説明

パッド部材装着機構

【課題】 パッド部材の装着機構を簡素化してコンパクトでありながら、パッドホルダ内でのパッド部材のクランプ力が均等かつ強固で、ブレーキ接線力を剛体で受け止めて、複数のパッド部材であっても、全く落下する虞れなく安全で、軽快に着脱作業を行う。
【解決手段】 パッドホルダ4の蟻溝20に対して複数のパッド部材5がスライド自在に構成されたパッド部材装着機構において、前記パッド部材5の1つを前記蟻溝20から接線方向Pに直交する方向に着脱可能に構成したことにより、パッド部材5の装着機構が簡素化されてコンパクトでありながら、パッドホルダ4内でのパッド部材5のクランプ力が均等かつ強固で、分割された複数のパッド部材であっても、軽快に着脱作業を行える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキディスクの接線方向に延びるパッドホルダの蟻溝に対して複数のパッド部材がスライド自在に構成された、特に鉄道車両用ディスクブレーキのパッド部材装着機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両、特に鉄道車両用ディスクブレーキにおけるパッド部材装着機構では、取付状態において、装着されたパッド部材におけるアンカプレートの上下をアンカブロックによって固定・ロックする方法が広く行われていた。また、近年では、鉄道車両の宿命である大きな重量のパッド部材の着脱の際の負担軽減のために、パッド部材すなわちアンカプレートを2分割するUIC規格も採用され始めている。そのため、図9(A)の概念図に示すように、装着された複数のパッド部材を蟻溝下方にあるアンカブロックを外して、順次パッド部材を取り外そうとすると、複数のパッド部材が一気に落下してくる可能性があり、安全性に問題があった。しかも、アンカブロック間の距離の精度を出すことが益々困難になってきている。それ故、パッド部材の装着作業にも熟練を要した。そこで、パッド部材の着脱の際の作業性の改善と落下防止機能を持たせるための様々な提案がなされた(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−2848号公報(公報要約書参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に開示されたディスクブレーキ装置のパッド落下防止機構を図10を用いて説明すると、図10(B)に示すようなパッドホルダ102における蟻溝102aに対してパッド130の蟻130aが上下方向(図10(B)の紙面に直交。図10(A)の上下方向)に挿入される。図10(A)に示すように、ガタ付き防止ばね109によりパッド130は下方に付勢される。パッドホルダ102の背面に立設された軸受103、103間に渡設されたピン104に対してブレーキアームKの先端が軸支され、制動時にはブレーキディスクを挟持・押圧すべく揺動(図10(A)の紙面に直交動作)するブレーキアームKにより前記パッド130がブレーキ動作を行う。
【0005】
前記軸受103、103と同様にパッドホルダ102の背面に立設されたブラケット114、114間に回動自在に支持されたマグネット支持軸113からは、アーム115a、115aが延設されて、その各先端にはマグネット115が支持されている。これらのマグネット115はパッドホルダ102の通孔116を通じて前記パッド130の蟻130aを吸引するように構成される。マグネット支持軸113の下端部には落下防止部材120が取り付けられており、該落下防止部材120の凸部がマグネット支持軸113を支軸としてパッドホルダ102の孔部を通じて表面側に突出することによって、パッド130における蟻130aの蟻溝102a内でのスライド移動が規制される。その時、落下防止部材120は自身のピン孔にブラケット118内にて上下動するプランジャ127の先端ピン128によりロックされる。
【0006】
このようなパッド落下防止機構により、ディスクを挟持制動するパッドをパッドホルダに下側から取り付ける構造とし、その取付用の溝を当該取付方向とは異なる方向(落下防止部材120の揺動方向)に移動して閉塞する落下防止部材を設けたので、車両下部の狭い空間でもパッドの着脱が簡単となり、しかもパッドの逸脱が確実に防止されることになった。しかしながら、この従来のものでは、長尺のマグネット支持軸113およびアーム115aを必要として取り廻しが煩わしく、マグネット115の経年劣化によってパッド130に対する吸引が損なわれた場合には、落下防止部材120の開放の際、パッド130がホルダの蟻溝102aから下方へ落下する虞れが依然としてあった。
【0007】
そこで本発明では、前記従来のようなパッド落下防止装置における諸課題を解決して、パッド部材の装着機構を簡素化してコンパクトでありながら、パッドホルダ内でのパッド部材のクランプ力が均等かつ強固で、ブレーキ接線力を剛体で受け止めることができ、しかも、分割された複数のパッド部材であっても、全く落下する虞れなく安全で、軽快に着脱作業を行えるパッド部材装着機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このため本発明は、ブレーキディスクの接線方向に延びるパッドホルダの蟻溝に対して複数のパッド部材がスライド自在に構成されたパッド部材装着機構において、前記パッド部材の1つを前記蟻溝から前記接線方向に直交する方向に着脱可能に構成したことを特徴とする。また本発明は、前記パッドホルダの蟻溝の両端部にパッド部材のスライド移動を阻止するブロック部を形成したことを特徴とする。また本発明は、前記パッド部材の1つは、パッドホルダにシャフトにより軸支されてパッド部材を蟻溝内にばね付勢する固定駒により装着が維持されるよう構成したことを特徴とする。また本発明は、前記パッド部材の離脱方向への固定駒の揺動が規制されるロック機構をパッドホルダとの間に設置したことを特徴とする。また本発明は、前記ばね付勢が前記シャフトに巻装されたトーションばねによりなされることを特徴とするもので、これらを課題解決のための手段とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ブレーキディスクの接線方向に延びるパッドホルダの蟻溝に対して複数のパッド部材がスライド自在に構成されたパッド部材装着機構において、前記パッド部材の1つを前記蟻溝から前記接線方向に直交する方向に着脱可能に構成したことにより、パッド部材の装着機構が簡素化されてコンパクトでありながら、パッドホルダ内でのパッド部材のクランプ力が均等かつ強固で、分割された複数のパッド部材であっても、軽快に着脱作業を行える。また、前記パッドホルダの蟻溝の両端部にパッド部材のスライド移動を阻止するブロック部を形成した場合は、パッド部材の装着機構が簡素化されてコンパクトでありながら、パッドホルダ内でのパッド部材のクランプ力が均等かつ強固で、ブレーキ接線力を剛体で受け止めることができ、しかも、分割された複数のパッド部材であっても、全く落下する虞れなく安全で、軽快に着脱作業を行える。
【0010】
さらに、前記パッド部材の1つは、パッドホルダにシャフトにより軸支されてパッド部材を蟻溝内にばね付勢する固定駒により装着が維持されるよう構成した場合は、格別の工具等を用いずとも、装着されたパッド部材は容易かつ確実にパッドホルダの蟻溝内に付勢・保持されて固定することができ、固定駒もパッドホルダにシャフトにより軸支されているので、紛失する虞れもない。さらにまた、前記パッド部材の離脱方向への固定駒の揺動が規制されるロック機構をパッドホルダとの間に設置した場合は、制動時にパッド部材に振動等が発生しても、パッド部材が妄りに固定駒を離脱方向へ揺動させることがないので、パッド部材のパッドホルダからの脱落が確実に防止される。
【0011】
また、前記ばね付勢が前記シャフトに巻装されたトーションばねによりなされる場合は、固定駒をパッドホルダに連結軸支するシャフト自体を、固定駒を装着維持方向に付勢するトーションばね巻装部材として兼用でき、部品点数の削減に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のパッド部材装着機構の第1実施例を示す要部正面図およびパッド部材装着前後の断面図である。
【図2】同、本発明のパッド部材装着機構が採用されたディスクブレーキ装置の全体平面および正面図である。
【図3】同、固定駒の一部等を取り除いた要部斜視図である。
【図4】同、駒押さえを引き出して示した要部底面斜視図である。
【図5】本発明のパッド部材装着機構の第2実施例を示す要部分解斜視図および要部正面図である。
【図6】同、パッド部材の離脱行程の前段階を示す要部斜視図である。
【図7】同、パッド部材の離脱行程の後段階を示す要部斜視図である。
【図8】同、パッド部材の離脱行程の全段階を示す要部断面図である。
【図9】従来のパッド部材取外し方法と本願発明のバッド部材取外し方法との差異を説明する概念図である。
【図10】従来のディスクブレーキ装置のパッド落下防止機構の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のパッド部材装着機構を実施するための好適な形態を図面に基づいて説明する。本発明のパッド部材装着機構は、図1に示すように、ブレーキディスクの接線方向Pに延びるパッドホルダ4の蟻溝20に対して複数のパッド部材5A、5Bがスライド自在に構成されたパッド部材装着機構において、前記パッド部材5A、5Bの1つを前記蟻溝20から前記接線方向Pに直交する方向に着脱可能に構成したことを特徴とする。
【実施例1】
【0014】
以下、本発明のパッド部材装着機構の第1実施例について説明する。図2(A)に示すように、制動時には、サポート1により車体に固定されたボディ2内に配設されたアクチュエータ15の動作によって、中間部がブレーキアーム軸17に軸支された一対のブレーキアーム3の一端部16同士が拡開して揺動すると、各ブレーキアーム3の開放側他端部が近接して、図示省略のブレーキディスクの両側を各パッド部材5、5をして挟持・押圧することにより制動がなされる。図9は従来のパッド部材取外し方法と本願発明のバッド部材取外し方法との差異を説明する概念図である。パッド部材が2分割以上に構成されたUIC規格の採用により、図9(A)の従来の現行法では、蟻溝下方にあるアンカブロックを外してパッド部材を取り外そうとすると、複数のパッド部材が一気に落下してくる可能性があり、安全性に問題があった。そこで、図9(B)に示すように、本願発明では、少なくとも蟻溝下方に落下規制部となるブロック部を設けて、1つのパッド部材を取り外しても、残りのものが落下することがなく安全な作業を可能にしたものである。
【0015】
図1はパッド部材装着機構の要部正面図およびパッド部材装着前後の断面図である。図1(A)は実際に車両に取り付けられた状態である図2(B)におけるパッドホルダおよびパッド部材のみを示したもので、図示省略のブレーキディスクの接線方向Pである上下方向に延びるパッドホルダ4の蟻溝20に対して、分割構成された上側パッド部材5Aと下側パッド部材5Bとがアンカプレート19(図1(B))によってスライド自在に装着される。パッド部材5の装着前後の断面図である図1(B)(C)にてよく理解されるように、例えば、パッドホルダ4の下側における下側パッド部材5Bの装着部に、前記接線方向P対して直交する方向(図面左側)から蟻溝20にパッド部材5A、5Bを順次着脱して保持できるパッド部材装着機構6を設けたものである。
【0016】
したがって、パッドホルダ4におけるパッド部材装着機構6の部分にて上側パッド部材5Aのアンカプレート19を蟻溝20に左方から挿入した後、蟻溝20内にて上方へスライドさせた後、下側パッド部材5Bのアンカプレート19を同様に蟻溝20に左方から挿入して、パッド部材装着機構6における固定駒8により保持位置にセットする。パッド部材装着機構6をパッドホルダ4の上側に設けることもできる。その場合は、上側に設けたパッド部材装着機構6にて下側パッド部材5Bを蟻溝20に左方から挿入した後、蟻溝20内にて下方へスライドさせた後、上側パッド部材5Aを同様に蟻溝20に左方から挿入して、パッド部材装着機構6における固定駒8により保持位置にセットすることになる。
【0017】
図1(B)(C)に示すように、パッド部材5の上面に取り付けられたアンカプレート19(別部材のアンカプレート19を溶接やビス止めによりパッド部材5に固定してもよいし、パッド部材5と一体成形としてもよい)の断面形状は、前記パッドホルダ4における蟻溝20の断面形状、例えば逆台形に整合する断面形状とされる。該断面形状はアンカプレート19が蟻溝20から抜け出さない逆台形以外の適宜形状も採用され得る。好適には、後述するように、アンカプレート19の固定駒8側の側面は、固定駒8による互いの板面に直交する方向の抜止め機能を有する傾斜面と整合する傾斜面とされる。実施例のものは、板状のものをW字形断面に折曲して形成したものであるが、逆台形断面の側面とパ
ッド部材5の上面との間に形成される鋭角の部分に、前記固定駒8側の側面に形成される鋭角の斜面部分が楔状に食い込んで確実にパッド部材5の保持が維持される。
【0018】
前記図2(B)の楕円で示されたパッド部材装着機構6部分を拡大して示した図3は、固定駒の一部等を取り除いた要部斜視図である。ブレーキアーム3の先端部にパッドホルダ軸18によって揺動自在に軸支されたパッドホルダ4の下側パッド部材5Bの装着部にパッド部材装着機構6が取り付けられる。パッドホルダ4における両端支持部4A、4Aと中央支持部4Bに渡ってシャフト11が挿入・支持され、その際、両端支持部4Aと中央支持部4Bとの間にそれぞれ固定駒8、8が揺動自在に挿入・軸支される。シャフト11の一端部は留め輪12により抜け止めされる。シャフト11の中央支持部4Bと各固定駒8との間の外周にはダブルトーションばね7、7、が巻装され、中央支持部4Bに対して各固定駒8を、前記パッド部材5におけるアンカプレート19をパッドホルダ4の蟻溝20内にて保持位置を確保するように揺動・付勢するように構成される。図面では、シャフト11や固定ボルト13の螺合状態が理解されるように、固定駒8とパッドホルダ4における中央支持部4Bとの上半分が取り除かれて描かれている。
【0019】
図4に示すように、前記シャフト11には、また、板状体からなる駒押さえ9における正面板部9Aの両側折曲部9B、9Bに穿設されたシャフト貫通孔9Fが各固定駒8の外側において挿入される。該駒押さえ9の略中央部には下方に開いた切欠き9Dが形成され、該切欠き9Dにパッドホルダ4における中央支持部4Bに対して螺合されたロック機構を構成するストッパボルト14が配設される。該ストッパボルト14の締結解除により駒押さえ9および固定駒8等のパッド部材装着機構6の開放・揺動を可能とするように構成される。前記駒押さえ9における固定駒8に対応する位置にはボルト挿入孔9Eが穿設され、これらのボルト挿入孔9Eには各固定ボルト13が挿入されてレバー10とともに駒押さえ9を固定駒8に固定する。レバー10はハット形形状を呈しており、ストッパボルト14をパッドホルダ4における中央支持部4Bから弛めた場合に、パッド部材装着機構6の開放・揺動の際に、手指で摘んで操作し易いように構成される。
【0020】
前記ダブルトーションばね7、7のねじりばね機能によって、パッド部材5におけるアンカプレート19は、固定駒8によってパッドホルダ4の蟻溝20内にて押し付けられて保持位置を確保するように付勢される。これにより、格別の工具等を用いずとも、装着されたパッド部材5は容易かつ確実にパッドホルダ4の蟻溝20内に付勢・保持されて固定することができ、固定駒8もパッドホルダ4にシャフト11により軸支されているので、紛失する虞れもない。万一、制動時のパッド部材5の振動等によってパッド部材5が脱落することがないようにロック機構としての前記ストッパボルト14がパッドホルダ4の中央支持部4Bに緊締される。前記駒押さえ9のダブルトーションばね7への対応位置には保護カバー9C、9Cが延設され、ダブルトーションばね7への塵埃の付着や外力によって損傷するのを防止するように構成される。
【0021】
図1(A)および図4にてよく理解されるように、パッドホルダ4における蟻溝20の両端部にはパッド部材5におけるアンカプレート19のスライド移動を阻止するところの、ストッパ部を構成するブロック部4Sが形成されている。これにより、制動時にブレーキディスクとの摩擦によりパッド部材5に作用するブレーキ接線力をブロック部4Sの剛体で受け止めることができる上に、従来のようなアンカブロックが廃止できて構造も簡素化される。前記ブロック部4Sにおける上側のブロック部は、パッドホルダ4におけるパッド部材装着機構6部分からの上側パッド部材5Aの装着後に上方にスライド移動させた場合の上部でのストッパ機能を発揮するのと同時に、下側のブロック部4Sについては、下側パッド部材5Bのパッド部材装着機構6部分からの取出しに続く上側パッド部材5Aの蟻溝20内での下方へのスライド移動の際にストッパ機能が発揮され、下側パッド部材5Bの車体下方への脱落が確実に防止され、作業の負担軽減のために分割された複数のパ
ッド部材であっても、全く落下する虞れなく軽快に着脱作業を行え、パッド部材のパッドホルダからの着脱作業が簡便化されて安全である。
【実施例2】
【0022】
図5は本発明のパッド部材装着機構の第2実施例を示す要部分解斜視図および要部正面図である。本実施例のものは、前記第1実施例のものと異なり、図5(A)に示すように、パッドホルダ4における両端支持部4A、4A間に1つの固定駒8が揺動自在に配設される。固定駒8と前記パッドホルダ4における両端支持部4A、4Aに渡ってシャフト11が挿入・支持され、その際、シャフト11の一端部は留め輪12により抜け止めされ、他方の支持部4Aと固定駒8との間には圧縮ばね7Aがシャフト11に巻装される。固定駒8の軸方向長さはパッドホルダ4における両端支持部4A、4A間の長さより小さく、前記圧縮ばね7Aの復元力によりパッドホルダ4における一端部側(留め輪12側)の支持部4Aに近接勝手に構成される。図5(B)に示すように、取付状態における正面視で上下に分割された上側パッド部材5Aと下側パッド部材5Bとのパッドホルダ4の蟻溝20内への装着形態は前記第1実施例のものと同様である。
【0023】
固定駒8の一端部側の端面にはロック突起8Aが突設され、対向するパッドホルダ4における一端部側の支持部4Aの内端面には前記ロック突起8Aと係脱するロック穴4C(白矢印の裏面形状参照)が刻設されている。圧縮ばね7Aの復元力により固定駒8がパッドホルダ4における一端部側の支持部4A側に押し付けられて、ロック機構を構成するこれらのロック突起8Aとロック穴4Cとが係合するときには、固定駒8がパッド部材5におけるアンカプレート19(図7、図8参照)をパッドホルダ4の蟻溝20内にて保持位置を確保するように構成される。また、固定駒8の前面にはレバー10が固定ボルト13により固定されて取り付けられ、該レバー10の延設された一端部10Aに穿設された孔とパッドホルダ4における一端部側の端面に設置されたピン21との間には戻しばね7Bが張設される。該戻しばね7Bは後述するように、固定駒8の揺動範囲内にてデッドポイントを境に、固定駒8を開放勝手と保持勝手との間にて付勢方向を切り換えるトグル機構を構成することができる。
【0024】
図6はパッド部材の離脱行程の前段階を示す要部斜視図である。図5を参照しつつパッド部材の離脱行程を以下に説明する、図6(A)に示すパッド部材装着状態から、図6(B)における白矢印のように、固定駒8に固定したレバー10を圧縮ばね7A(図6では固定駒8に隠れて見えない)の復元力に抗して軸方向へスライドさせると、固定駒8の端面のロック突起8Aがパッドホルダ4における一端部側の支持部4Aの内端面のロック穴4Cから抜け出す。これによって、図6(C)に示すように、固定駒8をレバー10により上方の開放位置へ揺動させることが可能となる。前記レバー10の一端部10Aとパッドホルダ4に設置されたピン21との間に張設された戻しばね7Bにより、固定駒8はシャフト11の位置近傍をデッドポイントとして、下方への保持勝手の付勢から上方への開放勝手の付勢に切り換えられる。したがって、レバー10の一端部10Aの位置は、戻しばね7Bの付勢力によって固定駒8が下方に保持勝手に付勢されるように、シャフト11の位置近傍より下位(パッド部材5側)に設定されている。
【0025】
図7はパッド部材の離脱行程の後段階を示す要部斜視図である。図7(A)に示すように、固定駒8が図面上方への開放勝手に付勢された状態にて、下側パッド部材5Bを白矢印のように蟻溝20から直交する方向に取り外す。その後、図7(B)に示すように、白矢印のようにして、取付状態で図5(B)に示す正面視の上方から蟻溝20内を下方にスライドさせてきた上側パッド部材5Aを、蟻溝20から直交する方向に取り外す。上下のパッド部材5A、5Bをパッドホルダ4における蟻溝20に装着するには、以上の行程を逆に行えばよい。そして、レバー10によって固定駒8を装着位置に戻すことによって、前記圧縮ばね7Aの復元力により、ロック機構を構成する固定駒8のロック突起8Aとパ
ッドホルダ4の内端面のロック穴4Cとが係合して、パッド部材5A、5Bの装着状態が確実に保持される。
【0026】
図8はパッド部材の離脱行程の全段階を示す要部断面図である。図8は前記第1実施例の図1(B)(C)に相当するものの概略図で、図8(A)は固定駒8がパッド部材5におけるアンカプレート19をパッドホルダ4の蟻溝20内にて保持位置を確保するようにされたロック状態を示すもので、このときは、前述したロック機構を構成する固定駒8におけるロック突起8Aとパッドホルダ4のロック穴4Cとが、圧縮ばね7Aによる固定駒8のスライド移動により付勢されて係合している。
【0027】
図8(B)は、前記図6(B)から図6(C)の状態への移行期を示したもので、固定駒8を圧縮ばね7Aの復元力に抗してスライドさせた後、開放方向へ揺動させると、固定駒8における傾斜面がパッド部材5におけるアンカプレート19からの規制を解く。このとき、パッド部材5における当たり点は丸印の2点にある。さらに、図8(C)のように固定駒8が揺動を続けると、固定駒8部での高低差が最大となり、図8(D)に示すように、固定駒8が直立するに及んで、パッド部材5におけるアンカプレート19が固定駒8に干渉されることなく、蟻溝20から直交方向に容易に取り出すことができる。パッド部材5をパッドホルダ4に装着するには、以上の行程を逆に行えばよい。
【0028】
以上、本発明の実施例について説明してきたが、本発明の趣旨の範囲内で、蟻溝の形状(断面形状は、アンカプレートが蟻溝から抜け出さない逆台形等とされるが、逆台形以外の例えば半円弧状両側面を有する断面等の適宜形状も採用され得る)を含むパッドホルダの形状、形式、アンカプレートの形成形態(別部材のアンカプレートを溶接やビス止めによりパッド部材に固定してもよいし、パッド部材と一体成形としてもよい)、分割されたパッド部材の数(2以上でも可)、蟻溝の両端部に形成されるブロック部の形成形態(パッドホルダと一体成形の他、蟻溝の形成を容易にするために、両端部が開放状態に形成された蟻溝を堰止めする形態にて別部材の板状体を適宜の方法でビス止め等して設置することもできる)、パッド部材装着機構が設けられる部位(実施例の下側部に設置する他、上側部に設置することもできる。あるいは3分割のパッド部材とした中間部位にパッド部材装着機構を設置することもできる)、パッド部材装着機構を構成するシャフトの形状、形式およびそのパッドホルダへの軸支形態(1本の通しシャフトによる他、2本の分割シャフトにより各固定駒をそれぞれのシャフトにより軸支してもよい)、シャフトへのダブルトーションばねの巻装形態(パッドホルダに対する固定駒のパッド部材装着保持方向への付勢を行う、ダブルトーションばねのパッドホルダおよび固定駒への係止形態)、第2実施例のような圧縮ばねのシャフトへの巻装形態、トグル機構を構成する戻しばねの張設形態、固定駒の形状(パッド部材におけるアンカプレートの側面傾斜面に整合する傾斜面の形成形状等)、形式およびそのパッドホルダへの揺動規制ロック形態(駒押さえを介したストッパボルトによるパッドホルダへの螺合してのロック形態、第2実施例のような圧縮ばねと戻しばねとを用いた突起と穴とによるスライドロック形態等)等については適宜選定できる。また、実施例に記載の諸元はあらゆる点で単なる例示に過ぎず限定的に解釈してはならない。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のパッド部材装着機構は、パッドホルダの蟻溝に対して複数のパッド部材がスライド自在に構成された、特に鉄道車両用ディスクブレーキのパッド部材装着機構に関するが、分割型のパッド部材が装着される車両用のディスクブレーキのパッド部材装着機構、さらには大型の産業機械用のディスクブレーキのパッド部材装着機構等にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0030】
4 パッドホルダ
4S ブロック部(ストッパ部)
5 パッド部材
5A 上側パッド部材
5B 下側パッド部材
6 パッド部材装着機構
7 ダブルトーションばね
8 固定駒
9 駒押さえ
10 レバー
13 固定ボルト
18 パッドホルダ軸
19 アンカプレート
20 蟻溝
P 接線方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキディスクの接線方向に延びるパッドホルダの蟻溝に対して複数のパッド部材がスライド自在に構成されたパッド部材装着機構において、前記パッド部材の1つを前記蟻溝から前記接線方向に直交する方向に着脱可能に構成したことを特徴とするパッド部材装着機構。
【請求項2】
前記パッドホルダの蟻溝の両端部にパッド部材のスライド移動を阻止するブロック部を形成したことを特徴とする請求項1に記載のパッド部材装着機構。
【請求項3】
前記パッド部材の1つは、パッドホルダにシャフトにより軸支されてパッド部材を蟻溝内にばね付勢する固定駒により装着が維持されるよう構成したことを特徴とする請求項1または2に記載のパッド部材装着機構。
【請求項4】
前記パッド部材の離脱方向への固定駒の揺動が規制されるロック機構をパッドホルダとの間に設置したことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のパッド部材装着機構。
【請求項5】
前記ばね付勢が前記シャフトに巻装されたトーションばねによりなされることを特徴とする請求項3または4に記載のパッド部材装着機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−236924(P2011−236924A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106137(P2010−106137)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】