説明

バラスト処理水の供給装置及びバラスト処理水供給船

【課題】バラスト水の処理装置を持たない船舶に対して、予め水生生物や細菌類が所定値以下となるまで殺滅されたクリーンなバラスト水を、シーチェストから直接供給することのできるバラスト処理水の供給装置及びバラスト処理水供給船を提供すること。
【解決手段】バラスト処理水を船舶200のシーチェスト202に直接供給するための供給装置Aであって、バラスト処理水を供給する供給用ホース1と、供給用ホース1の先端に設けられ、シーチェスト202の開口部を包囲するように密着することにより、供給用ホース1内部とシーチェスト202内部とを連通させる密着手段と、供給用ホース1の先端をシーチェスト202まで水中誘導する誘導手段とを有することを特徴とするバラスト処理水の供給装置A。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バラスト処理水の供給装置及びバラスト処理水供給船に関し、詳しくは、バラスト水の処理装置を持たない船舶に、予め水生生物や細菌類が殺滅されたクリーンなバラスト水(バラスト処理水)を、船舶のシーチェストから直接供給することのできるバラスト処理水の供給装置及びこれを備えたバラスト処理水供給船に関する。
【背景技術】
【0002】
コンテナ船等の貨物用船舶から排水されるバラスト水中には、それを取水した港湾に生息する水生生物や細菌類が混入しており、船舶の移動に伴い、これら水生生物や細菌類が同時に異国に運ばれることから、もともとその海域には生息していなかった生物種が、既存生物種に取って代わるといった生態系の破壊が深刻化している。
【0003】
このような背景のもと、国際海事機関(IMO)の外交会議において、船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理のための条約(以下、条約という)が採択され、バラスト水管理の実施義務が2009年以降の建造船から適用される予定となっている。
【0004】
このため、船舶からは条約を満たすクリーンなバラスト水を排水できるようにすることが求められており、従来、水中の水生生物や細菌類を所定値以下となるように殺滅処理する方法が各種検討されている(特許文献1〜3)。
【特許文献1】特開2004−160437号公報(オゾン処理の構成)
【特許文献2】特開2003−200156号公報(スリット板の構成)
【特許文献3】米国特許第6125778号明細書(バラストタンク内にオゾンガスを注入する構成)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
船舶から条約を満たすようなクリーンなバラスト水を排水できるようにするには、水中の水生生物や細菌類を所定値以下となるように殺滅処理するための処理装置を船舶内に設置して、取水時にバラスト水の処理を行う方法が考えられる。
【0006】
しかし、既造船舶の場合、既設の配管類や装置類がスペースを取っているため、船舶内部に新たに処理装置を設置するスペースを確保することは困難である。
【0007】
このため、本発明者は、水生生物や細菌類が所定値以下となるまで殺滅されたクリーンなバラスト水(バラスト処理水)を生成することのできる処理装置を搭載したバラスト処理水供給船を用意し、このバラスト処理水供給船からバラスト水の処理装置を持たない船舶、特に既造船舶に対してバラスト処理水を供給することを検討しているが、この場合、次のような解決すべき新たな問題がある。
【0008】
船舶にバラスト処理水を供給するには、船舶側にバラスト処理水を受け入れるための受入設備を新たに搭載する必要がある。この場合は処理装置を新たに船舶内に設置する場合に比べて簡単な改修工事で済むと予想されるが、船舶側で改修工事を行うことは避けることが望ましい。
【0009】
通常、バラスト水の取水は水面下の船底付近に設けられたシーチェストから行われるため、船舶に何ら改修工事を要求することなくバラスト処理水を供給するには、このシーチェストから直接行うことが望ましい。
【0010】
そこで、本発明は、バラスト水の処理装置を持たない船舶に対して、予め水生生物や細菌類が所定値以下となるまで殺滅されたクリーンなバラスト水(バラスト処理水)を、シーチェストから直接供給することのできるバラスト処理水の供給装置及びバラスト処理水供給船を提供することを課題とする。
【0011】
本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0013】
(請求項1)
バラスト処理水を船舶のシーチェストに直接供給するための供給装置であって、
バラスト処理水を供給する供給用ホースと、
前記供給用ホースの先端に設けられ、前記シーチェストの開口部を包囲するように密着することにより、前記供給用ホース内部と前記シーチェスト内部とを連通させる密着手段と、
前記供給用ホースの先端を前記シーチェストまで水中誘導する誘導手段とを有していることを特徴とするバラスト処理水の供給装置。
【0014】
(請求項2)
前記密着手段は、前記供給用ホースの先端に、前記シーチャストの開口部を包囲して覆う大きさを有する可撓性部材からなる密着カップを有しており、該密着カップの開口部周縁に磁石が埋設されていることを特徴とする請求項1記載のバラスト処理水の供給装置。
【0015】
(請求項3)
前記磁石は、前記密着カップの開口部周縁に沿って複数に分割されて埋設されていることを特徴とする請求項2記載のバラスト処理水の供給装置。
【0016】
(請求項4)
前記磁石は電磁石であることを特徴とする請求項2又は3記載のバラスト処理水の供給装置。
【0017】
(請求項5)
前記誘導手段は、モータの駆動によって回転して船体側面へ吸着するための吸着力を生成する回転体と、前記船体側面上を自走するための自走用車輪とを有し、前記供給用ホースの先端側に複数基が角度変位自在に取付け支持されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のバラスト処理水の供給装置。
【0018】
(請求項6)
バラスト水を取水する取水手段と、
前記取水手段により取水されたバラスト水中の水生生物や細菌類を殺滅することによりバラスト処理水を生成する処理装置と、
前記処理装置により生成されたバラスト処理水を移送する供給ポンプと、
前記供給ポンプの駆動によってバラスト処理水を供給する請求項1〜5のいずれかに記載のバラスト処理水の供給装置とを備えることを特徴とするバラスト処理水供給船。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、バラスト水の処理装置を持たない船舶に対して、予め水生生物や細菌類が所定値以下となるまで殺滅されたクリーンなバラスト水(バラスト処理水)を、シーチェストから直接供給することのできるバラスト処理水の供給装置及びバラスト処理水供給船を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0021】
図1は、本発明に係るバラスト処理水の供給装置の側面図、図2はその平面図、図3は密着手段を示す断面図である。
【0022】
図中、Aは供給装置であり、供給装置Aは、バラスト処理水を供給するための供給用ホース1と、供給用ホース1の先端に設けられ、該供給用ホース1を船体に密着させるための密着手段2と、供給用ホース1の先端をシーチェストまで誘導するための誘導手段3と、誘導手段3を供給用ホース1に対して取付け支持する支持部材4と、水中カメラ5とを有している。
【0023】
供給用ホース1は、後述するバラスト処理水供給船によって生成されたバラスト処理水を供給するためのフレキシブルホースからなり、その先端に設けられたホース接続部11によって密着手段2と着脱可能に接続されている。
【0024】
密着手段2は、図3に示すように、ホース接続部21によって供給用ホース1のホース接続部11と着脱可能に接続される接続管部22と、バラスト処理水を供給する対象船舶200の船体側面201に密着する密着カップ23と、該密着カップ23を接続管部22の端部に伸縮可能に接続する伸縮管24とを有している。
【0025】
密着カップ23は、船舶200の船底付近に設けられたシーチェスト202の開口部202aを包囲し得る大きさの開口部23aを有しており、少なくとも先端部23bがウレタン樹脂等の可撓性部材によって形成されている。
【0026】
この先端部23bの開口部23aの周縁には磁石23cが埋設されており、密着カップ23をシーチェスト202の周囲の船体側面201に磁力によって密着させることができるようになっている。
【0027】
この磁石23cには、ゴム磁石等の永久磁石や電磁石を用いることができるが、特に通電時にのみ磁力を発生する電磁石が好ましい。ここでは磁石23cに電磁石を用いている。
【0028】
また、磁石23cは、密着カップ23の開口部23aの周縁に沿って埋設されるが、1つの円形状のものに限らず、図4(a)に示すように、開口部23aの周縁に沿って複数に分割して埋設することもでき、本発明において好ましい。磁石23cが複数に分割されていることにより、図4(b)に示すように、船体側面201に貝やフジツボ等の付着物aが付着している場合に、密着カップ23の先端部23bが該付着物aによって部分的に撓み変形しても容易に追従できるため、密着性を良好にし、密着時の隙間の発生を極力防止することができる。
【0029】
伸縮管24は蛇腹状に形成されており、密着カップ23の基部23dと接続管部22との間を伸縮可能に接続している。接続管部22の先端と密着カップ23の基部23dとの間にはシリンダー25が設けられており、このシリンダー25が伸長又は収縮動作することによって、密着カップ23は船体側面201に対して突出(図3に示す実線の状態)又は退没(図3に示す一点鎖線の状態)するようになっている。
【0030】
誘導手段3は、回転体の回転によって船体側面に吸着するための吸着力を生成する構造であり、支持部材4によって供給用ホース1の先端に対して取付け支持されている。
【0031】
誘導手段3の詳細を図5、図6を用いて説明する。図5は誘導手段3の底面図、図6は誘導手段3の断面図である。
【0032】
誘導手段3は、平面視略円形状の誘導部本体31の上面に設けられた取付け部31aに、後述する支持部材4の支持腕42の先端に形成されたボール部42aが取り付けられることにより構成された球継ぎ手32によって、支持腕42に対して角度変位自在に取付け支持されている。
【0033】
誘導部本体31は、FRP、発泡ウレタン、軽金属等の軽量材料によって形成されており、内部に空気室31bを形成することにより、誘導手段3に一定の浮力を与えている。
【0034】
誘導部本体31の略中央には、該誘導部本体31を上下に貫通するように形成された開口31cが形成されており、この開口31c内に位置するように、モータ33と、このモータ33に連結された回転体34とが設けられている。
【0035】
回転体34は、モータ33の駆動力によって回転することで、開口31c内に誘導部本体31の底面側から上面側に向かう上向流を作り出し、これによって誘導手段3の底面側を船体側面201へ吸着させる吸着力を発生させる。ここでは、回転体34としてプロペラを例示しているが、吸着力を生成することができるものであれば特に限定されない。
【0036】
開口31cの底面側の周縁には、該開口31cを取り囲むようにスカート31dが設けられており、回転体34の回転によって生成される吸着力を補強するようになっている。このスカート31dは、ブラシや可撓性を有する板片等によって形成することができる。
【0037】
誘導部本体31には、底面側に向けて2つの自走用車輪35と1つの従動用車輪36が突設されている。自走用車輪35は自走用モータ37によって船体側面201を自走するための駆動力が与えられるようになっている。また、従動用車輪36は、自走用車輪35によって走行するのに伴い、従動して回転すると共に、操舵用モータ38によって走行方向を変更可能に形成されている。従って、操舵用モータ38によって従動用車輪36の向きを変えることにより、誘導手段3の走行方向を変えることができる。これら自走用モータ37及び操舵用モータ38の駆動による誘導手段3の走行操作は、図示しないケーブルを介してバラスト処理水供給船上の作業者によって行われる。
【0038】
支持部材4は、密着カップ23の基部23d側と伸縮管24の周囲とを包囲するように設けられた基部41と、該基部41の周囲から側方に向けて突設された複数本の支持腕42とを有している。
【0039】
支持部材4の基部41は、FRP、発泡ウレタン、軽金属等の軽量材料によって形成されており、内部には空気室41aが形成され、密着手段2に一定の浮力を与えるようになっている。この空気室41aの大きさは、供給用ホース1のサイズ、密着カップ23の大きさ等に応じて適宜設定することができる。
【0040】
また、図示しないが、浮き袋を支持部材4の基部41の周囲に設け、該浮き袋への空気の注入量を調節可能に構成することにより、密着手段2の浮力を調節可能とすることも好ましい。
【0041】
支持腕42は、ここでは支持部材4の基部41の周囲から放射状に4本突設されており、その先端側はL字状に屈曲形成されている。
【0042】
各支持腕42の先端は球継ぎ手32を構成しており、この球継ぎ手32によってそれぞれ誘導手段3を連結支持している。この支持腕42もFRP、発泡ウレタン、軽金属等の軽量材料によって形成されている。
【0043】
なお、ここでは4本の支持腕42の先端にそれぞれ誘導手段3が設けられているが、誘導手段3の数は、供給用ホース1のサイズ、密着部23の大きさ等に応じて適宜増減することができる。
【0044】
また、図示しないが、誘導手段3相互を自在継ぎ手等の連結具によって連結することで、各支持腕42の先端にそれぞれ複数基の誘導手段3を連結させることもできる。
【0045】
水中カメラ5は、例えば防水機能を有するCCDカメラによって構成されており、支持部材4の基部41の側面に角度調節可能に取り付けられている。水中カメラ5は供給装置Aをシーチェスト202まで誘導するために船体側面201を撮影し、撮影画像を図示しないケーブルを介してバラスト処理水供給船に送るようになっている。作業者はこの撮影画像を見ながら誘導手段3を操作して供給装置Aをシーチェスト202の位置まで誘導するようになっている。この水中カメラ5に加えて、図示しない照明装置を設けることもできる。
【0046】
また、水中カメラ5及び照明装置は、必要により密着カップ23の内部に設けることもできる。
【0047】
次に、かかる供給装置Aを用いたバラスト処理水の供給方法について図7を用いて説明する。
【0048】
バラスト処理水の供給装置Aは、水中の水生生物や細菌類を所定値以下となるように殺滅処理する処理装置と、バラスト処理水を移送するための供給ポンプ101を搭載するバラスト処理水供給船100のバラスト処理水供給口102に供給用ホース1が接続され、ホースダビット103に吊下げ支持されている。
【0049】
このバラスト処理水供給船100を供給対象船舶200に横付けした後、供給装置Aを水中に投入し、各誘導手段3の回転体34を回転させる。これにより供給装置Aは水中を徐々に推進して船体側面201に当接し、回転体34によって発生する吸着力によって該船体側面201に吸着する。
【0050】
次いで、バラスト処理水供給船100上の作業者は、水中カメラ5の撮影画像を確認しながら各誘導手段3の自走用モータ37及び操舵用モータ38の駆動を操作し、船体側面201を自走させながら供給装置Aの密着カップ23がシーチェスト202を包囲する位置まで移動させる。
【0051】
このとき、供給装置Aの各誘導手段3は、球継ぎ手32によって支持腕42に角度変位自在に支持されているので、船体側面201が湾曲面であっても各誘導手段3が支持腕42に対して角度変位することによって湾曲面に沿って円滑に自走することができる。また仮に、自走中に供給装置Aが船体側面201から離れることがあっても、回転体34の吸着力によって速やかに船体側面201まで復帰することができる。
【0052】
密着カップ23がシーチェスト201を包囲する位置まで到達したら、各誘導手段3の自走を停止し、シリンダー25を伸長させて密着カップ23を突出させる。このとき、磁石23cに通電することにより磁力を発生させ、密着カップ23を船体側面201に磁力によって密着させる。これにより供給用ホース1の内部とシーチェスト202の内部とは連通状態となる。
【0053】
その後、船舶200側のバラストポンプ203の駆動開始に連動するようにバラスト処理水供給船100の供給ポンプ101を駆動させ、供給用ホース1を介してバラスト処理水を供給する。供給されたバラスト処理水は、船舶200のバラストライン204によって通常通りに各バラストタンク(図示せず)に注水される。
【0054】
バラスト処理水の供給が終了したら、磁石23cへの通電を停止し、シリンダー25を収縮させて密着カップ23を退没させた後、ホースダビット103によって供給装置Aを回収する。
【0055】
かかる供給装置Aによれば、バラスト水の処理装置を持たない船舶200に対してバラスト処理水をシーチェストから直接供給することができる。従って、船舶200側にバラスト処理水を受給するための改修工事を不要にすることができる。
【0056】
以下に、バラスト処理水供給船100について説明する。
【0057】
図8は、バラスト処理水供給船100の一例を一部切欠して示す側面図である。
【0058】
このバラスト処理水供給船100の船体104内部には、船底付近に設けられたシーチェスト105から取水されたバラスト水を処理する処理装置106と、該処理装置106によって処理されたバラスト水を貯留する貯留タンク107が設けられている。なお、104aは航行用のスクリューである。
【0059】
ここで、バラスト水には例えば海水、淡水等が用いられ、本発明では海水が好ましく使用される。かかるバラスト水には、取水した水域に生息する動物プランクトン、植物プランクトン、微生物等の水生生物や大腸菌等の細菌類を含んでいる。
【0060】
処理装置106は、シーチェスト105から取水されたバラスト水中の水生生物や細菌類を、条約を満足する程度に殺滅可能であればよく、例えば熱、超音波、紫外線、銀イオン、電気等を用いた物理的処理法、濾過、剪断力、キャビテーション等を用いた機械的処理法、オゾン、酸素除去、塩素等を用いた化学的処理法、又は、これらの2種以上の処理法を複合させた複合処理法等が挙げられる。
【0061】
本発明において好ましい処理装置106の一例について図9を用いて説明するが、処理装置106は何ら図示するものに限定されない。
【0062】
図9は処理装置106の一例を示す構成図であり、61はフィルター、62は取水ポンプ、63は処理ライン、64はオゾン混合装置、65はオゾン発生装置、66はスリット板、67は脱気タンク、68は排オゾン分解装置である。
【0063】
取水ポンプ62の作動によりシーチェスト105から処理装置106内にバラスト水が取り込まれ、処理ライン63内を移送される過程で、水生生物や細菌類を殺滅するための処理がなされる。
【0064】
フィルター61は、取水ポンプ62の作動によって処理装置106に導入されたバラスト水から夾雑物を取り除くために設けられている。このフィルター61は、後段のオゾン混合装置64によるオゾン注入やスリット板66によって水生生物や細菌類が殺滅処理されることから、水中のゴミ等の比較的大きな夾雑物を取り除ければよい。
【0065】
オゾン混合装置64は、取水ポンプ62の作動によって処理ライン63中を移送されるバラスト水に、オゾン発生装置65によって生成されたオゾンを混入させ、バラスト水中の水生生物や細菌類をオゾンの強酸化作用によって化学的に殺滅する。ここでは、オゾン混合装置64として、処理ライン63中のバラスト水とオゾンとを気液混合する気液混合装置(オゾンインジェクター)を用いた例を示しているが、バラスト水中に所定濃度のオゾンを混入させることができるものであれば特に限定されない。例えば、スタティックミキサー、ラインミキサーなどの静的混合機を使用することもできる。
【0066】
オゾン発生装置65は、例えばコンプレッサー65a、酸素発生器65b及びオゾン発生器65cを有しており、酸素発生器65b及びオゾン発生器65cを経て生成されたオゾンが、コンプレッサー65aによってオゾン供給ライン65dを介してオゾン混合装置64に供給され、バラスト水中に所定濃度のオゾンを混入させる。
【0067】
スリット板66は、オゾン混合装置64によってオゾンが混入されたバラスト水を高圧で通過させることにより、その際に発生する剪断力によってバラスト水中の水生生物や細菌類を機械的に破壊して殺滅する。
【0068】
このスリット板66の詳細を図10〜図14に示す。
【0069】
図10は、処理ライン63内のスリット板66を示す断面図、図11は、図10の(xi)−(xi)線断面図であり、これらに示すように、スリット板66は処理ライン63の内部に、該処理ライン63の流路全体を塞ぐようにして配設されている。
【0070】
スリット板66には複数のスリット状の開口66aが形成されている。開口66aの開口幅は、バラスト水中の水生生物や細菌類を剪断力によって破壊する効果が充分に発揮され得る幅に設定されるが、好ましくは200μm〜500μmとされる。これにより、バラスト水を通過させる際に発生する剪断現象によって10μm程度の水生生物も殺滅可能である。
【0071】
処理ライン63内を移送されるバラスト水は、取水ポンプ62の作動によってこのスリット板66に向かって高圧で圧送される。圧送されたバラスト水は乱流状態のままスリット板66のスリット状の開口66aを通過しようとし、この開口66aを通過する際に剪断現象が生じることで、バラスト水中の水生生物や細菌類を破壊して殺滅する。
【0072】
かかる剪断力による破壊、殺滅効果をより発揮させるために、スリット板66はバラスト水の流れ方向に対して直交する方向に取り付けることが好ましい。
【0073】
また、スリット板66は、処理ライン63内に密接して取り付けられるが、図示しないが、容易に取り外し可能として洗浄することができるように、フランジ等によって処理ライン63に介設することが好ましい。
【0074】
スリット板66に形成される複数のスリット状の開口66aの形状は、図11に例示するように、細長い長方形状からなるものが好ましい態様として挙げられる。開口66aの本数は特に限定されず、バラスト水の圧力損失、剪断現象の発生状況に応じて適宜設定される。
【0075】
なお、各開口66aは全て同じ長さに形成してもよいが、図12に示すように、処理ライン63の断面形状に合わせて、中央部を長く、端部に行くほど短く形成してもよい。
【0076】
また、各開口66aの形状は直線状に限らず、図13に示すように、円弧状等の曲線状に形成してもよい。
【0077】
更に、処理ライン63内に配設されるスリット板66の枚数は1枚に限らず、図14に示すように、複数枚(66A、66B)を間隔をおいて配設するようにしてもよい。枚数は複数枚であれば特に限定されない。
【0078】
複数枚のスリット板66A、66Bを配設する場合は、各スリット板66A、66Bのそれぞれの開口66aの幅、大きさ、本数、形状を異ならせることが好ましい。また、隣接するスリット板66A、66Bのそれぞれの開口66aの配置を異ならせ、例えば各スリット板66A、66Bのそれぞれの開口66aの長さ方向が直交するように配置させるようにすることも好ましい。これらにより、剪断現象をより一層効果的に発揮させることができ、バラスト水中の水生生物や細菌類の破壊、殺滅効果をより向上させることができる。
【0079】
スリット板66を通過した後のバラスト水は脱気タンク67に送られ、バラスト水中の未溶解の余剰オゾンの脱気が行われる。脱気タンク67内には、タンク底部からタンク天井部の手前に亘って立設された仕切り壁67aと、タンク天井部からタンク底部の手前に亘って垂設された仕切り壁67bとが交互に並設され、バラスト水の上向流路と下向流路とを交互に形成している。これにより、脱気タンク67内に導入されたバラスト水は、上向流路と下向流路とを交互に通過し、その過程で、バラスト水中に気泡状態で混入する余剰オゾンをバラスト水中から除去し、タンク上部の排オゾン室67cに溜める。
【0080】
排オゾン室67cに溜まった排オゾンは、脱気タンク67から排オゾン分解装置68に送られて分解され、例えばデッキ上から船外に排出される。
【0081】
このようにして、処理装置106を経たバラスト水は、水生生物や細菌類が所定値以下となるように殺滅されたクリーンなバラスト水(バラスト処理水)となる。
【0082】
なお、図9に示す態様では、オゾン混合装置64によりバラスト水中にオゾンを混入させた後にスリット板66を通過させて処理するようにしたが、これに限定されず、スリット板66を通過させた後のバラスト水にオゾン混合装置64によってオゾンを混入させて処理するように構成してもよい。
【0083】
かかる処理装置106を通過することにより処理されたバラスト処理水は貯留タンク107に送られ、該貯留タンク107内に貯留される。貯留されるバラスト処理水は、脱気タンク67によって余剰オゾンが除去されているため、タンクを腐食する問題はない。
【0084】
船体104内には、貯留タンク107内からバラスト処理水を取水して供給対象船舶200に供給するための供給ポンプ101が設けられており、該供給ポンプ101の作動によって処理水供給ライン108を介して移送されるようになっている。処理水供給ライン108の一端はデッキ上に引き延ばされてホース供給口102を形成しており、このホース供給口102に接続された供給装置Aの供給用ホース1によって、貯留タンク107内のバラスト処理水を供給対象船舶200へ供給可能としている。
【0085】
処理水供給ライン108には、流量調整弁109と流量計110とが設けられている。従って、バラスト処理水供給船100から供給対象船舶200へのバラスト処理水の供給は、流量調整弁109によって供給量を調整することができる。また、流量計110によって、供給したバラスト処理水の流量を測ることができる。
【0086】
バラスト処理水供給船100の例えば操舵室内には、図8に示すように、この流量計110の計測結果に基づいて積算流量や供給完了予想時間等の情報を表示する表示部111が設けられている。従って、供給対象船舶200に対して必要な量のバラスト処理水を供給することができ、その情報を表示部111によって確認することができる。更に、この流量計110の計測結果に応じて課金することも可能となる。このような課金情報も表示部111に表示される。
【0087】
以上の態様では、処理装置106によって処理されたバラスト処理水を貯留タンク107に貯留しておき、この貯留タンク107内のバラスト処理水を供給装置Aを用いて供給対象船舶200に対して供給するようにした。この態様によれば、バラスト処理水を生成して貯留しておくことができるので、例えば供給対象船舶200の寄港時間や荷役作業等のスケジュールに合わせて、バラスト処理水を予め生成して用意しておき、必要な時に速やかに供給することができる。
【0088】
また、供給されるバラスト処理水が、条約を満足する程度に水生生物や細菌類が殺滅されたクリーンなバラスト処理水であるのかどうかを、貯留タンク107内のバラスト処理水をサンプリングすることにより事前に検査して確認しておくことも可能となる。従って、水生生物や細菌類が所定値以下となるように殺滅されたクリーンなバラスト処理水であることをサンプリング結果に基づいて供給対象船舶200に対して提示することができ、安全で安心なバラスト処理水を提供することができる。
【0089】
また仮に、処理装置106による処理能力、すなわち処理装置106を経て生成されるバラスト処理水の生成量が、供給対象船舶200のバラストポンプ203の取水能力よりも小さい場合でも、予め生成して貯留しておいた貯留タンク107内のバラスト処理水を供給することにより、供給対象船舶200のバラストポンプ203の取水能力に応じた供給量でバラスト処理水を供給することができる利点がある。
【0090】
しかし、本発明に係るバラスト処理水供給船100はこのように貯留タンク107を有するものに限定されず、図15に示すバラスト処理水供給船100Aのように必ずしも貯留タンクはなくてもよい。この場合、バラスト処理水供給船100Aは、処理装置106から排出されるバラスト処理水を、そのまま供給装置Aを介して供給対象船舶200に供給する態様とすることができる。図15において図8と同一符号は同一構成を示しているので、ここでの詳細な説明は省略する。
【0091】
この態様によれば、バラスト処理水供給船100Aは、内部にバラスト処理水を貯留する必要がないため、処理装置106、供給ポンプ101、処理水供給ライン108を設置し得る程度の規模の船で足り、貯留タンクを有する場合に比べてコンパクトな船とすることができ、狭い港湾において機動性の高いバラスト処理水供給船を提供できる利点がある。
【0092】
このような貯留タンクを持たないバラスト処理水供給船100Aの場合、処理装置106によって処理された後のバラスト処理水をサンプリングして水生生物や細菌類の生存数を検査することにより処理効果を確認するための検査システムを設けておき、検査済みのバラスト処理水を供給対象船舶200に供給できるようにすることが好ましい。
【0093】
なお、バラスト処理水供給船100、100Aのいずれにおいても、処理装置106、供給ポンプ101、処理水供給ライン108はデッキ上に設置してもよい。
【0094】
また、処理装置106の他の態様として、水生生物や細菌類を濾過することにより除去可能な例えばMF膜やUF膜等の膜装置を用いることもできる。膜装置の後段に、更に図9に示すようにオゾン混合装置64、オゾン発生装置65及び脱気タンク67を配置してオゾン注入及び余剰オゾンの脱気を行うようにしてもよい。
【0095】
以上説明したバラスト処理水供給船100、100Aは、いずれもスクリュー104aにより自立航行可能な船を例示したが、これに限定されない。従って、バラスト処理水供給船は自立航行するための機関を持たないバージ船であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明に係るバラスト処理水の供給装置の側面図
【図2】本発明に係るバラスト処理水の供給装置の平面図
【図3】密着手段を示す断面図
【図4】(a)は密着カップの開口部を示す図、(b)は密着カップの密着の様子を説明する図
【図5】誘導手段の底面図
【図6】誘導手段の断面図
【図7】本発明に係るバラスト処理水の供給装置の使用方法を説明する図
【図8】バラスト処理水供給船を一部切欠して示す側面図
【図9】処理装置の一例を示す構成図
【図10】処理ライン内のスリット板を示す断面図
【図11】図10の(xi)−(xi)線断面図
【図12】スリット板の開口の他の例を示す断面図
【図13】スリット板の開口の更に他の例を示す断面図
【図14】処理ライン内のスリット板の他の例を示す断面図
【図15】他の態様に係るバラスト処理水供給船を一部切欠して示す側面図
【符号の説明】
【0097】
A:供給装置
1:供給用ホース
11:ホース接続部
2:密着手段
21:ホース接続部
22:接続管部
23:密着カップ
23a:開口部
23b:先端部
23c:磁石
23d:基部
24:伸縮管
25:シリンダー
3:誘導手段
31:誘導部本体
31a:取付け部
31b:空気室
31c:開口
31d:スカート
32:球継ぎ手
33:モータ
34:回転体
35:自走用車輪
36:従動用車輪
37:自走用モータ
38:操舵用モータ
4:支持部材
41:基部
41a:空気室
42:支持腕
42a:ボール部
5:水中カメラ
100、100A:バラスト処理水供給船
101:供給ポンプ
102:ホース供給口
103:ホースダビット
104:船体
104a:スクリュー
105:シーチェスト
106:処理装置
61:フィルター
62:取水ポンプ
63:処理ライン
64:オゾン混合装置
65:オゾン発生装置
65a:コンプレッサー
65b:酸素発生器
65c:オゾン発生器
65d:オゾン供給ライン
66、66A、66B:スリット板
66a:開口
67:脱気タンク
67a、67b:仕切り壁
67c:排オゾン室
68:排オゾン分解装置
107:貯留タンク
108:処理水供給ライン
109:流量調整弁
110:流量計
111:表示部
200:供給対象船舶
201:船体側面
202:シーチェスト
203:バラストポンプ
204:バラストライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バラスト処理水を船舶のシーチェストに直接供給するための供給装置であって、
バラスト処理水を供給する供給用ホースと、
前記供給用ホースの先端に設けられ、前記シーチェストの開口部を包囲するように密着することにより、前記供給用ホース内部と前記シーチェスト内部とを連通させる密着手段と、
前記供給用ホースの先端を前記シーチェストまで水中誘導する誘導手段とを有していることを特徴とするバラスト処理水の供給装置。
【請求項2】
前記密着手段は、前記供給用ホースの先端に、前記シーチャストの開口部を包囲して覆う大きさを有する可撓性部材からなる密着カップを有しており、該密着カップの開口部周縁に磁石が埋設されていることを特徴とする請求項1記載のバラスト処理水の供給装置。
【請求項3】
前記磁石は、前記密着カップの開口部周縁に沿って複数に分割されて埋設されていることを特徴とする請求項2記載のバラスト処理水の供給装置。
【請求項4】
前記磁石は電磁石であることを特徴とする請求項2又は3記載のバラスト処理水の供給装置。
【請求項5】
前記誘導手段は、モータの駆動によって回転して船体側面へ吸着するための吸着力を生成する回転体と、前記船体側面上を自走するための自走用車輪とを有し、前記供給用ホースの先端側に複数基が角度変位自在に取付け支持されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のバラスト処理水の供給装置。
【請求項6】
バラスト水を取水する取水手段と、
前記取水手段により取水されたバラスト水中の水生生物や細菌類を殺滅することによりバラスト処理水を生成する処理装置と、
前記処理装置により生成されたバラスト処理水を移送する供給ポンプと、
前記供給ポンプの駆動によってバラスト処理水を供給する請求項1〜5のいずれかに記載のバラスト処理水の供給装置とを備えることを特徴とするバラスト処理水供給船。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−189071(P2008−189071A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−23546(P2007−23546)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)