説明

バーナ燃焼式の炉

【課題】例えば、溶湯温度を安定に保持することが可能でありながら、保持バーナに対して設けられる出力調整機構の寿命を長く保つことができる溶解保持炉を得る。
【解決手段】保持バーナ制御部が、溶湯温度が保持目標温度より低い場合に保持バーナを最大出力に制御し、溶湯温度が前記保持目標温度より高い場合に、溶湯温度の保持目標温度からの偏差に従って、保持バーナの停止を含む最小出力まで有限の複数段で出力を制御する構成で、各段について、当該各段の段別目標出力が予め設定可能に構成され、各段内の出力制御において、前記段別目標出力と現出力との偏差に従って、出力が前記段別目標出力に収束するように、現出力を少なくとも比例的に変化させる構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ガス供給路から燃料ガスの供給を受けて燃焼する保持バーナと、この保持バーナの燃焼により、保持目標温度に加熱保持される被加熱部とを備え、燃料ガス供給路に設けられた流量調整弁を制御して保持バーナの出力を制御するバーナ制御部を備えたバーナ燃焼式の炉に関する。
【背景技術】
【0002】
このようなバーナ燃焼式の炉としては、溶解保持炉、溶解炉、溶融金属鍍金炉、焼成炉、焼鈍炉、加熱炉等、所謂、一般工業で使用される工業炉がある。
溶解保持炉を例にとって説明すると、前記被加熱部が、処理物が投入される、又は処理物の溶湯が流入もしくは保持される保持部であり、前記保持バーナが、前記保持部の溶湯を加熱する保持バーナであり、前記バーナ制御部が、保持バーナへの燃料ガス供給路に設けられた流量調整弁を制御して保持バーナの出力を制御する保持バーナ制御部である。以下の説明では、溶解保持炉を、バーナ燃焼式の炉の代表例として説明する。
【0003】
溶解保持炉としては、鋳造機へ供給するために、金属材料を溶解し、溶湯として保持する溶解保持炉がある。このような溶解保持炉は、例えば、ダイカストマシン等の鋳造機へ溶湯を供給するために、金属材料を溶解し、溶湯として保持する。
【0004】
溶解保持炉は、投入された金属材料を溶解バーナにより溶解して溶湯とする溶解室と、当該溶解室に連通し、溶解室から流入した溶湯を保持バーナによって所定温度に調整し保持する保持室(本願における保持部に相当する)と、当該保持室に連通し、溶湯を鋳造機へ汲み出す汲出室とにより構成される(特許文献1)。
特許文献1に開示の溶解保持炉は、汲出室の溶湯高さに基づいて溶解バーナをHigh−Middle−Lowの3位置に制御する。結果、汲出室におけるオーバーフローを無くすることができる。
【0005】
この文献に開示の技術では、保持バーナ31は、溶湯温度検出器からの溶湯温度信号に基づいて保持バーナ制御部62により出力制御され、保持室内の溶湯50の温度を、例えば750℃に調整する。この文献には、保持バーナの出力制御に関して、その詳細は特に述べられていない。
【0006】
【特許文献1】特開2005−076972 号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
溶湯を所定の保持目標温度に保持しようとする制御にあっては、その保持目標温度を中心に出力の比例帯を保持バーナの最小出力から最大出力までの範囲に設定するのが、一般的である。即ち、保持目標温度に対する溶湯温度の偏差を検出し、この偏差が無くなるように、保持バーナの全出力範囲に渡って例えばPID制御する。
【0008】
先に紹介した特許文献1に記載の溶解保持炉と同様な溶解バーナと保持バーナとを備えた溶解保持炉において、本願の発明者らが、この形態のPID制御を適用した結果を図4に示した。この図は、横軸が時間〔H〕に、縦軸が溶湯温度(左軸〔℃〕)及び保持バーナの出力(右軸〔%〕)に対応している。太線が保持バーナの出力を、一点鎖線が溶湯温度(湯温(℃))を示している。
この結果から、溶湯温度は良好に制御され安定しているものの、保持バーナの出力は、最小出力(0%)から最大出力(100%)まで頻繁に変化していることがわかる。
【0009】
このような変動の要因としては、汲出室について、保温蓋の開閉、ラドルの突入、リターン材の投入等の要因、保持室について、溶解室から流入してくる溶湯の温度及び湯量が常時変化することによる要因、さらに、溶解室について、溶解バーナの発停による炉内温度が頻繁に変化する等が考えられる。
【0010】
このように、頻繁に出力変化を起こすと、保持バーナの上流側に備えられる出力調整機構(燃料ガス供給のための流量調整弁・その弁調整用の機構及びモータ)が頻繁に動作することとなる。このような頻繁な動作を繰り返すと、出力調整機構の寿命が短くなる。特に、この出力調整機構に備えられるモータが頻繁にON,OFFされるために加熱により損傷を受け易く、その寿命が短くなる虞がある。
【0011】
本発明の目的は、被加熱部の温度を安定に保持することが可能でありながら、バーナに対して設けられる出力調整機構の寿命を長く保つことができるバーナ燃焼式の炉を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための、
燃料ガス供給路から燃料ガスの供給を受けて燃焼する保持バーナと、
前記保持バーナの燃焼により、保持目標温度に加熱保持される被加熱部とを備え、
前記燃料ガス供給路に設けられた流量調整弁を制御して前記保持バーナの出力を制御するバーナ制御部を備えたバーナ燃焼式の炉の特徴構成は、
前記バーナ制御部が、被加熱部温度が前記保持目標温度より低い場合に前記バーナを最大出力に制御し、被加熱部温度が前記保持目標温度より高い場合に、前記被加熱部温度の前記保持目標温度からの偏差に従って、バーナの停止を含む最小出力まで有限の複数段で出力を制御する構成で、
前記各段について、当該各段の段別目標出力が予め設定可能に構成されるとともに、当該各段の段別目標温度が、当該段と当該段より出力が大きい高出力側段との境界温度として設定され、
前記各段内の出力制御において、前記段別目標温度と現被加熱部温度との偏差に従って、出力が前記段別目標出力に収束するように、現出力を少なくとも比例的に変化させることにある。
【0013】
このバーナ燃焼式の炉にあっては、被加熱部温度を所定の保持目標温度に保持するのに、保持バーナの運転制御を、被加熱部温度が保持目標温度より低い場合は、最大出力として被加熱部温度を少なくとも保持目標温度以上に上昇させる。一方、被加熱部温度が保持目標温度より大きい領域では、保持目標温度からの偏差に従って、有限複数段設定される出力とする。従って、従来、保持バーナの全出力範囲をPID制御の対象範囲としていた場合と比較して、出力変更の頻度を低下させることができる。結果、流量調整弁の駆動機構(モータ、それに付属する機器)の動作頻度を低下させることが可能となり、先に説明した寿命等の問題を解消できる。このように、被加熱部温度が保持目標温度よりも高い場合に、いきなり出力を最低まで低下するのではなく、段階的に低下する(即ち、被加熱部の加熱状態をある程度維持する)のは、この被加熱部にどのような加熱負荷が発生しても、被加熱部温度が急激に低下しないようにするためである。
また、各段内でも、所定の出力範囲内で、段別目標温度と現被加熱部温度との偏差に従った比例制御を行う。このようにすることで、出力変更の頻度を極度に低下させることができる。
【0014】
さて、バーナ燃焼型の炉が溶解保持炉の場合は、先にも説明したように、
前記被加熱部が、処理物が投入される、又は処理物の溶湯が流入もしくは保持される保持部であるとともに、
前記保持バーナが、前記保持部の溶湯を加熱する保持バーナであり、
前記バーナ制御部が、前記保持バーナへの燃料ガス供給路に設けられた流量調整弁を制御して前記保持バーナの出力を制御する保持バーナ制御部であることとなるが、
この溶解保持炉の特徴構成は、前記保持バーナ制御部が、溶湯温度が保持目標温度より低い場合に前記保持バーナを最大出力に制御し、前記溶湯温度が前記保持目標温度より高い場合に、前記溶湯温度の前記保持目標温度からの偏差に従って、保持バーナの停止を含む最小出力まで有限の複数段で出力を制御する構成で、
前記各段について、当該各段の段別目標出力が予め設定可能に構成されるとともに、当該各段の段別目標温度が、当該段と当該段より出力が大きい高出力側段との境界温度として設定され、
前記各段内の出力制御において、前記段別目標温度と現溶湯温度との偏差に従って、出力が前記段別目標出力に収束するように、現出力を少なくとも比例的に変化させる構成となる。
【0015】
この溶解保持炉にあっては、保持室内の溶湯の温度を所定の保持目標温度に保持するのに、保持バーナの運転制御を、溶湯温度が保持目標温度より低い場合は、最大出力として溶湯の温度を少なくとも保持目標温度以上に上昇させる。一方、溶湯温度が保持目標温度より大きい領域では、保持目標温度からの偏差に従って、有限複数段設定される出力状態とする。従って、従来、保持バーナの全出力範囲をPID制御の対象範囲としていた場合と比較して、出力変更の頻度を低下させることができる。結果、流量調整弁の駆動機構(モータ、それに付属する機器)の動作頻度を低下させることが可能となり、先に説明した寿命等の問題を解消できる。このように、溶湯温度が保持目標温度よりも高い場合に、いきなり出力を最低まで低下するのではなく、段階的に低下する(即ち、溶湯の加熱状態をある程度維持する)のは、この保持部にどのような温度及び量の処理物或いは溶湯が投入されても、溶湯温度が急激に低下しないようにするためである。
また、各段内でも、所定の出力範囲内で、段別目標温度と現溶湯温度との偏差に従った比例制御を行う。後に詳述するが、図3の結果は、先に説明した図4における制御を、最大出力段、第一中間出力段、停止段の3段階とした場合の結果であり、出力変更の頻度が極度に低下していることが判る。
【0016】
上記の構成を採用するに、前記複数段として、前記保持バーナを停止する停止段と、最大出力段と停止段との間に設定される第一中間出力段とが設けられていることが好ましい。
この構成を採用する場合、保持バーナの出力を、最大出力、第一中間出力及び停止で運転することとなる。そして、通常の運転状態で、保持目標温度以上の所定温度範囲に溶湯温度を維持できるように第一中間出力段を設定することで、溶湯の温度維持を最大出力と第一中間出力でほぼカバーすることが可能となり、本願が問題とする出力調整機構の寿命を長くすることができる。ここで第一中間出力段の出力としてしては、最大出力(100%)に対して、その50%以下、30%以上とすると、溶湯温度保持に必要となる過半の出力域をカバーできる。
【0017】
上記の構成を採用するに、第一中間出力段と停止段との間に、第二中間出力段を備えることが好ましい。
この構成を採用する場合、保持バーナの出力を、最大出力、第一中間出力、第二中間出力及び停止で運転することとなる。そして、第一中間出力段を設けるに加えて、第二中間出力段を設け、通常の運転状態で、保持目標温度以上の所定温度範囲に溶湯温度を維持できるように第一中間出力段、第二中間出力段を設定することで、本願が問題とする出力調整機構の寿命を長くすることが可能でありながら、温度偏差に良好に適応した出力調整を行うことができる。
【0018】
これまで説明してきた構成において、異なった出力段間に渡る保持バーナの出力変更において、出力低減側の温度閾値に対して出力上昇側の温度閾値が、前記偏差の小さい側に設定されていることが、好ましい。
このようにすることで、特定の中間出力段でみると、出力が低減される側への変更及び増加される側への変更を遅らせることができる。例えば、図2に示す例では、第一中間出力段PID2では、最大出力段PID1への移行及び停止段PID3への移行が共に遅れる。結果、中間出力段での運転状態をできるだけ維持し、流量調整弁駆動系への負荷を低減させ、その寿命を長めることができる。
【0019】
前記保持バーナの出力制御としては、前記保持バーナに燃焼用ガスを供給する燃焼用ガス供給路に設けられる弁の時間域における開閉デユティーの制御或いは開度の制御とできる。
【0020】
さて、先に説明した保持バーナを備えた溶解保持炉において、処理物を溶解して溶湯を得る溶解バーナを備え、処理物の溶解状態を代表する溶解代表温度を溶解目標温度以上に維持するように溶解バーナを運転制御する溶解バーナ制御部を備えることが好ましい。
保持バーナに対して、溶解バーナを別に備え、これらを別異に制御することで、処理物の溶解と溶湯の温度保持とを、それぞれ適切な状態で実行することができる。例えば、処理物がアルミニウムの場合、その溶解雰囲気温度は1000度程度まで上昇され、溶湯の温度保持は700〜750度程度で良いが、このような異なった目的の運転を個別に実行できる。
【0021】
そして、溶解保持炉の構成、及び溶解代表温度及び溶湯温度としては、
前記処理物が投入・溶解される溶解室、前記溶解室で溶解された処理物の溶湯が流入する保持部としての保持室、前記保持室と連通連結された汲出室とを備え、前記溶解代表温度が、溶解室温度もしくは前記溶解室から排出される排ガス温度であり、前記溶湯温度が、前記汲出室の溶湯温度であり、前記溶解バーナが、前記溶解室温度もしくは前記排ガス温度に従って、最大出力と停止状態である最小出力との間で切換え制御される構成を採用することで、溶解室での溶解を溶解室からの情報に基づいて適切に実行しながら、保持室、それに連通される汲出室の溶湯を適切に温度管理し、汲出室からの出湯を良好に行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を、バーナ燃焼式の炉の一例である溶解保持炉を例に取って図に基づいて説明する。
図1は、本実施形態の溶解保持炉の概略構造を示す断面図である。
【0023】
図1に示すように、溶解保持炉1は、金属材料が投入され、当該金属材料を溶解して溶湯とする溶解室2、溶解室2に連通し、溶解された溶湯を所定温度に保温・保持する保持室3と、保持室3に連通し、図示されない鋳造機に供給するために溶湯を汲み出す汲出室4とにより構成される。尚、溶解室2、保持室3、及び汲出室4は、例えばセラミック耐火物と断熱材を用いて形成されている。
【0024】
溶解室2は、直火式の溶解バーナ5を3セット備えており、投入口からバケット6により投入された金属材料を、溶解バーナ5により溶解させ、溶湯として、当該溶解室2に連通する保持室3に導入するようになっている。このような加熱手段としては、コストの点及び応答性の点から直火式のガスバーナを用いることが好ましい。
【0025】
金属材料としては、特に限定されるものではないが、本実施形態においては、アルミダイカスト製品の製造に用いられるアルミニウム若しくはアルミニウム合金のインゴットを用いるものとする。それ以外にも、金属材料として亜鉛やマグネシウム等を用いることができる。
【0026】
溶解室2には、溶解室2への金属材料の投入状態を検出する材料検出器7と、溶解室2内から煙道を介して外部に排出される排ガスの温度を検出する排ガス温度検出器8が所定位置に設置されている。この材料検出器7による検出結果と、排ガス温度検出器8による検出結果は、共に、溶解バーナ制御部51に送られ、溶解バーナ5の運転制御に使用される。
【0027】
保持室3は、上部に直火式の保持バーナ9を備えており、当該保持室3内の下部に貯留された溶湯を、保持バーナ9により加熱して、溶湯を本願の保持目標温度以上に高温保持する。この場合も、加熱手段としては、コストの点及び応答性の点から直火式のガスバーナを用いることが好ましい。
この保持バーナ9には、燃料ガス供給路10を介して燃料ガスが、燃焼用酸素含有ガス供給路11を介して燃焼用酸素含有ガス(燃焼用空気)が供給される構成が採用されており、これらの供給路10,11に別個に流量調整弁12,13が備えられる構成が採用されている。そして、これら流量調整弁12,13の弁開度は、保持バーナ制御部52から制御指令を受けて運転制御されるモータ14,14によってそれらの開閉状態が調整される。本願にあっては、これら流量調整弁12,13及びモータ14、14と、モータ14、14から出力を流量調整弁12、13にそれぞれ伝達する駆動出力伝達機構が、本願にいう出力調整機構に相当する。
【0028】
保持室3と汲出室4との間には、隔壁15が設けられ、当該隔壁15に設けられた連通孔を介して、保持室3内の溶湯が汲出室4に導入される。
【0029】
汲出室4は、溶湯を汲み出すために上方が開放された溶湯汲出口16を有しており、当該溶湯汲出口16から図示されないラドル等で汲出室4の外部に溶湯を汲み出し、鋳造機に供給されて、金属鋳造品が製造される。
【0030】
また、汲出室4には、溶湯の温度を検出する溶湯温度検出器17が所定位置に設置されている。この溶湯温度検出器17の検出結果は、保持バーナ9を運転制御する保持バーナ制御部52に送られ、保持バーナ9の運転制御に使用される。
【0031】
次に、上記構成の溶解保持炉の運転について説明する。
図1に示すように、制御部50として、溶解バーナ5の出力を制御する溶解バーナ制御部51と、保持バーナ9の出力を制御する保持バーナ制御部52とを備えている。そして、溶解バーナ制御部51は溶解バーナ5の運転制御を受け持ち、保持バーナ制御部52は保持バーナ9の運転制御を受け持つ。これら制御部51、52の制御が互いに独立したシンプルな構成とされている。
【0032】
溶解バーナ制御部51は、材料検出器7からの材料充填状態信号、排ガス温度検出器8からの排ガス温度に基づいて、溶解バーナ5の出力を制御する。
【0033】
具体的には、材料検出器7からの材料充填状態信号が得られる状態で、排ガス温度検出器8からの排ガス温度信号に従って、溶解バーナのON、OFFを制御する。即ち、排ガス温度が、排ガスに求められる目標温度である、溶解目標温度より低い状態では、溶解バーナ5が運転され(ON)、溶解目標温度を上回った状態で、溶解バーナ5を停止させる(OFF)。
【0034】
保持バーナ制御部52は、図2に示す制御マップに従って、保持バーナ9の運転を制御する。図2に示す制御マップにおいて、横軸は温度(℃)を示し、縦軸は保持バーナ9の出力(%)を示している。ここで、温度は、先に説明した溶湯温度検出器17から検出される溶湯温度である。
【0035】
さて、保持バーナ制御部52の制御は、溶湯温度が保持目標温度SPより低い場合に、保持バーナ9を最大出力で運転し、溶湯温度が保持目標温度SPより高い場合に、溶湯温度の保持目標温度SPからの偏差が大きくなるに従って、保持バーナ9の最小出力まで2段に変更して保持バーナ9を運転するものであり、各段の段別目標温度が、当該段と当該段より出力が大きい高出力側段との境界温度として設定され、
各段内の出力制御において、前記段別目標温度と現溶湯温度との偏差に従って、少なくとも出力を比例的に変化させるように構成されている。
【0036】
以下、制御マップの構成を具体的に説明する。
この例では、出力段として、保持バーナ9の出力を最大出力(100%)とする最大出力段PID1、保持バーナ9を停止(出力0%)する停止段PID3及び、最大出力段PID1と停止段PID3との間に設定される第一中間出力段PID2とが設けられている。この例では、第一中間出力段PID2の出力(段別目標出力)を最大出力の40%に設定している。
【0037】
目標温度SPは、本願における保持目標温度に相当し、処理物がアルミニウムの場合、700度〜750度の範囲内の適切な温度とされる。
【0038】
最大出力段PID1は、目標温度SPである第四制御閾値温度EV4未満の温度範囲として設定される。従って、溶湯温度がこの温度範囲に低下した場合は、保持バーナ9は最大出力で運転される。また、この温度範囲内には、溶湯温度の低下をランプ表示する第二制御閾値温度EV2が設定されている。ランプ(図外)を点灯する制御閾値温度が第二制御閾値温度EV2であり、消灯する制御閾値温度として、その高温側に所定のオフセットdiff−1した温度が設定されている。
【0039】
第一中間出力段PID2は、第四制御閾値温度EV4以上、第五制御閾値温度EV5以下の温度範囲として設定される。従って、溶湯温度がこの温度範囲内にある場合は、保持バーナ9は、基本的に第一中間出力で運転される。ここで、この第一中間出力段PID2の段別目標出力は40%であり、この比例帯は、最大出力段PID1との境界温度であるEV4からの溶湯温度の偏差に従って、出力がこの段別目標出力に収束するように、現出力を少なくとも比例的に変化させる構成とされている。また、最大出力段PID1との関係では、出力低減側の温度閾値と出力上昇側の温度閾値(第四制御閾値温度EV4)に関して、オフセットdiff−2が設けられている。従って、出力低減側の温度閾値は、第四制御閾値温度EV4のdiff−2度高温側に設定される。
【0040】
停止段PID3は、第五制御閾値温度EV5より高い温度範囲として設定される。従って、溶湯温度がこの温度範囲より上昇した場合は、保持バーナ9は停止される。但し、この停止状態では、保持バーナ9はただちに立ち上がるように、所定の予備運転状態に維持される。また、第一中間出力段PID2との関係では、出力低減側の温度閾値(第五制御閾値温度EV5)と出力上昇側の温度閾値に関して、オフセットdiff−3が設けられている。従って、出力上昇側の温度閾値は、第五制御閾値温度EV5のdiff−3度低温側に設定される。
【0041】
さらに、この温度範囲内には、溶湯温度高を判定する第一制御閾値温度EV1が設定され、溶湯温度がこの温度より上昇した場合、保持バーナ9の運転を完全に停止する。一方、この温度より溶湯温度が下降した場合は、自動的に保持バーナ9の運転が予備的に開始される。保持バーナ9の運転を完全に停止する制御閾値温度が第一制御閾値温度EV1であり、自動的に保持バーナ9の予備的な運転が開始される制御閾値温度が、その低温側に所定のオフセットdiff−4した温度として設定されている。
【0042】
停止段の最高制御閾値温度は、第三制御閾値温度EV3とされ、この温度を溶湯温度が超えると、炉の運転自体が停止される。
【0043】
さらに、本願構成では、保持バーナ9に対する燃料ガス及び燃焼用空気の供給制御は個別に行うことができるため、当該保持バーナ9の出力が低い領域(例えば先に説明した第一中間出力段PID2)では、燃焼用空気の供給量も制限して、この出力域以下の領域で高空気比運転(空気比が1.1以上)となることを回避し、低空気比運転(空気比が1.05〜1.1未満)となるように、保持バーナ制御部52により保持バーナ9が制御される。結果、高空気比運転による排気損失を回避するように構成されている。
【0044】
上記の制御マップに従った保持バーナ9の運転制御を行った結果を示したのが図3である。一方、本願のように段階的な制御構造を採用することなく、最大出力から保持バーナ9の停止を含む出力0〜100%の範囲を対象として、目標温度と溶湯温度との偏差に基づいて保持バーナ9の出力をPID制御した結果が図4である。これらの図の記載形式は、先に図4に関して説明した例と同様である。
【0045】
これらの結果を比較すると、本願構造を採用することで、保持バーナ9は、基本的に第一中間出力段に維持する状態で運転され、必要に応じて最大出力段及び停止段に変更され、段変更の頻度が格段に減少していることが判る。
【0046】
〔別実施形態〕
(1)上記の実施形態では、最大出力段、第一中間出力段、停止段を備えた制御マップの例を示したが、第一中間出力段と停止段との間に、第二中間出力段を設けるものとしてもよい。図5に、この例の制御マップを示した。
【0047】
同図からも判明するように、出力段として、保持バーナ9の出力を最大出力(100%)とする最大出力段PID1、保持バーナ9を停止(出力0%)する停止段PID4及び、最大出力段PID1と停止段PID4との間に設定される第一中間出力段PID2、第二中間出力段PID3とが設けられている。この例では、第一中間出力段PID2の出力(段別目標出力)を最大出力の60%に、第二中間出力段PID3の出力(段別目標出力)を最大出力の40%に設定している。
【0048】
目標温度SPは、本願における保持目標温度に相当し、処理物がアルミニウムの場合、700度〜750度の範囲内の適切な温度とされる。
【0049】
最大出力段PID1は、目標温度SPである第四制御閾値温度EV4未満の温度範囲として設定される。従って、溶湯温度がこの温度範囲に低下した場合は、保持バーナ9は最大出力で運転される。
【0050】
第一中間出力段PID2は、第四制御閾値温度EV4以上、第五制御閾値温度EV5以下の温度範囲として設定される。従って、溶湯温度がこの温度範囲内にある場合は、保持バーナ9は、基本的に第一中間出力で運転される。ここで、この第一中間出力段PID2の段別目標出力は60%であり、この比例帯は、最大出力段PID1との境界温度であるEV4からの溶湯温度の偏差に従って、出力がこの段別目標出力に収束するように、現出力を少なくとも比例的に変化させる構成とされている。また、最大出力段PID1との関係では、出力低減側の温度閾値と出力上昇側の温度閾値(第四制御閾値温度EV4)に関して、オフセットdiff−2が設けられている。従って、出力低減側の温度閾値は、第四制御閾値温度EV4のdiff−2度高温側に設定される。
【0051】
第二中間出力段PID3は、第五制御閾値温度EV5以上、第六制御閾値温度EV6以下の温度範囲として設定される。従って、溶湯温度がこの温度範囲内にある場合は、保持バーナ9は、基本的に第二中間出力で運転される。ここで、この第二中間出力段PID3の段別目標出力は40%であり、この比例帯は、最大出力段PID2との境界温度であるEV5からの溶湯温度の偏差に従って、出力がこの段別目標出力に収束するように、現出力を少なくとも比例的に変化させる構成とされている。また、第一中間出力段PID2との関係では、出力低減側の温度閾値(第五制御閾値温度EV5)と出力上昇側の温度閾値に関して、オフセットdiff−3が設けられている。従って、出力上昇側の温度閾値は、第五制御閾値温度EV5のdiff−3度低温側に設定される。
【0052】
停止段PID4は、第六制御閾値温度EV6より高い温度範囲として設定される。従って、溶湯温度がこの温度範囲より上昇した場合は、保持バーナ9は停止される。また、第二中間出力段PID3との関係では、出力低減側の温度閾値(第六制御閾値温度EV6)と出力上昇側の温度閾値に関して、オフセットdiff−4が設けられている。従って、出力上昇側の温度閾値は、第六制御閾値温度EV6のdiff−4度低温側に設定される。
(2) 上記の実施の形態では、本願の対象として、溶解バーナと保持バーナとを備えた溶解保持炉の例を示したが、本願に係る制御形態は、保持バーナを備えた炉に対して適用でき、溶融亜鉛鍍金炉等に備えられる、処理物の溶解・保持を目的とする保持バーナに対しても適用できる。
さらに、本願の構成は、バーナの燃焼に伴って被加熱部の温度を所定の保持目標温度以上に維持するバーナ燃焼式の炉に採用でき、溶解保持炉、溶解炉、溶融金属鍍金炉、焼成炉、焼鈍炉、加熱炉、熱処理炉等の工業炉一般に採用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
例えば、溶湯温度を安定に保持することが可能でありながら、保持バーナに対して設けられる出力調整機構の寿命を長く保つことができる溶解保持炉を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本願に係る溶解保持炉の構成を示す図
【図2】制御マップを示す図
【図3】図2に示す制御マップに従った保持バーナの運転を行った結果を示す図
【図4】従来型の保持バーナの運転制御を行った結果を示す図
【図5】制御マップの別構成例を示す図
【符号の説明】
【0055】
1 溶解保持炉
2 溶解室
3 保持室(保持部)
4 汲出室
5 溶解バーナ
9 保持バーナ
50 制御部
51 溶解バーナ制御部
52 保持バーナ制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガス供給路から燃料ガスの供給を受けて燃焼する保持バーナと、
前記保持バーナの燃焼により、保持目標温度に加熱保持される被加熱部とを備え、
前記燃料ガス供給路に設けられた流量調整弁を制御して前記保持バーナの出力を制御するバーナ制御部を備えたバーナ燃焼式の炉であって、
前記バーナ制御部が、被加熱部温度が前記保持目標温度より低い場合に保持バーナを最大出力に制御し、被加熱部温度が前記保持目標温度より高い場合に、前記被加熱部温度の前記保持目標温度からの偏差に従って、保持バーナの停止を含む最小出力まで有限の複数段で出力を制御する構成で、
前記各段について、当該各段の段別目標出力が予め設定可能に構成されるとともに、当該各段の段別目標温度が、当該段と当該段より出力が大きい高出力側段との境界温度として設定され、
前記各段内の出力制御において、前記段別目標温度と現被加熱部温度との偏差に従って、出力が前記段別目標出力に収束するように、現出力を少なくとも比例的に変化させるバーナ燃焼式の炉。
【請求項2】
前記被加熱部が、処理物が投入される、又は処理物の溶湯が流入もしくは保持される保持部であるとともに、
前記保持バーナが、前記保持部の溶湯を加熱する保持バーナであり、
前記バーナ制御部が、前記保持バーナへの燃料ガス供給路に設けられた流量調整弁を制御して前記保持バーナの出力を制御する保持バーナ制御部であり、
前記保持バーナ制御部が、溶湯温度が保持目標温度より低い場合に前記保持バーナを最大出力に制御し、前記溶湯温度が前記保持目標温度より高い場合に、前記溶湯温度の前記保持目標温度からの偏差に従って、保持バーナの停止を含む最小出力まで有限の複数段で出力を制御する構成で、
前記各段について、当該各段の段別目標出力が予め設定可能に構成されるとともに、当該各段の段別目標温度が、当該段と当該段より出力が大きい高出力側段との境界温度として設定され、
前記各段内の出力制御において、前記段別目標温度と現溶湯温度との偏差に従って、出力が前記段別目標出力に収束するように、現出力を少なくとも比例的に変化させる溶解保持炉である請求項1記載のバーナ燃焼式の炉。
【請求項3】
前記複数段として、前記保持バーナを停止する停止段と、最大出力段と停止段との間に設定される第一中間出力段とが設けられる請求項1又は2記載のバーナ燃焼式の炉。
【請求項4】
前記第一中間出力段と停止段との間に、第二中間出力段を備えた請求項3記載のバーナ燃焼式の炉。
【請求項5】
異なった出力段間に渡る保持バーナの出力変更において、出力低減側の温度閾値に対して出力上昇側の温度閾値が、前記偏差の小さい側に設定されている請求項1〜4のいずれか一項記載のバーナ燃焼式の炉。
【請求項6】
前記処理物を溶解して前記溶湯を得る溶解バーナを備え、
処理物の溶解状態を代表する溶解代表温度を溶解目標温度以上に維持するように前記溶解バーナを運転制御する溶解バーナ制御部を備えた前記溶解保持炉である請求項2記載のバーナ燃焼式の炉。
【請求項7】
前記処理物が投入・溶解される溶解室、前記溶解室で溶解された処理物の溶湯が流入する前記保持部としての保持室、前記保持室と連通連結された汲出室とを備え、前記溶解代表温度が、溶解室温度もしくは前記溶解室から排出される排ガス温度であり、前記溶湯温度が、前記汲出室の溶湯温度であり、
前記溶解バーナが、前記溶解室温度もしくは前記排ガス温度に従って、最大出力と停止状態である最小出力との間で切換え制御される溶解保持炉である請求項6記載のバーナ燃焼式の炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−19474(P2010−19474A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179511(P2008−179511)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】