】
本実施形態では、図3(a)に示すように、回転軸Sに垂直な方向から見たとき、複数の第1切刃11のうち互いに最も離隔している一対の第1切刃11a、11b(不図示)の仮想延長線L1、L2同士のなす角の角度γ1が、鈍角である。これにより、ドリル1の操作性および被削材への食い付き性を向上させることが可能となる。角度γ1としては、100〜140°程度が適当である。
【0016】
複数の第1切刃11から生成する切屑はいずれも、複数の第1溝13を通って切削部3の後端部側に排出される。複数の第1溝13は、複数の第1切刃11に対応して位置している。したがって、複数の第1溝13の数は、複数の第1切刃11の数と同じになる。本実施形態では、3つの第1切刃11の各々に対応して、3つの第1溝13が位置している。また、本実施形態の複数の第1溝13は、第1領域10の全長に渡って互いに離隔している。
【0017】
複数の第1溝13はいずれも、捩れ角β1(不図示)を有している。捩れ角β1とは、第1切刃11のうち第1外周部12側に位置している端部が最も高位となる位置からドリル1を見たとき、第1溝13と回転軸Sとのなす角の角度を意味するものとする。高位とは、ドリル1の回転軸Sに垂直な半径方向において高い位置に存在することを意味するものとする。捩れ角β1としては、10〜45°程度が適当である。
【0018】
ここで、本実施形態の第1領域10は、図2および図3(a)に示すように、ドリル1の先端のうち回転軸S側に位置している食い付き部15をさらに有している。食い付き部15は、被削材への食い付き性を向上させる部位であり、厚みを薄くする所謂シンニング(thinning)加工をチゼルエッジに施すことによって構成されている。チゼルエッジとは、複数の第1切刃11の回転軸S側に位置している端部同士が互いに交差することによって構成されている部位を意味するものとする。本実施形態では、チゼルエッジが残存しないようにチゼルエッジにシンニング加工を施すことによって食い付き部15を構成している。そして、複数の第1切刃11はいずれも、食い付き部15に連続している。これにより、被削材への食い付き性を向上させることが可能となる。なお、シンニング加工は、チゼルエッジが残存しないように行うものに限定されるものではなく、被削材の組成や切削条件等に応じてチゼルエッジの一部が残存するように行うことも可能である。
【0019】
本実施形態の第1領域10は、図2および図3に示すように、第1切刃11よりも矢印A方向に示すドリル1の回転方向後方側に位置している第1逃げ面16をさらに有している。第1逃げ面16は、被削材との接触を避けて切削抵抗を低減する役割を有する部位であり、所定の逃げ角を有している。第1逃げ面16の逃げ角とは、回転軸Sに垂直な基準面(不図示)と第1逃げ面16とのなす角の角度を意味するものとする。第1逃げ面16の逃げ角としては、5〜20°程度が適当である。
【0020】
本実施形態の第1領域10は、第1外周部12のうち第1溝13がない領域に位置している第1マージン17をさらに有している。第1マージン17は、第1切刃11によって被削材を切削する際に加工孔の内壁面と摺接し、ドリル1の操作性を向上させる部位である。
【0021】
一方、第2領域20は、回転軸Sに垂直な断面視において、直径が第1領域10側から後端部側に向かうにつれて大きくなる段部25を有している。第2領域20は、図1に示すように、段部25側の端部20aにおいて第1領域10に連続しているとともに、直径が第1領域10の直径よりも大きく構成されている。
【0022】
第2領域20は、段部25に位置している複数の第2切刃21と、切削部3の外周部31のうち第2領域20に位置している第2外周部22と、複数の第2切刃21の後端部側から切削部3の後端部側に向かって第2外周部22において螺旋状に位置している複数の第2溝23と、を有している。
【0023】
複数の第2切刃21は、上述した複数の第1切刃11と同様に、先端視において、互いに所定の間隔をおいて回転軸Sに対して回転対称となるように位置している。具体的に説明すると、本実施形態では、図2に示すように、第2切刃21の数は3つであり、これら3つの第2切刃21の各々が、先端視において、回転軸Sに対して120°の回転対称となるように位置している。これにより、被削材を加工する際のドリル1の直進安定性を向上させることが可能となる。
【0024】
また、本実施形態では、複数の第2切刃21の数が、上述した複数の第1切刃11の数と同じ3つである。この構成によっても、被削材を加工する際のドリル1の直進安定性を向上させることが可能となる。なお、第2切刃21の数は3つに限定されるものではなく、通常、2〜5つ程度の範囲から任意に選定することができる。また、第1切刃11および第2切刃21の各々の数は、互いに同じである構成に限定されるものではなく、被削材の組成や切削条件等に応じて異ならせることも可能である。
【0025】
本実施形態では、図3(a)に示すように、回転軸Sに垂直な方向から見たとき、複数の第2切刃21のうち互いに最も離隔している一対の第2切刃21a、21bの仮想延長線L3、L4同士のなす角の角度γ2が、鈍角である。これにより、上述した角度γ1による効果と同様に、ドリル1の操作性および被削材への食い付き性を向上させることが可能となる。角度γ2としては、100〜140°程度が適当である。
【0026】
また、本実施形態では、角度γ1、γ2が、γ1=γ2の関係を有している。これにより、角度γ1、γ2の各々の効果が相まって、ドリル1の操作性をより向上させることが可能となる。なお、角度γ1、γ2は、互いに同じである構成に限定されるものではなく、被削材の組成や切削条件等に応じて異ならせることも可能である。
【0027】
複数の第2切刃21はいずれも、図2に示すように、上述した複数の第1切刃11よりも短く構成されている。言い換えれば、複数の第1切刃11はいずれも、複数の第2切刃21よりも長く構成されている。これにより、周速度が比較的速く、負荷を受け易い第2切刃21の欠損を抑制することが可能となる。
【0028】
複数の第2切刃21から生成する切屑はいずれも、複数の第2溝23を通って切削部3の後端部側に排出される。複数の第2溝23は、複数の第2切刃21に対応して位置している。したがって、複数の第2溝23の数は、複数の第2切刃21の数と同じになる。本実施形態では、3つの第2切刃21の各々に対応して、3つの第2溝23が位置している。また、本実施形態の複数の第2溝23は、第2領域20の全長に渡って互いに離隔している。
【0029】
複数の第2溝23はいずれも、図3(b)に示すように、対応する第1溝13に連続している。これにより、第1切刃11、第2切刃21の各々から生成する切屑をまとめて切削部3の後端部側に排出することが可能となる。なお、第1溝13、第2溝23は、互いに連続する構成に限定されるものではなく、被削材の組成や切削条件等に応じて互いに離隔する構成にすることも可能である。
【0030】
複数の第2溝23はいずれも、図3(a)に示すように、捩れ角β2を有している。捩れ角β2とは、上述した捩れ角β1と同様に、第2切刃21のうち第2外周部22側に位置している端部が最も高位となる位置からドリル1を見たとき、第2溝23と回転軸Sとのなす角の角度を意味するものとする。捩れ角β2としては、10〜45°程度が適当である。
【0031】
本実施形態では、上述した捩れ角β1、β2が、β1=β2の関係を有している。これにより、生成する切屑がスムーズに第1溝13、第2溝23を通って切削部3の後端部側に排出される。なお、捩れ角β1、β2は、互いに同じである構成に限定されるものではなく、被削材の組成や切削条件等に応じて異ならせることも可能である。
【0032】
本実施形態の第2領域20は、図2および図3に示すように、第2切刃21よりも矢印A方向に示すドリル1の回転方向後方側に位置している第2逃げ面26をさらに有している。第2逃げ面26は、上述した第1逃げ面16と同様に、被削材との接触を避けて切削抵抗を低減する役割を有する部位であり、所定の逃げ角を有している。第2逃げ面26の逃げ角とは、上述した第1逃げ面16と同様に、回転軸Sに垂直な基準面(不図示)と第2逃げ面26とのなす角の角度を意味するものとする。第2逃げ面26の逃げ角としては、5〜20°程度が適当である。
【0033】
また、本実施形態の第2領域20は、第2外周部22のうち第2溝23がない領域に位置している第2マージン27およびクリアランス28をさらに有している。第2マージン27は、上述した第1マージン17と同様に、第2切刃21によって被削材を切削する際に加工孔の内壁面と摺接し、ドリル1の操作性を向上させる部位である。クリアランス28は、第2マージン27よりも矢印A方向に示すドリル1の回転方向後方側に位置している。クリアランス28は、切削抵抗を低減させる観点から、回転軸Sに垂直な断面視において、直径が第2マージン27の直径よりも小さく構成されている。
【0034】
ここで、本実施形態の第2領域20は、図4に示すように、複数の第2切刃21および複数の第2溝23の間に位置している複数の第2すくい面24をさらに有している。複数の第2すくい面24は、第2切刃21から生成する切屑の排出方向を安定させるとともに、第2切刃21の強度を確保して第2切刃21の欠損を抑制する部位である。
【0035】
そして、複数の第2すくい面24はいずれも、回転軸Sに平行な方向における長さW2が、第2外周部22側に向かうにつれて小さくなる第2中央面241と、第2中央面241よりも第2外周部22側に位置し、長さW2が第2外周部22側に向かうにつれて大きくなる第2外方面242と、を有している。これにより、第2中央面241および第2溝23の境界部241aと、第2外方面242および第2溝23の境界部242aとのなす形状が、第2切刃21側に凸状になる。すなわち、第2溝23のうち第2切刃21側に位置している端部23aが、第2中央面241と第2外方面242との境界部P1に向かうにつれて第2切刃21側に凸状になる。
【0036】
このような構成によれば、第2切刃21から生成する切屑は、切屑の排出方向に向かってある程度送られると、第2すくい面24と第2溝23の端部23aとを同時に通過するようになる。そして、切屑のうち端部23aの近傍に位置している第2溝23を通過する部分が、第2溝23の形状に沿って湾曲されて、切屑の幅が第2切刃21の長さよりも小さくなる。その結果、切屑が第2溝23の内部をスムーズに通過するようになり、切屑の排出性を向上させることが可能となる。また、本実施形態のように、端部23aが、境界部P1に向かうにつれて第2切刃21側に凸の曲線状であることが好ましい。端部23aを曲線状とすることで、よりスムーズな切屑排出性を発揮することができる。
【0037】
また、本実施形態においては、第2中央面241と第2外方面242との境界部P1が、第2切刃21の中点P2よりも第2外周部22側に位置している。これにより、第2切刃21から生成する切屑の排出方向を安定させることができ、切屑を第2溝23の形状に沿って湾曲させ易くなる。
【0038】
また、本実施形態においては、複数の第2すくい面24はいずれも、図3(a)に示すように、すくい角α2を有している。すくい角α2とは、第2切刃21のうち第2外周部22側に位置している端部が最も高位となる位置からドリル1を見たとき、第2すくい面24と回転軸Sとのなす角の角度を意味するものとする。すくい角α2としては、切削抵抗の増大を抑制する観点から、0〜10°程度であるのが好ましく、3〜7°であるのがより好ましい。
【0039】
すくい角α2は、矢印A方向に示すドリル1の回転方向に対し、回転方向後方への傾斜を正とし、回転方向前方への傾斜を負として判断するものとする。本実施形態のすくい角α2は、正のすくい角である。
【0040】
また、本実施形態のすくい角α2は、上述した捩れ角β2に対し、α2<β2の関係を有している。この構成によっても、上述した境界部P1による効果と同様に、第2切刃21から生成する切屑の排出方向を安定させることができ、切屑を第2溝23の形状に沿って湾曲させ易くなる。
【0041】
一方、本実施形態では、図4に示すように、上述した第1領域10も、第2領域20と同様に、複数の第1切刃11および複数の第1溝13の間に位置している複数の第1すくい面14をさらに有している。そして、複数の第1すくい面14はいずれも、上述した第2すくい面24と同様に、回転軸Sに平行な方向における長さW1が、第1外周部12側に向かうにつれて小さくなる第1中央面141と、第1中央面141よりも第1外周部12側に位置し、長さW1が第1外周部12側に向かうにつれて大きくなる第1外方面142と、を有している。したがって、第2すくい面24において説明したのと同じ理由から、第1切刃11から生成する切屑が、第1溝13の内部をスムーズに通過するようになり、切屑の排出性をより向上させることが可能となる。
【0042】
また、本実施形態においては、複数の第1すくい面14がいずれも、第1中央面141よりも回転軸S側に位置し、長さW1が第1外周部12側に向かうにつれて大きくなる第1内方面143をさらに有している。これにより、第1切刃11から生成する切屑の排出方向を安定させることができ、切屑を第1溝13の形状に沿って湾曲させ易くなる。
【0043】
複数の第1すくい面14はいずれも、すくい角α1(不図示)を有している。すくい角α1とは、上述したすくい角α2と同様に、第1切刃11のうち第1外周部12側に位置している端部が最も高位となる位置からドリル1を見たとき、第1すくい面14と回転軸Sとのなす角の角度を意味するものとする。すくい角α1としては、切削抵抗の増大を抑制する観点から、0〜10°程度であるのが好ましく、3〜7°であるのがより好ましい。本実施形態のすくい角α1は、すくい角α2と同様に、正のすくい角である。
【0044】
また、本実施形態のすくい角α1は、上述した捩れ角β1に対し、α1<β1の関係を有している。この構成によっても、第1切刃11から生成する切屑の排出方向を安定させることができ、切屑を第1溝13の形状に沿って湾曲させ易くなる。
【0045】
また、本実施形態のすくい角α1は、すくい角α2に対し、α1=α2の関係を有している。これにより、切削抵抗の増大を抑制できるとともに、第1領域10から第2領域20への孔の拡張加工を連続的にスムーズに行うことが可能となる。なお、すくい角α1、α2は、互いに同じである構成に限定されるものではなく、被削材の組成や切削条件等に応じて異ならせることも可能である。
【0046】
一方、図1に示すように、本実施形態の切削部3は、上述した第1領域10、第2領域20に加えて、第2領域20に連続している第3領域30をさらに有している。第3領域30は、シャンク部2の形状や、形成する貫通孔の深さ等に応じて設計される部位である。
【0047】
<切削加工物の製造方法>
次に、本発明の実施形態に係る切削加工物の製造方法を、図5を用いて説明する。
図5(a)に示すように、まず、上述したドリル1を回転軸Sを中心に矢印A方向に回転させる。
【0048】
次に、図5(b)に示すように、ドリル1を矢印B方向に送って、回転しているドリル1の複数の第1切刃11および複数の第2切刃21と、被削材100とを接触させ、貫通孔101を形成する。ドリル1は、上述した理由から切屑排出性に優れるので、貫通孔101を形成する際に生成する切屑が貫通孔101の内部に詰まるのを抑制することができ、それゆえ、第1切刃11および第2切刃21の欠損を抑制しつつ、加工精度に優れる貫通孔101を形成することが可能となる。
【0049】
被削材100としては、炭素繊維強化プラスチック層、チタン層およびアルミニウム層から選ばれる少なくとも2種が積層されている積層体であるのが好ましい。このような被削材100は、例えば飛行機等の構成部材に使用されている。
【0050】
最後に、図5(c)に示すように、貫通孔101からドリル1を矢印C方向に引き抜いて、被削材100とドリル1とを相対的に離隔させる。
以上のような工程を経て、被削材100を切削することによって、所望の切削加工物110を得ることができる。切削加工を継続する場合には、ドリル1を回転させた状態を保持したまま、被削材100の異なる箇所にドリル1の複数の第1切刃11および複数の第2切刃21を接触させる工程を繰り返せばよい。
【0051】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で多くの修正および変更を加えることができるのは言うまでもない。
【0052】
例えば、上述の実施形態では、第1領域10が、複数の第1切刃11および複数の第1溝13の間に位置している複数の第1すくい面14をさらに有しているが、これに代えて、複数の第1溝13がいずれも、複数の第1切刃11に連続していてもよい。この構成によれば、被削材への食い付き性をより向上させることが可能となる。なお、この実施形態の場合には、第1溝13のうち第1切刃11側に位置している部位を、上述した第1すくい面14と同様の構成にするのが好ましい。その他の構成は、上述した実施形態に係るドリル1と同様である。
【0053】
また、上述の実施形態では、第1すくい面14および第2すくい面24のうち第1すくい面14のみが第1内方面143を有しているが、これに代えて、第2すくい面24も第2内方面を有するように構成してもよい。すなわち、複数の第2すくい面24がいずれも、第2中央面241よりも回転軸S側に位置し、長さW2が第2外周部22側に向かうにつれて大きくなる第2内方面をさらに有していてもよい。この構成によれば、第2切刃21の長さが比較的長い場合において、第2切刃21から生成する切屑の排出方向を安定させることができ、切屑を第2溝23の形状に沿って湾曲させ易くなる。その他の構成は、上述した実施形態に係るドリル1と同様である。
【0054】
また、上述の実施形態では、第2溝23の端部23aは、第2切刃21との間に所定の間隔をおいて位置しているが、これに代えて、図6に示すように、端部23aの一部が第2切刃21に接触するように位置していてもよい。この構成によれば、切れ味が向上することに加えて、切屑を巻き込む効果をより大きくすることができる。その他の構成は、上述した実施形態に係るドリル1と同様である。
【0055】
また、上述の実施形態では、チゼルエッジにシンニング加工を施すことによって食い付き部15を有しているが、これに代えて、食い付き部15のない構成にしてもよい。すなわち、チゼルエッジにシンニング加工を施さず、チゼルエッジのみの構成にしてもよい。この構成の場合には、被削材への食い付き性を向上させる上で、上述した切削加工物の製造方法は、図5(a)の工程よりも前に、図7に示すような工程をさらに備えるのが好ましい。すなわち、本発明の他の実施形態に係る切削加工物の製造方法は、表面にドリル1’の先端部の直径よりも小さい直径を有する下孔102が形成されている被削材100’を用意する工程をさらに備えるのが好ましい。本実施形態の下孔102は、被削材100’の表面および裏面の間を貫通している貫通孔で構成されているが、この構成に限定されるものではなく、被削材100’の表面に開口部を有する構成にすることも可能である。その他の構成は、上述した実施形態に係るドリル1および切削加工物の製造方法と同様である。
【符号の説明】
【0056】
1 ドリル
2 シャンク部
3 切削部
10 第1領域
11 第1切刃
12 第1外周部
13 第1溝
14 第1すくい面
141 第1中央面
142 第1外方面
143 第1内方面
15 食い付き部
16 第1逃げ面
17 第1マージン
20 第2領域
20a 端部
21 第2切刃
22 第2外周部
23 第2溝
23a 端部
24 第2すくい面
241 第2中央面
241a 境界部
242 第2外方面
242a 境界部
25 段部
26 第2逃げ面
27 第2マージン
28 クリアランス
30 第3領域
31 外周部
100 被削材
101 貫通孔
102 下孔
110 切削加工物
S 回転軸
P1 第2中央面と第2外方面との境界部
P2 第2切刃の中点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に位置している第1領域と、
回転軸に垂直な断面視において、直径が前記第1領域側から後端部側に向かうにつれて大きくなる段部を有し、前記段部側の端部において前記第1領域に連続している第2領域と、を有する略円柱状の切削部を備え、
前記第1領域は、
先端に位置している複数の第1切刃と、
前記切削部の外周部に位置している第1外周部と、
前記複数の第1切刃の後端部側から前記切削部の前記後端部側に向かって前記第1外周部において螺旋状に位置している複数の第1溝と、を有し、
前記第2領域は、
前記段部に位置している複数の第2切刃と、
前記切削部の前記外周部に位置している第2外周部と、
前記複数の第2切刃の後端部側から前記切削部の前記後端部側に向かって前記第2外周部において螺旋状に位置している複数の第2溝と、
前記複数の第2切刃および前記複数の第2溝の間に位置している複数の第2すくい面と、を有し、
前記複数の第2すくい面はいずれも、
前記回転軸に平行な方向における長さW2が、前記第2外周部側に向かうにつれて小さくなる第2中央面と、
前記第2中央面よりも前記第2外周部側に位置し、前記長さW2が前記第2外周部側に向かうにつれて大きくなる第2外方面と、を有する、ドリル。
【請求項2】
前記第2中央面および前記第2溝の境界部と、前記第2外方面および前記第2溝の境界部とのなす形状が、前記第2切刃側に凸状である、請求項1に記載のドリル。
【請求項3】
前記第2中央面と前記第2外方面との境界部が、前記第2切刃の中点よりも前記第2外周部側に位置している、請求項1または2に記載のドリル。
【請求項4】
前記複数の第2すくい面はいずれも、前記第2中央面よりも前記回転軸側に位置し、前記長さW2が前記第2外周部側に向かうにつれて大きくなる第2内方面をさらに有する、請求項1〜3のいずれかに記載のドリル。
【請求項5】
前記複数の第2すくい面はいずれも、すくい角α2を有し、
前記複数の第2溝はいずれも、捩れ角β2を有し、
前記すくい角α2および前記捩れ角β2は、α2<β2の関係を有する、請求項1〜4のいずれかに記載のドリル。
【請求項6】
前記第1領域は、前記複数の第1切刃および前記複数の第1溝の間に位置している複数の第1すくい面をさらに有し、
前記複数の第1すくい面はいずれも、
前記回転軸に平行な方向における長さW1が、前記第1外周部側に向かうにつれて小さくなる第1中央面と、
前記第1中央面よりも前記第1外周部側に位置し、前記長さW1が前記第1外周部側に向かうにつれて大きくなる第1外方面と、を有する、請求項1〜5のいずれかに記載のドリル。
【請求項7】
前記複数の第1すくい面はいずれも、前記第1中央面よりも前記回転軸側に位置し、前記長さW1が前記第1外周部側に向かうにつれて大きくなる第1内方面をさらに有する、請求項6に記載のドリル。
【請求項8】
前記複数の第1すくい面はいずれも、すくい角α1を有し、
前記複数の第1溝はいずれも、捩れ角β1を有し、
前記すくい角α1および前記捩れ角β1は、α1<β1の関係を有する、請求項6または7に記載のドリル。
【請求項9】
前記複数の第1すくい面はいずれも、すくい角α1を有し、
前記複数の第2すくい面はいずれも、すくい角α2を有し、
前記すくい角α1および前記すくい角α2は、α1=α2の関係を有する、請求項6〜8のいずれかに記載のドリル。
【請求項10】
前記第1領域は、前記先端のうち前記回転軸側に位置している食い付き部をさらに有する、請求項1〜9のいずれかに記載のドリル。
【請求項11】
前記複数の第1切刃はいずれも、前記食い付き部に連続している、請求項10に記載のドリル。
【請求項12】
前記複数の第1切刃はいずれも、前記複数の第2切刃よりも長い、請求項1〜11のいずれかに記載のドリル。
【請求項13】
前記複数の第1切刃の数と、前記複数の第2切刃の数とが同じである、請求項1〜12のいずれかに記載のドリル。
【請求項14】
前記回転軸に垂直な方向から見たとき、前記複数の第1切刃のうち互いに最も離隔している一対の第1切刃の仮想延長線同士のなす角の角度γ1が、鈍角である、請求項1〜13のいずれかに記載のドリル。
【請求項15】
前記回転軸に垂直な方向から見たとき、前記複数の第2切刃のうち互いに最も離隔している一対の第2切刃の仮想延長線同士のなす角の角度γ2が、鈍角である、請求項1〜14のいずれかに記載のドリル。
【請求項16】
前記複数の第1溝はいずれも、前記複数の第1切刃に連続している、請求項1〜15のいずれかに記載のドリル。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載のドリルを回転させる工程と、
回転している前記ドリルの前記複数の第2切刃と、被削材とを接触させる工程と、
前記被削材と前記ドリルとを相対的に離隔させる工程と、
を備える、切削加工物の製造方法。
【請求項18】
回転している前記ドリルの前記複数の第1切刃と、前記被削材とを接触させる工程をさらに備える、請求項17に記載の切削加工物の製造方法。
【請求項19】
表面に前記先端部の直径よりも小さい直径を有する下孔が形成されている前記被削材を用意する工程をさらに備える、請求項17または18に記載の切削加工物の製造方法。
【請求項20】
前記被削材は、炭素繊維強化プラスチック層、チタン層およびアルミニウム層から選ばれる少なくとも2種が積層されている積層体である、請求項17〜19のいずれかに記載の切削加工物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−111733(P2013−111733A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262668(P2011−262668)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】