説明

フェノール樹脂複合材料及びその製造方法。

【課題】 フェノール樹脂中にフィラーが均一に分散された、高性能、高機能性のフェノール樹脂複合材料を低コストで製造する方法を提供する。
【解決手段】 フェノール樹脂原料とともにフィラーを反応釜に投入し、攪拌しながら加熱して樹脂の重合反応を進めることにより、重合反応とともにフィラーが樹脂中に分散されることによって、フィラーが樹脂中に均一に分散していることを特徴とするフェノール樹脂複合材料。フェノール樹脂原料とともにフィラーを反応釜に投入し、攪拌しながら加熱して樹脂の重合反応を進めることにより、重合反応とともにフィラーが樹脂中に分散されることによって、フィラーが樹脂中に均一に分散している粘性液体を冷却後、粉砕して得られたことを特徴とするフェノール樹脂複合材料。並びにその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラーが均一に分散されたフェノール樹脂、詳細にはフェノール樹脂複合材料に係り、特に摩擦材、成形材料、構造用部材、構造用接着剤などに応用することができる、高性能、高機能性のフェノール樹脂複合材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂の高性能化、高機能化のために各種のフィラーを混合・分散する場合、従来技術としては、溶融したフェノール樹脂にフィラーを加え混練して分散させる溶融混練法や、フェノール樹脂粉末とフィラーを各種ミキサーで溶剤、粘結剤を使わずに混合する乾式混合法、溶剤や粘結剤を加えて混合する湿式混合法、半湿式混合法、造粒法などの各種の方法が用いられている。フェノール樹脂に分散し易いフィラーとして層状の粘土鉱物を分散させたフェノール樹脂複合材料が提案されている(特許文献1)。また、前記溶融混練法において、フェノール樹脂にフィラーをよく分散させるために、ガラス繊維などのフィラーと異なる有機化層状粘土をフェノール樹脂に均一に分散させるようにしたフェノール樹脂複合材料も提案されている(特許文献2)。
【特許文献1】特許第3014674号公報
【特許文献2】特開2002−212386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の技術によってフェノール樹脂の高性能化、高機能化を行う場合には、フィラーの種類、形状、大きさ、表面状態などによっては、樹脂中の分散状態が悪く、添加効果が十分に発揮されないことがある。また、従来技術はフェノール樹脂の合成工程と、得られたフェノール樹脂とフィラーを混合する工程とにプロセスが分かれている。
そのため、工程数が多くなり、時間の手間が掛かりコスト高になるばかりでなく、高粘度の樹脂に対するフィラーの濡れが悪く、分散性が悪くてフィラーが均一に分散し難く、低性能のフェノール樹脂複合材料しか得られないという問題点があった。
【0004】
本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたものであり、フェノール樹脂中にフィラーが均一に分散された、高性能、高機能性のフェノール樹脂複合材料を低コストで製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記の目的を達成するために鋭意研究を続け、フェノール樹脂の合成工程とフィラーの分散工程を同時に行えば、フィラーが均一に分散した高性能のフェノール樹脂複合材料を一工程で製造できることを見出し、かかる知見に基づいて本発明を達成することができた。
【0006】
すなわち、本発明は上記の課題を下記の構成により解決するものである。
(1)フェノール樹脂原料とともにフィラーを反応釜に投入し、攪拌しながら加熱して樹脂の重合反応を進めることにより、重合反応とともにフィラーの樹脂中への分散を行ってなることを特徴とするフェノール樹脂複合材料。
(2)フェノール樹脂原料とともにフィラーを反応釜に投入し、攪拌しながら加熱して樹脂の重合反応を進めることにより、重合反応とともにフィラーの樹脂中への分散を行って得られた樹脂の粘性液体を冷却後、粉砕してなることを特徴とするフェノール樹脂複合材料。
(3)反応釜にフェノール樹脂の原料とフィラーとを投入し、撹拌しながら加熱して樹脂の重合反応を進め、得られた初期重合物からなる粘性液体を冷却後粉砕することを特徴とするフェノール樹脂複合材料の製造方法。
(4)前記フェノール樹脂が、ノボラック型樹脂であることを特徴とする前記(3)記載のフェノール樹脂複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、フェノール樹脂の合成工程とフィラーの混合工程が同一工程となるため、工程数が少なく、かつ短時間で均一にフィラーの分散が行えるので、大幅にコストを低減することができる。これは、フェノールを低分子の状態でフィラーと混合するので、フェノールの分子量が低いことから液化時の表面張力が小さいため、フィラーがよく濡れ、分散性がよいからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではない。
図1は、本発明のフェノール樹脂複合材料の製造方法を実施するための反応釜の要部断面図である。
【0009】
図1において、撹拌機3により駆動される回転翼4を備えた反応釜1の反応室2の中へ、フェノール樹脂の原料成分とフィラーとからなる原材料6を同時に投入し、回転翼4を撹拌機3により回転させるとともに、反応釜1の底部に設置した加温装置5により加熱し、フェノール樹脂の合成とフィラーの樹脂中への分散を同時に進行させる。
【0010】
すなわち、従来の一般的なフェノール樹脂の合成工程は、樹脂原材料であるフェノールとホルムアルデヒドと触媒とを反応釜中で撹拌しながら加温することで重合反応を進行させる。そして、樹脂の重合工程とフィラーの分散工程は、別工程となっている。
これに対して、本発明においては、フェノール樹脂合成工程において、反応釜に樹脂原料とともにフィラーを投入することで、重合反応とともにフィラーを樹脂中に分散させる工程を同時に一工程で行う。すなわち、反応釜で撹拌しながら重合反応が進行するため、フィラーの分散状態が良好なフェノール樹脂が合成される。フィラーの分散性・接着性をさらに改良するために、表面改質剤(界面活性剤、カップリング剤など)を同時に添加しても良い。
【0011】
本発明において反応に使用するフェノール樹脂の原料としては、フェノールとホルマリンでも良いが、ごく初期状態に重合したものであって良い。また、フェノールとしては、フェノールだけではなく、フェノール誘導体でもよい。
ここで、本発明において得るフェノール樹脂は、フェノール誘導体とホルマリンを付加縮合してフェノール樹脂を作るときに、中間反応物として得ている、いわゆる初期縮合物であるものが好ましい。具体的には、初期反応の触媒としてシュウ酸又は塩酸などの酸性触媒を用いて得られる、フェノール核を平均5〜6個含む鎖状の分子からなる混合物である、可溶可融性のいわゆるノボラック型樹脂を用いることが好ましい。この中間反応物であるフェノール樹脂を用いて最終製品を製造する際には、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを加えて加熱すると、硬化剤が熱分解してできたホルムアルデヒドが架橋剤となって、三次元構造を形成して硬化する。それゆえ、ノボラックを二段法フェノール樹脂という。
本発明は、この二段法フェノール樹脂の初期反応で、フェノール核を平均5〜6個含む、可溶可融状態では分子量が低いことから、液状での表面張力が小さいため、フィラーがよく濡れ、分散性が良く、フィラーが均一に分散したフェノール樹脂複合体が容易に得られる現象を見出して巧みに利用したものである。
【0012】
本発明において、フェノール樹脂の合成とフィラーの樹脂中への分散を同時に進行させる反応では、最終的に得るフィラーが均一に分散したフェノール樹脂複合材料としては、最終的に重合が完了した段階までは進行させずに、中間段階で終了させるようにする。これは、フェノール樹脂の用途としては、その粉末を硬化剤と混合するなどして最終的な用途の型などに充填し、加熱により硬化させて所望の製品を得ることに使用されることが殆どであるからである。その反応を終了させる段階としては、フェノール樹脂の用途によって選択される。反応の終了をその粘度により決めることもできる。フェノール樹脂の構造としては、レゾール型、ノボラック型の両方があるが、本発明で行う製造方法では、最終的に硬化ができるように、ノボラック型であることが好ましい。レゾール型であると、最終的な硬化まで反応が進むので、粘性液体の段階で冷却することが困難である。最終的な硬化まで反応が進んだ場合には、生成物を粉砕して骨材などに使用することもできるが、粉砕に非常にコストがかかる。
【0013】
本発明で混合するフィラーの種類としては、従来フェノール樹脂を強化するために添加されている各種のフィラーが用いられ、その種類は無機質材料でも有機質材料でもよい。たとえば、ガラス繊維、炭酸カルシウム、ベントナイト、木粉、綿繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、カーボン繊維などが挙げられる。フィラーの添加量としては、その用途によって変るが、フェノール樹脂複合材料全体を100質量%としたとき、0.1〜50質量%とすることが好適であるが、フィラーの量が多くなると、反応中の攪拌が困難となり、均一な分散をすることが難しくなるので、フィラーの添加量が多い複合材料が必要とされる場合には、本発明により製造したフェノール樹脂複合材料に対し、さらに不足量のフィラーを添加して従来の混練機を使用して混合することにより目的とする含有量を含むフェノール樹脂複合材料を得ることができる。フィラーの添加量が少ない方が分散が均一に行われるので、その量は0.1〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%がさらに好ましい。
なお、本発明のフェノール樹脂複合材料は、ゴムやカシュー油、シリコン等で変性されたものでもよい。
【実施例】
【0014】
以下に、本発明を実施例により更に詳細かつ具体的に説明するが、実施例は本発明のより良い理解を助けるためにだけ提供するものであり、本発明はこの実施例により何等制限されるものではない。
【0015】
[フェノール樹脂複合材料の作製]
実施例1
容量1000ミリリットルの4つ口フラスコにフェノール500g、ホルムアルデヒド324g、シュウ酸二水和物1.8gと消泡剤として金属石鹸0.2ミリリットル、フィラーとして硫酸バリウム(平均粒径4μm)21gを投入し、撹拌しながら還流下(100℃)で8時間重合反応を行った。重合反応の後、減圧蒸留により水と未反応物の除去を行い、得られた粘性液体をバットに移して自然冷却し、フィラーが分散されたフェノール樹脂固形物を得た。得られた固形物を粉砕機で平均粒径30μmに粉砕した。
【0016】
比較例1
容量1000ミリリットルの4つ口フラスコにフェノール500g、ホルムアルデヒド324g、シュウ酸二水和物1.8gと消泡剤としての金属石鹸0.2ミリリットルを投入し、撹拌しながら還流下(100℃)で8時間重合反応を行った。重合反応の後、減圧蒸留により水と未反応物の除去を行い、得られた粘性液体をバットに移して自然冷却し、フェノール樹脂固形物を得た。
得られたフェノール樹脂400gと硫酸バリウム(平均粒径4μm)21gを加熱装置付きニーダに投入し、150℃で30分間溶融混練した。混練後、得られた粘性液体をバットに移して自然冷却し、フィラーを混合したフェノール樹脂固形物を得た。得られた樹脂固形物を粉砕機で平均粒径30μmに粉砕した。
【0017】
比較例2
容量1000ミリリットルの4つ口フラスコにフェノール500g、ホルムアルデヒド324g、シュウ酸二水和物1.8gと消泡剤としての金属石鹸0.2ミリリットルを投入し、撹拌しながら還流下(100℃)で8時間重合反応を行った。重合反応の後、減圧蒸留により水と未反応物の除去を行い、得られた粘性液体をバットに移して自然冷却し、フェノール樹脂固形物を得た。得られた固形物を粉砕機で平均粒径30μmに粉砕した。
上記のフェノール樹脂粉末400gと硫酸バリウム(平均粒径4μm)21gをミキサーに投入して、20秒混合してから20秒停止する動作を15回繰り返しフィラーを混合した粉末を得た。
【0018】
[フィラー分散性の評価]
1)評価用試料の作製
前記の方法で作製した各樹脂粉末0.5gを秤量採取し、直径10mmのペレットに常温成形した。得られたペレットを150℃に加熱した鋼板で挟み5MPaで4分間保持後、室温まで冷却して薄膜状の樹脂成形物を作製した。
【0019】
2)観察・評価
樹脂成形物を顕微鏡で観察し、観察画像が4μm(面積12.56μm)以上の硫酸バリウムの凝集体の面積を測定し、以下の式により分散性パラメータを算出して評価した。
分散性パラメータ=(凝集体の面積の合計/画像の視野面積)×100
【0020】
[試験結果]
分散性の評価結果を第1表に示す。分散性パラメータの値が小さいほど分散性は良好である。
実施例1は比較例1〜2よりも分散性パラメータが小さく、フィラーの分散性が良好であった。
【0021】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明のフェノール樹脂複合材料は、フェノール樹脂中にフィラーが分散された高性能、高機能性の複合材料であるから、摩擦材を初め成形材料、構造用部材、構造用接着剤など高機能性が求められる分野に広い用途を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のフェノール樹脂複合材料の製造に使用する反応釜の断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 反応釜
2 反応室
3 撹拌機
4 回転翼
5 加温装置
6 原材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール樹脂原料とともにフィラーを反応釜に投入し、攪拌しながら加熱して樹脂の重合反応を進めることにより、重合反応とともにフィラーの樹脂中への分散を行ってなることを特徴とするフェノール樹脂複合材料。
【請求項2】
フェノール樹脂原料とともにフィラーを反応釜に投入し、攪拌しながら加熱して樹脂の重合反応を進めることにより、重合反応とともにフィラーの樹脂中への分散を行って得られた樹脂の粘性液体を冷却後、粉砕してなることを特徴とするフェノール樹脂複合材料。
【請求項3】
反応釜にフェノール樹脂の原料とフィラーとを投入し、撹拌しながら加熱して樹脂の重合反応を進め、得られた初期重合物からなる粘性液体を冷却後粉砕することを特徴とするフェノール樹脂複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記フェノール樹脂が、ノボラック型樹脂であることを特徴とする請求項3記載のフェノール樹脂複合材料の製造方法。

【図1】
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