説明

ニッケル−水素二次電池

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はニッケル−水素二次電池に関し、更に詳しくは、高いエネルギー貯蔵容量密度を有するニッケル−水素二次電池に関する。
【0002】
【従来の技術】各種の電気・電子機器の小型軽量化、コードレス化の進展に伴い、それらの電源として用いられる電池には、小型化・軽量化・高容量化への要求が高まっている。この要請に応える高容量電池として、最近、ニッケル−水素二次電池が注目を集めている。
【0003】このニッケル−水素二次電池は、水素を負極活物質として作動するものであり、可逆的に水素を吸蔵・放出することができる水素吸蔵合金から成る負極と、通常、正極活物質として動作するニッケル水酸化物を導電基材に担持して成る正極とをアルカリ電解液中に配置して構成される。この電池の電池反応では、充電時に還元反応が起こり、水の電気分解によって生成した水素が水素吸蔵合金の結晶格子内に進入して吸蔵され、また放電時には、酸化反応が起こって合金内に吸蔵されていた水素が合金表面で水酸イオンと反応して水に戻る。
【0004】この電池の形状としては、円筒タイプと角型タイプのものがあるが、一般に、密閉型の円筒タイプのものの検討が進められている。ここで、密閉型の円筒タイプの電池は、通常、図1で示したような構造になっている。すなわち、負極端子も兼ねる円筒容器1の底に絶縁板2が配置され、その上に、後述する正極シート3と負極シート4を、電気絶縁性のマット状合成樹脂から成りアルカリ電解液を保持するセパレータ5を介して重ね合わせて渦巻き状に巻回して製造した発電要素が収容されている。そして、発電要素の上に絶縁板2をのせ、封口板6で封鎖し、全体は正極端子も兼るふた7が絶縁ガスケット8を介して密封されている。
【0005】このような円筒電池に用いる正極シート3としては、多孔質の導電シートに正極活物質として動作する水酸化ニッケルを主体とするペーストを充填したものが一般に用いられ、また負極シートとしては、水素吸蔵合金の粉末を結着剤と一緒に混合してそれをシート成形したものや、多孔質の導電シートに水素吸蔵合金と結着剤との混合物を担持させたものなどが広く用いられている。
【0006】例えば、特開昭62−15769号の実施例1においては、発泡金属多孔体に活物質のペーストを充填して成る正極シートとパンチングメタルに水素吸蔵合金のペーストを塗布して成る負極シートとを組み合わせたニッケル−水素二次電池や、また実施例2においては、上記正極シートと、発泡金属多孔体に水素吸蔵合金を担持させたのち焼結して成る負極シートとを組み合わせたニッケル−水素二次電池が開示されている。
【0007】また、特開昭61−49384号においては、焼結ニッケルに活物質を充填して成る正極と、水素吸蔵合金の粉末とポリテトラフルオロエチレンと水とから成るペーストをニッケル板の両面に塗布した負極とを組み合わせたニッケル−水素二次電池が開示されている。更に、特開平3−78972号においては、ニッケル焼結繊維の三次元網状マットに活物質のペーストを充填して成る正極と、水素吸蔵合金粉末とカーボンとポリテトラフルオロエチレン粉末との混合物の成形シートをニッケル網に圧着して成る負極とを組み合わせたニッケル−水素二次電池が開示されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上記した円筒電池に組み込む正極シート,負極シートとしては、電池性能の点からすると、エネルギー貯蔵容量密度(mAh/cc)が大きければ大きい程好適であるが、同時に、これらシートを巻回して発電要素を製造するときに正極活物質や水素吸蔵合金の脱落が起こらずに巻回できるような可撓性に優れていることが必要とされる。
【0009】すなわち、水素吸蔵合金から成る負極は、比較的固有容量も大きく電池の高容量化に適しているが、正極となる水酸化ニッケルの場合は、その利用率を向上させたり、エネルギー貯蔵容量密度を向上させるとともに、一定容積の円筒容器内に多く収納できるようにすることが必要になる。そのためには、負極シートを可能な限り薄くし、例えば約0.5mmあるいはそれ以下の厚みとし、正極シートとの対向面を広くとれるようにするための工夫が必要になる。
【0010】しかしながら、このような構成にする場合、上記した先行技術のうち、例えば、特開平3−7872号に開示されている正極と負極の組合せの場合、正極の導電シートはニッケル焼結繊維のマットであるため、これを巻回したときに、繊維自身の弾発力によって繊維が毛羽立ち、それがセパレータを突き抜けて負極シートに達し、両極間が短絡するという事態が起こりうる。
【0011】また、特開昭61−49384号における組合わせの場合、正極の導電シートは焼結ニッケルであるため、その多孔度が通常80〜86%と小さく多量の正極活物質を担持することができず、その結果、高いエネルギー貯蔵容量密度を期待できないという問題がある。更に、この組合わせに用いられる負極は、ニッケル板の両面に合金ペーストを塗布して構成させるものであるため、ニッケル板への合金ペーストの担持状態は強固であるとはいえず、例えば発電要素への巻回時に合金ペーストがニッケル板から脱落してしまう可能性がある。
【0012】特開昭62−15769号に開示されている実施例2の組合わせの場合、正極シートと負極シートの導電シートはいずれも発泡金属多孔体であるため、それぞれを巻回することは容易であるとしても、発電要素の製造時に2枚を重ねて巻回するとかなり可撓性が落ちて巻回作業の途中で折れてしまうという事態が起こりうる。
【0013】また実施例1の組み合わせの場合、発泡金属多孔体の多孔度は90%以上と大きいため、正極活物質を多量に充填することができる。したがって高いエネルギー貯蔵容量密度の電池が可能になる。また、負極の導電シートはパンチングメタルであるため、前記した特開昭61−49384号で開示されている負極に比べて超かに合金ペーストの担持状態は強固であり、巻回時の脱落は有効に防止されるものと考えられる。
【0014】本発明は、上記した特開昭62−15769号の実施例1で開示される正極シートと負極シートの組合わせにおいて、各シートを改良することにより、より一層高いエネルギー貯蔵容量密度を発揮するニッケル−水素二次電池の提供を目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】上記した目的を達成するために、本発明においては、コバルト化合物がコバルト量に換算して1.3〜13重量%混在しているニッケル化合物の正極活物質をスポンジ状ニッケルシートに担持して成る正極シートと、少なくとも表面がニッケルから成り、開孔率が30〜44%であるパンチングメタルシートに水素吸蔵合金を担持して成る負極シートとを有することを特徴とするニッケル−水素二次電池が提供される。
【0016】本発明のニッケル−水素二次電池における正極は、導電シートがスポンジ状ニッケルシートであり、ここに担持される正極活物質が後述する組成になっている。まず、導電シートであるスポンジ状ニッケルシートは次のようにして製造することができる。
【0017】すなわち、通常、95〜97%の多孔度で連通気孔を有するプラスチックの発泡体、例えばポリウレタン発泡体やポリエチレン発泡体に公知の無電解ニッケルめっきやニッケル蒸着を行い、発泡体の骨格部分の表面をニッケルで被覆する。ついで、得られた発泡体を大気中において基材プラスチックの分解温度以上の温度で焼成し、プラスチックの骨格部分を熱分解除去する。その結果、プラスチックの骨格部分と同じ網状構造をしたニッケル骨格から成るスポンジが得られる。
【0018】なお、所望する多孔度のプラスチック発泡体を適宜に選定したり、またニッケル骨格になったスポンジを所望の圧力で圧延することにより、活物質の充填量の多寡に影響を与える導電シートとしての多孔度を所望する値に調節することができる。このスポンジ状ニッケルシートに次のような組成のペーストを充填したのちこれを乾燥することにより、スポンジ状ニッケルシートの空孔部分に、酸化コバルト(CoO)粉末が混在する水酸化ニッケル(Ni(OH)2)粉末が担持される。なお、Ni(OH)2粉末には、その0.5〜1重量%に相当する量のCoが含有されているのが通例である。
【0019】ペーストとしては、CoO粉末1〜15重量%,残部が実質的にNi(OH)2 粉末から成る固形成分を、1%濃度のカルボキシメチルセルロース水溶液でペースト化したものである。なお、必要に応じては、更に、ニッケル粉末を適量添加することにより、シートの空孔部分に担持させた活物質の導電性を高めてもよい。
【0020】上記した組成のペーストにおいて、CoOは、活物質の導電性を高める作用をする。このようにして製造した正極を組み込んだ電池を充電すると、正極においては、活物質であるNi(OH)2 は酸化されて充電量に対応した量がNiOOHに転化し、また混在していたCoOは同じく酸化されて充電量に対応した量がCoOOHに転化する。
【0021】そして、このCoOOHは導電性を有するとともに、放電電位がNiOOHに比べて卑であるため変化することなく、正極の活性を維持もしくは高める働きをする。その結果、電池のエネルギー貯蔵容量密度の向上を可能にする。活物質である上記ニッケル化合物中に混在し、上記したような働きをするコバルト化合物は、コバルト量に換算して1.3〜13重量%に設定される。この換算コバルト量が1.3重量%より少ない場合は、上記した効果が充分に発揮されず、また13重量%より多くなると、活物質であるニッケル化合物の量が少なくなって電池容量の低下が引き起こされてくるからである。
【0022】換算コバルト量を上記範囲に設定するために、正極用ペーストの製造時におけるCoOの配合量は、前記したように、1〜15重量%に設定される。次に、本発明電池の負極シートは、導電シートであるパンチングメタルシートに公知の水素吸蔵合金を担持して成る。すなわち、この負極シートは、導電シートであるパンチングメタルシートに、水素吸蔵合金粉末とメチルセルロースのような増粘剤とイオン交換水とで調製した合金スラリーを塗布したのち乾燥し、ついで、所定の圧力で圧延して均一な厚みの合金層を形成することによって製造される。
【0023】ここで、パンチングメタルシートとしては、例えば、所定厚みのニッケルシートに所定径の小孔を複数個穿設したものや、また例えば所定径の小孔が複数個穿設されている他の素材の多孔シートにニッケルをめっきまたは蒸着したものなど、少なくとも表面がニッケルで形成されているものが用いられる。このとき、開孔率が30〜44%であるパンチングメタルシートが用いられる。開孔率が30%より小さいものを用いると全体の可撓性に難点が生ずるとともに、塗布する合金スラリーが強固に保持されず、例えば発電要素への巻回時に脱落などが起こりやすい。また、開孔率が44%より大きいものを用いると、導電性の確保に難点が生ずるとともに、圧延時における伸びが大きくなって形成される合金層に微細クラックが発生しやすくなる。
【0024】本発明のニッケル−水素二次電池は、上記した正極シートと負極シートを用いて構成されるが、負極シートは上記構成をとっているため可撓性に富むと同時に合金層が強固にパンチングメタルシートに保持されているので、例えば発電要素への巻回時に、合金層の剥落はほとんど起こらない。また、正極活物質中に前記したコバルト化合物の所定量が混在するので、電池としてのエネルギー貯蔵容量密度は非常に大きくなり、高容量の電池になる。
【0025】
【発明の実施例】多孔度96%で厚み1.6mmの発泡ポリウレタンシートに無電解ニッケルめっきを施したのち、700℃の還元雰囲気中で焼成してスポンジ状ニッケルシートとした。ついで、このシートに表1で示した組成の固形成分に1%濃度のカルボキシメチルセルロース水溶液を添加して成るペーストを充填して100℃で1時間乾燥したのち1ton/cm2 の圧力で加圧して各種の正極シートを製造した。活物質合剤の充填量はいずれの場合も4.67gとした。
【0026】つぎに、まずアーク溶解法で組成:MmNi3.3 Co1.0 Mn0.4 Al0.3 (ただし、Mmはミッシュメタルを表す)で示される水素吸蔵合金を製造したのち、これを粉砕して150メッシュ(タイラー篩)以下の合金粉末とした。イオン交換水100重量部に対し、上記合金粉末360重量部,カルボキシメチルセルロース1重量部から成る合金スラリーを調製した。
【0027】表1に示した開孔率を有するパンチングニッケルシート(厚み0.09mm,穴の径1.3〜1.7mm)を前記合金スラリー中に浸漬したのち引き上げ、ついで、大気中で乾燥し、2ton/cm2 の圧力で圧延して全体の厚みが0.4mmである負極シートにした。これら正極シートと負極シートの間にナイロンセパレータを配置して全体を渦巻き状に巻回して直径13mmの発電要素にし、そのときの負極シートにおける合金層の脱落や微細クラックの発生の有無を調べた。
【0028】ついで、鋼にニッケルめっきが施されている内径13.2mmの円筒容器に上記発電要素を収容し、7Nの水酸化カリウム溶液を電解液として注入したのちふたで密封し、密閉型の円筒電池とした。これらの電池に常法に従って充電処理を施したのち室温下における放電特性を調べた。これら放電特性から各電池の正極のエネルギー貯蔵容量密度を算出した。以上の結果を一括して表1に示した。
【0029】
【表1】


【0030】
【発明の効果】以上の説明で明らかなように、本発明のニッケル−水素二次電池は、正極のエネルギー貯蔵容量密度が600〜700mAh/ccと極めて高く電池としても高容量である。これは、正極シートとして、多孔度が大きいスポンジ状ニッケルシートを用い、また正極活物質にコバルト換算で1.3〜13重量%のコバルト化合物を混在させたことがもたらす効果である。
【0031】また、負極シートの導電シートとして、開孔率30〜44%のパンチングシートを用いたので、水素吸蔵合金が強固に保持されるようになり、その結果、巻回して発電要素にしてもこの合金層の脱落は起こらず信頼性の高い電池にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】密閉型の円筒タイプのニッケル−水素二次電池を示す一部切欠き斜視図である。
【符号の説明】
1 円筒容器
2 絶縁板
3 正極シート
4 負極シート
5 セパレータ
6 封口板
7 ふた
8 絶縁ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】 コバルト化合物がコバルト量に換算して1.3〜13重量%混在しているニッケル化合物の正極活物質をスポンジ状ニッケルシートに担持して成る正極シートと、少なくとも表面がニッケルから成り、開孔率が30〜44%であるパンチングメタルシートに水素吸蔵合金を担持して成る負極シートとを有することを特徴とするニッケル−水素二次電池。

【図1】
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【特許番号】第2572337号
【登録日】平成8年(1996)10月24日
【発行日】平成9年(1997)1月16日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−20894
【出願日】平成5年(1993)2月9日
【公開番号】特開平6−231761
【公開日】平成6年(1994)8月19日
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【参考文献】
【文献】特開 平4−179052(JP,A)
【文献】特開 昭63−141258(JP,A)