説明

ハム・ベーコン類およびハム・ベーコン類用品質改良組成物

【目的】 保水性、食感、風味の改良されたハム・ベーコン類を提供する。
【構成】 コラーゲンおよびカードランを含有することを特徴とするハム・ベーコン類。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ハム・ベーコン類およびそのための品質改良組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、ハム・ベーコン類の製造において、結着の補強、品質の安定化、歩留まりの向上等を目的として卵白、ラクトアルブミン、大豆蛋白質といった動植物性蛋白質が使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】これら従来の動植物性蛋白質をハム・ベーコン類に加えると、無添加に比べて歩留まりの向上は見られるものの、品質の安定化や歩留まりの向上の点で未だ十分とはいいがたい。また、従来の添加剤を添加すると、ハム・ベーコン類の食感が「かまぼこ風」になりやすく、ハム・ベーコン類本来の食感や風味を損なう恐れがある。
【0004】本発明の目的は、従来の動植物性蛋白質が有していた欠点のない、保水性、食感、風味の改良されたハム・ベーコン類を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねたところ、コラーゲンとカードランを併用して使用することにより種々の改良効果があることを見い出し、さらに研究した結果、本発明を完成するに至った。
【0006】すなわち、本発明は、(1)コラーゲンおよびカードランを含有することを特徴とするハム・ベーコン類、(2)コラーゲンが、粒子径0.25mm以下の比率が90重量%以上を占める粉末コラーゲンである上記(1)のハム・ベーコン類、(3)コラーゲンとカードランの配合比が、コラーゲン1重量部に対してカードランが0.1〜10重量部である上記(1)または(2)の記載のハム・ベーコン類、(4)コラーゲンおよびカードランを含有することを特徴とするハム・ベーコン類用品質改良組成物、(5)コラーゲンが、粒子径0.25mm以下の比率が90重量%以上を占める粉末コラーゲンである上記(4)のハム・ベーコン類用品質改良組成物および(6)コラーゲンとカードランの配合比が、コラーゲン1重量部に対してカードランが0.1〜10重量部である上記(4)または(5)の記載のハム・ベーコン類用品質改良組成物に関するものである。
【0007】本発明において対象とするハム・ベーコン類とは、主に豚肉を原料とし、常法により加工処理した製品であれば特に限定されるものではない。例えば、ハム類としてはロースハム、ボンレスハム、ショルダーハム、ベリーハム、ラックスハムなど、ベーコン類としてはベーコン、ロースベーコン、ショルダーベーコン、ミドルベーコン、サイドベーコンなどが挙げられる。
【0008】本発明におけるコラーゲンとは、動物の皮膚や骨、結合組織に含まれる主要蛋白質であって、らせん状のポリペプチド鎖が何本か集まった構造を有しているものであれば、由来は特に限定されない。
【0009】代表的なコラーゲンの製造法としては、例えば、(a)脱毛した豚皮・牛皮などの動物皮を含脂状態のまま磨砕する方法、(b)脱毛した動物皮を脱脂処理後、乾燥し粉砕する方法、(c)脱毛した動物皮を脱脂処理後、酸またはアルカリ処理し、中和し、乾燥、粉砕する方法、(d)豚骨または牛骨を常法により酸処理して得られるオセインを粉砕する方法、(e)ゼラチン製造時に、熱水抽出後の抽出残渣から得る方法などが挙げられる。
【0010】これらのコラーゲンの中でも、上記(c)のものが好ましく、全体の90重量%以上を0.25mm以下に粉砕したものが特に好ましく用いられる。その具体的な性状としては、粗蛋白質約80%以上、粗脂肪約10%以下、灰分約1%以下、水分約10%以下のものが挙げられ、粉砕の程度は粒子径約1mm以下、特に0.25mm以下のものが90重量%以上であるものが好ましい。
【0011】本発明におけるカードランはD−グルコースを構成糖とし、β−1,3−グルコシド結合を主体とする加熱凝固性多糖類であり、微生物、動物あるいは植物などその起源を限定されないが、例えば、アルカリゲネス属またはアグロバクテリウム属の菌が生産する多糖類が好ましい(特開平5−23143号公報)。
【0012】本発明におけるコラーゲンおよびカードランの配合比およびそれらの添加量は、対象とするハム・ベーコン類の種類、添加の目的に応じて適宜に選択される。通常、コラーゲン1重量部に対し、カードラン約0.1〜10重量部、好ましくは0.2〜5重量部(乾物基準)の割合で、且つ、これらの合計量が加工前のハム・ベーコン類に対し約0.1〜5重量%、好ましくは約0.3〜3重量%となるように添加する。なお、ここでいう「加工前のハム・ベーコン類」とは、原料肉に、コラーゲンおよびカードランをはじめとする各種の添加物(水を含めて)を添加した後の、かつ熱を加える前のハム・ベーコン類のことである。
【0013】コラーゲンとカードランを上記の配合比で用いるとき、それぞれ単独で使用したときには得られない保水性、食感、風味の改良効果が得られる。この際、粒子径0.25mm以下の比率が90重量%以上を占める粉末コラーゲンを使用した場合は、上記改良効果はさらに顕著に発揮される。コラーゲンとカードランの量比が上記の範囲外の場合は、相乗効果が得られず本発明の目的を達成しない。また、コラーゲンおよびカードランの添加量が0.1重量%未満では十分な改良効果が得られず、5重量%を超えて添加しても改良効果は増大せずコスト増となり好ましくない。
【0014】次に本発明のハム・ベーコン類用品質改良組成物について説明する。本組成物はコラーゲンとカードランを前記した配合比で混和することにより得られる。本組成物の製造方法は、コラーゲンとカードランが均一に混和できる方法であればよく、例えばどちらも乾燥粉末を使用する場合には、ヘンシェル型ミキサーなどの粉末用混合機で製造できる。磨細したコラーゲンなど含水した成分を使用する場合には、例えば、サイレントカッターや混練機などで混和することにより組成物が製造できる。
【0015】本発明のハム・ベーコン類を製造するには、対象とする製品に応じ、常法に従って製造すればよく、コラーゲンおよびカードランを均一に添加することができれば特に限定されないが、通常、他の成分(重合リン酸塩、発色剤、食塩、調味料など)とともに水に溶解・分散させ、ピックル液として添加するのが望ましい。その場合はピックル液に原料肉を浸漬するか、もしくはインジェクターを用いて注入する方法が挙げられる。さらにタンブリング等を行なえば、より均一に添加することができる。コラーゲンおよびカードランの添加は任意の順で行ってよいが、これらを予め前記した方法で製造した組成物として用いるのが作業性の面で有利である。その他、一般にハム・ベーコン類に使用される糖類、蛋白剤、保存剤、増粘安定剤、重合リン酸塩、発色剤、発色助剤、食塩、調味料、香辛料などを併用してもよい。
【0016】
【実施例】以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。なお、実施例において、カードランとしては武田薬品工業(株)製のもの(乾燥粉末品)を用いた。また、特に断わらない限り%は重量%であり、部は重量部を示す。
【0017】実施例1粉末コラーゲン30kgとカードラン30kgを、スーパーミキサー((株)カワタ製)で5分間混合して組成物を得た。
【0018】実施例2粒子径0.25mm以下の比率が95%である粉末コラーゲン150kgとカードラン50kgを、ヘンシェル型ミキサー(三井鉱山(株)製)で5分間混合して組成物を得た。
【0019】実施例3コラーゲンのスラリー状物(固形分8%)4.5kgとカードラン0.5kgを、サイレントカッターで5分間混合して組成物を得た。
【0020】実施例4表1および表2からなるピックル液を調製し、ロースハムを常法に従い製造した。すなわち、豚背ロース肉100kgに対し、表1に示すピックル液を40kgインジェクトした後、5℃の冷蔵庫内で一晩タンブリングを行なった。その後、ファイブラスケーシングに充填し、スモークハウス内にて、乾燥(75℃、30分)、スモーク(75℃、30分)、蒸煮(80℃、3時間)、水冷(30分)を行ない、一晩冷蔵保存した。原料の豚背ロース肉の重量を100とした場合の最終製品の重量と、製品の食感について表3に示す。
【0021】
【表1】


【0022】
【表2】


【0023】※No.1はコラーゲンおよびカードランの代わりに卵白粉末を添加。
【0024】
【表3】


【0025】表3の結果から明らかなように、コラーゲンおよびカードランを前記した比率で添加したロースハムは、それらを単独で添加したものと比べ、歩留まり(保水性)がよく(最終製品の重量減少が少なく)、食感が有意に改良された。コラーゲンおよびカードランの比率が前記の範囲外で添加した製品は、相乗効果が見られず、それらを単独で添加したものと差はなかった。また、No.5、6、7の製品の風味は、従来の製品(No.1が相当する)に感じられた風味とは異なり、好ましいものであった。
【0026】実施例5表4に示す配合組成のピックル液を調製し、ロースハムを常法に従い製造した。
【0027】すなわち、豚背ロース肉100kgに対し、表1に示すピックル液を80kgインジェクトした後、5℃の冷蔵庫内で一晩タンブリングを行なった。その後、ファイブラスケーシングに充填し、スモークハウス内にて、乾燥(75℃、30分)、スモーク(75℃、30分)、蒸煮(80℃、3時間)、水冷(30分)を行ない、一晩冷蔵保存した。表4に示されている組成物には、実施例1で得られた組成物と実施例2で得られた組成物を、それぞれ別々に用いて2種類のロースハム(前者を実施例1使用製品、後者を実施例2使用製品とする)を製造した。一方、組成物の代わりに、ラクトアルブミンを用いて同様に製造したロースハムを対照品とした。
【0028】
【表4】


【0029】その結果、実施例1使用製品および実施例2使用製品は、対照品に比べ食感および風味が改良された品質的に好ましいものであった。対照品はかまぼこ風のテクスチャーであるのに対し、本発明による製品はハム本来の食感を有していた。また、上記の改良効果は実施例1使用製品に比べ、実施例2使用製品の方が大きかった。
【0030】実施例6表5に示す配合組成のピックル液を調製し、ボンレスハムを常法に従い製造した。すなわち、豚モモ肉100kgに対し、表5に示すピックル液を40kgインジェクトした後、5℃の冷蔵庫内で一晩タンブリングを行なった。その後、ファイブラスケーシングに充填し、スモークハウス内にて、乾燥(75℃、30分)、スモーク(75℃、30分)、蒸煮(80℃、3時間)、水冷(30分)を行ない、一晩冷蔵保存した。一方、表5に示されている実施例2で得られた組成物の代わりに、大豆蛋白質を用いて同様に製造したボンレスハムを対照品とした。
【0031】
【表5】


【0032】その結果、本発明による製品は、対照品に比べ保水性が増加し、食感および風味の改良された好ましいものであった。
【0033】実施例7表6に示す配合組成のピックル液を調製し、ベーコンを常法に従い製造した。すなわち、豚バラ肉100kgに対し、表6に示すピックル液を25kgインジェクトした後、5℃の冷蔵庫内で一晩タンブリングを行なった。その後、スモークハウス内にて、乾燥(75℃、30分)、スモーク(75℃、30分)、蒸煮(80℃、2時間)、水冷(30分)を行ない、一晩冷蔵保存した。一方、表6に示されている実施例2で得られた組成物の代わりに、プラズマパウダーを用いて同様に製造したベーコンを対照品とした。
【0034】
【表6】


【0035】その結果、本発明による製品は、対照品に比べ保水性が増加し、食感および風味の改良された好ましいものであった。
【0036】実施例8表5に示す配合組成のピックル液を調製し、牛モモ肉を使用した牛ハムを常法に従い製造した。すなわち、牛モモ肉100kgに対し、表5に示すピックル液を40kgインジェクトした後、5℃の冷蔵庫内で一晩タンブリングを行なった。その後、ファイブラスケーシングに充填し、スモークハウス内にて、乾燥(65℃、30分)、スモーク(70℃、30分)、蒸煮(75℃、2時間)、水冷(30分)を行ない、一晩冷蔵保存した。一方、表5に示されている実施例2で得られた組成物の代わりに、大豆蛋白質を用いて同様に製造した牛ハムを対照品とした。
【0037】その結果、本発明による製品は、対照品に比べ保水性が増加し、食感および風味の改良された好ましいものであった。
【0038】
【発明の効果】以上述べた実施例から明かなように、コラーゲンおよびカードランを併用してハム・ベーコン類に用いることにより、それぞれ単独で使用した場合や、従来の動植物性蛋白質に比べより大きな品質改良効果が得られる。すなわち、本発明により、ハム・ベーコン類の製造に際し、保水性の向上による歩留まりの増加、食感および風味の改良による品質の向上を図ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 コラーゲンおよびカードランを含有することを特徴とするハム・ベーコン類。
【請求項2】 コラーゲンが、粒子径0.25mm以下の比率が90重量%以上を占める粉末コラーゲンである請求項1記載のハム・ベーコン類。
【請求項3】 コラーゲンとカードランの配合比が、コラーゲン1重量部に対してカードランが0.1〜10重量部である請求1または2に記載のハム・ベーコン類。
【請求項4】 コラーゲンおよびカードランを含有することを特徴とするハム・ベーコン類用品質改良組成物。
【請求項5】 コラーゲンが、粒子径0.25mm以下の比率が90重量%以上を占める粉末コラーゲンである請求項4記載のハム・ベーコン類用品質改良組成物。
【請求項6】 コラーゲンとカードランの配合比が、コラーゲン1重量部に対してカードランが0.1〜10重量部である請求4または5に記載のハム・ベーコン類用品質改良組成物。

【公開番号】特開平8−256732
【公開日】平成8年(1996)10月8日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−64227
【出願日】平成7年(1995)3月23日
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)