説明

ビス(グリシジルオキシ)デカリン

【課題】新規なエポキシ樹脂用モノマー及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明は新規物質であるビス(グリシジルオキシ)デカリン及びその製造方法である。本発明のビス(グリシジルオキシ)デカリンを硬化(重合)させることにより、吸水性及び吸湿性が低く、機械的強度に優れ且つ光学特性に優れたエポキシ樹脂が得られる。従って、LED用封止材、電子部品の絶縁材料、接着剤などとして種々の分野で利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビス(グリシジルオキシ)デカリン及びその製造方法に関する。より詳細には、吸水性及び吸湿性が低く、機械的強度に優れ且つ光学特性に優れたエポキシ樹脂を製造することができるエポキシ樹脂用モノマーおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、耐熱性、電気特性、力学特性、接着性等に優れているため、各種の分野に使用されている。しかし、近年特に電気・電子分野においてはその発展に伴い、低吸水・低吸湿の硬化物を与えるエポキシ樹脂が求められている。また、LED等に使用される場合には良好な光学的特性が求められており、このような用途には脂環式化合物が適している。
更に半導体封止等電子部品分野に使用される場合は、製造工程において高温にさらされる割合が高まっており、高度な耐熱性が要求されている。
しかし、特許文献1に記載されている如く、これらをすべて満足するエポキシ樹脂は未だ得られていない。
【特許文献1】特開2005−179401公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような問題から、本発明者らは、吸水性及び吸湿性が低く、機械的強度に優れ且つ光学特性に優れたエポキシ樹脂が得られるエポキシ樹脂用モノマーについて鋭意検討したところ、新規物質であるビス(グリシジルオキシ)デカリンが所期の目的を達成できるモノマーであることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のエポキシ樹脂用モノマーは、下記式(1)で示されるビス(グリシジルオキシ)デカリンである。

また、本発明の製造方法は上記ビス(グリシジルオキシ)デカリンの製造方法であって、ジヒドロキシナフタレンとエピハロヒドリンを反応させてビス(グリシジルオキシ)ナフタレンを得、次いで水素化反応に付してビス(グリシジルオキシ)デカリンを得ることからなる。
【発明の効果】
【0005】
本発明のビス(グリシジルオキシ)デカリンを硬化(重合)させることにより、吸水性及び吸湿性が低く、機械的強度に優れ且つ光学特性に優れたエポキシ樹脂が得られる。
また、本発明の製造方法によれば、上記のビス(グリシジルオキシ)デカリンを簡便に且つ高純度で工業的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明は、前記式(1)で示される新規なビス(グリシジルオキシ)デカリンである。
当該ビス(グリシジルオキシ)デカリンは種々の方法で製造することができるが、本発明の製造方法で製造するのが好ましい。
本発明の製造方法を反応工程式で示すと以下のようになる。

【0007】
本発明の製造方法は、先ず、式(a)で示されるジヒドロキシナフタレンと、式(b)で示されるエピハロヒドリンを塩基存在下に反応させてグリシジル化することにより、式(c)で示されるビス(グリシジルオキシ)ナフタレンを得、次いで当該化合物を水素添加水素化し核を還元することにより、前記式(1)で示されるビス(グリシジルオキシ)デカリンを製造する。
【0008】
グリシジル化の際に副生するハロゲン化水素が光学用途向けのエポキシ樹脂の場合、悪影響を及ぼす可能性がある。上記工程においては、その影響を低減させるため、グリシジル化を行った後に水素添加水素化を行う。しかし、耐光性等の物性に問題がないならば、ジヒドロキシナフタレンを水素添加水素化しジヒドロキシデカリンを得た後、エピハロヒドリンによりグリシジル化しても良い。
【0009】
グリシジル化反応に関し、当該反応に使用される式(a)で示されるジヒドロキシナフタレンの具体的な化合物の例としては、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、1,8−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレンが挙げられる。
【0010】
式(b)で示されるエピハロヒドリンにおける置換基Xとしては、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられるが、コスト的な理由からエピクロルヒドリンを使用するのが好ましい。
上記エピハロヒドリンの使用量については、ジヒドロキシナフタレンに対して、2.0から20.0モル比で、より好ましくは2.0から10.0モル比である。2.0モル比よりも少ないと未反応が増加し、20.0モル比よりも多くすると収率の向上に優位性はなく、経済的に不利なだけである。
【0011】
塩基の種類としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水素添加水素化ナトリウム、水素添加水素化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリンなどが挙げられ、その使用量はジヒドロキシナフタレンに対して、2.0から10.0モル比で、好ましくは2.5から3.5モル比である。
【0012】
反応温度については0から130℃の範囲で、好ましくは100から125℃である。
また必要に応じて相間移動触媒を添加しても良く、具体例としてはテトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−プロピルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−プロピルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムクロライド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムハイドロジェンサルフェート、トリラウリルメチルアンモニウムクロライド、トリメチルフェニルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムハイドロオキサイド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムブロマイドなどが挙げられ、その使用量はジヒドロキシナフタレンに対して、0.01から0.05モル比である。
【0013】
反応後は水を加え、有機層と水層に分液し、有機層を濃縮により未反応のエピハロヒドリンを留去し、非水系溶媒を加え溶解させる。非水系溶媒としては、濃縮液を溶解させ、水と分液する溶媒であれば特に限定はないが、具体例的にはトルエン、キシレン、クロルベンゼン、ジクロロベンゼン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテルなどが挙げられる。その後、水洗により無機系の不純分を除去した後、溶媒を留去し、粗製品のビス(グリシジルオキシ)ナフタレンを得る。
【0014】
粗製品のビス(グリシジルオキシ)ナフタレンを溶剤による再結晶により精製し、精製品のビス(グリシジルオキシ)ナフタレンを得る。溶剤の具体例はメタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、iso−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、トルエン、キシレン、クロルベンゼン、ジクロロベンゼン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、テトラヒドロフランなどから選ばれる1種または2種以上の組み合わせで使用することができ、その使用量はビス(グリシジルオキシ)ナフタレンに対して、500から2000g/モルが好ましい。
【0015】
次いで、上記で得られたビス(グリシジルオキシ)ナフタレンを水素化し核を還元することにより、本発明のビス(グリシジルオキシ)デカリンが得られる。
水素添加水素化反応に用いられる触媒としては、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、イリジウム又はレニウム或いはそれら貴金属を含む触媒が用いられ、特に上記貴金属が担体に担持さている触媒が好ましい。
【0016】
担体としては、珪藻土、軽石、活性炭、グラファイト、シリカゲル、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、ゼオライト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等が挙げられ、これらから1種または2種以上の組み合わせで使用することできる。担体への担持量は触媒全量に基づき0.5から30重量%が好ましく、更に0.5から10重量%がより好ましい。
【0017】
水素添加水素化反応に用いられる触媒の使用量は、ビス(グリシジルオキシ)ナフタレンに対して、金属分を基準として0.01から20重量%程度、好ましくは0.01から0.5重量%の範囲が反応速度と経済性の点から好ましい。
【0018】
水素添加水素化反応に使用される溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、iso−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノールなどのアルコール類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、ジオキサンなどなどのエーテル類、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル類から選ばれる1種または2種以上の組み合わせで使用することができる。またこれらの溶媒は水を含有していてもよく、適宜水を添加して使用することも可能である。
【0019】
溶媒使用量についてはビス(グリシジルオキシ)ナフタレンに対して、10から1000重量%の範囲、好ましくは20から500重量%の範囲が好ましい。
【0020】
反応圧力については、0.1から30MPa、好ましくは0.1から15MPaの範囲である。0.1MPa未満では反応が長時間になり、15MPaを超えると反応速度は上がるが、顕著な優位性は見られない。
【0021】
反応温度については30から300℃、好ましくは50から150℃の範囲である。50℃未満では反応の進行が遅く、150℃を超える場合は副反応や分解反応が起こり好ましくない。
【0022】
反応終了後は、ろ過や遠心分離などの通常の操作により触媒を除去し、濃縮により溶媒を留去後、蒸留によって目的のビス(グリシジルオキシ)デカリンを得る。
かくして得られた本発明のビス(グリシジルオキシ)デカリンは、式(1)で示される構造から分かるように、置換基の位置による異性体の他に、環構造に基づく異性体が存在するが、これらの異性体の全ては本発明の範囲に包含される。
【0023】
本発明のビス(グリシジルオキシ)デカリンは、常法に準じて、硬化剤を用いて硬化させることによりエポキシ樹脂になり、LED用封止材、電子部品の絶縁材料、接着剤などとして種々の分野で利用することができる。その際、必要に応じて、溶剤、着色剤、充填剤などの慣用の材料を添加してもよい。
更に、上記硬化に際して、本発明のビス(グリシジルオキシ)デカリンと、1種又は2種以上の他のエポキシ樹脂用モノマーを併用して共重合体としてもよい。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明する。但し本発明はこれらの記載の範囲に限定されるものではない。
【0025】
実施例1
2,7−ジヒドロキシナフタレン112.7g(0.7000mol)、エピクロルヒドリン654.0g(10.0モル比)、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド2.3g(0.01モル比)を仕込み、115℃まで昇温後2hr反応する。室温まで冷却後40%NaOH217g(3.1モル比)を滴下し、40℃で3hr反応したのち、水で洗浄する。洗浄した有機層からエピクロルヒドリンを減圧下にて留去した後、メチルイソブチルケトン280g、3%NaOH140gを仕込み、70℃まで昇温後70±2℃で2hr反応する。反応後、MIBK層を分取する。
この有機層から溶媒を留去し、粗製品の2,7−ビス(グリシジルオキシ)ナフタレンを194.1g得た。
これをメタノールとクロロホルムの混合溶媒にて再結晶を行い、精製品の2,7−ビス(グリシジルオキシ)ナフタレンを133.2g得た(act.収率69.9%、淡黄色粉末)。
5リットルのSUS316製オートクレーブ(攪拌機付き)に得られた2,7−ビス(グリシジルオキシ)ナフタレン240g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート2400g及び5重量%Rh/カーボン粉末触媒4.8gを仕込み、系内を窒素ガスで3回置換し次いで水素ガスで3回置換した。水素圧を5MPaとし攪拌しながら70℃まで昇温した。達温後水素圧を8MPaまで昇圧し水素圧を維持しながら水素吸収が終了するまで9時間攪拌した。水素吸収終了後反応液をオートクレーブから抜き出し、触媒を加圧ろ過装置(フィルターは5Cろ紙)でろ過分離して褐色のろ過液を得た。このろ過反応液をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、2,7−ビス(グリシジルオキシ)ナフタレン転化率100%、2,7−ビス(グリシジルオキシ)デカリン選択率93.13%であった。ろ過反応液をロータリーエバポレーターで減圧下に濃縮した後蒸留(1torr、177℃)によって2,7−ビス(グリシジルオキシ)デカリン(ガスクロマトグラフィー純度99.5%, 立体異性体混合物)の無色透明液体が190g得られた。
NMR(1H, CDCl3)
1.58, 1.60 ,1.63, 1.65, 1.68, 1.721.57-1.73(12H), 1.82-1.91(2H)1.84, 2.57-2.61(2H)2.60, 2.76-2.79(2H)2.78, 3.09-3.13(2H)3.11,
3.36-3.45(4H)3.403.46, 3.60-3.72(2H)3.70 (σppm)
IR(KBr錠剤法) 624, 761, 847, 909, 1096, 1339, 1444, 2861, 2926 (cm-1)
【0026】
実施例2
出発物質を1,5-ジヒドロキシナフタレンとして実施例1と同様の方法で1,5-ビス(グリシジルオキシ)デカヒドロナフタレン(立体異性体混合物)を得た。
NMR(1H, CDCl3)
1.30-1.35(2H)1.34, 1.40-1.45(2H)1.44, 1.46-1.49(2H)1.48, 1.73-1.76(2H)1.75,1.80-1.81(2H) 1.83-1.84(2H)1.84, 1.95-1.97(2H)1.95, 2.59-2.61(2H)2.60, 2.78-2.80(2H)2.79, 3.11-3.14(2H)3.13, 3.37, 3.36-3.38(4H)3.47, 3.69, 3.66-3.72(2H)3.79 (σppm)
IR(KBr錠剤法) 643, 762, 848, 911, 1092, 1333, 1448, 2868, 2932 (cm-1)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式で示されるビス(グリシジルオキシ)デカリン。

【請求項2】
ジヒドロキシナフタレンとエピハロヒドリンを反応させてビス(グリシジルオキシ)ナフタレンを得、次いで水素化反応に付してビス(グリシジルオキシ)デカリンを得ることを特徴とするビス(グリシジルオキシ)デカリンの製造方法。

【公開番号】特開2007−91841(P2007−91841A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281568(P2005−281568)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000107561)スガイ化学工業株式会社 (5)
【出願人】(000158301)岩谷瓦斯株式会社 (56)
【Fターム(参考)】