説明

フッ素ドープ酸化スズ膜形成方法

【課題】キャリア電子の移動度が高く、光電変換素子の入射光側電極として好適に用いられるフッ素ドープ酸化スズ膜の形成方法の提供。
【解決手段】膜厚600nm以上のフッ素ドープ酸化スズ膜の基体上に形成するフッ素ドープ酸化スズ膜の形成方法であって、成膜開始時の基体温度をT1とし、成膜終了時の基体温度をT2とするとき、下記(1)〜(3)の条件を満たすように、基体温度を下降させつつ、CVD法を用いて、200Pa以下の圧力下で、フッ素ドープ酸化スズ膜を基体上に形成した後、非酸化雰囲気で基体温度300〜650℃で熱処理することを特徴とするフッ素ドープ酸化スズ膜の形成方法。
(1)T2=360〜380℃
(2)ΔT(T1−T2)=45〜65℃
(3)少なくともフッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚200nmが達するまでに基体温度の下降を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素ドープ酸化スズ膜の形成方法に関する。具体的には、キャリア電子の移動度が高く、薄膜系太陽電池のような光電変換素子の入射光側電極として好適に用いられるフッ素ドープ酸化スズ膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子である薄膜系太陽電池には、発電層の種類により、アモルファスシリコン(a−Si)系、多結晶シリコン系などがあるが、これらの薄膜シリコン系太陽電池には、その入射光側電極として透明導電性酸化物膜が使用されている。この透明導電性酸化物膜は、光電変換効率を高めるために低抵抗・高透明であり、かつ、光散乱性能が大きいことが要求されている。
【0003】
透明導電性酸化物膜としては酸化スズ膜や酸化インジウム膜などが知られている。中でも酸化スズ膜は化学的に安定な材料であり、また低価格であることから、光電変換素子の入射光側電極として用いられる透明導電性酸化物膜として有用であり、特に、ドーパントとしてフッ素を含有するフッ素ドープ酸化スズ膜は、膜の光線吸収が少なく高透明であることから好ましい。
【0004】
一般に、透明導電性酸化物膜では低抵抗、高透明であることが要求されるが、導電性を左右するキャリア電子密度を高くするにつれて近赤外から可視光域で徐々に光吸収が増加するという矛盾する側面をもっているため、低抵抗、高透明を両立させることは極めて困難である。しかし、光電変換素子の入射光側電極として用いられる透明導電性酸化物膜においては導電性をできるだけ高く維持したまま透明化を図ることが重要であるとされている。
フッ素ドープ酸化スズ膜は比抵抗が10-4Ω・cm台まで到達し、導電性の高い膜が比較的容易に得られる反面、逆に透過率の高い膜は得にくい傾向があった。これはフッ素ドープ酸化スズ膜ではキャリア電子密度を比較的容易に増大することが低抵抗化を可能にしているのであるが、キャリア電子の増加は光学吸収を招くため透過率は低下してしまうためである。
【0005】
フッ素ドープ酸化スズ膜を含む透明導電性酸化物膜の比抵抗は下記式を満たす。
比抵抗ρ(Ω・cm)=1/{キャリア電荷q(C)×キャリア電子密度n(個/cm3)×キャリア電子移動度μ(cm2/V・s)}
【0006】
フッ素ドープ酸化スズ膜の形成方法としては、膜厚の制御のしやすさや被覆性の良さなどからCVD法が好ましく用いられる(特許文献1参照)。
特許文献1に記載されているように、フッ素ドープ酸化スズ膜の形成には、従来常圧CVD法が用いられていた。
これに対し、10kPa以下の圧力下にてCVD法を実施する減圧CVD法を用いた場合、より不純物が少ないフッ素ドープ酸化スズ膜を形成することができることから、キャリア電子の移動度が高いフッ素ドープ酸化スズ膜を得ることができると考えられる。
非特許文献1では、減圧CVD法を用いて形成したフッ素ドープ酸化スズ膜で75.8cm2/V・sの移動度を達成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−168507号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】第三回革新的太陽光発電国際シンポジウム発表資料、“Full spectrum TCO -Improving mobility of SnO2:F by LP-CVD-”Masanobu Isshiki, Junich Okubo, Toru Ikeda and Satoru Takaki, ASAHI GLASS CO., LTD.”2010年10月7日〜8日、開催場所:東工大蔵前会館(Tokyo Tech Front)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決するため、キャリア電子の移動度が高く、光電変換素子の入射光側電極として好適に用いられるフッ素ドープ酸化スズ膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、減圧CVD法を用いて形成されるフッ素ドープ酸化スズ膜について、フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚と、キャリア電子の移動度と、の関係を調べたところ、両者の間には関連性があることを見出した。
図1は、減圧CVD法を用いて形成されるフッ素ドープ酸化スズ膜について、フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚(nm)と、キャリア電子の移動度(cm2/V・s)と、の関係を示したグラフである。また、図2は、減圧CVD法を用いて形成されるフッ素ドープ酸化スズ膜について、フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚(nm)と、キャリア電子密度(個/cm3)と、の関係を示したグラフである。ここで、減圧CVD法は下記条件で実施した。また、フッ素ドープ酸化スズ膜は、後述する実施例と同様の基体、すなわち、無アルカリガラス基板を用いた。
原料ガス流量
SnCl4:2sccm
2O :200sccm
HF :8sccm
キャリアガス(N2)流量:35sccm(SnCl4のキャリアガス)
キャリアガス(N2)流量:185sccm(H2Oのキャリアガス)
雰囲気圧力:100Pa
基板温度:380℃
フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚は、成膜時間により調節した。
フッ素ドープ酸化スズ膜の形成後、基板温度が室温になるまで冷却してから、窒素雰囲気下(窒素100%、1気圧)にて、基板温度400℃で10分間アニール(熱処理)した。その後、後述する実施例と同様の手順でフッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚、キャリア電子の移動度およびキャリア電子密度を測定した。
【0011】
図1から明らかなように、キャリア電子の移動度を高いフッ素ドープ酸化スズ膜を得るためには、フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚を大きくすることが好ましい。
【0012】
次に、本願発明者らは、膜厚が異なるフッ素ドープ酸化スズ膜について、減圧CVD法実施時の基体温度(℃)と、キャリア電子の移動度(cm2/V・s)との関係を調べた。図3は、膜厚が異なるフッ素ドープ酸化スズ膜(膜厚:約200nm、約900nm)について、減圧CVD法実施時の基体温度(℃)と、キャリア電子の移動度(cm2/V・s)と、の関係を示したグラフである。また、図4は、膜厚が異なるフッ素ドープ酸化スズ膜(膜厚:約200nm、約900nm)について、減圧CVD法実施時の基体温度(℃)と、キャリア電子の密度(個/cm3)と、の関係を示したグラフである。ここで、基体温度を除いた減圧CVD法の実施条件は図1,2と同様である。
図3から、キャリア電子の移動度が最大値となる減圧CVD実施時の基体温度がフッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚によって異なることがわかる。一方、図4から、キャリア電子の移動度が最大値となる減圧CVD実施時の基体温度付近では、キャリア電子密度は、減圧CVD実施時の基体温度によってほとんど変化しない。
【0013】
上記の知見によれば、減圧CVD法によるフッ素ドープ酸化スズ膜の形成時において、フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚に応じて、基体温度を最適化することで、キャリア電子の移動度をさらに向上させることができると考えられる。
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、膜厚600nm以上のフッ素ドープ酸化スズ膜を基体上に形成するフッ素ドープ酸化スズ膜の形成方法であって、
成膜開始時の基体温度をT1とし、成膜終了時の基体温度をT2とするとき、
下記(1)〜(3)の条件を満たすように、基体温度を下降させつつ、CVD法を用いて、200Pa以下の圧力下で、フッ素ドープ酸化スズ膜を基体上に形成した後、非酸化雰囲気で、基体温度300〜650℃で熱処理することを特徴とするフッ素ドープ酸化スズ膜の形成方法を提供する。
(1)T2=360〜380℃
(2)ΔT(T1−T2)=45〜65℃
(3)少なくともフッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚200nmが達するまでに基体温度の下降を開始する。
【0014】
本発明のフッ素ドープ酸化スズ膜の形成方法において、前記フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚の変化に対して、前記基体温度を連続的に下降させてもよい。
【0015】
本発明のフッ素ドープ酸化スズ膜の形成方法において、前記フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚の変化に対して、前記基体温度が一定となる段階を含んでいてもよい。
【0016】
本発明のフッ素ドープ酸化スズ膜の形成方法において、CVD法によるフッ素ドープ酸化スズ膜の成膜時における原料ガス中の四塩化スズに対する水の量が流量比(H2O/SnCl4)で30〜400であることが好ましい。
【0017】
本発明のフッ素ドープ酸化スズ膜の形成方法において、CVD法によるフッ素ドープ酸化スズ膜の成膜時における原料ガス中の四塩化スズに対するフッ化水素の量が流量比(HF/SnCl4)で1〜40であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法では、減圧CVD法によるフッ素ドープ酸化スズ膜の形成時において、フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚に応じて、基体温度を最適化することで、キャリア電子の移動度を向上させることができ、非特許文献1に記載のフッ素ドープ酸化スズ膜(移動度75.8cm2/V・s)を上回る移動度を達成することができる。
また、本発明の方法では、形成されるフッ素ドープ酸化スズ膜のキャリア電子密度が低くなるので、該フッ素ドープ酸化スズ膜の光学吸収が減少して、透過率が向上することになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、減圧CVD法を用いて形成されるフッ素ドープ酸化スズ膜について、フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚と、キャリア電子の移動度と、の関係を示したグラフである。
【図2】図2は、減圧CVD法を用いて形成されるフッ素ドープ酸化スズ膜について、フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚と、キャリア電子密度と、の関係を示したグラフである。
【図3】図3は、膜厚が異なるフッ素ドープ酸化スズ膜について、減圧CVD法実施時の基体温度と、キャリア電子の移動度と、の関係を示したグラフである。
【図4】図4は、膜厚が異なるフッ素ドープ酸化スズ膜について、減圧CVD法を用いて形成されるフッ素ドープ酸化スズ膜について、減圧CVD法実施時の基体温度と、キャリア電子密度と、の関係を示したグラフである。
【図5】図5は、膜厚が異なるフッ素ドープ酸化スズ膜について、減圧CVD法実施時の基体温度と、フッ素ドープ酸化スズ膜における(301)結晶配向の割合と、の関係を示したグラフである。
【図6】図6は、減圧CVD法を用いて形成されるフッ素ドープ酸化スズ膜について、ΔTと、キャリア電子の移動度と、の関係を示したグラフである。
【図7】図7は、減圧CVD法を用いて形成されるフッ素ドープ酸化スズ膜について、ΔTと、キャリア電子密度と、の関係を示したグラフである。
【図8】図8は、減圧CVD法を用いて形成されるフッ素ドープ酸化スズ膜について、ΔTと、フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚と、の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のフッ素ドープ酸化スズ膜の形成方法について説明する。
本発明のフッ素ドープ酸化スズ膜の形成方法は、膜厚600nm以上のフッ素ドープ酸化スズ膜を基体上に形成する方法である。
図1に示したように、キャリア電子の移動度の高いフッ素ドープ酸化スズ膜を得るためには、フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚を大きくすることが好ましい。フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚が600nm以上であれば、フッ素ドープ酸化スズ膜をキャリア電子の移動度が十分高くなる。
但し、フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚を過度に大きくしても、キャリア電子の移動度の向上にはもはや寄与せず、フッ素ドープ酸化スズ膜の形成に要する時間が増加すること、入射光の吸収率が増加することから好ましくない。このため、フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚は1000nm以下であることが好ましく、900nm以下であることがより好ましい。
【0021】
本発明のフッ素ドープ酸化スズ膜の形成方法では、膜厚の制御のしやすさや被覆性の良さなどからCVD法を用いて、フッ素ドープ酸化スズ膜を形成する。
本発明では、200Pa以下の圧力下にてCVD法を用いて、フッ素ドープ酸化スズ膜を形成する。以下、本明細書において、200Pa以下の圧力下で実施するCVD法のことを「減圧CVD法」という。なお、特許文献1では、10kPa以下の圧力下でCVD法を実施するのに対して、本発明では、より圧力が低い200Pa以下の圧力下でCVDを実施するのは、不純物が少ないフッ素ドープ酸化スズ膜を形成するうえでより好ましいからである。
ここで、減圧CVD法を実施する際の雰囲気圧力は、100Pa以下であることがより好ましい。
但し、減圧CVD法を実施する際の雰囲気圧力が低すぎると、基体表面に到達する膜材料(膜材料の原子の数)が減少してしまうため、成膜レートが低くなり実用的でない。このため、減圧CVD法を実施する際の雰囲気圧力は10Pa以上であることが好ましく、20Pa以上であることがより好ましく、50Pa以上であることがさらに好ましい。
【0022】
本発明では、減圧CVD法によるフッ素ドープ酸化スズ膜の形成時において、後述する手順にしたがって、フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚に応じて基体温度を最適化することで、キャリア電子の移動度を向上させることができる。
図3に示したように、キャリア電子の移動度が最大値となる減圧CVD実施時の基体温度はフッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚によって異なる。具体的には、フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚が大きくなるほど、キャリア電子の移動度が最大値となる減圧CVD実施時の基体温度が低くなることがわかる。
図3に示す関係から、減圧CVD法によるフッ素ドープ酸化スズ膜の形成時において、フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚の増加に応じて基体温度を下降させることで、形成されるフッ素ドープ酸化スズ膜におけるキャリア電子の移動度が向上すると考えられる。
【0023】
図3において、キャリア電子の移動度が最大値となる減圧CVD実施時の基体温度はフッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚によって異なる理由は明らかではないが、形成されるフッ素ドープ酸化スズ膜における結晶配向の状態が関連している可能性がある。
図5は、膜厚が異なるフッ素ドープ酸化スズ膜について、フッ素ドープ酸化スズ膜成膜後の基板の保持温度と、フッ素ドープ酸化スズ膜における(301)結晶配向の割合と、の関係をプロットしたグラフである。減圧CVD法の実施条件は、図3,4と同様である。
図3,5の比較から、キャリア電子の移動度が最大値となる減圧CVD実施時の基体温度付近では、フッ素ドープ酸化スズ膜における(301)結晶配向の割合が高くなっていることがわかる。この結果から、フッ素ドープ酸化スズ膜における(301)結晶配向の割合が高いことが、形成されるフッ素ドープ酸化スズ膜におけるキャリア電子の移動度の向上と関連している可能性がある。フッ素ドープ酸化スズ膜における(301)結晶配向の割合と、該フッ素ドープ酸化スズ膜におけるキャリア電子の移動度と、の関連性はこれまで知られていない。
【0024】
本発明では、成膜開始時の基体温度をT1とし、成膜終了時の基体温度をT2とするとき、下記(1)〜(3)の条件を満たすように、基体温度を下降させつつ、減圧CVD法を実施する。
(1)T2=360〜380℃
(2)ΔT(T1−T2)=45〜65℃
(3)少なくともフッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚200nmが達するまでに基体温度の下降を開始する。
ここで、上記(1)〜(3)の条件は、減圧CVD法の実施時における各種条件、具体的には、減圧CVD法の実施時の基体温度、および、形成されるフッ素ドープスズ膜の膜厚を変えてフッ素ドープ酸化スズ膜の形成を実施し、得られたフッ素ドープ酸化スズ膜におけるキャリア電子の移動度を測定することによって実験的に導き出したものである。これらの条件を満たさない場合、キャリア電子の移動度を向上させる効果が不十分であるか、あるいは、キャリア電子の移動度がかえって低下することとなり、非特許文献1に記載のフッ素ドープ酸化スズ膜(移動度75.8cm2/Vs)を上回る移動度を達成することができない。
【0025】
ここで、成膜開始時の基体温度をT1は、成膜終了時の基体温度をT2、および、ΔTに応じて適宜選択する。
【0026】
本発明では、上記(1)〜(3)の条件を満たす限り、フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚の増加に応じて基体温度を下降させる際の条件は特に限定されない。
本発明の第1の態様では、成膜開始時から成膜終了時まで、フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚の増加に応じて基体温度を連続的に下降させる。この場合、基体温度は、フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚の変化に対して、線形的(一次関数的)に下降させてもよく、非線形的(たとえば、高次関数的、指数関数的、対数関数的等)に下降させてもよい。
なお、本発明の第1の態様では、成膜開始時から成膜終了時まで、フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚の増加に応じて基体温度を連続的に下降させるが、フッ素ドープ酸化スズ膜の形成を途中で停止してもよい。この場合、フッ素ドープ酸化スズ膜の形成の停止時には、基体温度を一定にしてよい。
【0027】
本発明の第2の態様では、フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚の変化に対して、基体温度が一定となる段階を含む。本発明の第2の態様の一例としては、成膜開始時から、形成されるフッ素ドープ酸化スズ膜が特定の膜厚に達するまで、基体温度を一定の温度に保持した後、フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚の増加に応じて基体温度を下降する場合が挙げられる。但し、この場合、上記(3)の条件を満たす必要がある。すなわち、少なくともフッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚200nmが達するまでに基体温度の下降を開始する必要がある。
また、本発明の第2の態様の別の一例としては、成膜開始時からフッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚の増加に応じて基体温度を連続的に下降させる過程で、基体温度を一定の温度に保持する段階を含む場合が挙げられる。この場合、基体温度を一定の温度に保持した後、少なくともフッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚200nmが達するまでに基体温度の下降を再開することが好ましい。
【0028】
本発明のフッ素ドープ酸化スズ膜の形成方法では、減圧CVD法を用いて、フッ素ドープ酸化スズ膜を基体上に形成した後、非酸化雰囲気で基体温度300〜650℃で熱処理する。
【0029】
次に、本発明のフッ素ドープ酸化スズ膜の形成方法で使用する基体や、減圧CVD法によるフッ素ドープ酸化スズ膜の形成時の条件、非酸化雰囲気での熱処理条件について、さらに記載する。
【0030】
<基体>
フッ素ドープ酸化スズ膜を形成する基体の形状としては、平面で板状であるのが一般的であるが、必ずしも平面で板状である必要はなく、曲面でも異型状でもよい。該基体としては、ガラス基体、セラミックス基体、プラスチック基体、金属基体などが挙げられる。該基体は透光性に優れた透明の基体であることが好ましく、ガラス基板であることが強度および耐熱性の点から好ましい。ガラス基板としては、無色透明なソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、ボレートガラス、リチウムアルミノシリケートガラス、石英ガラス、ホウ珪酸ガラス基板、無アルカリガラス基板、その他の各種ガラスからなる透明ガラス板を用いることができる。
太陽電池のような光電変換素子の入射光側電極として用いる場合、ガラス基板の厚さは0.2〜6.0mmであることが好ましい。この範囲であると、ガラス基板の強度が強く、透過率が高い。また、十分絶縁性で、かつ化学的、物理的耐久性が高いことが望ましい。
なお、ソーダライムシリケートガラスなどのナトリウムを含有するガラスからなるガラス基板、または低アルカリ含有ガラスからなるガラス基板の場合には、ガラスからその上面に形成される透明導電性酸化物膜へのアルカリ成分の拡散を最小限にするために、酸化ケイ素膜、酸化アルミニウム膜、酸化ジルコニウム膜などのアルカリバリア層をガラス基板面に施してもよい。
また、ガラス基板の表面に、ガラス基板の表面と、その上に設けられる層との屈折率の差異を軽減するための層をさらに有していてもよい。
【0031】
<減圧CVD法によるフッ素ドープ酸化スズ膜の形成>
減圧CVD法によるフッ素ドープ酸化スズ膜の形成は以下の手順で実施すればよい。
チャンバ内を200Pa以下の所定の圧力に保持した状態で、該チャンバ内の所定の位置に配置された基体を成膜開始時の基体温度をT1に加熱し、原料ガスである四塩化スズ(SnCl4)、水(H2O)、および、フッ化水素(HF)を、窒素、アルゴン等のキャリアガスとともに原料ガス供給ノズルから同時に吹き付けつつ、上記(1)〜(3)の条件を満たすように、フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚の増加に応じて基体温度を成膜終了時の温度T2まで下降させることで、基体上にフッ素ドープ酸化スズ膜を形成することができる。
【0032】
減圧CVD法実施時において、原料ガス中の四塩化スズ(SnCl4)に対する水(H2O)の量が流量比(H2O/SnCl4)で30〜400であることが好ましい。H2OはSnCl4からSnO2への酸化反応を進行させるための酸化剤として作用する。そのため、H2Oが少なすぎると酸化反応が不十分になり、形成される膜が着色する場合があるので、流量比(H2O/SnCl4)で30以上とすることが好ましい。一方、H2Oが多い場合、形成される膜の特性的には問題はないが、設備上大量のH2Oを供給することは困難となるため、流量比(H2O/SnCl4)で400以下であることが好ましい。
流量比(H2O/SnCl4)が50〜300であることがより好ましく、80〜120であることがさらに好ましい。
【0033】
減圧CVD法実施時において、原料ガス中の四塩化スズ(SnCl4)に対するフッ化水素(HF)の量が流量比(HF/SnCl4)で1〜40であることが好ましい。ドーパントの原料であるHFが少なすぎると、形成される膜中のキャリア濃度が低くなるので、流量比(HF/SnCl4)で1以上であることが好ましい。HFが多すぎるとキャリアを作るドーパントとして働かず、単なる不純物として取り込まれるフッ素が増加し、移動度低下の要因となるので、流量比(HF/SnCl4)で40以下であることが好ましい。
【0034】
減圧CVD法実施時において、原料ガス中の四塩化スズ(SnCl4)に対するキャリアガス(例えば、窒素)の量が流量比(キャリアガス/SnCl4)で1〜50であることが好ましい。
【0035】
減圧CVD法実施時において、原料ガス中の水(H2O)に対するキャリアガス(例えば、窒素)の量が流量比(キャリアガス/H2O)で0.2〜5であることが好ましい。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
本実施例では、基体として、無アルカリガラス基板(旭硝子株式会社製、商品名AN100、10cm角、厚さ0.7mm)を使用した。
本実施例では、下記条件で減圧CVD法を実施して基体上にフッ素ドープ酸化スズ膜を形成した。
原料ガス流量
SnCl4:2sccm
2O :200sccm
HF :8sccm
キャリアガス(N2)流量:35sccm(SnCl4のキャリアガス)
キャリアガス(N2)流量:185sccm(H2Oのキャリアガス)
雰囲気圧力:100Pa
成膜時間 :20min
減圧CVD法実施時における基体温度(成膜開始時の基体温度T1、および、ΔT(T1−T2成膜終了時の基体温度))は、以下の方法によって擬似的に測定した。
減圧CVD法実施前の基体を、基体温度が380℃になるまで加熱した後、該基体の温度を一定速度で連続的に下降させた。この手順の実施時におけるガラス基板の成膜面の温度を測定し、これと同じ条件で減圧CVD法を実施することで、成膜開始時の基体温度T1(380℃)、および、ΔT(T1−T2成膜終了時の基体温度)を擬似的に測定した。
次に、減圧雰囲気を解除して基板温度が常温となるまで放冷した後、非酸化雰囲気(窒素100%、1気圧)にて、基体温度400℃で10分間熱処理した後、放冷した。
形成したフッ素ドープ酸化スズ膜におけるキャリア電子の移動度およびキャリア電子密度は、サンプルを1cm×1cmに切断し、BioRad社製 HL5500を用いて、Van der Pauw法を用いた測定を行うことで求めた。なお、膜厚は、Veeco社製 触針式表面形状測定器 DEKTAK150にて測定した。
また、形成したフッ素ドープ酸化スズ膜における(301)結晶配向の割合をX線回折装置RIGAKU RU−200を用いて、2θ/θスキャン法により測定した。
具体的には、(110),(101),(200),(210),(211),(220),(310),(301),(321)面のピークが観測されたので、以下の式により、(301)面の割合を求めた。
【数1】

ここで、Ihklは各面の回折強度Fhklは、単相の粉末X線回折パターンのデータ集のPowder Diffraction File(PDF)のPDF#41−1445に記載された、各面の散乱因子である。
【0037】
ΔT(T1−T2)と、キャリア電子の移動度と、の関係を図6に示した。ΔT(T1−T2)と、キャリア電子密度と、の関係を図7に示した。ΔT(T1−T2)と、フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚と、の関係を図8に示した。
図6から明らかなように、上記(2)の条件(ΔT(T1−T2)=45〜65℃)を満たしつつ、フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚の増加に応じて基体温度を下降させながら減圧CVD法を実施することで、非特許文献1に記載のフッ素ドープ酸化スズ膜(移動度75.8cm2/V・s)を上回る移動度を達成することができた。なお、上記(2)の条件を満たす例は、いずれも上記(1),(3)の条件も満たしている。
また、図7に示すように、上記(2)の条件を満たす例は、非特許文献1に記載のフッ素ドープ酸化スズ膜(キャリア電子密度1.5e20/cm3)よりもキャリア電子密度が低かった。
また、図8に示すように、形成されるフッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚は、ΔT(T1−T2)によって影響されず、いずれの例においても膜厚約800nmのフッ素ドープ酸化スズ膜を形成することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜厚600nm以上のフッ素ドープ酸化スズ膜を基体上に形成するフッ素ドープ酸化スズ膜の形成方法であって、
成膜開始時の基体温度をT1とし、成膜終了時の基体温度をT2とするとき、
下記(1)〜(3)の条件を満たすように、基体温度を下降させつつ、CVD法を用いて、200Pa以下の圧力下で、フッ素ドープ酸化スズ膜を基体上に形成した後、非酸化雰囲気で基体温度300〜650℃で熱処理することを特徴とするフッ素ドープ酸化スズ膜の形成方法。
(1)T2=360〜380℃
(2)ΔT(T1−T2)=45〜65℃
(3)少なくともフッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚200nmが達するまでに基体温度の下降を開始する。
【請求項2】
前記フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚の変化に対して、前記基体温度を連続的に下降させる、請求項1に記載のフッ素ドープ酸化スズ膜の形成方法。
【請求項3】
前記フッ素ドープ酸化スズ膜の膜厚の変化に対して、前記基体温度が一定となる段階を含んでいる、請求項1に記載のフッ素ドープ酸化スズ膜の形成方法。
【請求項4】
CVD法によるフッ素ドープ酸化スズ膜の成膜時における原料ガス中の四塩化スズに対する水の量が流量比(H2O/SnCl4)で30〜400である、請求項1または2に記載のフッ素ドープ酸化スズ膜の形成方法。
【請求項5】
CVD法によるフッ素ドープ酸化スズ膜の成膜時における原料ガス中の四塩化スズに対するフッ化水素の量が流量比(HF/SnCl4)で1〜40である、請求項1〜3のいずれかに記載のフッ素ドープ酸化スズ膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−100577(P2013−100577A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244570(P2011−244570)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年9月1日付け独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構委託研究契約に基づく開発項目「新エネルギー技術研究開発/革新的太陽光発電技術研究開発(革新型太陽電池国際研究拠点整備事業)/低倍率集光型薄膜フルスペクトル太陽電池の研究開発(フルスペクトルTCO)」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】