説明

ハロゲン化銀写真感光材料およびそれを用いた黒白画像の形成方法

【課題】デジタル情報を高解像度で劣化少なく記録でき、現像処理の処方差による性能変動が少なく、長期保存性に優れるハロゲン化銀写真感光材料およびそれを用いた画像形成方法を提供する。
【解決手段】支持体上に、少なくとも1層のハロゲン化銀感光層を有するハロゲン化銀写真感光材料であって、該ハロゲン化銀感光層の少なくとも一層のハロゲン化銀の平均球相当径が、0.20μm以下であり、アスペクト比が2.0以下であり、膨潤率が200%以下であることを特徴とする白黒ハロゲン化銀写真感光材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化銀写真感光材料およびそれを用いた黒白画像の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の映画製作では、撮影フィルムにより撮影される作品でも、撮影フィルム画像(原版画像)を一端デジタル化して合成・編集を行い、フィルムレコーダーで再びカラーハロゲン化銀写真感光材料にアナログ画像として出力する方法が普及している。フィルムレコーダーから出力するためのカラーハロゲン化銀写真感光材料(カラーインターミディエートフィルム)については、多くの提案が行われている(例えば、特許文献1および2、並びに非特許文献1参照)。
こうした映画製作では、原版から取り込まれたデジタルデータをそのまま保存するデジタルアーカイブは有効な方法ではあるものの、デジタルデータ保存媒体の規格・安定性の不透明さから、最終的なアーカイブ手段となるには至っていない。特に、文化財保存の観点からは、一端デジタル化したデータに対応する画像を、ハロゲン化銀写真感光材料(「銀塩フィルム」ともいう。)に焼き付け、現像および定着処理して黒色の銀画像として、デジタルデータとともに保存することが最も信頼性が高く、推奨されている。
さらに、デジタルデータの銀塩フィルムへのアーカイブでは、映画製作過程で用いられる上記フィルムレコーダーを流用することが一般的である。フィルムレコーダーによるデジタルデータのアーカイブにはハロゲン化銀写真感光材料が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7,368,230号明細書
【特許文献2】米国特許第5,283,164号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】FUJIFILM RESEARCH & DEVELOPMENT Vol. 53, pp. 1 -7(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記方法を用いる場合、従来の技術ではデジタルデータを高解像度でハロゲン化銀写真感光材料に出力する際、画質の劣化が起こり、性能の向上が目覚しいデジタルレコーダーの能力に応じた充分な画質という点からは、必ずしも満足できるものではなかった。こうした画質の劣化にはハロゲン化銀写真感光材料の現像処理による影響が大きく影響していることが分かった。
フィルムレコーダーからの出力は、その出力が焼き付けられるハロゲン化銀写真感光材料の性能(特性曲線)に合わせて最適となるよう制御されている。高解像度のデジタル画像の再現を目的とする場合、ハロゲン化銀写真感光材料の現像処理による変動を極力抑え、キャリブレーション時の性能を極力維持することが必要である。特に、特性曲線上での階調変化が大きいと、フィルムレコーダーでの出力画像の劣化を来たす虞がある。
また、ほとんどの作品がカラー作品である現在、映画フィルムを処理する現像所(ラボ)での現像処理液の性能維持がより難しくなっている。さらに、各種の現像処理系統を準備しておくことも、生産性の観点から困難である。処理液性能の影響が少なく、異なった現像処理処方でも好ましい性能が得られるハロゲン化銀写真感光材料が強く求められている。
さらにデジタルデータの銀塩フィルムへのアーカイブでは、例えば300年以上(さらには500年以上)の長期保存を保証するという厳しい要求がなされている。白黒画像の画質向上には、ハロゲン化銀粒子サイズを低減し、感光材料の粒状性や鮮鋭性を向上させることが有効であるが、非常に小サイズのハロゲン化銀粒子を用いた感光材料における銀画像(現像銀)の安定性を確保することが、長期保存観点から要求される。銀画像の長期保証は、白黒処理(D96/8分)された感光材料を高温、高湿度の条件下で保持し、その高温高湿条件の前後での画像の濃度を評価することで行われる。
【0006】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、デジタル情報を高解像度で劣化少なく記録でき、現像処理の処方差による性能変動が少なく、長期保存性に優れるハロゲン化銀写真感光材料およびそれを用いた画像形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記課題を解決する手段は、下記の<1>〜<11>のとおりである。
<1> 支持体上に、少なくとも1層のハロゲン化銀感光層を有するハロゲン化銀写真感光材料であって、該ハロゲン化銀感光層の少なくとも一層のハロゲン化銀の平均球相当径が、0.20μm以下であり、アスペクト比が2.0以下であり、膨潤率が200%以下であることを特徴とする白黒ハロゲン化銀写真感光材料。
<2> 前記支持体の前記ハロゲン化銀感光層が設けられた側の表面から、該ハロゲン化銀感光材料の反支持体側表面までの厚みが10μm以下であり、全てのハロゲン化銀感光層の厚みの総和が3.0μm以下である<1>に記載のハロゲン化銀写真感光材料。
<3> 前記ハロゲン化銀感光層が、前記平均球相当径に対する変動係数が20%以下の単分散ハロゲン化銀粒子を、全ての感光性層に含まれる全ハロゲン化銀粒子の銀換算重量を基準にして、少なくとも50%含有する<1>または<2>に記載のハロゲン化銀写真感光材料。
<4> 前記ハロゲン化銀写真感光材料に含まれる全ハロゲン化銀感光層の銀換算量が3.0g/m以下である<1>〜<3>の何れか一項に記載のハロゲン化銀写真感光材料。
<5> D97処理液で3分間現像した結果得られる特性曲線上でのコントラストγ(D97)が下記式(1)の条件を、D96処理液で8分間現像した結果得られる特性曲線上でのコントラストγ(D96)が下記式(2)の条件を満たす<1>〜<4>の何れか一項に記載のハロゲン化銀写真感光材料。
0.6≦γ(D97)≦1.6 ・・・(1)
0.6≦γ(D96)≦1.6 ・・・(2)
<6> 前記コントラストγ(D97)が下記式(1a)の条件を、そして前記コントラストγ(D96)が下記式(2a)の条件を満たす<5>に記載のハロゲン化銀写真感光材料。
0.8≦γ(D97)≦1.4 ・・・(1a)
0.8≦γ(D96)≦1.4 ・・・(2a)
<7> 前記コントラストγ(D97)とコントラストγ(D96)の比が下記式(3)の条件を満たすことを特徴とする<5>または<6>に記載のハロゲン化銀写真感光材料。
0.8≦γ(D97)/γ(D96)≦1.39 ・・・(3)
<8> 前記ハロゲン化銀の平均球相当径が、0.10μm以上である<1>〜<7>の何れか一項に記載のハロゲン化銀写真感光材料。
<9> 前記ハロゲン化銀の平均球相当径が、0.15μm以下0.10μm以上である<1>〜<8>の何れか一項に記載のハロゲン化銀写真感光材料。
<10> 前記膨潤率が150%以上である<1>〜<9>の何れか一項に記載のハロゲン化銀写真感光材料。
<11> <1>〜<10>の何れか一項に記載のハロゲン化銀写真感光材料を画像露光および現像する黒白画像の形成方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、デジタル情報を高解像度で劣化少なく記録でき、現像処理の処方差による性能変動が少なく、長期保存性に優れるハロゲン化銀写真感光材料およびそれを用いた画像形成方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のハロゲン化銀写真感光材料について、詳細に説明する。
[ハロゲン化銀感光層]
本発明のハロゲン化銀写真感光材料に使用されるハロゲン化銀感光層としては、通常、ハロゲン化銀粒子をゼラチンのような親水性バインダー中に分散させた、いわゆるハロゲン化銀乳剤が使用される。そして、本発明では、ハロゲン化銀感光層に含まれるハロゲン化銀粒子は、平均球相当径が0.20μm以下、かつアスペクト比が2.0以下である。
上記平均球相当径が2.0μmを超えると、粒状性に優れた画像が形成されなくなってしまい、デジタル情報を記録するハロゲン化銀写真感光材料としては不適当となってしまう。また、アスペクト比が2.0を超えると、長期保存性に優れた画像が形成されるハロゲン化銀写真感光材料を得ることができない。
平均球相当径の下限値は0.10μmであることが長期に亘る保存安定性に優れるという点から好ましく、更に0.15μm以下0.10μm以上がより好ましい。
また、アスペクト比は2.0以下であることもまた長期に亘る保存安定性に優れるという利点が得られるので好ましい。
ここで、ハロゲン化銀粒子の平均球相当径とは、球状のハロゲン化銀粒子の場合はその直径の、また、立方体等の球状以外の形状の粒子の場合はその投影像を同面積の円像に換算したときの直径の平均値であり、また、平板状粒子の場合はその体積を球相当に換算したときの直径の平均値である。ハロゲン化銀粒子の形状及び投影像は光学顕微鏡または電子顕微鏡で観察できる。
また、ハロゲン化銀粒子のアスペクト比は、後述の実施例1において説明した方法により求められる。
【0010】
本発明では、ハロゲン化銀感光層が、平均球相当径に対する変動係数が20%以下の単分散ハロゲン化銀粒子を、前記ハロゲン化銀感光層に含まれる全ハロゲン化銀粒子の銀換算質量を基準にして、少なくとも50%含有することが好ましい。これにより、粒状性および長期保存性により優れるという利点が得られる。
【0011】
本発明において、ハロゲン化銀感光層に使用される単分散ハロゲン化銀粒子の好ましいハロゲン化銀は、2.5モル%以下のヨウ化銀を含む、ヨウ臭化銀、ヨウ塩化銀、もしくはヨウ塩臭化銀である。この範囲のヨウ化銀を含有するハロゲン化銀を使用することにより、コントラストγ(D97)とコントラストγ(D96)の何れもが1近辺の値となり、映画用アーカイブに特に好ましい階調が得られる。またこの構成によれば、現像依存性が小さく、例えば、γ(D97)とγ(D96)との差をさらに小さくすることができる。ヨウ化銀の含有量は2.4モル%以下がより好ましく、2.2モル%以下が更に好ましく、2.0モル%以下が最も好ましい。
上記ヨウ化銀の含有量の下限値は0.5モル%である。
【0012】
本発明において、ハロゲン化銀感光層はハロゲン化銀粒子の銀換算量で1.0g/m〜3.0g/mの範囲となるように支持体上に設けられることが好ましい。ここで、上記の銀換算量の範囲は、本発明のハロゲン化銀写真感光材料が二層以上のハロゲン化銀感光層を有する場合には、すべてのハロゲン化銀感光層に含まれるハロゲン化銀粒子の合計の銀量換算を意味する。
上記銀量換算量より好ましい範囲は、1.0g/m〜2.0g/mであり、最も好ましい範囲は1.5g/m〜2.0g/mである。
本発明で使用される単分散ハロゲン化銀粒子は、立方体、八面体、十四面体のような規則的な結晶を有するもの、球状、板状のような変則的な結晶形を有するもの、双晶面などの結晶欠陥を有するもの、あるいはそれらの複合形でもよいが、本発明においては立方体の結晶形を有するものが好ましい。
【0013】
本発明に使用されるハロゲン化銀乳剤は、例えばリサーチ・ディスクロージャー(以下、RDと略す)No. 17643 (1978年12月), 22〜23頁、I. 乳剤製造(Emulsion preparation and types)、および同No. 18716 (1979年11月),648頁、同No. 307105(1989年11月), 863〜865頁、およびグラフキデ著「写真の物理と化学」、ポールモンテル社刊(P.Glafkides, Chimie et Phisique Photographiques, Paul Montel, 1967)、ダフィン著「写真乳剤化学」、フォーカルプレス社刊(G.F. Duffin, Photographic Emulsion Chemistry,Focal Press, 1966)、ゼリクマンら著「写真乳剤の製造と塗布」、フォーカルプレス社刊(V. L. Zelikman, et al., Making and Coating Photographic Emulsion, Focal Press, 164) などに記載された方法を用いて調製することができる。
具体的には、本発明で使用される単分散ハロゲン化銀粒子を含有するハロゲン化銀乳剤は、親水性バインダーの水溶液中で、アルカリ金属ハロゲン化物のような水溶性ハロゲン化物の水溶液と硝酸銀のような水溶性銀塩の水溶液とを反応させてハロゲン化銀粒子を製造する際に、ハロゲン化銀溶剤を存在させ、かつ必要に応じて反応液のpAgおよびpHの少なくとも一つ、より好ましくは両方を一定の数値範囲に制御する方法など、従来より知られている方法で製造することができる。
【0014】
上記のハロゲン化銀溶剤としては、米国特許第3,271,157号、同第3,531,289号、同3,574,628号、特開昭54−1019号、同54−158917号等に記載された(a)有機チオエーテル類、特開昭53−82408号、同55−77737号等に記載された(b)チオ尿素誘導体、特開昭53−144319号に記載された(c)酸素または硫黄原子と窒素原子とにはさまれたチオカルボニル基を有するハロゲン化銀溶剤、特開昭54−100717号に記載された(d)イミダゾール類、(e)アンモニア、(f)チオシアネート等があげられる。
特に好ましい溶剤としては、チオシアネート、アンモニアおよびテトラメチルチオ尿素がある。
用いられる溶剤の量は種類によっても異なるが、例えばチオシアネートの場合、好ましい量はハロゲン化銀1モル当り1×10−4モル以上1×10−2モル以下である。
【0015】
乳剤調製時、例えば粒子形成時、脱塩工程、化学増感時、塗布前に金属イオンの塩を存在させることは目的に応じて好ましい。
粒子にドープする場合には粒子形成時、粒子表面の修飾あるいは化学増感剤として用いる時は粒子形成後、化学増感終了前に添加することが好ましい。
先述したように、粒子全体にドープする場合と粒子のコア部のみ、あるいはシェル部のみ、あるいはエピタキシャル部のみにドープする方法も選べる。
例えば、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Sc、Y、La、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ru、Rh、Pd、Re、Os、Ir、Pt、Au、Cd、Hg、Tl、In、Sn、Pb、Biを用いることができる。
これらの金属はアンモニウム塩、酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、燐酸塩、水酸塩あるいは6配位錯塩、4配位錯塩など粒子形成時に溶解させることができる塩の形であれば添加できる。例えば、CdBr、CdCl、Cd(NO、Pb(NO、Pb(CHCOO)、K[Fe(CN)]、(NH[Fe(CN)]、KIrCl、(NHRhCl、KRu(CN)があげられる。
配位化合物のリガンドとしてハロ、アコ、シアノ、シアネート、チオシアネート、ニトロシル、チオニトロシル、オキソ、カルボニルのなかから選ぶことができる。これらは金属化合物を1種類のみ用いてもよいが2種あるいは3種以上を組み合せて用いてよい。
【0016】
金属化合物は水またはメタノール、アセトンのような適当な有機溶媒に溶かして添加するのが好ましい。溶液を安定化するためにハロゲン化水素水溶液(例えば、HCl、HBr)あるいはハロゲン化アルカリ(例えば、KCl、NaCl、KBr、NaBr)を添加する方法を用いることができる。また必要に応じ酸・アルカリなどを加えてもよい。
金属化合物は粒子形成前の反応容器に添加しても粒子形成の途中で加えることもできる。また水溶性銀塩(例えば、AgNO)あるいはハロゲン化アルカリ水溶液(例えば、NaCl、KBr、KI)に添加しハロゲン化銀粒子形成中連続して添加することもできる。さらに水溶性銀塩、ハロゲン化アルカリとは独立の溶液を用意し粒子形成中の適切な時期に連続して添加してもよい。さらに種々の添加方法を組み合せるのも好ましい。
米国特許第3,772,031号に記載されているようなカルコゲン化合物を乳剤調製中に添加する方法も有用な場合がある。
S、Se、Te以外にもシアン塩、チオシアン塩、セレノシアン酸、炭酸塩、リン酸塩、酢酸塩を存在させてもよい。
米国特許第3,574,628号、同 3,655,394号および英国特許第1,413,748号の各明細書に記載された単分散ハロゲン化銀乳剤も好ましい。
結晶構造は一様なものでも、内部と外部とが異質なハロゲン組成からなるものでもよく、層状構造をなしていてもよい。
また、エピタキシャル接合によって組成の異なるハロゲン化銀が接合されていてもよく、例えばロダン銀、酸化鉛などのハロゲン化銀以外の化合物と接合されていてもよい。
【0017】
上記のハロゲン化銀乳剤は潜像を主として表面に形成する表面潜像型でも、粒子内部に形成する内部潜像型でも表面と内部のいずれにも潜像を有する型のいずれでもよいが、ネガ作用(negative working)ハロゲン化銀乳剤であることが必要である。
内部潜像型のハロゲン化銀乳剤は、特開昭63-264740号公報に記載のコア/シェル型内部潜像型乳剤であってもよく、この調製方法は特開昭59-133542号公報に記載されている。この乳剤のシェルの厚みは現像処理等によって異なるが、3nm〜40nmが好ましく、5nm〜20nmが特に好ましい。
本発明に使用されるハロゲン化銀乳剤は、還元増感されていることが好ましい。還元増感とは、ハロゲン化銀に対して還元増感剤を添加する方法、銀熟成と呼ばれるpAg:1〜7の低pAg雰囲気下でハロゲン化銀粒子を成長あるいは熟成させる方法、高pH熟成と呼ばれるpH:8〜11の高pHの雰囲気下で成長あるいは熟成させる方法のいずれかを選ぶこともできる。また、これらのうち二つ以上の方法を併用することもできる。
特に、還元増感剤を添加する方法は還元増感のレベルを微妙に調節できる点で好ましい方法である。
還元増感剤として第一錫塩、アスコルビン酸およびその誘導体、ハイドロキノンおよびその誘導体、カテコールおよびその誘導体、ヒドロキシルアミンおよびその誘導体、アミンおよびポリアミン類、ヒドラジンおよびその誘導体、パラフェニレンジアミンおよびその誘導体、ホルムアミジンスルフィン酸(二酸化チオ尿素)、シラン化合物、ボラン化合物を挙げることができる。
本発明における還元増感にはこれら還元増感剤を選んで用いることができ、また2種以上の化合物を併用することもできる。
還元増感の方法に関しては米国特許第2,518,698号、同第3,201,254号、同第3,411,917号、同第3,779,777号、同第3,930,867号に開示された方法や、還元剤の使用方法に関しては、特公昭57−33572、同58−1410、特開昭57−179835に開示された方法を使用することができる。
【0018】
本発明におけるハロゲン化銀粒子は硫黄増感、セレン増感、テルル増感、金増感、パラジウム増感又は貴金属増感、還元増感の少なくとも1つをハロゲン化銀乳剤の製造工程の任意の工程で施こすことができる。また、2種以上の増感法を組み合せることは好ましい。
本発明で好ましく実施しうる化学増感の一つはカルコゲン増感と貴金属増感の単独又は組合せであり、ジェームス(T.H.James)著、ザ・フォトグラフィック・プロセス、第4版、マクミラン社刊、1977年、(T.H.James、The Theory of the Photographic Process,4th ed,Macmillan,1977)67−76頁に記載されるように活性ゼラチンを用いて行うことができるし、またリサーチ・ディスクロージャー、120巻、1974年4月、12008;リサーチ・ディスクロージャー、34巻、1975年6月、13452、米国特許第2,642,361号、同第3,297,446号、同第3,772,031号、同第3,857,711、同第3,901,714号、同第4,266,018号、および同第3,904,415号、並びに英国特許第1,315,755号に記載されるようにpAg5〜10、pH5〜8および温度30〜80℃において硫黄、セレン、テルル、金、白金、パラジウム、イリジウムまたはこれら増感剤の複数の組合せとすることができる。
貴金属増感においては、金、白金、パラジウム、イリジウム等の貴金属塩を用いることができ、中でも特に金増感、パラジウム増感および両者の併用が好ましい。
硫黄増感においては、不安定硫黄化合物を用い、p.Grafkides著、Chimie et Physique Photographique(Paul Montel社刊、1987年、第5版)、Research Disclosure誌307巻307105号などに記載されている不安定硫黄化合物を用いる事が出来る。
セレン増感においては、不安定セレン化合物を用い、特公昭43−13489号、同44−15748号、特開平4−25832号、同4−109340号、同4−271341号、同5−40324号、同5−11385号、特開平6−51415号、同6−175258号、同6−180478号、同6−208186号、同6−208184号、同6−317867号、同7−92599号、同7−98483号、同7−140579号などに記載されているセレン化合物を用いる事が出来る。
テルル増感においては、不安定テルル化合物を用い、特開平4−224595号、同4−271341号、同4−333043号、同5−303157号、特開平6−27573号、同6−175258号、同6−180478号、同6−208186号、同6−208184号、同6−317867号、同7−140579号などに記載されている不安定テルル化合物を用いる事が出来る。
【0019】
有用な化学増感助剤には、アザインデン、アザピリダジン、アザピリミジンのごとき、化学増感の過程でカブリを抑制し、且つ感度を増大するものとして知られた化合物が用いられる。化学増感助剤改質剤の例は、米国特許第2,131,038号、同第3,411,914号、同第3,554,757号、特開昭58−126526号および前述ダフィン著「写真乳剤化学」、138〜143頁に記載されている。
本発明における化学増感の条件としては、特に制限は無いが、pAgとしては6〜11、好ましくは7〜10であり、pHは4〜10、好ましくは5〜8、温度としては40℃〜95℃、好ましくは45℃〜85℃である。
本発明における乳剤の製造工程中に銀に対する酸化剤を用いることが好ましい。
銀に対する酸化剤とは、金属銀に作用して銀イオンに変換せしめる作用を有する化合物をいう。特にハロゲン化銀粒子の形成過程および化学増感過程において副生するきわめて微小な銀粒子を、銀イオンに変換せしめる化合物が有効である。ここで生成する銀イオンは、例えば、ハロゲン化銀、硫化銀、セレン化銀のような水に難溶の銀塩を形成してもよく、又、硝酸銀のような水に易溶の銀塩を形成してもよい。
銀に対する酸化剤は、無機物であっても、有機物であってもよい。
本発明における好ましい酸化剤は、オゾン、過酸化水素およびその付加物、ハロゲン元素、チオスルフォン酸塩の無機酸化剤及びキノン類の有機酸化剤である。
前述の還元増感と銀に対する酸化剤を併用するのは好ましい態様である。
酸化剤を用いたのち還元増感を施こす方法、その逆方法あるいは両者を同時に共存させる方法のなかから選んで用いることができる。
これらの方法は粒子形成工程でも化学増感工程でも選んで用いることができる。
【0020】
本発明に用いられるハロゲン化銀乳剤には、感光材料の製造工程、保存中あるいは写真処理中のかぶりを防止し、あるいは写真性能を安定化させる目的で、種々の化合物を含有させることができる。
すなわちチアゾール類、例えば、ベンゾチアゾリウム塩、ニトロイミダゾール類、ニトロベンズイミダゾール類、クロロベンズイミダゾール類、ブロモベンズイミダゾール類、メルカプトチアゾール類、メルカプトベンゾチアゾール類、メルカプトベンズイミダゾール類、メルカプトチアジアゾール類、アミノトリアゾール類、ベンゾトリアゾール類、ニトロベンゾトリアゾール類、メルカプトテトラゾール類(特に1−フェニル−5−メルカプトテトラゾール);メルカプトピリミジン類;メルカプトトリアジン類;例えば、オキサドリンチオンのようなチオケト化合物;アザインデン類、例えば、トリアザインデン類、テトラアザインデン類(特に4−ヒドロキシ置換(1,3,3a,7)テトラアザインデン類)、ペンタアザインデン類のようなかぶり防止剤または安定剤として知られた、多くの化合物を加えることができる。例えば、米国特許第3,954,474号、同第3,982,947号、特公昭52−28660号に記載されたものを用いることができる。
好ましい化合物の一つに特開昭63−212932号に記載された化合物がある。
かぶり防止剤および安定剤は粒子形成前、粒子形成中、粒子形成後、水洗工程、水洗後の分散時、化学増感前、化学増感中、化学増感後、塗布前のいろいろな時期に目的に応じて添加することができる。
乳剤調製中に添加して本来のかぶり防止および安定化効果を発現する以外に、粒子の晶壁を制御する、粒子サイズを小さくする、粒子の溶解性を減少させる、化学増感を制御する、色素の配列を制御するなど多目的に用いることができる。
【0021】
本発明に用いられるハロゲン化銀乳剤は、メチン色素類その他によって分光増感されることが本発明の効果を発揮するのに好ましい。用いられる色素には、シアニン色素、メロシアニン色素、複合シアニン色素、複合メロシアニン色素、ホロポーラーシアニン色素、ヘミシアニン色素、スチリル色素およびヘミオキソノール色素が包含される。
特に有用な色素は、シアニン色素、メロシアニン色素、および複合メロシアニン色素に属する色素である。これらの色素類には、塩基性複素環核としてシアニン色素類に通常利用される核のいずれをも適用できる。すなわち、例えば、ピロリン核、オキサゾリン核、チオゾリン核、ピロール核、オキサゾール核、チアゾール核、セレナゾール核、イミダゾール核、テトラゾール核、ピリジン核;これらの核に脂環式炭化水素環が融合した核;及びこれらの核に芳香族炭化水素環が融合した核、即ち、例えば、インドレニン核、ベンゾインドレニン核、インドール核、ベンゾオキサドール核、ナフトオキサゾール核、ベンゾチアゾール核、ナフトチアゾール核、ベンゾセレナゾール核、ベンゾイミダゾール核、キノリン核が適用できる。これらの核は炭素原子上に置換基を有していてもよい。
メロシアニン色素または複合メロシアニン色素にはケトメチレン構造を有する核として、例えば、ピラゾリン−5−オン核、チオヒダントイン核、2−チオオキサゾリジン−2,4−ジオン核、チアゾリジン−2,4−ジオン核、ローダニン核、チオバルビツール酸核の5〜6員複素環核を適用することができる。
【0022】
これらの増感色素は単独に用いてもよいが、それらの組合せを用いてもよく、増感色素の組合せは特に、強色増感の目的でしばしば用いられる。その代表例は米国特許第2,688,545号、同第2,977,229号、同第3,397,060号、同第3,522,052号、同第3,527,641号、同第3,617,293号、同第3,628,964号、同第3,666,480号、同第3,672,898号、同第3,679,428号、同第3,703,377号、同第3,769,301号、同第3,814,609号、同第3,837,862号、同第4,026,707号、英国特許第1,344,281号、同第1,507,803号、特公昭43−4936号、同53−12375号、特開昭52−110618号、同52−109925号に記載されている。
増感色素とともに、それ自身分光増感作用をもたない色素あるいは可視光を実質的に吸収しない物質であって、強色増感を示す物質を乳剤中に含んでもよい。
増感色素を乳剤中に添加する時期は、これまで有用であると知られている乳剤調製の如何なる段階であってもよい。もっとも普通には化学増感の完了後塗布前までの時期に行なわれるが、米国特許第3,628,969号、および同第4,225,666号に記載されているように化学増感剤と同時期に添加し分光増感を化学増感と同時に行なうことも、特開昭58−113928号に記載されているように化学増感に先立って行なうことも出来、またハロゲン化銀粒子沈澱生成の完了前に添加し分光増感を開始することも出来る。
更にまた米国特許第4,225,666号に教示されているようにこれらの前記化合物を分けて添加すること、即ちこれらの化合物の一部を化学増感に先立って添加し、残部を化学増感の後で添加することも可能であり、米国特許第4,183,756号に開示されている方法を始めとしてハロゲン化銀粒子形成中のどの時期であってもよい。
【0023】
[乳剤層の層構成]
本発明のハロゲン化銀写真感光材料は、支持体上に少なくとも一層のハロゲン化銀感光層を有する。
ハロゲン化銀感光層を二層以上設ける場合には、複数のハロゲン化銀乳剤層は、独国特許第 1,121,470号あるいは英国特許第 923,045号明細書に記載されているように高感度乳剤層、低感度乳剤層の二層を、支持体に向かって順次感光度が低くなる様に配列するのが好ましい。また、特開昭57−112751号、同62−200350号、同62−206541号、同62−206543号の各公報に記載されているように支持体より離れた側に低感度乳剤層、支持体に近い側に高感度乳剤層を設置してもよい。
本発明の感光材料には、感光性ハロゲン化銀乳剤の粒子サイズ、粒子サイズ分布、ハロゲン組成、粒子の形状、感度の少なくとも1つの特性の異なる2種類以上の乳剤を、同一層中に混合して使用することができる。
【0024】
上記のハロゲン化銀感光層の上に設ける保護層、支持体とハロゲン化銀感光層の間の層、および二層以上のハロゲン化銀感光層を有する場合それらのハロゲン化銀感光層の間の中間層の内の少なくとも一つとして、非感光性層を設けてもよい。これらの層には、各種の添加剤が含まれていてもよい。
例えば、支持体とハロゲン化銀感光層の間に設ける非感光層には、染料または顔料を含有させて、ハレーション防止層としてもよい。
また、保護層には、表面に微細な凹凸を形成させるためのマット剤を含有させても良い。マット剤を保護層に含有させることは、写真感光材料同士を重畳して保管した場合に、互いに接着してしまうことを防止する上で有利である。マット剤は処理液可溶性でも処理液不溶性でもよく、好ましくは両者を併用することである。例えばポリメチルメタクリレート、ポリ(メチルメタクリレート/メタクリル酸=9/1(モル比)または5/5(モル比))、ポリスチレン粒子などが好ましい。粒径としては0.8μm〜10μmが好ましく、その粒径分布も狭いほうが好ましく、平均粒径の0.9〜1.1倍の間に全粒子数の90%以上が含有されることが好ましい。また、マット性を高めるために0.8μm以下の微粒子を同時に添加することも好ましく例えばポリメチルメタクリレート(0.2μm)、ポリ(メチルメタクリレート/メタクリル酸=9/1(モル比)、0.3μm))、ポリスチレン粒子(0.25μm)、コロイダルシリカ(0.03μm)が挙げられる。
【0025】
本発明のハロゲン化銀写真感光材料においては、膨潤率が230%以下とされる。この範囲の膨潤率とすることにより、長期間に亘る保存後においても、画像形成後の銀画像の変動を抑えることができる。
ここで、「膨潤率」とは、以下のように定義される。
膨潤率(%)=100×(b)/(a)
上記式において、(a)は乾燥時の水膨潤性層の総膜厚(支持体上に設けられたハロゲン化銀感光層および当該支持体に対してハロゲン化銀感光層と同じ面側に所望により付加的に設けられ、水を含むことにより膨潤する性質を示す層(例えばハレーション防止層、保護層など)を含む層の総膜厚)を示し、(b)は水膨潤性層を25℃の蒸留水に1分間浸漬した後の総膜厚を示す。
本発明のハロゲン化銀写真感光材料の膨潤率の下限は、現像処理等の処理適正の観点から、150%が好ましい。
【0026】
本発明のハロゲン化銀写真感光材料は、支持体のハロゲン化銀感光層が設けられた側の表面から当該ハロゲン化銀写真感光材料の反支持体側表面(即ち、ハロゲン化銀感光層の反支持体側表面または保護層を有する場合には、当該保護層の表面)までの厚みが10μm以下とされる。この厚みは、8μm以下が更に好ましく、6μm以下が最も好ましい。
また、本発明のハロゲン化銀感光層の厚みの総和が3.0μm以下であることが、鮮鋭性に優れるという利点が得られるので好ましい。
本発明のハロゲン化銀写真感光材料は、ハロゲン化銀感光層を有する側とは反対側の支持体裏面に、乾燥膜厚の総和が2μm〜20μmの親水性コロイド層(バック層と称す)を設けることが好ましい。このバック層には、前述の光吸収剤、フィルター染料、紫外線吸収剤、スタチック防止剤、硬膜剤、バインダー、可塑剤、潤滑剤、塗布助剤、表面活性剤を含有させることが好ましい。
【0027】
[支持体]
本発明に使用できる適当な支持体は、例えば、前述のRD. No. 17643の28頁、同No.18716の647頁右欄から648頁左欄、および同No. 307105の879頁に記載されている。特に好ましい支持体はポリエチレンテレフタレート、ホリエチレンナフタレートなどのポリエステルのフィルムである。
【0028】
本発明のハロゲン化銀写真感光材料は映画フィルムの原版から取り込まれたデジタルデータをそのまま保存するデジタルアーカイブ用として優れた性能を有する。本発明のハロゲン化銀写真感光材料に上記のデジタルデータを焼き付け(画像露光)、それを現像および定着処理して、黒白画像を有するフィルムとし、これが保管される。
上記の現像液定着処理に使用される現像液としては、イーストマン・コダック社から処方が公表されているD97またはD96を使用することができる。
現像後、定着処理前に、停止処理をしても良い。
定着液で処理した後は、水洗して、定着液で可溶性銀塩とされたハロゲン化銀粒子がハロゲン化銀感光層から溶出除去されて定着処理が完了する。
上記のD96およびD97を用いた現像処理処方および定着処理処方については、「Processing KODAK Motion Picture Films Module 15 Processing Black-and-White films」に記載されている。
【0029】
本発明のハロゲン化銀写真感光材料は、支持体および当該支持体上に少なくとも1層のハロゲン化銀感光層を有するハロゲン化銀写真感光材であって、D97処理液で3分間現像した結果得られる特性曲線上でのコントラストγ(D97)が下記式(1)の条件を満たし、D96処理液で8分間現像した結果得られる特性曲線上でのコントラストγ(D96)が下記式(2)の条件を満たすことが、現像液の相違による画質の変化(以下、「現像液依存性」という。)の少ない画像形成が得られる利点があるので、好ましい。
0.6≦γ(D97)≦1.6 ・・・(1)
0.6≦γ(D96)≦1.6 ・・・(2)
ここで、上記コントラストγ(D97)およびγ(D96)は、以下のようにして求めた値を意味し、定義される。
試料にARRI社製レーザー露光装置「ARRILASER」により露光量を変化させて露光し、D96またはD97で現像処理を行なう。得られたセンシトメトリー画像をV(ビジュアル)で濃度測定し、濃度値が最低濃度+1.0となる濃度での特性曲線の傾きをコントラストγ(D97)またはγ(D96)とする。
【0030】
本発明のハロゲン化銀写真感光材料は、より好ましくは、前記コントラストγ(D97)が前記式(1)の条件を満たし、コントラストγ(D96)が前記式(2)の条件を満たすと同時に、コントラストγ(D97)とコントラストγ(D96)との比が下記式(3)の条件を満たすことが、現像液依存性が更に少なくなるので好ましい。
0.8≦γ(D97)/γ(D96)≦1.39 ・・・(3)
映画用白黒処理として一般的にD96処理およびD97処理が用いられている。D96処理は白黒ネガティブフィルム、D97処理は白黒ポジティブフィルムの現像に多く用いられている。本発明のハロゲン化銀写真感光材料は、現像所内で使われる感光材料であるが、個々の現像所の都合により、D96処理でもD97処理でも使えることが期待されている。またこれらの処理のランニングによる組成変化、管理の不十分による組成変化に対しても、安定した性能を発揮することが期待されている。
このような市場の期待に応じる上で、上記式(1)から式(3)の全てを満たすハロゲン化銀写真感光材料が好ましい。
【0031】
本発明によれば、個々の現像所の都合により、D96処理でもD97処理でもアーカイブ用感光材料として、十分な性能を発揮することが可能なハロゲン化銀写真感光材料が提供される。また上記の処理のランニングによる組成変化、管理の不十分による組成変化に対しても、安定した性能を発揮することが可能である。
このような特性を示す本発明のハロゲン化銀写真感光材料は、現像液依存性が少なく、長期間の保存による画像の劣化が少ないので、映画フィルムのデジタルアーカイブ用として特に優れている。
本発明のハロゲン化銀写真感光材料は、上記コントラストγ(D96)およびコントラストγ(D96)が、それぞれ下記式(1a)および下記式(2a)の条件を満たすものが好ましく、下記式(1b)および(2b)の条件を満たすものが最も好ましい。
0.7≦γ(D97)≦1.4 ・・・(1a)
0.7≦γ(D96)≦1.4 ・・・(2a)
0.8≦γ(D97)≦1.3 ・・・(1b)
0.8≦γ(D96)≦1.3 ・・・(2b)
更に、本発明のハロゲン化銀写真感光材料は、上記コントラストγ(D96)とコントラストγ(D96)の比が下記式(3a)を満たすものが好ましく、下記式(3b)を満たすものが最も好ましい。
0.85≦γ(D97)/γ(D96)≦1.25 ・・・(3a)
0.9≦γ(D97)/γ(D96)≦1.2 ・・・(3b)
【0032】
本発明の方法に使用できる、デジタル情報をハロゲン化銀写真感光材料に記録する際の機器、いわゆるフィルムレコーダーに特に限定はないが、市販の機器が使用可能である。例えば、光源方式としてBGRレーザーを用いたARRI社製 ARRILASER、ARRILASER HD、CRT方式を用いたCELCO社製 FURY、FIRESTORM、LCOS方式を用いたIMAGICA社製 IMAGICA realtime、HSRハイスピードレコーダー、CINEVATION社製 Cinevator One、Cinevator Fiveなどが挙げられる。
【実施例】
【0033】
以下に本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
(乳剤Em−Aの調製)
AgBrI乳剤を次のようにして調製した。この調整で使用した溶液A〜溶液Eは以下の通りである。
《溶液A》石灰処理オセインゼラチン:30g、KBr:0.4g、および水:1.3Lを含む水溶液
《溶液B》AgNO:20gを含む水溶液0.2L
《溶液C》KBr:15g、およびKI:0.6gを含む水溶液0.2L
《溶液D》AgNO:162.5gを含む水溶液0.65L
《溶液E》KBr:124.8g、KI:5.4g、およびNaCl:0.6gを含む水溶液0.7L。
溶液Aを反応容器に入れて65℃に保温して攪拌した。150mLの溶液Bを5分間に渡り添加した。この間、反応容器中のpBrが3.4に保たれるように溶液Cを添加量を制御しながら添加した。添加終了後、反応容器中の溶液を75℃に昇温した。続いて、540mLの溶液Dを20分間に渡り添加した。この間、反応容器中のpBrが3.4に保たれるように溶液Eを添加量を制御しながら添加した。また、この添加中に、二酸化チオ尿素:0.005g、ベンゼンスルホン酸ナトリウム:0.005g、KIrCl:0.0003gを反応容器中に添加した。
【0034】
添加終了後、フロキュレーション法によって脱塩工程を行った。脱塩工程終了後、下記化学増感処理、および分光増感処理を施した。脱塩終了後の乳剤を60℃に保温し、増感色素ExS−4、ExS−5、ExS−6、ExS−7、チオシアン酸カリウム、塩化金酸、チオ硫酸ナトリウム、N,N−ジメチルセレノウレア、4−ヒドロキシ−6−メチル−1,3,3a、7−テトラザインデン(TAI)、化合物1、化合物2、および化合物3を添加して最適に分光増感、および化学増感を行った。増感色素は、色素の比率を適宜変更して最適な量を添加した。得られた粒子は、平均球相当径が0.25μm、アスペクト比1の立方体粒子であった。平均球相当径ならびにアスペクト比は、レプリカ法による透過電子顕微鏡写真を撮影して個々の粒子の投影面積と等しい面積を有する円の直径(円相当径)と厚みを求める。この場合、粒子厚みはレプリカの影(シャドー)の長さから算出する。この円と厚みで形成される円盤の体積と等しい球の直径(球相当経)を求める。また、下記計算式からアスペクト比を求めた。
アスペクト比=円相当経÷厚み
【0035】
【化1】

【0036】
【化2】

【0037】
(乳剤Em−B〜Dの調製)
上記乳剤Em−Aの調製において、反応容器中の溶液の温度、溶液A〜Eの濃度、溶液B〜Eの添加速度、反応容器中の溶液のpBr、二酸化チオ尿素、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、KIrClの添加量、脱塩終了後の増感色素、および化学増感を適宜変更した以外は、上記乳剤Aと同様にして乳剤Em−B〜Dを調製した。
【0038】
(乳剤Em−Eの調製)
重量平均分子量15000の低分子量ゼラチン1.0g、KBr、1.0gを含む水溶液1200mlを35℃に保ち、激しく撹拌した。 AgNO、6.4gを含む水溶液100ml、KBr5.1gと重量平均分子量15000の低分子量ゼラチン2.0gを含む水溶液100mlをダブルジェット法で30秒間に渡り添加し核形成を行った。 この時,KBrの過剰濃度を一定に保った。KBrを6g添加し、75℃に昇温し熟成した。熟成終了後、コハク化ゼラチン38gを添加した。pHを5.5に調整した。AgNO、30gを含む水溶液150mlとKBr水溶液をダブルジェット法で16分間に渡り添加した。この時、銀電位を飽和カロメル電極に対して−25mVに保った。さらに、AgNO、110gを含む水溶液とKBrI水溶液(I2mol%)をダブルジェット法で最終流量が初期流量の1.2倍になるように流量加速して15分間に渡り添加した。また、この添加中に、二酸化チオ尿素:0.005g、ベンゼンスルホン酸ナトリウム:0.005g、KIrCl:0.001gを反応容器中に添加した。添加終了後、フロキュレーション法によって脱塩工程を行った。脱塩工程終了後、実施例1と同様に化学増感処理、および分光増感処理を施した。
【0039】
(感光材料試料101の作成)
乳剤塗設面側に下塗り層を施し、乳剤塗設面の反対側に下記の導電性ポリマー(0.05g/m)と酸化スズ微粒子(0.20g/m)を含有するアクリル樹脂層(バック層)を塗設したポリエチレンテレフタレートフィルム支持体(厚さ120μm)を準備した。
この支持体の下塗り層上に、下記に示す組成の第1層〜第3層をその順に有するハロゲン化銀写真感光材料を作成した。
(感光量の組成)
塗布量はハロゲン化銀についてはg/m単位で表した銀の量を、また添加剤及びゼラチンについてはg/m単位で表わした量を示した。
第1層(ハレーション防止層):
ゼラチン 1.500
固体分散染料S−8 0.080
固体分散染料S−10 0.030
ポリスチレンスルホン酸ナトリウム 0.025
染料1 0.040
染料2 0.008
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム 0.005
リン酸 0.012
防腐剤 0.003
【0040】
【化3】

【0041】
【化4】

【0042】
【化5】

【0043】
第2層(ハロゲン化銀感光層):
乳剤Em−A 銀塗布量 2.000
ゼラチン 5.000
ポリスチレンスルホン酸ナトリウム 0.015
ポリエチルアクリレートラテックス 0.020
第3層(保護層):
ゼラチン 0.97
アクリル樹脂(平均粒径2μm) 0.002
Cpd−55 0.005
Cpd−56 0.08
ジ−(2−エチルヘキシル)スルホ琥珀酸ナトリウム 0.03
【0044】
【化6】

【0045】
上記第1層から第3層で塗布されるゼラチンの総質量に対して3.0質量%となるように、上記第2層に2,2−ビス(ビニルスルホニルアセトアミド)エタンを加えてハロゲン化銀写真感光材料を作成した。これを試料101と呼ぶ。
(試料102)
試料101において、第2層に含まれるEm−Aに代えて、乳剤Em−Bを銀塗布量が同量となるように変更した以外は、試料101の作成と同様にしてハロゲン化銀写真感光材料を作成した。これを試料102と呼ぶ。
(試料201)
試料101において、2,2−ビス(ビニルスルホニルアセトアミド)エタンの塗布量を第1層から第3層に塗布されるゼラチンの総質量に対して5.5重量%に変更した以外は、試料102の作成と同様にしてハロゲン化銀写真感光材料を作成した。これを試料201と呼ぶ。
(試料202)
試料102において、2,2−ビス(ビニルスルホニルアセトアミド)エタンの塗布量を第1層から第3層に塗布されるゼラチンの総質量に対して5.5質量%に変更した以外は、試料102の作成と同様にしてハロゲン化銀写真感光材料を作成した。これを試料202と呼ぶ。
【0046】
(試料203)
試料202において、第2層に含まれるEm−Bに代えて、乳剤Em−Cを銀塗布量が同量となるように変更した以外は、試料202の作成と同様にしてハロゲン化銀写真感光材料を作成した。これを試料203と呼ぶ。
(試料204)
試料202において、第2層に含まれるEm−Bに代えて、乳剤Em−Dを銀塗布量が同量となるように変更した以外は、試料202の作成と同様にしてハロゲン化銀写真感光材料を作成した。これを試料204と呼ぶ。
(試料205)
試料102において、2,2−ビス(ビニルスルホニルアセトアミド)エタンの塗布量を第1層から第3層に塗布されるゼラチンの総質量に対して6.0質量%に変更した以外は、試料102の作成と同様にしてハロゲン化銀写真感光材料を作成した。これを試料205と呼ぶ。
(試料206)
試料102において、2,2−ビス(ビニルスルホニルアセトアミド)エタンの塗布量を第1層から第3層に塗布されるゼラチンの総質量に対して7.0質量%に変更した以外は、試料102の作成と同様にしてハロゲン化銀写真感光材料を作成した。これを試料206と呼ぶ。
(試料207)
試料202において、第2層に含まれるEm−Bに代えて、乳剤Em−Eを銀塗布量が同量となるように変更した以外は、試料202の作成と同様にしてハロゲン化銀写真感光材料を作成した。これを試料207と呼ぶ。
(試料208)
試料204において、2,2−ビス(ビニルスルホニルアセトアミド)エタンの塗布量を第1層から第3層に塗布されるゼラチンの総質量に対して7.0質量%に変更した以外は、試料204の作成と同様にしてハロゲン化銀写真感光材料を作成した。これを試料208と呼ぶ。
【0047】
<評価>
(膨潤率の評価)上記のごとく作成した各塗布試料に対して、塗布試料の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、支持体表面から塗設した感光材料表面までの膜厚を求めた。また、27℃の純水中に十分な時間膨潤させたときの膨潤膜厚を打点法にて測定し、下記計算式から膨潤率を求めた。
膨潤率=100×最大膨潤膜厚÷膜厚(%)
(粒状性の評価)
上記の試料を用い、処理後に試料濃度がカブリ+1.0となるようなベタ画像データを作成し、上記露光、処理を行い処理後の試料を得た。試料の露光は、ARRI社製レーザー露光装置「ARRILASER」を用いた。処理は、「Processing KODAK Motion Picture Filmes,Module 15 Processing Black−and−White Films」記載のD96で行い、現像時間は8分間とした。濃測はX−liteのVフィルター条件で測定した。
この試料を前出のマクラミン社刊「ザ・セオリー・オブ・ザ・フォトグラフィックプロセス」(第4版、1977年発行)第619ページに記述される方法で測定した。数値は試料101を1とした相対値で評価した。数値が低いほど粒状性が良く好ましく、0.8以下であれば、デジタル情報の保存に適したハロゲン化銀写真感光材料として使用可能である。
(保存性の評価)
処理後に試料濃度がカブリ+2.0となるようなベタ画像データを作成し、上記粒状性の評価と同様に露光、処理を行い処理後の試料を得た。
得られた処理後サンプルを80℃/80%の条件下で保管し、保管前と3日間保管後の濃度変化を測定した。濃度変化が少ない方が好ましく、0.08以下であれば、500年以上の長期保存が、また、0.05以下であれば1000年以上の保管が保証できると理解されている。
結果を下記表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1における試料201〜204の結果から、平均球相当径が小さければ小さいほど粒状性はよくなるものの、長期保存性は逆に悪化していくことが分かる。
また、平均球相当径を小さくしても膨潤率を制御することで保存安定性を高水準に維持することができる。
【0050】
実施例2
(乳剤Em−F、Gの調製)
上記乳剤Em−Eの調製において、反応容器中の溶液の温度、溶液の濃度、溶液の添加速度、反応容器中の溶液の銀電位、二酸化チオ尿素、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、KIrClの添加量、脱塩終了後の増感色素、および化学増感を適宜変更した以外は、上記乳剤Em−Eと同様にして乳剤Em−F、Gを調製した。
(試料301)
実施例1で作成した試料202の作成と同様にして、但し、第2層のEm−Aに代えて上記乳剤Em−Gを銀塗布量が2.0g/mとなるように変更してハロゲン化銀写真感光材料を作成した。これを試料301と呼ぶ。
(試料302)
実施例1で作成した試料202の作成と同様にして、但し、第2層のEm−Aに代えて上記乳剤Em−Fを銀塗布量が2.0g/mとなるように変更してハロゲン化銀写真感光材料を作成した。これを試料302と呼ぶ。
<評価>
実施例1の場合と同様にして膨潤率、粒状性、および保存性を評価した。
結果を下記表2に示す。なお、表2には、実施例1における試料206の結果も併せて記載した。
【0051】
【表2】

【0052】
上記表2に示された結果から、アスペクト比が大きくなると3日間の保存による濃度変化が大きくなり、長期保存性が悪化することが確認された。この実験に併せて現像銀の形態変化の外観を観察した結果、同じ粒子サイズであってもアスペクト比が大きいものは現像銀の形態変化が大きく不安定であり、それに起因して濃度変化が生じていることが確認できた。
そして、表1における試料207についての結果も併せると、ハロゲン化銀粒子のアスペクトが2.0以下であれば、デジタル情報の長期保存に適したハロゲン化銀写真感光材料が得られることが理解できる。
また上記本発明の試料202〜208、および試料301〜302は、いずれもD97処理液で3分間現像した結果得られる特性曲線上でのコントラストγ(D97)がほぼ1であり、D96処理液で8分間現像した結果得られる特性曲線上でのコントラストγ(D96)がほぼ1であり、現像処理液依存性が少ないことが確認できた。
なお、本発明に係るハロゲン化銀写真感光材料は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、少なくとも1層のハロゲン化銀感光層を有するハロゲン化銀写真感光材料であって、該ハロゲン化銀感光層の少なくとも一層のハロゲン化銀の平均球相当径が、0.20μm以下であり、アスペクト比が2.0以下であり、膨潤率が200%以下であることを特徴とする白黒ハロゲン化銀写真感光材料。
【請求項2】
前記支持体の前記ハロゲン化銀感光層が設けられた側の表面から、該ハロゲン化銀感光材料の反支持体側表面までの厚みが10μm以下であり、全てのハロゲン化銀感光層の厚みの総和が3.0μm以下である請求項1に記載のハロゲン化銀写真感光材料。
【請求項3】
前記ハロゲン化銀感光層が、前記平均球相当径に対する変動係数が20%以下の単分散ハロゲン化銀粒子を、全ての感光性層に含まれる全ハロゲン化銀粒子の銀換算重量を基準にして、少なくとも50%含有する請求項1または2に記載のハロゲン化銀写真感光材料。
【請求項4】
前記ハロゲン化銀写真感光材料に含まれる全ハロゲン化銀感光層の銀換算量が3.0g/m以下である請求項1〜3の何れか一項に記載のハロゲン化銀写真感光材料。
【請求項5】
D97処理液で3分間現像した結果得られる特性曲線上でのコントラストγ(D97)が下記式(1)の条件を、D96処理液で8分間現像した結果得られる特性曲線上でのコントラストγ(D96)が下記式(2)の条件を満たす請求項1〜4の何れか一項に記載のハロゲン化銀写真感光材料。
0.6≦γ(D97)≦1.6 ・・・(1)
0.6≦γ(D96)≦1.6 ・・・(2)
【請求項6】
前記コントラストγ(D97)が下記式(1a)の条件を、そして前記コントラストγ(D96)が下記式(2a)の条件を満たす請求項5に記載のハロゲン化銀写真感光材料。
0.8≦γ(D97)≦1.4 ・・・(1a)
0.8≦γ(D96)≦1.4 ・・・(2a)
【請求項7】
前記コントラストγ(D97)とコントラストγ(D96)の比が下記式(3)の条件を満たすことを特徴とする請求項5または6に記載のハロゲン化銀写真感光材料。
0.8≦γ(D97)/γ(D96)≦1.39 ・・・(3)
【請求項8】
前記ハロゲン化銀の平均球相当径が、0.10μm以上である請求項1〜7の何れか一項に記載のハロゲン化銀写真感光材料。
【請求項9】
前記ハロゲン化銀の平均球相当径が、0.15μm以下0.10μm以上である請求項1〜8の何れか一項に記載のハロゲン化銀写真感光材料。
【請求項10】
前記膨潤率が150%以上である請求項1〜9の何れか一項に記載のハロゲン化銀写真感光材料。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか一項に記載のハロゲン化銀写真感光材料を画像露光および現像する黒白画像の形成方法。