説明

パッド装着機構

【課題】2本の偏心カムレバーを利用してアンカブロックをしっかりと固定できるとともに、パッドアッセンブリのクリアランスを容易に調節でき、また偏心カムレバーにより容易に締結力を与えることができガタつきを無くして確実に固定できるようにする。
【解決手段】キャリパブレーキのてこ部3の下端部に軸着したパッドホルダ4にパッドアッセンブリ5を装着するパッド装着機構6であって、前記パッドホルダ4に螺合した2本の偏心カムレバー9に支持され、かつ前記偏心カムレバー9上を軸方向にスライド可能に装着されたアンカブロック7を有し、前記アンカブロック7は前記パッドホルダ4に形成した係止部に係合する係合部を有するとともに、前記偏心カムレバー9のレバー操作により、前記アンカブロック7をパッドホルダ4に締結し、パッドアッセンブリ5がパッドホルダから脱落することを防止できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用キャリパブレーキのパッド装着機構において、パッドの寸法毎のばらつきから来るパッドホルダとパッドアッセンブリとのガタを無くし、振動が原因となって生じるパッド摩耗を防止できるパッド装着機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在の鉄道車両用キャリパブレーキのパッド装着機構としては、パッドのアンカプレートの上下をアンカブロックでねじ止めし、そのねじにからげ線などで廻り止めを施している機構が主流をしめている。しかしながらこの機構では、アンカブロック間の距離は固定されており、装着するパッドとのクリアランスがそのままガタつきとなるため、ブレーキユニットの振動によってパッド、アンカブロックが摩耗する事例がみられる。また廻り止め機構もからげ線のような方法では装着に熟練を要し、パッド交換に時間を要するなど問題点があった。
上記のような問題点を解決するためのパッド装着機構として下記特許文献1、2に記載されているものが開示されている。
【特許文献1】(特開2010−78059号公報)
【0003】
この文献1に記載されている発明は、ブレーキアーム(てこ部)の下端部に軸着したパッドホルダにパッド部材(パッドアッセンブリ)を装着するパッド装着機構であって、前記パッドホルダに軸方向にスライドさせて装着したパッド部材の係止段部に、前記パッドホルダに支持されたアンカブロックを押圧係止して抜止めされるワンタッチ式パッド装着機構において、前記パッドホルダに装着された偏心ピンを構成するカムシャフトによって前記アンカブロックをパッド部材の係止段部に押圧係止させるとともに、前記アンカブロックとパッドホルダとの接触するガイド面を僅かに傾斜させたことを特徴としている。
そして、上記の構成により、この発明は、ピンと孔との整合作業の必要もなく、パッドホルダに装着された部品の動作によってパッド部材を確実にパッドホルダに迅速かつ確実に装着でき、部品の紛失等の虞れもなく、傾斜面同士の接触によりパッドホルダへのアンカブロックのガタつきも生じることがないという特有の作用効果を奏することができるとしている。
【特許文献2】(特開2009−68566号公報)
【0004】
また、この文献2に記載されている発明は、ブレーキアーム(てこ部)の下端部に軸着したパッドホルダにパッド部材(パッドアッセンブリ)を装着するパッド装着機構において、前記パッドホルダに軸方向にスライドさせて装着したパッド部材の係止段部に、前記パッドホルダに支持されたアンカブロックを押圧係止して抜止めされるように構成したものであり、特に、前記アンカブロックのパッドホルダへの支持部が偏心ピンによりなされるとともに、該偏心ピンはパッドホルダへの装着係止部を有する装着用レバーにより回動されて前記アンカブロックをパッド部材に対して接離するように構成したことを特徴としている。
そしてこの構成により装着用レバーにより偏心ピンを回動させるだけでアンカブロックをパッド部材に押圧することができ、パッド部材の軸方向の移動が規制されて脱落が防止される。また、部品等の取外しもなく簡便な操作にてワンタッチにて確実にパッド部材をパッドホルダに取り付けることができる。さらに部品の紛失等の虞れもなく、ピンと孔との整合作業の必要もないワンタッチ式パッド装着機構を提供できるとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載されているような鉄道車両用キャリパブレーキのパッド装着では、アンカブロックを支持する偏心ピンが片持ち式であったり、アンカブロックを固定するためのピンが一本であったりしてアンカブロックを支持する機構の強度が不足がちとなり、安定してパッドを保持することができない等の問題点が指摘されている。
そこで、本発明のパッド装着機構は、2本の偏心カムレバーを利用してアンカブロックをしっかりと固定できるとともに、パッドアッセンブリのクリアランスを容易に調節でき、また偏心カムレバーにより容易に締結力を与えることができガタつきを無くして確実に固定できるようにしている。また現行のパッド装着機構に対しても、部品交換により本発明に簡単に対応することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため本発明が採用した課題を解決するための手段は、
キャリパブレーキのてこ部3の下端部に軸着したパッドホルダ4にパッドアッセンブリ5を装着するパッド装着機構6であって、前記パッドホルダ4に螺合した2本の偏心カムレバー9に支持され、かつ前記偏心カムレバー9上を軸方向にスライド可能に装着されたアンカブロック7を有し、前記アンカブロック7は前記パッドホルダ4に形成した係止部に係合する係合部を有するとともに、前記偏心カムレバー9のレバー操作により、前記アンカブロック7をパッドホルダ4に締結し、パッドアッセンブリ5がパッドホルダから脱落することを防止できるようにしたことを特徴とするパッド装着機構である。
また、前記アンカブロックは前記偏心カムレバーに対して移動可能に取り付けられており、前記偏心カムレバーのパッドホルダへの螺合を解除することにより、前記アンカブロックを偏心カムレバー上をスライドさせ、パッドホルダの係合凹部とアンカブロックの凸部との係合を解除できるようにしたことを特徴とするパッド装着機構である。
また、前記偏心カムレバーのレバーにより、アンカブロックに締め付け力を付与できるようにしたことを特徴とするパッド装着機構である。
また、前記レバーには緩み止めが取り付けられていることを特徴とするパッド装着機構である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、現行の鉄道車両用キャリパブレーキのパッド装着機構のパッドアッセンブリの形状、押付け方法によらず、偏心カムレバー2本を回してアンカブロックとパッドアッセンブリとのクリアランスをすばやく調節でき、偏心カムレバーのレバーを倒すことでアンカブロックに締結力を与え、アンカブロックをパッドアッセンブリに対してガタつきなく固定できる。また、偏心カムレバーのねじ止め位置を変更することで、現行品の部品交換で対応することも可能となる。偏心カムレバーのレバー開放防止のため、アンカブロックに取り付けた緩み止め(スプリング)を偏心カムレバーのレバーの溝に掛けて固定することができる。また緩み止めがアンカブロックに取り付けられて一体となっているため、部品の紛失を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】鉄道車両用キャリパブレーキの正面図、平面図、側面図である。
【図2】(a)はパッド装着機構の分解斜視図、(b)はアンカブロックの突起部を説明する斜視図である。
【図3】偏心カムレバーに軸着するレバー単品の4面図(平面図、正面図、背面図、側面図)である。
【図4】パッド装着機構の要部4面図(平面図、正面図、背面図、側面図)である。
【図5】パッド装着機構によるアンカブロック締結手順説明図である。
【図6】図5のアンカブロック締結状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のパッド装着機構は、キャリパブレーキのてこ部3の下端部に軸着したパッドホルダ4にパッドアッセンブリ5を装着するパッド装着機構6であって、前記パッドホルダ4に螺合した2本の偏心カムレバー9に支持され、かつ前記偏心カムレバー9上を軸方向にスライド可能に装着されたアンカブロック7を有し、前記アンカブロック7は前記パッドホルダ4に形成した係止部に係合する係合部を有するとともに、前記偏心カムレバー9のレバー操作により、前記アンカブロック7をパッドホルダ4に締結し、パッドアッセンブリ5がパッドホルダから脱落することを防止できるようにしたことを特徴としている。
【0010】
以下、本発明に係るパッド装着機構の実施例を図面に基づいて説明する。
図1中、1はサポート、2はボディアッセンブリ、3はテコ部、4はパッドホルダ、5はパッドアッセンブリ、6は本発明に係るパッド装着機構であり、パッド装着機構を除いた構成において従来公知の鉄道車両用キャリパブレーキと同様の構成となっている。
【0011】
パッドホルダ4に取り付けられるパッド装着機構6は、図2(a)に示すようにパッドホルダ4と、パッドホルダ4に後述する態様で係合するアンカブロック7と、アンカブロック7をパッドホルダ4に固定する2本の偏心カムレバー9と、偏心カムレバー9の端部に軸9bを中心に揺動可能に取り付けたレバー9aを有している。パッドホルダ4には公知の鉄道車両用キャリパブレーキと同様にアリ溝(不図示)が形成されており、このアリ溝に前述したパッドアッセンブリ5が公知のように取り付けられ、本発明に係るパッド装着機構6によりアンカブロック7を介してパッドアッセンブリ5のアリ溝からの脱落を防止している。
【0012】
パッドホルダ4には、アンカブロック7に設けた凸部7a(図2(b)参照)が嵌合する嵌合凹部4aが形成されている。また、パッドホルダ4には偏心カムレバー9の端部が螺合できるようにネジ孔4bが形成されている。偏心カムレバー9はこのネジ孔4bに螺合できるネジ部を有している。
【0013】
アンカブロック7には図2(b)(アンカブロック7を裏面から見た図)に示すように前記パッドホルダ4に形成した前記嵌合凹部4aに嵌合する凸部7aが形成されている。さらにアンカブロック7には偏心カムレバー9が貫通する図中上下方向に長い長孔7bが形成されており、アンカブロック7はこの長孔7b内で偏心カムレバー9に対して上下に位置を変えることができるようになっている。
【0014】
偏心カムレバー9の一方端には前記ネジ孔4bに螺合するネジ部が形成され、他方端にには軸9bを中心にレバー9aが揺動可能に取り付けられている。偏心カムレバー9には前記アンカブロック7とは別体の偏心カム受け8が取り付けられている。偏心カム受け8は、アンカブロック7側とは反対側の面に偏心カムレバー9のレバー9aに形成したカム面(後述する)を受けるカム受け面(曲面形状)8aが形成されており、その中心部に偏心カムレバー9が貫通できるようになっている。
【0015】
偏心カムレバー9のレバー9aの構成を図3のレバー単品図を参照して説明する。
レバー9aは二股の形状で構成されており、その接続部には後述するスプリングを係合する溝9cが形成されており、さらに二股の端部には軸9bが貫通する孔9dが形成されている。軸9bはレバー9aに対して圧入、または止め輪、抜け止めピン(不図示)などで固定される。この孔9dの中心に対してレバーの軸着部の周囲にはこの中心に対して偏心している曲面部(カム部)9eが形成されている。
【0016】
前記レバーの作動について図4を参照して説明すると、図4の正面図においてレバー9aの曲面部(カム部)9eが偏心カム受け8のカム受け面8aと当接する構成となっており、レバー9aを偏心カムレバー9の軸心に対して直角に折り曲げた状態の時(図4および図5STEP1参照)に、カムによって偏心カム受け8に最大の押圧力が作用し、またレバー9aを偏心カムレバー9の軸心と同軸上に起こした時には偏心カム受け8には力が作用せず(図5のSTEP2参照)、偏心カムレバー9を回転できるようになっている。このため、レバー9aを偏心カムレバー9の軸心と同軸上に起こし、偏心カムレバーを回転することで偏心カムレバー9とパッドホルダ4との螺合を可能にしている(図5STEP3参照)。
【0017】
アンカブロックには図4に示すようにスプリング10が揺動自在に取り付けられており、パッド装着状態の時にスプリング10をレバー9aの溝9cに係合することで、レバーの起立を防止している。また、パッド取り外し時にはスプリング10を起こしてレバーの溝9cから外し、レバー9aを起立させることができるようになっている。
【0018】
上記のように構成されたパッド装着機構の作動を図5、図6を参照して説明する。
図5、図6(a)のパッド装着状態はパッドホルダ4のアリ溝にパッドアッセンブリ5が取り付けられ、さらにパッド装着機構6によりアンカブロック7がパッドアッセンブリ5の脱落を防止した状態を示している。この状態の時にはアンカブロック7の凸部7aがパッドホルダ4の嵌合凹部4aに嵌合した状態となっている。
【0019】
この状態から、アンカブロック7に取り付けられているスプリング10を起こし、レバー9aとスプリング10との係合を外す(STEP1)。ついで、レバー9aを偏心カムレバー9と同軸上に起こして押圧力をなくす(STEP2)(図6(b))。ついで、偏心カムレバー9を回転することで、偏心カムレバー9をパッドホルダ4のネジ孔4bから所定量引き抜く(STEP3)。この状態で、アンカブロック7を偏心カムレバー9上をスライドさせながらパッドホルダ4とは反対側に移動し、アンカブロック7の凸部7aをパッドホルダ4の嵌合凹部4aから引き抜く(STEP4)(図6(c))。そして、凸部7aが嵌合凹部から完全に引き抜かれた状態でアンカブロックを長孔内で上方に移動させる(STEP4)(図6(d))。この結果、アンカブロックによるパッドアッセンブリの係合が解かれ、パッドアッセンブリをアンカブロックと干渉することなくアリ溝から引き抜くことができる。
【0020】
パッドアッセンブリを装着する場合には、上記とは逆の操作を行なう。
ところで、パッドアッセンブリ5をパッドホルダ4に装着する際に、偏心カムレバー9をパッドホルダ4にネジ止めし、その後、レバー9aを図5パッド装着状態に示すように偏心カムレバー9と直角方向に倒す必要がある。ところが偏心カムレバー9をパッドホルダ4のネジ孔4bに螺合し過ぎた場合、偏心カムレバー9のレバー9aが図5のSTEP2に示すように上下方向に向かず、レバー9aを図5のSTEP1に示すように中央方向に倒せない場合がある。この場合には偏心カムレバー9を少し緩め、レバー9aを上下方向に合わせ、その後レバー9aを図5のSTEP1に示す方向に倒す。この時、レバー9aを倒すことで、レバー9aに形成した曲面部(カム部)9eにより偏心カム受け8を介してアンカブロック7をパッドホルダ側に押圧しアンカブロック7の凸部7aをパッドホルダ4の嵌合凹部4aにしっかりと係合することができ、これによりアンカブロック7によってパッドアッセンブリ5の脱落を確実に防止できる。
以上のように偏心カムレバーに形成する曲面部(カム部)9eは上記のような事態を想定して曲面部を形成しておくこと、即ち曲面部によってアンカブロック7をパッドホルダにしっかり締結できるような形状として構成しておくことが必要である。なお偏心カム受け8は曲面部9eとの当接を良くするために設けてあるが、必要に応じて省略することも可能である。
【0021】
以上、本発明の実施例について説明してきたが、カム面の形状、偏心カム受け等本発明の趣旨の範囲内で、適宜変更することができる。実施例に記載の諸元はあらゆる点で単なる例示に過ぎず限定的に解釈してはならない。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、ブレーキを搭載する車両分野、特に鉄道車両用キャリパブレーキに利用することができる。
【符号の説明】
【0023】
1 サポート
2 ボディアッセンブリ
3 テコ部
4 パッドホルダ
4a 嵌合凹部
4b ネジ孔
5 パッドアッセンブリ
6 パッド装着機構
7 アンカブロック
7a 凸部
7b 長孔
8 偏心カム受け
8a カム受け面
9 偏心カムレバー
9a レバー
9b 軸
9c 溝
9d 孔
9e 曲面部(カム部)
10 スプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリパブレーキのてこ部の下端部に軸着したパッドホルダにパッドアッセンブリを装着するパッド装着機構であって、前記パッドホルダに螺合した2本の偏心カムレバーに支持され、かつ前記偏心カムレバー上を軸方向にスライド可能に装着されたアンカブロック7を有し、前記アンカブロックは前記パッドホルダに形成した係止部に係合する係合部を有するとともに、前記偏心カムレバーのレバー操作により、前記アンカブロックをパッドホルダに締結し、パッドアッセンブリがパッドホルダから脱落することを防止できるようにしたことを特徴とするパッド装着機構。
【請求項2】
前記アンカブロックは前記偏心カムレバーに対して移動可能に取り付けられており、前記偏心カムレバーのパッドホルダへの螺合を解除することにより、前記アンカブロックを偏心カムレバー上をスライドさせ、パッドホルダの係合凹部とアンカブロックの凸部との係合を解除できるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のパッド装着機構。
【請求項3】
前記偏心カムレバーのレバーにより、アンカブロックに締め付け力を付与できるようにしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のパッド装着機構。
【請求項4】
前記レバーには緩み止めが取り付けられていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のパッド装着機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−57643(P2012−57643A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198478(P2010−198478)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】