説明

パワーステアリング装置

【課題】 操舵感覚を可能な限り自然な状態に維持し、しかもアイドリングを確実に再開することができるパワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】 電動モータにより車両の操舵部材の操舵力を補助し、エンジンを休止及び再始動する手段と連動して補助する操舵力を変動するパワーステアリング装置において、エンジンの休止を検出するエンジン休止検出手段と、エンジン休止検出手段がエンジンの休止を検出した場合、電動モータの回転数を一定時間内で漸次低減する回転数低減手段と、エンジンの始動を検出するエンジン始動検出手段と、エンジン始動検出手段がエンジンの始動を検出した場合、電動モータの回転数を一定時間内で漸次増加する回転数増加手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号での停車時等にエンジンを休止するアイドルストップ機能を併せ持ち、電動モータの駆動力又は電動モータが駆動するポンプが発生させる油圧により車両のハンドル(操舵部材)の操舵力を補助するパワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
国際的な環境問題として車両のCO2 の排出量を削減することが世界的にも強く要請されている。国によっては、国内法令でアイドリングを禁止する法令を定める国も存在する。わが国では、斯かる問題に対処すべく、車両が停止している状態を検知し、自動的にエンジンを休止するアイドルストップ機能を搭載した車両が開発されている。
【0003】
しかし、電動モータの駆動力又は電動モータが駆動するポンプが発生させる油圧により車両の操舵部材の操舵力を補助するパワーステアリング装置を備えている場合、エンジンを休止すると、オルタネータの回転も停止し、バッテリへの充電も停止することから、本来操舵力の補助が必要である操舵部材の据え切り操作時に操舵力の補助を受けることができないおそれがあるという問題点があった。
【0004】
そこで、据え切り操作を検出した時点で休止しているエンジンを再始動させることにより、本来操舵力の補助が必要となる操舵部材の据え切り操作時にも操舵力の補助を受けることができるようにするパワーステアリング装置が開発されている(特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開平10−318012号公報
【特許文献2】特開2000−345878号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述したパワーステアリング装置では、アイドルストップ機能が車両停止と同時に作用する。したがって、例えば車庫入れを試みる場合等、慎重に移動させるべく停止・後退を繰り返す機会が多いときには、車両が停止するごとに操舵部材に操舵力の補助がなされなくなり、操舵部材を据え切りした途端に操舵力の補助がなされる、といった不自然な操舵感覚を生じることになる。
【0006】
また、エンジンが休止した状態で操舵力の補助を受けるためには、例えばバッテリからの出力電圧により油圧ポンプを駆動させ、操舵力の補助を受ける。しかし、バッテリ充電量に余力がある場合は確実に操舵力の補助を受けることができるのに対し、バッテリ充電量に余力がない場合、バッテリが過放電状態となり、アイドリングを再開することが困難になるおそれがあるという問題点があった。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決すべく、操舵感覚を可能な限り自然な状態に維持し、しかもアイドリングを確実に再開することができるパワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために第1発明に係るパワーステアリング装置は、電動モータにより車両の操舵部材の操舵力を補助し、エンジンを休止及び再始動する手段と連動して補助する操舵力を変動するパワーステアリング装置において、エンジンの休止を検出するエンジン休止検出手段と、該エンジン休止検出手段がエンジンの休止を検出した場合、前記電動モータの回転数を一定時間内で漸次低減する回転数低減手段と、エンジンの始動を検出するエンジン始動検出手段と、該エンジン始動検出手段がエンジンの始動を検出した場合、前記電動モータの回転数を一定時間内で漸次増加する回転数増加手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
第1発明に係るパワーステアリング装置では、エンジンのアイドルストップ機能と連動し、エンジンが休止した場合、電動モータの回転数を一定時間内で漸次低減する。これにより、エンジンが休止した時点から、次第に操舵部材の操作が重く感じるようになり、操舵力の補助が急に停止することにより一気に操舵部材の操作が重くなるといった不自然な操舵感覚を運転者に与えることがない。また、エンジンが再始動した場合、電動モータの回転数を一定時間内で漸次増加する。これにより、エンジンが再始動した時点から、次第に操舵部材の操作が軽く感じるようになり、操舵力の補助が急に再開することにより一気に操舵部材の操作が軽くなるといった不自然な操舵感覚を運転者に与えることがない。
【0010】
第2発明に係るパワーステアリング装置は、第1発明において、前記エンジン休止検出手段がエンジンの休止を検出した場合、バッテリの出力電圧を測定する手段と、該手段で測定した出力電圧が所定電圧より低いか否かを判断する手段と、該手段が所定電圧より低いと判断した場合、前記回転数低減手段は、前記電動モータの回転数をゼロにするよう構成してあることを特徴とする。
【0011】
第2発明に係るパワーステアリング装置では、エンジンが休止した場合、バッテリの出力電圧が所定電圧より低くなったときには、電動モータの回転数をゼロにする。これにより、バッテリの出力電圧が所定電圧以上である間は、バッテリからの出力電圧により操舵力の補助を行い、バッテリの出力電圧が所定電圧より低くなったときには、エンジンを再始動するために必要な出力電圧を確保すべく、操舵力の補助を完全に停止する。
【0012】
第3発明に係るパワーステアリング装置は、第1又は第2発明において、前記所定電圧は、バッテリ満充電時の出力電圧であることを特徴とする。
【0013】
第3発明に係るパワーステアリング装置では、エンジンが休止した場合、バッテリ満充電時の出力電圧との大小比較によって、電動モータの回転数をゼロにするか否かを決定する。これにより、バッテリの出力電圧は、バッテリの劣化によってバッテリ満充電時の出力電圧から急激に低下することから、バッテリ満充電時を判断の基準とすることで、より確実にエンジンを再始動するために必要な出力電圧を確保することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように本発明によれば、エンジンが休止した時点から、次第に操舵部材の操作が重く感じるようになり、エンジンが再始動した時点から、次第に操舵部材の操作が軽く感じるようになり、急に操舵部材の操作が重く又は軽くなるといった不自然な操舵感覚を運転者が感じることを未然に防止することが可能となる。
【0015】
また、バッテリの出力電圧が所定電圧、例えばバッテリ満充電時の出力電圧である間は、バッテリからの出力電圧により操舵力の補助を行い、バッテリの出力電圧が所定電圧より低くなったときには、バッテリの出力電圧による操舵力の補助を停止することにより、エンジンを再始動するために必要な出力電圧を確実に確保することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて説明する。
【0017】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係るパワーステアリング装置の要部構成を示すブロック図である。本実施の形態1に係るパワーステアリング装置は、CPU12が、舵角センサ10の出力信号に基づいて舵角速度を演算し、演算した舵角速度及び車速センサ14によって検出される車速に基づいて電動モータ27の目標回転速度Rを設定する。
【0018】
具体的には、操舵軸(図示せず)を回転することによる操舵速度を検出する舵角センサ10の操舵速度検出信号が、インタフェイス回路11を介してCPU12へ与えられる。また、車速を検出する車速センサ14からの車速信号が、インタフェイス回路15を介してCPU12へ与えられる。さらに、エンジンの回転数を検出するエンジン回転計3の検出信号が、インタフェイス回路4を介してCPU12へ与えられる。CPU12は、内蔵する操舵速度/モータ回転数テーブル12aを参照して、与えられた舵角信号及び車速信号に基づき設定された電動モータ27の目標回転速度Rに対応するモータ回転数指令値を作成し、PWM制御部5へ入力する。
【0019】
PWM制御部5は、電流センサにより検出されるモータ電流及びホールセンサにより検出される回転角に基づいて目標回転速度Rを達成するために必要な駆動信号を作成し、作成した駆動信号を電動モータ27の駆動回路28に与える。
【0020】
電動モータ27は、U相界磁コイル27U、V相界磁コイル27V、及びW相界磁コイル27Wを有するステータと、これらの界磁コイル27U、27V、27Wからの反発磁界を受ける永久磁石(例えば、フェライト磁石)が固定されたロータとを備えており、ロータの回転角がホールセンサによって検出されるようになっている。
【0021】
ホールセンサは、U相、V相及びW相に対応してそれぞれ設けられたホールセンサ22U、22V、22Wを有している。これらのホールセンサ22U、22V、22Wは、電動モータ27に内蔵されている。ロータの回転角の検出は、ホールセンサ以外の回転角センサ(例えば、レゾルバ等)によって検出してもよく、このような回転角センサは、電動モータ27のケーシング内に設けられてもよいし、その外部に設けられてもよい。
【0022】
電動モータ27に流れる電流を検出する電流センサは、U相、V相、及びW相にそれぞれ流れる電流を検出する電流センサ21U、21V、21Wを備えている。電流センサ21U、21V、21Wの出力信号はモータ電流検出回路7に、上述したホールセンサ22U、22V、22Wの出力信号は、CPU12に、それぞれ入力されるようになっている。
【0023】
駆動回路28は、U相に対応した一対の電界効果トランジスタUH、ULの直列回路と、V相に対応した一対の電界効果トランジスタVH、VLと、W相に対応した一対の電界効果トランジスタWH、WLの直列回路とを、電源である車載バッテリ40に対して並列に接続して構成されている。電動モータ27のU相界磁コイル27Uは電界効果トランジスタUH、ULの間の接続点に接続されており、V相界磁コイル27Vは電界効果トランジスタVH、VLの間の接続点に接続されており、W相界磁コイル27Wは電界効果トランジスタWH、WLの間の接続点に接続されている。
【0024】
CPU12は、電界効果トランジスタUH、VH、WHを各一定の電気角の期間だけ順にオン状態とするとともに、電界効果トランジスタUL、VL、WLに対してはPWMパルスからなる駆動信号を与えることによって、電動モータ27の回転を制御する。すなわち、目標回転速度Rに応じたPWMデューティを設定することにより、駆動回路28の電界効果トランジスタUH、UL、VH、VL、WH、WLに与えるべき駆動信号をPWM制御部5から出力する。
【0025】
CPU12は、モータ電流検出回路7から電流センサ21U、21V、21Wで検出した電流値、及びフィードバック信号としてホールセンサ22U、22V、22Wの出力信号を取得し、PWM制御部5に対して、目標回転速度Rに応じたPWMデューティの設定値を出力する。
【0026】
上述した説明では、車速を車速センサ14で検出し、エンジンの回転数をエンジン回転計3で検出しているが、車速センサ14及びエンジン回転計3の代わりに、両者を同時に検出するCAN信号センサ(図示せず)を備え、インタフェイス回路(図示せず)を介してCPU12へ与えるものであっても良い。
【0027】
図2は、本発明の実施の形態1に係るパワーステアリング装置のCPU12の処理手順を示すフローチャートであり、図3は、本発明の実施の形態1に係るパワーステアリング装置のエンジン及び電動モータの回転数の遷移を示す図である。CPU12は、車速センサ14の検出信号をインタフェイス回路15を介して読込み(ステップS201)、読込んだ車速センサ14の検出信号に基づいて、車両が停止しているか否かを判定する(ステップS202)。
【0028】
CPU12が、車両が移動している(停止していない)と判定した場合(ステップS202:NO)、ステップS201へ戻り、CPU12は、車両が停止するまで車速センサ14の検出信号を読込む。CPU12が、車両が停止していると判定した場合(ステップS202:YES)、エンジン休止検出手段であるエンジン回転計3の検出信号をインタフェイス回路4を介して読込み(ステップS203)、読込んだ検出信号に基づいて、エンジンの回転数が、所定値以下であるか否かを判定する(ステップS204)。判定の基準とする所定値は、アイドリング回転数、特に車載エアコン等の負荷が生じていない状態でのアイドリング回転数であることが好ましい。
【0029】
CPU12が、エンジンの回転数が所定値より大きいと判定した場合(ステップS204:NO)、ステップS203へ戻り、CPU12は、エンジンの回転数が所定値以下になるまでエンジン回転計3の検出信号を読込む。CPU12が、エンジンの回転数が所定値以下であると判定した場合(ステップS204:YES)、車両はアイドリング状態であると判断して、CPU12は、回転数低減手段として、DCブラシレスモータである電動モータ27の回転数を所定の時間内に所定の回転数減じるモータ回転数指令値をPWM制御部5へ出力する(ステップS205)。
【0030】
電動モータ27の回転数を所定の時間内に所定の回転数減じる信号は、以下の手順でCPU12が算出する。回転数の減少時間を一定値(例えば15秒)として記憶しておき、電動モータ27の現在の回転数を目標とする最小回転数まで記憶してある一定時間内に漸次減少させるよう、単位時間当たり(例えば1秒当たり)の回転数の減少量を算出する。CPU12は、単位時間当たりの回転数の減少量に基づいて、単位時間ごとに目標回転数を修正したモータ回転数指令値をPWM制御部5へ出力する。PWM制御部5は、モータ回転数指令値に従ってデューティ比を漸次減少させつつPWM信号を作成し、電動モータ27の回転数を一定時間内で漸減させる。
【0031】
図3では、アイドルストップ機能により、エンジンが休止した時点、すなわちエンジンの回転数がアイドリング回転数である600rpmから0rpmへと移行した時点で、補助操舵力を供給する電動モータ27の回転数を2500rpmから1000rpmへと15秒間で漸減する。これにより、エンジンが休止した直後に操舵部材を据え切りした場合であっても、急激に操舵が重くなったと感じることがなく、自然な操舵感覚を残した状態で電動モータ27の回転数を減少することができる。
【0032】
また、電動モータ27の回転数が1000rpmの状態では、運転者は、通常の操舵力の補助を受けることはできないが、若干の操舵力の補助を受けることができることから、全く補助を受けない状態、すなわち電動モータ27の回転数が0(ゼロ)である状態よりは、操舵部材を軽く操作することが可能となる。
【0033】
CPU12は、エンジンが休止している状態で、運転者がアクセルを踏み込む、操舵部材を据え切り操作する等を別途センサにより検出した場合、エンジンを再始動する再始動信号をエンジンのECUに対して出力する。CPU12は、エンジン始動検出手段であるエンジン回転計3の検出信号をインタフェイス回路4を介して読込み(ステップS206)、読込んだエンジン回転計3の検出信号に基づいて、エンジンが再始動しているか否かを判定する(ステップS207)。
【0034】
CPU12が、エンジンが再始動していないと判定した場合(ステップS207:NO)、ステップS206へ戻り、CPU12は、エンジン回転計3の検出信号を読込む。CPU12が、エンジンが再始動していると判定した場合(ステップS207:YES)、CPU12は、回転数増加手段として、直流モータMの回転数を所定の時間内に、回転数を減じる前の回転数に戻すモータ回転数指令値をPWM制御部5へ出力する(ステップS208)。
【0035】
電動モータ27の回転数を所定の時間内に、回転数を減じる前の回転数に戻すモータ回転数指令値は、以下の手順でCPU12が算出する。回転数を戻す時間を一定値(例えば15秒)として記憶しておき、電動モータ27の現在の回転数を目標とする回転数まで記憶してある一定時間内に漸次増加させるよう、単位時間当たり(例えば1秒当たり)の回転数の増加量を算出する。CPU12は、単位時間当たりの回転数の増加量に基づいて、単位時間ごとに目標回転数を修正したモータ回転数指令値をPWM制御部5へ出力する。PWM制御部5は、モータ回転数指令値に従ってデューティ比を漸次増加させつつPWM信号を作成し、電動モータ27の回転数を一定時間内で漸増させる。
【0036】
図3では、アイドルストップ機能により、エンジンが再始動した時点、すなわちエンジンの回転数がアイドリング回転数である600rpmへと戻った時点で、補助操舵力を供給する電動モータの回転数を1000rpmから2500rpmへと15秒間で漸増する。これにより、エンジンが再始動した直後に操舵部材を据え切りした場合であっても、急激に操舵が軽くなったと感じることがなく、自然な操舵感覚を残した状態で電動モータの回転数を増加することができる。
【0037】
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2に係るパワーステアリング装置の要部構成を示すブロック図である。本実施の形態2に係るパワーステアリング装置は、基本的な構成は実施の形態1と同様であることから、同一の符号を付することで詳細な説明を省略する。
【0038】
本実施の形態2に係るパワーステアリング装置は、バッテリの出力電圧を検出するバッテリ出力電圧計1の検出信号が、インタフェイス回路2を介してCPU12へ与えられる。CPU12は、内蔵する操舵速度/モータ回転数テーブル12aを参照して、与えられた舵角信号及び車速信号に応じたモータ回転数指令値を作成し、PWM制御部5へ入力する。
【0039】
図5は、本発明の実施の形態2に係るパワーステアリング装置のCPU12の処理手順を示すフローチャートであり、図6は、本発明の実施の形態2に係るパワーステアリング装置のエンジン及び電動モータの回転数の遷移を示す図である。CPU12は、車速センサ14の検出信号をインタフェイス回路15を介して読込み(ステップS501)、読込んだ車速センサ14の検出信号に基づいて、車両が停止しているか否かを判定する(ステップS502)。
【0040】
CPU12が、車両が移動している(停止していない)と判定した場合(ステップS502:NO)、ステップS501へ戻り、CPU12は、車速センサ14の検出信号を車両が停止するまで読込む。CPU12が、車両が停止していると判定した場合(ステップS502:YES)、エンジン回転計3の検出信号をインタフェイス回路4を介して読込み(ステップS503)、読込んだ検出信号に基づいて、エンジンの回転数が、所定値以下であるか否かを判定する(ステップS504)。判定の基準とする所定値は、アイドリング回転数、特に車載エアコン等の負荷が生じていない状態でのアイドリング回転数であることが好ましい。
【0041】
CPU12が、エンジンの回転数が所定値より大きいと判定した場合(ステップS504:NO)、ステップS503へ戻り、エンジンの回転数が所定値以下になるまでエンジン回転計3の検出信号を読込む。CPU12が、エンジンの回転数が所定値以下であると判定した場合(ステップS504:YES)、車両はアイドリング状態であると判断して、CPU12は、回転数低減手段として、DCブラシレスモータである電動モータ27の回転数を所定の時間内に所定の回転数減じるモータ回転数指令値をPWM制御部5へ出力する(ステップS505)。
【0042】
電動モータ27の回転数を所定の時間内に所定の回転数減じるモータ回転数指令値は、以下の手順でCPU12が算出する。回転数の減少時間を一定時間(例えば15秒)として記憶しておき、電動モータ27の現在の回転数を目標とする最小回転数まで記憶してある一定時間内に漸次減少させるよう、単位時間当たり(例えば1秒当たり)の回転数の減少量を算出する。CPU12は、単位時間当たりの回転数の減少量に基づいて、単位時間ごとに目標回転数を修正したモータ回転数指令値をPWM制御部5へ出力する。PWM制御部5は、モータ回転数指令値に従ってデューティ比を漸次減少させつつPWM信号を作成し、電動モータ27の回転数を一定時間内で漸減させる。
【0043】
図6では、アイドルストップ機能により、エンジンが休止した時点、すなわちエンジンの回転数がアイドリング回転数である600rpmから0rpmへと移行した時点で、補助操舵力を供給する電動モータ27の回転数を2500rpmから1000rpmへと15秒間で漸減する。これにより、エンジンが休止した直後に操舵部材を据え切りした場合であっても、急激に操舵が重くなったと感じることがなく、自然な操舵感覚を残した状態で電動モータ27の回転数を減少することができる。
【0044】
また、電動モータ27の回転数が1000rpmの状態では、運転者は、通常の操舵力の補助を受けることはできないが、若干の操舵力の補助を受けることができることから、全く補助を受けない状態、すなわち電動モータ27の回転数が0(ゼロ)である状態よりは、操舵部材を軽く操作することが可能となる。
【0045】
CPU12は、エンジンが休止している状態で、運転者がアクセルを踏み込む、操舵部材を据え切り操作する等を別途センサにより検出した場合、エンジンを再始動する再始動信号をエンジンのECUに対して出力する。CPU12は、エンジン回転計3の検出信号をインタフェイス回路4を介して読込み(ステップS506)、読込んだエンジン回転計3の検出信号に基づいて、エンジンが再始動しているか否かを判定する(ステップS507)。
【0046】
CPU12が、エンジンがまだ再始動していないと判定した場合(ステップS507:NO)、CPU12は、バッテリ出力電圧計1の検出信号をインタフェイス回路2を介して読込み(ステップS508)、読込んだ検出信号に基づいて、バッテリの出力電圧が、所定値より低いか否かを判定する(ステップS509)。判定の基準とする所定値は、バッテリを満充電した場合の出力電圧であることが好ましい。バッテリの出力電圧は、バッテリの劣化によってバッテリ満充電時の出力電圧から急激に低下するからである。
【0047】
CPU12が、バッテリの出力電圧が所定値より低いと判定した場合(ステップS509:YES)、バッテリの劣化が進行していると判断し、エンジンを再始動するための出力電圧を確保すべく、CPU12は、電動モータ27の回転数を0(ゼロ)にするモータ回転数指令値をPWM制御部5へ出力する(ステップS510)。PWM制御部5は、モータ回転数指令値に従ってデューティ比が0であるPWM信号を作成し、電動モータ27の回転を停止させる。
【0048】
図6では、CPU12が、バッテリの劣化が進行していると判断した時点で、補助操舵力を供給する電動モータの回転数を1000rpmから0rpmへと減少させる。これにより、運転者は、操舵力の補助を受けることはできないが、エンジンを再始動するために必要な出力電圧を確実に確保することができ、例えば交差点の赤信号で停車中に、エンジンを再始動することができなくなることを未然に防止することが可能となる。
【0049】
CPU12が、エンジンが再始動していると判定した場合(ステップS507:YES)、CPU12は、回転数増加手段として、電動モータ27の回転数を所定の時間内に、回転数を減じる前の回転数に戻すモータ回転数指令値をPWM制御部5へ出力する(ステップS511)。
【0050】
電動モータ27の回転数を所定の時間内に、回転数を減じる前の回転数に戻すモータ回転数指令値は、以下の手順でCPU12が算出する。回転数を戻す時間を一定値(例えば15秒)として記憶しておき、電動モータ27の現在の回転数を目標とする回転数まで記憶してある一定時間内に漸次増加させるよう、単位時間当たり(例えば1秒当たり)の回転数の増加量を算出する。CPU12は、単位時間当たりの回転数の増加量に基づいて、単位時間ごとに目標回転数を修正したモータ回転数指令値をPWM制御部5へ出力する。PWM制御部5は、モータ回転数指令値に従ってデューティ比を漸次増加させつつPWM信号を作成し、電動モータ27の回転数を一定時間内で漸増させる。
【0051】
図6では、アイドルストップ機能により、エンジンが再始動した時点、すなわちエンジンの回転数がアイドリング回転数である600rpmへと戻った時点で、補助操舵力を供給する電動モータの回転数を0rpmから2500rpmへと15秒間で漸増する。これにより、エンジンが再始動した直後に操舵部材を据え切りした場合であっても、急激に操舵が軽くなったと感じることがなく、自然な操舵感覚を残した状態で電動モータ27の回転数を増加することができる。
【0052】
なお、上述した実施の形態1及び2では、回転数増加手段で所定の時間内に増加させる目標回転数を、回転数低減手段で回転数を減じる前の回転数とした場合について説明しているが、特にこれに限定されるものではなく、回転数低減手段で低減された回転数を増加させるものであれば、同様の効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施の形態1に係るパワーステアリング装置の要部構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係るパワーステアリング装置のCPUの処理手順を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態1に係るパワーステアリング装置のエンジン及び電動モータの回転数の遷移を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態2に係るパワーステアリング装置の要部構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態2に係るパワーステアリング装置のCPUの処理手順を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態2に係るパワーステアリング装置のエンジン及び電動モータの回転数の遷移を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 バッテリ出力電圧計
3 エンジン回転計
5 PWM制御部
10 舵角センサ
12 CPU
14 車速センサ
27 DCブラシレスモータ(電動モータ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータにより車両の操舵部材の操舵力を補助し、エンジンを休止及び再始動する手段と連動して補助する操舵力を変動するパワーステアリング装置において、
エンジンの休止を検出するエンジン休止検出手段と、
該エンジン休止検出手段がエンジンの休止を検出した場合、前記電動モータの回転数を一定時間内で漸次低減する回転数低減手段と、
エンジンの始動を検出するエンジン始動検出手段と、
該エンジン始動検出手段がエンジンの始動を検出した場合、前記電動モータの回転数を一定時間内で漸次増加する回転数増加手段と
を備えることを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項2】
前記エンジン休止検出手段がエンジンの休止を検出した場合、バッテリの出力電圧を測定する手段と、
該手段で測定した出力電圧が所定電圧より低いか否かを判断する手段と、
該手段が所定電圧より低いと判断した場合、前記回転数低減手段は、前記電動モータの回転数をゼロにするよう構成してあることを特徴とする請求項1記載のパワーステアリング装置。
【請求項3】
前記所定電圧は、バッテリ満充電時の出力電圧であることを特徴とする請求項1又は2記載のパワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−151335(P2006−151335A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−348968(P2004−348968)
【出願日】平成16年12月1日(2004.12.1)
【出願人】(302066630)株式会社ファーベス (138)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000003470)豊田工機株式会社 (198)
【Fターム(参考)】