説明

フォトクロミック組成物

【課題】 下記式(1)で示される基本骨格を有するインデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン化合物と特定の紫外線吸収剤とを組み合わせ、該ピラン化合物の耐久性を向上させ、繰り返し耐久性に優れたフォトクロミック眼鏡レンズを与えることができるフォトクロミック組成物を提供する。
【解決手段】
下記式(1)
【化1】


で表される基本骨格を有するインデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン化合物100質量部に対し、最も長波長域の最大吸収波長が280〜330nmの範囲に存在する紫外線吸収剤を1〜300質量部含むフォトクロミック組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繰り返し耐久性に優れたフォトクロミック組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミズムとは、ある化合物に太陽光あるいは水銀灯の光のような紫外線を含む光を照射すると速やかに色が変わり、光の照射をやめて暗所におくと元の色に戻る可逆作用のことであり、様々な用途に応用されている。このような性質を持つフォトクロミック化合物として、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、又はクロメン化合物等が見い出されている。これら化合物は、プラスチックと複合化させることにより、フォトクロミック特性を有する光学物品とすることができる。そのため、上記化合物とプラスチックとの複合化の検討が数多くなされている。
【0003】
眼鏡レンズの分野においてもフォトクロミズムが応用されている。フォトクロミック化合物を使用したフォトクロミック眼鏡レンズは、太陽光のような紫外線を含む光が照射される屋外ではレンズが速やかに着色してサングラスとして機能し、そのような光の照射がない屋内においては退色して透明な通常の眼鏡として機能するものであり、近年その需要は増大している。
【0004】
フォトクロミック眼鏡レンズに関しては、軽量性や安全性の観点から特にプラスチック製のものが好まれており、このようなプラスチックレンズへのフォトクロミック性の付与は、一般に上記フォトクロミック化合物とプラスチックとを複合化することにより行なわれている。複合化方法としては、フォトクロミック性を有さないレンズの表面にフォトクロミック化合物を含浸させる方法(以下、含浸法という)、又は重合性単量体にフォトクロミック化合物を溶解し、それを重合させることにより直接フォトクロミックレンズを得る方法(以下、練り込み法という)、さらには、重合性単量体にフォトクロミック化合物を溶解させたものを、レンズの表面にコーティングする方法(以下、コーティング法という)等が知られている。
【0005】
これらのフォトクロミック化合物及びそれらを含むフォトクロミック特性を有するプラスチック光学物品については、その作用の観点から(I)紫外線を照射する前の可視光領域での着色度(以下、初期着色という。)が低い、(II)紫外線を照射した時の着色度(以下、発色濃度と言う。)が高い、(III)紫外線の照射を止めてから元の状態に戻るまでの速度(以下、退色速度という。)が速い、(IV)この可逆作用の繰り返し耐久性がよい、(V)保存安定性が高い、(VI)光学物品として成型し易い、(VII)光学物品として機械的強度が強いといった特性が求められている。
【0006】
優れた特性を有するクロメン化合物として、インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピランを基本骨格とする化合物(以下、インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン化合物とも言う。)が知られている(特許文献1〜4参照)。これらの化合物は、優れたフォトクロミック特性を有するため、現在のフォトクロミック眼鏡レンズにおいて、広く使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第96/014596号パンフレット
【特許文献2】国際公開第01/019813号パンフレット
【特許文献3】国際公開第01/060811号パンフレット
【特許文献4】国際公開第05/028465号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの化合物を用いたフォトクロミック眼鏡レンズにおいても、繰り返し耐久性はまだ十分なものとは言えず、更なる改良の余地がある。具体的には、長期間使用すると、化合物の分解に由来すると考えられる発色濃度の低下(残存率の低下)及びレンズの黄変が認められるようになる。
【0009】
先の特許文献には、インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン化合物に種々の添加剤を加えるとの記載があるものの、繰り返し耐久性の向上に関しては何ら開示されていない。
【0010】
従って、本発明の目的は、繰り返し耐久性に優れたフォトクロミック眼鏡レンズを与えることができるフォトクロミック組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者はこの問題に関して、鋭意検討を行った。その結果、インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン化合物に、特定の紫外線吸収剤を組み合わせることにより、発色濃度を低下させることなく、繰り返し耐久性を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン化合物100質量部に対し、最も長波長域の最大吸収波長が280〜330nmの範囲に存在する紫外線吸収剤を1〜300質量部配合してなるフォトクロミック組成物である。
【0013】
また、本発明は、重合性単量体100質量部に対し、前記のフォトクロミック組成物0.01〜20質量部含んでなるフォトクロミック重合硬化性組成物、及びそれを重合硬化してなるフォトクロミック硬化体である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、繰り返し耐久性に優れたフォトクロミック眼鏡レンズを与えるフォトクロミック組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明について以下に詳細に説明する。
【0016】
本発明は、インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン化合物100質量部に対し、最も長波長域の最大吸収波長が280〜330nmの範囲に存在する紫外線吸収剤を1〜300質量部配合してなるフォトクロミック組成物である。
【0017】
また、本発明は、前記のフォトクロミック組成物0.01〜20質量部に対し、重合性単量体100質量部を含んでなるフォトクロミック重合硬化性組成物、及びそれを重合硬化してなるフォトクロミック硬化体である。
【0018】
本発明で用いるインデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン化合物は、下記式(1)
【0019】
【化1】

【0020】
で表される基本骨格を有する化合物である。
【0021】
より詳しくは、例えば、下記式(4)で表されるインデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン化合物を挙げることができる。
【0022】
【化2】

【0023】
(基R
前記式(4)において、Rはそれぞれ独立に、ヒドロキシル基、アルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、窒素原子を含み該窒素原子がベンゼン環の炭素原子と直接結合する複素環基、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アラルキル基、アリール基、アリールオキシ基、互いに隣接する2つのRが一緒になって形成される炭素数が1〜8のアルキレンジオキシ基を表す。
【0024】
前記アルキル基は、特に制限されないが、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。好適なアルキル基を例示すると、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等を挙げることができる。
【0025】
前記ハロアルキル基は、特に制限されないが、フッ素原子、塩素原子、臭素原子で置換された炭素数1〜6のハロアルキル基が好ましい。好適なハロアルキル基を例示すると、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、クロロメチル基、2−クロロエチル基、ブロモメチル基等を挙げることができる。
【0026】
前記シクロアルキル基は、特に制限されないが、炭素数3〜8のシクロアルキル基が好ましい。好適なシクロアルキル基を例示すると、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。
【0027】
前記アルコキシ基は、特に制限されないが、炭素数1〜6のアルコキシ基が好ましい。好適なアルコキシ基を例示すると、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等を挙げることができる。
【0028】
前記アミノ基は、一級アミノ基に限定されず、置換基を有する2級アミノ基や3級アミノ基であってもよい。かかるアミノ基が有する置換基としては、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、炭素数4〜12のヘテロアリール基等が挙げられる。これら、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基は、上記Rで説明した基と同様の基である。また、前記アリール基を例示すると、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等を挙げることができる。また、前記へテロアリール基を例示すると、チエニル基、フリル基、ピロリニル基、ピリジル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾピロリニル基等を挙げることができる。好適なアミノ基を例示すると、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基等を挙げることできる。
【0029】
前記窒素原子を含み該窒素原子がベンゼン環の炭素原子と直接結合する複素環基は、特に制限されないが、好適なものを例示すると、モルホリノ基、ピペリジノ基、ピロリジニル基、ピペラジノ基、N−メチルピペラジノ基、インドリニル基等を挙げることができる。さらに、該複素環基は、炭素数1〜6のアルキル基を置換基として有してもよく、具体的な置換基としては、メチル基等のアルキル基を挙げることができる。置換基を有する複素環基のうち、好適なものを例示すると、2,6−ジメチルモルホリノ基、2,6−ジメチルピペリジノ基、2,2,6,6−テトラメチルピペリジノ基等が挙げられる。
【0030】
前記アルキルカルボニル基は、特に制限されないが、好適なものを例示すると、アセチル基、エチルカルボニル基等を挙げることができる。
【0031】
前記アルコキシカルボニル基は、特に制限されないが、好適なものを例示すると、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等を挙げることができる。
【0032】
前記ハロゲン原子は、特に制限されないが、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。
【0033】
前記アラルキル基は、特に制限されないが、炭素数7〜11のアラルキル基が好ましい。好適なアラルキル基を例示すると、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、ナフチルメチル基等を挙げることができる。
【0034】
前記アリール基は、特に制限されないが、炭素数6〜14のアリール基が好ましい。好適なアリール基を具体的に例示すると、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等を挙げることができる。
【0035】
前記アリールオキシ基は、特に制限されないが、炭素数6〜14のアリールオキシ基が好ましい。好適なアリールオキシ基を例示すると、フェノキシ基、1−ナフトキシ基、2−ナフトキシ基等を挙げることができる。
【0036】
なお、アラルキル基、アリール基及びアリールオキシ基は、ベンゼンもしくはナフタレン環等の1〜13個の水素原子、特に好ましくは1〜4個の水素原子が、前記のヒドロキシル基、アルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、窒素原子を含み該窒素原子がベンゼン環の炭素原子と結合する複素環基、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0037】
また、互いに隣接する2つのRが一緒になって形成されるアルキレンジオキシ基は、特に制限されないが、炭素数1〜8のアルキレンジオキシ基が好ましい。好適なアルキレンジオキシ基と例示すると、メチレンジオキシ基、エチレンジオキシ基等を挙げることができる。
【0038】
なお、pは0〜4の整数であり、pが2以上の場合、Rは互いに同一でも異なっていてもよい。
【0039】
(基R
前記式(4)において、Rはそれぞれ独立に、ヒドロキシル基、アルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、窒素原子を含み該窒素原子がベンゼン環の炭素原子と直接結合する複素環基、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アラルキル基、アリール基、又はアリールオキシ基を表す。これらの基は、先にRとして説明したものと同様の基が用いられる。
【0040】
なお、qは0〜4の整数であり、qが2以上の場合、Rは互いに同一でも異なっていてもよい。
【0041】
(基R及びR
また、前記式(4)において、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、窒素原子を含み該窒素原子がインデン環の炭素原子と直接結合する複素環基、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アラルキル基、アリール基、又はアリールオキシ基を表す。これらの基は、先にRとして説明したものと同様の基が用いられる。また、R及びRは、互いに一緒になってインデン環の炭素原子と共に環を構成する、炭素数が該インデン環の炭素原子を含めて3〜20である脂肪族環、前記脂肪族環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環、環を構成する原子数が該インデン環の炭素原子を含めて3〜20である複素環、又は前記複素環に芳香族環もしくは芳香族複素環が縮環した縮合多環を形成する基であってもよい。好適なものとしては下記のものが挙げられる。なお、下記に示す環において、最も下に位置するZで示した炭素原子が、基R及び基Rが結合している炭素原子に相当する。
【0042】
【化3】

【0043】
(基R10及びR11
前記式(4)において、R10及びR11は、それぞれ独立に、下記式(5)で示される基、下記式(6)で示される基、アリール基、ヘテロアリール基、又はアルキル基を表す。
【0044】
【化4】

【0045】
【化5】

【0046】
前記式(5)中のR12は、アリール基又はヘテロアリール基である。ここで、アリール基は、Rとして既に説明した基と同じものが適用される。
【0047】
前記ヘテロアリール基は、特に制限されないが、炭素数4〜12のヘテロアリール基が好ましい。好適なヘテロアリール基を例示すると、チエニル基、フリル基、ピロリニル基、ピリジル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾピロリニル基等を挙げることができる。
【0048】
なお、前記ヘテロアリール基は、その基の1〜7個の水素原子、特に好ましくは1〜4個の水素原子が、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0049】
また、R13は、水素原子、アルキル基、又はハロゲン原子である。アルキル基、ハロゲン原子は、Rとして既に説明した基と同じものが適用される。
【0050】
mは1〜3の整数であるが、原料入手の観点からmは1であるのが好適である。
【0051】
前記式(5)で示される基のうち好適な基を例示すれば、フェニル−エチレニル基、(4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニル)−エテニル基、(4−モルホリノフェニル)−エテニル基、(4−ピペリジノフェニル)−エテニル基、(4−メトキシフェニル)−エテニル基、(2−メトキシフェニル)−エテニル基、フェニル−1−メチルエテニル基、(4−メトキシフェニル)−1−メチルエテニル基、フェニル−1−フルオロエテニル基、(4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニル)−1−フルオロエテニル基、2−チエニル−エテニル基、2−フリル−エテニル基、2−(N−メチル)ピロリニル−エテニル基、2−ベンゾチエニル−エテニル基、2−ベンゾフラニル−エテニル基、2−(N−メチル)インドリル−エテニル基等を挙げることができる。
【0052】
前記式(6)において、R14は、前記R12と同じアリール基、又はヘテロアリール基である。また、nは1〜3の整数であるが、原料入手の容易さの観点からnは1であるのが好適である。
【0053】
前記式(6)で示される基のうち好適な基を例示すれば、フェニル−エチリニル基、(4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニル)−エチニル基、(4−モルホリノフェニル)−エチニル基、(4−ピペリジノフェニル)−エチニル基、(4−メトキシフェニル)−エチニル基、(4−メチルフェニル)−エチニル基、(2−メトキシフェニル)−エチニル基、2−チエニル−エチニル基、2−フリル−エチニル基、2−(N−メチル)ピロリニル−エチニル基、2−ベンゾチエニル−エチニル基、2−ベンゾフラニル−エチニル基、2−(N−メチル)インドリル−エチニル基等を挙げることができる。
【0054】
10及びR11のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基は、上記R12、R14として既に説明した基と同じ基が適用される。
また、R10及びR11は、互いに結合して脂肪族炭化水素環もしくは芳香族炭化水素環を形成することもできる。
【0055】
脂肪族炭化水素環としては、特に制限はされないが、好適な環を具体的に例示すると、アダマンタン環、ビシクロノナン環、ノルボルナン環等を挙げることができる。
【0056】
また、芳香族炭化水素環としては、特に制限はされないが、好適な環としては、フルオレン環等を挙げることができる。
【0057】
上記R10及びR11の基において、特に、優れたフォトクロミック特性を発揮するためには、少なくとも一方、好ましくは両方の基が、アリール基、又はヘテロアリール基であることが好ましい。さらに、R10及びR11の少なくとも一方、好ましくは両方の基が、下記(i)〜(iv)に示される何れかの基であることが特に好ましい。
【0058】
(i)アルキル基もしくはアルコキシ基を置換基として有するアリール基、又はヘテロアリール基、
(ii)アミノ基を置換基として有するアリール基、又はヘテロアリール基、
(iii)窒素原子をヘテロ原子として有し且つ該窒素原子とアリール基、又はヘテロアリール基とが結合する複素環基を置換基として有するアリール基、又はヘテロアリール基、
(iv)前記(iii)における複素環基に、芳香族炭化水素環もしくは芳香族複素環が縮合した縮合複素環基を置換基として有するアリール基、又はヘテロアリール基;
なお、上記(i)〜(iv)におけるアリール基においては、置換基の置換する位置は特に限定されず、その総数も特に限定されるものではない。ただし、優れたフォトクロミック特性を発揮するためには、置換位置は、アリール基がフェニル基であるときは3位又は4位であることが好ましい。また、その際の置換基の数は、1〜2であることが好ましい。このような好適なアリール基を例示すると、4−メチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,4−ジメトキシフェニル基、4−n−プロポキシフェニル基、4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニル基、4−(N,N−ジエチルアミノ)フェニル基、4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル基、4−モルホリノフェニル基、4−ピペリジノフェニル基、3−(N,N−ジメチルアミノ)フェニル基、4−(2,6−ジメチルピペリジノ)フェニル基等を挙げることができる。
【0059】
また、前記(i)〜(iv)におけるヘテロアリール基において、置換基が置換する位置は特に限定されず、その総数も特に限定されないが、その数は1であることが好ましい。当該ヘテロアリール基として好適なものを具体的に例示すると、4−メトキシチエニル基、4−(N,N−ジメチルアミノ)チエニル基、4−メチルフリル基、4−(N,N−ジエチルアミノ)フリル基、4−(N,N−ジフェニルアミノ)チエニル基、4−モルホリノピロリニル基、6−ピペリジノベンゾチエニル基、6−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾフラニル基等を挙げることができる。
【0060】
(好ましいフォトクロミック化合物)
前記したフォトクロミック化合物のうち、好適な化合物を例示すると下記式のクロメン化合物が挙げられる。
【0061】
【化6】

【0062】
本発明のインデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン化合物は、1種類もしくは色調調整等を目的として2種類以上を混合して用いても良い。また、インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン以外の構造を有するフォトクロミック化合物を効果が損なわれない範囲で適宜混合して使用しても良い。
【0063】
本発明においては、上記のインデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン化合物に、最も長波長域の最大吸収波長が280〜330nmの範囲に存在する紫外線吸収剤を組み合わせることを特徴とする。これにより、発色濃度を損なうことなく、繰り返し耐久性に優れたフォトクロミック硬化体を得ることができる。最も長波長域の最大吸収波長が280nm未満の紫外線吸収剤、例えば、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエートに代表されるベンゾエート系の紫外線吸収剤では、繰り返し耐久性の向上効果が見られない。一方、最も長波長の最大吸収波長が330nmを超える紫外線吸収剤、例えば、2−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールに代表されるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、あるいは、トリ(p−n−ヘキシルオキシフェニル)トリアジンに代表されるトリアジン系紫外線吸収剤等では、繰り返し耐久性の向上効果は得られるものの、発色濃度の低下が著しい。
【0064】
(紫外線吸収剤)
最も長波長域の最大吸収波長が280〜330nmの範囲に存在する紫外線吸収剤としては、下記式(2)で示されるシアノアクリレート系の紫外線吸収剤が好適に使用できる。
【0065】
【化7】

【0066】
ここで、Rは置換基を有してもよいアリール基であり、Rは炭素数1〜12の有機基であり、xは1又は2である。
【0067】
で示されるアリール基の炭素数は特に制限されないが、一般には炭素数6〜14であることが好ましい。このようなアリール基を具体的に例示すると、フェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基等を挙げることができる。
【0068】
上記のアリール基は置換基を有していてもよい。このような置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基等の炭素数1〜12のアルコキシ基;メチレンジオキシ基、エチレンジオキシ基等の炭素数1〜4のアルキレンジオキシ基等を挙げることができる。
【0069】
本発明において、Rで示される置換基を有してよいアリール基として好適な基を具体的に例示すると、フェニル基、メトキシフェニル基、メチレンジオキシフェニル基、トリル基、キシリル基、アンスリル基、フェナンスリル基等を挙げることができる。
【0070】
で示される炭素数1〜12の有機基は、アルキル基であることが好ましく、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、ドデシル基等が好ましい。特に、メチル基、エチル基、2−エチルヘキシル基、ドデシル基がより好ましい。
【0071】
本発明において好ましいシアノアクリレート系の紫外線吸収剤は、上記式(3)中、Rが炭素数6〜14のアリール基であり、Rは炭素数1〜12のアルキル基であり、xが2である化合物である。
【0072】
本発明におけるシアノアクリレート系の紫外線吸収剤を具体的に例示すると、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2’−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、エチル−2−シアノ−3−(3’,4’−メチレンジオキシフェニル)−2−アクリレート、2’−エチルヘキシル−2−シアノ−3−(3”,4”−メチレンジオキシフェニル)−2−アクリレート、ドデシル−2−シアノ−3−(3’,4’−メチレンジオキシフェニル)−2−アクリレート、メチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、エチル−2−シアノ−3,3−ジトリルアクリレート、エチル−2−シアノ−3,3−ジナフチルアクリレート等が挙げられる。このうち、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、メチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレートが好ましく、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレートが最も好ましい。
【0073】
これらシアノアクリレート系の紫外線吸収剤は1種類もしくは2種類以上を混合して使用しても良い。
【0074】
また、最も長波長域の最大吸収波長が280〜330nmの範囲に存在する別の紫外線吸収剤として、下記式(3)で表されるベンゾフェノン系の紫外線吸収剤も好適に使用できる。
【0075】
【化8】

【0076】
ここで、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アラルコキシ基である。
【0077】
アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基等の炭素数1〜12のアルコキシ基を挙げることができる。
【0078】
また、アラルコキシ基としては、ベンジルオキシ基を挙げることができる。
【0079】
本発明におけるベンゾフェノン系の紫外線吸収剤を具体的に例示すると、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0080】
これらベンゾフェノン系の紫外線吸収剤は1種類もしくは2種類以上を混合して使用しても良い。また、先に説明したシアノアクリレート系の紫外線吸収剤をさらに混合して使用しても良い。
【0081】
本発明においては、インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン化合物100質量部に対して、最も長波長域の最大吸収波長が280〜330nmの範囲に存在する別の紫外線吸収剤を1〜300質量部、好ましくは3〜100質量部、さらに好ましくは5〜50質量部の範囲で混合してフォトクロミック組成物とする。1質量部未満では、繰り返し耐久性の向上効果が小さく、300質量部を超えると、繰り返し耐久性の向上効果は大きいが、発色濃度が不十分となる。
【0082】
本発明のフォトクロミック組成物は、高分子材料中において、太陽光あるいは紫外線の照射により発色し、光を遮断すると速やかに透明な状態に戻る良好な可逆的なフォトクロミック作用を呈する。そのため、本発明のフォトクロミック組成物は、下記に例示する高分子材料(高分子固体マトリックス)に均一に分散させ、これを成型することにより、フォトクロミック眼鏡レンズとすることができる。かかる対象となる高分子固体マトリックスとしては、本発明のフォトクロミック組成物が均一に分散するものであればよく、光学的に好ましくは、例えばポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリジメチルシロキサン、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂を挙げることができる。
【0083】
また、本発明のクロメン化合物は、重合体とする前の各種の重合性単量体と混合することにより、フォトクロミック硬化性組成物とし、これを重合硬化させることによりフォトクロミック組成物とすることもできる。即ち、本発明のフォトクロミック組成物、および各種の重合性単量体を含有するフォトクロミック硬化性組成物を重合硬化させることにより、該フォトクロミック組成物を均一に分散させた硬化体を得ることができる。上記の重合性単量体としては、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールビスグリシジルメタクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモー4ーメタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート等の多価アクリル酸及び多価メタクリル酸エステル化合物;ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルイソフタレート、酒石酸ジアリル、エポキシこはく酸ジアリル、ジアリルフマレート、クロレンド酸ジアリル、ヘキサフタル酸ジアリル、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート、トリメチロールプロパントリアリルカーボネート等の多価アリル化合物;1,2−ビス(メタクリロイルチオ)エタン、ビス(2−アクリロイルチオエチル)エーテル、1,4−ビス(メタクリロイルチオメチル)ベンゼン等の多価チオアクリル酸及び多価チオメタクリル酸エステル化合物;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、β−メチルグリシジルメタクリレート、ビスフェノールA−モノグリシジルエーテル−メタクリレート、4−グリシジルオキシメタクリレート、3−(グリシジル−2−オキシエトキシ)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−(グリシジルオキシ−1−イソプロピルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−グリシジルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルアクリレート等のアクリル酸エステル化合物及びメタクリル酸エステル化合物;スチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン、α−メチルスチレンダイマー等を挙げることができる。
【0084】
本発明のフォトクロミック組成物を含むフォトクロミック眼鏡レンズを得る方法としては、例えば、上記の重合性単量体にフォトクロミック組成物を溶解させた後、重合触媒を加え熱または光にて重合させる方法が挙げられる。
【0085】
本発明のフォトクロミック組成物と前記の重合性単量体とを混合してフォトクロミック硬化性組成物を調製する場合、フォトクロミック組成物と重合性単量体との混合割合は、本発明のフォトクロミック組成物が均一に溶解できれば特に制限はないが、得られる硬化体のフォトクロミック性能を実用的にするためには、通常、重合性単量体100質量部に対して0.001〜20質量部、好ましくは0.01〜5質量部である。
【0086】
なお、重合性単量体のうち、ビスフェノールA及びそれに類似した骨格を含まないものを主構成成分とする場合に、本発明の繰り返し耐久性の向上効果が特に大きく現れる傾向があるため、特に好ましい。この時のレンズの屈折率は1.48〜1.52程度である。
【0087】
本発明のフォトクロミック組成物には、さらに酸化防止剤、紫外線安定剤、染料、顔料、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料等の各種安定剤、添加剤を必要に応じて添加しても良い。例えば、紫外線安定剤としては、ヒンダードアミン光安定剤、ヒンダードフェノール光安定剤、硫黄系酸化防止剤等を好適に使用できる。紫外線安定剤の使用量は特に限定されないが、通常はフォトクロミック組成物100質量部に対して1〜1000質量部、好ましくは10〜300質量部の範囲の中から選ばれる。
【0088】
重合硬化の方法としては特に制限はなく、公知の方法を採用できる。重合手段は、種々の過酸化物やアゾ化合物などの重合開始剤の使用、又は、紫外線、α線、β線、γ線等の照射あるいは両者との併用によって行うことができる。代表的な重合方法を例示すると、エラストマーガスケットまたはスペーサーで保持されているモールド間に、重合開始剤、本発明のフォトクロミック組成物及び重合性単量体よりなる重合性組成物を注入し、加熱炉中で重合させた後、取り外す注型重合を採用することができる。
【0089】
重合開始剤としては特に限定されず、公知のものが使用できるが、代表的なものを例示すると、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド等のジアリルパーオキサイド;t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート、t−ブチルパーオキシネオデカネート、クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート等のパーオキシエステル;ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等を挙げることができる。この中でもt−ブチルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシネオデカネート/t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシネオデカネート/1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネートの組み合わせが重合効率及び硬化体の硬度の点で好ましい。
【0090】
また、フォトクロミック眼鏡レンズを得る別の方法として、上記の重合性単量体にフォトクロミック組成物を溶解させた後、重合触媒を加え、熱可塑性樹脂もしくは熱硬化性樹脂からなるレンズの表面に塗布し、熱または光にて塗膜を重合硬化させて、コーティングレンズを得る方法を挙げることができる。この場合特に以下に例示する光重合開始剤を含有することが好ましい。例えば、該光重合開始剤として、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾフェノール、アエトフェノン4,4’−ジクロロベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−イソプロピルチオオキサントン、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6―トリメチルベンゾイル)−フェニルフォシフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニル−フォスフィンオキサイド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1等が好適に使用できる。
【実施例】
【0091】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例中の「部」は「質量部」である。以下に実施例及び比較例で使用する化合物の略号について説明する。
【0092】
1.インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン化合物
【0093】
【化9】

【0094】
【化10】

【0095】
【化11】

【0096】
2.その他のフォトクロミック化合物
【0097】
【化12】

【0098】
3.シアノアクリレート系の紫外線吸収剤
シーソーブ501:エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート(最も長波長域の最大吸収波長が300nm、シプロ化成製)。
シーソーブ502:2’−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート(最も長波長の最大吸収波長が300nm、シプロ化成製)。
【0099】
4.ベンゾフェノン系の紫外線吸収剤
アデカスタブ1413:2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシベンゾフェノン(最も長波長域の最大吸収波長が320nm、アデカ製)。
【0100】
5.その他の紫外線吸収剤
スミソーブ400:2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート(ベンゾエート系の紫外線吸収剤;最も長波長域の最大吸収波長が255nm、住化ケミテックス製)。
アデカスタブLA36:2−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;最も長波長域の最大吸収波長が355nm、アデカ製)。
【0101】
6.重合性単量体
3PG:トリプロピレングリコールジメタクリレート。
4G:テトラエチレングリコールジメタクリレート。
A400:ポリエチレングリコールジアクリレート(平均分子量532)。
THHA:トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチルアクリレートを反応して得られるウレタンアクリレート。
EB−1830:ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート。
BPE−100N:2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン。
BPE−500:2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン。
GMA:グリシジルメタクリレート。
MS:α−メチルスチレン。
MSD:α−メチルスチレンダイマー。
【0102】
7.重合開始剤
パーブチルND:t−ブチルパーオキシネオデカネート。
パーオクタO :1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート。
CGI1800:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイドの混合物(質量比3:1)。
【0103】
実施例1
インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン化合物として、PC1 0.04部、シアノアクリレート系紫外線吸収剤として、シーソーブ501 0.01部からなるフォトクロミック組成物を、3PG 50部、THHA 25部、TMPT 10部、A400 13部、MSD2部からなる重合性単量体100部に溶解し、さらにパーブチルND 1部とパーオクタO 0.1部を添加して十分混合した。この混合液をガラス板とエチレン−酢酸ビニル共重合体からなるガスケットで構成された鋳型の中に注入し、注型重合を行った。重合は空気炉を用い、30℃〜90℃まで18時間かけ徐々に温度を上げていき、90℃で2時間保持した。重合終了後、重合体を鋳型のガラス型から取り外した。
【0104】
得られたフォトクロミック硬化体(厚み2mm)を試料とし、これに、浜松ホトニクス製のキセノンランプL−2480(300W)SHL−100をエアロマスフィルター(コーニング社製)を介して20℃±1℃、重合体表面でのビーム強度365nm=2.4mW/cm,245nm=24μW/cmで120秒間照射して発色させ、前記硬化体のフォトクロミック特性を測定した。各フォトクロミック特性は以下の方法で評価した。
【0105】
1)最大吸収波長(λmax):(株)大塚電子工業製の分光光度計(瞬間マルチチャンネルフォトディテクターMCPD1000)により求めた発色後の最大吸収波長である。該最大吸収波長は、発色時の色調に関係する。
【0106】
2)発色濃度{ε(120)−ε(0)}:前記最大吸収波長における、120秒間光照射した後の吸光度{ε(120)}と上記ε(0)との差。この値が高いほどフォトクロミック性が優れているといえる。また屋外で発色させたとき発色色調を目視により評価した。
【0107】
3)退色速度〔t1/2(sec.)〕:120秒間光照射後、光の照射を止めたときに、試料の前記最大は長における吸光度が{ε(120)−ε(0)}の1/2まで低下するのに要する時間。この時間が短いほどフォトクロミック性が優れているといえる。
【0108】
4)繰り返し耐久性
光照射による発色の繰り返し耐久性を評価するために次の劣化促進試験を行った。すなわち、得られた重合体(試料)をスガ試験器(株)製キセノンウェザーメーターX25により200時間促進劣化させた。その後、前記発色濃度の評価を試験の前後で行い、試験前の発色濃度(A0)および試験後の発色濃度(A200)を測定し、残存率(%)={(A200/A0)×100}の値を求め、繰り返し耐久性の指標とした。残存率が高いほど繰り返し耐久性が高い。また、スガ試験機(株)製の色差計(SM−4)を用いて黄変度ΔYI=YI(200)−YI(0)の値を求めた。黄変度が小さいほど繰り返し耐久性が高い。
【0109】
さらに、以下の項目で基材の特性を評価した。得られた結果を表2に示した。
【0110】
5)屈折率:アタゴ(株)製屈折率計を用いて、20℃における屈折率を測定した。接触液にはブロモナフタリンまたはヨウ化メチレンを使用し、D線における屈折率を測定した。
【0111】
組成を表1に、評価結果を表2に示す。
【0112】
【表1】

【0113】
【表2】

【0114】
実施例2
インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン化合物として、PC3 0.04部、シアノアクリレート系紫外線吸収剤として、シーソーブ502 0.04部を使用した以外は、実施例1と同様にレンズを作成し、評価を行った。組成を表1に、評価結果を表2に示す。
【0115】
実施例3
インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン化合物として、PC1 0.04部、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤として、アデカスタブ1413 0.01部を使用した以外は、実施例1と同様にレンズを作成し、評価を行った。組成を表1に、評価結果を表2に示す。
【0116】
実施例4
インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン化合物として、PC2 0.04部、PC3 0.01部、その他のフォトクロミック化合物として、PC4 0.02部、シアノアクリレート系紫外線吸収剤として、シーソーブ501 0.01部を使用した以外は、実施例1と同様にレンズを作成し、評価を行った。組成を表1に、評価結果を表2に示す。
【0117】
実施例5
重合性単量体を、BPE−100N 50部、TMPT 7部、4G 30部、GMA3部、MS 8部、MSD 2部とした以外は、実施例1と同様にレンズを作成し、評価を行った。組成を表1に評価結果を表2に示す。
【0118】
実施例6
インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン化合物として、PC1 0.04部、シアノアクリレート系紫外線吸収剤として、シーソーブ501 0.005部とアデカスタブ1413 0.005部を組み合わせて使用した以外は、実施例1と同様にレンズを作成し、評価を行った。組成を表1に、評価結果を表2に示す。
【0119】
実施例7
インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン化合物として、PC1 2部、シアノアクリレート系紫外線吸収剤として、シーソーブ501 0.5部からなるフォトクロミック組成物を、BPE−500 56部、A400 11部、TMPT 11部、EB−1830 11部、GMA 11部からなる重合性単量体100部に溶解し、光重合開始剤であるCGI1800を0.3質量部、安定剤であるビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートを5質量部、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]を3質量部、シランカップリング剤であるγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを7質量部、およびN−メチルジエタノールアミンを3質量部添加して十分に混合し、フォトクロミック硬化性組成物とした。
【0120】
続いて、前記方法で得られたフォトクロミック硬化性組成物約2gをMIKASA製スピンコーター1H−DX2を用いて、レンズ基材(CR39:アリル樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.50)の表面にスピンコートした。この表面がコートされたレンズを窒素ガス雰囲気中で出力120mW/cmのメタルハライドランプを用いて、3分間照射し、硬化させた(クロメン化合物が分散した高分子膜で被覆された光学物品(フォトクロミックプラスチックレンズ)を作製した。(高分子膜の厚さ:40μm)。
【0121】
得られたレンズを試料とし、実施例1と同様の評価を行った。組成を表1に、結果を表3に示す。
【0122】
【表3】

【0123】
比較例1
インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン化合物として、PC1 0.04部を使用し、紫外線吸収剤を使用しなかった以外は、実施例1と同様にレンズを作成し、評価を行った。
【0124】
組成を表1に、評価結果を表4に示す。
【0125】
実施例1と比較すると、繰り返し耐久性に劣ることが分かる。
【0126】
【表4】

【0127】
比較例2
インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン化合物として、PC1 0.04部を使用し、紫外線吸収剤を使用しなかった以外は、実施例1と同様にレンズを作成し、評価を行った。
【0128】
組成を表1に、評価結果を表4に示す。
【0129】
実施例5と比較すると、繰り返し耐久性に劣ることが分かる。
【0130】
なお、紫外線吸収剤の添加による繰り返し耐久性の向上効果は、実施例1、比較例1の重合性単量体を用いた系に比べるとやや小さいことが分かる。
【0131】
比較例3
インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン化合物として、PC1 0.04部を使用し、紫外線吸収剤として、シーソーブ501 1部を使用した以外は、実施例1と同様にレンズを作成し、評価を行った。組成を表1に、評価結果を表4に示す。
【0132】
インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン化合物に対する紫外線吸収剤の添加量が多い場合は、繰り返し耐久性は良いものの、発色濃度の低下が著しいことが分かる。
【0133】
比較例4
インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン化合物として、PC1 0.04部を使用し、紫外線吸収剤として、ベンゾエート系のスミソーブ400 0.01部を使用した以外は、実施例1と同様にレンズを作成し、評価を行った。組成を表1に、評価結果を表4に示す。
【0134】
最も長波長域の最大吸収波長が255nmと短い紫外線吸収剤を用いた場合は、繰り返し耐久性の向上効果が見られないことが分かる。
【0135】
比較例5
インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン化合物として、PC1 0.04部を使用し、紫外線吸収剤として、ベンゾトリアゾール系のアデカスタブL36 0.01部を使用した以外は、実施例1と同様にレンズを作成し、評価を行った。組成を表1に、評価結果を表4に示す。
【0136】
最も長波長域の最大吸収波長が355nmと長い紫外線吸収剤を用いた場合は、繰り返し耐久性は良いものの、発色濃度の低下が著しいことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

で表される基本骨格を有するインデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン化合物100質量部に対し、最も長波長域の最大吸収波長が280〜330nmの範囲に存在する紫外線吸収剤を1〜300質量部含むフォトクロミック組成物。
【請求項2】
最も長波長域の最大吸収波長が280〜330nmの範囲に存在する紫外線吸収剤が、下記式(2)
【化2】

(式中、Rは置換基を有してもよいアリール基であり、Rは炭素数1〜12の有機基であり、xは1又は2である。)
で表されるシアノアクリレート系の紫外線吸収剤である請求項1に記載のフォトクロミック組成物。
【請求項3】
最も長波長域の最大吸収波長が280〜330nmの範囲に存在する紫外線吸収剤が、下記式(3)
【化3】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アラルコキシ基を表す。)
で表されるベンゾフェノン系の紫外線吸収剤である請求項1に記載のフォトクロミック組成物。
【請求項4】
インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン化合物が、下記式(4)
【化4】


{式中、
は、ヒドロキシル基、アルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、窒素原子を含み該窒素原子がベンゼン環の炭素原子と直接結合する複素環基、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アラルキル基、アリール基、又はアリールオキシ基であり、
pは、0〜4の整数であり、pが2以上の場合、Rは、互いに同一でも異なる基であってもよく、また、pが2以上でかつRが隣接して存在する場合、互いに隣接する2つのRが一緒になってアルキレンジオキシ基を形成してもよく、
は、ヒドロキシル基、アルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、窒素原子を含み該窒素原子がベンゼン環の炭素原子と直接結合する複素環基、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アラルキル基、アリールオキシ基、又はアリール基であり、
qは、0〜4の整数であり、qが2以上の場合、Rは、互いに同一でも異なる基であってもよく、
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、窒素原子を含み該窒素原子がインデン環の炭素原子と直接結合する複素環基、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、ヒドロキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アラルキル基、アリールオキシ基、又はアリール基であり、
また、R及びRは、互いに一緒になって環構造を形成してもよく、
10及びR11は、それぞれ独立に、下記式(5)
【化5】

(式中、
12は、アリール基、又はヘテロアリール基であり、
13は、水素原子、アルキル基、又はハロゲン原子であり、
mは、1〜3の整数である。)
で示される基、下記式(6)
【化6】

(式中、
14は、アリール基、又はヘテロアリール基であり、
nは、1〜3の整数である。)
で示される基、アリール基、ヘテロアリール基、又はアルキル基であり、
また、R10及びR11は、互いに一緒になって環構造を形成してもよい。}
で表される化合物である、請求項1〜3のいずれかに記載のフォトクロミック組成物。
【請求項5】
重合性単量体100質量部に対して、請求項1〜4のいずれかに記載のフォトクロミック組成物0.01〜20質量部を含んでなるフォトクロミック重合硬化性組成物。
【請求項6】
請求項5に記載のフォトクロミック重合硬化性組成物を重合硬化してなるフォトクロミック硬化体。
【請求項7】
高分子材料100質量部に対して、請求項1〜4のいずれかに記載のフォトクロミック組成物0.01〜20質量部含んでなり、該フォトクロミック組成物が該高分子材料に分散したフォトクロミック成型体。

【公開番号】特開2013−35877(P2013−35877A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280203(P2009−280203)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】