説明

パッド位置決め機構

【課題】鉄道車両用ディスクブレーキにパッドアッセンブリを取り付ける際に生じる、パッドホルダとパッドアッセンブリとの公差によるガタ成分を排除できるパッド位置決め機構を提供する。
【解決手段】パッドアッセンブリ5に取り付けた係止部材12をキャリパアーム先端側に取り付けたパッドホルダ4に形成したアリ溝8に嵌合することで、パッドアッセンブリをパッドホルダに組み付けた鉄道用ディスクブレーキにおいて、前記パッドホルダ4にアリ溝8に貫通する挿入孔10を設け、該挿入孔にパッドクリップ9を挿入し、アリ溝8内に嵌合するパッドアッセンブリの係止部材12を、前記パッドクリップ9の弾性力により抱き抱えるように保持することを特徴とするパッド位置決め機構。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用ディスクブレーキにパッドアッセンブリを取り付ける際に生じる、パッドホルダとパッドアッセンブリとの公差によるガタ成分を排除できるパッド位置決め機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の鉄道車両用ディスクブレーキのパッド保持装置として、例えば下記特許文献1に記載されているものが開示されている。
このパッド保持装置について構成を簡単に説明すると、このパッド保持装置は、ブレーキディスクに対面する作用面に上下方向のアリ溝が切られたパッドホルダを備え、パッドホルダの背面側には上下一対の軸受が所定間隔で突設され、この軸受に案内ピンが支持されている。このパッドホルダは、前記軸受に支持される案内ピンがディスクブレーキ装置のキャリパに連結されており、該キャリパの開閉動作によってブレーキ作動する。パッドホルダの上部には表裏に通じる横方向の細長いスリットが形成されていて、このスリットを通して屈曲板バネからなるパッドガタツキ防止バネが背面側から挿入された構成となっている。
【0003】
しかし、上記のような従来の鉄道車両用ディスクブレーキのパッド保持機構では、パッドアッセンブリの上下方向成分のガタ成分はパッドガタツキ防止バネの付勢力によって除去できるものの、パッドの枕木方向(アリ溝と直角方向)のガタ成分を除去することができず、パッドが斜めに取りついてしまう等の不具合が生じる。
また、2分割方式のパッドアッセンブリをパッドホルダに組み付ける際に、パッド組み付け方向が下から組み付けるため、1個目のパッドアッセンブリをアリ溝に挿入後、2個目のパッドアッセンブリを組み付ける時に、先に挿入した1個目のパッドアッセンブリが自重により脱落する危険がある、等の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−2853
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、パッドアッセンブリの枕木方向のガタ成分を排除し、パッドアッセンブリ交換時の初期クリアランスを安定させ、パッドアッセンブリの組み付け時の作業性を向上できるとともに、2分割パッドアッセンブリを取り付ける際に最初に組み付けたパッドアッセンブリが自重で脱落することがなく2個目のパッドアッセンブリを容易に組み付けることができるパッド位置決め機構を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため本発明が採用した課題を解決するための手段は、
パッドアッセンブリに取り付けた係止部材をキャリパアーム先端側に取り付けたパッドホルダに形成したアリ溝に嵌合することで、パッドアッセンブリをパッドホルダに組み付けた鉄道用ディスクブレーキにおいて、前記パッドホルダにアリ溝に貫通する挿入孔を設け、該挿入孔にパッドクリップを挿入し、アリ溝内に嵌合するパッドアッセンブリの係止部材を、前記パッドクリップの弾性力により抱き抱えるように保持することを特徴とするパッド位置決め機構である。
また、パッドホルダ側のアリ溝の少なくとも片側端部において固定手段によりアンカブロックが固定されていることを特徴とするパッド位置決め機構である。
また、前記挿入孔は少なくともパッドクリップが1個以上取り付けることができるようにパッドホルダに形成されていることを特徴とするパッド位置決め機構である。
また、前記挿入孔に対応するパッドアッセンブリ側の係止部材には、パッドクリップが嵌合する段差が形成されていることを特徴とするパッド位置決め機構である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、パッドホルダ側のパッドクリップ挿入孔にパッドクリップが嵌め込まれている。挿入孔は少なくとも1個のパッドクリップを取り付けることができるようにパッドホルダに形成されている。パッドクリップはパッドアッセンブリを挿入すると、自己のバネ力によりパッドアッセンブリの係止部材を抱き抱えるように付勢力が作用し、パッドアッセンブリ全体を力F(図3で参照)で保持することができる。それによってパッドアッセンブリのプレッシャプレートの面がパッドホルダ面にしっかりと押さえつけられ、パッドアッセンブリの取り付けガタ及びパッドアッセンブリが斜めに取り付けられることを防止できる。またパッドアッセンブリの係止部材にパッドクリップが引っ掛かる段差を設けることにより、2分割式のパッドアッセンブリの1個目をパッドホルダに挿入した際に、パッドクリップの作用でパッドアッセンブリの1個目が自重で落下することを防止でき、これにより2個目のパッドアッセンブリを容易に組み付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】鉄道車両用ディスクブレーキの正面図、平面図、側面図である。
【図2】図1中のA−A拡大断面図である。
【図3】パッドホルダの平面図およびB−B断面図である。
【図4】パッドホルダの斜視図である。
【図5】パッドクリップ単体図である。
【図6】パッドアッセンブリの平面図、側面図、正面図である。
【図7】パッドアッセンブリの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、パッドホルダにアリ溝に貫通する挿入孔を設け、該挿入孔にパッドクリップを挿入し、アリ溝内に嵌合するパッドアッセンブリの係止部材を、前記パッドクリップの弾性力により抱き抱えるように保持することを特徴とするパッド位置決め機構である。
この構成により、パッドアッセンブリのプレッシャプレートの面がパッドホルダ面に確りと押さえつけられ、パッドアッセンブリの取り付けガタ及びパッドアッセンブリが斜めに取り付けられることを防止できる。
【実施例】
【0010】
以下、本発明に係るパッド位置決め機構の実施例を図面に基づいて説明する。
図1は鉄道車両用ディスクブレーキの正面図、側面図、平面図、図2は図1中のA−A断面図、図3はパッドホルダの平面図およびB−B断面図、図4はパッドホルダの斜視図、図5はパッドクリップ単体図、図6はパッドアッセンブリの平面図、側面図、正面図、図7はパッドアッセンブリの斜視図である。
【0011】
図1中、1はサポート、2はボディ、3はキャリパアーム、4はパッドホルダ、5はパッドアッセンブリ、6はアンカブロック、7は固定ボルトであり、鉄道車両用ディスクブレーキは車輪と一体回転するロータ(不図示)を挟むように図1に示すように対向してキャリパアーム3が配置されており、このキャリパアーム3の先端部にパッドホルダ4が取り付けられている。このパッドホルダ4にはアリ溝8(図2参照)が形成されており、このアリ溝8を介してパッドアッセンブリ5が取り付けられている。そして制動時に前記ロータが前記ブレーキパッドに摺動する方向での前記パッドホルダ4のアリ溝8の両端部に、パッドホルダ4を介して前記キャリパアーム3に結合されて制動トルクを受けるアンカブロック6が組み付けられている。
【0012】
図2〜5において、パッドホルダ4にはアリ溝8が形成されており、またパッドホルダ4の両端部にはアンカブロック6が固定ボルトによって固定される。図3、図4においてパッドホルダ4には、上下に離れてパッドクリップ9を挿入嵌合するパッドクリップ挿入孔10が形成されている。このパッドクリップ挿入孔10は2分割されたパッドアッセンブリを組み付ける際にそれぞれのパッドアッセンブリに対応できる位置に配置されている。挿入孔10は図3、B−B断面図に示すようにパッドホルダ6のキャリパ保持面からパッドホルダのアリ溝8に向けて貫通して形成されている。
【0013】
またこの挿入孔10には図4、図5に示す形状の弾性力を有するパッドクリップ9が挿入されるようになっている。パッドクリップ9の先端部11は若干屈曲されて形成されており、さらに、図2に示すようにパッドクリップ9を挿入孔に挿入した状態でパッドホルダのアリ溝8の傾斜部分に突出するべく形成されている。パッドクリップ9を挿入孔に挿入した時には、図2に示す如く同クリップ9の先端部がアリ溝8側に少し突出するようになっている。
【0014】
パッドホルダ4に組み付けるパッドアッセンブリ5は従来公知の構造を備えており、図6、7に示すようにプレッシャプレート13に取り付けた係止部材12を有しており、この係止部材12をパッドホルダ4のアリ溝8に係合することで、パッドアッセンブリをパッドホルダに組み付けることができる。
そして、パッドホルダ4のアリ溝8にパッドアッセンブリ5の係止部材12を取り付けると、図2に示すように、パッドクリップ9の先端部の付勢力により、パッドアッセンブリ5の係止部材12を同クリップ9により確りと抱き抱えるように押さえつけることができ、この結果、パッドアッセンブリのプレッシャプレートのA面がパッドホルダB面に確りと押さえつけられ、ガタの発生を防止できる。
【0015】
この状態を図4を参照して説明すると、図4中の上部側はパッドホルダ5に形成した挿入孔10にパッドクリップ9を組み付ける前の状態を示しており、図4中下部側はパッドホルダ5に形成した挿入孔10にパッドクリップ9を組み付けた状態を示している。
上記構成のパッドアッセンブリ5の係止部材12をパッドホルダ4のアリ溝8内に嵌合し、その後アンカブロック6をパッドホルダ4に固定することでパッドアッセンブリ5がパッドホルダ4に組み付けられることになる。
【0016】
なお、パッドアッセンブリ5の係止部材12には、前述のパッドクリップ9が嵌合する段差14を形成することができ(図6、7参照)、このように段差14を形成した場合は、係止部材12をアリ溝8に挿入してゆき、段差14がパッドクリップ9に対応した位置にくると、パッドクリップ9が段差14内に自身の弾性力によって嵌合し、両者の位置決めが確実に行なわれる。また本例ではパッドアッセンブリ5は一体型となっているが、2分割型のパッドアッセンブリを採用した場合には、1個目のパッドアッセンブリの係止部材をパッドクリップ9で保持することができ、2個目のパッドアッセンブリを容易に組み付けることができる。なお、非分割式のパッドアッセンブリの場合には1個のパッドクリップによって保持できるようにすることもでき、この場合段差も1個のパッドクリップに対応して形成すればよい。
【0017】
以上のように本発明によれば、パッドホルダ4のパッドクリップ挿入孔10にパッドクリップ9を嵌め込んだ状態でパッドアッセンブリ5の係止部材12をアリ溝8内に挿入すると、パッドクリップ9の自己のバネ力により係止部材12を抱き抱えるように力F1が作用する(図2参照)。これによりパッドアッセンブリ全体に力Fを作用させることができ、パッドアッセンブリの取り付けガタや斜めに取りつく不具合と防止できる。
また、係止部材12にパッドクリップ9が引っ掛かる段差14を設けることにより、パッドアッセンブリ5をパッドホルダ4のアリ溝8に挿入した際に、パッドクリップ9の作用でパッドアッセンブリ5が自重で落下しない。
【0018】
なお、本例ではパッドクリップ9を2個使用したものについて説明したが、同クリップ9は3個以上適宜個数を選択することができる。さらに、パッドが分割式でない場合にはパッドクリップ9は1個でもよい。
以上、本発明の実施例について説明してきたが、本発明の趣旨の範囲内で、適宜変更することができる。実施例に記載の諸元はあらゆる点で単なる例示に過ぎず限定的に解釈してはならない。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、ブレーキを搭載する車両分野、特に鉄道用ディスクブレーキに利用することができる。
【符号の説明】
【0020】
1 サポート
2 ボディ
3 キャリパアーム
4 パッドホルダ
5 パッドアッセンブリ
6 アンカブロック
7 固定ボルト
8 アリ溝
9 パッドクリップ
10 挿入孔
11 パッドクリップの先端部
12 係止部材
13 プレッシャプレート
14 段差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッドアッセンブリに取り付けた係止部材をキャリパアーム先端側に取り付けたパッドホルダに形成したアリ溝に嵌合することで、パッドアッセンブリをパッドホルダに組み付けた鉄道用ディスクブレーキにおいて、前記パッドホルダにアリ溝に貫通する挿入孔を設け、該挿入孔にパッドクリップを挿入し、アリ溝内に嵌合するパッドアッセンブリの係止部材を、前記パッドクリップの弾性力により抱き抱えるように保持することを特徴とするパッド位置決め機構。
【請求項2】
パッドホルダ側のアリ溝の少なくとも片側端部において固定手段によりアンカブロックが固定されていることを特徴とする請求項1に記載のパッド位置決め機構。
【請求項3】
前記挿入孔は少なくともパッドクリップが1個以上取り付けることができるようにパッドホルダに形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のパッド位置決め機構。
【請求項4】
前記挿入孔に対応するパッドアッセンブリ側の係止部材には、パッドクリップが嵌合する段差が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のパッド位置決め機構。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−190829(P2011−190829A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55386(P2010−55386)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】