説明

ヒドロキシメチル基を有するベンゾトリアゾ−ル系紫外線吸収剤の二塩化アジポイル、二塩化イソフタロイルあるいは二塩化テレフタロイルによるビス型の構造への化学修飾

【課題】耐蒸散性のより改善された、そして相溶性等においても問題のないベンゾトリアゾ−ル系紫外線吸収剤を合成すること。
【解決手段】ヒドロキシメチル基を有するベンゾトリアゾ−ル系紫外線吸収剤の二塩化アジポイル、二塩化イソフタロイルあるいは二塩化テレフタロイルによるビス型の構造への化学修飾により課題を解決しようとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は5種類のC−位にヒドロキシメチル基を有するベンゾトリアゾ−ル系紫外線吸収剤、すなわち、2−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−6−ヒドロキシメチル−4−メチルフェノ−ル、2−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−4−tert−ブチル−6−ヒドロキシメチルフェノ−ル、 2−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−6−ヒドロキシメチル−4−メトキシフェノ−ル、2−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−6−ヒドロキシメチル−4−メチルフェノ−ル、4−tert−ブチル−2−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−6−ヒドロキシメチルフェノ−ルのそれぞれと、3種類のジカルボン酸ジクロリド、すなわち、二塩化アジポイル、二塩化イソフタロイル、二塩化テレフタロイルのそれぞれを脱塩酸縮合させることによる15(5×3)種類のビス型の構造のベンゾトリアゾ−ル系紫外線吸収剤の合成と紫外線吸収剤としての利用に関する。 詳しくはアジピン酸ビス[3−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル](Ia)、イソフタル酸ビス[3−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル](Ib)、テレフタル酸ビス[3−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル](Ic)、アジピン酸ビス[3−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−5−tert−ブチル−2−ヒドロキシベンジル](Id)、イソフタル酸ビス[3−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−5−tert−ブチル−2−ヒドロキシベンジル](Ie)、テレフタル酸ビス[3−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−5−tert−ブチル−2−ヒドロキシベンジル](If)、アジピン酸ビス[3−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−メトキシベンジル](Ig)、イソフタル酸ビス[3−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−メトキシベンジル](Ih)、 テレフタル酸ビス[3−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−メトキシベンジル](Ii)、アジピン酸ビス「3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル](IIa)、 イソフタル酸ビ[3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル](IIb)、テレフタル酸ビス[3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル](IIc)、アジピン酸ビス[5−tert−ブチル−3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシベンジル](IId)、イソフタル酸ビス[5−tert−ブチル−3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシベンジル](IIe)およびテレフタル酸ビス[5−tert−ブチル−3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシベンジル](IIf)の合成と紫外線吸収剤としての利用に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゾトリアゾ−ル系紫外線吸収剤は他の系のものと比較して複雑であるので、全体をまとめるには幾分の困難さがある。ベンゾトリアゾ−ル系紫外線吸収剤は、2−ニトロアニリン、4−クロロ−2−ニトロアニリン等からのジアゾニウム塩とフェノ−ル類のカップリング反応、そして得られたアゾ色素の還元というプロセスで合成されている。用いられているフェノ−ル類には4−アルキルフェノ−ル、2,4−ジアルキルフェノ−ル、レゾルシノ−ル等があり、このような方法で得られるベンゾトリアゾ−ル系紫外線を最大公約数的に分類するとIII,IV,V,VIで示される。これらが其の化学構造のままで用いられる場合もあるが、IIIおよびIVにおいてはR′=Hの場合に限りC−位における求電子置換反応により化学修飾して、そしてVおよびVIにおいてはC−位のOH基のエ−テル化、エステル化等により化学修飾して実際に使用しうるものまでに誘導している。このような化学修飾の目的はベンゾトリアゾ−ル系紫外線吸収剤に要求されている相溶性、化学的安定性、光安定性、熱安定性(高温安定性)、耐蒸散性の何れかを改善し、より使用しやすくするためである。
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【0003】
本発明はこのようなベンゾトリアゾ−ル系紫外線吸収剤の耐蒸散性を改善することを主目的としているから、III,IV,VおよびVIの耐蒸散性を改善するためにどのような研究が過去におこなわれたかを示すことが背景技術について述べることになるであろう。具体的に合成されているものを示し、つぎにそれぞれの合成法について述べると、2−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−4,6−ジクミルフェノール(VII)、5−ベンゾイルオキシ−2−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノ−ル(VIII)、1,3−ビス[3−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル]−2−イミダゾリジノン(IX)、ビス[3−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニル]メタン(X)、1,2−ビス[2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾ−ル−5−イルチオ]エタン(XI)、 ビス[4−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−3−ヒドロキシフェニル]−1,4−フェニレンジアクリレ−ト(XII)、 ポリエチレングリコ−ルビス{3−[3−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル]プロピオナ−ト}(XIII)、2,4−ビス[4−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−3−ヒドロキシフェノキシ]−6−エトキシ−1,3,5−トリアジン(XIV)、2,4−ビス[4−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−3−ヒドロキシフェノキシ]−6−フェノキシ−1,3,5−トリアジン(XV)等があげられる。VIIは前記のカップリング反応において2,4−ジクミルフェノ−ルを用いて得られたアゾ色素を還元して得られたものであり、VIIIおよびXIIはVIあるいはVのC−位のOH基をエステル化したものであり、IXおよびXはR’=Hの場合のIIIのC−位における求電子置換反応を利用したものであり、XIはIVのCl原子の反応性を利用したものであり、XIIIはIIIにおけるRの末端にCOOH基がある場合の反応性を利用したものであり、XIVおよびXVはVのC−位のOH基をエ−テル化したものである。詳しい説明は省略するが、非特許文献1を参考にして載ければこのことは理解できるであろう。また、これらの優劣を上市されているか否かで判断することもひとつの方法であろう。すなわち、上市されているものはVII,VIIIおよびXである。これらは特許文献I、特許文献2および特許文献3にそれぞれ示されている。もちろん、特定のメ−カ−以外が製造することは出来ないが、VIIだけについては特許がすでに失効しており、複数のメ−カ−が製造している。しかし、残りの上市されていないものにも周辺技術の進歩により上市に至る可能性があることは当然考えられる。
【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【0004】
【非特許文献1】谷本、染料と薬品、41,295(1996).
【特許文献1】Eur.Pat.Appl.EP 65649;C.A.,93,9069(1980).
【特許文献2】特開2000−119261号公報
【特許文献3】Eur.Pat.Appl.EP 490815;C.A.,117,111619(1992).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ベンゾトリアゾ−ル系紫外線吸収剤で最もよく知られているものに 2−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−4−メチルフェノ−ル(XVI)と2−tert−ブチル−6−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−4−メチルフェノ−ル(XVII)がある。すなわち、IIIにおいてR=Me,R′=Hの場合とIVにおいてR=Me,R′=CMeの場合である。そしてこれらの耐蒸散性については或る場合には十分でないことが知られている。他の相溶性、化学的安定性、光安定性、熱安定性(高温安定性)については殆ど問題はない。添加対象であるポリマ−の種類が多くなり、それぞれの加工条件がより複雑化、より苛酷化している現今では耐蒸散性における改善は特に求められているものである。VII〜XVはこのために考えられたものであろう。しかし、上市されているものがVII,VIIIおよびXの3種類であることは、十分とはいえない。添加対象がポリマ−以外にも拡大されていることからも、耐蒸散性の改善された、相溶性等においても問題のないベンゾトリアゾ−ル系紫外線吸収剤をより経済的に合成することが引き続き望まれていると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
VII〜XVを見ると、それらの殆どがいわゆるビス型の構造を有する化合物である。すなわち、ビス型の化合物を合成した場合にはそれが耐蒸散性の改善されたベンゾトリアゾ−ル系紫外線吸収剤である確率が比較的高いと考えられる。ここで本発明者は最近発表された特許文献4を利用することを考えた。すなわち、これには数種のヒドロキシメチル基を有するベンゾトリアゾ−ル系紫外線吸収剤の合成法が示されている。これらをVあるいはVIの代わりに用いることを考えた。VあるいはVIの場合はC−位のOH基をエ−テル化、エステル化してあるが、本発明者は用いた化合物のC−位のヒドロキシメチル基のOH基をエステル化することを手段として考えた。このエステル化には二塩化アジポイル、二塩化イソフタロイル、二塩化テレフタロイルを用い、トリエチルアミンを脱塩酸剤とした。
【0007】
【特許文献4】特開平7−101943号公報
【発明の効果】
【0008】
本研究において合成したジカルボン酸ビス[5−アルキル−3−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシベンジル](I)およびジカルボン酸ビス[5−アルキル−3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシベンジル](II)は耐蒸散性の改善された新規なベンゾトリアゾ−ル系紫外線吸収剤である。 このことは比較の対象となっているXVIあるいはXVIIの耐蒸散性(表1)を見れば明らかである。IおよびIIについては、ベンゾトリアゾ−ル系紫外線吸収剤の機能構造2ケがエステル構造を介してジカルボン酸残基と連結されているもので、このさい化学的安定性、光安定性、熱安定性(高温安定性)については、ビス型への構造変化に伴う改悪は考えられない。相溶性については少しの低下が認められると考えられるが、トルエン等で再結晶しうることからポリマ−等への添加使用に際して困難を生ずることはないだろう。また、IおよびIIの合成に成功したことは頭書に述べた5種類のヒドロキシメチル基を有するベンゾトリアゾ−ル系紫外線吸収剤のC−位のヒドロキシメチル基のOH基がC−位のOH基に優先して反応したということである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は該実施例に限られるものではない。得られたものはすべて新規化合物であるので元素分析値を付してある。融点は上部開口毛細管内で測定したもので温度補正はおこなっていない。
【実施例1】
【0010】
2−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−6−ヒドロキシメチル−4−メチルフェノ−ル2.0g(0.0078mol)、二塩化アジポイル0.86g(0.0047mol)およびトルエン100mlを混合し、室温でかきまぜながらこれにトリエチルアミン1.18g(0.0117mol)を5時間かけて滴下した。滴下後、12時間室温でかきまぜてから1時間還流煮沸して反応させた。反応後、2〜3度熱水洗してからトルエン溶液を乾燥後に減圧濃縮して全容を5ml以下とした。冷却してから析出結晶を濾過しとり、薄層クロマトグラフィ−により判断しながら適量のメタノ−ルあるいは2−プロパノ−ルで洗浄した。トルエンを用いて再結晶して微黄色のIa1.36gを得た。収率56%、融点154〜155℃。元素分析実験値(%)C65.56,H4.94,N13.79;C3432に対する計算値(%)C65.79,H5.20,N13.54。IRスペクトル(KBr)認められない(νO_H),1730cm−1(νC=O)。UVスペクトル(CHCl)λmax(εmax)302nm(27900),341nm(26400)。
【実施例2】
【0011】
二塩化アジポイル0.86g(0.0047mol)の代わりに二塩化イソフタロイル0.96g(0.0047mol)を用い、他は実施例1と同様にして2−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−6−ヒドロキシメチル−4−メチルフェノ−ルを二塩化イソフタロイルと反応させた。反応後、同様に処理して微黄色のIb1.55gを得た。収率62%、融点205〜207℃。元素分析実験値(%)C67.29,H4.12,N13.40;C3628に対する計算値(%)C67.49,H4.41,N13.12。IRスペクトル(KBr)認められない

(36100),342nm(40500)。
【実施例3】
【0012】
二塩化アジポイル0.86g(0.0047mol)の代わりに二塩化テレフタロイル0.96g(0.0047mol)を用い、他は実施例1と同様にして2−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−6−ヒドロキシメチル−4−メチルフェノ−ルを二塩化テレフタロイルと反応させた。反応後、同様に処理して微黄色のIc1.40gを得た。収率56%、融点272〜274℃。元素分析実験値(%)C67.26,H4.31,N13.39;C3628に対する計算値(%)C67.49,H4.41,N13.12。IRスペクトル(KBr)認められない(νO_H),1730cm−1(νC=O)。UVスペクトル(CHCl)λmax(εmax)301nm(41800),341nm(40900)。
【実施例4】
【0013】
2−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−4−tert−ブチル−6−ヒドロキシメチルフェノ−ル2.32g(0.0078mol)、二塩化アジポイル0.86g(0.0047mol)およびトルエン100mlを混合し、室温でかきまぜながらこれにトリエチルアミン1.18g(0.0117mol)を5時間かけて滴下した。滴下後、12時間室温でかきまぜてから1時間還流煮沸して反応させた。反応後、2〜3度熱水洗してからトルエン溶液を乾燥後に減圧濃縮して全容を5ml以下とした。冷却してから析出結晶を濾過しとり、薄層クロマトグラフィ−により判断しながら適量のメタノ−ルあるいは2−プロパノ−ルで洗浄した。トルエンを用いて再結晶して微黄色のId1.48gを得た。収率54%、融点270〜272℃。元素分析実験値(%)C67.89,H6.04,N12.20;C4044に対する計算値(%)C68.16,H6.29,N11.92。IRスペクトル(KBr)認められない(νO_H),1740cm−1(νC=O)。UVスペクトル(CHCl)λmax(εmax)303nm(32600),341nm(36700)。
【実施例5】
【0014】
二塩化アジポイル0.86g(0.0047mol)の代わりに二塩化イソフタロイ0.96g(0.0047mol)を用い、他は実施例4と同様にして2−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−4−tert−ブチル−6−ヒドロキシメチルフェノ−ルを二塩化イソフタロイルと反応させた。反応後、同様に処理して殆ど白色のIe1.51gを得た。収率53%、融点216〜217℃。元素分析実験値(%)C69.51,H5.39,N11.87;C4240に対する計算値(%)C69.60,H5.56,N11.60。IRスペクトル(KBr)認められない(νO_H),1730cm−1(νC=O)。UVスペクトル(CHCl)λmax(εmax)303nm(35300),341nm(42200)。
【実施例6】
【0015】
二塩化アジポイル0.86g(0.0047mol)の代わりに二塩化テレフタロイル0.96g(0.0047mol)を用い、他は実施例4と同様にして2−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−4−tert−ブチル−6−ヒドロキシメチルフェノ−ルを二塩化テレフタロイルと反応させた。反応後、同様に処理して殆ど白色のIf1.61gを得た。収率57%、融点288〜290℃。元素分析実験値(%)C69.49,H5.44,N11.90;C4240に対する計算値(%)C69.60,H5.56,N11.60。IRスペクトル(KBr)認められない(O_H),1730cm−1(νC=O)。UVスペクトル(CHCl)λmax(εmax)299nm(33400),340nm(34900)。
【実施例7】
【0016】
2−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−6−ヒドロキシメチル−4−メトキシフェノ−ル2.12g(0.0078mol)、二塩化アジポイル0.86g(0.0047mol)およびトルエン80〜90mlを混合し、室温でかきまぜながらこれにトリエチルアミン1.18g(0.0117mol)を少量のトルエンに溶かした溶液を5時間かけて滴下した。滴下後、12時間室温でかきまぜてから1時間還流煮沸して反応させた。反応後、2〜3度熱水洗してからトルエン溶液を乾燥後に減圧濃縮してトルエンの殆どを留去した。固化した残留を薄層クロマトグラフィ−により判断しながら適量のメタノ−ルあるいは2−プロパノ−ルで洗浄した。トルエンを用いて再結晶して微黄色のIg1.27gを得た。収率50%、融点169〜170℃。元素分析実験値(%)C62.28,H4.79,N13.10;C3432に対する計算値(%)C62.57,H4.94,N12.88。IRスペクトル(KBr)認められない(νO_H),1750cm−1(νC=O)。UVスペクトル(CHCl)λmax(εmax)302nm(31900),359nm(26100)。
【実施例8】
【0017】
二塩化アジポイル0.86g(0.0047mol)の代わりに二塩化イソフタロイル0.96g(0.0047mol)を用い、他は実施例7と同様にして2−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−6−ヒドロキシメチル−4−メトキシフェノ−ルを二塩化イソフタロイルと反応させた。反応後、同様に処理して微黄色のIh1.82gを得た。収率69%、融点166〜167℃。元素分析実験値(%)C64.00,H3.92,N12.71;C3628に対する計算値(%)C64.28,H4.20,N12.49。IRスペクトル(KBr)認められない(νO_H),1730cm−1(νC=O)。UVスペクトル(CHCl)λmax(εmax)300nm(31900),356nm(8800)。
【実施例9】
【0018】
二塩化アジポイル0.86g(0.0047mol)の代わりに二塩化テレフタロイル0.96g(0.0047mol)を用い、他は実施例7と同様にして2−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−6−ヒドロキシメチル−4−メトキシフェノ−ルを二塩化テレフタロイルと反応させた。反応後、同様に処理して微黄土色のIi1.78gを得た。収率68%、融点202〜204℃。元素分析実験値(%)C63.98,H4.02,N12.77;C3628に対する計算値(%)C64.28,H4.20,N12.49。IRスペクトル(KBr)認められない(νO_H),1730cm−1(νC=O)。UVスペクトル(CHCl)λmax(εmax)300nm(36000),357nm(11800)。
【実施例10】
【0019】
2−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−6−ヒドロキシメチル−4−メチルフェノ−ル2.26g(0.0078mol)、二塩化アジポイル0.86g(0.0047mol)およびトルエン140mlを混合し、室温でかきまぜながらこれにトリエチルアミン1.18g(0.0117mol)を5時間かけて滴下した。滴下後、12時間室温でかきまぜてから1時間還流煮沸して反応させた。反応後、2〜3度熱水洗してからトルエン溶液を乾燥後に減圧濃縮して全容を10〜15mlとした。冷却してから析出結晶を濾過しとり、薄層クロマトグラフィ−により判断しながら適量のメタノ−ルあるいは2−プロパノ−ルで洗浄した。トルエンを用いて再結晶して微黄色のIIa1.34gを得た。収率50%、融点204〜205℃。元素分析実験値(%)C58.99,H4.10,N12.48;C3430Clに対する計算値(%)C59.22,H4.39,N12.19。IRスペクトル(KBr)認められない(νO_H),1740cm−1(νC=O)。UVスペクトル(CHCl)λmax(εmax)308nm(31300),348nm(40000)。
【実施例11】
【0020】
二塩化アジポイル0.86g(0.0047mol)の代わりに二塩化イソフタロイル0.96g(0.0047mol)を用い、他は実施例10と同様にして2−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−6−ヒドロキシメチル−4−メチルフェノ−ルを二塩化インフタロイルと反応させた。反応後、同様に処理して微黄土色のIIb1.46gを得た。収率53%、融点168.5〜169.5℃。元素分析実験値(%)C60.64,H3.40,N12.13;C3626Clに対する計算値(%)C60.94,H3.69,N11.84。IRスペクトル(KBr)認められない(νO_H),1730cm(νC=O)。UVスペクトル(CHCl)λmax(εmax)312nm(34800),346nm(41500)。
【実施例12】
【0021】
二塩化アジポイル0.86g(0.0047mol)の代わりに二塩化テレフタロイル0.96g(0.0047mol)を用い、他は実施例10と同様にして2−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−6−ヒドロキシメチル−4−メチルフェノ−ルを二塩化テレフタロイルと反応させた。反応後、同様に処理して微黄土色のIIc1.83gを得た。収率66%、融点204〜206℃。元素分析実験値(%)C60.65,H3.41,N12.12;C3626Clに対する計算値(%)C60.94,H3.69,N11.84。IRスペクトル(KBr)認められない(νO_H),1730cm−1(νC=O)。UVスペクトル(CHCl)λmax(εmax)306nm(28400),340nm(14000)。
【実施例13】
【0022】
4−tert−ブチル−2−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−6−ヒドロキシメチルフェノ−ル2.59g(0.0078mol)、二塩化アジポイル0.86g(0.0047mol)およびトルエン140〜150mlを混合し、室温でかきまぜながらこれにトリエチルアミン1.18g(0.0117mol)を5時間かけて滴下した。滴下後、12時間室温でかきまぜてから1時間還流煮沸して反応させた。反応後、2〜3度熱水洗してからトルエン溶液を乾燥後に減圧濃縮して全容を10〜15mlとした。冷却してから析出結晶を濾過しとり、薄層クロマトグラフィ−により判断しながら適量のメタノ−ルあるいは2−プロパノ−ルで洗浄した。トルエンを用いて再結晶して微黄色のIId1.62gを得た。収率54%、融点182〜184℃。元素分析実験値(%)C61.87、H5.19,N11.16;C4042Clに対する計算値(%)C62.09,H5.47,N10.86。IRスペクトル(KBr),認められない(νO_H),1730cm−1(νC=O)。UVスペクトル(CHCl)λmax(εmax)309nm(30500),347nm(41500)。
【実施例14】
【0023】
二塩化アジポイル0.86g(0.0047mol)の代わりに二塩化イソフタロイル0.96g(0.0047mol)を用い、他は実施例13と同様にして4−tert−ブチル−2−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−6−ヒドロキシメチルフェノ−ルを二塩化イソフタロイルと反応させた。同様に処理して殆ど白色のIIe2.01gを得た。収率65%、融点202〜204℃。元素分析実験値(%)C63.28,H4.56,N10.87;C4238Clに対する計算値(%)C63.56,H4.83,N10.59。IRスペクトル(KBr)認められない(νO_H),1730cm−1(νC=O)。UVスペクトル(CHCl)λmax(εmax)310nm(27400),348nm(38300)。
【実施例15】
【0024】
二塩化アジポイル0.86g(0.0047mol)の代わりに二塩化テレフタロイル0.96g(0.0047mol)を用い、他は実施例13と同様にして4−tert−ブチル−2−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−6−ヒドロキシメチルフェノ−ルを二塩化テレフタロイルと反応させた。同様に処理して白色のIIf1.84gを得た。収率59%、融点287.5〜288.5℃。元素分析実験値(%)C63.26,H4.54,N10.87;C4238Clに対する計算値(%)C63.56,H4.83,N10.59。IRスペクトル(KBr)認められない(νO_H),1730cm−1(νC=O)。UVスペクトル(CHCl)λmax(εmax)308nm(26800),347nm(36000)。
【実施例16】
【0025】
Ia,Ib,Id,Ie,IgおよびIhの100.0mgを開口試験管中において加熱ブロックで200℃に5.5時間加熱し、加熱することによるそれぞれの重量、IRスペクトル(KBr)および色調における変化を表1に示す。また、比較のためにXVI,XVIIおよびXについての同様な試験結果をあわせ示す。なお、それら以外のものについての試験はおこなっていない。para−置換とmeta−置換の違いを考慮すれば、Ic,If,Iiの耐蒸散性等についてはそれぞれIb,Ie,Ihより好結果が期待されるからである。また、ベンゼン核におけるCl置換と無置換の違いを考慮すれば、IIa〜fの耐蒸散性等についてはそれぞれIa〜fより好結果が期待されるからである。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0026】
紫外線吸収剤において機能するための必要最小限の構造を機能構造と表現することができるなら、ベンゾトリアゾ−ル系紫外線吸収剤のそれは2−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)フェノ−ル構造である。その構造が1分子中に2ヶ存在するのがビス型の構造であると言える。それによる効果は紫外吸収における吸収強度の増大となっている。背景技術において述べた耐蒸散性を改善するために考えられたビス型の構造のものの多くには吸収強度の増大が認められるであろう。本研究で得られたものも例外ではない。この意味においてIおよびIIには産業上の利用可能性がある。比較的大きい利用可能性のあるものとしてIa,Ib,Ie,Ig,IIa,IIb,IIc,IIdおよびIIeがあげられる。比較的小さい利用可能性のあるものとしてIc,Id,If,Ih,IiおよびIIfがあげられる。すなわち、Ic,Id,IfおよびIIfについては>250℃

強さの減少が見られる化合物であるからである。この吸収帯の強さの減少については本発明者としては説明不可能であった。また、IおよびIIのすべてはトルエンを用いる再結晶のまえに適量のメタノ−ルあるいは2−プロパノ−ルで洗浄している。適量とは各実施例において異なっており、特にIIにおいては適量が多量となっている場合が多い。このようなとき、実験室ではSoxhlet抽出装置を用いてなるべく少量のメタノ−ルあるいは2−プロパノ−ルを使用するようにすることができた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
産業上の利用可能性の大きいもののうちからIa,Ib,Ie,IIc,IIdおよびIIeを選択しそれらのUVスペクトルを示す。
【図1】本発明の化合物IaのUVスペクトル
【図2】本発明の化合物IbのUVスペクトル
【図3】本発明の化合物IeのUVスペクトル
【図4】本発明の化合物IIcのUVスペクトル
【図5】本発明の化合物IIdのUVスペクトル
【図6】本発明の化合物IIeのUVスペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2分子の2−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−6−ヒドロキシメチル−4−メチルフェノ−ル、2−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−4−tert−ブチル−6−ヒドロキシメチルフェノ−ル、2−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−6−ヒドロキシメチル−4−メトキシフェノ−ルのそれぞれを二塩化アジポイル、二塩化イソフタロイル、二塩化テレフタロイルのそれぞれと脱塩酸縮合させることによるアジピン酸ビス[3−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル](Ia)、イソフタル酸ビス[3−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル](Ib)、テレフタル酸ビス「3−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル](Ic)、アジピン酸ビス[3−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−5−tert−ブチル−2−ヒドロキシベンジル](Id)、イソフタル酸ビス[3−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−5−tert−ブチル−2−ヒドロキシベンジル](Ie)、テレフタル酸ビス[3−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−5−tert−ブチル−2−ヒドロキシベンジル](If)、アジピン酸ビス[3−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−メトキシベンジル](Ig)、イソフタル酸ビス[3−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−メトキシベンジル](Ih)およびテレフタル酸ビス[3−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−メトキシベンジル](Ii)の合成
【化1】

【請求項2】
Ia,Ib,Ic,Id,Ie,If,Ig,IhおよびIiで示されるベンゾトリアゾ−ル系紫外線吸収剤の紫外線吸収剤としての利用
【請求項3】
2分子の2−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−6−ヒドロキシメチル−4−メチルフェノ−ル、4−tert−ブチル−2−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−6−ヒドロキシメチルフェノ−ルのそれぞれを二塩化アジポイル、二塩化イソフタロイル、二塩化テレフタロイルのそれぞれと脱塩酸縮合させることによるアジピン酸ビス[3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル](IIa)、 イソフタル酸ビス[3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル](IIb)、テレフタル酸ビス[3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル](IIc)、アジピン酸ビス[5−tert−ブチル−3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシベンジル](IId)、イソフタル酸ビス[5−tert−ブチル−3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシベンジル](IIe)およびテレフタル酸ビス[5−tert−ブチル−3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシベンジル](IIf)の合成
【化2】

【請求項4】
IIa,IIb,IIc,IId,IIeおよびIIfで示されるベンゾトリアゾ−ル系紫外線吸収剤の紫外線吸収剤としての利用

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−13148(P2009−13148A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−201300(P2007−201300)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(301000675)シプロ化成株式会社 (33)