説明

ナチュラルチーズ、およびその製造方法

【課題】加熱時の調理適性(加熱溶融性、焦げ色、風味、糸曳き性、食感)が優れるナチュラルチーズを得ること。
【解決手段】ナチュラルチーズのカルシウム含量を600mg/100g以上、固形分中脂肪率(F/TS)を55%以上として良好な加熱調理適性を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高脂肪ナチュラルチーズおよびその製造方法に関連する。また、チーズの使用用途は、チーズの加熱調理適性(糸曳き性、食感)および風味に関連する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナチュラルチーズの市場が拡大し、その認知度も年々高まってきている。ナチュラルチーズは、原料乳、製造条件、製造方法により品質が多種多様に変化し、市場において品種は数千種類以上あると言われている。ナチュラルチーズの分類法としては、製造方法、特徴により大きく分類した7つの分類((1)フレッシュ、(2)白カビ、(3)青カビ、(4)ウォッシュ、(5)シェーブル、(6)セミハード、(7)ハードチーズ)が代表的である。
【0003】
この中でチーズを比較的長期間熟成させるチーズとしては、セミハードおよびハードチーズがあげられる。このタイプのチーズは長期間の熟成を実施するために、一般的にチーズ中の水分値(45%以下)、および脂肪率(50%以下)を低く設定している。水分値を低くする理由としては、以下に示す事柄があげられる。(A)チーズ水分の高まりとともにチーズ中に残存する酵素作用が促進され、チーズの熟成が速まり熟成中の品質(風味、物性)が安定しない。また、(B)チーズ製造直後に特有の物性(糸曳き性、ガム性等)の消失が速まるため、この物性を必要とする場合には使用期間(使用期限)が短縮される。さらに、(C)チーズの水分活性が高まるため熟成中での所望としない微生物の増殖という面でのリスクも増大する。以上の理由からチーズを長期間熟成させるためにはチーズ水分を低くすることが必要であり、実際に多くのチーズは水分値を低く設定している。
【0004】
一方、チーズ中の脂肪率を低くする理由としては、以下に示す事柄があげられる。(I)チーズ中の脂肪率を高めるためには原料乳の脂肪率を高める必要があり、クリームの添加等により原料乳の脂肪調整が行われる。その結果として原料乳中の乳糖含量が高くなり、通常の脂肪調整乳よりも乳酸菌による酸生成がより促進され、pHが低く酸味の高いチーズ(サワー風味が強い)となる傾向がある。(II)チーズのpHが低くなるとチーズ(カード)は脆い組織となる。また、脂肪率が高いため軟らかい組織となり、チーズの成型性が低下する。さらに、(III)チーズの熟成中に変形、および離水が生じやすく、苦味の強い風味となる傾向がある。以上のような理由から、チーズを長期間熟成させるためにはチーズ脂肪率を低くすることが必要であり、実際に固形分中脂肪率が55%以上の長期熟成チーズはみあたらない。
【0005】
本発明で加熱調理時物性として着目しているチーズの糸曳き性は、モザレラチーズに代表されるようにチーズ製造時の乳酸発酵の過程で生じるモノカルシウムカゼイネート、すなわちチーズ中のカゼインとカルシウムの結合形態に由来する。一般的にチーズの糸曳き性は熟成初期段階が最も良く、乳酸菌および酵素の作用による熟成過程で次第に消失する。このため、ナチュラルチーズの熟成初期にはチーズの糸曳き性は良好であるものの、風味は淡白であり、ガム質が強過ぎるため冷めた時の食感は悪い(硬い)。一方、長期間熟成させたチーズは乳酸菌、酵素の働きにより風味(コク)が強くなるが、糸曳き性や適度なガム質食感はほとんど消失してしまう。さらに、チーズ中の脂肪率が高まるとチーズ中のカゼイン(タンパク質)比率が低下するため、チーズの熟成初期から糸曳き性やガム質食感は低下する。
【0006】
プロセスチーズに関しては、糸曳き性はプロセス加工(加熱乳化)工程により消失する。これは加熱溶融時の溶融塩によるイオン交換作用、および攪拌シェア等により、糸曳き性を発現するモノカルシウムカゼイネートの構造が破壊されるためである。そこで、プロセスチーズに糸曳き性を保持させるため、加熱乳化工程での糸曳き性低下を抑制する方法について報告がなされている(特開2006-115702号公報、特開2004-329206号公報、特開2001-29012号公報)。一方、プロセスチーズ調製時にチーズ以外の乳たんぱく質を添加することにより、糸曳き性を付与させる報告がある(特開2001-211826号公報、特開平01-80251号公報、特開昭59-205940号公報)。
【0007】
また、乳等省令によるチーズの規格からは外れるが(チーズフード、乳主原等)、プロセス化の工程で加工澱粉を添加することにより、澱粉由来の糸曳き性を付与させる報告がある(特開2006-254724号公報、特開平01-218548号公報)。
【0008】
特開2006-115702号公報、特開2004-329206号公報、特開2001-29012号公報のように糸曳き性の優れたナチュラルチーズを原料としプロセスチーズを調製した場合には、通常のプロセスチーズよりも加熱乳化工程によるダメージは少ないものの、加熱乳化工程により糸曳き性、および熱溶融性の低下は避けられず、ナチュラルチーズ本来の物性値を確保できなくなる。通常、プロセス化によりチーズは付着性が高く、かつ弾力性の低下したものへと変化し、本発明品で求める品質とはならない。
【0009】
特開2001-211826号公報、特開平01-80251号公報、特開昭59-205940号公報のようにナチュラルチーズに乳タンパク質(レンネットカゼイン等)を添加し、糸曳き性を付与させる報告があるものの、添加したカゼイン特有の風味をマスキングすることは難しい。また、加熱直後の糸曳き性は良好であるものの、チーズが冷えると急激にガム様の食感の強いチーズとなり、糸曳き性が低下するため、本発明品で求める品質のチーズとはならない。
【0010】
特開2006-254724号公報、特開平01-218548号公報のように加工澱粉等を添加することにより、プロセスチーズに澱粉特有の糸曳き性(糊のような物性)を付与させる報告があるものの、澱粉と乳タンパク質の糸曳き性は大きく異なる(澱粉由来の糸曳き性は粘性(粘り、付着性)が非常に強いが弾力性は弱い。一方、乳タンパク質の糸曳き性は粘性、弾力性ともに強い)。また、澱粉の添加によりチーズ特有の風味(ミルク感、コク)がマスキングされて低下してしまい発明品で求める品質とはならない。また、このチーズでは、プロセス加工後、保存中にプロセスチーズ特有の組織が脆くなる点に課題がある(特に澱粉を添加した場合は顕著である)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006-115702号公報
【特許文献2】特開2004-329206号公報
【特許文献3】特開2001-29012号公報
【特許文献4】特開2001-211826号公報
【特許文献5】特開平01-80251号公報
【特許文献6】特開昭59-205940号公報
【特許文献7】特開2006-254724号公報
【特許文献8】特開平01-218548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような現状を鑑み、本発明では、加熱時の調理適性(加熱溶融性、焦げ色、風味、糸曳き性、食感)が優れるナチュラルチーズを得ることを目的として鋭意研究を行った結果、固形分中脂肪率(F/TS)が55%以上であり、チーズ中のカルシウム含量が600mg/100g以上にすることにより、本発明で目標とする品質(風味、加熱時の物性)の高脂肪ナチュラルチーズとなることを見出した。伝統的なナチュラルチーズ製造方法、製造条件を変更することにより、本発明で目標とする品質(風味、加熱時の物性)の高脂肪ナチュラルチーズ(固形分中脂肪率(F/TS)が55%以上であり、チーズ中のカルシウム含量が600mg/100g以上)を調製できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のナチュラルチーズは、カルシウム含量が600mg/100g以上であり、固形分中脂肪率(F/TS)が55%以上である加熱調理適性を有することを特徴とするナチュラルチーズである。
【0014】
本発明にかかるカルシウム含量が600mg/100g以上であり、固形分中脂肪率(F/TS)が55%以上である加熱調理適性を有するナチュラルチーズの製造方法の第一の態様は、
脂肪率が4.0質量%以上である原料乳にスタータ乳酸菌を0.1質量%以下添加し、酸性化剤を用いて酸性化してからレンネットを添加して凝固乳を得る工程と、
前記凝固乳からホエーを排除しカードを得る工程と、
前記カードを成型して熟成させる工程と、
を有することを特徴とする。
【0015】
本発明にかかるカルシウム含量が600mg/100g以上であり、固形分中脂肪率(F/TS)が55%以上である加熱調理適性を有するナチュラルチーズの製造方法の第二の態様は、
脂肪率が4.0質量%以上である原料乳にスタータ乳酸菌を添加し、レンネットを添加して凝固乳を得る工程と、
前記凝固乳からホエーを排除しカードを得る工程と、
前記カードを成型して熟成させる工程と、
前記レンネット添加前の原料乳または前記凝固乳中の乳酸菌を失活させる工程と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明により固形分中脂肪率(F/TS)が55%以上であり、チーズ中のカルシウム含量が600mg/100g以上である加熱調理物性の良好なナチュラルチーズを調製することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明にかかるナチュラルチーズは、熟成期間をとることにより硬質性を持たせたナチュラルチーズである。本発明が好適に適用可能なチーズとしては、ゴーダチーズ、チェダーチーズ、グラナチーズ、ステッペンチーズ、モザレラチーズ等のセミハードおよびハードチーズに分類されるチーズをあげることができるが、これらに限定されない。
【0018】
本発明によれば、伝統的なナチュラルチーズの製造条件を変更することにより、固形分中脂肪率(F/TS)が55%以上であり、チーズ中のカルシウム含量が600mg/100g以上であるナチュラルチーズを調製できる。固形分中の脂肪率(F/TS)は55%以上であればよく特に上限はないが、80%を超えてしまうとカルシウム含量が高いチーズであっても本発明が求める加熱調理適性を得ることができなくなる場合がある。また、チーズ中のカルシウム含量は600mg/100g以上であればよく、特に上限はないが、カゼインと結合させるCa量には限界があるため1500mg/100gを越えてチーズに含有させることが難しくなる(F/TS値が高いため)。また、カルシウムに由来する特有の風味が感じられ風味劣化となりやすいため好ましくない。
【0019】
このナチュラルチーズはオーブン等の加熱調理時、加熱溶融性が良好であり、焼成時の色沢が良好であり、香ばしい焼成風味を有する。また、このナチュラルチーズは、適度な糸曳き性とチーズの食感を有し、加熱調理物性、および風味の優れたチーズとなる。また、このナチュラルチーズは、加熱調理後、冷めた場合にもチーズが硬くなりにくく適度な食感を有している。
【0020】
通常、ナチュラルチーズを製造する場合には、先に述べた理由から、原料乳の脂肪率を低く設定する。原料乳の脂肪率を、2.0〜3.6質量%の範囲に調整すると、チーズ中の固形分中脂肪率は30〜50%の範囲となる。通常の製造方法においては、原料乳の脂肪率が3.6質量%を超えるとカードが軟らかくなり、カードメーキング中のホエー排除の遅延、ホエーへの脂肪ロスの増大、カードの結着性低下、成型性低下等の問題が生じる。さらに、原料乳の乳糖量が高くなり乳酸菌による酸生成が過度に進行した場合には、風味欠陥、組織不良(脆さ)が起こる。
【0021】
本発明にかかるナチュラルチーズの製造用の原料乳は、ナチュラルチーズ用であればよく、目的とするチーズの種類に応じて選択される。原料乳は、ナチュラルチーズを得る上で必要とされ、かつ目的とする固形分中脂肪率(F/TS)とする上で必要な脂肪率を有していればよく、通常は、4〜8質量%の脂肪率を有していることが好ましい。
【0022】
最終チーズ製品100g当たりのカルシウム含量が600mg以上にするため、ナチュラルチーズの製造条件の変更を行う。すなわち、ナチュラルチーズ製造時において、
(i)乳酸菌による乳糖の代謝をほとんど行わない手法。
(ii)乳酸発酵を特定条件で失活させ、乳酸菌による乳酸発酵を一定条件で停止する手法。
を取り入れる。
【0023】
具体的には、(i)の手法では、通常は原料乳に対して約1〜2質量%使用される乳酸菌添加率(バルク量として)を、1/10以下(0.1質量%以下)にし、乳酸菌によるpH調整の代替として、酢酸、乳酸、クエン酸、リン酸、酒石酸、リンゴ酸等の有機酸を酸性化剤として使用し殺菌乳のpH調整を実施する。pHは、5.0〜6.5の範囲に調整することが好ましい。pHを調整する酸性化剤としては、上記有機酸の他、ナチュラルチーズ製造に認められている有機酸は使用可能であり、また、pH調整可能であるものであれば特に限定されない。乳酸菌添加率を低下させ、有機酸を使用する他は、ホエー排除、カードメーキング、加塩、熟成条件は通常のナチュラルチーズ製造条件と同様に実施する。
【0024】
(ii)の手法では、乳酸菌を通常どおりに添加し、所定のpHとなった時点で乳、または凝固カードを加熱し乳酸菌を失活させる。上記の(i)の手法と同様に、その他、ホエー排除、カードメーキング、加塩、熟成条件は通常のナチュラルチーズ製造条件と同様に実施する。この乳酸菌を失活させるための加熱処理は、乳酸菌添加後にチーズの形成に必要な発酵の進行が得られた段階で行い、pHが5.0〜6.5の範囲となった時点で行うことが好ましい。加熱処理の段階で、乳は凝固していても、凝固していなくてもよい。加熱の温度および時間は、用いた乳酸菌の種類に応じて選択すればよいが、通常は、50〜100℃の範囲で行うことが好ましい。また、乳酸菌を失活させる方法としては、紫外線照射、ソルビン酸カリウム等の保存料、殺菌剤、抗菌剤を添加する方法を用いることもできる。
【0025】
上記の(i)および(ii)の少なくとも一方の手法を用いることにより、高脂肪乳を使用したチーズ製造において上記課題であった風味欠陥、組織不良(脆さ)が解決できる。
【0026】
上記の(i)および(ii)の少なくとも一方の手法を用いることにより、ナチュラルチーズ用の原料乳から得られるチーズ中に残存するカルシウム量を高めることができる。また、必要に応じて(iii)原料乳へのカルシウム添加を実施して、目的とするチーズ中のカルシウム量を達成してもよい。例えば、原料乳に対して0.001〜1.0質量%の割合で塩化カルシウムを添加して調整することができる。カルシウムとしては、市販の塩化カルシウム、酢酸カルシウム、乳清カルシウム等を用いることができ、塩化カルシウム相当量として上記の範囲で用いることができる。これらのカルシウム化合物は、2種類以上混合して用いることもできる。カルシウムは、カードが凝固される前に添加すればよく、レンネット、乳酸菌スタータと同時に添加することもできるし、レンネット等の添加前後でもよい。
【0027】
目的とする脂肪率およびカルシウム量を達成することにより、高脂肪乳を使用したチーズ製造において上記課題であったカードの軟化、カードメーキング中のホエー排除の遅延、ホエーへの脂肪ロスの増大、カードの結着性低下、成型性低下等が解決できる。
【0028】
なお、チーズ中のカルシウム含量は、例えば、チーズを乾式灰化法で灰化した後、ICP発光分光分析法にて測定することができる。また、チーズの固形中脂肪率は、脂肪および固形分より算出する。例えば、脂肪はレーゼ・ゴットリーブ法(塩酸分解)にて測定することができるし、固形については水分を測定した後、重量から水分を差し引いて算出することができる。
【0029】
本発明にかかるナチュラルチーズは、オーブン等の加熱調理時、加熱溶融性が良好であり、こげ茶色に焦げ、香ばしい焼成風味を有する。また、適度な糸曳き性とチーズの食感を有し、加熱調理適性、および風味の優れたチーズとなる。また、加熱調理後、冷めた場合にもチーズが硬くなりにくく適度な食感を有しており、これまでのチーズには見られない風味、物性を有するチーズとなる。
【実施例】
【0030】
以下実施例および比較例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、「%」は特に表記しない限りは質量基準である。
【0031】
実施例1
[高脂肪ゴーダチーズ]
脂肪率4.0%に調整した原料乳100kgに乳清カルシウムを100g添加した後、75℃、15秒殺菌後、30℃に冷却しチーズバットに搬送した。チーズバット内で乳酸菌LDスタータ(CHR.HANSEN社製)バルクを乳に対して0.01%添加し、さらにクエン酸を添加し乳pHを6.6に調整した。pH調整後、微生物レンネットTL(ロビン社製)を1.0g添加し乳を凝固させた。乳の凝固後、カードナイフを使用し10mm角のサイズに切断後、38℃まで加熱攪拌しながらホエー排除を実施した。ホエー排除後カードを容量10kgのチーズモールドに充填し、圧搾成型した。成型後、10℃の飽和食塩水中で48時間浸漬した後、ガスバリア性の高いフィルムに入れて真空包装した。このチーズを10℃にて6ヶ月間熟成させた(本発明にかかる実施品1)。対照品としては乳酸菌LDスタータ(CHR.HANSEN社製)バルクを乳に対して1%添加し、クエン酸を添加しない条件で、その他は同条件でチーズを作り、10℃にて6ヶ月熟成させた(対照品)。
【0032】
熟成終了後、固形分中脂肪率、STN/TN値、チーズ中のカルシウム量の測定、および加熱しない状態でのチーズの官能評価、シュレッドしてトースター加熱した場合の官能評価を実施した(表1)。10点満点とし、点数が高いほど良好な結果とした。その結果、実施品1はカルシウム量が1000mg/100gであったのに対して、対照品はカルシウム量が500mg/100gであった。実施品1は適度な硬度を有しており、成型後の変形が見られなかったが、対照品は軟らかく、成型後に変形した。加熱しないで食した場合、実施品1は適度に軟らかく、口どけが良好であり、ミルク風味が強く感じられた。一方、対照品は組織が脆く、サワー風味が強く食感風味ともに好ましくなかった。トースター加熱した場合、実施品1は良好に焦げ、香ばしい風味を有し、糸曳き性が良好であり、適度な食感であったのに対し、対照品は焼成風味が乏しく、糸曳き性がなく、チーズの食感は弱くほとんど感じられなく好ましくなかった。
【0033】
本発明により得られたナチュラルチーズはオーブン等の加熱調理時、加熱溶融性が良好であり、こげ茶色に焦げ、香ばしい焼成風味を有する。また、本発明により得られたナチュラルチーズは、適度な糸曳き性とチーズの食感を有し、加熱調理適性、および風味の優れたチーズとなる。また、本発明により得られたナチュラルチーズは、加熱調理後、冷めた場合にもチーズが硬くなりにくく適度な食感を有しており、これまでのチーズには見られない風味、物性を有するチーズとなる。
【0034】
【表1】

【0035】
実施例2
[高脂肪チェダーチーズ]
脂肪率5.5%に調整した原料乳100kgを75℃、15秒殺菌後、冷却しチーズバットに搬送した。チーズバット内で塩化カルシウムを乳に対して0.02%、乳酸菌サーモフィラススタータ(CHR.HANSEN社製)バルクを乳に対して0.01%添加し、さらに乳酸を添加し乳pHを5.8に調整した。pH調整後、微生物レンネットTL(ロビン社製)を1.0g添加し乳を凝固させた。乳の凝固後、カードナイフを使用し10mm角のサイズに切断後、38℃まで加熱攪拌した後、ホエーを排除し、カードの堆積によるホエー排除を実施した(マッティング)。カード水分が所定の水分値まで低下した後、カードブロックを約1cm×1cm×3cmのサイズに細断し、カードに対し2.5%の食塩を添加し混合した。食塩添加後、チーズモールドにカードを充填し、圧搾成型した。成型後、モールドからチーズを取り出しチーズ表面をコーティング処理した後、10℃にて一年間熟成させた(本発明にかかる実施品2)。対照品としては乳酸菌サーモフィラススタータ(CHR.HANSEN社製)バルクを乳に対して2%添加し、乳酸を添加しない条件、さらにカードの堆積はpH5.4となった時点を終了として、その他は同条件でチーズを作り、10℃にて一年間熟成させた(対照品)。
【0036】
熟成終了後、固形分中脂肪率、STN/TN値、チーズ中のカルシウム量の測定、および加熱しない状態でのチーズの官能評価、シュレッドしてトースター加熱した場合の官能評価を実施した(表2)。10点満点とし、点数が高いほど良好な結果とした。その結果、実施品2はカルシウム量が600mg/100gであったのに対して、対照品はカルシウム量が450mg/100gであった。実施品2は適度な硬度を有しており、成型後の変形が見られなかったが、対照品は軟らかく、成型後に変形した。加熱しないで食した場合、実施品2は適度に軟らかく、口どけが良好であり、ミルク風味が強く感じられた。一方、対照品は組織が脆く、サワー風味、苦味が強く食感風味ともに好ましくなかった。トースター加熱した場合、実施品2は良好に焦げ、香ばしい風味を有し、糸曳き性が良好であり、適度な食感であったのに対し、対照品は焼成風味が乏しく、糸曳き性がなく、チーズの食感は弱くほとんど感じられなく好ましくなかった。
【0037】
本発明により得られたナチュラルチーズはオーブン等の加熱調理時、加熱溶融性が良好であり、こげ茶色に焦げ、香ばしい焼成風味を有する。また、本発明により得られたナチュラルチーズは、適度な糸曳き性とチーズの食感を有し、加熱調理適性、および風味の優れたチーズとなる。また、本発明により得られたナチュラルチーズは、加熱調理後、冷めた場合にもチーズが硬くなりにくく適度な食感を有しており、これまでのチーズには見られない風味、物性を有するチーズとなる。
【0038】
【表2】

【0039】
実施例3
[高脂肪ステッペンチーズ]
脂肪率4.5%に調整した原料乳200kgを75℃、15秒殺菌後、40℃に冷却しチーズバットに搬送した。チーズバット内で乳酸菌サーモフィラス(CHR.HANSEN社製)バルクを乳に対して1.0%添加した後、乳酸菌による予備発酵を実施し、pHを6.3まで低下させた。予備発酵終了後、乳を60℃にて30分加熱し、乳酸菌を失活させた後、乳を再び40℃に冷却した後、微生物レンネットTL(ロビン社製)を1.5g添加し乳を凝固させた。乳の凝固後、カードナイフを使用し10mm角のサイズに切断後、50℃まで加熱攪拌し、ホエー中でカードを成型した後、チーズフープに入れて冷却・成型した。冷却・成型後、フープからチーズを取り出し、飽和食塩水中で約48時間浸漬させた後、チーズをガスバリア性の高いフィルムに入れて真空包装し、10℃で3ヶ月間熟成させた(本発明にかかる実施品3)。対照品としては、予備発酵後、60℃にて30分の加熱による乳酸菌の失活を行わずに(省略)、レンネット凝固工程に進み、以後の工程は同条件でチーズを作り、10℃にて3ヶ月熟成させた(対照品)。
【0040】
熟成終了後、固形分中脂肪率、STN/TN値、チーズ中のカルシウム量の測定、および加熱しない状態でのチーズの官能評価、シュレッドしてトースター加熱した場合の官能評価を実施した(表3)。10点満点とし、点数が高いほど良好な結果とした。その結果、実施品3はカルシウム量が800mg/100gであったのに対して、対照品はカルシウム量が400mg/100gであった。実施品3は適度な硬度を有しており、成型後の変形が見られなかったが、対照品は軟らかく、成型後に変形した。加熱しないで食した場合、実施品3は適度に軟らかく、口どけが良好であり、ミルク風味が強く感じられた。一方、対照品は組織が脆く、サワー風味が強く食感風味ともに好ましくなかった。トースター加熱した場合、実施品3は良好に焦げ、香ばしい風味を有し、糸曳き性が良好であり、適度な食感であったのに対し、対照品は焼成風味が乏しく、糸曳き性がなく、チーズの食感は弱くほとんど感じられなく好ましくなかった。
【0041】
本発明により得られたナチュラルチーズはオーブン等の加熱調理時、加熱溶融性が良好であり、こげ茶色に焦げ、香ばしい焼成風味を有する。また、本発明により得られたナチュラルチーズは、適度な糸曳き性とチーズの食感を有し、加熱調理適性、および風味の優れたチーズとなる。また、本発明により得られたナチュラルチーズは、加熱調理後、冷めた場合にもチーズが硬くなりにくく適度な食感を有しており、これまでのチーズには見られない風味、物性を有するチーズとなる。
【0042】
【表3】

【0043】
実施例4
[高脂肪モザレラチーズ]フレッシュタイプ
脂肪率6.5%に調整した原料乳100kgを75℃、15秒殺菌後、冷却しチーズバットに搬送した。チーズバット内で乳酸菌サーモフィラススタータ(CHR.HANSEN社製)バルクを乳に対して0.1%添加し、さらにリン酸を添加し乳pHを6.2に調整した。pH調整後、微生物レンネットTL(ロビン社製)を0.5g添加し乳を凝固させた。乳の凝固後、カードナイフを使用し10mm角のサイズに切断後、38℃まで加熱攪拌した後、ホエーを排除し、カードの堆積によるホエー排除を実施した(マッティング)。カード水分が所定の水分値まで低下した後、カードブロックを約1cm×1cm×1cmのサイズに細断した。細断したカードを80℃湯中にて混練成型した後、飽和食塩水中に浸漬させた。浸漬後、チーズをガスバリア性の高いフィルムに入れて真空包装した。このチーズを10℃にて1ヶ月間保存した(本発明にかかる実施品4)。対照品としては乳酸菌サーモフィラススタータ(CHR.HANSEN社製)バルクを乳に対して2%添加し、乳酸を添加しない条件、さらにカードの堆積はpH5.4となった時点を終了として、その他は同条件でチーズを作り、10℃にて1ヶ月保存した(対照品)。
【0044】
熟成終了後、固形分中脂肪率、STN/TN値、チーズ中のカルシウム量の測定、および加熱しない状態でのチーズの官能評価、シュレッドしてトースター加熱した場合の官能評価を実施した(表4)。10点満点とし、点数が高いほど良好な結果とした。その結果、実施品4はカルシウム量が700mg/100gであったのに対して、対照品はカルシウム量が400mg/100gであった。実施品4は適度な硬度を有しており、成型後の変形が見られなかったが、対照品は軟らかく、成型後に変形した。加熱しないで食した場合、実施品4は適度に軟らかく、口どけが良好であり、ミルク風味が強く感じられた。一方、対照品は組織が脆く、変形し、ムレ臭風味が感じられ食感風味ともに好ましくなかった。トースター加熱した場合、実施品4は良好に焦げ、香ばしい風味を有し、糸曳き性が良好であり、適度な食感であったのに対し、対照品は焼成風味が乏しく、糸曳き性がなく、チーズの食感は弱くほとんど感じられなく好ましくなかった。
【0045】
本発明により得られたナチュラルチーズはオーブン等の加熱調理時、加熱溶融性が良好であり、こげ茶色に焦げ、香ばしい焼成風味を有する。また、本発明により得られたナチュラルチーズは、適度な糸曳き性とチーズの食感を有し、加熱調理適性、および風味の優れたチーズとなる。また、本発明により得られたナチュラルチーズは、加熱調理後、冷めた場合にもチーズが硬くなりにくく適度な食感を有しており、これまでのチーズには見られない風味、物性を有するチーズとなる。
【0046】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム含量が600mg/100g以上であり、固形分中脂肪率(F/TS)が55%以上である加熱調理適性を有することを特徴とするナチュラルチーズ。
【請求項2】
脂肪率が4.0質量%以上である原料乳にスタータ乳酸菌を0.1質量%以下添加し、酸性化剤を用いて酸性化してからレンネットを添加して凝固乳を得る工程と、
前記凝固乳からホエーを排除しカードを得る工程と、
前記カードを成型して熟成させる工程と、
を有するカルシウム含量が600mg/100g以上であり、固形分中脂肪率(F/TS)が55%以上である加熱調理適性を有するナチュラルチーズの製造方法。
【請求項3】
脂肪率が4.0質量%以上である原料乳にスタータ乳酸菌を添加し、レンネットを添加して凝固乳を得る工程と、
前記凝固乳からホエーを排除しカードを得る工程と、
前記カードを成型して熟成させる工程と、
前記レンネット添加前の原料乳または前記凝固乳中の乳酸菌を失活させる工程と、
を有するカルシウム含量が600mg/100g以上であり、固形分中脂肪率(F/TS)が55%以上である加熱調理適性を有するナチュラルチーズの製造方法。

【公開番号】特開2010−161968(P2010−161968A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6345(P2009−6345)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(000006699)雪印乳業株式会社 (155)
【Fターム(参考)】