説明

ビスアミノシラン化合物の製法

【課題】 炭化水素アミノ基が立体的に非常に嵩高い多環式パーヒドロアミノ基を二個有するジ(多環式パーヒドロアミノ)ジ(炭化水素オキシ)シランなどのジ(多環式アミノ)ジアルコキシシランの合成法を提供する。
【解決手段】 塩化水素補足剤の存在下、ジアルコキシジクロロシランと第2級多環状アミンとの反応によるジ(多環状アミノ)ジアルコキシシランの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ジ(多環式アミノ)ジアルコキシシラン化合物の新規な製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】これまでシラン化合物はオレフィン重合においてポリマーの立体規則性を高めるための触媒第三成分として数多く提案されている。シラン化合物としては、ジアルキルジメトキシシラン、ジシクロアルキルジメトキシシラン、シクロアルキルアルキルジメトキシシランのようなテトラ(炭化水素オキシ)シランから二つの炭化水素オキシ基が炭化水素基で置換されたものが良く知られている。
【0003】さらに別のシラン化合物としては、テトラ(炭化水素オキシ)シランから一つまたは二つの炭化水素オキシ基が炭化水素アミノ基で置換されたものも知られている。例えば、特開平3-74393号、同7-118320号、同7-173212号、同8-100019号各公報にはアルキル(炭化水素アミノ)ジアルコキシシランを触媒成分として用いるオレフィンの重合方法が記載されている。これらのシラン化合物における炭化水素アミノ基としてはジアルキルアミノ基及び環状アミノ基、そして環状アミノ基の具体例としてピペリジル基、ピロリジル基及びそれらのメチル置換誘導体が開示されている。アルキル(炭化水素アミノ)ジアルコキシシランの合成法は、有機金属化合物である有機リチウム化合物と第二級アミンとの反応で得られるリチウムアミドとアルキル(トリアルキルオキシ)シランとの反応が特開平3-74393号公報に記載されている。
【0004】また、すでに本発明者らによって、リチウムアミドとテトラメトキシシランとの反応によるビス(ジアルキルアミノ)ジメトキシシラン、ジ(環式アミノ)ジメトキシシランの詳細な合成方法が特開平7-224902号、同8-143621号各公報に具体的に記載されている。これらの公報においては、アルキルマグネシウムハライドと第2級炭化水素アミンとの反応で得られる炭化水素アミノマグネシウムハライドと、テトラメトキシシランとを反応するジ(炭化水素アミノ)ジメトキシシランの合成方法が具体的に記載されている。
【0005】しかし、これまで炭化水素アミノ基が立体的に非常に嵩高い多環式パーヒドロアミノ基を二個有するジ(多環式パーヒドロアミノ)ジ(炭化水素オキシ)シランの合成法の報告はない。さらにこれらのシラン化合物を合成する際、原料の多環式パーヒドロアミンにはシス、トランス立体異性体があり、所望の割合のアミノ異性体からなるジ(多環式パーヒドロアミノ)ジ(炭化水素オキシ)シラン化合物を合成する方法は知られていない。
【0006】前記特許公報で開示された炭化水素アミノマグネシウムハライドのような有機金属アミン塩とテトラアルキルオキシシラン化合物とを反応させて合成する方法においては、原料である有機金属化合物が一般に高価で空気、水分に対して反応性が高く取り扱いに注意を要し、反応副生成物の金属アルコキシドの再利用が難しく、廃棄処分する工程が必要である。さらに多環式パーヒドロアミノ基の窒素原子の位置によっては窒素原子周辺は立体的に混み合い反応の立体障害が生じ、有機金属アミン塩とアルキルオキシシラン化合物との反応において2個の多環式パーヒドロアミノ基をSiに結合させることが困難な場合がある。
【0007】一方、金属アミドを製造する原料として有機金属化合物の代わりに金属、金属水素化物を使う方法では、多環式パーヒドロ第2級アミンの窒素−水素結合の水素の酸性度が非常に弱く、金属、金属水素化物との反応性が低く、金属アミドは生成し難い。またシラン化合物と第2級アミン化合物との反応でSi−N結合を形成する方法としては、(1)脱塩化水素を伴うSi−Cl結合を有するシラン化合物と第2級アミン化合物との直接の反応、(2)脱アルコールを伴うSi−OR結合を有するシラン化合物と第2級アミン化合物との直接の反応が挙げられる。前者については、塩化水素補足剤の存在下で行う反応が多く知られているが(Industrial and Engineering Chemistry、1947年、第39巻、1368頁、OrganosiliconCompounds、Part 1、1965年、76-82頁、Academic Press Inc.),アルキルオキシ基及び多環式パーヒドロアミノ基を2個有するシラン化合物の合成に応用した例はない。また後者についてはアミンの窒素−水素結合の水素の酸性度が非常に弱い場合には脱アルコールは起こらない等の問題点がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、炭化水素アミノ基が立体的に非常に嵩高い多環式パーヒドロアミノ基を二個有するジ(多環式パーヒドロアミノ)ジ(炭化水素オキシ)シランなどのジ(多環式アミノ)ジアルコキシシランの合成法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、塩化水素補足剤の存在下、ジアルコキシジクロロシランと多環式第2級アミンとの反応によるジ(多環式アミノ)ジアルコキシシランの製造方法に関する。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明の塩化水素補足剤としては塩基性の窒素、リン化合物すべてを用いることができ、アミン、アミド、イミン、ニトリル、オキシム化合物を挙げることができる。その内、N−H、P−H結合がない第3級アミン、リン化合物が好ましい。特に好ましい塩化水素補足剤としては例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、ジメチルフェニルアミン、トリフェニルアミン、 N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン及びこれらの骨格を有する置換誘導体、ピリジン、キノリン、イソキノリンなどの芳香族ヘテロ環化合物、及びこれらの骨格を有する置換誘導体を挙げることができる。
【0011】本発明のジアルコキシジクロロシランとしては、ジメトキシジクロロシランなどが挙げられる。ジアルコキシジクロロシランは、例えばテトラクロロシランと2倍モル当量のアルコールあるいは金属アルコキサイドとの反応で製造することができる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノールなどの脂肪族アルコールが挙げられる。中でも、メタノールが好ましい。金属アルコキサイドとしては、金属メトキサイドが挙げられる。
【0012】本発明の多環式第2級アミンとしては、多環式パーヒドロ第2級アミン化合物を挙げられる。具体例としては、パーヒドロインドール、パーヒドロイソインドール、パーヒドロキノリン、パーヒドロイソキノリン、パーヒドロカルバゾール、パーヒドロイミノスチルベン、パーヒドロアクリジン、及びパーヒドロベンゾ[f]キノリン、パーヒドロベンゾ[g]キノリン、パーヒドロベンゾ[g]イソキノリン、パーヒドロフェナントリジンのようなシクロヘキシル環が縮合したアミン化合物、さらにはこれらのアミン化合物において炭素原子に結合している水素原子の一部がアルキル基、フェニル基、シクロアルキル基で置換されたアミン化合物を挙げることができる。
【0013】特に好ましいアミン化合物としては、パーヒドロインドール、パーヒドロイソインドール、パーヒドロキノリン、パーヒドロイソキノリンおよびそれらの置換誘導体、シス、トランス異性体を挙げることができる。本発明においては、N−H結合を持っているが反応成分である多環式パーヒドロ第2級アミン化合物を塩化水素補足剤として同時に用いることができる。
【0014】本発明で使用する塩化水素補足剤、多環式第2級アミン化合物、及び後記の反応溶媒はいずれも水含有量が少ないほど望ましい。水含有量は通常1重量%以下、好ましくは0.1重量%以下、特に好ましくは0.03重量%以下である。
【0015】塩化水素補足剤の存在下、ジアルコキシジクロロシランと多環式第2級アミンとの反応によるジ(多環状アミノ)ジアルコキシシランの製造において、反応溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ミネラルオイル、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの不活性炭化水素溶媒、活性水素を持たないエーテル、ケトン、エステル、アミン化合物などの極性炭化水素溶媒を用いることができる。塩化水素補足剤を反応生成物から容易に分離、回収するために不活性炭化水素溶媒が好ましく、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の低沸点脂肪族炭化水素溶媒が特に好ましい。
【0016】ジアルコキシジクロロシランと多環式第2級アミンとの反応において、各成分の接触温度は通常-30〜120℃、好ましくは20〜100℃、特に好ましくは50〜90℃である。反応時間は通常1〜600分である。
【0017】各成分の使用量は、ジアルコキシジクロロシラン/多環式第2級アミン化合物のモル比で通常1〜0.05、好ましくは0.5〜0.1である。反応時間を短くするためにはモル比を0.5未満にする事が特に好ましい。ただし反応成分である多環式第2級アミン化合物を塩化水素補足剤として同時に用いる場合は、ジアルコキシジクロロシラン/多環式第2級アミン化合物のモル比で通常0.5〜0.01、好ましくは0.25〜0.05である。ジアルコキシジクロロシランと多環式第2級アミン化合物の各成分の接触順序は特に限定されないが、例えばジアルコキシジクロロシランの反応溶液中に多環式第2級アミン化合物と塩化水素補足剤の混合物を添加することができる。
【0018】塩化水素補足剤の使用量は、ジアルコキシジクロロシラン/塩化水素補足剤のモル比で通常0.5〜0.01、好ましくは0.5〜0.1である。
【0019】反応終了後、ジ(多環式アミノ)ジアルコキシシランとともに塩化水素補足剤の塩化水素付加物が生成し、反応溶媒が不活性炭化水素溶媒の場合は固体として析出するため反応溶液から濾過によって分離することができる。さらに分離できた塩化水素補足剤の塩化水素付加物は水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液で中和分解し、有機相の塩化水素補足剤を回収、精製して再利用することができる。
【0020】本発明で製造できるジ(多環式アミノ)ジアルコキシシランとしてはジ(多環式パーヒドロアミノ)ジメトキシシランなどが挙げられる。
【0021】具体例としては、ジ(パーヒドロイソキノリノ)ジメトキシシラン、ジ(パーヒドロキノリノ)ジメトキシシラン、ジ(パーヒドロインドリノ)ジメトキシシラン、(パーヒドロイソキノリノ)(パーヒドロキノリノ)ジメトキシシランを挙げることができる。
【0022】多環式パーヒドロ第2級アミン化合物はそれ自体シス体、トランス体の異性体があり、従ってジ(多環式パーヒドロアミノ)ジメトキシシランにおいてはジ(シス多環式パーヒドロアミノ)ジメトキシシラン、(シス多環式パーヒドロアミノ)(トランス多環式パーヒドロアミノ)ジメトキシシラン、ジ(トランス多環式パーヒドロアミノ)ジメトキシシランの三種類の異性体が生じる。ジ(パーヒドロイソキノリノ)ジメトキシシランの場合、ジ(シスパーヒドロイソキノリノ)ジメトキシシラン、ジ(トランスパーヒドロイソキノリノ)ジメトキシシラン、(トランスパーヒドロイソキノリノ)(シスパーヒドロイソキノリノ)ジメトキシシランの三種類の異性体が挙げられる。
【0023】構造異性体からなる多環式パーヒドロ第2級アミン化合物は化学反応においては各異性体の反応性が必ずしも同じではなく、化学反応によって合成される反応生成物の異性体分布を制御する必要がある。本発明の合成方法に従えば、多環式パーヒドロ第2級アミン化合物がシス、トランス体各々aモル%、100−aモル%とすれば、合成される三種類の異性体のジ(多環式パーヒドロアミノ)ジメトキシシランはジ(シス多環式パーヒドロアミノ)ジメトキシシランがa×a/100モル%、ジ(トランス多環式パーヒドロアミノ)ジメトキシシランが(100−a)×(100−a)/100モル%、(シス多環式パーヒドロアミノ)(トランス多環式パーヒドロアミノ)ジメトキシシランが 2×a×(100−a)/100モル%からなる。
【0024】
【発明の効果】本発明の製造方法に従えば、反応性が低いN−H結合を有する多環式第2級アミン化合物、取り扱いが容易でかつ安価な塩化水素補足剤、安価なシラン化合物を用いて、を容易に、高い収量で、合成できる。立体的に非常に嵩高い多環式パーヒドロアミノ基を二個有するジ(多環式パーヒドロアミノ)ジメトキシシランなどのジ(多環式アミノ)ジアルコキシシランは、αオレフィン重合触媒成分として有用である。また、本発明においては、多環式パーヒドロアミノ基の異性体分率を制御して製造することができる。
【0025】
【実施例】反応生成物のGC分析は以下の条件で行った。
FID検出器、ガラスカラム:G-100、カラム温度:昇温100℃〜260℃、検出器温度:280℃、インジェクション温度:280℃、キャリアーガス:ヘリウム
【0026】実施例1滴下ロート及び錨型撹拌棒を備えた容量500ml のフラスコ内を窒素置換した後、n-ヘプタン200ml、ジメトキシジクロロシラン22ミリモルを入れた。滴下ロートからはn-ヘプタン20ml、パーヒドロイソキノリン(シス78モル%、トランス22モル%)66ミリモル、トリエチルアミン66ミリモルの混合溶液を20℃でフラスコ内にゆっくりと滴下した後、70℃にて8時間攪拌を行った。白色固体が生成し、10℃に冷却して反応溶液をガラスフィルター(G4)で濾過して固体を分離、さらに固体をn-ヘプタン20mlで3回洗浄した。洗浄液を加えたろ液を蒸留して、180℃/1mmHgでジ(パーヒドロイソキノリノ)ジメトキシシランを得た。ガスクロマトグラフィーにおける純度は98.5%であった。この時のSi基準での収率は89%であった。また、分離した白色固体は、5%NaOH水溶液10mlで分解し、トリエチルアミンを回収できた。
【0027】実施例2滴下ロート及び錨型撹拌棒を備えた容量500ml のフラスコ内を窒素置換した後、n-ヘプタン200ml、パーヒドロイソキノリン(シス78モル%、トランス22モル%)66ミリモル、トリエチルアミン66ミリモルを入れた。滴下ロートからはn-ヘプタン20ml、ジメトキシシラン22ミリモルの混合溶液を20℃でフラスコ内にゆっくりと滴下した後、70℃にて8時間攪拌を行った。白色固体が生成し、10℃に冷却して反応溶液をガラスフィルター(G4)で濾過して固体を分離、さらに固体をn-ヘプタン20mlで3回洗浄した。洗浄液を加えたろ液を蒸留して、180℃/1mmHgでジ(パーヒドロイソキノリノ)ジメトキシシランを得た。蒸留後、ガスクロマトグラフィーにおけるジ(パーヒドロイソキノリノ)ジメトキシシランの純度は98.0%であった。収率は91%であった。また、分離した白色固体は、5%NaOH水溶液10mlで分解し、トリエチルアミンを回収できた。
【0028】実施例3滴下ロート及び錨型撹拌棒を備えた容量500ml のフラスコ内を窒素置換した後、n-ヘプタン200ml、ジメトキシジクロロシラン22ミリモルを入れた。滴下ロートからはn-ヘプタン20ml、トリエチルアミン66ミリモルの混合溶液を20℃でフラスコ内にゆっくりと滴下した後、さらにn-ヘプタン20ml、パーヒドロイソキノリン(シス78モル%、トランス22モル%)66ミリモルの混合溶液を20℃でフラスコ内に滴下した後、70℃にて8時間攪拌を行った。白色固体が生成し、10℃に冷却して反応溶液をガラスフィルター(G4)で濾過して固体を分離、さらに固体をn-ヘプタン20mlで3 回洗浄した。洗浄液を加えたろ液を蒸留して、180℃/1mmHgでジ(パーヒドロイソキノリノ)ジメトキシシランを得た。ガスクロマトグラフィーにおける純度は97.9%であった。この時の収率は88%であった。また、分離した白色固体は、5%NaOH水溶液10mlで分解し、トリエチルアミンを回収できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】塩化水素補足剤の存在下、ジアルコキシジクロロシランと多環式第2級アミンとの反応によるジ(多環式アミノ)ジアルコキシシランの製造方法。

【公開番号】特開平11−130780
【公開日】平成11年(1999)5月18日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−300756
【出願日】平成9年(1997)10月31日
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)