説明

フェージングシミュレータ、移動体通信端末試験システム、及びフェージング処理方法

【課題】様々な条件に応じてフェージング処理が施された信号のレベルを所定の範囲内に収めることを目的とする。
【解決手段】移動体通信端末の試験用のベースバンド信号である入力信号を受けて、該入力信号にフェージング処理を施し、フェージング信号として出力するフェージング処理部(22)と、前記フェージング信号のレベルを測定する第1の測定部(23)と、前記第1の測定部による測定結果に基づき前記フェージング信号のクレストファクタを算出し、算出された当該クレストファクタと、前記入力信号のクレストファクタとの差を算出する演算部(24)と、前記差に基づく調整量により前記フェージング信号のレベルを変更するレベル調整部(25)と、を備えたことを特徴とするフェージングシミュレータである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体通信端末や基地局を含む無線通信機器の間の空間伝搬によって生じるフェージングを模擬するフェージング処理の技術に関し、特にフェージング処理後の信号のレベルを調整するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信機器の間で生じるフェージングを模擬的に与えた信号(以下、「フェージング信号」と呼ぶ場合がある)を生成するフェージングシミュレータがある。無線通信用の信号は、一般的にはベースバンド帯の所望の信号で周波数変換された搬送波により送信される。フェージングを模擬する方法としては、ベースバンド信号にフェージング処理を施す方法と、搬送波にフェージング処理を施す方法とがある。近年の信号の高周波化及び高帯域化に伴い、信号をデジタルで制御可能であるという点から、ベースバンド信号にフェージング処理を施す方法がしばしば用いられている。このようなフェージングシミュレータの一例が、特許文献1に開示されている。
【0003】
ところで、異なる伝搬ルートを経て互いに干渉し合う複数の電波で通信を行うマルチパスを模擬してフェージング処理を行う場合、フェージング処理が施された信号の振幅の最大値は、元の信号の振幅よりも大きくなることがある。
【0004】
フェージング処理が施された信号は、D/A変換処理によりアナログ信号に変換されてから、あらかじめ決められた通信方式に従い周波数変換されて試験対象の通信端末に送信される。
【0005】
したがって、このD/A変換器には、元の信号より桁数の多いダイナミックレンジが必要とされる。しかしながら、データのサンプリングレートが高速化してきているにもかかわらず、その高速なサンプリングレート(クロックレート)に対応可能なD/A変換器は桁数が制限されており、現状では10数ビットが限度となる。
【0006】
特に、フェージング信号(即ち、フェージング処理されたベースバンド信号)の実効値とピーク値の比(クレストファクタ)は、元のベースバンド信号よりも大きくなる。そのため、このようなフェージングシミュレータでは、フェージング処理により得られたフェージング信号のピーク値が、D/A変換器の桁数で決まる最大値を越える場合に、D/A変換器での飽和を防止するためのクリップ処理を行う場合がある。
【0007】
しかしながら、クリップ処理が行われると、信号の波形に非線形の歪みが発生し、測定の精度が低下する場合がある。そのため、従来のフェージングシミュレータでは、フェージング信号のレベルを、クリップの発生を回避可能なレベルに減衰させて出力するなどしていた。このとき、従来のフェージングシミュレータは、フェージングにより増大する信号のクレストファクタの理論値を求め、この理論値に基づきフェージング信号を減衰させるための調整量を決定していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−98650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方で、従来のフェージングシミュレータにおけるこの理論値は、フェージング信号が取り得るクレストファクタの最大値、即ち、全ての伝搬ルートにおける信号のピークが重畳した場合を想定した値となっている。ゆえに、フェージング処理の条件によっては、フェージング信号のクレストファクタは、この理論値に満たない場合がある。しかしながら、従来のフェージングシミュレータは、このような場合においても、クレストファクタがこの理論値に相当するものとしてフェージング信号を減衰させるための調整量を決定していた。そのため、フェージング信号の出力レベルが低下し、この信号をD/A変換して得られるアナログ信号のS/Nの低下に繋がっていた。
【0010】
この発明は、様々な条件に応じてフェージング処理が施された信号のレベルを所定の範囲内に収めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、移動体通信端末の試験用のベースバンド信号である入力信号を受けて、該入力信号にフェージング処理を施し、フェージング信号として出力するフェージング処理部(22)と、前記フェージング信号のレベルを測定する第1の測定部(23)と、前記第1の測定部による測定結果に基づき前記フェージング信号のクレストファクタを算出し、算出された当該クレストファクタと、前記入力信号のクレストファクタとの差を算出する演算部(24)と、前記差に基づく調整量により前記フェージング信号のレベルを変更するレベル調整部(25)と、を備えたことを特徴とするフェージングシミュレータである。
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のフェージングシミュレータであって、前記入力信号のレベルを測定する第2の測定部(21)を備え、前記演算部は、前記第2の測定部による測定結果に基づき前記入力信号のクレストファクタを算出することを特徴とする。
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のフェージングシミュレータであって、前記演算部は、前記差を前記調整量として前記レベル調整部に出力することを特徴とする。
また、請求項4に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のフェージングシミュレータであって、前記演算部は、前記フェージング信号のクレストファクタと前記入力信号のクレストファクタとの差から、前記入力信号の予め決められた許容レベルと前記入力信号のレベルのピーク値との差を減算した値を前記調整量として前記レベル調整部に出力することを特徴とする。
また、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のフェージングシミュレータであって、前記調整量を表示する表示部と、操作部と、を備え、前記レベル調整部は、前記調整量に代えて、前記操作部から入力された調整量により前記フェージング信号のレベルを変更することを特徴とする。
また、請求項6に記載の発明は、試験用のデジタルのベースバンド信号である入力信号を生成する信号発生部(11)と、前記入力信号を受けて所望のフェージング処理を施し、フェージング信号として出力するフェージングシミュレータ(20)と、前記フェージングシミュレータから出力された前記フェージング信号をアナログ信号に変換するD/A変換器(12)と、前記D/A変換器からの出力信号を、所定の通信方式に従い周波数変換して試験対象の移動体通信端末に出力する周波数変換部(13)と、を備えた移動体通信端末試験システムにおいて、前記フェージングシミュレータは、前記入力信号を受けて、該入力信号にフェージング処理を施し、フェージング信号として出力するフェージング処理部(22)と、前記フェージング信号のレベルを測定する第1の測定部(23)と、前記第1の測定部による測定結果に基づき前記フェージング信号のクレストファクタを算出し、算出された当該クレストファクタと、前記入力信号のクレストファクタとの差を算出する演算部(24)と、前記差に基づく調整量により前記フェージング信号のレベルを変更するレベル調整部(25)と、を備え、前記レベルが変更された前記フェージング信号を出力することを特徴とする移動体通信端末試験システムである。
また、請求項7に記載の発明は、移動体通信端末の試験用のベースバンド信号である入力信号に所望のフェージング処理を施して出力させるフェージング処理方法であって、入力信号を受けて、該入力信号にフェージング処理を施し、フェージング信号として出力するフェージング処理ステップと、前記フェージング信号のレベルを測定する測定ステップと、前記第1の測定部による測定結果に基づき前記フェージング信号のクレストファクタを算出し、算出された該クレストファクタと、前記入力信号のクレストファクタとの差を算出する算出ステップと、前記差に基づく調整量により前記フェージング信号のレベルを変更するレベル調整ステップと、を備えたことを特徴とするフェージング処理方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るフェージングシミュレータは、フェージング処理の前後における実際のベースバンド信号のレベルに基づき、フェージング処理後の信号のレベルを所定の範囲内に収めることが可能である。そのため、フェージング処理により増大する信号のレベルに応じて、フェージング信号のレベルを減衰させることが可能となる。また、フェージング信号の上位レベルを所定範囲の上位レベルとあわせて、フェージング信号を減衰させる。そのため、この所定の範囲を後段に接続されるD/A変換器の入力側のダイナミックレンジにあわせることで信号の飽和を避け、D/A変換後の出力として、リニアで、かつS/Nの高いアナログのフェージング信号を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態の処理の流れを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について図1を参照しながら説明する。図1に示す移動体通信端末試験システム1は、本実施形態に係るフェージングシミュレータが適用されている。
【0015】
移動体通信端末試験システム1は、一般的には、所定の通信方式に基づきベースバンド信号が周波数変換された搬送波を、疑似基地局装置の送信部から被試験端末に送信して被試験端末の受信特性を試験する。また、移動体通信端末試験システム1は、被試験端末から送信された信号を、疑似基地局装置の受信部で受信して被試験端末の送信特性を試験する。フェージングシミュレータは、疑似基地局装置の送信部に接続され、この送信部から送信される信号に対してフェージング処理を施す。以降では、被試験端末に搬送波を送信するための構成に着目して説明する。
【0016】
移動体通信端末試験システム1は、擬似基地局装置の送信部10と、それに外付けするフェージングシミュレータ20とで構成されている。送信部10は、被試験端末2と無線または有線(試験のため、同軸ケーブルで接続して搬送波を伝搬させる)による通信が可能に構成されている。なお、送信部10とフェージングシミュレータ20は、同一筐体内に一体的に設けられていてもよい。
【0017】
送信部10は、ベースバンド信号発生部11と、D/A変換器12と、周波数変換部13とを含んで構成されている。フェージングシミュレータ20は、ベースバンド信号発生部11とD/A変換器12との間に接続される。フェージングシミュレータ20は、処理前レベル測定部21と、フェージング処理部22と、処理後レベル測定部23と、演算部24と、レベル調整部25と、クリップ処理部26と、表示部27と、操作部28とを含んで構成される。以降では、送信部10及びフェージングシミュレータ20の動作について、信号の流れに沿って説明する。
【0018】
ベースバンド信号発生部11は、試験用のベースバンド信号として、L桁のデジタルデータで表されるベースバンド信号Daを所定のビットレートで生成する。このとき、例えば、L=N=14ビットとする。なお、Nは後述するD/A変換器12に入力されるフェージング信号Ddのデータの桁数を示している。ベースバンド信号発生部11は、ベースバンド信号Daを、フェージングシミュレータ20の処理前レベル測定部21及びフェージング処理部22に出力する。なお、送信部10にフェージングシミュレータ20を接続しない場合(即ち、上記したように一般的な疑似基地局として動作する場合)、ベースバンド信号発生部11は、ベースバンド信号DaをD/A変換器12に出力する。なお、このベースバンド信号Daが「入力信号」に相当する。
【0019】
なお、ここでは説明を簡単にするために、L=Nとし、ベースバンド信号Daを1以上のN桁の単成分データとして扱うが、ベースバンド信号Daは、正負を含むN桁の単成分データあるいは、直交成分I、Qの各N桁のデータであってもよい。また、フェージングシミュレータ20に入力されるベースバンド信号Daの桁数Lは、必ずしもD/A変換器12に入力されるフェージング信号Ddの桁数Nに等しい必要はない。ただし、フェージングシミュレータ20を介さずに、ベースバンド信号発生部11からD/A変換器12へベースバンド信号を直接入力させる場合にはL=Nとなる。
【0020】
処理前レベル測定部21は、ベースバンド信号Daをベースバンド信号発生部11から受ける。処理前レベル測定部21は、ベースバンド信号Daのレベル、具体的には、ベースバンド信号Daのピーク値Pa及び実効値(RMS値)Raを測定する。処理前レベル測定部21は、ピーク値Pa及び実効値Raの測定結果を演算部24に出力する。演算部24については後述する。
【0021】
フェージング処理部22は、ベースバンド信号Daをベースバンド信号発生部11から受ける。フェージング処理部22は、あらかじめ設定されたフェージング条件に基づきベースバンド信号Daにフェージング処理を施すことで、M桁のフェージング信号Dbを生成する。
【0022】
なお、フェージング処理の一例としては、ベースバンド信号Daに対して、マルチパスを構成する経路ごとに異なる遅延処理や減衰処理を施す。また、フェージングの条件に応じて、信号の散乱を模擬するために、ベースバンド信号Daにノイズを付加してもよい。この経路ごとに異なるフェージング処理が施されたベースバンド信号Daが加算合成されてフェージング信号Dbが生成される。このフェージング信号Dbの生成の際に、その実効値が元の桁数(L=N)の範囲内に十分入るように全体の利得や各パスの減衰があらかじめ設定されているが、パスが増えた分、フェージング信号Dbのレベルのダイナミックレンジは大きくなる。そのため、桁数(L=N)の範囲に入らない成分も生じるので、フェージング処理部22で得られるフェージング信号Dbの数桁には余裕が与えられている(例えばL<M=16ビット)。
【0023】
フェージング処理部22は、生成されたフェージング信号Dbを処理後レベル測定部23及びレベル調整部25に出力する。
【0024】
処理後レベル測定部23は、フェージング信号Dbをフェージング処理部22から受ける。処理後レベル測定部23は、フェージング信号Dbのレベル、具体的には、フェージング信号Dbのピーク値Pb及び実効値Rbを測定する。処理後レベル測定部23は、ピーク値Pb及び実効値Rbの測定結果を演算部24に出力する。
【0025】
なお、処理前レベル測定部21及び処理後レベル測定部23が、レベルを測定する測定期間は、実効値Ra及びRbが安定する期間が望ましい。この測定期間は、以下に示す[a]〜[c]のいずれかにより決定される。
[a]フェージングシミュレータ20のサンプリング信号の周期に基づく値。
[b]フェージングシミュレータ20に設定されたフェージング条件に基づく値。
[c]通信の条件に基づく値。
【0026】
[a]の場合には、フェージングシミュレータ20のサンプリング信号の周期の整数倍(例えば5倍)の期間を測定期間とする。また、[b]の場合には、例えば、フェージング条件として設定されたドップラ周波数の整数倍(例えば10倍)の期間を測定期間とする。また、[c]の場合には、例えば、フレーム長に相当する期間を測定期間とする。また、[a]〜[c]のいずれかの期間のみを算出して測定期間としてもよいし、[a]〜[c]それぞれの期間を算出し、その中から最も長い期間を測定期間としてもよい。処理前レベル測定部21及び処理後レベル測定部23は、この測定期間中におけるピーク値Pa及びPbと、実効値Ra及びRbとを測定する。
【0027】
演算部24は、ベースバンド信号Daのピーク値Pa及び実効値Raを処理前レベル測定部21から受ける。演算部24は、ピーク値Pa及び実効値Raから、ベースバンド信号DaのクレストファクタCFaを算出する。クレストファクタCFaは、次式により与えられる。なお、CFa、Pa、及びRaは対数値を示している。
CFa=Pa−Ra
【0028】
また、演算部24は、フェージング信号Dbのピーク値Pb及び実効値Rbを処理後レベル測定部23から受ける。演算部24は、ピーク値Pb及び実効値Rbから、フェージング信号DbのクレストファクタCFbを算出する。クレストファクタCFbは、次式により与えられる。なお、CFb、Pb、及びRbは対数値を示している。
CFb=Pb−Rb
【0029】
演算部24は、算出されたクレストファクタCFb及びCFaを基に、フェージング信号Dbのレベルを調整するための調整量Kを算出する。調整量Kは、次式により与えられる。なお、K、CFa、及びCFbは対数値を示している。
K=CFb−CFa
【0030】
演算部24は、算出された調整量Kをレベル調整部25に出力する。
【0031】
レベル調整部25は、フェージング信号Dbをフェージング処理部22から受ける。また、レベル調整部25は、調整量Kを演算部24から受ける。レベル調整部25は、調整量Kを基にフェージング信号Dbのレベルを調整する(即ち、減衰させる)。これにより、フェージング信号Dbのピーク値Pbが、ベースバンド信号Daのピーク値Paと略等しいレベルに調整される。なお、調整量Kを基にレベルが調整されたフェージング信号を「フェージング信号Dc」とする。レベル調整部25は、フェージング信号Dcをクリップ処理部26に出力する。
【0032】
クリップ処理部26は、M桁のフェージング信号DcをN桁のフェージング信号Ddに変換する。このとき、クリップ処理部26は、フェージング信号Dcの上位レベルが、N桁で表現可能なレベルを超える場合に、フェージング信号Dcにクリップ処理を施す。一方、フェージング信号Dcの上位レベルが、N桁で表現可能なレベルを超えない場合には、クリップ処理部26は、フェージング信号Dcにクリップ処理を施さない。このとき、フェージング信号Dcは、ピーク値Pbがピーク値Paと略等しいレベルとなるように、レベル調整部25により調整されている。そのため、例えば、一時的にフェージング信号Dcの一部がN桁で表現可能なレベルを超えた場合に、その一部のみがクリップ処理の対象となる。クリップ処理部26は、フェージング信号DdをD/A変換器12に出力する。このクリップ処理部26により、フェージングシミュレータ20から出力される信号のレベルが、あらかじめ決められた範囲に収まるように制限される。
【0033】
なお、フェージングシミュレータ20に設けられた表示部27に、演算部24により算出された調整量Kを推奨値として表示させてもよい。これにより、操作者は、表示された推奨値を参照しながら操作部28を介してレベル調整部25の調整量を入力することができる。レベル調整部25は、この入力を基にフェージング信号Dbのレベルを調整することが可能である。
【0034】
D/A変換器12は、フェージング信号Ddをクリップ処理部26から受ける。D/A変換器12は、フェージング信号Ddをアナログ信号Aに変換し、周波数変換部13に出力する。なお、送信部10にフェージングシミュレータ20が接続されていない場合、D/A変換器12は、ベースバンド信号Daをベースバンド信号発生部11から受ける。この場合、D/A変換器12は、ベースバンド信号Daをアナログ信号Aに変換する。
【0035】
周波数変換部13は、アナログ信号Aを周波数変換部13から受ける。周波数変換部13は、アナログ信号Aを、あらかじめ決められた通信方式に基づいて周波数変換する。周波数変換部13は、周波数変換されたアナログ信号A(即ち、搬送波)を被試験端末2に送信する。
【0036】
次に、フェージングシミュレータ20の一連の動作について図2を参照しながら説明する。図2は、フェージングシミュレータ20の一連の処理の流れを示したフローチャートである。
【0037】
(ステップS11)
ベースバンド信号発生部11は、試験用のL桁(例えば、L=N=14ビットとし、Nは後述するD/A変換器12に入力されるフェージング信号Ddの桁数)のベースバンド信号Da(ベースバンド信号)を所定のビットレートで生成する。ベースバンド信号発生部11は、ベースバンド信号Daを、フェージングシミュレータ20の処理前レベル測定部21及びフェージング処理部22に出力する。
【0038】
処理前レベル測定部21は、ベースバンド信号Daをベースバンド信号発生部11から受ける。処理前レベル測定部21は、ベースバンド信号Daのレベル、具体的には、ベースバンド信号Daのピーク値Pa及び実効値(RMS値)Raを測定する。処理前レベル測定部21は、ピーク値Pa及び実効値Raの測定結果を演算部24に出力する。
【0039】
(ステップS12)
フェージング処理部22は、ベースバンド信号Daをベースバンド信号発生部11から受ける。フェージング処理部22は、あらかじめ設定されたフェージング条件に基づきベースバンド信号Daにフェージング処理を施すことで、M桁のフェージング信号Dbを生成する。フェージング処理部22は、生成されたフェージング信号Dbを処理後レベル測定部23及びレベル調整部25に出力する。
【0040】
(ステップS13)
処理後レベル測定部23は、フェージング信号Dbをフェージング処理部22から受ける。処理後レベル測定部23は、フェージング信号Dbのレベル、具体的には、フェージング信号Dbのピーク値Pb及び実効値(RMS値)Rbを測定する。処理後レベル測定部23は、ピーク値Pb及び実効値Rbの測定結果を演算部24に出力する。
【0041】
(ステップS14)
演算部24は、ベースバンド信号Daのピーク値Pa及び実効値Raを処理前レベル測定部21から受ける。演算部24は、ピーク値Pa及び実効値Raから、ベースバンド信号DaのクレストファクタCFaを算出する。
【0042】
また、演算部24は、フェージング信号Dbのピーク値Pb及び実効値Rbを処理後レベル測定部23から受ける。演算部24は、ピーク値Pb及び実効値Rbから、フェージング信号DbのクレストファクタCFbを算出する。
【0043】
演算部24は、算出されたクレストファクタCFb及びCFaを基に、フェージング信号Dbのレベルを調整するための調整量Kを算出する。演算部24は、算出された調整量Kをレベル調整部25に出力する。
【0044】
(ステップS15)
レベル調整部25は、フェージング信号Dbをフェージング処理部22から受ける。また、レベル調整部25は、調整量Kを演算部24から受ける。レベル調整部25は、調整量Kを基にフェージング信号Dbのレベルを調整する(即ち、減衰させる)。これにより、フェージング信号Dbの振幅が、ベースバンド信号Daと略等しいレベルに調整される。なお、調整量Kを基にレベルが調整されたフェージング信号を「フェージング信号Dc」とする。レベル調整部25は、フェージング信号Dcをクリップ処理部26に出力する。
【0045】
(ステップS16)
クリップ処理部26は、M桁のフェージング信号DcをN桁のフェージング信号Ddに変換する。このとき、クリップ処理部26は、フェージング信号Dcの上位レベルが、N桁で表現可能なレベルを超える場合に、フェージング信号Dcにクリップ処理を施す。クリップ処理部26は、フェージング信号DdをD/A変換器12に出力する。
【0046】
なお、上記では、演算部24がクレストファクタCFa及びCFbを算出していたが、処理前レベル測定部21及び処理後レベル測定部23がこれらを算出するように構成してもよい。この場合、処理前レベル測定部21がクレストファクタCFaを算出し、処理後レベル測定部23がクレストファクタCFbを算出する。また、上記では、信号のピーク値及び実効値に基づきクレストファクタを算出しているが、クレストファクタを算出可能なデータであれば、この組合せに限定されない。例えば、実効値に替わり平均値を用いてもよい。
【0047】
以上、本実施形態に係るフェージングシミュレータは、フェージング処理前後の実際のベースバンド信号のレベルに基づきフェージング信号のレベルを所定の範囲内に収めることが可能である。そのため、この所定の範囲を後段に接続されるD/A変換器の入力側のダイナミックレンジにあわせることで信号の飽和を避け、D/A変換後の出力として、リニアで、かつS/Nの高いアナログのフェージング信号を得ることが可能となる。
【0048】
(変形例)
次に、本発明の変形例について説明する。前述の実施形態に係るフェージングシミュレータ20の演算部24は、出力されるフェージング信号のピーク値Pbが、入力されたベースバンド信号のピーク値Paと略等しくなるように調整量Kを算出している。それに対し、変形例に係る演算部24は、入力されたベースバンド信号のピーク値Paが、あらかじめ決められたベースバンド信号の許容レベルP0よりも小さい場合において、このフェージング信号の振幅が許容レベルP0と略等しくなるように調整量Kを算出する。これにより、変形例に係るフェージングシミュレータ20は、入力されたベースバンド信号のピーク値Paが許容レベルP0よりも小さい場合に、フェージング信号のピーク値が許容レベルP0と略等しくなるように調整する。以下に、変形例に係る演算部24の動作について説明する。
【0049】
演算部24は、ベースバンド信号Daのピーク値Pa及び実効値Raを処理前レベル測定部21から受ける。演算部24は、ピーク値Pa及び実効値Raから、ベースバンド信号DaのクレストファクタCFaを算出する。また、演算部24は、フェージング信号Dbのピーク値Pb及び実効値Rbを処理後レベル測定部23から受ける。演算部24は、ピーク値Pb及び実効値Rbから、フェージング信号DbのクレストファクタCFbを算出する。この動作は前述の実施形態に係る演算部24と同様である。
【0050】
次に、変形例に係る演算部24は、算出されたクレストファクタCFb及びCFaと、あらかじめ決められた許容レベルP0と、ピーク値Paとに基づき、調整量Kを算出する。この場合の調整量Kは、次式により与えられる。なお、K、P0、Pa、CFa、及びCFbは対数値を示している。
K=(CFb−CFa)−(P0−Pa)
なお、この変形例における調整量Kは、先に説明した実施形態における調整量Kよりも、通常小さくなる。
【0051】
演算部24は、算出された調整量Kをレベル調整部25に出力する。以降、レベル調整部25は、この調整量Kを基にフェージング信号Dbのレベルを調整する。
【0052】
以上、変形例に係るフェージングシミュレータは、フェージング処理の前後における実際のベースバンド信号のレベルに基づき、フェージング処理後の信号のレベルが、ベースバンド信号の許容レベルと略等しくなるように調整する。そのため、例えば、この許容レベルを後段に接続されるD/A変換器の入力側のダイナミックレンジにあわせることで、レベルの小さいベースバンド信号が入力された場合に、フェージング信号のレベルをD/A変換器のダイナミックレンジにあわせて調整することが可能となる。これにより、ベースバンド信号のレベルが許容レベルより小さい場合においても、フェージング信号のレベルを所定のレベルに調整することで、D/A変換時のS/Nを高く保つことが可能となる。
【符号の説明】
【0053】
1 移動体通信端末試験システム
10 送信部
11 ベースバンド信号発生部
12 D/A変換器
13 周波数変換部
20 フェージングシミュレータ
21 処理前レベル測定部
22 フェージング処理部
23 処理後レベル測定部
24 演算部
25 レベル調整部
26 クリップ処理部
27 表示部
28 操作部
2 被試験端末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体通信端末の試験用のベースバンド信号である入力信号を受けて、該入力信号にフェージング処理を施し、フェージング信号として出力するフェージング処理部(22)と、
前記フェージング信号のレベルを測定する第1の測定部(23)と、
前記第1の測定部による測定結果に基づき前記フェージング信号のクレストファクタを算出し、算出された当該クレストファクタと、前記入力信号のクレストファクタとの差を算出する演算部(24)と、
前記差に基づく調整量により前記フェージング信号のレベルを変更するレベル調整部(25)と、
を備えたことを特徴とするフェージングシミュレータ。
【請求項2】
前記入力信号のレベルを測定する第2の測定部(21)を備え、
前記演算部は、前記第2の測定部による測定結果に基づき前記入力信号のクレストファクタを算出することを特徴とする請求項1に記載のフェージングシミュレータ。
【請求項3】
前記演算部は、前記差を前記調整量として前記レベル調整部に出力することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフェージングシミュレータ。
【請求項4】
前記演算部は、前記フェージング信号のクレストファクタと前記入力信号のクレストファクタとの差から、前記入力信号の予め決められた許容レベルと前記入力信号のレベルのピーク値との差を減算した値を前記調整量として前記レベル調整部に出力することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフェージングシミュレータ。
【請求項5】
前記調整量を表示する表示部と、
操作部と、
を備え、
前記レベル調整部は、前記調整量に代えて、前記操作部から入力された調整量により前記フェージング信号のレベルを変更することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のフェージングシミュレータ。
【請求項6】
試験用のデジタルのベースバンド信号である入力信号を生成する信号発生部(11)と、
前記入力信号を受けて所望のフェージング処理を施し、フェージング信号として出力するフェージングシミュレータ(20)と、
前記フェージングシミュレータから出力された前記フェージング信号をアナログ信号に変換するD/A変換器(12)と、
前記D/A変換器からの出力信号を、所定の通信方式に従い周波数変換して試験対象の移動体通信端末に出力する周波数変換部(13)と、
を備えた移動体通信端末試験システムにおいて、
前記フェージングシミュレータは、
前記入力信号を受けて、該入力信号にフェージング処理を施し、フェージング信号として出力するフェージング処理部(22)と、
前記フェージング信号のレベルを測定する第1の測定部(23)と、
前記第1の測定部による測定結果に基づき前記フェージング信号のクレストファクタを算出し、算出された当該クレストファクタと、前記入力信号のクレストファクタとの差を算出する演算部(24)と、
前記差に基づく調整量により前記フェージング信号のレベルを変更するレベル調整部(25)と、
を備え、
前記レベルが変更された前記フェージング信号を出力することを特徴とする移動体通信端末試験システム。
【請求項7】
移動体通信端末の試験用のベースバンド信号である入力信号に所望のフェージング処理を施して出力させるフェージング処理方法であって、
入力信号を受けて、該入力信号にフェージング処理を施し、フェージング信号として出力するフェージング処理ステップと、
前記フェージング信号のレベルを測定する測定ステップと、
前記第1の測定部による測定結果に基づき前記フェージング信号のクレストファクタを算出し、算出された該クレストファクタと、前記入力信号のクレストファクタとの差を算出する算出ステップと、
前記差に基づく調整量により前記フェージング信号のレベルを変更するレベル調整ステップと、
を備えたことを特徴とするフェージング処理方法。

【図1】
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【図2】
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