説明

フッ素化合物含有排水の処理方法

【構成】 F- 含有排水の処理においてその処理系統を原水の1部分の系統と原水の大部分の系統とに分割し、前者の原水の1部分の系統にCa++の全量を添加して反応を行わしめ、その反応液をそのまま原水の大部分の系統に合流させて反応を行わしめて含有F- をCaF2 として除去する。
【効果】 特に処理の難しい低濃度F- 含有排水を含めたF- 含有排水に対し、安定な処理効果が得られ、しかも処理水中の残存Ca++濃度を低減できる効果を有している。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は電子産業等から排出されるフッ素化合物含有排水の処理方法、具体的にはフッ化カルシウム析出反応を利用するフッ素化合物含有排水の処理方法及びその処理設備に関するものである。
【0002】
【従来の技術】半導体ウエハや液晶基板等の電子部品を製造する工程や金属表面加工処理工程から排出されるフッ素化合物含有排水、あるいは火力発電所の排煙脱硫装置から排出されるフッ素化合物含有排水中のフッ素化合物を除去する方法としては一般に次のような方法が採用されている。
【0003】即ち、図2に示されるようにフッ素化合物含有排水(以下単にF含有排水と称する)が流入管(21)を経て反応槽(11)に入り、ここでカルシウム塩水溶液添加管(22)を経てCa++を添加すると共に、pH調整剤添加管(23)を経てpH調整剤を添加することによってpHを中性付近に調整しながらF含有排水中のフッ素イオンをカルシウムイオンと反応させてCaF2 化合物を生成析出させ、この反応液はそのまま管(24)を経て凝集槽(13)に流入し、ここで凝集剤添加管(26)を経て凝集剤を添加すると共にpH調整管(27)を経てpH調整剤を添加してpH調整を行いながらCaF2 の析出物を凝集後、管(25)を経て沈降分離槽(14)にて汚泥(28)と処理水(29)とに固液分離する。なお、凝集槽(13)は必ずしも必要でなく、省略する場合もある。上記のCa++としては一般的にCaCl2 ,Ca(OH)2 ,CaCO3 などが使われる。
【0004】また、凝集槽(13)では、凝集剤としてPAC(ポリ塩化アルミニウム)又は硫酸バンドがよく使用され、また多くの場合は凝集助剤として有機高分子凝集剤を併用して、効果的な固液分離をはかっている。最近、沈降分離槽のかわりに膜分離装置を使用する動きもある。また、PAC又は硫酸バンドの使用目的は固液分離の促進だけでなく、共沈効果によるF- の一層の除去を図るものでもある。
【0005】ここでCaF2 の生成反応は

で表され、その20℃での溶解度積KはK=[Ca++][F- 2 =3.45×10-11である。しかし、実際の排水ではCa++とF- の反応生成物CaF2 は溶解度積にしたがって析出することがなく、常に準安定な過飽和状態として溶液に存在する。そのため、過剰なカルシウムイオンを投入してCaF2 の過飽和状態を破壊し、CaF2 の析出反応を促進することは一般的なやり方である。それでも満足な結果が得られない場合、過剰な無機凝集剤の添加や図2に示したような処理プロセスをもう一段加えることなどのような方法がとられている。
【0006】しかし、上記のような方法は、処理効果は満足できるものの、薬品のむだ遣い、汚泥処理量の増加、処理水中に高濃度のカルシウムイオンの残存又は設備投資の増加などの問題点を抱えている。また、Ca++とF- との反応式から分るように、F- 濃度が低下すればするほど、CaF2 の過飽和状態を破壊するために投入するCa++の量は2乗の関係で増加する。従って低濃度のF- (例えば20〜30mgF- /リットル)を除去するために、反応槽内を非常に高いCa++濃度(例えば1000mgCa++/リットル以上)としないと、F- はCaF2 析出物として除去されることがない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は前述の従来のフッ素化合物除去に際して存在する問題点、即ち■処理水中の残存Ca++濃度が高い、■低濃度フッ素化合物含有排水の処理が不安定である等の問題点を解決するためになされたもので、特に通常処理し難いと思われているF- 含有濃度が20〜100 mg/リットルの排水を処理する場合に効果が顕著である。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明の要旨とする所はフッ素化合物含有排水にCa塩を添加して排水中の含有フッ素化合物をフッ化カルシウムとして除去するに当り、フッ素化合物含有排水の1部に添加すべきCa塩の全量を添加、反応せしめ、この反応液を残余の大部分のフッ素含有排水中に添加、反応せしめ、然る後固液分離を行うことを特徴とするフッ素化合物含有排水の処理方法、及びフッ素含有排水の1部にフッ素含有排水の全量に添加すべきCa塩の全量を添加して反応させるための第1反応槽と、フッ素含有排水の残余の大部分と第1反応槽からの反応液とを合流して反応せしめるための第2反応槽とを固液分離装置の前段に備えていることを特徴とするフッ素化合物含有排水の処理設備に係わるもので、これにより所期の目的を達したものである。上記において第1反応槽への排水の分注率は排水の初期フッ素含有濃度にもよるが一般的には5〜50%、好ましくは10〜30%の範囲で適宜に決められる。
【0009】
【作用】本発明はF含有排水の原水を、原水の1部を注入する第1反応槽と原水の大部分を注入する第2反応槽とに分注すると共に第1反応槽に原水の全量に添加すべきCa++の全量を投入することにより第1反応槽でのCa++濃度を高めてCaF2 析出反応を促進せしめ、さらに第1反応槽で得られたCaF2 生成物を含む反応液を凝集処理することなしにそのまま第2反応槽へ導入する。第2反応槽では、直接に第2反応槽へ送られてくる大部分の原水中のF- と、第1反応槽で反応後残ったCa++との析出反応が第1反応槽から送られるCaF2 生成物によって促進され、その結果、安定かつ効果的にF- は除去されるようになる。
【0010】従来においても特開昭51-86069号公報に見られるようにフッ素を含む廃液に、フッ素とカルシウム化合物との反応生成物、或いはフッ素を含む廃液を処理して得られた沈殿物をシードとして添加し処理するフッ素含有廃液の処理方法は公知であるが、この場合にはフッ素を含む廃液に、フッ化カルシウム等の固体或いはフッ素を含む廃液にCa塩を添加し凝集処理して得られた沈殿物を夫々添加するものである。一方本発明はF含有排水の原水を1部と大部分の2系統に分割し、一方の1部分の原水系統にCa塩の全量を添加することによってCa++濃度を高めてCaF2 析出反応を促進させ、析出したCaF2 生成物を含む反応液を凝集処理せずにそのまま他方の大部分の原水系統に合流させて、前者の系統からのCaF2 生成物によりその残部のCa++と後者の系統のF- との析出反応を促進せしめることによって安定なフッ素処理を行い、次いで固液分離するものであり、前述した従来方法とは構成、効果共に異なったものである。
【0011】即ち本発明では一方の1部分の原水の系統に全原水に対応するCa塩の全量を添加し生成したばかりのCaF2 即ちゾル状のCaF2 をそっくりそのまま他方の大部分の原水の系統に合流させてゾル状のCaF2 の表面で晶析を行わせて安定したF- 処理を行うことが特徴であって、これにより特に処理が難しい低濃度F- 含有排水の処理に優れた除去効果を示し処理水中の残存Ca++濃度も低減できるものである。
【0012】
【実施例】本発明を図1を用いて具体的に説明すると、F含有排水は従来のように全部第1反応槽(11)に流入させるのではなく、流入管(21)と(21′)に分岐せしめそれぞれを第1反応槽(11)と第2反応槽(12)に入るようにする。流入管(21)と(21′)に流れる排水の割合は0.05〜0.5 : 0.5〜0.95、好ましくは 0.1〜0.3 : 0.7〜0.9 である。第1反応槽では、排水の1部と添加すべき全量のCa++が入るので溶液中のCa++濃度は極めて高濃度となり、そのためCaF2が速やかに析出する。なおCaF2 生成反応においては、pHが4以上になれば、pHはCaF2 析出反応にほとんど影響しないため、第1反応槽のpHは必要に応じて5〜12の間に調整すればよい。また、第2反応槽のpH調整は、第2反応槽におけるpHがほぼ中性となるように第1反応槽で予め過剰量のpH調整剤を添加するようにしても、または第2反応槽にpH調整剤を添加して新ためて調整しても、どちらでもよいが、具体的には排水の安定性、設備の問題、又は使用する薬品によって適宜に決めればよい。またCaF2 の生成は化学反応なので本質的には瞬間的に反応する。
【0013】従って、第1反応槽での滞留時間は2〜10分にし、第2反応槽での滞留時間は析出反応を完全に行わせる見地から、20〜40分程度にするのがよい。第2反応槽以降の凝集槽、沈降分離槽については前記図2の場合と同様である。なお、凝集沈殿部分は必要に応じて他の固液分離手段、例えば凝集処理と膜分離装置との組合せ又は凝集処理を省略して単に膜分離装置に変えてもよい。
【0014】
【発明の効果】表1に本発明の効果を示してある。第1反応槽の排水流入率が1、つまり一段だけの従来式処理法では、原水F- が50mg/リットルの場合、 150mg/リットルのCa++が存在してもCaF2 沈殿反応は起らない。初期Ca++濃度を 500mg/リットルまで上げるとF- が9mg/リットルまで減少したが、残留Ca++濃度が450 mg/リットルぐらいあるので、処理水によるスケールの問題がある。また、Ca++濃度を正確に調整するのは実際には不可能なので、安定な処理水質を得るには、一般的にCa++濃度をさらに上げるか、無機凝集剤を過剰に添加するしか方法がない。一方、本発明の二段処理の方法を用いると、前記従来法におけるCa++濃度 150mg/リットルの場合と同じCaCl2 添加量において、第1反応槽の排水流入率が 0.1と 0.3のいずれの場合も残留Ca++が約 110mg/リットルという低い濃度下で非常によい処理効果が得られた。
【0015】
【表1】


【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施態様の一例を示すフローの説明図である。
【図2】従来のフローの説明図である。
【符号の説明】
11 第1反応槽
12 第2反応槽
13 凝集槽
14 沈降分離槽
21 F- 含有排水

【特許請求の範囲】
【請求項1】 フッ素化合物含有排水にCa塩を添加して排水中の含有フッ素化合物をフッ化カルシウムとして除去するに当り、フッ素化合物含有排水の1部に添加すべきCa塩の全量を添加、反応せしめ、この反応液を残余の大部分のフッ素含有排水中に添加、反応せしめ、然る後固液分離を行うことを特徴とするフッ素化合物含有排水の処理方法。
【請求項2】 フッ素化合物含有排水にCa塩を添加して排水中の含有フッ素化合物をフッ化カルシウムとして除去するに当り、フッ素化合物含有排水の1部を分岐してこれに添加すべきCa塩の全量を添加、反応せしめ、この反応液をそのまま残余の大部分のフッ素化合物含有排水と再び合一して反応せしめ、然る後固液分離を行うことを特徴とするフッ素化合物含有排水の処理方法。
【請求項3】 フッ素含有排水の1部にフッ素含有排水の全量に添加すべきCa塩の全量を添加して反応させるための第1反応槽と、フッ素含有排水の残余の大部分と第1反応槽からの反応液とを合流して反応せしめるための第2反応槽とを固液分離装置の前段に備えていることを特徴とするフッ素化合物含有排水の処理設備。
【請求項4】 フッ素含有排水の1部にフッ素含有排水の全量に添加すべきCa塩の全量を添加して反応させるための第1反応槽と、フッ素含有排水の残余の大部分と第1反応槽からの反応液とを合流して反応せしめるための第2反応槽と、第2反応槽からの反応液に凝集剤を添加して凝集反応を行わせしめるための凝集槽と、沈殿槽もしくは膜分離装置とからなる固液分離装置とを順次備えていることを特徴とするフッ素化合物含有排水の処理設備。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平6−312190
【公開日】平成6年(1994)11月8日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−125343
【出願日】平成5年(1993)4月28日
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)