説明

パラメトリックスピーカ

【課題】複数の超音波発生素子により発生する音波の打ち消し合いを防止し、安定して十分な音圧が得られるパラメトリックスピーカを提供する。
【解決手段】超音波により指向性を与えて音響情報を伝えるパラメトリックスピーカ100であって、超音波帯域の所定の周波数で信号を発振する発振器101と、音声信号で発振信号を変調する変調器102と、いずれも所定の周波数に対して高低一方側の共振周波数を有し、変調信号に基づいて超音波を発生させる複数の超音波発生素子110と、を備える。これにより、複数の超音波発生素子110により発生する音波の打ち消し合いを防止し、安定して十分な音圧が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波により指向性を与えて音響情報を伝えるパラメトリックスピーカに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、指向性の強い超音波信号を用いて、特定の方向や位置に情報を伝えるパラメトリックスピーカが実用化されている。パラメトリックスピーカは、比較的高い音圧を持つ変調超音波信号が、空気の非線形性によって可聴音に自己復調される現象を利用した装置である。たとえば、特許文献1には、超音波の周波数を変えて可聴音への復調の距離をコントロールするパラメトリックスピーカが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−349817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなパラメトリックスピーカは、超音波の指向性と音圧を高めるために、超音波発生素子を複数並べて構成されている。そして、それぞれに発生する超音波の音圧を互いに高めるためには、各々の超音波発生素子を同じ位相で振動させる必要がある。
【0005】
しかしながら、超音波発生素子は、それぞれが固有の共振周波数を有し、各共振周波数が異なるため、例えば、図6に示すように駆動周波数が共振周波数fbと同じである場合、それより低い共振周波数faを有する超音波発生素子から発生する音波の位相は、それより高い共振周波数fcを有する超音波発生素子から発生する音波の位相と大きく異なる。
【0006】
これにより、駆動周波数より低い共振周波数faを有する超音波発生素子と駆動周波数より高い共振周波数fcを有する超音波発生素子のそれぞれにより発生する音波が打ち消しあうため、充分な音圧を得ることができない。また、図7の曲線Qに示すように、曲線Pのピークとなる共振点付近では周波数の変化に対して位相が大きく動くことから、温度などの変動により、音圧が変動し、安定した性能を発揮できない。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、複数の超音波発生素子により発生する音波の打ち消し合いを防止し、安定して十分な音圧が得られるパラメトリックスピーカを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するため、本発明のパラメトリックスピーカは、超音波により指向性を与えて音響情報を伝えるパラメトリックスピーカであって、超音波帯域の所定の周波数で信号を発振する発振器と、音声信号で前記発振信号を変調する変調器と、いずれも前記所定の周波数に対して高低一方側の共振周波数を有し、前記変調信号に基づいて超音波を発生させる複数の超音波発生素子と、を備えることを特徴としている。
【0009】
このように、本発明のパラメトリックスピーカは、複数の超音波発生素子のいずれもが所定の駆動周波数に対して高低一方側の共振周波数を有している。これにより、複数の超音波発生素子により発生する音波の打ち消し合いを防止し、安定して十分な音圧が得られる。
【0010】
(2)また、本発明のパラメトリックスピーカは、前記複数の超音波発生素子が、いずれも前記所定の周波数より低い共振周波数を有することを特徴としている。これにより、複数の超音波発生素子が所定の周波数より高い共振周波数を有する場合よりも超音波発生素子の発熱を抑えることができる。一旦発熱が起きると、その素子の共振周波数は低い方に移るため、音波の打ち消し合いを防止しやすい。また、発熱を抑えることで共振周波数のシフトを小さくすることができ、より駆動周波数に近い共振周波数の超音波発生素子を用いることができる。
【0011】
(3)また、本発明のパラメトリックスピーカは、前記複数の超音波発生素子が、いずれも−40℃で前記所定の周波数より低い共振周波数を有することを特徴としている。これにより、音波の打ち消し合いを確実に防止でき、安定して十分な音圧が得られる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数の超音波発生素子により発生する音波の打ち消し合いを防止し、安定して十分な音圧が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)、(b)それぞれ本発明のパラメトリックスピーカを示す正面図および側面図である。
【図2】超音波発生素子を示す断面図である。
【図3】本発明のパラメトリックスピーカの電気的構成を示すブロック図である。
【図4】超音波発生素子の周波数に対する振幅の関係を示すグラフである。
【図5】超音波発生素子の周波数に対する特性を示すグラフである。
【図6】超音波発生素子の周波数に対する振幅の関係を示すグラフである。
【図7】超音波発生素子の周波数に対する特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
(パラメトリックスピーカの構成)
図1(a)、(b)は、それぞれパラメトリックスピーカ100を示す正面図および側面図である。パラメトリックスピーカ100は、強力な音圧で変調された超音波を発生させ、空気中を超音波が伝播する際の非線形特性により、可聴音を出現させる。このようにして方向や距離を特定し指向性を与えて音響情報を伝えることを可能にする。図1に示すように、パラメトリックスピーカ100は、複数の超音波発生素子110が基板120上に設けられて構成されている。超音波発生素子110は、変調信号に基づいて超音波を発生させる。基板120は、超音波発生素子110を固定し支持している。なお、図1では、外観構成を示し、電気的構成は省略している。
【0016】
(超音波発生素子の構成)
図2は、超音波発生素子110を示す断面図である。超音波発生素子110は、金属板111、圧電素子112、リード線113、114、パラボラ体115および支持体118により構成されている。金属板111は、たとえば、真鍮、42アロイ、SUS304またはアルミニウム等の金属により円板状に形成されている。
【0017】
圧電素子112は、円板状に形成されており、金属板111の一方の主面に接着されて設置されている。金属板111の他方の主面が振動面となっており、圧電素子112は、振動面を介し、パラボラ体115により超音波を送受信できる。圧電素子112の両主面には、それぞれ電極が形成されており、本体部分の圧電体は分極されている。超音波発生素子110の共振周波数は、超音波発生素子110において振動する部分の形状、ヤング率、重量などの特性、すなわち金属板111、圧電素子112、パラボラ体115の形状や重量、材質によって変化する。超音波発生素子110は、あらかじめ一定の共振周波数となるように設計されている。
【0018】
このような設計は、いずれの超音波発生素子110に対しても所定の駆動周波数に対して高低一方側の共振周波数を有するようになされている。すなわち、すべての超音波発生素子110の共振周波数が駆動周波数より高いか、そうでなければすべての超音波発生素子110の共振周波数が駆動周波数より低い。これにより、複数の超音波発生素子110により発生する音波の打ち消し合いを防止し、安定して十分な音圧が得られる。
【0019】
さらに言えば、複数の超音波発生素子110は、いずれも所定の周波数より低い共振周波数を有するように設計されていることが好ましい。これにより、複数の超音波発生素子110が所定の周波数より高い共振周波数を有する場合よりも超音波発生素子110の発熱を抑えることができる。一旦発熱が起きると、その超音波発生素子110の共振周波数は低い方に移るため、音波の打ち消し合いを防止しやすい。また、発熱を抑えることで共振周波数のシフトを小さくすることができ、より駆動周波数に近い共振周波数の超音波発生素子110を用いることができる。
【0020】
また、複数の超音波発生素子110は、いずれも−40℃で所定の周波数より低い共振周波数を有するのがさらに好ましい。これにより、音波の打ち消し合いを確実に防止でき、安定して十分な音圧が得られる。共振周波数の設計の詳細は後述する。
【0021】
リード線113、114は、基板120上の回路に接続され、電圧の印加、検出が可能になっている。リード線113は、金属板111を介して、金属板111の一方の主面側の圧電素子112の金属板111側の電極に接続されている。リード線114は、圧電素子112の基板120側の電極に接続されている。このような構成により、電気信号を圧電素子112に伝達し、超音波を発生させることを可能にしている。
【0022】
パラボラ体115は、たとえば金属によりパラボラ形状に形成されており、金属板111上に固定されている。金属板111上にパラボラ体115を設けることで、発生する超音波の音圧を上昇させている。なお、パラボラ体115は、アルミニウムやアルミニウム−マグネシウム合金などの軽い材料で形成されていることが好ましい。
【0023】
支持体118は、圧電素子112の基板120側の数か所に設けられ、たとえばシリコンゴムのような弾性体で形成されて、超音波発生素子110を支持している。支持体118は、基板120の振動の節の位置に設けられている。これにより、超音波発生素子110からの振動が基板120に伝わるのを防止している。基板120の超音波発生素子110の配置箇所の中央には穴が設けられており、穴内には吸音材121が充填されている。吸音材121は、スポンジ状の材料で形成されており、超音波発生素子110からその背面側に伝わる音を遮断する。なお、上記の超音波発生素子110は一例にすぎず、設計により共振周波数を調整できるものであれば本発明を適用できる。
【0024】
(パラメトリックスピーカの電気的構成)
図3は、パラメトリックスピーカ100の電気的構成を示すブロック図である。図3に示すように、パラメトリックスピーカ100は、発振器101、変調器102、増幅器105および超音波発生素子110を備え、これらを介して超音波を発生させる。発振器101は、超音波帯域の所定の周波数で信号を発振する。発振される周波数は、発振信号が超音波発生素子110に伝達されたとき圧電素子112を駆動する駆動周波数であり、パラメトリックスピーカ100の用途に応じてあらかじめ決定されている。
【0025】
変調器102は、音声信号で発振信号をAM変調する。変調は、AM変調に代えて、DSB変調、SSB変調、FM変調であってもよい。増幅器105は、変調された発振信号を増幅し、超音波発生素子110に出力する。超音波発生素子110は、増幅された発振信号を音波に変換する。
【0026】
(パラメトリックスピーカの動作)
上記のように構成されたパラメトリックスピーカ100は、超音波帯域の周波数の信号を発振し、発振信号を所望の音声信号で変調し、変調信号を増幅して、超音波発生素子110で音波に変換して放射する。このようにして、指向性の高い超音波を放射することができる。このようにして、たとえば狭い範囲にいる人に選択的に案内を流すことができるため、美術館や水族館、博物館、アミューズメント施設などに利用できる。今後、交通案内などでも利用可能である。
【0027】
(共振周波数の設計)
図4は、超音波発生素子110の周波数に対する振幅の関係を示すグラフである。図4に示すように、駆動周波数が各々の共振周波数の最も高いものより若干高めになるように、超音波発生素子110が設計されている。このような設計により、互いの超音波発生素子110から発生する超音波が同位相となり、音波が打ち消しあうことを防ぐことができる。例えば、図4に示すように、f、f、fの共振周波数を有する超音波発生素子110を並べて、パラメトリックスピーカ100を構成するとき、f<f<fである場合、fが駆動周波数より若干低めになるように超音波発生素子110を設計する。
【0028】
駆動周波数に対してどの程度低めの周波数に設定するかは、主に超音波発生素子110の温度変動によって決まる。通常、各々の超音波発生素子110の共振周波数は、超音波発生素子110の温度が上昇すると、低くなることが知られており、例えば、車載の環境温度(−40℃〜85℃)を考えた場合、共振周波数fcが−40℃になっても、駆動周波数より高くならないことが目安となる。
【0029】
図5は、超音波発生素子110の周波数に対する特性を示すグラフである。図5の曲線Rに示すように、共振周波数が駆動周波数より高くなるように超音波発生素子110を設計した場合、同程度低い方に共振周波数をずらして設計する場合と比較して、発熱が大きくなる傾向にある。したがって、共振周波数を低めに設計する方が発熱を抑える効果がある。さらに、一旦発熱が起きると、その超音波発生素子110の共振周波数は低い方に移るため、その意味でも、共振周波数より高い方で駆動した方が、発熱を小さくでき共振周波数のシフトを少なくすることができる。また、より共振周波数に近い駆動周波数の設定ができる効果もある。
【符号の説明】
【0030】
100 パラメトリックスピーカ
101 発振器
102 変調器
105 増幅器
110 超音波発生素子
111 金属板
112 圧電素子
113、114 リード線
115 パラボラ体
118 支持体
120 基板
121 吸音材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波により指向性を与えて音響情報を伝えるパラメトリックスピーカであって、
超音波帯域の所定の周波数で信号を発振する発振器と、
音声信号で前記発振信号を変調する変調器と、
いずれも前記所定の周波数に対して高低一方側の共振周波数を有し、前記変調信号に基づいて超音波を発生させる複数の超音波発生素子と、を備えることを特徴とするパラメトリックスピーカ。
【請求項2】
前記複数の超音波発生素子は、いずれも前記所定の周波数より低い共振周波数を有することを特徴とする請求項1記載のパラメトリックスピーカ。
【請求項3】
前記複数の超音波発生素子は、いずれも−40℃で前記所定の周波数より低い共振周波数を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載のパラメトリックスピーカ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−217096(P2012−217096A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82114(P2011−82114)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】