説明

パッシブラジエーターおよびこれを用いたスピーカーシステム

【課題】 小入力時にはドロンコーンの振幅を抑制せず、大入力時にドロンコーンの振幅を抑制して異音が発生しにくいようにするとともに、音声再生能力に優れるパッシブラジエーターおよびこれを用いたスピーカーシステムを提供する。
【解決手段】 パッシブラジエーターは、ドロンコーンと、ドロンコーンに連結する制動コイルと、制動コイルが挿入される磁気空隙を有する磁気回路と、を備え、制動コイルが、ボビンと、ボビンと同心円状の第1コイルおよび第2コイルと、を備え、好ましくは、制動コイルの第1コイルが、ボビンの外周側面を巻回すコイルであり、第2コイルが、第1コイルと離隔してボビンの外周側面を巻回すコイルであり、第1コイルと第2コイルとの離隔距離Dが、磁気回路の磁気空隙を規定するプレートの厚さH0よりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドロンコーンを含むパッシブラジエーターと、これを備えるスピーカーシステムあって、特に、音声再生能力に優れ、大信号入力時にもドロンコーンの振幅を抑制して、異音が発生しにくいパッシブラジエーターに関する。
【背景技術】
【0002】
音声を再生するスピーカーを取り付けるディスプレイ等の音響機器においては、スピーカーを取り付けるのに要する空間を小型化することが要望されている。一方で、小型のスピーカーシステムにおいて、キャビネットの体積が小さくなると、キャビネットが動電型スピーカーの振動板の背面側に規定する音響容量が小さくなり、それ以上の周波数で平坦な再生音圧周波数特性を得ることができる最低共振周波数f0[Hz]が上昇してしまい、その結果、低音域が不足して十分な音声再生能力が得られない、という問題を生じる場合がある。したがって、従来には、これらの問題を解決するために様々なスピーカーシステムが提案されている。動電型スピーカーを備えるスピーカーシステムでは、代表的には、密閉型キャビネット、バスレフ型キャビネット、等が存在し、あるいは、ドロンコーン、あるいは、パッシブラジエーターを備えるスピーカーシステムがある。
【0003】
また、従来のドロンコーン、あるいは、パッシブラジエーターを備えるスピーカーシステムでは、様々な工夫を加えて改善を図ろうとするものがある。例えば、ドロンコーンに可動線輪および磁気回路を通常のスピーカーと同様に付加せしめて、抵抗、インダクタンスまたはキャパシタンス等の回路素子を単独あるいは組み合わせて該可動線輪に接続してなるドロンコーン共振器の構造がある。(特許文献1)。
【0004】
また、従来の低音域増強部材としてのドロンコーン、あるいは、パッシブラジエーターを備えるスピーカーシステムでは、低音域増強部材がスピーカーシステムの共振周波数とは異なる低域共振周波数を有しているとともに、低音域増強部材には低音域増強部材の振動に応じた検出電流を出力する振動検出手段が設けられており、この振動検出手段は、増幅手段から出力される信号電流を上記検出電流で一層増幅させる帰還手段に接続されていることを特徴とするものがある。(特許文献2)。
【0005】
また、従来の動電型スピーカーでは、ボイスコイルを構成するボビンに第1のコイルを巻き回し、さらにこの第1のコイルの上から第2のコイルを巻き回して構成するダブルボイスコイルのスピーカーがある。あるいは、ダブルボイスコイルの構成を変えて、コイルボビンの上下に同一方向に巻着され、且つ両者の導通がとられた上コイル及び下コイルからなるボイスコイルを有するスピーカーユニットであって、前記コイルボビンが静止状態では、前記上コイル及び下コイルのそれぞれのコイル長の略半分がプレートとポールピースとの間の磁気ギャップ内に位置し、駆動状態では、前記上コイル又は下コイルの何れか一方が前記磁気ギャップから外れたとき、前記上コイル又は下コイルの他方が前記磁気ギャップ内に残るように振幅範囲が設定されていることを特徴とするスピーカーユニットがある。(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭44−26140号公報 (第2図〜第4図)
【特許文献2】特開平3−232399号公報 (第1図)
【特許文献3】特開平9−37388号公報 (第1図〜第16図)
【0007】
しかしながら、従来技術のドロンコーン、あるいは、パッシブラジエーターを備えるスピーカーシステムでは、いずれも充分ではない。パッシブラジエーターの特性の制御に関しては、ドロンコーンを支持するエッジの硬さを調整する、または、ドロンコーンの重量を調整する他に方法が無い。また、機械的に大きな音声信号を再生する大入力時にドロンコーンの振幅を抑制して異音が発生しにくいようにすると、小入力時にもドロンコーンの振幅を抑制してしまうという問題がある。一方、特許文献1および2に記載のスピーカーシステムでは、パッシブラジエーターの特性の制御が可能になるものの、構造が複雑になりコストアップになる、という問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解決するためになされたものであり、その目的は、小入力時にはドロンコーンの振幅を抑制せず、大入力時にドロンコーンの振幅を抑制して異音が発生しにくいようにするとともに、音声再生能力に優れるパッシブラジエーターおよびこれを用いたスピーカーシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のパッシブラジエーターは、ドロンコーンと、ドロンコーンに連結する制動コイルと、制動コイルが挿入される磁気空隙を有する磁気回路と、を備え、制動コイルが、ボビンと、ボビンと同心円状の第1コイルおよび第2コイルと、を備える。
【0010】
好ましくは、本発明のパッシブラジエーターは、制動コイルの第1コイルが、ボビンの外周側面を巻回すコイルであり、第2コイルが、第1コイルの外周側面を巻回すコイルであり、第1コイルの巻き幅H1、および、第2コイルの巻き幅H2が、磁気回路の磁気空隙を規定するプレートの厚さH0よりも大きい。
【0011】
また、好ましくは、本発明のパッシブラジエーターは、制動コイルの第1コイルが、ボビンの外周側面を巻回すコイルであり、第2コイルが、第1コイルと離隔してボビンの外周側面を巻回すコイルである。
【0012】
また、好ましくは、本発明のパッシブラジエーターは、制動コイルの第1コイルと第2コイルとの離隔距離Dが、磁気回路の磁気空隙を規定するプレートの厚さH0よりも小さい。
【0013】
また、本発明のスピーカーシステムは、上記のパッシブラジエーターと、パッシブラジエーターの制動コイルの第1コイルおよび第2コイルに接続し、第1コイルの両端を開放または短絡する、および/または、第2コイルの両端を開放または短絡するスイッチ回路と、音声信号が供給されるスピーカーユニットと、パッシブラジエーターおよびスピーカーユニットが取り付けられて音響容量を規定するキャビネットと、を備える。
【0014】
また、好ましくは、本発明のパッシブラジエーターは、ドロンコーンと、ドロンコーンに連結する制動コイルと、制動コイルが挿入される磁気空隙を有する磁気回路と、ドロンコーンを振動可能に支持するエッジと、エッジおよび磁気回路と連結するフレームと、フレームまたは磁気回路に固定されて制動コイルのコイルに接続するスイッチ回路と、を備え、制動コイルが、ボビンと、第1コイルと、第2コイルと、を備え、スイッチ回路が、第1コイルの両端を開放または短絡する、および/または、第2コイルの両端を開放または短絡するスイッチ素子を有する。
【0015】
また、好ましくは、本発明のスピーカーシステムは、上記のパッシブラジエーターと、音声信号が供給されるスピーカーユニットと、パッシブラジエーターおよびスピーカーユニットが取り付けられて音響容量を規定するキャビネットと、を備える。
【0016】
以下、本発明の作用について説明する。
【0017】
本発明のパッシブラジエーターは、ドロンコーンと、ドロンコーンに連結する制動コイルと、制動コイルが挿入される磁気空隙を有する磁気回路と、を備え、制動コイルが、ボビンと、ボビンと同心円状の第1コイルおよび第2コイルと、を備える。つまり、本発明のパッシブラジエーターは、ドロンコーンに連結して磁気回路の磁気空隙に挿入される制動コイルが、ボビンと同心円状の第1コイルおよび第2コイルと、を備えるダブルボイスコイルである。このパッシブラジエーターは、ドロンコーンを振動可能に支持するエッジと、エッジおよび磁気回路と連結するフレームと、制動コイルのコイルに接続する後述するスイッチ回路と、をさらに備えていてもよい。
【0018】
また、本発明のスピーカーシステムは、上記のパッシブラジエーターと、音声信号が供給されるスピーカーユニットと、パッシブラジエーターおよびスピーカーユニットが取り付けられて音響容量を規定するキャビネットと、を備え、そして、パッシブラジエーターの制動コイルの第1コイルおよび第2コイルに接続し、第1コイルの両端を開放または短絡する、および/または、第2コイルの両端を開放または短絡するスイッチ回路を備える。
【0019】
したがって、本発明のパッシブラジエーターおよびこれを用いたスピーカーシステムは、制動コイルの第1コイルおよび第2コイルに接続するスイッチ回路が、第1コイルの両端を開放または短絡する、および/または、第2コイルの両端を開放または短絡するので、スイッチ回路のオン/オフの組み合わせによりドロンコーンの振幅の抑制を可変することができる。もちろん、スイッチ回路は、パッシブラジエーターのフレームまたは磁気回路に固定されていてもよく、スピーカーシステムを構成する他のキャビネット等に取り付けられていてもよい。
【0020】
ここで、パッシブラジエーターの制動コイルは、ダブルボイスコイルの一方の第1コイルが、ボビンの外周側面を巻回すコイルであり、第2コイルが、第1コイルの外周側面を巻回すコイルであればよい。このとき、第1コイルの巻き幅H1、および、第2コイルの巻き幅H2が、磁気回路の磁気空隙を規定するプレートの厚さH0よりも大きいので、大入力時にドロンコーンの振幅を抑制して異音が発生しにくいようにすることができる。
【0021】
あるいは、パッシブラジエーターの制動コイルは、ダブルボイスコイルの一方の第1コイルが、ボビンの外周側面を巻回すコイルであり、第2コイルが、第1コイルと離隔してボビンの外周側面を巻回すコイルであればよい。さらに、制動コイルの第1コイルと第2コイルとの離隔距離Dが、磁気回路の磁気空隙を規定するプレートの厚さH0よりも小さくなるようにすればよい。この様な制動コイルの構成により、小入力時にはドロンコーンの振幅を抑制せず、大入力時にドロンコーンの振幅を抑制して異音が発生しにくいようにすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のパッシブラジエーターおよびこれを用いたスピーカーシステムは、小入力時にはドロンコーンの振幅を抑制せず、大入力時にドロンコーンの振幅を抑制して異音が発生しにくいようにするとともに、音声再生能力に優れるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の好ましい実施形態によるスピーカーシステム1について説明する図である。(実施例1)
【図2】本発明の好ましい実施形態によるスピーカーシステム1について説明する図である。(実施例1)
【図3】本発明のパッシブラジエーター10について説明する図である。(実施例1)
【図4】本発明の他のパッシブラジエーター10aについて説明する図である。(実施例2)
【図5】本発明の他のパッシブラジエーター10bについて説明する図である。(実施例3)
【図6】本発明の好ましい実施形態によるスピーカーシステム1のパッシブラジエーター10、ならびに、パッシブラジエーター10aの振幅特性を表すグラフである。(実施例1、2)
【図7】本発明の好ましい実施形態によるパッシブラジエーター10aを用いるスピーカーシステム1の軸上1m音圧周波数特性を表すグラフである。(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施形態によるパッシブラジエーターおよびこれを用いたスピーカーシステムについて説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【実施例1】
【0025】
図1および図2は、本発明の好ましい実施形態によるパッシブラジエーター10を用いるスピーカーシステム1を説明する図である。図1(a)は、スピーカーシステム1を前面側から見た正面図であり、図1(b)は、スピーカーシステム1の平面断面図である。また、図2(a)、図2(b)、および、図2(c)、は、スピーカーシステム1を背面側から見た背面図であり、後述するスイッチ回路7を構成する端子7a、7b、7c、および、7dに接続する接続バー9の状態が異なる場合の図である。なお、説明に不要なスピーカーシステム1の一部の構造や、内部構造等は、図示並びに説明を省略する。
【0026】
本実施例のスピーカーシステム1は、略直方体状のキャビネット2を備え、その前面バフルに、口径8cmのスピーカー振動板を備える動電型スピーカーであるフルレンジスピーカー3と、口径2.5cmのスピーカー振動板を備える高音域用のツィーター4と、口径8cmのドロンコーンを備えるパッシブラジエーター10と、が取り付けられている。キャビネット2の背面側には、フルレンジスピーカー3およびツィーター4に接続線6を介して接続されるターミナル5と、パッシブラジエーター10に接続線8を介して接続されるスイッチ回路7と、が取り付けられている。
【0027】
略直方体状のキャビネット2は、その内部空間にほぼ密閉状態に囲われる空気が、スピーカーシステム1の音響容量を規定する。したがって、本実施例のスピーカーシステム1では、音声信号がターミナル5に入力されると、フルレンジスピーカー3およびツィーター4が直接にそれぞれの振動板から再生音を放射する。さらに、フルレンジスピーカー3の振動板の背面側のキャビネット2の空気を介してパッシブラジエーター10のドロンコーンが振動し、パッシブラジエーター10は、低音域の再生音を放射する。
【0028】
図3は、本発明のパッシブラジエーター10について説明する図である。具体的には、図3(a)は、パッシブラジエーター10の側面図および断面図であり、図3(b)は、コイル及び磁気回路付近の構造を示すX部分拡大図である。パッシブラジエーター10は、逆ドーム状の断面を有するドロンコーン11と、ドロンコーン11の背面側でドロンコーン11およびコイルボビン14に連結するコーン振動板12と、ドロンコーン11およびコーン振動板12の外周端側を振動可能に支持するエッジ13と、コイルボビン14に巻回される制動コイル15と、コイルボビン14を振動可能に中心保持するダンパー16と、エッジ13の外周側及びダンパー16の外周側が固定されるフレーム17と、を含む。二重振動板構造を形成するドロンコーン11、コーン振動板12、および、コイルボビン14は、分割振動を生じにくい強固な振動系を形成することができる。
【0029】
また、パッシブラジエーター10は、フレーム17に連結するプレート18と、プレート18との間に磁石20を狭持し、かつ、制動コイル15が配置される磁気空隙を規定するポール19と、ポール19のアンダープレートに連結されるキャンセルマグネット21と、キャンセルマグネット21に連結するカバー22と、を含む。つまり、パッシブラジエーター10は、磁気空隙を規定された磁気回路を有しており、この磁気空隙には高い磁束密度を有する直流磁界が形成されている。また、パッシブラジエーター10のドロンコーン11に連結する制動コイル15は、図3(b)に示すように、この磁気回路の磁気空隙に配置される。制動コイル15は、コイルボビン14と同心円状の第1コイル15aおよび第2コイル15bと、を備える。制動コイル15の第1コイル15aは、コイルボビン14の外周側面を巻回すコイルであり、第2コイル15bが、第1コイル15aの外周側面を巻回すコイルである。なお、本実施例では、第1コイル15aの巻き幅H1、および、第2コイル15bの巻き幅H2は、ともに約7.3mmであり、磁気回路の磁気空隙を規定するプレート18の厚さH0約4.5mmよりも大きくされている。
【0030】
また、パッシブラジエーター10は、フレーム17に固定される端子板23aおよび23bを備える。絶縁体で形成される端子板23aおよび23bには、それぞれ正負の接続端子24aおよび24bと、正負の接続端子24cおよび24dと、が固定されている。さらに、制動コイル15の第1コイル15aは、その(図示しない)引出線が錦糸線25aおよび25bの一端側に接続されて、錦糸線25aおよび25bの他端側が正負の接続端子24aおよび24bに接続されている。同様に、制動コイル15の第2コイル15bは、その(図示しない)引出線が錦糸線25cおよび25dの一端側に接続されて、錦糸線25cおよび25dの他端側が正負の接続端子24cおよび24dに接続されている。なお、第1コイル15aおよび第2コイル15bは、同じ方向に巻回されているコイルであるので、例えば、コイルの巻始め側を正の接続端子24aおよび24cに、コイル巻終わり側を負の接続端子24bおよび24dに、接続すればよい。
【0031】
パッシブラジエーター10を含むスピーカーシステム1では、制動コイル15の第1コイル15aおよび第2コイル15bが、接続線8を介してスイッチ回路7に接続する。具体的には、スイッチ回路7は、相互に絶縁された正負の端子7a、7b、7c、および、7dを含む。接続線8は、スイッチ回路7の端子7aと第1コイル15aの一方端に接続する接続端子24aとを接続し、スイッチ回路7の端子7bと第1コイル15aの他方端に接続する接続端子24bとを接続し、スイッチ回路7の端子7cと第2コイル15bの一方端に接続する接続端子24cとを接続し、スイッチ回路7の端子7dと第2コイル15bの他方端に接続する接続端子24dとを接続する。
【0032】
パッシブラジエーター10を備えるスピーカーシステム1では、音声信号がターミナル5に入力されて、フルレンジスピーカー3の振動板が振動すると、フルレンジスピーカー3の振動板の背面側のキャビネット2の空気を介してパッシブラジエーター10のドロンコーン11が振動し、パッシブラジエーター10は低音域の再生音を放射する。このとき、パッシブラジエーター10のドロンコーン11が振動すると、ドロンコーン11に連結する制動コイル15が磁気回路の磁気空隙に配置されているので、制動コイル15の第1コイル15aおよび第2コイル15bには、ドロンコーン11の振動速度に略比例する起電力が発生する。その結果、第1コイル15aおよび第2コイル15bは、それぞれ開放されたスイッチ回路7の端子7aおよび7b、または、端子7cおよび7dに接続されているので、これらの端子7の間を接続バー9aまたは9bによって連結すると、第1コイル15aまたは第2コイル15bが短絡されることになる。
【0033】
例えば、スイッチ回路7の端子7aおよび7bを短絡せずに開放している状態では、第1コイル15aには起電力による電流は流れない。次にスイッチ回路7の端子7aおよび7bを短絡すると、ドロンコーン11の振動速度に略比例する起電力と第1コイル15aの直流抵抗とに従って第1コイル15aに制動電流が流れる。磁気回路の磁気空隙中に配置される第1コイル15aに流れる制動電流は、ドロンコーン11の振動速度を抑制する方向に流れる。つまり、第1コイル15aに流れる制動電流は、ドロンコーン11の振動速度とは反対方向の駆動力を制動コイル15に発生させて、ドロンコーン11の振動速度を抑制する。同様に、スイッチ回路7の端子7cおよび7dを短絡すると、第2コイル15bに流れる制動電流も、ドロンコーン11の振動速度とは反対方向の駆動力を制動コイル15に発生させて、ドロンコーン11の振動速度を抑制する。
【0034】
したがって、スイッチ回路7の端子7の間を接続バー9aまたは9bによって連結すると、第1コイル15a、および/または、第2コイル15bの両端を開放または短絡することができ、これらのオン(短絡)/オフ(開放)の組み合わせによりパッシブラジエーター10のドロンコーン11の振幅の抑制を可変することができる。例えば、図2(a)の場合のスピーカーシステム1は、第1コイル15aおよび第2コイル15bの両端を開放する場合であり、図2(b)の場合は、第1コイル15aの両端を接続バー9aで短絡し、かつ、第2コイル15bの両端を開放する場合であり、図2(c)の場合は、第2コイル15aの両端を接続バー9aで短絡し、かつ、第2コイル15bの両端を接続バー9bで短絡する場合である。もちろん、スイッチ回路7のオン(短絡)/オフ(開放)の組み合わせは、上記の場合に限られない。
【実施例2】
【0035】
図4は、本発明の他のパッシブラジエーター10aについて説明する図である。具体的には、図4(a)は、パッシブラジエーター10aの側面図および断面図であり、図4(b)は、コイル及び磁気回路付近の構造を示すX部分拡大図である。パッシブラジエーター10aは、先のパッシブラジエーター10と比較して、制動コイル15の構成が異なる実施例であり、ドロンコーン11等の他の構成は共通する。したがって、共通する部分には同一の符号を付して、説明は省略する。また、本発明のパッシブラジエーター10aは、先のパッシブラジエーター10に代えて、スピーカーシステム1を構成することができる。
【0036】
パッシブラジエーター10aのドロンコーン11に連結する制動コイル15は、図4(b)に示すように、この磁気回路の磁気空隙に配置される。制動コイル15は、コイルボビン14と同心円状の第1コイル15aおよび第2コイル15bと、を備える。つまり、制動コイル15の第1コイル15aが、コイルボビン14の外周側面を巻回すコイルであり、第2コイル15bが、第1コイル15aと離隔してコイルボビン14の外周側面を巻回すコイルである。なお、本実施例では、第1コイル15aの巻き幅H1、および、第2コイル15bの巻き幅H2は、ともに約3.3mmであり、磁気回路の磁気空隙を規定するプレート18の厚さH0約4.5mmよりも小さくされている。また、第1コイル15aと第2コイル15bとの離隔距離Dが約2.3mmであり、磁気回路の磁気空隙を規定するプレートの厚さH0よりも小さい。
【0037】
また、パッシブラジエーター10aでは、パッシブラジエーター10と同様に、制動コイル15の第1コイル15aは、その(図示しない)引出線が錦糸線25aおよび25bの一端側に接続されて、錦糸線25aおよび25bの他端側が正負の接続端子24aおよび24bに接続されている。同様に、制動コイル15の第2コイル15bは、その(図示しない)引出線が錦糸線25cおよび25dの一端側に接続されて、錦糸線25cおよび25dの他端側が正負の接続端子24cおよび24dに接続されている。したがって、パッシブラジエーター10aを含むスピーカーシステム1では、制動コイル15の第1コイル15aおよび第2コイル15bが、接続線8を介してスイッチ回路7に接続する。接続線8は、スイッチ回路7の端子7aと第1コイル15aの一方端に接続する接続端子24aとを接続し、スイッチ回路7の端子7bと第1コイル15aの他方端に接続する接続端子24bとを接続し、スイッチ回路7の端子7cと第2コイル15bの一方端に接続する接続端子24cとを接続し、スイッチ回路7の端子7dと第2コイル15bの他方端に接続する接続端子24dとを接続する。
【0038】
パッシブラジエーター10aを備えるスピーカーシステム1では、音声信号がターミナル5に入力されて、フルレンジスピーカー3の振動板が振動すると、フルレンジスピーカー3の振動板の背面側のキャビネット2の空気を介してパッシブラジエーター10aのドロンコーン11が振動し、パッシブラジエーター10aは低音域の再生音を放射する。このとき、パッシブラジエーター10aのドロンコーン11が振動すると、ドロンコーン11に連結する制動コイル15が磁気回路の磁気空隙に配置されているので、制動コイル15の第1コイル15aおよび第2コイル15bには、ドロンコーン11の振動速度に略比例する起電力が発生する。その結果、第1コイル15aおよび第2コイル15bは、それぞれ開放されたスイッチ回路7の端子7aおよび7b、または、端子7cおよび7dに接続されているので、これらの端子7の間を接続バー9aまたは9bによって連結すると、第1コイル15aまたは第2コイル15bが短絡されることになる。
【0039】
ただし、パッシブラジエーター10aの制動コイル15では、第2コイル15bが、第1コイル15aと離隔距離Dだけ離隔して設けられるコイルボビン14の外周側面を巻回すコイルであるので、図4(b)に示すように、第2コイル15bは、再生音量が大きい時に、ドロンコーン11の変位の絶対値が大きくなるにつれて、磁気回路の磁気空隙の直流磁界の磁束密度が高いところに侵入するようになる。言い換えると、第1コイル15aが、ほぼ常時に磁気回路の磁気空隙に位置するのに対して、第2コイル15bは、ドロンコーン11の変位の絶対値が小さい小音量時には、磁気回路の磁気空隙にほとんど差し掛からないので、第2コイル15bには、ドロンコーン11の変位の絶対値が大きいときにのみドロンコーン11の振動速度に略比例する起電力が発生する。
【0040】
したがって、第1コイル15aに接続するスイッチ回路7の端子7aおよび7bを短絡すると、ドロンコーン11の振動速度に略比例する起電力と第1コイル15aの直流抵抗とに従って第1コイル15aに制動電流が流れる。磁気回路の磁気空隙中に配置される第1コイル15aに流れる制動電流は、ドロンコーン11の振動速度を抑制する方向に流れる。つまり、第1コイル15aに流れる制動電流は、ドロンコーン11の振動速度とは反対方向の駆動力を制動コイル15に発生させて、ドロンコーン11の振動速度を抑制する。一方、パッシブラジエーター10aでは、第2コイル15bに接続するスイッチ回路7の端子7cおよび7dを短絡すると、ドロンコーン11の変位の絶対値が大きい大信号入力時に第2コイル15bに制動電流が流れ、ドロンコーン11の振動速度とは反対方向の駆動力を制動コイル15に発生させて、ドロンコーン11の振動速度および振幅を抑制する。
【0041】
したがって、スイッチ回路7の端子7の間を接続バー9aまたは9bによって連結すると、第1コイル15a、および/または、第2コイル15bの両端を開放または短絡することができ、これらのオン(短絡)/オフ(開放)の組み合わせによりパッシブラジエーター10のドロンコーン11の振幅の抑制を可変することができる。特に、パッシブラジエーター10aを備えるスピーカーシステム1では、第2コイル15bの両端を開放または短絡することで、ドロンコーン11の変位の絶対値が大きい大信号入力時に、ドロンコーン11の振幅を抑制して、ドロンコーン11を振動可能に支持するエッジ13およびダンパー16が延びきった際に発生しやすい異音を、抑制することができる。
【実施例3】
【0042】
図5は、本発明の他のパッシブラジエーター10bについて説明する図である。具体的には、図5(a)は、パッシブラジエーター10bの側面図であり、図5(b)は、パッシブラジエーター10bの底面図である。パッシブラジエーター10bは、先のパッシブラジエーター10、または、10aの構成に加えて、その磁気回路に固定されて制動コイル15の第1コイル15aおよび第2コイル15bに接続するスイッチ回路30を備える点で構成が異なる実施例である。したがって、共通する部分には同一の符号を付して、説明は省略する。
【0043】
スイッチ回路30は、パッシブラジエーター10(または10a)の磁気回路を構成するカバー22の底面側に固定される基体部31と、基体部31をカバー22の底面側に固定するネジ32と、磁気回路を構成する第1コイル15aの両端を開放または短絡する、および/または、第2コイル15bの両端を開放または短絡するスイッチ素子33aおよび33bと、を有する。なお、本実施例のスイッチ素子33aおよび33bは、端子間を開放または短絡するスライドスイッチである。また、基体部31は、樹脂等の絶縁部材で形成するのが好ましい。
【0044】
制動コイル15の第1コイル15aおよび第2コイル15bは、接続線34を介してスイッチ回路30のスイッチ素子33aおよび33bに接続する。具体的には、接続線34aがスイッチ素子33aの一方の端子と第1コイル15aの一方端に接続する接続端子24aとを接続し、接続線34bがスイッチ素子33aの他方の端子と第1コイル15aの他方端に接続する接続端子24bとを接続し、接続線34cがスイッチ素子33bの一方の端子と第2コイル15bの一方端に接続する接続端子24cとを接続し、接続線34dがスイッチ素子33bの他方の端子と第2コイル15bの他方端に接続する接続端子24dとを接続する。
【0045】
パッシブラジエーター10bのスイッチ回路30は、第1コイル15aの両端を開放または短絡する、および/または、第2コイル15bの両端を開放または短絡するスイッチ素子33aおよび33bを有する。制動コイル15は、先のパッシブラジエーター10、または、10aのような第1コイル15aと、第2コイル15bと、を備えるので、スイッチ回路30のスイッチ素子33aおよび33bにより、第1コイル15aの両端、ないし、第2コイル15bの両端を開放または短絡することができる。したがって、発明のパッシブラジエーター10bは、先のパッシブラジエーター10、または、10bのように、スイッチ回路30がキャビネット2の内部側に収容される形態の(図示しない)スピーカーシステムを構成することができる。
【0046】
なお、このパッシブラジエーター10bのスイッチ回路30は、磁気回路を構成するカバー22の底面側に固定されているが、もちろん、パッシブラジエーター10bを構成するフレーム17に設けられるいずれかの取付部に固定されていても良い。また、本実施例のスイッチ素子33aおよび33bは、スライドスイッチであるが、端子間を開放または短絡する他のスイッチ機構を有するスイッチ素子であればよい。
【0047】
図6は、先の実施例1および実施例2のスピーカーシステム1のパッシブラジエーターのドロンコーン11の振幅特性を表すグラフである。具体的には、図6(a)は、スピーカーシステム1への入力電力値に対するパッシブラジエーター10の振幅値の絶対値のグラフである。また、図6(b)は、スピーカーシステム1への入力電力値に対するパッシブラジエーター10aの振幅値の絶対値のグラフである。それぞれにおいて、第1コイル15aおよび第2コイル15bの両端を開放する場合と、第1コイル15aの両端を接続バー9aで短絡し、かつ、第2コイル15bの両端を開放する場合と、第2コイル15aの両端を接続バー9aで短絡し、かつ、第2コイル15bの両端を接続バー9bで短絡する場合と、をプロットしている。
【0048】
図6に示すように、パッシブラジエーター10または10aでは、スイッチ回路7の端子間を接続バー9で開放または短絡する組み合わせのそれぞれの場合において、異なる振幅特性が得られている。つまり、パッシブラジエーター10では、制動コイル15の第1コイル15aが、コイルボビン14の外周側面を巻回すコイルであり、第2コイル15bが、第1コイル15aの外周側面を巻回すコイルであるので、第1コイル15aの短絡により、図6(a)に示すように、ドロンコーン11の振幅が大幅に抑制でき、さらに第2コイル15bの短絡により、なお一層の振幅抑制効果が得られる。
【0049】
また、パッシブラジエーター10aでは、第2コイル15bが、第1コイル15aと離隔距離Dだけ離隔して設けられるコイルボビン14の外周側面を巻回すコイルであるので、第1コイル15aの短絡により、図6(b)に示すように、ドロンコーン11の振幅が大幅に抑制でき、さらに第2コイル15bの短絡により、ドロンコーン11の変位の絶対値が大きい大信号入力時に第2コイル15bに制動電流が流れ、ドロンコーン11の振動速度とは反対方向の駆動力を制動コイル15に発生させて、ドロンコーン11の振動速度および振幅を抑制することができる。
【0050】
図7は、先の実施例1のパッシブラジエーター10aを用いるスピーカーシステム1の軸上1m音圧周波数特性、ならびに、アドミタンス特性を表すグラフである。図7(a)は、パッシブラジエーター10aの制動コイル15の第1コイル15aおよび第2コイル15bの両端を開放する場合であり、図7(b)は、第1コイル15aの両端を短絡し、かつ、第2コイル15bの両端を開放する場合であり、図7(c)は、第2コイル15aの両端を短絡し、かつ、第2コイル15bの両端を短絡する場合であって、それぞれ入力電力値を、0.1W、0.25W、0.5W、1.0W、および、2.0Wとした場合を重ね書したグラフである。スイッチ回路7のオン(短絡)/オフ(開放)の組み合わせによって、スピーカーシステム1の音圧周波数特性を変更できるとともに、第1コイル15aと離隔距離Dだけ離隔して設けられる第2コイル15bの短絡により、ドロンコーン11の変位の絶対値が大きい大信号入力時に発生しやすい異音を抑制することができ、音声信号を再生する場合の再生音声品質に優れるスピーカーを実現できる。
【0051】
なお、本発明のパッシブラジエーターは、上記の実施例に限定されない。パッシブラジエーターを構成する制動コイル15は、第1コイル15aと、第1コイル15aから上側に所定の離隔距離Dだけ離隔して設けられる第2コイル15bに加えて、第1コイル15aから下側に所定の離隔距離Dだけ離隔して設けられる(図示しない)第3コイル15cを備えていても良い。この場合には、スイッチ回路が、この第3コイル15cの両端を短絡または開放する端子、あるいは、スイッチ素子を設けておけば良い。第3コイル15cの短絡により、ドロンコーン11の変位の絶対値が大きい大信号入力時に発生しやすい異音を抑制することができるとともに、振幅抑制時の振動波形の上下対称性が改善されるので、偶数次歪の低減も可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のパッシブラジエーターは、先の実施例のような略直方体状のキャビネットを備えるスピーカーシステムに限られず、他の形状のキャビネットを備える車載用等のスピーカーシステムにも適用が可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 スピーカーシステム
2 キャビネット
3 フルレンジスピーカー
4 ツィーター
5 ターミナル
6、8 接続線
7 スイッチ回路
9 接続バー
10、10a、10b パッシブラジエーター
11 ドロンコーン
12 コーン振動板
13 エッジ
14 コイルボビン
15 制動コイル
15a 第1コイル
15b 第2コイル
16 ダンパー
17 フレーム
18 プレート
19 ポール
20 マグネット
21 キャンセルマグネット
22 カバー
23 端子板
24 接続端子
25 錦糸線
30 スイッチ回路
31 基体部
32 ネジ
33 スイッチ素子
34 接続線




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドロンコーンと、該ドロンコーンに連結する制動コイルと、該制動コイルが挿入される磁気空隙を有する磁気回路と、を備え、
該制動コイルが、ボビンと、該ボビンと同心円状の第1コイルおよび第2コイルと、を備える、
パッシブラジエーター。
【請求項2】
前記制動コイルの前記第1コイルが、前記ボビンの外周側面を巻回すコイルであり、前記第2コイルが、該第1コイルの外周側面を巻回すコイルであり、
該第1コイルの巻き幅H1、および、該第2コイルの巻き幅H2が、前記磁気回路の前記磁気空隙を規定するプレートの厚さH0よりも大きい、
請求項1に記載のパッシブラジエーター。
【請求項3】
前記制動コイルの前記第1コイルが、前記ボビンの外周側面を巻回すコイルであり、前記第2コイルが、該第1コイルと離隔して該ボビンの外周側面を巻回すコイルである、
請求項1に記載のパッシブラジエーター。
【請求項4】
前記制動コイルの前記第1コイルと前記第2コイルとの離隔距離Dが、前記磁気回路の前記磁気空隙を規定するプレートの厚さH0よりも小さい、
請求項3に記載のパッシブラジエーター。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のパッシブラジエーターと、
該パッシブラジエーターの前記制動コイルの前記第1コイルおよび前記第2コイルに接続し、該第1コイルの両端を開放または短絡する、および/または、該第2コイルの両端を開放または短絡するスイッチ回路と、
音声信号が供給されるスピーカーユニットと、
該パッシブラジエーターおよび該スピーカーユニットが取り付けられて音響容量を規定するキャビネットと、を備える、スピーカーシステム。
【請求項6】
ドロンコーンと、該ドロンコーンに連結する制動コイルと、該制動コイルが挿入される磁気空隙を有する磁気回路と、該ドロンコーンを振動可能に支持するエッジと、該エッジおよび該磁気回路と連結するフレームと、該フレームまたは該磁気回路に固定されて該制動コイルのコイルに接続するスイッチ回路と、を備え、
該制動コイルが、ボビンと、第1コイルと、第2コイルと、を備え、
該スイッチ回路が、該第1コイルの両端を開放または短絡する、および/または、該第2コイルの両端を開放または短絡する、スイッチ素子を有する、
パッシブラジエーター。
【請求項7】
請求項6に記載のパッシブラジエーターと、音声信号が供給されるスピーカーユニットと、該パッシブラジエーターおよび該スピーカーユニットが取り付けられて音響容量を規定するキャビネットと、を備える、スピーカーシステム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−61352(P2011−61352A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206932(P2009−206932)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000000273)オンキヨーサウンド&ビジョン株式会社 (502)
【Fターム(参考)】