フラップゲート
【課題】上流側低水位あるいは大容量の排水時において円滑な排水を行いまた、河川側水位と樋管側水位が同程度となった状態では逆流の発生を防止するフラップゲートの提供。
【解決手段】河川堤防等に設けられる樋管の河川側出口に、開閉自在の扉体1が河川側からの流水に対し止水可能に上部ヒンジ機構により懸垂状態で設置され、樋管側からの流水に対して扉体1が河川方向に回転作動して樋管を開放するフラップゲートにおいて、扉体1の下部には浮力を発生させる浮体構造部1eが形成され、扉体1の上部には扉体の重心位置Wをフラップゲートの下流方向に移動させるバランスウェイトが設置され、扉体1の重心位置Wと扉体1を懸垂状態に吊す吊芯位置が浮体構造部の浮力中心を通る鉛直線V2より下流側に配置されているフラップゲート。
【解決手段】河川堤防等に設けられる樋管の河川側出口に、開閉自在の扉体1が河川側からの流水に対し止水可能に上部ヒンジ機構により懸垂状態で設置され、樋管側からの流水に対して扉体1が河川方向に回転作動して樋管を開放するフラップゲートにおいて、扉体1の下部には浮力を発生させる浮体構造部1eが形成され、扉体1の上部には扉体の重心位置Wをフラップゲートの下流方向に移動させるバランスウェイトが設置され、扉体1の重心位置Wと扉体1を懸垂状態に吊す吊芯位置が浮体構造部の浮力中心を通る鉛直線V2より下流側に配置されているフラップゲート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樋門等に逆流防止を目的として設置され、ゲート上下流側の水位変動に対応して自動開閉する上ヒンジ方式のフラップゲートに関する。
【背景技術】
【0002】
河川堤防の樋管に、河川水の逆流防止を目的として上ヒンジ方式のフラップゲートが設置されている。
【0003】
図14において、扉体11が上部支持金物12、連結金物12a、連結ピン12bからなるヒンジ機構によって開閉自在に設置されている。図中、13は戸当金物、31は樋管側河床、32は河川側河床、33は堤防、WL1は上流側(樋管側)水位、WL2は下流側(河川側)水位である。
【0004】
図14(a)に示すように、上流水位WL1と下流水位WL2が同等程度の水位状態では扉体11は全閉し、水密ゴム11dが戸当金物13に圧着して止水する。なお、ヒンジ機構の連結金物12aは扉体11の水密ゴム11dと戸当金物13との良好な圧着性を確保するものである。
【0005】
図14(b)に示すように、上流側水位WL1が下流水位WL2を超えて上昇する場合、扉体11はヒンジ機構を回転中心として扉体下端を下流側に開放する形態で開放作動し、矢印アが示す水流方向で、上流側から下流側に排水する。
【0006】
フラップゲートは、ゲート上下流水位の変動に対応し、無動力、無人操作でゲート開閉を行うことができるため、最も一般的な自動ゲート設備として利用されている。
【0007】
しかしながら、従来のフラップゲートには、次に述べるような問題点、課題点がある。
図15(a)に示すように、従来のフラップゲートは懸垂された扉体11が常時一定の閉作動力で樋管を閉鎖しているため、上流側水位が低い場合は扉体11が十分に開放作動せず、樋管内に排水困難な低水位WL3を発生させてしまう場合がある。また、これにより樋管内に土砂の堆積や流木等34の滞留が発生し易くなる。さらに、図15(b)に示すように、滞留した流木等34が扉体11と戸当金物13間に挟まり込んで不完全閉作状態を発生させ易くまた、一旦挟まり込んだ流木等34が外れ難く、この状態で河川増水した場合は河川水が樋管内に逆流する問題点がある。
【0008】
さらに、図16に示すように、扉体11の開放角度θが大きくなると扉体11の閉作動力が増大する特性を有するため、支川から大量の排水が行われる場合でも扉体が十分に開放作動せず、扉体11が流水を遮る形態となり比較的大きな上下流水位差△hが発生するなど、円滑な排水を阻害するという問題点がある。
【0009】
図15に示す問題の原因は、フラップゲートの全閉時の閉作動力にある。図17に示すように、従来のフラップゲートでは全閉時の扉体11を上流側に5°程度傾斜させて設置される。図17において、Wは扉体11の質量、X1は重心位置、L9は重心位置とヒンジ機構吊芯との水平距離を示す。この状態で、閉方向の回転モーメントM1(=W×L9)が全閉時閉作動力として作用し、扉体11を戸当金物13に押し当てる。フラップゲートは、この全閉時閉作動力によって上下流同等水位状態でも確実に扉体11を全閉作動させることを可能とする。反面、開放作動時は抵抗力として作用するため、上流側が低水位の状態では排水不良や土砂・流木等の堆積発生の原因となる。
【0010】
図16に示す問題点は、図18に示すように扉体11が開放作動するに伴い扉体重心位置X1と吊芯間の距離L10が大きくなることにより、扉体質量による閉方向の回転モーメントM1(=W×L10)が増大することによる。この問題点を解消するため、図19に示すように、扉体11の下部を浮体構造(フロート)11eとし、下流側水位WL2によって発生する浮力Fにより排水時の開放作動性を向上させる方法がある。しかしながら、図19に示す従来のフラップゲートの設置形態においては扉体下部に大きな浮力を発生させると全閉時の閉作動力を減少させる問題点がある。この形態では浮力Fによるヒンジ機構回りの回転モーメントM2(=F×L11)は開放作動方向に作用し、扉体質量Wによる閉作動力と反対に作用する。浮芯距離L11が重心距離L12より大きいため、浮力Fを大きくすると確実な全閉作動に支障が発生する危険性がある。
【0011】
このような従来のフラップゲートの問題点に対し、特許文献1には、上ヒンジ方式の扉体の支持軸回りにバランスウェイトを設け、比較的小さな作動力で扉体の開閉作動を可能としたうえ、自重と下流側水圧によって起立・倒伏作動する浮体式扉体とを連動アームで連結させて一体の自動ゲートとし、常時樋管を全開放状態として円滑な排水を行い、水位上昇時は浮体式扉体の起立作動と連動させて扉体を全閉作動させる自動ゲートが開示されている。
【0012】
しかしながら、特許文献1のゲートは、上下の扉体の連結機構が複雑であり、長期間における現場での使用では設備の維持管理が困難であるという問題点がある。
【0013】
これに対し、特許文献2には、扉体を浮体構造としたうえ、突出した上部ヒンジを支点とする回転アームの先端に扉体を設置し、河川水上昇時には扉体浮力によって全閉作動させるが、所定以下の水位では扉体を常時開放状態に支持して円滑な排水を行わせるゲートが開示されている。
【0014】
また、特許文献3には上部ヒンジを回転中心とする回転アームの一端に扉体を、他端にバランスウェイトを設けて扉体の回転作動が僅かな作動力で可能としたうえ、扉体の樋管側面部上方にフロートを設け、一定の水位上昇によってフロートに発生する浮力によって自動閉作動を行わせ、所定の水位以下では常時ゲート下部を開放状態として円滑な排水を行うゲートが開示されている。
【0015】
しかしながら、特許文献2に開示されたゲートでは扉体全体の概ね50〜60%以上が没水状態となって閉作動する浮力が発生する。また、特許文献3に開示されたゲートでは扉体の樋管側面部の上方に設置したフロートによって閉作動力が発生する構造であるため、上方に設置したフロートに浮力が発生するまで概ね樋管内高の1/2以上の水位上昇が必要である。特許文献2、3のゲートは、いずれも扉体が全閉作動するまでに樋管内高の1/2〜2/3以上のゲート上下流水位の上昇が必要な機構であり、扉体全閉時以外は止水出来ない構造により、全閉状態までは河川側から樋管側への逆流が発生する。これにより中水位以下での逆流を防止することが困難となる課題点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特許第3822715号明細書
【特許文献2】特許第3350902号明細書
【特許文献3】特許第3500388号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上流側が低水位の状態においても扉体が容易に開放作動して排水を行い、大容量の排水時においては扉体が大きく開放作動して円滑な排水を行いまた、河川側水位と樋管側水位が同程度となった状態では樋管を確実に全閉作動させて逆流の発生を防止することが可能で構造が簡単なフラップゲートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願の請求項1の発明は、河川堤防等に設けられる樋管の河川側出口に、開閉自在の扉体が河川側からの流水に対し止水可能に上部ヒンジ機構により懸垂状態で設置され、樋管側からの流水に対して扉体が河川方向に回転作動して樋管を開放するフラップゲートにおいて、前記扉体の下部にはゲート全閉時は閉作動力として作用し且つゲート開放作動時には開放作動力として作用する浮力を発生させる浮体構造部が形成され、前記扉体の上部には扉体の重心位置をフラップゲートの下流方向に移動させるバランスウェイトが設置され、前記扉体の前記重心位置と前記扉体を懸垂状態に吊す吊芯位置が前記浮体構造部の浮力中心を通る鉛直線より下流側に配置されていることを特徴とするフラップゲートである。
【0019】
この構成により、扉体下部に発生する浮力をゲート開放作動時には開放作動力として活用することで排水を促進し、ゲート全閉時は閉作動力として活用する事が可能となる。
【0020】
本願の請求項2の発明は、前記扉体の質量、浮力は、前記扉体の重力により閉作動力として作用し且つ全閉状態では小さく且つ扉体開放作動とともに増加する回転モーメント(S1)と、前記扉体の前記下部浮体構造に作用する浮力により扉体の開放に伴い開作動力として作用する回転モーメント(S2)との絶対値が、|S1|>|S2|となるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載のフラップゲート。
【0021】
本願の請求項3の発明は、前記扉体の下部戸当金物が上部戸当金物より上流側となるよう傾斜した形態で配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のフラップゲートである。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、扉体の重心と吊芯間隔を小さくすることで全閉時における扉体自重による閉作動力を小さくして上流側低水位による小さな水圧でも扉体を開放作動させることができるので、上流側低水位において扉体が容易に開放作動して円滑な排水を行うことが可能となる。
【0023】
本発明は、扉体下端に浮体構造部を設けているので、発生する浮力をゲート開放作動時には開放作動力として活用することで排水を促進し、ゲート全閉時は閉作動力として活用することが可能となる。
【0024】
本発明は、扉体の重力により閉作動力として作用し、かつ全閉状態では小さく且つ扉体開放作動とともに増加する回転モーメント(S1)と、扉体の前記下部浮体構造に作用する浮力により扉体の開放に伴い開作動力として作用する回転モーメント(S2)との絶対値が、|S1|>|S2|となるように扉体の質量、浮力を設定すること、ならびにゲート全閉状態では上記浮力が閉作動方向に作用することにより、下流側水位が上昇した場合、下流側水位によって扉体下部の浮体構造部に浮力が発生して閉作動力が高まり、扉体を確実に全閉作動させることができる。全閉位置では扉体に作用する浮力が閉作動方向に作用することで、上下流同等水位状態において一定の閉作動力が確保されて確実な止水ができる。
【0025】
本発明は、扉体下部の浮体構造部が水没した状態での排水作動では、浮力が開放作動力として作用し扉体質量による閉作動力を削減することができるため、大容量の排水に対し扉体を大きく開放作動させて円滑に排水することができる。
【0026】
さらに、本発明は、上記状態においても安定した閉作動力が常に確保されていることから、全てのゲート作動範囲において、河川側水位と樋管側水位が同等程度となる前に、扉体は全閉位置に回転作動し逆流発生を防止する。
【0027】
また、本発明は、樋管内高の1/3程度以下の低水位における逆流発生を許容し得る現場条件においては、扉体の下部戸当金物が上部戸当金物より上流側となるよう配置することにより、下流側水位が低い状態では懸垂された扉体と戸当金物間に隙間を設けることで上流側からの排水を円滑に流下させることができる。通常時、扉体下部を開放状態として円滑な排水を行い、下流水位上昇とともに扉体に作用する浮力を閉作動側に作用させ、水位上昇とともに扉体自動閉作動を行わせ、樋管内高の1/5〜1/3程度の低水位状態で早期にゲート全閉状態とすることができる。
【0028】
本発明は、駆動手段を必要とせず、ヒンジ機構により扉体を懸垂するので、簡単な構造のフラップゲートが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のフラップゲートの設置概要図で、(a)が下流側からの鳥瞰図、(b)がゲート設置部の断面概要図である。
【図2】本発明のフラップゲート概要図で、(a)がゲート開放作動状態図、(b)がヒンジ部の構造概要図である。
【図3】本発明のフラップゲートの扉体概要図で、(a)が上流側(樋管側)から見た概要図、(b)が下流側(河川側)から見た概要図である。
【図4】本発明のフラップゲートにおける扉体下部の構造概要図である。
【図5】本発明の実施例1のフラップゲートの設置形態図で、(a)がゲート全閉時の側断面図、(b)がゲート全開時の側断面図である。
【図6】本発明の実施例1のフラップゲートの設置条件図である。
【図7】本発明の実施例1のフラップゲートの作動力形態図で、(a)が無水状態のゲート全閉時、(b)が上流から排水状態の開放作動時である。
【図8】本発明の実施例1のフラップゲートの作動力形態図で、上下流同等水位でゲート全閉状態時を示す。
【図9】本発明の実施例1のフラップゲートの作動力形態図で、一定水位で上流から排水状態時を示す。
【図10】本発明の実施例1のフラップゲートの開放度と作動力の特性を示すグラフである。
【図11】本発明の実施例2の設置条件図を示す。
【図12】本発明の実施例2の上流からの低水位排水状態の作動力形態図である。
【図13】本発明の実施例2の作動力形態図で、(a)が全閉作動水位時、(b)は全閉状態で下部浮体構造部の全没水の状態図である。
【図14】従来のフラップゲートの概要図で、(a)が全閉状態、(b)が開放作動状態を示す。
【図15】従来のフラップゲートの問題点を示す概要図で、(a)は樋管内の排水不良と流木等の堆積発生、(b)は扉体と戸当金物間に流木等が挟まり込んだ状態を示す。
【図16】従来のフラップゲートの排水作動時の問題点を示す概要図である。
【図17】従来のフラップゲートの全閉時における重心位置を示す概要図である。
【図18】従来のフラップゲートの扉体開放状態における重心位置を示す概要図である。
【図19】従来のフラップゲートにおいて扉体下部を浮体構造とした事例での全閉状態における重心位置と浮心位置を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【0031】
<実施例1>
図1において、河川堤防33に設けられた樋管31の河川側出口に、樋管31を閉鎖する形態で扉体1がヒンジ機構の吊金物2により戸当金物3に接する状態で、かつ河川方向に回転自在に懸垂されて設置される。32は河川側水路である。
【0032】
図2(a)に示すように、本発明の扉体1は吊金物2によるヒンジ機構により揺動可能に懸垂されて開放作動可能である。ヒンジ機構は、図2(b)に示すように、扉体1の連結部1aと吊金物2が連結板2aを介して各々連結ピン2bによって連結されている。このヒンジ機構により扉体1は自在に回転作動可能となり、また全閉時の扉体1の水密ゴム1dが円滑に戸当金物3に圧着して河川側から樋管方向への止水を行う。図2(a)に示すように、ゲート開放作動状態では扉体1の水密ゴム1dが上部戸当金物3a、下部戸当金物3b、側部戸当金物3cから離れる形態で樋管31の水路を開放し、樋管側から河川方向に排水を行う。
【0033】
図3に示すように、本発明の扉体1は、上端桁にヒンジ機構の吊金物2との連結部1a、扉体上部にバランスウェイトアーム1bが固定設置され、バランスウェイトアーム1bの先端にバランスウェイト1cが設置されている。このバランスウェイトアーム1b、バランスウェイト1cによって扉体1の重心位置をゲート下流方向に移動させることが可能な構造となっている。
【0034】
また、扉体1の上流面部に水密ゴム1dが設置され、扉体下部下流側を浮体構造1eとすることで、ゲート全閉時においてはゲート下流側水位により扉体に浮力を発生させる構造としている。浮体構造部1eは、例えば図4に示すように、扉体下部のスキンプレート1eアと縦桁1eイ、横桁1eウに囲まれた部分を背板1eエで覆い、この内空部分を完全気密式構造とすることによって形成する。但し、発生する最大浮力の大きさは扉体1の重量の1/2以下とし、扉体全没水状態における全ての作動範囲で扉体1の自重による閉作動力を喪失させないものとする。
【0035】
図5(a)に示すように、本設置形態では、ゲート全閉時にヒンジ機構によって懸垂された扉体1が概ね垂直となるように設置される。また、図5(b)に示すように、ゲート全開作動した状態においてバランスウェイト1cがヒンジ機構や土木構造物等と干渉せず、扉体1が確実に開放作動可能な形態で設置される。
【0036】
図6において、扉体1は全閉状態とし、X1は扉体1の全質量Wの重心点、V1はX1を通過する鉛直線とする。またX2は扉体1の下部浮体構造1eの全浮力Fの浮心、V2はX2を通過する鉛直線とする。扉体1の吊中心位置を通過する鉛直線をV3とし、V1、V3はV2より河川側とし、かつV3はV1と同一、又は若干樋管側に配置される。
【0037】
この設置条件により、図7(a)に示すように、ゲート下流側に水位がない状態で、扉体1にはV3とV1間の距離L1と質量Wによる回転モーメントM1(=W×L1)によって閉方向への作動力が発生している。L1は比較的小さいため、M1も小さい力となり比較的小さな作動力で扉体1は開放作動することができる。図7(b)に示すように、上流側水位WL1が比較的小さい水位であっても、扉体1は簡単に開放作動し、円滑に排水することができる。図7(b)では、扉体1が開放作動したことにより扉体1の回転モーメントM1(=W×L1’)は図7(a)より大きくなるが、WL1の水圧とバランスした状態まで開放作動する。
【0038】
また、図6に示すV3とV1を同一線上に設定した場合、扉体1は全閉状態で吊合状態となり、この場合の初期閉作動力は概ね0の状態となる。したがって、上流側からの流水に対しさらに開放作動し易くなる。
【0039】
図8に示すように、下流側水位の上昇とともに、浮力Fが発生してゲート閉方向の回転モーメントM2(=F×L2)を発生させる。これにより、上下流が同水位状態であっても、発生した浮力M2によってゲート閉作動力を確保する。
【0040】
扉体1の開放作動によって図6に示す鉛直線V1、V2は下流側に移動する。図6に示す鉛直線V2がV3より下流側に移動すると浮力Fは開放作動側に作用する。
【0041】
図9に示すように、扉体1の浮体構造部1eが水没した状態で排水作動を行う場合、質量Wによる回転モーメントM1(=W×L3)はゲート閉作動方向に作用するが、浮力Fによる回転モーメントM2(=F×L4)は開放作動方向に作用する。この結果、ゲートを開放作動させるために必要な作動力はM2相当分が減少することとなり、排水時の上流側水位WL1と下流側水位WL2の水位差が小さくなり、円滑な排水が行える。
【0042】
図10に示す本発明のフラップゲートにおける自動作動力グラフにおいて、横軸はゲート開放度を示し、原点は開度0(=全閉状態)とし、右方向でゲートが開放する。縦軸は開閉方向作動力を示し、中心線0を境に、正方向(上方向)がゲート閉作動力、負方向(下方向)がゲート開作動力を示す。S1は扉体1の重力Wによる回転モーメントM1であり、本設置形態では常に閉作動力として作用し、全閉状態では小さく扉体開放作動とともに増加する特性を有する。S2は扉体1の下部浮体構造1eに作用する全浮力Fによる回転モーメントM2であり、全閉状態では閉作動方向に作用するが、扉体1の開放作動とともに閉作動力として低下し、図6に示す鉛直線V2が同V3と同一線となる角度で0となり、開放に伴い開作動力として作用する。この結果、浮力Fが作用している水位条件下では、扉体の閉作動力はS1とS2を加算した回転モーメントS3となる。
【0043】
本発明のフラップゲートでは、この自動作動力グラフにおけるS1がS2のうち開作動力の絶対値より常に大きくなるように、すなわち|S1|>|S2|に扉体1の質量W、浮力Fが設定される。
【0044】
この結果、図10に示すように、浮力Fが作用する水位条件下では、扉体の閉作動力S3がゲート開度の増加に対して安定した値となる特性を有することなる。これは、上流からの排水量に応じて容易にゲートが開放作動することとなり、排水作動性を高める。また、常に閉作動力が確保されていることより、上流側からの排水圧力が低下した場合は速やかに自動閉作動を行い、上下流水位が逆転する前にゲートを全閉作動させることができる。
【0045】
以上のように、本発明のフラップゲートは、ゲート下流側に水位がない状態、又は下流側水位が低い状態ではゲート閉作動力が小さく、上流側からの排水流に対し容易に開放作動して円滑に排水する。下流水位が上昇すると扉体下部より浮力Fが扉体閉作動方向に作用し、ゲートを確実に閉作動させて下流から上流方向への逆流発生を防止することができる。また、一定水位での上流水から下流方向へ排水する状態においては、浮力Fが開放作動方向に作用し、排水量に応じて容易にゲート開放度を増加させて円滑な排水を行うことができる。
【0046】
<実施例2>
図11において、樋管31の開口の周囲に設けられた枠状の戸当金物を、上部戸当金物3aより下部戸当金物3bが上流側となるように傾斜した形態で配置し、扉体1を実施例1と同様にヒンジ機構によって概ね垂直となるように扉体1を懸垂させて設置する。傾斜角度は5度〜10度程度の範囲とする。図11は、重心X1を通過する鉛直線V1と扉体吊芯の鉛直線V2を同一線上とし、扉体1を垂直に懸垂した設置状態を示す。なお、本実施例では、V1を扉体1の吊中心位置を通過する鉛直線V3と同一線上に設定している。
【0047】
この状態で、扉体1は下部戸当金物3bより離れ、扉体1の下端と下部戸当金物3b間に隙間を設けた形となって樋管を開放した状態となっている。扉体1の吊芯を樋管側に少量移動すると扉体1の下端が上流方向に移動する形で傾斜する。この場合も扉体下端と下部戸当金物3b間にゴミ等が通過できる隙間を確保するようにする。
【0048】
図12に示すように、下流側に水位がない状態では扉体1は釣合い状態で懸垂されておりまた、扉体下端が開放されていることより上流からの排水が円滑に行われ、また流木塵芥等が円滑に流下することができる。
【0049】
図13(a)に示すように、下流側水位が上昇すると扉体1の下部浮体構造部1eに浮力Fによる回転モーメントM2(=F×L7)が扉体閉方向に作用し、扉体1の質量Wにより懸垂状態へ復元しようとする回転モーメントM1(=W×L6)を上回った状態で自動閉作動を行い、所定水位(概ね樋管高さの1/5〜1/3程度の水位)で全閉状態となる。
【0050】
図13(b)に示すように、下流側水位WL2が更に上昇すると浮力Fが増加し、閉作動力を増加して扉体1を下部戸当金物3bに圧着させて止水する。下流水位WL2の上昇による自動閉作動力は、上下流同等水位状態で確実に作用するよう設計されるため、下流水位WL2が上流水位WL1を超えた状態では更に水位差水圧が閉作動方向に作用し、早期にゲートを全閉作動させる。
【0051】
反対に上流水位WL1が下流水位WL2を超えて上昇すると扉体1は開放作動を開始し、図12に示すように比較的小さな水位差で円滑な排水を行う。
【符号の説明】
【0052】
1:扉体 1a:連結部
1b:バランスウェイトアーム 1c:バランスウェイト
1d:水密ゴム 1e:扉体下部の浮体構造部
1eア:扉体のスキンプレート 1eイ:扉体の端縦桁
1eウ:扉体の横桁 1eエ:扉体の背板
2:吊金物(ヒンジ機構) 2a:連結金物(ヒンジ機構)
2b:吊ピン 3:戸当金物
3a:上部戸当金物 3b:下部戸当金物
3c:側部戸当金物 11:扉体
11d:水密ゴム 11e:扉体下部の浮体構造部
12:吊金物 12a:吊板
12b:吊ピン 13:戸当金物
31:樋管側水路 32:河川側水路
33:堤防 34:流木等
WL1:ゲート上流側(樋管側)水位
WL2:ゲート下流側(河川側)水位
WL3:扉体閉により樋管側に発生した排水困難な水位
W:扉体とバランスウェイトの全体質量
F:水中部の扉体下部浮体構造により発生する浮力
X1:Wの重心位置
X2:Fの浮心位置
V1:X1を通過する鉛直線
V2:X2を通過する鉛直線
V3:扉体の吊芯位置を通過する鉛直線
L1〜L11:扉体の吊芯から扉体の重心、または浮心までの水平距離
矢印ア:流水方向
△h:排水時の上下流水位差
【技術分野】
【0001】
本発明は、樋門等に逆流防止を目的として設置され、ゲート上下流側の水位変動に対応して自動開閉する上ヒンジ方式のフラップゲートに関する。
【背景技術】
【0002】
河川堤防の樋管に、河川水の逆流防止を目的として上ヒンジ方式のフラップゲートが設置されている。
【0003】
図14において、扉体11が上部支持金物12、連結金物12a、連結ピン12bからなるヒンジ機構によって開閉自在に設置されている。図中、13は戸当金物、31は樋管側河床、32は河川側河床、33は堤防、WL1は上流側(樋管側)水位、WL2は下流側(河川側)水位である。
【0004】
図14(a)に示すように、上流水位WL1と下流水位WL2が同等程度の水位状態では扉体11は全閉し、水密ゴム11dが戸当金物13に圧着して止水する。なお、ヒンジ機構の連結金物12aは扉体11の水密ゴム11dと戸当金物13との良好な圧着性を確保するものである。
【0005】
図14(b)に示すように、上流側水位WL1が下流水位WL2を超えて上昇する場合、扉体11はヒンジ機構を回転中心として扉体下端を下流側に開放する形態で開放作動し、矢印アが示す水流方向で、上流側から下流側に排水する。
【0006】
フラップゲートは、ゲート上下流水位の変動に対応し、無動力、無人操作でゲート開閉を行うことができるため、最も一般的な自動ゲート設備として利用されている。
【0007】
しかしながら、従来のフラップゲートには、次に述べるような問題点、課題点がある。
図15(a)に示すように、従来のフラップゲートは懸垂された扉体11が常時一定の閉作動力で樋管を閉鎖しているため、上流側水位が低い場合は扉体11が十分に開放作動せず、樋管内に排水困難な低水位WL3を発生させてしまう場合がある。また、これにより樋管内に土砂の堆積や流木等34の滞留が発生し易くなる。さらに、図15(b)に示すように、滞留した流木等34が扉体11と戸当金物13間に挟まり込んで不完全閉作状態を発生させ易くまた、一旦挟まり込んだ流木等34が外れ難く、この状態で河川増水した場合は河川水が樋管内に逆流する問題点がある。
【0008】
さらに、図16に示すように、扉体11の開放角度θが大きくなると扉体11の閉作動力が増大する特性を有するため、支川から大量の排水が行われる場合でも扉体が十分に開放作動せず、扉体11が流水を遮る形態となり比較的大きな上下流水位差△hが発生するなど、円滑な排水を阻害するという問題点がある。
【0009】
図15に示す問題の原因は、フラップゲートの全閉時の閉作動力にある。図17に示すように、従来のフラップゲートでは全閉時の扉体11を上流側に5°程度傾斜させて設置される。図17において、Wは扉体11の質量、X1は重心位置、L9は重心位置とヒンジ機構吊芯との水平距離を示す。この状態で、閉方向の回転モーメントM1(=W×L9)が全閉時閉作動力として作用し、扉体11を戸当金物13に押し当てる。フラップゲートは、この全閉時閉作動力によって上下流同等水位状態でも確実に扉体11を全閉作動させることを可能とする。反面、開放作動時は抵抗力として作用するため、上流側が低水位の状態では排水不良や土砂・流木等の堆積発生の原因となる。
【0010】
図16に示す問題点は、図18に示すように扉体11が開放作動するに伴い扉体重心位置X1と吊芯間の距離L10が大きくなることにより、扉体質量による閉方向の回転モーメントM1(=W×L10)が増大することによる。この問題点を解消するため、図19に示すように、扉体11の下部を浮体構造(フロート)11eとし、下流側水位WL2によって発生する浮力Fにより排水時の開放作動性を向上させる方法がある。しかしながら、図19に示す従来のフラップゲートの設置形態においては扉体下部に大きな浮力を発生させると全閉時の閉作動力を減少させる問題点がある。この形態では浮力Fによるヒンジ機構回りの回転モーメントM2(=F×L11)は開放作動方向に作用し、扉体質量Wによる閉作動力と反対に作用する。浮芯距離L11が重心距離L12より大きいため、浮力Fを大きくすると確実な全閉作動に支障が発生する危険性がある。
【0011】
このような従来のフラップゲートの問題点に対し、特許文献1には、上ヒンジ方式の扉体の支持軸回りにバランスウェイトを設け、比較的小さな作動力で扉体の開閉作動を可能としたうえ、自重と下流側水圧によって起立・倒伏作動する浮体式扉体とを連動アームで連結させて一体の自動ゲートとし、常時樋管を全開放状態として円滑な排水を行い、水位上昇時は浮体式扉体の起立作動と連動させて扉体を全閉作動させる自動ゲートが開示されている。
【0012】
しかしながら、特許文献1のゲートは、上下の扉体の連結機構が複雑であり、長期間における現場での使用では設備の維持管理が困難であるという問題点がある。
【0013】
これに対し、特許文献2には、扉体を浮体構造としたうえ、突出した上部ヒンジを支点とする回転アームの先端に扉体を設置し、河川水上昇時には扉体浮力によって全閉作動させるが、所定以下の水位では扉体を常時開放状態に支持して円滑な排水を行わせるゲートが開示されている。
【0014】
また、特許文献3には上部ヒンジを回転中心とする回転アームの一端に扉体を、他端にバランスウェイトを設けて扉体の回転作動が僅かな作動力で可能としたうえ、扉体の樋管側面部上方にフロートを設け、一定の水位上昇によってフロートに発生する浮力によって自動閉作動を行わせ、所定の水位以下では常時ゲート下部を開放状態として円滑な排水を行うゲートが開示されている。
【0015】
しかしながら、特許文献2に開示されたゲートでは扉体全体の概ね50〜60%以上が没水状態となって閉作動する浮力が発生する。また、特許文献3に開示されたゲートでは扉体の樋管側面部の上方に設置したフロートによって閉作動力が発生する構造であるため、上方に設置したフロートに浮力が発生するまで概ね樋管内高の1/2以上の水位上昇が必要である。特許文献2、3のゲートは、いずれも扉体が全閉作動するまでに樋管内高の1/2〜2/3以上のゲート上下流水位の上昇が必要な機構であり、扉体全閉時以外は止水出来ない構造により、全閉状態までは河川側から樋管側への逆流が発生する。これにより中水位以下での逆流を防止することが困難となる課題点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特許第3822715号明細書
【特許文献2】特許第3350902号明細書
【特許文献3】特許第3500388号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上流側が低水位の状態においても扉体が容易に開放作動して排水を行い、大容量の排水時においては扉体が大きく開放作動して円滑な排水を行いまた、河川側水位と樋管側水位が同程度となった状態では樋管を確実に全閉作動させて逆流の発生を防止することが可能で構造が簡単なフラップゲートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願の請求項1の発明は、河川堤防等に設けられる樋管の河川側出口に、開閉自在の扉体が河川側からの流水に対し止水可能に上部ヒンジ機構により懸垂状態で設置され、樋管側からの流水に対して扉体が河川方向に回転作動して樋管を開放するフラップゲートにおいて、前記扉体の下部にはゲート全閉時は閉作動力として作用し且つゲート開放作動時には開放作動力として作用する浮力を発生させる浮体構造部が形成され、前記扉体の上部には扉体の重心位置をフラップゲートの下流方向に移動させるバランスウェイトが設置され、前記扉体の前記重心位置と前記扉体を懸垂状態に吊す吊芯位置が前記浮体構造部の浮力中心を通る鉛直線より下流側に配置されていることを特徴とするフラップゲートである。
【0019】
この構成により、扉体下部に発生する浮力をゲート開放作動時には開放作動力として活用することで排水を促進し、ゲート全閉時は閉作動力として活用する事が可能となる。
【0020】
本願の請求項2の発明は、前記扉体の質量、浮力は、前記扉体の重力により閉作動力として作用し且つ全閉状態では小さく且つ扉体開放作動とともに増加する回転モーメント(S1)と、前記扉体の前記下部浮体構造に作用する浮力により扉体の開放に伴い開作動力として作用する回転モーメント(S2)との絶対値が、|S1|>|S2|となるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載のフラップゲート。
【0021】
本願の請求項3の発明は、前記扉体の下部戸当金物が上部戸当金物より上流側となるよう傾斜した形態で配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のフラップゲートである。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、扉体の重心と吊芯間隔を小さくすることで全閉時における扉体自重による閉作動力を小さくして上流側低水位による小さな水圧でも扉体を開放作動させることができるので、上流側低水位において扉体が容易に開放作動して円滑な排水を行うことが可能となる。
【0023】
本発明は、扉体下端に浮体構造部を設けているので、発生する浮力をゲート開放作動時には開放作動力として活用することで排水を促進し、ゲート全閉時は閉作動力として活用することが可能となる。
【0024】
本発明は、扉体の重力により閉作動力として作用し、かつ全閉状態では小さく且つ扉体開放作動とともに増加する回転モーメント(S1)と、扉体の前記下部浮体構造に作用する浮力により扉体の開放に伴い開作動力として作用する回転モーメント(S2)との絶対値が、|S1|>|S2|となるように扉体の質量、浮力を設定すること、ならびにゲート全閉状態では上記浮力が閉作動方向に作用することにより、下流側水位が上昇した場合、下流側水位によって扉体下部の浮体構造部に浮力が発生して閉作動力が高まり、扉体を確実に全閉作動させることができる。全閉位置では扉体に作用する浮力が閉作動方向に作用することで、上下流同等水位状態において一定の閉作動力が確保されて確実な止水ができる。
【0025】
本発明は、扉体下部の浮体構造部が水没した状態での排水作動では、浮力が開放作動力として作用し扉体質量による閉作動力を削減することができるため、大容量の排水に対し扉体を大きく開放作動させて円滑に排水することができる。
【0026】
さらに、本発明は、上記状態においても安定した閉作動力が常に確保されていることから、全てのゲート作動範囲において、河川側水位と樋管側水位が同等程度となる前に、扉体は全閉位置に回転作動し逆流発生を防止する。
【0027】
また、本発明は、樋管内高の1/3程度以下の低水位における逆流発生を許容し得る現場条件においては、扉体の下部戸当金物が上部戸当金物より上流側となるよう配置することにより、下流側水位が低い状態では懸垂された扉体と戸当金物間に隙間を設けることで上流側からの排水を円滑に流下させることができる。通常時、扉体下部を開放状態として円滑な排水を行い、下流水位上昇とともに扉体に作用する浮力を閉作動側に作用させ、水位上昇とともに扉体自動閉作動を行わせ、樋管内高の1/5〜1/3程度の低水位状態で早期にゲート全閉状態とすることができる。
【0028】
本発明は、駆動手段を必要とせず、ヒンジ機構により扉体を懸垂するので、簡単な構造のフラップゲートが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のフラップゲートの設置概要図で、(a)が下流側からの鳥瞰図、(b)がゲート設置部の断面概要図である。
【図2】本発明のフラップゲート概要図で、(a)がゲート開放作動状態図、(b)がヒンジ部の構造概要図である。
【図3】本発明のフラップゲートの扉体概要図で、(a)が上流側(樋管側)から見た概要図、(b)が下流側(河川側)から見た概要図である。
【図4】本発明のフラップゲートにおける扉体下部の構造概要図である。
【図5】本発明の実施例1のフラップゲートの設置形態図で、(a)がゲート全閉時の側断面図、(b)がゲート全開時の側断面図である。
【図6】本発明の実施例1のフラップゲートの設置条件図である。
【図7】本発明の実施例1のフラップゲートの作動力形態図で、(a)が無水状態のゲート全閉時、(b)が上流から排水状態の開放作動時である。
【図8】本発明の実施例1のフラップゲートの作動力形態図で、上下流同等水位でゲート全閉状態時を示す。
【図9】本発明の実施例1のフラップゲートの作動力形態図で、一定水位で上流から排水状態時を示す。
【図10】本発明の実施例1のフラップゲートの開放度と作動力の特性を示すグラフである。
【図11】本発明の実施例2の設置条件図を示す。
【図12】本発明の実施例2の上流からの低水位排水状態の作動力形態図である。
【図13】本発明の実施例2の作動力形態図で、(a)が全閉作動水位時、(b)は全閉状態で下部浮体構造部の全没水の状態図である。
【図14】従来のフラップゲートの概要図で、(a)が全閉状態、(b)が開放作動状態を示す。
【図15】従来のフラップゲートの問題点を示す概要図で、(a)は樋管内の排水不良と流木等の堆積発生、(b)は扉体と戸当金物間に流木等が挟まり込んだ状態を示す。
【図16】従来のフラップゲートの排水作動時の問題点を示す概要図である。
【図17】従来のフラップゲートの全閉時における重心位置を示す概要図である。
【図18】従来のフラップゲートの扉体開放状態における重心位置を示す概要図である。
【図19】従来のフラップゲートにおいて扉体下部を浮体構造とした事例での全閉状態における重心位置と浮心位置を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【0031】
<実施例1>
図1において、河川堤防33に設けられた樋管31の河川側出口に、樋管31を閉鎖する形態で扉体1がヒンジ機構の吊金物2により戸当金物3に接する状態で、かつ河川方向に回転自在に懸垂されて設置される。32は河川側水路である。
【0032】
図2(a)に示すように、本発明の扉体1は吊金物2によるヒンジ機構により揺動可能に懸垂されて開放作動可能である。ヒンジ機構は、図2(b)に示すように、扉体1の連結部1aと吊金物2が連結板2aを介して各々連結ピン2bによって連結されている。このヒンジ機構により扉体1は自在に回転作動可能となり、また全閉時の扉体1の水密ゴム1dが円滑に戸当金物3に圧着して河川側から樋管方向への止水を行う。図2(a)に示すように、ゲート開放作動状態では扉体1の水密ゴム1dが上部戸当金物3a、下部戸当金物3b、側部戸当金物3cから離れる形態で樋管31の水路を開放し、樋管側から河川方向に排水を行う。
【0033】
図3に示すように、本発明の扉体1は、上端桁にヒンジ機構の吊金物2との連結部1a、扉体上部にバランスウェイトアーム1bが固定設置され、バランスウェイトアーム1bの先端にバランスウェイト1cが設置されている。このバランスウェイトアーム1b、バランスウェイト1cによって扉体1の重心位置をゲート下流方向に移動させることが可能な構造となっている。
【0034】
また、扉体1の上流面部に水密ゴム1dが設置され、扉体下部下流側を浮体構造1eとすることで、ゲート全閉時においてはゲート下流側水位により扉体に浮力を発生させる構造としている。浮体構造部1eは、例えば図4に示すように、扉体下部のスキンプレート1eアと縦桁1eイ、横桁1eウに囲まれた部分を背板1eエで覆い、この内空部分を完全気密式構造とすることによって形成する。但し、発生する最大浮力の大きさは扉体1の重量の1/2以下とし、扉体全没水状態における全ての作動範囲で扉体1の自重による閉作動力を喪失させないものとする。
【0035】
図5(a)に示すように、本設置形態では、ゲート全閉時にヒンジ機構によって懸垂された扉体1が概ね垂直となるように設置される。また、図5(b)に示すように、ゲート全開作動した状態においてバランスウェイト1cがヒンジ機構や土木構造物等と干渉せず、扉体1が確実に開放作動可能な形態で設置される。
【0036】
図6において、扉体1は全閉状態とし、X1は扉体1の全質量Wの重心点、V1はX1を通過する鉛直線とする。またX2は扉体1の下部浮体構造1eの全浮力Fの浮心、V2はX2を通過する鉛直線とする。扉体1の吊中心位置を通過する鉛直線をV3とし、V1、V3はV2より河川側とし、かつV3はV1と同一、又は若干樋管側に配置される。
【0037】
この設置条件により、図7(a)に示すように、ゲート下流側に水位がない状態で、扉体1にはV3とV1間の距離L1と質量Wによる回転モーメントM1(=W×L1)によって閉方向への作動力が発生している。L1は比較的小さいため、M1も小さい力となり比較的小さな作動力で扉体1は開放作動することができる。図7(b)に示すように、上流側水位WL1が比較的小さい水位であっても、扉体1は簡単に開放作動し、円滑に排水することができる。図7(b)では、扉体1が開放作動したことにより扉体1の回転モーメントM1(=W×L1’)は図7(a)より大きくなるが、WL1の水圧とバランスした状態まで開放作動する。
【0038】
また、図6に示すV3とV1を同一線上に設定した場合、扉体1は全閉状態で吊合状態となり、この場合の初期閉作動力は概ね0の状態となる。したがって、上流側からの流水に対しさらに開放作動し易くなる。
【0039】
図8に示すように、下流側水位の上昇とともに、浮力Fが発生してゲート閉方向の回転モーメントM2(=F×L2)を発生させる。これにより、上下流が同水位状態であっても、発生した浮力M2によってゲート閉作動力を確保する。
【0040】
扉体1の開放作動によって図6に示す鉛直線V1、V2は下流側に移動する。図6に示す鉛直線V2がV3より下流側に移動すると浮力Fは開放作動側に作用する。
【0041】
図9に示すように、扉体1の浮体構造部1eが水没した状態で排水作動を行う場合、質量Wによる回転モーメントM1(=W×L3)はゲート閉作動方向に作用するが、浮力Fによる回転モーメントM2(=F×L4)は開放作動方向に作用する。この結果、ゲートを開放作動させるために必要な作動力はM2相当分が減少することとなり、排水時の上流側水位WL1と下流側水位WL2の水位差が小さくなり、円滑な排水が行える。
【0042】
図10に示す本発明のフラップゲートにおける自動作動力グラフにおいて、横軸はゲート開放度を示し、原点は開度0(=全閉状態)とし、右方向でゲートが開放する。縦軸は開閉方向作動力を示し、中心線0を境に、正方向(上方向)がゲート閉作動力、負方向(下方向)がゲート開作動力を示す。S1は扉体1の重力Wによる回転モーメントM1であり、本設置形態では常に閉作動力として作用し、全閉状態では小さく扉体開放作動とともに増加する特性を有する。S2は扉体1の下部浮体構造1eに作用する全浮力Fによる回転モーメントM2であり、全閉状態では閉作動方向に作用するが、扉体1の開放作動とともに閉作動力として低下し、図6に示す鉛直線V2が同V3と同一線となる角度で0となり、開放に伴い開作動力として作用する。この結果、浮力Fが作用している水位条件下では、扉体の閉作動力はS1とS2を加算した回転モーメントS3となる。
【0043】
本発明のフラップゲートでは、この自動作動力グラフにおけるS1がS2のうち開作動力の絶対値より常に大きくなるように、すなわち|S1|>|S2|に扉体1の質量W、浮力Fが設定される。
【0044】
この結果、図10に示すように、浮力Fが作用する水位条件下では、扉体の閉作動力S3がゲート開度の増加に対して安定した値となる特性を有することなる。これは、上流からの排水量に応じて容易にゲートが開放作動することとなり、排水作動性を高める。また、常に閉作動力が確保されていることより、上流側からの排水圧力が低下した場合は速やかに自動閉作動を行い、上下流水位が逆転する前にゲートを全閉作動させることができる。
【0045】
以上のように、本発明のフラップゲートは、ゲート下流側に水位がない状態、又は下流側水位が低い状態ではゲート閉作動力が小さく、上流側からの排水流に対し容易に開放作動して円滑に排水する。下流水位が上昇すると扉体下部より浮力Fが扉体閉作動方向に作用し、ゲートを確実に閉作動させて下流から上流方向への逆流発生を防止することができる。また、一定水位での上流水から下流方向へ排水する状態においては、浮力Fが開放作動方向に作用し、排水量に応じて容易にゲート開放度を増加させて円滑な排水を行うことができる。
【0046】
<実施例2>
図11において、樋管31の開口の周囲に設けられた枠状の戸当金物を、上部戸当金物3aより下部戸当金物3bが上流側となるように傾斜した形態で配置し、扉体1を実施例1と同様にヒンジ機構によって概ね垂直となるように扉体1を懸垂させて設置する。傾斜角度は5度〜10度程度の範囲とする。図11は、重心X1を通過する鉛直線V1と扉体吊芯の鉛直線V2を同一線上とし、扉体1を垂直に懸垂した設置状態を示す。なお、本実施例では、V1を扉体1の吊中心位置を通過する鉛直線V3と同一線上に設定している。
【0047】
この状態で、扉体1は下部戸当金物3bより離れ、扉体1の下端と下部戸当金物3b間に隙間を設けた形となって樋管を開放した状態となっている。扉体1の吊芯を樋管側に少量移動すると扉体1の下端が上流方向に移動する形で傾斜する。この場合も扉体下端と下部戸当金物3b間にゴミ等が通過できる隙間を確保するようにする。
【0048】
図12に示すように、下流側に水位がない状態では扉体1は釣合い状態で懸垂されておりまた、扉体下端が開放されていることより上流からの排水が円滑に行われ、また流木塵芥等が円滑に流下することができる。
【0049】
図13(a)に示すように、下流側水位が上昇すると扉体1の下部浮体構造部1eに浮力Fによる回転モーメントM2(=F×L7)が扉体閉方向に作用し、扉体1の質量Wにより懸垂状態へ復元しようとする回転モーメントM1(=W×L6)を上回った状態で自動閉作動を行い、所定水位(概ね樋管高さの1/5〜1/3程度の水位)で全閉状態となる。
【0050】
図13(b)に示すように、下流側水位WL2が更に上昇すると浮力Fが増加し、閉作動力を増加して扉体1を下部戸当金物3bに圧着させて止水する。下流水位WL2の上昇による自動閉作動力は、上下流同等水位状態で確実に作用するよう設計されるため、下流水位WL2が上流水位WL1を超えた状態では更に水位差水圧が閉作動方向に作用し、早期にゲートを全閉作動させる。
【0051】
反対に上流水位WL1が下流水位WL2を超えて上昇すると扉体1は開放作動を開始し、図12に示すように比較的小さな水位差で円滑な排水を行う。
【符号の説明】
【0052】
1:扉体 1a:連結部
1b:バランスウェイトアーム 1c:バランスウェイト
1d:水密ゴム 1e:扉体下部の浮体構造部
1eア:扉体のスキンプレート 1eイ:扉体の端縦桁
1eウ:扉体の横桁 1eエ:扉体の背板
2:吊金物(ヒンジ機構) 2a:連結金物(ヒンジ機構)
2b:吊ピン 3:戸当金物
3a:上部戸当金物 3b:下部戸当金物
3c:側部戸当金物 11:扉体
11d:水密ゴム 11e:扉体下部の浮体構造部
12:吊金物 12a:吊板
12b:吊ピン 13:戸当金物
31:樋管側水路 32:河川側水路
33:堤防 34:流木等
WL1:ゲート上流側(樋管側)水位
WL2:ゲート下流側(河川側)水位
WL3:扉体閉により樋管側に発生した排水困難な水位
W:扉体とバランスウェイトの全体質量
F:水中部の扉体下部浮体構造により発生する浮力
X1:Wの重心位置
X2:Fの浮心位置
V1:X1を通過する鉛直線
V2:X2を通過する鉛直線
V3:扉体の吊芯位置を通過する鉛直線
L1〜L11:扉体の吊芯から扉体の重心、または浮心までの水平距離
矢印ア:流水方向
△h:排水時の上下流水位差
【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川堤防等に設けられる樋管の河川側出口に、開閉自在の扉体が河川側からの流水に対し止水可能に上部ヒンジ機構により懸垂された状態で設置され、樋管側からの流水に対して前記扉体が河川方向に回転作動して樋管を開放するフラップゲートにおいて、
前記扉体の下部にはゲート全閉時は閉作動力として作用し且つゲート開放作動時には開放作動力として作用する浮力を発生させる浮体構造部が形成され、前記扉体の上部には前記扉体の重心位置をフラップゲートの下流方向に移動させるバランスウェイトが設置され、前記扉体の前記重心位置と前記扉体を懸垂状態に吊す吊芯位置が前記浮体構造部の浮力中心を通る鉛直線より下流側に配置されていることを特徴とするフラップゲート。
【請求項2】
前記扉体の質量、浮力は、前記扉体の重力により閉作動力として作用し且つ全閉状態では小さく且つ扉体開放作動とともに増加する回転モーメント(S1)と、前記扉体の前記下部浮体構造に作用する浮力により扉体の開放に伴い開作動力として作用する回転モーメント(S2)との絶対値が、|S1|>|S2|となるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載のフラップゲート。
【請求項3】
前記扉体の下部戸当金物が上部戸当金物より上流側となるよう傾斜した形態で配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のフラップゲート。
【請求項1】
河川堤防等に設けられる樋管の河川側出口に、開閉自在の扉体が河川側からの流水に対し止水可能に上部ヒンジ機構により懸垂された状態で設置され、樋管側からの流水に対して前記扉体が河川方向に回転作動して樋管を開放するフラップゲートにおいて、
前記扉体の下部にはゲート全閉時は閉作動力として作用し且つゲート開放作動時には開放作動力として作用する浮力を発生させる浮体構造部が形成され、前記扉体の上部には前記扉体の重心位置をフラップゲートの下流方向に移動させるバランスウェイトが設置され、前記扉体の前記重心位置と前記扉体を懸垂状態に吊す吊芯位置が前記浮体構造部の浮力中心を通る鉛直線より下流側に配置されていることを特徴とするフラップゲート。
【請求項2】
前記扉体の質量、浮力は、前記扉体の重力により閉作動力として作用し且つ全閉状態では小さく且つ扉体開放作動とともに増加する回転モーメント(S1)と、前記扉体の前記下部浮体構造に作用する浮力により扉体の開放に伴い開作動力として作用する回転モーメント(S2)との絶対値が、|S1|>|S2|となるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載のフラップゲート。
【請求項3】
前記扉体の下部戸当金物が上部戸当金物より上流側となるよう傾斜した形態で配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のフラップゲート。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2013−96122(P2013−96122A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239176(P2011−239176)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(594148645)株式会社協和製作所 (10)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(594148645)株式会社協和製作所 (10)
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