説明

フッ化ビニリデン系樹脂組成物、樹脂フィルム、太陽電池用バックシート及び太陽電池モジュール

【課題】エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)系封止材に直接積層した場合でも、耐湿熱性の耐久性評価において黄変が発生しにくいフッ化ビニリデン系樹脂組成物、樹脂フィルム、太陽電池用バックシート及び太陽電池モジュールを提供する。
【解決手段】フッ化ビニリデン樹脂を50質量%以上含有する樹脂成分100質量部に対して、融点が300℃未満の有機酸を0.01〜5質量部配合したフッ化ビニリデン系樹脂組成物を製膜し、厚さが10〜200μmのフッ化ビニリデン系樹脂フィルムとする。そして、このフッ化ビニリデン系樹脂フィルムと、ポリエチレンテレフタレート系フィルムなどの電気絶縁性樹脂フィルムとを積層して、太陽電池用バックシートとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化ビニリデン系樹脂組成物及びこの樹脂組成物を用いた樹脂フィルム、太陽電池用バックシート並びに太陽電池モジュールに関する。より詳しくは、太陽電池モジュールなどの耐候性が要求される用途に使用される樹脂フィルムの変色抑制技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化問題に対応して二酸化炭素の排出を抑制するために、各種自然エネルギーの利用が進められており、その中でも特に、太陽エネルギーを利用した太陽電池が注目を集めている。一方、太陽電池モジュールは、屋外で長期間使用されることから、耐久性に対する要求が高く、一般に、太陽電池セルをエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂などの熱可塑性樹脂で封止し、太陽光が照射される面はガラスで覆い、裏面はバックシートで保護した構造となっている。
【0003】
この太陽電池モジュールの裏面保護用のバックシートを構成する耐候性樹脂フィルム材料としては、機械的強度、耐薬品性及び耐候性に優れていることから、フッ化ビニリデン系樹脂が注目されている。そして、従来、バックシートとして、フッ化ビニリデン系樹脂フィルムとポリエチレンテレフタレートフィルムとの積層体を使用した太陽電池モジュールや、無機酸化物をコーティングした透明高防湿フィルムを備える積層フィルムを使用した太陽電池モジュールが提案されている(例えば、特許文献1,2参照。)。
【0004】
また、バックシートは、太陽電池セルや配線を保護することを目的として太陽電池モジュールの最下層に設けられるが、保護目的に加えて、太陽光の反射率を高め、太陽電池モジュールの発電効率を高める目的で、白色シートが用いられることがある(例えば、特許文献3,4参照。)。例えば、白色のフッ化ビニリデン系樹脂フィルムは、フッ化ビニリデン系樹脂組成物に酸化チタンなどの白色顔料を含有させて、フィルム化することにより得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−83978号公報
【特許文献2】特開2000−174296号公報
【特許文献3】特開2009−71236号公報
【特許文献4】特開2008−28294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、太陽電池セルを封止する封止材としては、EVA樹脂が使用されており、このEVA系封止材の上にフッ化ビニリデン系樹脂フィルムを使用したバックシートが熱融着される。しかしながら、EVA系封止材とフッ化ビニリデン系樹脂フィルムとが接触する構成の太陽電池モジュールの場合、高温高湿の条件下で耐久性試験を行うと、バックシート(フッ化ビニリデン系樹脂フィルム)が黄色に変色するという問題点がある。
【0007】
そこで、本発明は、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)系封止材に直接積層した場合でも、耐湿熱性の耐久性評価において黄変が発生しにくいフッ化ビニリデン系樹脂組成物、樹脂フィルム、太陽電池用バックシート及び太陽電池モジュールを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前述した課題を解決するために、鋭意実験検討を行った結果、フッ化ビニリデン系樹脂フィルムの変色は、封止材に用いられている太陽電池モジュール用EVA樹脂中に含有されるヒンダードアミン系の光安定剤に起因していることがわかった。具体的には、高温・高湿の環境下に長時間置かれると、EVA樹脂中のヒンダードアミン系光安定剤により、EVA系封止材とフッ化ビニリデン系樹脂フィルムとの界面に局所的にアルカリ雰囲気が生じ、これにより、フッ化ビニリデン系樹脂フィルムに脱フッ化反応が起こり、ポリエン構造が生成していることを発見した。
【0009】
そこで、本発明者は、EVA系封止材とフッ化ビニリデン系樹脂フィルムとの界面におけるアルカリ雰囲気の発生を抑制するための方法を検討し、フッ化ビニリデン系樹脂フィルムに有機酸を含有させることで、耐湿熱性の耐久性評価における黄変を抑制できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
即ち、本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂組成物は、フッ化ビニリデン樹脂を50質量%以上含有する樹脂成分100質量部に対して、融点が300℃未満の有機酸を0.01〜5質量部配合したものである。
この樹脂組成物では、融点が100〜200℃の有機酸を使用することができる。
また、樹脂成分がメタクリル酸エステル樹脂を5〜50質量%含有していてもよい。
更に、樹脂成分100質量部に対して、酸化チタンが5〜30質量部配合されていてもよい。
【0011】
本発明に係るフッ化ビニリデン系樹脂フィルムは、前述したフッ化ビニリデン系樹脂組成物からなり、厚さが10〜200μmのものである。
また、本発明に係る太陽電池用バックシートは、前述したフッ化ビニリデン系樹脂フィルムを用いたものである。
更に、本発明に係る太陽電池モジュールは、この太陽電池バックシートを用いたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、融点が300℃未満の有機酸を特定量含有しているため、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)系封止材に直接積層した場合でも、耐湿熱性の耐久性評価において黄変が発生しにくいフッ化ビニリデン系樹脂フィルムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第4の実施形態の太陽電池モジュールの構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0015】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態に係るフッ化ビニリデン系樹脂組成物(以下、単に樹脂組成物ともいう。)について説明する。本実施形態の樹脂組成物は、フッ化ビニリデン樹脂を主成分とし、樹脂成分100質量部に対して、融点が300℃未満の有機酸が0.01〜5質量部配合されている。
【0016】
[樹脂成分]
本実施形態の樹脂組成物は、樹脂成分として、フッ化ビニリデン樹脂を、樹脂成分全量あたり50質量%以上含有する。本実施形態の樹脂組成物に配合されるフッ化ビニリデン樹脂は、フッ化ビニリデン単量体単位を有するビニル化合物であれば、その構造などは特に限定されるものではなく、フッ化ビニリデンのホモポリマーでもよく、フッ化ビニリデンと他のビニル化合物単量体の共重合体であってもよい。
【0017】
また、このフッ化ビニリデンと共重合体を形成するビニル化合物としては、例えばフッ化ビニル、四フッ化エチレン、三フッ化塩化エチレン、六フッ化プロピレンなどのフッ素化されたビニル化合物や、スチレン、エチレン、ブタジエン及びプロピレンなどの公知のビニル単量体が挙げられる。
【0018】
更に、本実施形態の樹脂組成物では、フッ化ビニリデン樹脂と共に、メタクリル酸エステル樹脂を含有していてもよい。その場合、メタクリル酸エステル樹脂の配合量は、樹脂成分全量あたり5〜50質量%であることが望ましい。メタクリル酸エステル樹脂は、フィルムに製膜した際に他の樹脂との接着性を高める効果がある。フッ化ビニリデン樹脂は他の素材との接着性に劣るが、メタクリル酸エステル樹脂を配合することにより、接着性を改善することができる。
【0019】
本実施形態の樹脂組成物に配合されるメタクリル酸エステル樹脂は、メタクリル酸エステル単量体に基づくビニル重合体であれば、その構造などは特に限定するものではない。このメタクリル酸エステル単量体としては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ペンチル及びメタクリル酸ヘキシルなどが挙げられるが、特に、メタクリル酸メチルが好適である。また、メタクリル酸エステル単量体におけるプロピル基、ブチル基、ペンチル基及びヘキシル基などのアルキル基は、直鎖であってもよく、枝分かれしてもよい。
【0020】
また、本実施形態の樹脂組成物に配合されるメタクリル酸エステル樹脂は、メタクリル酸エステル単量体の単独重合体や、複数のメタクリル酸エステル単量体の共重合体であってもよい。又は、メタクリル酸エステル以外の公知のビニル化合物であるエチレン、プロピレン、ブタジエン、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル及びアクリル酸などに由来する単量体単位を有してもよい。
【0021】
[有機酸]
本実施形態の樹脂組成物には、前述した樹脂成分100質量部に対して、融点が300℃未満の有機酸が0.01〜5質量部配合されている。これにより、太陽電池用バックシートに用いた場合に、長期の耐湿熱性の耐久性評価において、アルカリ雰囲気の発生を防止し、黄色系の変色を抑制することができる。
【0022】
ただし、有機酸は樹脂成分に溶融混和することで効果を発現するため、融点が300℃以上の有機酸を配合すると、組成物中の分散が不均一となり、添加しても十分な効果が得られないことがある。なお、有機酸の融点は、製造時の操作性や入手しやすさなどの観点から、100〜200℃以上であることが好ましく、より好ましくは150℃以上である。
【0023】
本実施形態の樹脂組成物に配合される有機酸は、融点が300℃未満であればよく、具体的には、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンテン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及びメタトルイル酸などの脂肪族又は芳香族のモノカルボン酸、コハク酸、L−酒石酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、リンゴ酸及び4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸などの脂肪族又は芳香族のジカルボン酸、クロトン酸、アクリル酸及びメタクリル酸などの不飽和カルボン酸、アニス酸、m−アミノ安息香酸、m−クロロ安息香酸、p−クロロ安息香酸及びヒドロキシ安息香酸などの置換安息香酸類、クエン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸及びシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸などのポリカルボン酸などが挙げられる。
【0024】
一方、有機酸の配合量が、樹脂成分100質量部あたり0.01質量部未満であると、前述した効果が得られないことがあり、5質量部を超えて添加すると、樹脂組成物中での分散が不均一となり、フィルムへの製膜性が低下する。なお、有機酸の配合量は、樹脂成分100質量部あたり0.05〜1質量部であることが好ましい。これにより、黄変抑制効果が高く、製膜性にも優れた樹脂組成物が得られる。
【0025】
[酸化チタン]
本実施形態の樹脂組成物には、酸化チタンを配合することもできる。フッ化ビニリデン樹脂は耐候性に優れているため、樹脂フィルム自体の耐候性は十分に確保することできるが、酸化チタンを配合することにより、太陽電池用バックシートに使用した場合に、太陽光の反射率を高め、太陽光モジュールの発電効率を向上させることができる。
【0026】
ただし、酸化チタンの配合量が、樹脂成分100質量部あたり5質量部未満の場合、太陽光の反射率を高める効果が十分に得られない虞がある。また、樹脂成分100質量部あたり30質量部を超えて酸化チタンを配合すると、樹脂組成物中の分散が不均一になったり、フィルムの製膜が困難になったりする虞がある。よって、酸化チタンを配合する場合は、樹脂成分100質量部あたり5〜30質量部とすることが好ましい。
【0027】
本実施形態の樹脂組成物に配合される酸化チタンとしては、塩化物法又は硫酸塩法により得られるルチル型又はアナターゼ型結晶形態のものが好ましい。例えば、塩化物法により酸化チタンを製造する場合には、TiClを酸化してTiO粒子にする。また、硫酸塩法により酸化チタン(TiO)を製造する場合には、硫酸及びチタンを含有する鉱石を溶解し、得られた溶液を一連の工程を通してTiOを生成させる。
【0028】
実用的には、耐候性劣化による着色が少ないルチル型の結晶構造の酸化チタンを使用することが望ましい。また、樹脂組成物中の分散性を高め、かつ樹脂分解作用を低減するため、最表面に無機被覆層が形成されている酸化チタンが特に好ましい。
【0029】
酸化チタンの粒子径は、沈降法により算出した平均粒子径で、0.05〜2.0μmであることが好ましい。酸化チタンの粒子径が0.05μmよりも小さいと、可視光の透過による透明性を示すようになり、また、酸化チタンの粒子径が2μmを超えると、樹脂組成物への分散性が劣化して凝集しやすくなるからである。
【0030】
なお、本実施形態の樹脂組成物には、前述した酸化チタン以外に、無機顔料として、酸化亜鉛、硫化亜鉛又は硫酸バリウムなどが配合されていてもよく、また、隠蔽性を向上させるため、酸化チタン以外の金属酸化物が配合されていてもよい。更に、本実施形態の樹脂組成物には、前述した各成分に加えて、酸化防止剤、分散剤、カップリング剤、熱安定剤、界面活性剤、帯電防止剤、防曇剤及び紫外線吸収剤などが添加されていてもよい。
【0031】
以上詳述したように、本実施形態のフッ化ビニリデン系樹脂組成物においては、融点が300℃未満の有機酸を特定量配合しているため、製膜性に優れ、EVA系封止材に直接積層した場合でも、耐湿熱性の耐久性評価において黄変が発生しにくいフッ化ビニリデン系樹脂フィルムが得られる。
【0032】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係るフッ化ビニリデン系樹脂フィルム(以下、単に樹脂フィルムともいう。)について説明する。本実施形態の樹脂フィルムは、前述した第1の実施形態に係る樹脂組成物を製膜したものであり、その厚さは10〜200μmである。なお、樹脂フィルムの厚さが、10μmの場合は機械的強度が不足することがあり、また、200μmを超えると製膜性が低下する。
【0033】
[製造方法]
本実施形態の樹脂フィルムの製造方法は、特に限定されるものではなく、第1の実施形態の樹脂組成物を、例えば溶融押出成形などの一般的な方法で製膜することができる。各種製膜方法の中でも、押出機によりフィルム用T−ダイを用いて、製膜する方法が好ましい。また、原料には、溶融混練した樹脂組成物を使用してもよいが、個々の原料を配合して、直接、単軸又は二軸の押出機に供給し、例えば150〜260℃の温度でそれらを溶融して、フィルム用T−ダイを通して押し出すことによって、製膜することもできる。
【0034】
本実施形態のフッ化ビニリデン系樹脂フィルムは、融点が300℃未満の有機酸を特定量含有しているため、EVA系封止材に直接積層した場合でも、有機酸によりアルカリ雰囲気の発生を抑えることができる。これにより、高温・高湿の環境下で、長期間耐久性試験を行っても、黄変しにくい太陽電池用バックシートを実現することができる。
【0035】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態に係る太陽電池用バックシート(以下、単にバックシートともいう。)について説明する。本実施形態のバックシートは、前述した第2の実施形態のフッ化ビニリデン系樹脂フィルムと、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)系フィルムなどの電気絶縁性樹脂フィルムとを積層し、貼り合わせることにより得られる。
【0036】
なお、これらのフィルムの貼り合わせには、各種接着剤による接着が可能である。また、PET系フィルムなどの他の樹脂フィルムは、バックシートに、電気絶縁性、遮蔽性、水蒸気バリア性(防湿性)を付与する目的で積層されている。
【0037】
本実施形態のバックシートは、融点が300℃未満の有機酸を特定量含有するフッ化ビニリデン系樹脂フィルムを使用しているため、EVA系封止材に直接積層した場合でも、有機酸よってアルカリ雰囲気の発生が抑えられる。このため、長期間の耐湿熱性の耐久性評価を行っても変色が少ない。
【0038】
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態に係る太陽電池モジュールについて説明する。図1は本実施形態の太陽電池モジュールの構造を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本実施形態の太陽電池モジュール10は、光起電力素子である太陽電池セル5がEVA系封止材2により封止されている。
【0039】
そして、太陽光6が照射される面には、ガラスなどからなる透明基板1が積層され、裏面側には前述した第3の実施形態のバックシート3が積層されており、これらの周囲には、フレーム4が設けられている。なお、EVA系封止材2とバックシート3とは、100〜150℃の加熱プレスにより貼り合わせることができる。
【0040】
本実施形態の太陽電池モジュール10は、バックシート3に融点が300℃未満の有機酸を特定量含有するフッ化ビニリデン系樹脂フィルムを使用しているため、EVA系封止材2にバックシート3が直接積層されているにもかかわらず、耐湿熱性の耐久性評価におけるバックシート3の黄変を抑制することができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について説明する。本実施例においては、以下に示す方法で、実施例及び比較例のフッ化ビニリデン系樹脂フィルムを作製し、その耐湿熱性を評価した。
【0042】
<原料>
(1)フッ化ビニリデン樹脂(アルケマ社製 カイナーK720)
:結晶性ポリマーで、融点が170℃のポリフッ化ビニリデン樹脂。MFR(232℃,3.8kg加重)は5〜29g/10分。
(2)メタクリル酸エステル系樹脂(三菱レーヨン社製 ハイペットHBS000)
:アクリル酸ブチル(n−BA)とメタクリル酸ブチル(BMA)のゴム成分を含むメタクリル酸エステル系樹脂。MFR(232℃,3.8kg加重)は4〜7g/10分。
(3)酸化チタン(デュポン社製 R960)
:粒子径が約0.35μm。純チタン分が約89質量%。
【0043】
(4)有機酸
A.メタトルイル酸(三菱ガス化学社製):分子量136g/mol,融点112℃
B.コハク酸(扶桑化学工業社製):分子量118g/mol,融点182〜192℃
C.イソフタル酸(三菱ガス化学社製):分子量166g/mol,融点345〜348℃
D.クエン酸(磐田化学工業社製):分子量192g/mol,融点135℃
E.L−酒石酸(磐田化学工業社製):分子量150g/mol,融点168〜170℃
【0044】
<評価試料の作製方法>
(実施例1)
先ず、フッ化ビニリデン樹脂100質量部に対して、有機酸A(メタトルイル酸)を0.5質量部配合した混合物を、φ30mmの2軸押出機によって混練し、コンパウンドを作製した。次に、このコンパウンドをφ40mmの単軸押出機にて、押出温度240℃にてT−ダイを用いてフィルム成形し、厚さ20μmのフィルムを得た。
【0045】
(実施例2)
樹脂成分を、フッ化ビニリデン樹脂:80質量%、メタクリル酸エステル系樹脂:20質量%とした以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、厚さ20μmのフィルムを得た。
【0046】
(実施例3)
樹脂成分100質量部に対して、酸化チタンを22質量部、有機酸A(メタトルイル酸)を0.5質量部配合した以外は、前述した実施例2と同様の方法及び条件で、厚さ20μmのフィルムを得た。
【0047】
(実施例4)
樹脂成分100質量部に対して、有機酸B(コハク酸)を0.5質量部配合した以外は、前述した実施例3と同様の方法及び条件で、厚さ20μmのフィルムを得た。
【0048】
(実施例5)
樹脂成分100質量部に対して、有機酸A(メタトルイル酸)を0.05質量部配合した以外は、前述した実施例4と同様の方法及び条件で、厚さ20μmのフィルムを得た。
【0049】
(実施例6)
樹脂成分100質量部に対して、有機酸A(メタトルイル酸)を1.0質量部配合した以外は、前述した実施例5と同様の方法及び条件で、厚さ20μmのフィルムを得た。
【0050】
(実施例7)
樹脂成分100質量部に対して、有機酸D(クエン酸)を0.5質量部配合した以外は、前述した実施例2と同様の方法及び条件で、厚さ20μmのフィルムを得た。
【0051】
(実施例8)
樹脂成分100質量部に対して、有機酸E(L−酒石酸)を0.5質量部配合した以外は、前述した実施例2と同様の方法及び条件で、厚さ20μmのフィルムを得た。
【0052】
(比較例1)
先ず、フッ化ビニリデン樹脂を、φ30mmの2軸押出機によって混練し、コンパウンドを作製した。次に、このコンパウンドをφ40mmの単軸押出機にて、押出温度240℃にてT−ダイを用いてフィルム成形し、厚さ20μmのフィルムを得た。
【0053】
(比較例2)
樹脂成分を、フッ化ビニリデン樹脂:40質量%、メタクリル酸エステル系樹脂:60質量%とした以外は、前述した実施例2と同様の方法及び条件で、厚さ20μmのフィルムを得た。
【0054】
(比較例3)
樹脂成分100質量部に対して、酸化チタンを45質量部配合した以外は、前述した比較例2と同様の方法及び条件で、厚さ20μmのフィルムを得た。
【0055】
(比較例4)
樹脂成分100質量部に対して、有機酸C(イソフタル酸)を0.5質量部配合した以外は、前述した実施例4と同様の方法及び条件で、厚さ20μmのフィルムを得た。
【0056】
(比較例5)
樹脂成分100質量部に対して、有機酸A(メタトルイル酸)を0.005質量部配合した以外は、前述した実施例5と同様の方法及び条件で、厚さ20μmのフィルムを得た。
【0057】
(比較例6)
樹脂成分100質量部に対して、有機酸A(メタトルイル酸)を7.0質量部配合した以外は、前述した実施例5と同様の方法及び条件で、厚さ20μmのフィルムを得た。
【0058】
(比較例7)
樹脂成分を、フッ化ビニリデン樹脂:80質量%、メタクリル酸エステル系樹脂:20質量%とした以外は、前述した比較例1と同様の方法及び条件で、厚さ20μmのフィルムを得た。
【0059】
<評価方法>
前述した方法で作製した実施例及び比較例の樹脂フィルムを、プレス機により、加熱温度230℃の条件で、太陽電池モジュール用EVA樹脂フィルム(EVA系封止材)と貼り合わせた。そして、これらの試料について、耐湿熱性評価として、JIS C8990に準拠し、環境試験機を用いて、温度85℃±2℃、相対湿度85%±5%の条件で、3000時間のダンプヒート試験を行った。
【0060】
そして、EVA貼り合わせ面のフィルムの黄変度は、JIS K7105に準拠して色差測定を行い、ΔYI(イエローインデックス)値を算出し、その値により評価した。その際、ΔYI値が10以下であれば実用上問題ないレベルと判断した。その結果を、下記表1及び表2にまとめて示す。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
上記表1に示すように、本発明の範囲内で作製した実施例1〜8のフィルムは、有機酸が添加されていない比較例1及び比較例7のフィルムに比べて、黄変度が大幅に低減されていた。
【0064】
これに対して、有機酸は添加されているが、フッ化ビニリデン樹脂の含有量が50質量%未満の比較例2,3のフィルムは、耐光性が低下し、黄変を十分に抑制することができなかった。加えて、比較例3のフィルムは、酸化チタンの配合量が、樹脂成分100質量部あたり30質量部を超えているため、製膜性も劣っていた。
【0065】
また、融点が300℃以上の有機酸を添加した比較例4のフィルムは、組成物中で有機酸が均一に分散されず、黄変を抑制する効果が得られなかった。同様に、有機酸の添加量が、樹脂成分100質量部あたり0.01質量部未満の比較例5のフィルムも、黄変を抑制する効果が不十分であった。一方、有機酸の添加量が、樹脂成分100質量部あたり5質量部を超えている比較例6のフィルムでは、製膜中に穴あきが発生し、評価用の試料を作製することができなかった。
【0066】
以上の結果から、本発明によれば、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂からなる封止材に直接積層した場合でも、耐湿熱性の耐久性評価において黄変が発生しにくいフッ化ビニリデン系樹脂フィルムを実現できることが確認された。
【符号の説明】
【0067】
1 透明基板
2 EVA系封止材
3 バックシート
4 フレーム
5 太陽電池セル
6 太陽光
10 太陽電池モジュール


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデン樹脂を50質量%以上含有する樹脂成分100質量部に対して、融点が300℃未満の有機酸を0.01〜5質量部配合したフッ化ビニリデン系樹脂組成物。
【請求項2】
有機酸の融点が100〜200℃であることを特徴とする請求項1に記載のフッ化ビニリデン系樹脂組成物。
【請求項3】
樹脂成分はメタクリル酸エステル樹脂を5〜50質量%含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のフッ化ビニリデン系樹脂組成物。
【請求項4】
樹脂成分100質量部に対して、酸化チタンが5〜30質量部配合されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のフッ化ビニリデン系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のフッ化ビニリデン系樹脂組成物からなり、厚さが10〜200μmであるフッ化ビニリデン系樹脂フィルム。
【請求項6】
請求項5に記載のフッ化ビニリデン系樹脂フィルムを用いた太陽電池用バックシート。
【請求項7】
請求項6に記載の太陽電池バックシートを用いた太陽電池モジュール。

【図1】
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【公開番号】特開2013−104022(P2013−104022A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249958(P2011−249958)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】