ヒアルロン酸充填物の製造方法
【課題】 気泡の混入を抑制できるヒアルロン酸充填物の製造方法を提供すること。
【解決手段】 減圧にした容器の内部に、底面から離れた位置に固定させたノズルから、底面に向けてヒアルロン酸組成物を吐出する吐出工程を備える、ヒアルロン酸充填物の製造方法であって、ヒアルロン酸組成物は、極限粘度が25〜55dl/gであり、吐出工程において、ヒアルロン酸組成物を、ヒアルロン酸組成物が底面に接触したときに低粘度化して液面が形成される吐出速度でノズルから吐出し、ヒアルロン酸組成物が底面に接触した直後から吐出速度を増加させる、製造方法。
【解決手段】 減圧にした容器の内部に、底面から離れた位置に固定させたノズルから、底面に向けてヒアルロン酸組成物を吐出する吐出工程を備える、ヒアルロン酸充填物の製造方法であって、ヒアルロン酸組成物は、極限粘度が25〜55dl/gであり、吐出工程において、ヒアルロン酸組成物を、ヒアルロン酸組成物が底面に接触したときに低粘度化して液面が形成される吐出速度でノズルから吐出し、ヒアルロン酸組成物が底面に接触した直後から吐出速度を増加させる、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロン酸充填物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸ナトリウムは、N−アセチルグルコサミンとグルクロン酸ナトリウムが交互に結合した高分子多糖である。高分子量のヒアルロン酸ナトリウムは、関節内の接合表面を潤滑にし、関節を保護する滑液に含まれることが知られている。特許文献1には、高分子量のヒアルロン酸ナトリウムを含有する粘弾性溶液を関節内に注入することによって、変形性関節症、関節損傷等の関節の病態を治療することが開示されている。
【0003】
医薬分野では、細菌による汚染がない等の理由から、薬液を注射器に移し替える作業が不要であり、注射器を薬液の容器代わりとして使用できるプレフィルド型の注射器の使用が望まれている。特許文献2には、プレフィルド型の注射器への薬液の充填方法として、注射器内部と注射器外部との圧力差により、薬液を注射器内部に充填する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−526747号公報
【特許文献2】特開昭58−19267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヒアルロン酸ナトリウムを含有する粘弾性を有する液を注射器によって関節内に注入する際には、注射針を患部に挿入した後、滑液を注射筒内部に吸い込む必要がある。しかし、ヒアルロン酸ナトリウムを含有する粘弾性を有する液に気泡が混入していると、注射筒内部に滑液が吸い込まれたことを確認することが難しい。
【0006】
さらに、比較的粘性の高い薬液を注射筒内部に注入する際、薬液に気泡が混入すると、気泡が薬液の内側に取り込まれてしまう。そして、薬液が有する粘性のために、比較的粘性の低い薬液を使用する場合とは異なり、注射前に注射針から薬液を出して気泡を除去することが容易にできない。
【0007】
上記問題点に鑑み、本発明者らが鋭意検討した結果、ヒアルロン酸を含む組成物を容器内部に充填する際、当該組成物の吐出速度を調整することにより、容器内部の充填物に気泡が混入するのを抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、減圧にした容器の内部に、底面から離れた位置に固定させたノズルから、底面に向けてヒアルロン酸組成物を吐出する吐出工程を備える、ヒアルロン酸充填物の製造方法であって、ヒアルロン酸組成物は、極限粘度が25〜55dl/gであり、吐出工程において、ヒアルロン酸組成物を、ヒアルロン酸組成物が底面に接触したときに低粘度化して液面が形成される吐出速度でノズルから吐出し、ヒアルロン酸組成物が底面に接触した直後から吐出速度を増加させる、製造方法を提供する。
【0009】
極限粘度が25〜55dl/gであるヒアルロン酸組成物が底面に接触したときに低粘度化して液面が形成される吐出速度にて、上記ヒアルロン酸組成物をノズルから吐出し、ヒアルロン酸組成物が底面に接触した直後から吐出速度を増加させることにより、容器の内部に充填されていくヒアルロン酸組成物には、常時均一な液面が形成されることとなる。これにより、極限粘度が25〜55dl/gであるヒアルロン酸組成物への気泡の混入を十分に抑制することができる。
【0010】
ここで、上記製造方法においては、ヒアルロン酸組成物が底面に接触したときの吐出速度が1〜4m/sであり、吐出速度の加速度が10〜40m/s2であることが好ましい。
【0011】
ヒアルロン酸組成物が底面に接触したときの吐出速度が1〜4m/sであり、吐出速度の加速度が10〜40m/s2であることにより、容器の内部に充填されていくヒアルロン酸組成物にはより確実に均一な液面が形成される。
【0012】
また、ノズルの吐出孔の内径が1〜5mmであることが好ましく、ノズルは、円筒形状であり、内径が3〜4mmであることがより好ましく、円筒は、吐出孔に向かって内径が細くなった形状であることがさらに好ましい。また、好ましくは、容器の容量は、2.5〜10.0mlである。
【0013】
また、ヒアルロン酸組成物は、5〜50℃、底面に接触したときの吐出速度が1m/秒以下、かつ、速度増加しない条件で渦巻き状に積み上がる組成物であることが好ましい。このような組成物に対して、本発明に係る製造方法は極めて有用である。
【0014】
また、吐出工程において、容器の内部は、−80〜−100kPaに減圧されていることが好ましい。容器の内部を上記範囲の圧力まで減圧することにより、容器内部の充填物に気泡が生じた場合であっても、容器を開放して大気圧にすれば、圧力差によって気泡サイズを限りなく縮小することができる。
【0015】
また、本発明は、吐出工程の後に、容器の内部を減圧にし、容器の開口部にガスケット挿入する打栓工程をさらに備えることが好ましく、打栓工程の後に、プランジャーロッドを組込む工程をさらに備えることがより好ましい。
【0016】
本発明に係る製造方法がこれらの工程を備えることにより、充填されたヒアルロン酸組成物に混入する気泡が極めて低減された注射器を提供できる。
【0017】
さらに本発明は、上記製造方法で得られるヒアルロン酸充填物を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、気泡の混入を抑制できるヒアルロン酸充填物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ヒアルロン酸充填物の製造方法の一例を模式的に表す側面図である。
【図2】ヒアルロン酸充填物の製造方法の他の一例を模式的に表す側面図である。
【図3】注射筒及び充填針の先端部の一例を模式的に表す断面図である。
【図4】図3の充填針全体を模式的に表す側面図である。
【図5】充填針の先端部の他の一例を模式的に表す断面図である。
【図6】ヒアルロン酸組成物が充填された注射器を模式的に表す側面図である。
【図7】実施例1及び比較例1におけるヒアルロン酸組成物の、吐出時間と吐出速度との関係を示すグラフである。
【図8】実施例1の吐出工程における(a)写真及び(b)線図である。
【図9】実施例1の打栓工程における(a)写真及び(b)線図である。
【図10】比較例1の吐出工程における(a)写真及び(b)線図である。
【図11】比較例1の打栓工程における(a)写真及び(b)線図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明のヒアルロン酸充填物の製造方法は、以下の実施形態に限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。なお、図面の寸法比率は実際の寸法比率と異なっていてもよい。
【0021】
<第一実施形態>
以下、図1を参照し、第一実施形態に係るヒアルロン酸充填物の製造方法について具体的に説明する。
【0022】
本実施形態に係るヒアルロン酸充填物の製造方法は、(a)減圧工程及び、(b)ヒアルロン酸組成物吐出工程を備える。
【0023】
(a)減圧工程
まず、ノズル1、容器2、並びに、容器2を密閉するためのシール材3を準備する。次に、容器2の開口部を、真空ライン(図示せず)に接続され、中央部にノズル1が貫通しているシール材3で密閉する。ノズル1は、容器2の底面から離れた位置に固定される。
例えば、真空ラインに接続された真空ポンプ(図示せず)を用いることにより、容器2の内部を減圧する。
【0024】
減圧工程においては、容器の内部を−80〜−100kPaになるまで減圧するとよい。これにより、後述する吐出工程において容器内部の充填物に気泡が生じた場合であっても、吐出工程後に容器を開放して大気圧にすれば、圧力差によって気泡サイズを限りなく縮小することができる。
【0025】
(b)ヒアルロン酸組成物吐出工程
減圧にした容器2の内部において、底面から離れた位置に固定させたノズル1から、底面に向けてヒアルロン酸組成物を吐出する。
【0026】
ここで、吐出速度は、ヒアルロン酸組成物が底面に接触したときに低粘度化して液面が形成される速度である。ここで、ヒアルロン酸組成物が底面に接触したときの速度は、ノズル1の吐出口から容器2の底面までの距離を、吐出開始から底面到着までの時間で除して算出する。
【0027】
吐出速度は、ヒアルロン酸組成物が底面に接触した直後から増加させる。吐出速度の増加は間欠的であってもよいが、気泡の混入を極力避ける観点から、連続的に行うことが好ましい。
【0028】
吐出速度は、具体的に、底面に接触したときの吐出速度が、1〜4m/sであることが好ましく、1〜3m/sであることがより好ましく、1〜2m/sであることがさらに好ましく、1.2〜1.5m/sであることが特に好ましい。また、同時に、加速度が10〜40m/s2であることが好ましく、10〜30m/s2であることがより好ましく、10〜20m/s2であることがさらに好ましく、12〜15m/s2であることが特に好ましい。吐出速度の加速度は、吐出中、上記範囲内であれば、一定であっても一定でなくてもよい。ここで、吐出速度の加速度とは、時間t1、t2秒における吐出速度をS(t1)、S(t2)とすると、下記式(1)において算出できる。
(S(t2)−S(t1))/t2−t1 (1)
【0029】
ここで、S(t2)、S(t1)は、充填開始から時間t1秒又はt2秒後における充填液量(g)を、それぞれ、ヒアロルン酸組成物の比重(1g/mL)、充填時間(t1秒又はt2秒)及び充填針の吐出孔の断面積で除すことにより算出される。
【0030】
ヒアルロン酸組成物が底面に接触したときの速度、及び、吐出速度の加速度が上記範囲内の値であることにより、容器の内部に充填されていくヒアルロン酸組成物にはより確実に均一な表面が形成される。
【0031】
吐出速度は、ヒアルロン酸組成物が底面に接触した直後から連続的に増加させ、一定時間(T1秒)経過後、一定時間(T2秒)一定の速度に保持することができる。ただし、T1/T2は、2〜10であることが好ましく、5〜7であることがより好ましい。
【0032】
ヒアルロン酸組成物の吐出時間の経過に伴い吐出速度を加速し、吐出速度の最大値を、2〜12m/sとすることが好ましく、2〜8m/sとすることがより好ましく、2〜6m/sとすることがさらに好ましく、3〜5m/sとすることが特に好ましい。
【0033】
吐出時の温度は、ヒアルロン酸組成物の粘度を低下させるとともに、ヒアルロン酸組成物の熱による劣化を抑制する観点から、10〜30℃であることが好ましい。
【0034】
容器2の形状は特に限定されないが、内部形状が円柱形状、角柱形状であることが好ましい。また、容器2の材質も特に限定されず、ガラス、プラスチック等を使用することができる。
【0035】
容器2の容量は、使用するヒアロルン酸組成物の量に依存し、ヒアロルン酸組成物1gに対し、2.5〜10mlであることが好ましく、3〜5mlであることがより好ましい。
【0036】
本実施形態に係る製造方法においては、30℃における極限粘度が25〜55dl/gであるヒアルロン酸組成物を使用する。このようなヒアルロン酸組成物に対しては、従来、注射筒への充填後に気泡の混入を避けることができなかった。しかしながら、本発明によれば、充填物への気泡の混入を防ぐことが可能となる。
【0037】
なお、本発明におけるヒアルロン酸組成物の極限粘度は、日本薬局方 粘度測定法の毛細管粘度計法に基づき測定した、30℃における値である。
【0038】
また、本実施形態に係る製造方法は、5〜50℃、注射筒2の底面に接触したときの吐出速度が1m/秒以下、かつ、速度増加しない条件で渦巻き状に積み上がる組成物に対して好適である。渦巻き状に積み上がる、とは、とぐろを巻くような状態のことである。
【0039】
ヒアルロン酸組成物に含まれるヒアルロン酸は、動物組織から抽出したものでも、発酵法で製造したものでもその起源を問うことなく使用できる。また、ヒアルロン酸は、そのアルカリ塩、例えばナトリウムやカリウム、リチウムの塩をも包含する概念で使用される。
【0040】
ヒアルロン酸組成物には、ヒアルロン酸の他に水系溶媒が含有されていてもよい。
【0041】
水系溶媒としては、生理的に受容な水性媒質を有する水溶液であればよい。生理的に受容とは、関節治療剤が関節腔内に注入されたとき、水性媒質自身が好ましくない作用もしくは副作用、例えば、組織の膨潤または収縮、炎症等の原因とならないことを意味する。生理的に受容な水性媒質は、通常アルカリもしくはアルカリ土類金属の塩化物、硫酸塩、リン酸塩または重炭酸塩のような無機塩類、例えば塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化マグネシウム、及び対応するカリウム、カルシウム塩、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウムのような有機酸の塩、またはグルコース、マンノース、多価アルコールのような中性有機物質、例えばグリセリン、マンニトール等から選択される1つ以上の低分子量物質の水溶液である。
【0042】
第一実施形態に係る製造方法によれば、気泡の混入が確実に抑制されたヒアルロン酸充填物を製造することができる。
【0043】
<第二実施形態>
続いて、図2〜6を参照し、第二実施形態に係るヒアロルン酸充填物の製造方法について具体的に説明する。本実施形態に係る製造方法によれば、例えば、図6に示すようなヒアルロン酸組成物が充填された注射器を製造することができる。
【0044】
図2は、ヒアルロン酸組成物が充填されたプレフィルド型注射器の製造方法を模式的に表す側面図である。当該方法は、第一実施形態に係るヒアロルン酸充填物の製造方法において説明した(a)減圧工程、及び、(b)ヒアルロン酸組成物吐出工程の他に、さらに、(c)仮打栓工程、及び(d)本打栓工程を含む打栓工程を備える。以下、各工程について詳細に説明するが、(a)減圧工程、及び、(b)ヒアルロン酸組成物吐出工程については、第一実施形態と重複する説明は省略する。
【0045】
(a)減圧工程
ノズルとして充填針1を、容器として注射筒2を用いることができる。注射筒2は、円筒形状であることが好ましい。
【0046】
(b)ヒアルロン酸組成物吐出工程
図3は、ノズルとしての充填針1の先端部、及び、容器としての注射筒2の一例を模式的に表す断面図であり、図4は、図3の充填針1全体を模式的に表す側面図である。図4に示すように、充填針1は、円筒形状の本体部40と末端に吐出孔を有する先端部41とから構成される。先端部41は、本体部40側から吐出孔側に向けて、内径は一定であり、外形が細くなっている。ヒアルロン酸組成物供給用のチューブ43から、支持部42を介して、ヒアルロン酸組成物が充填針1へ送られる。
【0047】
注射筒2の容量は、通常、2.5〜10.0mLが好適であり、より好ましくは、3〜5mLである。注射筒2が円筒形状である場合、注射筒2の内径Dの、充填針1の内径d2に対する比率(D/d2)は、2〜10であることが好ましく、4〜8であることがより好ましい。
【0048】
通常、本体部40の外径d1は、2〜8mmが好適であり、4〜6mmがより好適である。また、本体部40の内径d2(吐出孔の径)は、1〜5mmが好適であり、1〜3mmがより好適である。
【0049】
充填針1の長さLは、注射筒2の底面から充填針1までの長さHに依存し、L/Hは、2.8〜3.5であることが好ましく、3.0〜3.2であることがより好ましい。通常、充填針1の長さLは、85〜90mmが好適であり、86〜88mmがより好適である。
【0050】
充填針1の先端部41において、図5に示すように、円筒は、吐出孔に向かって内径が細くなった形状であることがより好ましい。円筒の内径d3と吐出孔の径d4との比率(d3/d4)は、1〜3が好ましく、1.5〜2.5がより好ましい。円筒は、吐出孔に向かって、極率Rが好ましくは0.10〜0.30、より好ましくは0.20〜0.25となるように、内径が丸みをもって細くなっていることが好適である。
【0051】
続いて、図2を参照し、注射筒2の開口部にガスケット挿入する、(c)仮打栓工程及び(d)本打栓工程を含む打栓工程について説明する。
【0052】
(c)仮打栓工程
まず、ヒアルロン酸組成物5が充填された注射筒2において、真空を開放し、充填針1が貫通しているシール材3をはずし、内部にガスケットを備えるスリーブ6が貫通しているシール材3で密閉する。次に、真空ラインより、注射筒2の減圧を開始し、注射筒2の内部を減圧する。注射筒2の内部は、−80〜−100kPaになるまで減圧するとよい。これにより、スリーブ6内よりガスケット7が、ヒアルロン酸組成物5の充填物表面まで下降する。
【0053】
(d)本打栓工程
減圧下、ヒアルロン酸組成物5の充填物表面まで下降したガスケット7を、充填物の反対側からスリーブ6により押圧し、注射筒2を打栓する。
【0054】
以上の工程を経て、図2(d)に示すヒアルロン酸充填物を製造することができる。なお、打栓工程の後に、プランジャーロッドを組込む工程、フィンガークリップを取り付ける工程をさらに備えることにより、図6に示すようなヒアルロン酸組成物が充填された注射器を製造することができる。
【0055】
第二実施形態に係る製造方法によれば、ヒアルロン酸充填物への気泡の混入が確実に抑制でき、空気抜きが不要であり、また、高分子量のヒアルロン酸ナトリウムを含有する粘弾性溶液であっても、粘弾性溶液を関節内に注入する際に、注射針を患部に挿入した後、注射筒内部に滑液が吸い込まれたことを確実に確認することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。
【0057】
[実施例1]
<ヒアルロン酸充填物の製造>
下記の条件において、減圧された注射筒内部へ、30℃における極限粘度29dl/gのヒアルロン酸組成物を充填し、ガスケットを打栓した。
(減圧工程)
先端にキャップが取り付けられた容量5mlの注射筒の開口部を、真空ラインに接続され充填針が貫通しているシール材により密閉した。真空ラインの減圧を開始し、注射筒の内部を−99kPaになるまで減圧した。
【0058】
(吐出工程)
温度20℃にて、2.9gのヒアルロン酸組成物を注射筒の内部に充填した。充填針の形状は、図4に示すような形状であり、本体部の内径が4mm、先端部の吐出孔の内径が2mm(断面積:3.14mm2)であるものを用いた。
【0059】
充填条件は下記の通りであった。
ヒアルロン酸組成物が底面に接触したときの吐出速度:1.37m/s
吐出速度の加速度:13.7m/s2
最大吐出速度:4.10m/s
吐出時間:0.40秒
加速時間:0.30秒
速度一定時間:0.05秒
減速時間:0.05秒
容器底面到達時間:0.10秒
注射筒の内部圧力:−99kPa
なお、吐出時間と吐出速度との関係を図7に示す。
【0060】
(打栓工程)
ヒアルロン酸組成物が充填された注射筒において、真空ラインのコックを開き、注射筒内の真空状態を解除した。充填針が貫通しているシール材をはずし、代わりに、内部にガスケットを備えるスリーブが貫通しているシール材により、注射筒の開口部を密閉した。真空ラインの減圧を開始し、注射筒の内部を−99kPaになるまで減圧した。減圧下、スリーブの内部からガスケットを降下させ、注射筒を打栓した。
【0061】
<ヒアルロン酸組成物の状態の観察>
高速度カメラ(キーエンス社製、装置名:VW−6000)にて、ヒアルロン酸組成物が吐出される状態、及び、打栓された後のヒアルロン酸組成物の状態を撮影した。ヒアルロン酸組成物が吐出される状態を図8に、打栓された後のヒアルロン酸組成物の状態を図9に示す。図8に示すように、ヒアルロン酸組成物が、吐出される間にとぐろを巻いていないことが確認できた。また、図9に示すように、ヒアルロン酸組成物内に気泡が含まれていないことが確認できた。
【0062】
[比較例1]
<ヒアルロン酸充填物の製造>
充填針として、図3に示すような、本体部の内径が4mm、先端部の内径も4mm(断面積:12.57mm2)であるものを用いた。また、充填条件は下記の通りであった。
【0063】
ヒアルロン酸組成物が底面に接触したときの吐出速度:0.44m/s
吐出速度の加速度:4.4m/s2
最大吐出速度:0.44m/s
吐出時間:0.60秒
加速時間:0.10秒
速度一定時間:0.45秒
減速時間:0.05秒
容器底面到達時間:0.15秒
注射筒の内部圧力:−99kPa
なお、吐出時間と吐出速度との関係を図7に示す。
上記条件以外は実施例1と同様にして、を行った。
【0064】
<ヒアルロン酸組成物の状態の観察>
高速度カメラにて、ヒアルロン酸組成物が吐出される状態、及び、打栓された後のヒアルロン酸組成物の状態を撮影した。ヒアルロン酸組成物が吐出される状態を図10に、打栓された後のヒアルロン酸組成物の状態を図11に示す。図10に示すように、ヒアルロン酸組成物は、吐出される間にとぐろを巻いていた。また、図11に示すように、充填されたヒアルロン酸組成物内には、多数の気泡が含まれていた。
【0065】
以上より、30℃における極限粘度29dl/gのヒアルロン酸組成物を、特定の吐出条件にて吐出することにより、打栓工程後には、充填されたヒアルロン酸組成物の内部に気泡が混入するのを抑制できることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0066】
1…ノズル(充填針)、2…容器(注射筒)、3…シール材、4…キャップ、5…ヒアルロン酸組成物、6…スリーブ、7…ガスケット、8…プランジャーロッド、9…フィンガーグリップ、10…ヒアルロン酸組成物が充填された注射器、40…本体部、41…先端部、42…支持部、43…チューブ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロン酸充填物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸ナトリウムは、N−アセチルグルコサミンとグルクロン酸ナトリウムが交互に結合した高分子多糖である。高分子量のヒアルロン酸ナトリウムは、関節内の接合表面を潤滑にし、関節を保護する滑液に含まれることが知られている。特許文献1には、高分子量のヒアルロン酸ナトリウムを含有する粘弾性溶液を関節内に注入することによって、変形性関節症、関節損傷等の関節の病態を治療することが開示されている。
【0003】
医薬分野では、細菌による汚染がない等の理由から、薬液を注射器に移し替える作業が不要であり、注射器を薬液の容器代わりとして使用できるプレフィルド型の注射器の使用が望まれている。特許文献2には、プレフィルド型の注射器への薬液の充填方法として、注射器内部と注射器外部との圧力差により、薬液を注射器内部に充填する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−526747号公報
【特許文献2】特開昭58−19267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヒアルロン酸ナトリウムを含有する粘弾性を有する液を注射器によって関節内に注入する際には、注射針を患部に挿入した後、滑液を注射筒内部に吸い込む必要がある。しかし、ヒアルロン酸ナトリウムを含有する粘弾性を有する液に気泡が混入していると、注射筒内部に滑液が吸い込まれたことを確認することが難しい。
【0006】
さらに、比較的粘性の高い薬液を注射筒内部に注入する際、薬液に気泡が混入すると、気泡が薬液の内側に取り込まれてしまう。そして、薬液が有する粘性のために、比較的粘性の低い薬液を使用する場合とは異なり、注射前に注射針から薬液を出して気泡を除去することが容易にできない。
【0007】
上記問題点に鑑み、本発明者らが鋭意検討した結果、ヒアルロン酸を含む組成物を容器内部に充填する際、当該組成物の吐出速度を調整することにより、容器内部の充填物に気泡が混入するのを抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、減圧にした容器の内部に、底面から離れた位置に固定させたノズルから、底面に向けてヒアルロン酸組成物を吐出する吐出工程を備える、ヒアルロン酸充填物の製造方法であって、ヒアルロン酸組成物は、極限粘度が25〜55dl/gであり、吐出工程において、ヒアルロン酸組成物を、ヒアルロン酸組成物が底面に接触したときに低粘度化して液面が形成される吐出速度でノズルから吐出し、ヒアルロン酸組成物が底面に接触した直後から吐出速度を増加させる、製造方法を提供する。
【0009】
極限粘度が25〜55dl/gであるヒアルロン酸組成物が底面に接触したときに低粘度化して液面が形成される吐出速度にて、上記ヒアルロン酸組成物をノズルから吐出し、ヒアルロン酸組成物が底面に接触した直後から吐出速度を増加させることにより、容器の内部に充填されていくヒアルロン酸組成物には、常時均一な液面が形成されることとなる。これにより、極限粘度が25〜55dl/gであるヒアルロン酸組成物への気泡の混入を十分に抑制することができる。
【0010】
ここで、上記製造方法においては、ヒアルロン酸組成物が底面に接触したときの吐出速度が1〜4m/sであり、吐出速度の加速度が10〜40m/s2であることが好ましい。
【0011】
ヒアルロン酸組成物が底面に接触したときの吐出速度が1〜4m/sであり、吐出速度の加速度が10〜40m/s2であることにより、容器の内部に充填されていくヒアルロン酸組成物にはより確実に均一な液面が形成される。
【0012】
また、ノズルの吐出孔の内径が1〜5mmであることが好ましく、ノズルは、円筒形状であり、内径が3〜4mmであることがより好ましく、円筒は、吐出孔に向かって内径が細くなった形状であることがさらに好ましい。また、好ましくは、容器の容量は、2.5〜10.0mlである。
【0013】
また、ヒアルロン酸組成物は、5〜50℃、底面に接触したときの吐出速度が1m/秒以下、かつ、速度増加しない条件で渦巻き状に積み上がる組成物であることが好ましい。このような組成物に対して、本発明に係る製造方法は極めて有用である。
【0014】
また、吐出工程において、容器の内部は、−80〜−100kPaに減圧されていることが好ましい。容器の内部を上記範囲の圧力まで減圧することにより、容器内部の充填物に気泡が生じた場合であっても、容器を開放して大気圧にすれば、圧力差によって気泡サイズを限りなく縮小することができる。
【0015】
また、本発明は、吐出工程の後に、容器の内部を減圧にし、容器の開口部にガスケット挿入する打栓工程をさらに備えることが好ましく、打栓工程の後に、プランジャーロッドを組込む工程をさらに備えることがより好ましい。
【0016】
本発明に係る製造方法がこれらの工程を備えることにより、充填されたヒアルロン酸組成物に混入する気泡が極めて低減された注射器を提供できる。
【0017】
さらに本発明は、上記製造方法で得られるヒアルロン酸充填物を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、気泡の混入を抑制できるヒアルロン酸充填物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ヒアルロン酸充填物の製造方法の一例を模式的に表す側面図である。
【図2】ヒアルロン酸充填物の製造方法の他の一例を模式的に表す側面図である。
【図3】注射筒及び充填針の先端部の一例を模式的に表す断面図である。
【図4】図3の充填針全体を模式的に表す側面図である。
【図5】充填針の先端部の他の一例を模式的に表す断面図である。
【図6】ヒアルロン酸組成物が充填された注射器を模式的に表す側面図である。
【図7】実施例1及び比較例1におけるヒアルロン酸組成物の、吐出時間と吐出速度との関係を示すグラフである。
【図8】実施例1の吐出工程における(a)写真及び(b)線図である。
【図9】実施例1の打栓工程における(a)写真及び(b)線図である。
【図10】比較例1の吐出工程における(a)写真及び(b)線図である。
【図11】比較例1の打栓工程における(a)写真及び(b)線図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明のヒアルロン酸充填物の製造方法は、以下の実施形態に限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。なお、図面の寸法比率は実際の寸法比率と異なっていてもよい。
【0021】
<第一実施形態>
以下、図1を参照し、第一実施形態に係るヒアルロン酸充填物の製造方法について具体的に説明する。
【0022】
本実施形態に係るヒアルロン酸充填物の製造方法は、(a)減圧工程及び、(b)ヒアルロン酸組成物吐出工程を備える。
【0023】
(a)減圧工程
まず、ノズル1、容器2、並びに、容器2を密閉するためのシール材3を準備する。次に、容器2の開口部を、真空ライン(図示せず)に接続され、中央部にノズル1が貫通しているシール材3で密閉する。ノズル1は、容器2の底面から離れた位置に固定される。
例えば、真空ラインに接続された真空ポンプ(図示せず)を用いることにより、容器2の内部を減圧する。
【0024】
減圧工程においては、容器の内部を−80〜−100kPaになるまで減圧するとよい。これにより、後述する吐出工程において容器内部の充填物に気泡が生じた場合であっても、吐出工程後に容器を開放して大気圧にすれば、圧力差によって気泡サイズを限りなく縮小することができる。
【0025】
(b)ヒアルロン酸組成物吐出工程
減圧にした容器2の内部において、底面から離れた位置に固定させたノズル1から、底面に向けてヒアルロン酸組成物を吐出する。
【0026】
ここで、吐出速度は、ヒアルロン酸組成物が底面に接触したときに低粘度化して液面が形成される速度である。ここで、ヒアルロン酸組成物が底面に接触したときの速度は、ノズル1の吐出口から容器2の底面までの距離を、吐出開始から底面到着までの時間で除して算出する。
【0027】
吐出速度は、ヒアルロン酸組成物が底面に接触した直後から増加させる。吐出速度の増加は間欠的であってもよいが、気泡の混入を極力避ける観点から、連続的に行うことが好ましい。
【0028】
吐出速度は、具体的に、底面に接触したときの吐出速度が、1〜4m/sであることが好ましく、1〜3m/sであることがより好ましく、1〜2m/sであることがさらに好ましく、1.2〜1.5m/sであることが特に好ましい。また、同時に、加速度が10〜40m/s2であることが好ましく、10〜30m/s2であることがより好ましく、10〜20m/s2であることがさらに好ましく、12〜15m/s2であることが特に好ましい。吐出速度の加速度は、吐出中、上記範囲内であれば、一定であっても一定でなくてもよい。ここで、吐出速度の加速度とは、時間t1、t2秒における吐出速度をS(t1)、S(t2)とすると、下記式(1)において算出できる。
(S(t2)−S(t1))/t2−t1 (1)
【0029】
ここで、S(t2)、S(t1)は、充填開始から時間t1秒又はt2秒後における充填液量(g)を、それぞれ、ヒアロルン酸組成物の比重(1g/mL)、充填時間(t1秒又はt2秒)及び充填針の吐出孔の断面積で除すことにより算出される。
【0030】
ヒアルロン酸組成物が底面に接触したときの速度、及び、吐出速度の加速度が上記範囲内の値であることにより、容器の内部に充填されていくヒアルロン酸組成物にはより確実に均一な表面が形成される。
【0031】
吐出速度は、ヒアルロン酸組成物が底面に接触した直後から連続的に増加させ、一定時間(T1秒)経過後、一定時間(T2秒)一定の速度に保持することができる。ただし、T1/T2は、2〜10であることが好ましく、5〜7であることがより好ましい。
【0032】
ヒアルロン酸組成物の吐出時間の経過に伴い吐出速度を加速し、吐出速度の最大値を、2〜12m/sとすることが好ましく、2〜8m/sとすることがより好ましく、2〜6m/sとすることがさらに好ましく、3〜5m/sとすることが特に好ましい。
【0033】
吐出時の温度は、ヒアルロン酸組成物の粘度を低下させるとともに、ヒアルロン酸組成物の熱による劣化を抑制する観点から、10〜30℃であることが好ましい。
【0034】
容器2の形状は特に限定されないが、内部形状が円柱形状、角柱形状であることが好ましい。また、容器2の材質も特に限定されず、ガラス、プラスチック等を使用することができる。
【0035】
容器2の容量は、使用するヒアロルン酸組成物の量に依存し、ヒアロルン酸組成物1gに対し、2.5〜10mlであることが好ましく、3〜5mlであることがより好ましい。
【0036】
本実施形態に係る製造方法においては、30℃における極限粘度が25〜55dl/gであるヒアルロン酸組成物を使用する。このようなヒアルロン酸組成物に対しては、従来、注射筒への充填後に気泡の混入を避けることができなかった。しかしながら、本発明によれば、充填物への気泡の混入を防ぐことが可能となる。
【0037】
なお、本発明におけるヒアルロン酸組成物の極限粘度は、日本薬局方 粘度測定法の毛細管粘度計法に基づき測定した、30℃における値である。
【0038】
また、本実施形態に係る製造方法は、5〜50℃、注射筒2の底面に接触したときの吐出速度が1m/秒以下、かつ、速度増加しない条件で渦巻き状に積み上がる組成物に対して好適である。渦巻き状に積み上がる、とは、とぐろを巻くような状態のことである。
【0039】
ヒアルロン酸組成物に含まれるヒアルロン酸は、動物組織から抽出したものでも、発酵法で製造したものでもその起源を問うことなく使用できる。また、ヒアルロン酸は、そのアルカリ塩、例えばナトリウムやカリウム、リチウムの塩をも包含する概念で使用される。
【0040】
ヒアルロン酸組成物には、ヒアルロン酸の他に水系溶媒が含有されていてもよい。
【0041】
水系溶媒としては、生理的に受容な水性媒質を有する水溶液であればよい。生理的に受容とは、関節治療剤が関節腔内に注入されたとき、水性媒質自身が好ましくない作用もしくは副作用、例えば、組織の膨潤または収縮、炎症等の原因とならないことを意味する。生理的に受容な水性媒質は、通常アルカリもしくはアルカリ土類金属の塩化物、硫酸塩、リン酸塩または重炭酸塩のような無機塩類、例えば塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化マグネシウム、及び対応するカリウム、カルシウム塩、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウムのような有機酸の塩、またはグルコース、マンノース、多価アルコールのような中性有機物質、例えばグリセリン、マンニトール等から選択される1つ以上の低分子量物質の水溶液である。
【0042】
第一実施形態に係る製造方法によれば、気泡の混入が確実に抑制されたヒアルロン酸充填物を製造することができる。
【0043】
<第二実施形態>
続いて、図2〜6を参照し、第二実施形態に係るヒアロルン酸充填物の製造方法について具体的に説明する。本実施形態に係る製造方法によれば、例えば、図6に示すようなヒアルロン酸組成物が充填された注射器を製造することができる。
【0044】
図2は、ヒアルロン酸組成物が充填されたプレフィルド型注射器の製造方法を模式的に表す側面図である。当該方法は、第一実施形態に係るヒアロルン酸充填物の製造方法において説明した(a)減圧工程、及び、(b)ヒアルロン酸組成物吐出工程の他に、さらに、(c)仮打栓工程、及び(d)本打栓工程を含む打栓工程を備える。以下、各工程について詳細に説明するが、(a)減圧工程、及び、(b)ヒアルロン酸組成物吐出工程については、第一実施形態と重複する説明は省略する。
【0045】
(a)減圧工程
ノズルとして充填針1を、容器として注射筒2を用いることができる。注射筒2は、円筒形状であることが好ましい。
【0046】
(b)ヒアルロン酸組成物吐出工程
図3は、ノズルとしての充填針1の先端部、及び、容器としての注射筒2の一例を模式的に表す断面図であり、図4は、図3の充填針1全体を模式的に表す側面図である。図4に示すように、充填針1は、円筒形状の本体部40と末端に吐出孔を有する先端部41とから構成される。先端部41は、本体部40側から吐出孔側に向けて、内径は一定であり、外形が細くなっている。ヒアルロン酸組成物供給用のチューブ43から、支持部42を介して、ヒアルロン酸組成物が充填針1へ送られる。
【0047】
注射筒2の容量は、通常、2.5〜10.0mLが好適であり、より好ましくは、3〜5mLである。注射筒2が円筒形状である場合、注射筒2の内径Dの、充填針1の内径d2に対する比率(D/d2)は、2〜10であることが好ましく、4〜8であることがより好ましい。
【0048】
通常、本体部40の外径d1は、2〜8mmが好適であり、4〜6mmがより好適である。また、本体部40の内径d2(吐出孔の径)は、1〜5mmが好適であり、1〜3mmがより好適である。
【0049】
充填針1の長さLは、注射筒2の底面から充填針1までの長さHに依存し、L/Hは、2.8〜3.5であることが好ましく、3.0〜3.2であることがより好ましい。通常、充填針1の長さLは、85〜90mmが好適であり、86〜88mmがより好適である。
【0050】
充填針1の先端部41において、図5に示すように、円筒は、吐出孔に向かって内径が細くなった形状であることがより好ましい。円筒の内径d3と吐出孔の径d4との比率(d3/d4)は、1〜3が好ましく、1.5〜2.5がより好ましい。円筒は、吐出孔に向かって、極率Rが好ましくは0.10〜0.30、より好ましくは0.20〜0.25となるように、内径が丸みをもって細くなっていることが好適である。
【0051】
続いて、図2を参照し、注射筒2の開口部にガスケット挿入する、(c)仮打栓工程及び(d)本打栓工程を含む打栓工程について説明する。
【0052】
(c)仮打栓工程
まず、ヒアルロン酸組成物5が充填された注射筒2において、真空を開放し、充填針1が貫通しているシール材3をはずし、内部にガスケットを備えるスリーブ6が貫通しているシール材3で密閉する。次に、真空ラインより、注射筒2の減圧を開始し、注射筒2の内部を減圧する。注射筒2の内部は、−80〜−100kPaになるまで減圧するとよい。これにより、スリーブ6内よりガスケット7が、ヒアルロン酸組成物5の充填物表面まで下降する。
【0053】
(d)本打栓工程
減圧下、ヒアルロン酸組成物5の充填物表面まで下降したガスケット7を、充填物の反対側からスリーブ6により押圧し、注射筒2を打栓する。
【0054】
以上の工程を経て、図2(d)に示すヒアルロン酸充填物を製造することができる。なお、打栓工程の後に、プランジャーロッドを組込む工程、フィンガークリップを取り付ける工程をさらに備えることにより、図6に示すようなヒアルロン酸組成物が充填された注射器を製造することができる。
【0055】
第二実施形態に係る製造方法によれば、ヒアルロン酸充填物への気泡の混入が確実に抑制でき、空気抜きが不要であり、また、高分子量のヒアルロン酸ナトリウムを含有する粘弾性溶液であっても、粘弾性溶液を関節内に注入する際に、注射針を患部に挿入した後、注射筒内部に滑液が吸い込まれたことを確実に確認することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。
【0057】
[実施例1]
<ヒアルロン酸充填物の製造>
下記の条件において、減圧された注射筒内部へ、30℃における極限粘度29dl/gのヒアルロン酸組成物を充填し、ガスケットを打栓した。
(減圧工程)
先端にキャップが取り付けられた容量5mlの注射筒の開口部を、真空ラインに接続され充填針が貫通しているシール材により密閉した。真空ラインの減圧を開始し、注射筒の内部を−99kPaになるまで減圧した。
【0058】
(吐出工程)
温度20℃にて、2.9gのヒアルロン酸組成物を注射筒の内部に充填した。充填針の形状は、図4に示すような形状であり、本体部の内径が4mm、先端部の吐出孔の内径が2mm(断面積:3.14mm2)であるものを用いた。
【0059】
充填条件は下記の通りであった。
ヒアルロン酸組成物が底面に接触したときの吐出速度:1.37m/s
吐出速度の加速度:13.7m/s2
最大吐出速度:4.10m/s
吐出時間:0.40秒
加速時間:0.30秒
速度一定時間:0.05秒
減速時間:0.05秒
容器底面到達時間:0.10秒
注射筒の内部圧力:−99kPa
なお、吐出時間と吐出速度との関係を図7に示す。
【0060】
(打栓工程)
ヒアルロン酸組成物が充填された注射筒において、真空ラインのコックを開き、注射筒内の真空状態を解除した。充填針が貫通しているシール材をはずし、代わりに、内部にガスケットを備えるスリーブが貫通しているシール材により、注射筒の開口部を密閉した。真空ラインの減圧を開始し、注射筒の内部を−99kPaになるまで減圧した。減圧下、スリーブの内部からガスケットを降下させ、注射筒を打栓した。
【0061】
<ヒアルロン酸組成物の状態の観察>
高速度カメラ(キーエンス社製、装置名:VW−6000)にて、ヒアルロン酸組成物が吐出される状態、及び、打栓された後のヒアルロン酸組成物の状態を撮影した。ヒアルロン酸組成物が吐出される状態を図8に、打栓された後のヒアルロン酸組成物の状態を図9に示す。図8に示すように、ヒアルロン酸組成物が、吐出される間にとぐろを巻いていないことが確認できた。また、図9に示すように、ヒアルロン酸組成物内に気泡が含まれていないことが確認できた。
【0062】
[比較例1]
<ヒアルロン酸充填物の製造>
充填針として、図3に示すような、本体部の内径が4mm、先端部の内径も4mm(断面積:12.57mm2)であるものを用いた。また、充填条件は下記の通りであった。
【0063】
ヒアルロン酸組成物が底面に接触したときの吐出速度:0.44m/s
吐出速度の加速度:4.4m/s2
最大吐出速度:0.44m/s
吐出時間:0.60秒
加速時間:0.10秒
速度一定時間:0.45秒
減速時間:0.05秒
容器底面到達時間:0.15秒
注射筒の内部圧力:−99kPa
なお、吐出時間と吐出速度との関係を図7に示す。
上記条件以外は実施例1と同様にして、を行った。
【0064】
<ヒアルロン酸組成物の状態の観察>
高速度カメラにて、ヒアルロン酸組成物が吐出される状態、及び、打栓された後のヒアルロン酸組成物の状態を撮影した。ヒアルロン酸組成物が吐出される状態を図10に、打栓された後のヒアルロン酸組成物の状態を図11に示す。図10に示すように、ヒアルロン酸組成物は、吐出される間にとぐろを巻いていた。また、図11に示すように、充填されたヒアルロン酸組成物内には、多数の気泡が含まれていた。
【0065】
以上より、30℃における極限粘度29dl/gのヒアルロン酸組成物を、特定の吐出条件にて吐出することにより、打栓工程後には、充填されたヒアルロン酸組成物の内部に気泡が混入するのを抑制できることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0066】
1…ノズル(充填針)、2…容器(注射筒)、3…シール材、4…キャップ、5…ヒアルロン酸組成物、6…スリーブ、7…ガスケット、8…プランジャーロッド、9…フィンガーグリップ、10…ヒアルロン酸組成物が充填された注射器、40…本体部、41…先端部、42…支持部、43…チューブ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧にした容器の内部に、底面から離れた位置に固定させたノズルから、底面に向けてヒアルロン酸組成物を吐出する吐出工程を備える、ヒアルロン酸充填物の製造方法であって、
前記ヒアルロン酸組成物は、極限粘度が25〜55dl/gであり、
前記吐出工程において、前記ヒアルロン酸組成物を、前記ヒアルロン酸組成物が前記底面に接触したときに低粘度化して液面が形成される吐出速度で前記ノズルから吐出し、
前記ヒアルロン酸組成物が前記底面に接触した直後から吐出速度を増加させる、製造方法。
【請求項2】
前記ヒアルロン酸組成物が前記底面に接触したときの吐出速度が1〜4m/sであり、
前記吐出速度の加速度が10〜40m/s2である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ノズルの吐出孔の内径が1〜5mmである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ノズルは、円筒形状であり、内径が1〜10mmである請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記円筒は、前記吐出孔に向かって内径が細くなった形状である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記容器の容量が、2.5〜10.0mlである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
ヒアルロン酸組成物は、5〜50℃、前記底面に接触したときの吐出速度が1m/秒以下、かつ、速度増加しない条件で渦巻き状に積み上がる組成物である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記吐出工程において、前記容器の内部は、−80〜−100kPaに減圧されている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記吐出工程の後に、前記容器の内部を減圧にし、前記容器の開口部にガスケット挿入する打栓工程をさらに備える、請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記打栓工程の後に、プランジャーロッドを組込む工程をさらに備える、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の製造方法で得られるヒアルロン酸充填物。
【請求項1】
減圧にした容器の内部に、底面から離れた位置に固定させたノズルから、底面に向けてヒアルロン酸組成物を吐出する吐出工程を備える、ヒアルロン酸充填物の製造方法であって、
前記ヒアルロン酸組成物は、極限粘度が25〜55dl/gであり、
前記吐出工程において、前記ヒアルロン酸組成物を、前記ヒアルロン酸組成物が前記底面に接触したときに低粘度化して液面が形成される吐出速度で前記ノズルから吐出し、
前記ヒアルロン酸組成物が前記底面に接触した直後から吐出速度を増加させる、製造方法。
【請求項2】
前記ヒアルロン酸組成物が前記底面に接触したときの吐出速度が1〜4m/sであり、
前記吐出速度の加速度が10〜40m/s2である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ノズルの吐出孔の内径が1〜5mmである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ノズルは、円筒形状であり、内径が1〜10mmである請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記円筒は、前記吐出孔に向かって内径が細くなった形状である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記容器の容量が、2.5〜10.0mlである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
ヒアルロン酸組成物は、5〜50℃、前記底面に接触したときの吐出速度が1m/秒以下、かつ、速度増加しない条件で渦巻き状に積み上がる組成物である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記吐出工程において、前記容器の内部は、−80〜−100kPaに減圧されている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記吐出工程の後に、前記容器の内部を減圧にし、前記容器の開口部にガスケット挿入する打栓工程をさらに備える、請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記打栓工程の後に、プランジャーロッドを組込む工程をさらに備える、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の製造方法で得られるヒアルロン酸充填物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−193133(P2012−193133A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57068(P2011−57068)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】
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