説明

ヒト唾液腺由来幹細胞

ヒト肝臓を含む、複数のヒト臓器細胞に分化可能な新規なヒト幹細胞が開示されている。本発明のヒト幹細胞は、ヒト唾液腺に由来し、CD49f陽性であり、生体外での培養により、(1)ネスチン陽性かつアルブミン陽性細胞、(2)インスリン陽性細胞及び(3)グルカゴン陽性細胞へ分化し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ヒト唾液腺由来幹細胞に関する。
【背景技術】
再生医療に有用なポテンシャルを有する幹細胞についての研究が盛んになされている。今日までに報告された代表的な幹細胞として、間葉系幹細胞、神経幹細胞、造血幹細胞、そして膵幹細胞が挙げられる。
間葉系幹細胞はヒト成体骨髄液より分離された(Pittenger,M.F.et al.,Science 284,143(1999))。この細胞は脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞へのin vitroに於ける分化誘導が可能である。神経幹細胞(Gage,P.H.,Science 287,1433−1438(2000))については1992年に成体の中枢神経系からの最初の分離の報告がなされており、2001年には成体の皮膚真皮から神経細胞に分化可能な幹細胞の分離(Toma,J.G.et al.,Nature Cell Biology,3,778−784(2001))が報告されている。
造血幹細胞は既に多くの研究がなされているが、その分化機能について報告されたのは比較的新しい。1999年に骨髄細胞が肝細胞に分化することがPetersenらによって明らかにされ(Petersen B.E.et al.,Science 284,1168(1999))、翌年にはマウス造血幹細胞をc−kittil、Thy−llow、Linneg、Sca−1にてsortingした細胞分画が、幹細胞に分化転換することが示されている(Lagasse,E.et al.,Nature Medicine 6,1229−1234(2000))。この他にも造血幹細胞には分化転換能があると考えられており、心筋(Orlic,D.et al.,Nature 410,701−705(2001))や、さらには肺胞上皮、腸管上皮、皮膚(Orlic,D.et al.,上掲)への分化も報告されている。
以上のように、間葉系もしくは外胚葉系の細胞についての幹細胞研究は進んでいるが、内胚葉系幹細胞の報告は未だ少ない。ヒト肝幹細胞についてはその存在は確実視されているが、未だ確定的な幹細胞の報告はない。膵臓についてはCorneliusらのグループが成体マウス膵臓より膵島産生幹細胞(islet producing stem cells(IPSCs))の分離を行っており、さらにIPSCsよりin vitroにて作製した膵島の移植実験を報告している(Ramiya,V.K.et al.,Nature Medicine 6,278−282(2000))。この細胞についても、α,β,δ細胞への分化は確認されているが、その他の細胞への分化能は確認されていない。膵島よりネスチン(nestin)陽性にて分離した幹細胞が膵臓の内、外分泌及び肝臓の表現型へと分化したとの報告はあるが(Zulewski,H.et al.,Diabetes 50,521−533(2001))、分化マーカーの免疫組織学的検索は示されていない。
ES細胞(胚性幹細胞)から、肝臓もしくは膵臓細胞の誘導も試みられており、実際に膵臓のα,β細胞については分化誘導が可能である(Lumeisky,N,et al.,Science 292,1389−1394(2001))。しかしヒト肝細胞への誘導については未だ報告はない。
【発明の開示】
以上の通り、ヒト肝細胞へ分化可能な幹細胞は未だ得られていない。従って、ヒト肝臓を含む、複数のヒト臓器細胞に分化可能な幹細胞も得られていない。また、ヒト幹細胞を、再生医療用途に用いる場合、移植による拒絶反応を防止する観点から、患者自身の細胞を移植することが最も好ましい。従って、成体からも調製することが可能なヒト幹細胞が得られれば再生医療にとって特に有利である。
本発明の目的は、ヒト肝細胞へ分化可能な幹細胞を提供することである。また、本発明の目的は、ヒト肝臓を含む、複数のヒト臓器細胞に分化可能なヒト幹細胞を提供することである。さらに、本発明の目的は、ヒト成体からも調製することができる、ヒト肝細胞へ分化可能なヒト幹細胞を提供することである。
本願発明者らは、鋭意研究の結果、ヒト唾液腺から、ヒト神経細胞、ヒト肝細胞及びヒト膵臓細胞へ分化可能なヒト幹細胞を分離することに成功し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、ヒト唾液腺に由来し、CD49f陽性であり、生体外での培養により、(1)ネスチン陽性かつアルブミン陽性細胞、(2)インスリン陽性細胞及び(3)グルカゴン陽性細胞へ分化し得るヒト幹細胞を提供する。また、本発明は、ヒト唾液腺細胞を生体外で培養することにより誘導されるネスチン陽性かつアルブミン陽性細胞であって、生体外での培養によりインスリン陽性細胞及びグルカゴン陽性細胞へ分化し得るヒト幹細胞を提供する。さらに、本発明は、上記本発明のヒト幹細胞を生体外で培養することにより誘導されたインスリン陽性細胞及びグルカゴン陽性細胞を提供する。さらに、本発明は、ヒト唾液腺組織由来の細胞からCD49f陽性細胞を収集し、これらを上皮細胞成長因子の存在下で継代培養することを含む、ヒト唾液腺に由来し、CD49f陽性であり、生体外での培養により、(1)ネスチン陽性かつアルブミン陽性細胞、(2)インスリン陽性細胞及び(3)グルカゴン陽性細胞へ分化し得るヒト幹細胞を誘導し、誘導された該ヒト幹細胞を回収することを含む、ヒト幹細胞の取得方法を提供する。さらに、本発明は、ヒト唾液腺に由来し、CD49f陽性であり、生体外での培養により、(1)ネスチン陽性かつアルブミン陽性細胞、(2)インスリン陽性細胞及び(3)グルカゴン陽性細胞へ分化し得るヒト幹細胞を、線維芽細胞増殖因子、上皮細胞成長因子及び白血病抑制因子の存在下で、生体外で培養してネスチン陽性かつアルブミン陽性細胞を誘導し、誘導されたネスチン陽性かつアルブミン陽性細胞を回収することを含む、ヒト幹細胞の取得方法を提供する。さらに、本発明は、ヒト唾液腺細胞を生体外で培養することにより誘導されるネスチン陽性かつアルブミン陽性細胞であって、生体外での培養によりインスリン陽性細胞及びグルカゴン陽性細胞へ分化し得るヒト幹細胞を、生体外で培養することにより、インスリン陽性細胞を誘導し、誘導されたインスリン陽性細胞を回収することを含む、インスリン陽性細胞の取得方法を提供する。さらに、本発明は、ヒト唾液腺細胞を生体外で培養することにより誘導されるネスチン陽性かつアルブミン陽性細胞であって、生体外での培養によりインスリン陽性細胞及びグルカゴン陽性細胞へ分化し得るヒト幹細胞を、生体外で培養することにより、グルカゴン陽性細胞を誘導し、誘導されたグルカゴン陽性細胞を回収することを含む、グルカゴン陽性細胞の取得方法を提供する。
本発明により、ヒト肝臓を含む、複数のヒト臓器細胞に分化可能なヒト幹細胞が提供された。本発明のヒト幹細胞は、少なくともヒト肝細胞及びヒト膵細胞への分化が可能であるので、ヒト肝臓及びヒト膵臓を再生するための再生治療に有用である。特に、本発明の幹細胞は、成体からも得ることができので、再生治療を受ける患者自身から採取することができ、移植時の拒絶反応を回避できるので極めて有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
下記実施例において詳述するように、本発明のヒト幹細胞は、ヒト唾液腺組織由来の細胞からCD49f陽性細胞を収集し、これらを上皮細胞成長因子(EGF)の存在下で継代培養することにより得られものであり、生体外での培養により、(1)ネスチン陽性かつアルブミン陽性細胞、(2)インスリン陽性細胞及び(3)グルカゴン陽性細胞へ分化し得る(以下、このヒト幹細胞を便宜的に「第1のヒト幹細胞」と言うことがある)。継代培養時のEGFの濃度は、特に限定されないが、5ng/ml〜80ng/ml程度が好ましく、さらには10ng/ml〜40ng/ml程度が好ましく、特に15〜25ng/ml程度が好ましい。また、培地は、ヒト細胞の培養に常用されている、例えば、ウィリアムズE培地等を用いることができる。尚、CD49fはα6インテグリンとも呼ばれており、CD29(β1インテグリン)とヘテロ二量体を形成する膜タンパクである。CD29と二量体を形成したCD49fは、細胞外マトリクスであるラミニンの受容体(VLA−6)として知られている。一般的にはT細胞、血小板、単球、上皮細胞、内皮細胞、胎盤のトロホブラストに於いて発現が知られている(Knapp W.et al.,eds.Leukocyte Typing IV:White Cell Differentiation Antigens,Oxford University Press,New York.(1989))。他に胎児期の唾液腺原基を構成する未分化上皮細胞(Lazowski KW.et al.,Differentiation 56:75−82(1994))や、胎児肝細胞(Suzuki A.et al.,Hepatology 32,1230−1239(2000))などでの発現が報告されている。
この第1のヒト幹細胞を、繊維芽細胞増殖因子(FGF)、上皮細胞成長因子(EGF)及び白血病抑制因子(LIF)の存在下で、ニューロスフェア(neurosphere)法で培養してスフェアを形成させることにより、ネスチン陽性、アルブミン陽性の細胞から成るスフェアが形成される。この際のFGFの濃度は、特に限定されないが、5ng/ml〜80ng/ml程度が好ましく、さらには10ng/ml〜40ng/ml程度が好ましく、特に15〜25ng/ml程度が好ましい。また、EGFの濃度は、特に限定されないが、10ng/ml〜160ng/ml程度が好ましく、さらには20ng/ml〜80ng/ml程度が好ましく、特に30〜50ng/ml程度が好ましい。また、LIFの濃度は、特に限定されないが、2ng/ml〜40ng/ml程度が好ましく、さらには5ng/ml〜20ng/ml程度が好ましく、特に7〜15ng/ml程度が好ましい。
この細胞は、常法に従い、スフェロイド培養する事によりスフェロイド体を形成させる事が出来る。培地としては、ヒト細胞の培養に常用されている、ウィリアムズE培地のような培地に、血清、例えばウシ胎児血清(FBS)を添加したものが好ましい。FBSの濃度は、特に限定されないが、5〜20重量%が好ましく、7〜15重量%程度がさらに好ましい。このスフェロイド体の外縁はグルカゴン陽性細胞、その内側にはインスリン陽性細胞から構成される。スフェロイドの中心核の部分は、インスリン、グルカゴンのいずれにも陰性である。更にスフェロイド培養時に於いてグルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)10mM、アクチビンA 5ng/mlを分化誘導培地に添加すると、最外縁部のグルカゴン陽性細胞を欠くスフェロイド体が形成される。
したがって、ニューロスフェア法によりスフェアを形成した細胞もなおヒト幹細胞である(以下、便宜的に「第2のヒト幹細胞」と言うことがある)。本発明の第2のヒト幹細胞、ひいては第1のヒト幹細胞は、この方法によりグルカゴン陽性細胞及びインスリン陽性細胞に誘導することができる。
なお、本発明の幹細胞は、ヒト細胞であるから、生体外での培養は、ヒトの体温である37℃で行なうことが好ましく、下記実施例でも特に断りがない限り、生体外での培養は37℃で行なった。
周知の通り、アルブミンは、肝細胞の分化マーカーであるから、本発明の第2のヒト幹細胞、ひいては第1のヒト幹細胞は、肝細胞に分化させることができる。また、グルカゴン及びインスリンは膵臓の分化マーカーであるから、本発明の第2のヒト幹細胞、ひいては第1のヒト幹細胞は、膵細胞に分化させることができる。
本発明の第1及び第2のヒト幹細胞は、下記実施例において、成体から得られた。再生医療のために細胞を移植する場合、移植による拒絶反応を防止する観点から、患者自身の細胞を移植することが最も好ましい。本発明のヒト幹細胞は、成体から得ることができるので、移植を受ける患者自身から調製することができ、移植するのに非常に有利である。なお、本発明のヒト幹細胞は、成体のみならず、未成熟な子から得ることもできる。
本発明のヒト幹細胞は、少なくとも肝臓及び膵臓に分化することができるので、本発明のヒト幹細胞を移植してこれらのヒト臓器の再生を行うことが可能である。ヒト幹細胞の移植は、ヒト幹細胞の浮遊液をヒトに注入することにより容易に行うことができる。注入は、脾臓内や、再生しようとする臓器若しくはその近傍、又は静脈内等に対して行うことができる。また、注入する幹細胞の数は、特に限定されず、症状や患者の体重、投与方法等に応じて適宜選択できるが、通常、10〜1010個程度である。
【実施例】
(1)唾液腺細胞の初代培養
次の方法により唾液腺組織を消化した。
唾液腺組織の消化法
1.手術時に摘出した片側顎下腺(2〜4g程度)を、径1〜2mm大になるまで細切した。
2.細切した組織はEGTA緩衝液(1L中、NaCl 8g,KCl 0.4g,NaHPO 69mg,NaHPO 75mg,HEPES 2.38g,EGTA(エチレングリコール四酢酸)0.19g,NaHCO 0.35g,グルコース0.9g,フェノールレッド6mg)30mlと共に50ml遠心管に移し、37℃で20分間、10回/分の速度で回転震盪した。インキュベーション後、組織細片液は遠心(100Xg、5分、室温)し、上清は捨てた。
3.得られたペレットは60mlの消化液(digestion medium)(60ml中、DMEM/F12:1;1 60ml、コラゲナーゼ100mg、ヒアルロニダーゼ80mg)に分散した後、50ml遠心管に移し37℃で40分間、10回/分の速度で回転震盪した。インキュベーション後、組織細片液は遠心(100Xg、5分、室温)し、上清は捨てた。
4.得られたペレットは60mlの分散液(dispersion medium)(60ml中、DMEM/F12:1;1 60ml、ディスパーゼ80mg(1000U/ml))に分散した後、50ml遠心管に移し37℃で60分間、10回/分の速度で回転震盪した。回転震盪の途中で数回、10mlピペットにてピペッティングを行い、組織細片液を機械的に分散させた。インキュベーション後、組織細片液は細胞濾過器を通して細胞浮遊液を得た。細胞浮遊液は遠心(100Xg、5分、4℃)し、これより細胞ペレットを得た。
5.細胞ペレットは30mlのウィリアムズE培地(Williams’E medium)に懸濁し、同培地にて3回洗浄した。
6.細胞数カウントと細胞生存率のチェックを行った。4gの唾液腺組織から得られる細胞の総数は、2.0〜3.0×10個程度であった。また細胞の生存率は90%以上であった。
次の方法により細胞を分離した。
細胞分離法(1.0×10細胞の場合)
1.上記(1)にて回収した唾液腺由来細胞は、0.1%BSA/PBS(500μl)に再懸濁後、抗−ヒトCD49fモノクローナル抗体(クローン:GoH3/BDファーミンゲン)にて、20分間のインキュベーション(氷中)を行う。使用する抗体量はFCM分析時に準じ、1μg/1.0×10細胞にてラベリングを行った。
2.ラベリング終了後に、5mlの緩衝液(同上、断りなき限り以下同じ)を加え、洗浄及び遠心する。
3.細胞ペレットを100μlの緩衝液に再懸濁。20mlの磁気細胞分離(MACS)用ヤギ抗−ラットIgGマイクロビーズを加え、混和後に15分間のインキュベーション(氷中)。
4.再度細胞を洗浄及び遠心後、細胞ペレットを3mlの緩衝液に再懸濁。
5.サンプルをAutoMACSの細胞分離プログラム(POSSEL)にかける。CD49f(+)分画の細胞を回収する。
6.回収した細胞は、ウィリアムズE培地にて洗浄後、プレーティングを行った。培養皿はI型コラーゲン−被覆皿、維持培地には、20ng/ml組換えヒト(rh)EGF、10%ウシ胎児血清(FBS)、10−8mol/Lインスリン、10−6mol/Lデキサメタゾン、100U/mLペニシリンG、100μU/mLストレプトマイシン添加ウィリアムズE培地を使用した。
7.このまま2〜3週間培養を継続すると、繊維芽細胞様の細胞から成るコロニーが皿上に5〜7カ所程形成される。これら以外の細胞は殆どが脱落しているが、この後の継代時に再プレーティング出来ずに脱落する。(以下、この細胞はhSGSC(human salivary gland derived stem cellと呼称する。)
8.100mm皿からトリプシン−EDTA処理の後に細胞を回収し、6ウェルプレートの2ウェル(I型コラーゲン)に再プレーティング(P2)を行う。
(2)短期間(〜P5)の継代培養法
この細胞(hSGSC)は初代培養に用いている含血清培地のみでの長期継代は不可能である。分離当初は繊維芽細胞様の形態を示しており、I型コラーゲンプレート上に於ける細胞密度も高いが、P6以降では殆どが伸展してしまう。また初期の継代直後には多数観察された有糸分裂形態(mitotic figure)も殆どが見られなくなってしまう。また後述する通り、ニューロスフェア法によるスフェア誘導が不可能となる。これら伸展した細胞は、ビメンチン陽性、GFAP陽性であり、未熟なアストロサイト(astrocyte)であると考えられる。
形態変化を防ぎ、継代回数を延長するためには、(1)継代時の細胞密度を高く維持する、及び(2)継代培養時に、コンディションド培地(conditioned medium)を使用する、の2点に留意した。継代時の細胞密度は、1.0×10細胞/cm以上を維持した。継代培養時にコンディションド培地は、維持培地にて3倍希釈して使用した。継代は5〜6日毎に行った。これにより現在10代以上の継代が可能である。
(3)唾液腺由来細胞を使用した、インスリン産生細胞の誘導法
この細胞はニューロスフェア法に従い、bFGF,rhEGF,rhLIFを含む無血清培地にて培養すると、球形の細胞塊を形成した。ここで、ニューロスフェア法は具体的に次のようにして行った。培地組成(Neurobasal medium(インビトロジェン),B−27添加物(インビトロジェン)2%,N−2添加物(インビトロジェン)1%,塩基性繊維芽細胞増殖因子(R&D)20ng/ml,リコンビナントヒト上皮細胞成長因子(シグマ)40ng/ml,リコンビナントヒト白血病抑制因子(ケミコン)10ng/ml)にhSGSCを懸濁して、ポリ−D−リジンコートディッシュ(ファルコン:60mm径)に播いた。細胞数は60mmディッシュ一枚当たり2〜3×10細胞程度で行った。培地交換は一日毎に行い、bFGFの半量補充を培地交換の中間日に行った。hSGSCはプレーティング後の数日間はdish面に接着しているが、次第に増殖凝集する。Dish面より遊離して以後は、浮遊状態のまま細胞が増殖する。この細胞塊は、殆どが神経幹細胞のマーカーであるネスチン陽性細胞から成り、また含血清培地にて分化誘導をかけた場合にTuj−1陽性細胞、GFAP陽性細胞、GalC陽性細胞それぞれの出現を確認した。以上の結果より、この細胞は神経幹細胞の前駆細胞の能力を有すると考えられた。
これら唾液腺から調整されたhSGSCより、スフェロイド培養を行った。プレートに住友ベークライト社のスフェロイド96Uプレート(96ウェルプレート)を使用した。培地には、ウィリアムのE培地の維持培地にGLP−1を添加して使用した。細胞数は3.0×10細胞/ウェルの密度で播いた。
スフェロイド培養開始直後には、hSGSCは個別細胞のままであるが、2時間以内に凝集を開始し、12時間後には完全に単一のスフェロイドを形成した。(hSGSC以外の細胞(空胞状の大形胞体を有する細胞)が、プレーティング時に混入する場合があるが、それら他の細胞はスフェロイドには取り込まれない。)
培養開始後7日に、これらスフェロイドを抗インスリン、抗グルカゴン及び抗GFAP抗体にて免疫蛍光染色を行った。その結果、このスフェロイドの外縁は、グルカゴン陽性細胞、スフェロイドコアはインスリン陽性細胞から成っていた。
更に、これらスフェロイドよりRNAを回収し、RT−PCRを行った。PDX−1,ngn−3,Glut−2,PAX−4,インスリンについてそれぞれプライマーを設計しPCRを行った結果、PDX−1,ngn−3,Glut−2,インスリンは、発現が確認された。PAX−4については、発現が見られなかった。なお、RT−PCRに用いたプライマーセットの塩基配列は、それぞれ以下の通りであった。


(4)唾液腺由来細胞を使用した、無血清培地に於けるスフェア形成の誘導とアルブミン陽性細胞の誘導
hSGSCは前述の通りニューロスフェア法によりネスチン陽性細胞から成るニューロスフェア様のスフェアを形成する。また、ニューロスフェア法の場合に培地に含まれるFGF−2(basic−FGF)の代わりにFGF−4を使用して培養を行った場合にも、同様のスフェアを形成した。これらスフェア(F2スフェア,F4スフェア)についてネスチンRT−PCR(上述)を行うと陽性であった。またHNF−3a,AFPについても同時に発現が確認された。またアルブミンについても発現が確認された。これらのスフェアに於いては、PDX−1,ngn−3,Glut−2,PAX−4,インスリン等の発現は全く見られなかった。下記表1にRT−PCRのプロファイルを示す。

HNF−3aは成体においては内皮組織に限定して発現するが、E8−E9に於いては初期神経組織(early neural tissue)や脊索(中胚葉)にも発現する事が知られている。F2スフェアからの神経マーカー陽性細胞の誘導が可能である事からも、hSGSCは胚期の性格を残した二官能性の幹細胞であると考えられる。
なお、本実施例において、細胞が発現するマーカーは、免疫細胞染色法又はフローサイトメトリーにより調べた。染色に用いた蛍光標識抗体は、いずれも市販のものであり、方法のプロトコールも市販の蛍光標識抗体又は市販のフローサイトメトリー装置に添付の指示書に従って行った。すなわち、免疫細胞染色は、DAKO社の免疫組織/細胞染色ガイドに従って行った。また、フローサイトメトリーは、BDファーミンジェン社のフローサイトメトリー染色プロトコルに従って行った。使用した抗体の一覧を下記に示す。
抗ヒトCD49fモノクローナル抗体(clone:GoH3/pharmingen社製)
抗GalC抗体(Sigma社製)
抗GFAP抗体(DAKO/chemicon社製)
抗グルカゴン抗体(DAKO)
抗インスリン抗体(Biogenesis)
抗ヒトネスチン抗体(chemicon社製)
抗Tuj−1抗体(RMD社製)
【産業上の利用可能性】
本発明のヒト幹細胞は、少なくともヒト肝細胞及びヒト膵細胞への分化が可能であるので、ヒト肝臓及びヒト膵臓を再生するための再生治療に有用である。特に、本発明の幹細胞は、成体からも得ることができので、再生治療を受ける患者自身から採取することができ、移植時の拒絶反応を回避できるので極めて有利である。
【配列表】










【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト唾液腺に由来し、CD49f陽性であり、生体外での培養により、(1)ネスチン陽性かつアルブミン陽性細胞、(2)インスリン陽性細胞及び(3)グルカゴン陽性細胞へ分化し得る単離されたヒト幹細胞。
【請求項2】
ヒト唾液腺細胞を生体外で培養することにより誘導されるネスチン陽性かつアルブミン陽性細胞であって、生体外での培養によりインスリン陽性細胞及びグルカゴン陽性細胞へ分化し得るヒト幹細胞。
【請求項3】
請求項2のヒト幹細胞を生体外で培養することにより誘導されたインスリン陽性細胞。
【請求項4】
請求項2のヒト幹細胞を生体外で培養することにより誘導されたグルカゴン陽性細胞。
【請求項5】
成体由来である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項6】
ヒト唾液腺組織由来の細胞からCD49f陽性細胞を収集し、これらを上皮細胞成長因子の存在下で継代培養することを含む、ヒト唾液腺に由来し、CD49f陽性であり、生体外での培養により、(1)ネスチン陽性かつアルブミン陽性細胞、(2)インスリン陽性細胞及び(3)グルカゴン陽性細胞へ分化し得るヒト幹細胞を誘導し、誘導された該ヒト幹細胞を回収することを含む、ヒト幹細胞の取得方法。
【請求項7】
ヒト唾液腺に由来し、CD49f陽性であり、生体外での培養により、(1)ネスチン陽性かつアルブミン陽性細胞、(2)インスリン陽性細胞及び(3)グルカゴン陽性細胞へ分化し得るヒト幹細胞を、線維芽細胞増殖因子、上皮細胞成長因子及び白血病抑制因子の存在下で、生体外で培養してネスチン陽性かつアルブミン陽性細胞を誘導し、誘導されたネスチン陽性かつアルブミン陽性細胞を回収することを含む、ヒト幹細胞の取得方法。
【請求項8】
ヒト唾液腺細胞を生体外で培養することにより誘導されるネスチン陽性かつアルブミン陽性細胞であって、生体外での培養によりインスリン陽性細胞及びグルカゴン陽性細胞へ分化し得るヒト幹細胞を、生体外で培養することにより、インスリン陽性細胞を誘導し、誘導されたインスリン陽性細胞を回収することを含む、インスリン陽性細胞の取得方法。
【請求項9】
ヒト唾液腺細胞を生体外で培養することにより誘導されるネスチン陽性かつアルブミン陽性細胞であって、生体外での培養によりインスリン陽性細胞及びグルカゴン陽性細胞へ分化し得るヒト幹細胞を、生体外で培養することにより、グルカゴン陽性細胞を誘導し、誘導されたグルカゴン陽性細胞を回収することを含む、グルカゴン陽性細胞の取得方法。
【請求項10】
生体外での培養がスフェロイド培養により行なわれる請求項8又は9記載の方法。

【国際公開番号】WO2004/074465
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502793(P2005−502793)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002002
【国際出願日】平成16年2月20日(2004.2.20)
【出願人】(301000505)株式会社バイオス医科学研究所 (10)
【出願人】(501444615)
【Fターム(参考)】