説明

パイ生地、パイ及びその製造方法

【課題】水分値が低く長期保存が可能で、流通時における割れが抑制されたパイ生地、パイ及びその製造法を提供する。
【解決手段】円形状のパイ生地であって、パイ生地の略中心を通る複数の線上にピケ穴を有し、かつ、前記線上の中心部のピケ穴の間隔が周辺部のピケ穴の間隔よりも広げられている、パイ生地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイ生地、パイとその製造方法に関し、詳しくはパイの流通に必要な物理的強度を有し、かつ、喫食時に所定の形状に割ることができるパイ生地、パイとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パイは小麦粉主体のドウの層とマーガリンやバターなどの油の層が何層にも重なっており、焼成時にこの小麦粉のドウに空隙を生じてさくっとした食感を示す。
【0003】
しかし、その空隙構造のためにパイの浮きばらつきが生じて作業時や流通時に壊れやすいという問題がある。
【0004】
パイの水分値を高くすれば割れを防止できるが、パイを長期保存するためには水分値を低くしてさくさくとしたものにする必要がある。
【0005】
パイの流通時の割れを防止するための方策として、特許文献1ではパイ表面水溶性多糖類を塗布、被覆することで割れを防止する技術が開示されているが、表面に水溶性多糖類を塗ると空気穴がふさがるために焼成時に全体が膨らみ、工場での作業性が悪くなること、焼成による水抜けが悪くなるため水分値が高めになり長期保存には適さないなどの問題がある。
【0006】
特許文献2は、浮き、大きさのばらつきを防止するために焼成時に上蓋を設けてパイの厚みを一定化させることで、作業性を効率化して割れを防止する技術を開示する。しかしながら、特許文献2の方法では上蓋となる天板に設備投資が必要となり、また、焼成条件調整が難しくなる不具合があった。
【特許文献1】特開平4-287635号公報
【特許文献2】特開2005-333847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、水分値が低く長期保存が可能で、流通時における割れが抑制されたパイ生地、パイ及びその製造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題に鑑み検討を重ねた結果、円形状のパイ生地を焼成した際に、割れが生じる原因は下記の通りであることがわかった。
(1)焼成時において、パイ生地の中心部の水抜けが悪いために外側との水分差が生じ、そのためにパイの保存中に水分移行が発生してピケ穴に沿って割れる。
(2)パイ中に空隙が生じるため流通時の割れが生じやすくなる。
【0009】
これらの問題を解消するために、本発明者はピケ穴を工夫することでパイの強度を増す方法を考えた。このピケ穴の工夫は焼成時の浮きを安定化し、割れの防止につながる。
【0010】
本発明者は、さらにピケ穴について検討した結果、円形のパイ生地の中心部におけるピケ穴を少なくすることで、パイの強度が増して流通時に壊れず、かつ、ピケ穴に沿って容易に手で割れることを見出した。
【0011】
本発明は、以下のパイ生地、パイ及びその製造方法を提供するものである。
項1. 円形状のパイ生地であって、パイ生地の略中心を通る複数の線上にピケ穴を有し、かつ、前記線上の中心部のピケ穴の間隔が周辺部のピケ穴の間隔よりも広げられている、パイ生地。
項2. パイ生地の中心部において、前記線上の対称位置にあたるピケ穴の少なくとも1つが形成されず、それにより前記線上の中心部のピケ穴の間隔が周辺部のピケ穴の間隔よりも広げられている、項1に記載のパイ生地。
項3. 円形状のパイであって、パイ生地の略中心を通る複数の線上にピケ穴を有し、前記線上の中心部のピケ穴の間隔が周辺部のピケ穴の間隔よりも広げられており、前記線上のピケ穴で囲まれる内部が膨らみ、ピケ穴及びその周辺は膨化が抑制され、中心部は周辺部と同程度に膨らんでいる、パイ。
項4. 円形状のパイ生地の略中心を通る複数の線上に、前記線上の中心部のピケ穴の間隔が周辺部のピケ穴の間隔よりも広げられているように、ピケ穴を形成する工程、得られたパイ生地を焼成する工程を含み、焼成して得られたパイを前記線に沿って割ることができる、パイの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
サイズの大きいパイは目を引き、インパクトがあり、これを割ることに楽しさがある。
【0013】
本発明によれば、大きなサイズのパイであっても流通時の割れが防止され、かつ、ピケ穴に沿って手で容易にパイを割ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明において、パイ生地としては、ドウの薄い層と油性層とが交互に積層した構造を有するパイ生地が挙げられる。折りパイ生地が好ましいが、ねりパイ生地であっても良い。
【0015】
パイ生地の原料としては、特に限定されず、パイに通常使用される原料が広く使用できる。例えばドウには小麦粉、ライ麦粉、米粉等の穀粉、でんぷん、砂糖、麦芽糖、ブドウ糖、乳糖、トレハロース、エリスリトール、ソルビトール、ラクチトール、キシリトール、マルチトール等の糖類及び糖アルコール、牛乳、練乳、チーズ、ホエー、全粉乳、脱脂粉乳、カゼイン等の乳製品、重曹、炭酸アンモニウム、ベーキングパウダー等の膨化剤、シュガーエステル、レシチン、グリセリンエステル等の乳化剤、香料、食塩、卵等が使用でき、油性層にはショートニング、バター、マーガリン等の油脂が使用できる。
【0016】
パイ生地の製法は、具体的には、折りパイ生地は小麦粉などの穀粉に加水してドウ(生地)を作り、油脂を得られた生地に包み、折りと展延を数回繰り返して調製することができる。パイ生地の厚さは1〜5mm程度、形状は円形状であり、大きさは直径で5〜18cm程度、好ましくは6〜15cm程度である。円形状のパイ生地は、パイ生地をカットすることにより得ることができる。
【0017】
本明細書において円形状のパイ/パイ生地の中心部とは、中心部の直径が円形状のパイ/パイ生地の直径の3分の1から10分の1、あるいは3分の1から6分の1、特に約4分の1である。この中心部において、ピケ穴の数が低減されている。ここで、ピケ穴の数が低減されているとは、例えば直径8cmであって、中心を通る3本の直径上にピケ穴が形成されている場合、中心部におけるピケ穴の数が0〜4個、好ましくは1〜3個、特に2〜3個である。この中心部のピケ穴の数は、パイ/パイ生地が大きくなるほど、また中心部を大きくとるほど数が多くてもよく、少なくとるほど数が少なくなる。
【0018】
なお、パイ生地は焼成により大きさ(サイズ)が変化する。焼成後のパイのサイズは、厚さ10〜30mm程度、形状は略円形状であり、大きさは直径で4〜17cm程度、好ましくは5〜14cm程度である。
【0019】
パイ/パイ生地が小さすぎると喫食時の満足感が低下し、パイを手で適当な大きさに割ったときにパイ片が小さくなりすぎ、パイ/パイ生地が大きすぎると、厚さにもよるが、流通時にパイが割れやすくなる。
【0020】
得られたパイ生地には、ピケ穴を形成する。
【0021】
ピケ穴は、略中心を通る線上、すなわち直径又はその付近に沿って形成される。ピケ穴は1つの直径上に形成されるだけでは浮きを効果的に抑制することはできないため、円形状のパイ生地の中心付近で交差する複数の直径に沿ってピケ穴を形成する。ピケ穴が複数の線上に形成される場合、複数の線は、これら線のなす角ができるだけ等しくなるようにする。例えば複数の線が2本の場合、2本の線は円形状のパイ生地の中心またはその付近において各々約90°の角度で交差し、複数の線が3本の場合、隣接する線は各々約60°の角度をなし、複数の線が4本の場合、隣接する線は各々約45°の角度をなす。円形状のパイ生地には、2〜4本、好ましくは3本の略中心を通る線に沿ってピケ穴を形成するのが好ましい。
【0022】
ピケ穴の形状は、幅0.5〜5mm、長さ2〜10mmの線状がよく、特に好ましくは幅1mm×長さ4〜6mmの線状がよい。ピケ穴が大きすぎると、焼成後のパイの強度が不十分になり、流通時に割れやすくなる。
【0023】
例えば、本発明の特に好ましいピケ穴は、例えば直径が8cmのパイ生地の場合、一方の半径上に4カ所、他方の半径上に3カ所形成し、一方の半径上の中心に最も近いピケ穴を省略することが好ましい。
【0024】
ピケ穴を形成したパイ生地は、必要に応じて焼成前に生地を寝かし、焼成する。焼成の条件は、公知の条件がそのまま使用でき、特に限定されないが、例えば180〜250℃程度で、10〜30分程度焼成すればよい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例に基づき本発明をより詳細に説明する。
実施例1
小麦粉300gに水130gを加えてよく練りドウを作り、バター(マーガリン)80gを用い、常法に従い円形状(直径8cm)の折りパイ生地1を調製した。次に、このパイ生地1に、互いに60°の角度をなす3本の直径上にピケ穴2を形成した。
【0026】
ピケ穴は幅1mm×長さ4〜6mmの線状である。円形状の当該ピケ穴の中心部3(半径1cm)内部のピケ穴の個数を0〜6個にし、220℃で25分焼成してパイとし、これを包装後容器に詰めて流通させ、割れ率を測定した。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

表1に示されるように、中心部のピケ穴を少なくすることで、浮きが良好であり、流通における割れ率が許容範囲内であり、且つ、手で容易に割ることができるパイを得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】半径1cmの中心部に6個のピケ穴を有するパイ生地を示す。
【図2】半径1cmの中心部に3個のピケ穴を有するパイ生地を示す。
【符号の説明】
【0029】
1 パイ生地
2 ピケ穴
3 中心部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形状のパイ生地であって、パイ生地の略中心を通る複数の線上にピケ穴を有し、かつ、前記線上の中心部のピケ穴の間隔が周辺部のピケ穴の間隔よりも広げられている、パイ生地。
【請求項2】
パイ生地の中心部において、前記線上の対称位置にあたるピケ穴の少なくとも1つが形成されず、それにより前記線上の中心部のピケ穴の間隔が周辺部のピケ穴の間隔よりも広げられている、請求項1に記載のパイ生地。
【請求項3】
円形状のパイであって、パイ生地の略中心を通る複数の線上にピケ穴を有し、前記線上の中心部のピケ穴の間隔が周辺部のピケ穴の間隔よりも広げられており、前記線上のピケ穴で囲まれる内部が膨らみ、ピケ穴及びその周辺は膨化が抑制され、中心部は周辺部と同程度に膨らんでいる、パイ。
【請求項4】
円形状のパイ生地の略中心を通る複数の線上に、前記線上の中心部のピケ穴の間隔が周辺部のピケ穴の間隔よりも広げられているように、ピケ穴を形成する工程、得られたパイ生地を焼成する工程を含み、焼成して得られたパイを前記線に沿って割ることができる、パイの製造方法。

【図1】
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【図2】
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