説明

ヒューズ

【課題】小型で大きな遮断能力を有し且つ製作が容易なヒューズを提供する。
【解決手段】可溶体18が大きな過電流により溶融・金属蒸気化すると、内部空間26の可溶体18が架張されている大きい空間40でアーク放電が発生し、当該大きい空間内の圧力が瞬時に極めて大きく上昇する。この圧力上昇により、遮断部材24は、図5の(A)示す位置から(B)に示す位置まで移動する。遮断部材24の移動に伴い、遮断部材により本体の連結孔36及び38を瞬時に塞ぎ、それにより、電子の流れが遮断され、アーク放電は瞬時に消弧される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や非常用電源等に用いられるバッテリーユニットの保護に使用できる定格電圧直流800V以下、定格遮断電流5000A以下のヒューズに適した構造を有するヒューズに関する。
【背景技術】
【0002】
バッテリーユニットのメイン回路保護に用いられている従来の定格電圧直流800V以下、定格遮断電流5000A以下のヒューズの可溶体の構造は、板エレメント又はリボンエレメントと呼ばれる細長い板状のエレメントの数カ所に穴や括れを設けた狭隘部を有するものが一般的である。バッテリーユニットの電流は比較的大きく、短絡した場合は数千Aの電流が流れ、可溶体が金属蒸気化し、アーク放電が発生する。このアーク放電を素早く消弧させるため可溶体の周りには消弧剤が充填されている。
【0003】
上記のような構造を有する限流ヒューズであって、ヒューズ本体の構造を2つ割りにし、組み付け工程の簡略化を図った限流ヒューズが、既に存在する(例えば、特開2004−119105号公開特許公報参照)。
【特許文献1】特開2004−119105号
【特許文献2】特開2002−329456号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、例えば、次のような製造工程で製作される限流ヒューズがある(例えば、特開2002−329456号公開特許公報参照。)。ダイス(金型の一方)の凹部内に消弧剤を充填し、可溶体を載置するとともに、更に消弧剤を充填し、パンチ(金型の他方)によりプレス加工をして、消弧剤を矩形状(直方体状)に成型する。消弧剤の充填は、接着剤の一種である液状のバインダーが混ぜられた状態で充填され、可溶体の近傍には高温時に固着強度がなくなる種類の接着剤を、可溶体の遠傍には高温時に完全に凝固する種類の接着剤を用いて、消弧剤の成型後、焼結工程、即ち、消弧剤の周囲を高温で加熱処理することによって可溶体の周囲には、未硬化状態の消弧剤を形成し、その消弧剤の周囲には硬化状態の消弧剤、即ち、本体を形成する。しかしながら、この製造工程は、複雑であり、また本体の強度や可溶体の周囲の消弧剤の状態が、使用する消弧剤、バインダーの種類や量及び混ぜ合わせの状態、焼結工程等に左右され、信頼性の高い製品を作るのが困難であるという問題点がある。
【0005】
このため、一般的には、ヒューズ本体の内部空間に可溶体を収め、可溶体の周りに消弧剤を充填した限流ヒューズが使用されている。ヒューズ本体に消弧剤を充填するためには、柱状体の本体内部に可溶体を配設した後で、本体の内部空間に消弧剤が溜まるようにして、本体外側より充填する必要がある。本体が2つ割り構造であれば、2つの部材を一体化した後に充填する必要がある。
【0006】
ヒューズ本体の内部空間に消弧剤を充填するためには本体の内部空間に繋がる貫通孔から消弧剤を可溶体に悪影響を与えないよう少しずつ挿入し、その際には隙間なく充填されたかどうか確認する作業が必要となる。そのため、消弧剤充填作業に時間と手間がかかりヒューズの製作効率が低くなってしまうという問題点がある。
【0007】
また、板状のエレメントの数カ所に穴や括れを設けた狭隘部を有する可溶体のヒューズの場合、小さい過電流で動作したときには狭隘部のみが溶断するが、大きい過電流を遮断する際には、可溶体全体が金属蒸気化する。このため、1本の電線状の可溶体と比較すると発生する金属蒸気の密度が高く、アーク放電が消弧しづらいという問題点がある。
【0008】
更に、板状のエレメントが狭隘部を有する場合、板厚の薄さに加え、穴や括れのある部位のエレメントの幅が狭いので、その狭隘部は機械的強度が弱く、過電流が流れるたびに可溶体は熱膨張と冷却縮小を繰り返すが、断面積の小さい狭隘部に機械的金属疲労が集中し、クラックが容易に発生し、溶断しやすくなる。
【0009】
板エレメント又はリボンエレメントと呼ばれる可溶体では、板状の設計のため、可溶体を収める本体の内部空間を広くする必要があり、小型化するには不都合であるという問題点も存在する。
【0010】
本発明の課題は、前述の問題点を克服し、小型で大きな遮断能力を有し、且つ製作が容易なヒューズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るヒューズは、上記課題を解決したものであって、次のようなものである。すなわち、可溶体と1対の導電端子と耐熱絶縁材料から成る本体と遮断部材を備え、前記本体は柱状体の形状を有し、その柱状の中央部に設けられた内部空間とその両端部に設けられた開いた空間を有し、且つ前記内部空間と開いた空間を連結する一対の連結孔を有し、前記可溶体は前記連結孔を通って前記内部空間に架張され、前記遮断部材は前記内部空間に配置され、前記一対の導電端子は前記開いた空間に取り付けられ且つ前記可溶体の両端部と電気的且つ機械的に接続されているヒューズであって、前記可溶体が前記内部空間に架張されている状態においては前記遮断部材が前記内部空間を大小2つに分割し、且つ前記可溶体が大きい空間にのみに架張され、ヒューズに大きな過電流が流れて可溶体が金属蒸気化し、アーク放電が発生した際の大きい空間の圧力上昇を利用して大きい空間から小さい空間へ向かう方向に前記遮断部材を移動させ、前記遮断部材によって前記連結孔を塞ぐことによって電子の流れを遮断し、消弧するヒューズである。
【0012】
本体はその両端部を結ぶ方向に沿って分割された2つの分割ケース部材を有し、各前記分割ケース部材は、両分割ケース部材を合わせた際に前記内部空間を形成する凹部を有し、少なくとも1つの分割ケース部材は、両分割ケース部材を合わせたとき前記開いた空間と連結孔を形成するようになっていてもよい。
【0013】
内部空間の大きい空間に可溶体を直線状に架張しても逆U字形に架張してもよい。逆U字形に架張する場合は、遮断部材24に障壁124を設けることもできる。
【発明の効果】
【0014】
例えば、ヒューズが前述した自動車や非常用電源のバッテリーユニットのメイン回路保護に用いられていて、バッテリーユニット或いはメイン回路の故障により短絡電流等の大きい過電流がヒューズに流れると、可溶体18は瞬時に溶融して金属蒸気化する。本発明のヒューズでは、可溶体18がこのように金属蒸気化すると、内部空間26のうち可溶体18が架張されている大きい空間40内ではアーク放電が発生すると共に、当該大きい空間40内の圧力が瞬時に極めて大きく上昇する。この圧力上昇により、遮断部材24は、小さい空間42が実質的に無くなるように移動する。遮断部材24のこの移動に伴い、遮断部材により連結孔を瞬時に塞ぎ、それにより、電子の流れが遮断され、アーク放電は瞬時に消弧される。
【0015】
遮断部材24に障壁124を設け可溶体18の中間部を逆U字形状にした場合には、連結孔36と38とを直線状に結ぶアーク放電路を形成することはできず、放電路は障壁を避けるように引き伸ばされ、アーク放電は消弧しやすくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明の好適な実施形態について図面を参照して説明する。なお、図面を通して同一の参照番号は、同一又は類似の構成要素を表す。
【0017】
図1は本発明の好適な第1の実施形態に従ったヒューズの分解組み立て図であり、図2はその完成図であり、図3は図2のX−X’断面図であり、図4は上ケースを裏側から見た図である。
【0018】
図1及び図2に示すように、ヒューズ10は、上ケース14及び下ケース16から成る本体12、可溶体18、一対の導電端子20及び22、及び遮断部材24から構成される。
【0019】
上ケース14、下ケース16及び遮断部材24は、熱硬化性樹脂のような耐熱絶縁材料から作られている。なお、この実施形態では、上ケース14、下ケース16及び遮断部材24は、同一材料であるが、これらのケース14及び16と遮断部材24の材料とは、異なる材料であってもよい。
【0020】
可溶体18は、線状の形状を有し、その両端は、一対の導電端子20及び22に電気的且つ機械的に接続されている。
【0021】
なお、本発明は、本体12(上ケース14及び16)、可溶体18、導電端子20及び22、及び遮断部材24に用いられる材料は、用途に適した材料であればいずれのものでもよく、本発明は、材料の種類には限定されるものではない。また、可溶体18と導電端子20及び22との間の電気的及び機械的接続の方法はいずれの方法でもよい。
【0022】
図2に示すように上ケース14と下ケース16とを合わせたとき本体12の内部に内部空間26が形成されるように、上ケース14に凹部28(図4参照)が、下ケース16に凹部30が、それぞれ形成されている。下ケース16の長手方向の両端部には、導電端子20及び22を嵌め込むための開いた空間を形成するため凹部32及び34が形成されている。下ケース16にはまた、凹部32及び34と凹部30との間に可溶体18を通すための切り欠き36及び38が形成されている。この切り欠き36及び38は、上ケース14と下ケース16とを合わせたとき、可溶体18が通る孔を形成することになり、以下では適宜連結孔とも記す。
【0023】
遮断部材24は、本体12の内部空間26を大小2つの閉じた空間に分離する。遮断部材は、内部空間26内で移動できるようヒューズ10の長手方向に沿った内部空間26の長手方向の長さより僅かに短い長さを有し、また、図3に示すように内部空間26の高さより僅かに低い高さを有する。遮断部材24は、大きい空間から小さい空間へ向かう方向に移動して連結孔36及び38(図1参照)を塞ぐ。遮断部材24には、可溶体18が通る切り欠き60及び62が設けられている。
【0024】
前述の構成要素は次のようにして組み立てられる。遮断部材24を下ケース16の凹部30に置く。その際に、遮断部材24は、凹部30の中で、可溶体18が下ケース16の凹部30に架張されるとき可溶体18が遮断部材24の切り欠き60及び62を通るような位置に配置する。可溶体18が接続されている状態の導電端子20及び22を下ケース16の凹部32及び34にそれぞれ対応させて嵌め込む。導電端子20及び22を凹部32及び34に嵌め込むと、可溶体18の両端部は切り欠き36及び38に嵌り、その中間部は、遮断部材24の切り欠き60及び62を通って凹部30の上に架張される。上ケース14を下ケース16の上に内部空間26が形成されるように組合せる。次いで、図1に示すように、ネジ64とナット66を用いて、上ケース14、下ケース16及び導電端子20及び22を固定して、図2に示すようにヒューズ10を完成させる。なお、本発明は、ネジ64とナット66による固定に限られず、接着等いずれの固定方法でもよい。
【0025】
ヒューズ10の上記の構成要素及びそれらの組み立ては、前述したような構造及び組み立て方法であるので、製作が容易である。更に、本発明は、消弧剤を用いていない点においても、用いているタイプのヒューズに比し、製作が明らかに容易である。
【0026】
次にこのように組み立てられたヒューズ10の動作を説明する。図5はヒューズの動作前後の内部の状態を示す図であり、(A)は動作前を、(B)は動作後を示す。図5の(A)に示すヒューズ10の動作前の状態で、例えば、ヒューズ10が前述した自動車や非常用電源のバッテリーユニットのメイン回路保護に用いられていて、バッテリーユニット或いはメイン回路の故障により短絡電流等の大きい過電流がヒューズ10に流れると、可溶体18は瞬時に溶融して金属蒸気化する。可溶体18がこのように金属蒸気化すると、内部空間26のうち可溶体18が架張されている大きい空間40内ではアーク放電が発生すると共に、当該大きい空間40内の圧力が瞬時に極めて大きく上昇する。この圧力上昇により、遮断部材24は移動し、図5の(B)に示すような内部状態となる。遮断部材24の移動に伴い、遮断部材24は本体12の連結孔36及び38を瞬時に塞ぎ、それにより、電子の流れが遮断され、アーク放電は瞬時に消弧される。
【0027】
本発明のヒューズは、上記のように動作するので、大きい遮断能力を有する。また、本発明のヒューズは、前述のように、自己消弧型であって、構造が簡単であり、更に消弧剤も用いないので、ヒューズの定格が同一の場合他のタイプのヒューズに比し小型にすることができる。
【0028】
図6は、図1に示す遮断部材24の変形を示す。遮断部材には障壁124が設けられており、可溶体は障壁を避けるように逆U字形に内部空間に架張される。
【0029】
なお、上記実施形態では可溶体18は線状構造である場合について説明したが、可溶体18は巻線構造のものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、本発明の好適な第1の実施形態に従ったヒューズの分解組み立て図である。
【図2】図2は、図1に示すヒューズの完成図である。
【図3】図3は、図2に示すヒューズのX−X’断面図である。
【図4】図4は、図1に示す上ケースを裏側から見た図である。
【図5】図5は、図1に示すヒューズの動作前後の内部の状態を示す図であり、(A)は動作前を、(B)は動作後を示す。
【図6】図6は、図1に示す遮断部材24の変形を示す。
【符号の説明】
【0031】
10 ヒューズ
12 本体
14 上ケース
16 下ケース
18 可溶体
20,22 導電端子
24 遮断部材
26 内部空間
28,30 凹部
32,34 凹部
36,38 切り欠き、連結孔
40 大きい空間
42 小さい空間
124 障壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶体と1対の導電端子と耐熱絶縁材料から成る本体と遮断部材を備え、
前記本体は柱状体の形状を有し、その柱状の中央部に設けられた内部空間とその両端部に設けられた開いた空間を有し、且つ前記内部空間と開いた空間を連結する一対の連結孔を有し、前記可溶体は前記連結孔を通って前記内部空間に架張され、前記遮断部材は前記内部空間に配置され、前記一対の導電端子は前記開いた空間に取り付けられ且つ前記可溶体の両端部と電気的且つ機械的に接続されているヒューズであって、
前記可溶体が前記内部空間に架張されている状態においては前記遮断部材が前記内部空間を大小2つに分割し、且つ前記可溶体が大きい空間にのみに架張され、ヒューズに大きな過電流が流れて可溶体が金属蒸気化し、アーク放電が発生した際の大きい空間の圧力上昇を利用して大きい空間から小さい空間へ向かう方向に前記遮断部材を移動させ、前記遮断部材によって前記連結孔を塞ぐ
ことを特徴とするヒューズ。
【請求項2】
前記本体が、その両端部を結ぶ方向に沿って分割された2つの分割ケース部材を有し、各前記分割ケース部材は、両分割ケース部材を合わせた際に前記内部空間を形成する凹部を有し、
少なくとも1つの分割ケース部材は、両分割ケース部材を合わせたとき前記開いた空間と連結孔を形成するように分割ケース部材の分割面に切り欠きを有する
ことを特徴とする請求項1記載のヒューズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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