説明

ニッケル化合物を含まないヒドリンゴム組成物

【目的】ニッケル化合物を含まないヒドリンゴム組成物であって、従来と同等な高温下における復元性を備えたヒドリンゴム組成物を提供することを目的とする。
【構成】本発明によるニッケル化合物を含まないヒドリンゴム組成物は、ヒドリン系ゴム100重量部に対し、2〜5重量部の金属石鹸を含むことを特徴とする。さらに、ヒドリン系ゴム100重量部に対し、2〜5重量部の金属石鹸および紫外線吸収剤を0.1〜10重量 含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はニッケル化合物を含まないヒドリンゴム組成物、さらに詳細には高温下での復元性を改良したヒドリンゴムを製造可能なヒドリンゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドリンゴムは、耐熱性、耐油性、耐オゾン性などが良好で、自動車用途では燃料ホース、エアー系ホース、チューブ材料などとして広く使用されている。
【0003】
近年、京都議定書中にある国内自動車リサイクル法が施行され、環境への取り組みが強化されてきている。各自動車メーカは、欧州規制(六価クロム、鉛、カドミ、水銀)にプラスして環境規制もしなければならなくなり、臭素、ニッケル等も規制の対象となった。耐熱性や耐油性等から自動車用部品として使用されているヒドリンゴムは、従来、老化防止剤としてニッケル化合物(ニッケル−ジ−アルキル−ジチオカーバメイト)を使用していたが、前述のようにニッケルも規制の対称となってきたため、ニッケル化合物を含まないヒドリンゴムが希求されてきている。ニッケル化合物を含まないヒドリンゴム組成物は、加硫度が低下し、ゴムの物性、特に高温下における復元性が損なわれる欠点がある。
【0004】
ニッケル化合物を使用しないヒドリンゴム組成物としては光・熱による劣化を防止するビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートを用いる方法(特開2005−2182)が出願されていて耐オゾン性や耐軟化劣化に対しては効果があるが、高温下での復元性(圧縮永久歪)は改善されない。
【特許文献1】特開2005−2182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述の課題を解決することを目的とするものであり、ニッケル化合物を含まないヒドリンゴム組成物であって、従来と同等な高温下における復元性を備えたヒドリンゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明によるニッケル化合物を含まないヒドリンゴム組成物は、ヒドリン系ゴム100重量部に対し、2〜5重量部の金属石鹸を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によるニッケル化合物を含まないヒドリンゴム組成物によれば、ニッケル化合物を使用することなく、従来と同等な高温下における復元性を備えたヒドリンゴム組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明によるニッケル化合物を含まないヒドリンゴム組成物によれば、ヒドリンゴム組成物であるが、前記ヒドリンゴムとしては、たとえばエピハロヒドリンゴムを使用することができる。エピハロヒドリンゴムとしては、エピハロヒドリン単独重合体またはエピハロヒドリンと共重合可能な他のエポキシド、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アリルグリシジルエーテル等との共重合体をいう。これらを例示すれば、エピクロルヒドリン単独重合体、エピブロムヒドリン単独重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合体、エピブロムヒドリン−エチレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−プロピレンオキサイド共重合体、エピブロムヒドリン−プロピレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体、エピブロムヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル四元共重合体、エピブロムヒドリン−エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル四元共重合体等を挙げることができる。好ましくはエピクロルヒドリン単独重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体であり、さらに好ましくはエピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体である。
【0009】
このようなヒドリンゴム100重量部に対し、本発明においては、金属石鹸を2〜5重量部添加する。金属石鹸は高級脂肪酸のアルカリ塩を主成分とする代表的な陰イオン界面活性剤である。このような金属石鹸としては、半硬化牛脂肪酸ソーダ石鹸、ステアリン酸ソーダ石鹸、オレイン酸カリ石鹸、ひまし油カリ石鹸、半硬化牛脂肪酸カリ石鹸、オレイン酸カリ石鹸などを使用することができる。
【0010】
前記金属石鹸の添加量が2重量部未満であると、高温下における復元性が改良されない恐れがあり、一方5重量部を越えると、組成物中に分散しない恐れがある。最も好ましくはヒドリンゴム100重量部に対し、3〜3.5重量部である。
【0011】
このようなヒドリンゴム組成物には、加硫剤を含んでいる。他に、加硫促進剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、加工助剤、受酸剤、補強材、可塑剤、スコーチ防止剤等を添加することができる。
【0012】
加硫剤としてはヒドリンゴムを加硫可能なものであればいかなるものでもよい。たとえば、塩素原子の反応性を利用する公知の加硫剤、即ちポリアミン、チオウレア、チアジアゾール、メルカプトトリアジン、キノキサリン等が、また、側鎖二重結合の反応性を利用する公知の加硫剤、例えば、有機過酸化物、硫、モルホリンポリスルフィド、チウラムポリスルフィド等が適宜使用される。
【0013】
加硫剤を例示すれば、ポリアミンとしては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンテトラミン、p−フェニレンジアミン、クメンジアミン、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサンジアミン、エチレンジアミンカーバメート、ヘキサメチレンジアミンカーバメート等が挙げられ、チオウレア としては、2−メルカプトイミダゾリン、1,3−ジエチルチオウレア、1,3−ジブチルチオウレア、トリメチルチオウレア等が挙げられ、チアジアゾール としては、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール−5−チオベンゾエート等が挙げられ、メルカプトトリアジン としては、2,4,6−トリメルカプト−1,3,5−トリアジン、1−ヘキシルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、1−ジエチルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、1−シクロヘキシルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、1−ジブチルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン、2−アニリノ−4,6−ジメルカプトトリアジン、1−フェニルアミノ−3,5−ジメルカプトトリアジン等が挙げられ、キノキサリン としては、2,3−ジメルカプトキノキサリン、キノキサリン−2,3−ジチオカーボネート、6−メチルキノキサリン−2,3−ジチオカーボネート、5,8−ジメチルキノキサリン−2,3−ジチカーボネート等が挙げられ、有機過酸化物としては、tert−ブチルヒドロパーオキサイド、p−メンタンヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキサイド、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられ、モルホリンポリスルフィドとしては、モルホリンジスルフィドが挙げられ、チウラムポリスルフィド としては、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、ジペンタメチレンチウラムヘキサスルフィド等が挙げられる。
【0014】
前記加硫剤の配合量は、ヒドリン系ゴム100重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは0.3〜5重量である。この範囲未満の配合量では架橋が不十分となり、一方この範囲を越えると加硫物が剛直になりすぎてヒドリンゴム加硫物として通常期待される物性が得られなくなる。特に良好な加硫剤としては、6−メチル−1,3−ジチオロ(4,5−b)キノキサリン−2−オンキノメチオナートを挙げることができる。
【0015】
紫外線吸収剤としては、一般式(1)で表される基を分子内に少なくとも1つ以上有する化合物を使用することができる。この化合物は一般的にヒンダードアミン系光安定剤と呼ばれ、 分子の光安定剤として広く用いられてる。これらは分子中に1個以上の一般式(1)で表される基を有するものであればいずれも使用することができ、ピペリジン核を複数有する化合物であってもよい。
【0016】
【化1】

【0017】
(式中、R〜Rは同一または異なって、水素原子、アルキル基、置換アルキル基を表す。)
アルキル基としては炭素数1〜5の直鎖アルキル基、炭素数1〜5の分岐アルキル基が好ましい。置換アルキル基の置換基は例えばアシルオキシ基、エステル基である。R〜Rとしては水素原子、炭素数1〜5の直鎖アルキル基、例えばメチル基が好ましい。
【0018】
一般式(1)で表される基を分子内に少なくとも1つ以上有する化合物の具体的としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、1−[2−〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル]−4−〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、8−アセチル−3−ドデシル−7,7,9,9−テトラメチル−1,3,8−トリアザスピロ[4,5]デカン−2,4−ジオン、こはく酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ〔6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル〕〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕ヘキサメチレン〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕、ポリ〔(6−モルホリノ−s−トリアジン−2,4−ジイル)〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕−ヘキサメチレン〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕〕、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、テトラキシ(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキシ(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールとトリデシルアルコールとの縮合物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノールとβ, β, β’, β’−テトラメチル−3,9−(2,4,8,10−テトラオキサロスピロ[5,5]ウンデカン)ジエタノールとの縮合物、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン・2,4−ビス〔N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ〕−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル−メタクリレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−メタクリレート等を挙げることができる。特に、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートが好ましい。
【0019】
一般式(1)で表される基を分子内に少なくとも1つ以上有する化合物の配合量は、ヒドリンゴム100重量 に対して0.1〜10重量 、好ましくは0.1〜5重量 、さらに好ましくは0.3〜3重量である。この配合量がこの範囲未満であると耐熱性、耐オゾン性改良効果が少なく、また、この範囲を越えて多量に配合しても経済的ではない。このような紫外線吸収剤は、後述の実施例より明らかなように、本発明における金属石鹸と組み合わせることによって、高温における復元性改良にも効果があることがわかった。
【0020】
他の加硫促進剤、老化防止剤、加工助剤、受酸剤、補強材、可塑剤、スコーチ防止剤等は、従来ヒドリンゴムで使用するものを有効に使用することができる。以下実施例を説明するが、下記の実施例は、本発明の範囲を限定するものではないのは明らかである。
【実施例】
【0021】
下記の表1、表2に示す組成のヒドリンゴム組成物を製造した。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
前述の表1および表2のヒドリンゴム組成物を加硫し、試験片を製造した。金属石鹸としては、半硬化牛脂肪酸ソーダ石鹸(NSソープ;花王株式会社)を使用した。前記試験片を使用して、下記の条件で、ゴムの物性を測定した。
測定方法及び条件
a)老化試験:120℃×70Hr→ギヤー式老化試験機を用いて加硫ゴムを規定温度で規定時間加熱したのち、ΔTB・ΔEB・ΔHsを測定し、加熱処理前に対する値の変化を求め加硫ゴムの老化性を調べる。
b)浸漬試験:IRM903中120℃×72Hr
→各種液体に対して試験片の全面を浸漬し、浸漬前と浸漬後のΔTB・ΔEB・ΔHs・ΔV・ΔWなどの機械的性質の変化を測定する。
c)圧縮永久歪試験:120℃×72Hr→静的な圧縮をうける部品に用いられる加硫ゴムの圧縮による永久歪を測定する。
d)オゾン試験:50pphm中20%伸長させたゴム片を40℃×72Hr試験する。人工的に発生させた低濃度のオゾンを含む空気中に、静的な引張歪を与えた試験片を暴露したときの亀裂状態、亀裂発生までを評価する。
e)低温試験(ゲーマン捻り試験)→凍結温度から室温までの温度範囲にわたり、ねじりワイヤーを介して試験片をねじり、試験片のねじり角から低温特性を評価する。
f)密閉老化→亜鉛クロメ−ロメッキ処理した金属板にてヒドリンゴムを挟み1kgの荷重をかけ密閉状態で加熱しヒドリンゴムの軟化劣化性を確認する。
【0025】
結果を表3および表4に示す。
【0026】
【表3】

【0027】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によるニッケル化合物を含まないヒドリンゴム組成物によれば、ニッケル化合物を使用することなく、従来と同等な高温下における復元性を備えたヒドリンゴム組成物を提供することができる。したがって、環境汚染のない良好なゴム組成物を提供できるという利点がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドリン系ゴム100重量部に対し、2〜5重量部の金属石鹸を含むことを特徴とするニッケル化合物を含まないヒドリンゴム組成物。
【請求項2】
ヒドリン系ゴム100重量部に対し、3〜3.5重量部の金属石鹸を含むことを特徴とする請求項1記載のニッケル化合物を含まないヒドリンゴム組成物。
【請求項3】
金属石鹸は、半硬化牛脂肪酸ソーダ石鹸、ステアリン酸ソーダ石鹸、オレイン酸カリ石鹸、ひまし油カリ石鹸、半硬化牛脂肪酸カリ石鹸、オレイン酸カリ石鹸の1種以上であることを特徴とする請求項1又は2記載のニッケル化合物を含まないヒドリンゴム組成物。
【請求項4】
ヒドリン系ゴム100重量部に対し、紫外線吸収剤を0.1〜10重量 含むことを特徴とする請求項1から3記載のいずれかのニッケル化合物を含まないヒドリンゴム組成物。
【請求項5】
前記紫外線吸収剤はヒンダードアミン系光安定剤であることを特徴とする請求項4記載のニッケル化合物を含まないヒドリンゴム組成物。

【公開番号】特開2007−70552(P2007−70552A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−261513(P2005−261513)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000005175)藤倉ゴム工業株式会社 (120)
【Fターム(参考)】