説明

パネルへの物品の取付構造

【課題】取付対象の厚さが薄く、奥行寸法が十分でない箇所でも、弾性係止爪による係合強度が高く、十分な固定を行えるようにしたパネルへの物品の取付構造を提供する。
【解決手段】パネルに設けた開口に、物品の一部を嵌合し、かつ物品の側部に設けた弾性係止爪7を、パネルにおける開口の縁部に係止することにより、物品をパネルに保持させるようにしたパネルへの物品の取付構造において、弾性係止爪7を、物品の側面より、パネルと平行をなして、物品の側面に対して斜め外側方に延出するように設けるとともに、外側面に、物品の側面より延出する延出方向と、パネルの開口に嵌合する嵌合方向との2方向に対して傾斜する傾斜面7aと、この傾斜面7aとほぼ連なるように形成された楔形の係止段部7bとを備えるものとし、係止段部7bを、パネルの開口の縁部に係止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフィスなどの執務空間で使用されるキャビネットの扉、机の引出しの前面板などのパネル状構造物に設けた開口に、取手枠などの薄形物品をワンタッチで嵌着できるようにしたパネルへの物品の取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
キャビネットや机などの什器は、什器本体の組立後に、扉や引出しの前面板などのパネル状構造物に把手、引手、錠などの後付部品を組付けることにより、製品として完成される。
【0003】
これら後付部品は、デザイン上の観点から、造形の自由度の高い材質からなっており、特に把手、引手などでは、それ自体が薄いものであるため、合成樹脂製の成形体から構成される場合が多い。
【0004】
この種の部品の本体への取付には、部品の本体部前部周縁に設けたフランジをパネルの開口周縁に突き当て、フランジを介して部品を固定する方式や、前面パネルだけでは、強度が不十分であるため、什器表面となるパネルの部品取付位置裏面に予め補強を兼用した取付用パネル(背面パネル)を溶接によって所定間隔離して一体に組付け、ついでパネルに設けられた開口に部品を嵌合し、部品の背面に形成したフランジを、取付用パネル(背面パネル)の開口周縁に固定する方式がある。
【0005】
しかし、いずれの取付方式においても、複数の固定ねじで取付ける場合には、固定ねじの数に応じて工数が増し、また予めパネル、背面パネルなどにねじ孔をタッピングするか、あるいはタッピングねじを用いる場合には、下孔を穿設する必要があるため、組立工数が多くなる。特に、前者の前面側にフランジを設けた場合には、部品表面にねじが露出するため、見栄えが悪く、パネルの表側からねじを外すことができるため、防盗性に欠ける。
【0006】
そこで、下記特許文献にも示すように、部品の周囲に、弾性係止爪を一体に形成しておくことによって、部品嵌合時に、弾性係止爪を弾性撓曲させつつ嵌合し、かつ嵌合状態では、弾性係止爪が弾性復帰して開口周縁に係合することにより、部品を嵌合位置に抜止めする構造がよく知られている。
【特許文献1】特開平8−189242号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、部品及び取付対象の厚さが薄く、かつ嵌め付けのための奥行寸法が十分でない箇所では、弾性係止爪を係合するためのストロークを十分にとれないため、所望の係止力が得られず、特に把手や引手のように、外力が加わる部品については、弾性係止爪そのものが頻繁な押し引きの力で破損したり、がたつきが生じてりしやすく、十分な固定を行うことが出来ない。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するものであって、取付対象が、パネル状構造物のように厚さが薄く、嵌め付けのための奥行寸法が十分でない箇所であっても、弾性係止爪による係合強度が高く、十分な固定を行えるようにした、パネルへの物品の取付構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によると、上記課題は次のようにして解決される。
(1)パネルに設けた開口に、物品の一部を嵌合し、かつ前記物品の側部に設けた弾性係止爪を、前記パネルにおける開口の縁部に係止することにより、前記物品をパネルに保持させるようにしたパネルへの物品の取付構造において、前記弾性係止爪を、物品の側面より、前記パネルと平行をなして、前記物品の側面に対して斜め外側方に延出するように設けるとともに、外側面に、物品の側面より延出する延出方向と、前記パネルの開口に嵌合する嵌合方向との2方向に対して傾斜する傾斜面と、この傾斜面とほぼ連なるように形成された楔形の係止段部とを備えるものとし、前記係止段部を、パネルの開口の縁部に係止させる。
【0010】
(2)パネル状構造物における前面パネルの取付位置に形成した開口に、本体部の前面を臨ませて嵌合して固定される合成樹脂製の成形体からなる薄形物品の取付構造であって、
前記前面パネルの背面には、前記本体部の厚さ相当の間隔をおいて背面パネルが設けられており、前記背面パネルには、前記本体部の外形より若干大きな開口を設け、前記本体部の一側部には、背面パネルにおける開口の一方の内面周縁に当接する支点部を突設し、他側部には、開口の他方の側縁部に係合する弾性係止爪を突設したものであり、前記支点部を回動基点として、弾性係止爪を弾性撓曲させつつ、背面パネルの後方より、本体部を両パネル間に形成された空間内に嵌合し、かつ嵌め込み完了状態では、本体部の前面周囲が前面パネルの開口に嵌め込まれるとともに、前記弾性係止爪が、前記第(1)項のパネルへの物品の取付構造をもって、パネルの開口の縁部に係止されるようにする。
【0011】
(3)上記(2)項において、支点部及び弾性係止爪の基部からの前方突出部の先端に、本体部の嵌め込み完了状態で、前面パネルの裏面に当接するストッパ部を設ける。
【発明の効果】
【0012】
請求項(1)の発明によれば、弾性係止爪とパネルの開口縁部との噛み合い代や嵌合深さが小さい場合であっても、十分な接触長さが得られる。また、弾性係止爪の先端に近づくほど、噛み合い代が大となるので、取付け時における弾性係止爪の弾性変形量を少なくすることができ(弾性係止爪の基部を大きく弾性変形させる必要がない)、開口への挿入が容易になるとともに、弾性係止爪がパネルの開口縁部に係止された後は、弾性係止爪がパネルの開口縁部から外れにくくなる。
したがって、取付対象が、パネル状構造物のように厚さが薄く、嵌め付けのための奥行寸法が十分でない箇所であっても、物品を、パネルに強固に保持することができる。
【0013】
請求項(2)の発明によれば、請求項(1)の発明の作用効果に加えて、物品の一方を、背面パネルの内面に予め支持し、この部分を支点として物品を回動することにより、嵌め込みが完了するため、物品を、パネルに、簡単かつ迅速に取り付けることができるとともに、物品を強固に保持することができる。
【0014】
請求項(3)の発明によれば、嵌め込み完了状態では、物品の厚さ方向の前後は、パネル間に狭持状態に固定されるので、前後のがたつきも抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の取付構造を、引戸用のラッチ装置に適用した場合について、その最良の形態を添付図面を参照して説明する。
図1〜図4は、本発明における薄形物品の一例であるラッチ装置の部品構成を示し、このラッチ装置1は、合成樹脂製の成形体からなる平面視長方形のケース2と、ケース2の長手方向一側部より突出するラッチ3と、ラッチ3に連繋する操作部4との3つの部品から構成されている。
【0016】
ケース2は、底部開口した長方形かつ扁平薄形のもので、その長手方向一側部には左右1対の取付板5が突設され、他側部中央には、取付基部6が突設され、この取付基部6の左右には、ケース2の側面の長手方向に対して斜め外側方に延出する左右1対の弾性係止爪7が設けられている。
【0017】
ラッチ3は、中間部に空所8aを形成するように互いに離間し、かつケース2内に回動可能に軸支される左右1対の軸部8、8と、両軸部8、8と一体化され、かつケース2の長手方向一側部外方に突出するラッチ爪9と、ラッチ爪9と軸部8との連結部分よりケース2の長手方向外向き、かつ上方に向けて湾曲する付勢手段をなす板ばね10とを備えている。
【0018】
操作部材4は、ラッチ3から離間して、ラッチ3の軸部8、8と平行をなすとともに、ケース2の長手方向の両端部中央に穿設された軸孔11に両端部が嵌合されて軸支された操作軸12と、操作軸12の外周上部に突設された引手兼用の操作ノブ13と、操作軸12の外周一側部に一体に設けられ、かつラッチ3と連動するアーム14とを備えている。操作ノブ13は、ケース2の上面中央に設けた横長の長孔15を通じて、ケース2の上面に突出している。
【0019】
アーム14は、ラッチ3における両軸部8、8間の空所8aに嵌合され、アーム14の先端部に一体的に形成された連繋軸16は、図3に示すように、ラッチ3の下面に形成された凹溝9aに嵌合されている。また、操作軸12の外周他側部には、ケース2の内面に当接して操作軸12及びラッチ爪10の回動規制を行うストッパ17が突設されている。
【0020】
取付板5は、ラッチ3の板ばね10を下面側で受けるばね受け部5aと、ばね受け5aの先端下部に鉤状断面をなして突設された支点部5bを備え、支点部5bの上部側及び取付基部6の上部には、後述する引戸の裏面に当接するストッパ部5c,6aが突設されている。
【0021】
弾性係止爪7は、図4に拡大して示すように、取付基部6の端部よりケース2の側面に対して所定距離dだけ離間して、斜め外側方に延出するものであって、この距離dに応じた弾性撓曲代を与えている。
【0022】
この弾性係止爪7の外側面は、取付基部6との接合部より、ケース2の長手方向に離れるに従って、ケース2の側面から漸次離間するように傾斜している。この弾性係止爪7の外側面には、図4に示す下縁から上方に向かうに従って、ケース2の側面から漸次離間するように傾斜するとともに、弾性係止爪7の外側面に対して、図4における下向きに傾斜する、すなわち、ケース2を、取り付けようとするパネルの開口に嵌合する嵌合方向(図4における下方)と、弾性係止爪7の外側面の延出方向との2方向に傾斜する傾斜面7aと、この傾斜面7aとほぼ連なるように、弾性係止爪7の外側面中位部に設けられた平面視楔状の三角形の係止段部7bとを備えており、傾斜面7aの後述するパネルの開口縁との接触長さは、三角形の係止段部7bの底辺に相当する長さとなっており、これにより、噛み合い代や嵌合深さが小さい場合であっても、十分な接触長さが得られる。
【0023】
また、弾性係止爪7の先端に近づくほど、噛み合い代が大となるので、取付け時における弾性係止爪7の弾性変形量を少なくすることができ(弾性係止爪7の基部を大きく弾性変形させる必要がない)、開口への挿入が容易になるとともに、弾性係止爪7が背面パネル22の開口縁部に係止された後は、弾性係止爪7が背面パネル22の開口縁部から外れにくくなる。
【0024】
図5は、以上のラッチ装置1の引戸に対する取付箇所を示している。図5において、引戸20は、前面パネル21と、前面パネル21の背面にケース2の厚さ分だけ離間するようにして、スポット溶接などにより一体化された背面パネル22とを備えており、前面パネル21の取付位置には、ケース2の外形とほぼ等しい縦長の長方形の開口23が形成され、かつこの開口23の内縁には、内方を向く折返し片23aが形成されている。
【0025】
これに対し、背面パネル22に設けた開口24は、ケース2の両側面間の間隔より若干幅広の寸法に形成されているとともに、側縁側の中央には、開口24に連続してラッチ爪9の形状に応じた台形状のラッチ爪受入用切欠き24aが形成されている。
【0026】
次に上記のラッチ装置1の引戸20に対する取付手順を、図6を用いて説明する。まず図6(a)に示すように、支点部5bを、パネル22の開口24の内側縁部に位置させた状態で、支点部5bを基点として、ケース2を矢印方向に回動させる。
【0027】
回動操作により、図6(b)に示すように弾性係止爪7の傾斜面7aが開口24の他端側縁部に摺接することにより、距離dを縮めつつ弾性撓曲し、嵌合最終段階では、図6(c)に示すように、係止段部7bが開口24の縁部に弾発的に係合することにより、弾性係止爪7は弾性復帰し、組付けが完了する。
【0028】
組付け完了状態では、ケース2の前部周縁が、前面パネル21の折返し片23aの内側に位置し、この状態では、ケース2の両側において、前方を向くストッパ部5c,6aの先端が前面パネル21の内面に当接することにより、ケース22は、パネル21、22間に狭まれた状態で、強固に保持される。
【0029】
図7は、組付け状態におけるラッチ装置1を、引戸20の前面パネル21側から見た状態を示すものであり、ケース2外周が開口23の内側に位置し、操作ノブ13のみがケース2の前面に突出しているだけであるため、外観上極めてシンプルな仕上りとなる。
【0030】
ラッチ爪9は、引戸20が図示しないキャビネットの戸当り面に当接することにより、戸当り面に形成された係止孔(図示略)に自動的に係合し、引戸20を閉止状態で拘束する。拘束状態から引戸20を開けるには、単に操作ノブ13を手掛りとして、矢印方向に引くだけで、ラッチ爪9は係止孔から解除され、以後は、操作ノブ13を引手として、引戸20を開扉操作できる。
【0031】
なお、上記の実施形態は、本発明の取付構造を、ラッチ装置1の取付に適用した場合のものであるが、本発明は、キャビネットや机などにおける扉や引出しの前面板などのパネル状構造物に設けた開口に、後付の薄形物品を取付けるための構造であって、嵌め込みのための奥行寸法を十分に得られない場合に、有利に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明における薄形物品の一例であるラッチ装置の分解斜視図である。
【図2】同ラッチ装置の組立状態を表側から見た斜視図である。
【図3】同ラッチ装置の組立状態を裏側から見た斜視図である。
【図4】図3におけるIV部の拡大斜視図である。
【図5】同ラッチ装置と引戸との関係を背面側から見た斜視図である。
【図6】(a)〜(c)は、ラッチ装置の引戸に対する組付け手順を示す横断面説明図である。
【図7】同ラッチ装置の組付け完成状態を正面側から見た斜視図である。
【符号の説明】
【0033】
1 ラッチ装置(薄形物品)
2 ケース(本体部)
3 ラッチ
4 操作部
5 取付板
5aばね受け
5b支点部
5cストッパ部
6 取付基部
6aストッパ部
7 弾性係止爪
7a傾斜面
7b係止段部
8 軸部
8a空所
9 ラッチ爪
9a凹入溝
10 板ばね
11 軸孔
12 操作軸
13 操作用ノブ
14 アーム
15 長孔
16 連繋軸
17 ストッパ
20 引戸
21 前面パネル
22 背面パネル
23 開口
23a折返し片
24 開口
24aラッチ片受入用切欠き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パネル(22)に設けた開口(24)に、物品(1)の一部を嵌合し、かつ前記物品(1)の側部に設けた弾性係止爪(7)を、前記パネル(22)における開口(24)の縁部に係止することにより、前記物品(1)をパネル(22)に保持させるようにしたパネル(22)への物品(1)の取付構造において、
前記弾性係止爪(7)を、物品(1)の側面より、前記パネル(22)と平行をなして、前記物品(1)の側面に対して斜め外側方に延出するように設けるとともに、外側面に、物品(1)の側面より延出する延出方向と、前記パネル(22)の開口(24)に嵌合する嵌合方向との2方向に対して傾斜する傾斜面(7a)と、この傾斜面(7a)とほぼ連なるように形成された楔形の係止段部(7b)とを備えるものとし、前記係止段部(7b)を、パネル(22)の開口(24)の縁部に係止させたことを特徴とするパネルへの物品の取付構造。
【請求項2】
パネル状構造物における前面パネル(21)の取付位置に形成した開口(23)に、本体部(2)の前面を臨ませて嵌合して固定される合成樹脂製の成形体からなる薄形物品(1)の取付構造であって、
前記前面パネル(21)の背面には、前記本体部(2)の厚さ相当の間隔をおいて背面パネル(22)が設けられており、前記背面パネル(22)には、前記本体部(2)の外形より若干大きな開口(24)を設け、前記本体部(2)の一側部には、背面パネル(22)における開口(24)の一方の内面周縁に当接する支点部(5b)を突設し、他側部には、開口(24)の他方の側縁部に係合する弾性係止爪(7)を突設したものであり、前記支点部(5b)を回動基点として、弾性係止爪(7)を弾性撓曲させつつ、背面パネル(22)の後方より、本体部(2)を両パネル(21)(22)間に形成された空間内に嵌合し、かつ嵌め込み完了状態では、本体部(2)の前面周囲が前面パネル(21)の開口(23)に嵌め込まれるとともに、前記弾性係止爪(7)が、請求項1記載のパネルへの物品の取付構造をもって、パネル(22)の開口(24)の縁部に係止されるようにしたことを特徴とするパネルへの物品の取付構造。
【請求項3】
支点部(5b)及び弾性係止爪(7)の基部からの前方突出部の先端に、本体部(2)の嵌め込み完了状態で、前面パネル(21)の裏面に当接するストッパ部(5c)(6a)を設けた請求項2記載のパネルへの物品の取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−93291(P2008−93291A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−280614(P2006−280614)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【出願人】(000000561)株式会社岡村製作所 (1,415)