説明

フルオレン骨格を有するフェノキシ樹脂およびその製造方法

【課題】耐熱性、電気絶縁性および透明性に優れたフェノキシ樹脂を提供する。
【解決手段】9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレンなどのフェノール性水酸基を有する特定のフルオレン類(A1)で少なくとも構成されたフェノール類(A)と、二官能性エポキシ化合物(例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂など)とを反応させる。前記フェノール類(A)において、前記フルオレン類(A1)の割合は、フェノール類(A)全体に対して80モル%以上であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール性水酸基を有するフルオレン類をフェノール成分とするフェノキシ樹脂、その製造方法および前記フェノキシ樹脂で形成された成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
情報化社会と呼ばれるようになって久しいが、インフォメーション・テクノロジー(IT)機器は現代人の生活にとってますます不可欠なものとなっている。そして、半導体、液晶画面、電子基板などのIT機器を構成する部品には、常に「小型化・軽量化」「大容量化」「高速処理」といった高性能化が求められており、電気特性や温度特性だけでなく機械特性に優れる材料が必要とされている。そして、フェノキシ樹脂は、ポリヒドロキシ樹脂としても知られており、透明性、可とう性、耐衝撃性、密着性、機械的特性などに優れることから、熱可塑性樹脂として、あるいは硬化剤と併せて使用した硬化性樹脂として非常に重要な材料である。近年の材料に対する要求仕様の高まりから、フェノキシ樹脂についても電気特性や耐熱性の向上が急務となっている。
【0003】
一方、樹脂の耐熱性を向上させるためには、ベンゼン骨格等の剛直な置換基を導入すればよいことが知られており、フェノキシ樹脂についても、フルオレン骨格やハイドロキノン骨格を導入する試みがなされている。例えば、特開平11−269264号公報(特許文献1)および特開平11−302373号公報(特許文献2)には、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンを8モル%以上有する二価フェノールとエピクロルヒドリンとの反応、又は前記二価フェノールのジグリシジルエーテルと二価フェノールとの反応により得られる分子量10000〜200000の熱可塑性ポリヒドロキシポリエーテル樹脂が開示されている。
【0004】
また、特開2001-40086号公報(特許文献3)には、下記一般式で示される硬化性フェノキシ樹脂が開示されている。
-[CHCHORCHOAr1O]p-[CHCHORCHOArO]q-[CHCHOHCHOArO]r-
(式中、Ar1およびAr2は、それぞれ相互に同じでも異なっていてもよい2価芳香族フェノール残基を示し、Ar3はAr1またはAr2であり、R1は、アリル基、プロパルギル基およびビニルベンジル基から選ばれる1種または2種以上の重合性不飽和炭化水素基を示し、R2は炭素数1〜10のアルキル基、シクロアルキル基およびアラルキル基から選ばれる飽和炭化水素基を示し、p、q、rは各々の構造単位のモル分率(%)を示し、10≦p≦100、0≦q≦80、0≦r≦10かつp+q+r=100である)。そして、この文献には、2価芳香族フェノール残基に対応する二価フェノールとして、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンが例示されている。
【0005】
さらに、特開2002−167556号公報(特許文献4)には、相対向する回路電極間に介在され、相対向する回路電極を加熱加圧し加圧方向の電極間を電気的に接続する回路接続用フィルム状接着剤であって、特定の樹脂流動性、加熱反応率およびせん断接着強度を有し、(1)ラジカル重合性の2官能以上のアクリレート化合物またはメタクリレート化合物、(2)150℃の溶融粘度が10000Pa・s以下の熱可塑性樹脂、(3)加熱によってラジカルを発生する硬化剤、(4)ラジカル重合性の官能基を有するシランカップリング剤を必須成分とする回路接続用フィルム状接着剤が開示されている。そして、この文献には、前記150℃の溶融粘度が10000Pa・s以下の熱可塑性樹脂が、分子内にフルオレン骨格を有するポリヒドロキシポリエーテル樹脂又は分子内にフルオレン骨格を有するポリヒドロキシポリエーテル樹脂と他の150℃の溶融粘度が10000Pa・s以下の熱可塑性樹脂との混合物であってもよいことが記載されている。そして、この文献の実施例では、前記ポリヒドロキシポリエーテル樹脂として、4,4−(9−フルオレニリデン)−ジフェノールを使用している。
【0006】
しかし、これらの文献に記載のフェノキシ樹脂では、電気・電子分野などで必要とされている耐熱性を十分に向上することはできず、さらに、このような耐熱性と、電気絶縁性、透明性などの特性とを両立することが困難である。また、これらの文献に記載の9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(又は4,4−(9−フルオレニリデン)−ジフェノール)は、耐熱性が十分でないだけでなく、皮膚に触れるとかぶれなどを生じる化合物であり、人体に対する安全性が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−269264号公報(特許請求の範囲、段落番号[0014])
【特許文献2】特開平11−302373号公報(特許請求の範囲、段落番号[0018])
【特許文献3】特開2001−40086号公報(特許請求の範囲、段落番号[0011])
【特許文献4】特開2002−167556号公報(特許請求の範囲、段落番号[0019]、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、耐熱性、電気特性(電気絶縁性など)などの特性に優れた新規なフェノキシ樹脂、その製造方法および前記フェノキシ樹脂で形成された成形体を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、高いレベルでの耐熱性を有しているとともに、透明性に優れたフェノキシ樹脂、その製造方法および前記フェノキシ樹脂で形成された成形体を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、適用範囲が広く、実用性に優れたフルオレン骨格含有フェノキシ樹脂、その製造方法および前記フェノキシ樹脂で形成された成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、フェノキシ樹脂において、重合成分としてのフェノール成分を、フェノール性水酸基を有する特定のフルオレン類で構成すると、従来のフェノキシ樹脂に比べて、耐熱性などの樹脂特性を高度に向上できることを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明のフェノキシ樹脂は、下記式(1)で表されるフェノール性水酸基を有するフルオレン類(A1)で少なくとも構成されたフェノール類(A)を重合成分(フェノール成分)とするフェノキシ樹脂である。
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、環Zおよび環Zは芳香族炭化水素環、R1a、R1b、R2aおよびR2bは同一又は異なって置換基を示す。k1およびk2は同一又は異なって0〜4の整数を示し、m1およびm2はそれぞれ0又は1以上の整数、n1およびn2はそれぞれ0又は1以上の整数を示す。m1、m2、k1又はk2が、それぞれ2以上である場合、複数のR1a、R1b、R2aおよびR2bは、それぞれ、同一又は異なっていてもよい。ただし、環Zおよび環Zがベンゼン環であり、n1およびn2が1であるとき、m1+m2≧1であり、R2aおよびR2bはそれぞれ炭化水素基又はアルコキシ基を少なくとも含む。)
前記式(1)において、環Zおよび環Zがベンゼン環又はナフタレン環であってもよい。代表的には、前記フルオレン類(A1)は、フルオレン類(A1)は、9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレン(例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C1−4アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレンなど)、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ジヒドロキシフェニル)フルオレン、および9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレンから選択された少なくとも1種であってもよい。特に、前記フルオレン類(A1)は、9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレンであってもよい。前記フェノール類(A)において、前記フルオレン類(A1)の割合は、フェノール類(A)全体に対して80モル%以上であってもよく、実質的にフルオレン類(A1)のみで構成してもよい。
【0015】
前記フェノキシ樹脂は、フェノール類(A)と二官能性エポキシ化合物(例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂)との反応物であってもよい。このようなフェノキシ樹脂において、二官能性エポキシ化合物のエポキシ当量は、140〜500g/eqであってもよい。
【0016】
本発明のフェノキシ樹脂の製造方法は、前記フェノール類(A)を重合成分とする限り特に制限されないが、例えば、前記フェノール類(A)と二官能エポキシ化合物とを反応させることにより製造してもよい。このような製造方法において、二官能性エポキシ化合物の使用割合は、フェノール類(A)1重量部に対して、例えば、0.1〜10重量部程度であってもよい。
【0017】
本発明には、前記フェノキシ樹脂又はその組成物で形成された成形体も含まれる。
【0018】
また、本発明には、前記フェノール樹脂(又は前記フェノール樹脂を含む樹脂組成物)で形成された成形体も含まれる。
【0019】
なお、本明細書において、化合物名などの「類」とは、「置換基を有さない」場合と「置換基を有する」場合とを含み、「置換基を有していてもよい」ことを意味する場合がある。
【発明の効果】
【0020】
本発明の新規なフェノキシ樹脂(又はその硬化物)は、耐熱性、電気特性(電気絶縁性など)などの特性に優れている。特に、特定の9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有しており、高いレベルでの耐熱性を有しているとともに、透明性に優れている。このような本発明のフェノキシ樹脂は、前記のような各種樹脂特性に優れているため、樹脂としての適用範囲が広く、実用性に優れている。このような本発明のフェノキシ樹脂(およびその組成物)は、電気用積層板、絶縁ワニスなどの電気・電子分野、接着剤、フィルムなどに好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のフェノキシ樹脂は、フェノール性水酸基を有するフルオレン類(A1)で少なくとも構成されたフェノール成分を重合成分とするフェノキシ樹脂(フルオレン骨格含有フェノキシ樹脂)である。
【0022】
(フェノール性水酸基を有するフルオレン類)
フェノール性水酸基を有するフルオレン類(単に、フルオレン類などということがある)は、フェノール性水酸基およびフルオレン骨格を有している限り、特に限定されないが、通常、下記式(1)で表される化合物であってもよい。
【0023】
【化2】

【0024】
(式中、環Zおよび環Zは芳香族炭化水素環、R1a、R1b、R2aおよびR2bは同一又は異なって置換基を示す。k1およびk2は同一又は異なって0〜4の整数を示し、m1およびm2はそれぞれ0又は1以上の整数、n1およびn2はそれぞれ0又は1以上の整数を示す。m1、m2、k1又はk2が、それぞれ2以上である場合、複数のR1a、R1b、R2aおよびR2bは、それぞれ、同一又は異なっていてもよい。ただし、環Zおよび環Zがベンゼン環であり、n1およびn2が1であるとき、m1+m2≧1であり、R2aおよびR2bはそれぞれ炭化水素基又はアルコキシ基を少なくとも含む。)
上記式(1)において、環Zおよび環Zで表される芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、縮合多環式芳香族炭化水素環(詳細には、少なくともベンゼン環を含む縮合多環式炭化水素環)などが挙げられる。縮合多環式芳香族炭化水素環に対応する縮合多環式芳香族炭化水素としては、縮合二環式芳香族炭化水素(例えば、インデン、ナフタレンなどのC8−20縮合二環式炭化水素、好ましくはC10−16縮合二環式炭化水素)、縮合三環式芳香族炭化水素(例えば、アントラセン、フェナントレンなど)などの縮合2乃至4環式芳香族炭化水素などが挙げられる。好ましい縮合多環式芳香族炭化水素としては、ナフタレン、アントラセンなどが挙げられ、特にナフタレンが好ましい。なお、環ZおよびZは同一の又は異なる環であってもよく、通常、同一の環であってもよい。
【0025】
好ましい環ZおよびZには、ベンゼン環およびナフタレン環が含まれ、特にベンゼン環が好ましい。
【0026】
基R1aおよびR1bで表される置換基としては、特に限定されず、シアノ基、炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アリール基など)、カルボキシル基、アルコキシ基などであってもよく、通常、アルキル基又はアリール基である場合が多い。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC1−6アルキル基(例えば、C1−4アルキル基、特にメチル基)などが例示できる。アリール基としては、フェニル基、トリル基などのC6−10アリール基などが例示できる。基R1aおよびR1bは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、k1(又はk2)が2以上である場合、基R1a(又はR1b)は、同一の環において、異なっていてもよく、同一であってもよい。なお、フルオレン骨格を構成するベンゼン環に対する基R1a(又はR1b)の結合位置(置換位置)は、特に限定されない。好ましい置換数k1およびk2は、0〜2、好ましくは0又は1、特に0である。なお、置換数k1及びk2は、異なっていてもよいが、通常、同一である。
【0027】
環Zおよび環Zに置換するヒドロキシル基の置換数n1およびn2は、通常、n1およびn2が、それぞれ1以上、例えば、1〜4、好ましくは1〜3、さらに好ましくは1〜2、特に1であってもよい。特に、環Zおよび環Zがベンゼン環である場合、n1およびn2は、それぞれ、1〜2、特に1であってもよい。なお、ヒドロキシル基の置換数n1およびn2は、それぞれの環ZおよびZにおいて、同一又は異なっていてもよく、通常、同一である場合が多い。
【0028】
なお、ヒドロキシル基の置換位置は、特に限定されず、環Zおよび環Zの適当な置換位置に置換していればよい。特に、環Zおよび環Zがベンゼン環である場合、ヒドロキシル基は、ベンゼン環がフルオレンに結合した位置に対して3位(又はメタ位)又は4位(又はパラ位)に置換していてもよく、特に4位(パラ位)に置換している場合が多い。
【0029】
環Z及び環Z(以下、これらをまとめて環Zということがある)に置換する置換基R2aおよびR2bとしては、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などのC1−20アルキル基、好ましくはC1−8アルキル基、さらに好ましくはC1−6アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC5−10シクロアルキル基、好ましくはC5−8シクロアルキル基、さらに好ましくはC5−6シクロアルキル基など)、アリール基[例えば、フェニル基、アルキルフェニル基(メチルフェニル基(又はトリル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基など)、ジメチルフェニル基(キシリル基)など)、ナフチル基などのC6−10アリール基、好ましくはC6−8アリール基、特にフェニル基など]、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)などの炭化水素基;アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基などのC1−10アルコキシ基、好ましくはC1−6アルコキシ基、さらに好ましくはC1−4アルコキシ基など);アシル基(アセチル基などのC1−6アシル基など);アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシカルボニル基など);ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子など);ニトロ基;シアノ基;カルボキシル基;アミノ基;置換アミノ基(ジアルキルアミノ基など)などが挙げられる。
【0030】
好ましい置換基R2aおよびR2bは、アルキル基(例えば、C1−6アルキル基)、シクロアルキル基(例えば、C5−8シクロアルキル基)、アリール基(例えば、C6−10アリール基)、アラルキル基(例えば、C6−8アリール−C1−2アルキル基)などの炭化水素基、C1−4アルコキシ基などであり、特に、C1−4アルキル基(特にメチル基)、C6−8アリール基が好ましい。置換基R2aおよびR2bは、同一の環(環Z又は環Z)において、単独で又は2種以上組み合わせて置換していてもよい。また、異なる環ZおよびZに置換する置換基R2aおよびR2bは互いに同一又は異なっていてもよく、通常、同一であってもよい。
【0031】
置換基R2aおよびR2bの置換数m1およびm2は、それぞれ、環Zおよび環Zの種類などに応じて適宜選択でき、特に限定されず、例えば、0〜8、好ましくは0〜6(例えば、1〜5)、さらに好ましくは0〜4程度であってもよい。特に、環Zおよび環Zが、ベンゼン環である場合には、置換数m1およびm2は、それぞれ、0〜3、好ましくは0〜2、特に1である。なお、置換数m1およびm2は、それぞれの環ZおよびZにおいて、同一又は異なっていてもよく、通常、同一である場合が多い。
【0032】
なお、前記式(1)において、環Zおよび環Zがベンゼン環であり、n1およびn2が1であるとき、m1+m2≧1であり、R2aおよびR2bはそれぞれ炭化水素基又はアルコキシ基を少なくとも含む。すなわち、フルオレンの9位に置換する炭化水素環が、フェニル基(又はベンゼン環)であるとき、フェニル基は1以上(又は1〜4、好ましくは1〜2)の置換基を有し、置換基のうち少なくとも1つが炭化水素基又はアルコキシ基(特に炭化水素基)である。炭化水素基としては、前記例示の炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アリール基)が挙げられ、特にアルキル基(例えば、メチル基などのC1−4アルキル基)であってもよい。また、アルコキシ基としては、前記例示のアルコキシ基(メトキシ基などのC1−4アルコキシ基など)などが挙げられる。
【0033】
このように、本発明では、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有するジオールにおいては、前記フェニル基に炭化水素基又はアルコキシ基(特に炭化水素基)を有する特定のフルオレン類を使用する。このような特定のフルオレン類を使用することにより、フェニル基に無置換のフルオレン骨格を有するジオール[すなわち、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン]を使用する場合に比べて、安全性ならびに、フェノキシ樹脂の耐熱性などの特性を高いレベルで向上できる。また、フルオレンの9位に置換する芳香族炭化水素環をナフタレン環などの縮合芳香族炭化水素環とするフルオレン類を使用することにより、耐熱性の向上に加えて、さらに熱膨張性の低減や屈折率の向上を実現できる。
【0034】
代表的なフェノール性水酸基を有するフルオレン類には、例えば、(1)9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類、(2)9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類などが含まれる。
【0035】
(1)9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類
(1a)9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類には、9,9−ビス(モノヒドロキシフェニル)フルオレン類、9,9−ビス(ジヒドロキシフェニル)フルオレン類、9,9−ビス(トリヒドロキシフェニル)フルオレン類[例えば、9,9−ビス(2,4,6−トリヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(トリヒドロキシフェニル)フルオレンなど]が含まれ、通常、9,9−ビス(モノヒドロキシフェニル)フルオレン類又は9,9−ビス(ジヒドロキシフェニル)フルオレン類、特に9,9−ビス(モノヒドロキシフェニル)フルオレン類を好適に使用できる。
【0036】
9,9−ビス(モノヒドロキシフェニル)フルオレン類としては、置換基を有する9,9−ビス(モノヒドロキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(ビスクレゾールフルオレン)、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フルオレン、3,6−ジメチル−9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C1−4アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2,6−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ジC1−4アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(シクロアルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C5−8シクロアルキル−モノヒドロキシフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C6−8アリール−ヒドロキシフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(アラルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−ベンジルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C6−8アリールC1−2アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(アルコキシ−ヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−エトキシ−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C1−4アルコキシ−ヒドロキシフェニル)フルオレン]など}などが挙げられる。
【0037】
9,9−ビス(ジヒドロキシフェニル)フルオレン類としては、上記9,9−ビス(モノヒドロキシフェニル)フルオレン類に対応するフルオレン類、例えば、9,9−ビス(ジヒドロキシフェニル)フルオレン[9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシフェニル)フルオレン(ビスカテコールフルオレン)など]、置換基を有する9,9−ビス(ジヒドロキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス(アルキル−ジヒドロキシフェニル)フルオレン[9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシ−5−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシ−6−メチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C1−4アルキル−ジヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2,4−ジヒドロキシ−3,6−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ジC1−4アルキル−ジヒドロキシフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(アリール−ジヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシ−5−フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C6−8アリール−ジヒドロキシフェニル)フルオレンなど]など}などが例示できる。
【0038】
なお、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類は、種々の合成方法、例えば、(a)塩化水素ガス及びメルカプトカルボン酸の存在下、フルオレノン類とフェノール類とを反応させる方法(文献[J. Appl. Polym. Sci., 27(9), 3289, 1982]、特開平6−145087号公報、特開平8−217713号公報)、(b)酸触媒(及びアルキルメルカプタン)の存在下、9−フルオレノンとアルキルフェノール類とを反応させる方法(特開2000−26349号公報)、(c)塩酸及びチオール類(メルカプトカルボン酸など)の存在下、フルオレノン類とフェノール類とを反応させる方法(特開2002−47227号公報)、(d)硫酸及びチオール類(メルカプトカルボン酸など)の存在下、フルオレノン類とフェノール類とを反応させ、炭化水素類と極性溶媒とで構成された晶析溶媒で晶析させる方法(特開2003−221352号公報)などを利用して製造できる。これらの方法のうち、特に、塩酸を使用する方法(c)、又は特定の晶析溶媒を使用する方法(d)を応用すると、より高収率でかつ高純度で生成物が得られる場合が多い。
【0039】
また、9,9−ビス(ジ又はトリヒドロキシフェニル)フルオレン類は、上記9,9−ビス(モノヒドロキシフェニル)フルオレン類の製造方法において、フェノール類の代わりに、対応する多価アルコール類(ジヒドロキシフェノール類、トリヒドロキシフェノール類)を使用することにより製造できる。
【0040】
(2)9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類
9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類としては、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類{例えば、9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン[例えば、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシナフチル)]フルオレン(又は6,6−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール))、9,9−ビス[1−(6−ヒドロキシナフチル)]フルオレン(又は5,5−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール))、9,9−ビス[1−(5−ヒドロキシナフチル)]フルオレン(又は5,5−(9-フルオレニリデン)−ジ(1−ナフトール))、9,9−ビス[1−(6−(2−ヒドロキシエトキシ)ナフチル)]フルオレン[又は5,5’−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール)]など]などの置換基を有していてもよい9,9−ビス(モノヒドロキシナフチル)フルオレン}、これらの9,9−ビス(モノヒドロキシナフチル)フルオレン類に対応する9,9−ビス(ポリヒドロキシナフチル)フルオレン類(例えば、9,9−ビス(ジ又はトリヒドロキシナフチル)フルオレン類)などが挙げられる。
【0041】
なお、9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類は、前記9,9−ビス(モノヒドロキシフェニル)フルオレン類の製造方法において、フェノール類の代わりに、ナフトール類(ナフトール(1−ナフトール、2−ナフトール)など)を使用することにより製造できる。
【0042】
これらのフェノール性水酸基を有するフルオレン類は、単独で又は2種以上組みあわせてもよい。
【0043】
好ましいフェノール性水酸基を有するフルオレン類には、9,9−ビス(アルキル−モノヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(ビスクレゾールフルオレン)、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルキル−ヒドロキシフェニル)フルオレン]、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C6−8アリール−ヒドロキシフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(ジヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレンなどが含まれる。
【0044】
なお、フェノール成分は、フルオレン類(A1)で構成されている限り、フェノール類(フルオレン類(A1)以外のフェノール類)を含んでいてもよい。このような他のフェノール類(フェノール類(A2))としては、複数のフェノール性水酸基を有する化合物であって、前記フルオレン類以外の化合物(又はフルオレン骨格を有しない化合物)が挙げられる。フェノール類は、置換基[アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)など]を有していてもよい。代表的なフェノール類(A2)には、例えば、ジヒドロキシアレーン[例えば、ジヒドロキシベンゼン(ハイドロキノン、レゾルシノールなど)、ジヒドロキシナフタレンなどのジヒドロキシC6−20アレーン(好ましくはジヒドロキシC6−10アレーン)など]、ビスフェノール類[例えば、ビフェノール;ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールADなどのビス(ヒドロキシフェニル)C1−10アルカン、ビスフェノールSなど]、前記フルオレン類(A1)の範疇に属さないフルオレン骨格を有するビスフェノール類[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの置換基を有しない9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレンなど}などが含まれる。
【0045】
これらのフェノール類は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0046】
フェノール類(A)において、フェノール性水酸基を有するフルオレン類(A1)の割合は、フェノール類(A)全体に対して、例えば、30モル%以上(例えば、40〜100モル%程度)、好ましくは50モル%以上(例えば、60〜99モル%程度)、さらに好ましくは70モル%以上(例えば、80〜95モル%程度)であってもよく、通常90モル%以上(例えば、95モル%以上)であってもよい。
【0047】
本発明のフェノキシ樹脂は、以上のようなフェノール類を重合成分(又はフェノール成分)とするフェノキシ樹脂である限り特に限定されず、例えば、(i)前記フェノール類とエピクロロヒドリンとの反応物(付加反応物)、(ii)前記フェノール類と多官能性エポキシ化合物(特に二官能性エポキシ化合物)との反応物(又は付加反応物)などであってもよく、(iii)前記フェノール成分のジグリシジルエーテル(すなわち、フェノール性水酸基がグリシジルエーテル化した化合物、例えば、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3−メチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C1−4アルキル−グリシジルオキシフェニル)フルオレン)と、ジオール成分(例えば、ジヒドロキシアレーン、ビスフェノール類などの前記例示のフェノール類(A2)など)との反応物(付加反応物)であってもよい。
【0048】
本発明のフェノキシ樹脂は、通常、上記(i)又は(ii)のフェノキシ樹脂、特に、前記フェノール成分と二官能性エポキシ化合物との反応物(ii)である場合が多い。このような反応物(ii)では、フェノール類とエピクロロヒドリンとを反応させる場合(i)などに比べて、偏りのないフェノキシ樹脂を効率よく得ることができる。
【0049】
二官能性エポキシ化合物(又はエポキシ樹脂)としては、ビスフェノール系エポキシ樹脂{又はビスフェノール型エポキシ樹脂又はビスフェノール類を原料とするエポキシ樹脂、例えば、ビスフェノール類又はそのアルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシドなどのC2−4アルキレンオキシド)付加体(例えば、アルキレンオキシドがヒドロキシ基1モルあたり平均1〜10モル、好ましくは1〜6モル、さらに好ましくは1〜4モル程度付加した付加体)のジグリシジルエーテル、これらのジグリシジルエーテルがさらに反応(付加重合)したエポキシ樹脂など]、ナフタレン系エポキシ樹脂[又はナフタレン型エポキシ樹脂又はジヒドロキシナフタレン類を原料とするエポキシ樹脂、例えば、ナフタレンジオール類又はそのアルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシドなどのC2−4アルキレンオキシド)付加体(例えば、アルキレンオキシドがヒドロキシ基1モルあたり平均1〜10モル、好ましくは1〜6モル、さらに好ましくは1〜4モル程度付加した付加体)のジグリシジルエーテル(例えば、1,5−ジ(グリシジルオキシ)ナフタレン、1,6−ジ(グリシジルオキシ)ナフタレン、2,6−ジ(グリシジルオキシ)ナフタレン、2,7−ジ(グリシジルオキシ)ナフタレン、2,7−ジ(2−メチル−2,3−エポキシプロピルオキシ)ナフタレンなどのジ(グリシジルオキシ)ナフタレン類;2,2’−ジグリシジルオキシビナフタレン、ビス(2−グリシジルオキシナフチル)メタンなどのビス(グリシジルオキシナフチル)C1−6アルカンなどのビスナフトール類のジグリシジルエーテル]、脂環族ジオール類のジグリシジルエーテル(例えば、1,4−シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテルなど)、縮合環骨格を有するジオール類のジグリシジルエーテル(例えば、9−フェニル−2,7−ジグリシジルオキシ−1,3,4,5,6,8−ヘキサメチルキサンテンなど)、フルオレン骨格を有するジオールのグリシジルエーテル(フルオレン系エポキシ樹脂)[例えば、ビスフェノキシエタノールフルオレンジグリシジルエーテル、ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテルなどの前記例示のフェノール性水酸基を有するフルオレン類又はそのアルキレンオキシド付加体のジグリシジルエーテルなど]などのグリシジルエーテル型化合物;グリシジルエステル型化合物[例えば、芳香族ジカルボン酸(フタル酸など)又はその水添物(テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸など)とエピクロロヒドリンとの反応物、ダイマー酸グリシジルエステルなど]などが挙げられる。
【0050】
前記ビスフェノール系エポキシ樹脂において、ビスフェノール類としては、4,4’−ジヒドロキシビフェニルなどのビフェノール類;ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタンなどのビス(ヒドロキシフェニル)アルカン類[例えば、ビス(ヒドロキシフェニル)C1−10アルカン];2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,3’−ビフェニリル)プロパンなどのビス(ヒドロキシビフェニリル)アルカン類;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンなどのビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルエ−テルなどのビス(ヒドロキシフェニル)エーテル類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンなどのビス(ヒドロキシフェニル)スルホン類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシドなどのビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィドなどのビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド類;4,4’−(o,m,p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノールなどのビス(ヒドロキシフェニル−アルキル)アレーン類などが挙げられる。これらのビスフェノール類は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0051】
二官能性エポキシ化合物は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0052】
二官能性エポキシ化合物のエポキシ当量は、特に限定されないが、フェノキシ樹脂骨格中に高割合でフルオレン骨格を導入するという観点からは、140〜500g/eq、好ましくは150〜400g/eq、さらに好ましくは155〜350g/eq、特に160〜300g/eq(例えば、165〜250g/eq程度)、通常170〜230g/eq(例えば、175〜220g/eq)程度であってもよい。
【0053】
なお、二官能性エポキシ化合物は、常温(例えば、15〜25℃程度)で、液状又は固体状のいずれであってもよく、通常、液状であってもよい。なお、二官能性エポキシ化合物は、市販品を使用してもよく、当該分野で知られている公知の方法により調製したものを使用してもよい。
【0054】
好ましい二官能性エポキシ化合物には、ビスフェノール型エポキシ樹脂などの芳香族エポキシ樹脂(芳香族骨格を有するエポキシ樹脂)が含まれる。
【0055】
本発明のフェノキシ樹脂の重量平均分子量は、例えば、1000〜200000程度の範囲から選択でき、例えば、2000〜150000、好ましくは3000〜100000、さらに好ましくは4000〜70000、特に5000〜50000程度であってもよく、通常5000〜40000(例えば、5000〜30000)程度であってもよい。
【0056】
なお、前記フェノキシ樹脂の分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は、例えば、1〜7、好ましくは1.3〜5、さらに好ましくは1.5〜4程度であってもよく、通常1.8〜4.5(例えば、2〜3.9)程度であってもよい。
【0057】
また、本発明のフェノキシ樹脂のエポキシ当量は、例えば、2000〜400000g/eq程度の範囲から選択でき、例えば、4000〜300000g/eq、好ましくは6000〜200000g/eq、さらに好ましくは8000〜150000g/eq、特に10000〜100000g/eq程度であってもよく、通常10000〜80000g/eq(例えば、10000〜60000g/eq)程度であってもよい。
【0058】
本発明のフェノキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば、110〜300℃、好ましくは120〜250℃、さらに好ましくは130〜200℃程度であってもよい。
【0059】
[製造方法]
本発明のフェノキシ樹脂は、前記フルオレン類(A1)で少なくとも構成されたフェノール類(A)を重合成分(フェノール成分)として、慣用のフェノキシ樹脂と同様にして製造できる。例えば、本発明のフェノキシ樹脂は、前記フェノキシ樹脂(i)〜(iii)に対応する方法、すなわち、(1)前記フェノール類(A)とエピクロロヒドリンとを反応(重合)させる方法、(2)前記フェノール類(A)と二官能性エポキシ化合物とを反応させる方法、(3)前記フェノール類(A)のジグリシジルエーテルと、ジオール成分とを反応させる方法などにより製造できる。
【0060】
特に、本発明のフェノキシ樹脂は、上記方法(2)により製造する場合が多い。前記方法(2)において、二官能性エポキシ化合物の割合(使用割合)は、例えば、フェノール類(A)1重量部に対して、0.1〜10重量部、好ましくは0.3〜8重量部、さらに好ましくは0.5〜5重量部程度であってもよい。また、二官能性エポキシ化合物の割合(使用割合)は、フェノール類(A)のヒドロキシル基(又はフェノール性水酸基)1モルに対して、0.1〜100モルの範囲から選択でき、例えば、好ましくは0.5〜50モル、さらに好ましくは0.7〜10モル程度であってもよく、通常、等モル程度[例えば、0.7〜1.5モル(例えば、0.8〜1.3モル)、好ましくは0.9〜1.2モル(例えば、0.95〜1.1モル)、さらに好ましくは0.98〜1.05(例えば、0.99〜1.02モル)]程度であってもよい。
【0061】
なお、前記方法において、反応は、触媒(反応触媒)の存在下で行ってもよい。触媒としては、特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物類;トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−1(DBU)などの第3級アミン類;2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール類;テトラメチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロマイドなどの第4級アンモニウム塩類;トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィンなどのホスフィン類;n−ブチルトリフェニルホスホニウムブロマイドなどのホスホニウム塩類などが挙げられる。これらの触媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0062】
触媒の割合(使用割合)は、フェノール類(A)100重量部に対して、例えば、0.01〜100重量部、好ましくは0.5〜50重量部、さらに好ましくは0.1〜10重量部程度であってもよい。
【0063】
また、反応は、溶媒の非存在下又は存在下で行うことができる。例えば、液状の二官能性エポキシ化合物を用い、溶媒の非存在下で反応を行ってもよい。溶媒としては、水;メタノール、エタノールなどのアルコール類;テトラヒドロフランなどのエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコールエーテル類;メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、3−メトキシブチル−1−アセテートなどのアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノンなどのケトン類;2−ヒドロキシプロピオン酸エチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸メチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2−ヒドロキシ−2−メチルブタン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチルなどのエステル類などが挙げられる。これらの溶媒は単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0064】
溶媒を使用する場合、溶媒の割合(使用割合)は、フェノール類(A)1重量部に対して、例えば、0.01〜100重量部、好ましくは0.05〜50重量部、さらに好ましくは0.1〜10重量部程度であってもよい。
【0065】
反応は、加温下で行ってもよい。加温下で行う場合、反応温度は、例えば、50〜300℃程度、好ましくは100〜250℃、さらに好ましくは150〜200℃程度であってもよい。反応時間は、例えば、30分〜24時間、好ましくは1〜18時間、さらに好ましくは2〜12時間程度であってもよい。なお、反応は、空気中又は不活性雰囲気中で行ってもよく、常圧下又は加圧下(通常常圧下)で行ってもよい。
【0066】
本発明のフェノキシ樹脂は、耐熱性に優れ、熱可塑性樹脂として使用できる他、硬化剤と組み合わせることにより、熱硬化性樹脂としても使用できる。このような樹脂用途として使用する場合、本発明のフェノキシ樹脂は、樹脂組成物を構成してもよい。
【0067】
このような樹脂組成物(フェノキシ樹脂組成物)は、本発明のフェノキシ樹脂を含んでいればよく、他の成分、例えば、他のフェノキシ樹脂、添加剤[例えば、安定化剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、熱安定化剤など)、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、耐衝撃改良剤、充填剤(又は補強剤)、分散剤、帯電防止剤、抗菌剤、滑剤、硬化剤(例えば、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤など)など]などが挙げられる。これらの他の成分は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。なお、硬化剤を含む樹脂組成物は、前記のように、熱硬化性樹脂組成物(熱硬化性フェノキシ樹脂組成物)として使用できる。
【0068】
他のフェノキシ樹脂(高分子量フェノキシ樹脂)としては、ビスフェノール類とエピクロロヒドリンとの反応などにより得られる汎用のフェノキシ樹脂などが挙げられる。このようなフェノキシ樹脂は、例えば、東都化成(株)から、「フェノトート」シリーズ(例えば、「YP−50」、「YP−50S」など)として、ユニオンカーバイド(株)から、「UCAR」シリーズ(例えば、「PKHC」,「PKHH」など)として、ジャパンエポキシレジン(株)から、エピコート「エピコート1256、4250」などとして入手することもできる。これらのフェノキシ樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【実施例】
【0069】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0070】
なお、実施例において、分子量は以下のようにして測定した。
【0071】
(分子量の測定)
試料(フェノキシ樹脂)を含むテトラヒドロフラン溶液(1重量%溶液)を作成し、ゲル透過型クロマトグラフ(TOSOH製、「HLC−8020」)により、室温において、ポリスチレン換算で、重量平均分子量(Mw)を測定した。
【0072】
(ガラス転移温度の測定)
示差走査熱量計(DSC、SII製、「DSC6220」)により、ガラス転移温度(Tg)を測定した。
【0073】
(実施例1)
9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(BCF、大阪ガスケミカル株式会社製)415重量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、「エピコート828」、エポキシ当量179)145重量部、および触媒としてのテトラメチルアンモニウムブロマイド2.9重量部を混合し、180℃にて攪拌しながら4時間反応させた。得られたフェノキシ樹脂の分子量を測定したところ、数平均分子量Mn=3720、重量平均分子量Mw=13599、分子量分布Mw/Mn=3.6であった。また、得られたフェノキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)を測定した結果、135℃であり、耐熱性に優れた樹脂であることがわかった。
【0074】
以下に、得られた反応物(フェノキシ樹脂)のH−NMRスペクトルデータを示す。
【0075】
H−NMR(CDCl,d):1.55〜1.65ppm(エピコート828のメチル基の水素)、2.05〜2.15ppm(BCFのメチル基の水素)、2.50〜2.85ppm(エピコート828のエポキシ基の開環により生成したヒドロキシル基が結合した炭素原子に結合した水素)、3.9〜4.2ppm(エピコート828のメチレン基の水素)、4.6〜4.7ppm(エピコート828のエポキシ基の開環により生成したヒドロキシル基の水素)、6.7〜7.8ppm(ベンゼン環の水素)、8.05〜8.15ppm(BCFのヒドロキシル基の水素)。
【0076】
H−NMRスペクトルデータから、(1)1.55〜1.65ppmのピーク強度(エピコート828の6H)と2.05〜2.15ppmのピーク強度(BCFの6H)との比がほぼ1であり、(2)2.50〜2.85ppm又は4.6〜4.7ppmに十分な強度のピークが存在していること(すなわち、エポキシ基が開環していること)、および(3)8.05〜8.15ppmに見られるピーク強度が十分に小さいこと(すなわち、BCFのヒドロキシル基がほぼ反応していること)を確認し、フェノキシ樹脂が生成していることを確認した。
【0077】
(実施例2)
実施例1において、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン145重量部に代えて、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン(大阪ガスケミカル株式会社製)145重量部を使用した以外は、実施例1と同様にしてフェノール樹脂を得た。得られたフェノキシ樹脂の分子量を測定したところ、数平均分子量Mn=2932、重量平均分子量Mw=10520、分子量分布Mw/Mn=3.6であった。また、得られたフェノキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)を測定した結果、152℃であり、耐熱性に優れた樹脂であることがわかった。
【0078】
(実施例3)
9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン145重量部に代えて、6,6’−(9−フルオレニリデン)−ジ(2−ナフトール)(又は6,6’−(9−フルオレニリデン)−ビス(2−ナフトール)、大阪ガスケミカル株式会社製、「ビスナフトールフルオレン」)177重量部を使用した以外は、実施例1と同様にしてフェノール樹脂を得た。得られたフェノキシ樹脂の分子量を測定したところ、数平均分子量Mn=3401、重量平均分子量Mw=12610、分子量分布Mw/Mn=3.7であった。また得られたフェノキシ樹脂のガラス転移温度を測定した結果、196℃であり、耐熱性に優れた樹脂であることがわかった。
【0079】
(実施例4)
9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン145重量部に代えて、9,9−ビス(3−フェニルー4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(大阪ガスケミカル株式会社製)193重量部を使用した以外は、実施例1と同様にしてフェノール樹脂を得た。得られたフェノキシ樹脂の分子量を測定したところ、数平均分子量Mn=2713、重量平均分子量Mw=10592、分子量分布Mw/Mn=3.8であった。また得られたフェノキシ樹脂のガラス転移温度を測定した結果、190℃であり、耐熱性に優れた樹脂であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のフェノキシ樹脂(およびその樹脂組成物)は、成形加工性に優れており、金型により所定の形状に成形したり、あるいは基板上に薄膜を形成して容易に成形可能である。このような成形体(硬化物、薄膜を含む)は、耐熱性および耐環境性に優れ、曲げ特性などの機械的強度が高く、高い靱性、熱衝撃性、および良好な成形加工性を有する。このようなフルオレン骨格を含有するフェノキシ樹脂は、上記耐熱性などの性質に加え、透明性、可とう性、耐衝撃性、密着性、機械的特性に優れることから、電気用積層板、絶縁ワニスなどの電気・電子分野の成形体、接着剤、フィルムなどとして好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるフェノール性水酸基を有するフルオレン類(A1)で少なくとも構成されたフェノール類(A)を重合成分とするフェノキシ樹脂。
【化1】

(式中、環Zおよび環Zは縮合多環式芳香族炭化水素環、R1a、R1b、R2aおよびR2bは同一又は異なって置換基を示す。k1およびk2は同一又は異なって0〜4の整数を示し、m1およびm2はそれぞれ0又は1以上の整数、n1およびn2はそれぞれ0又は1以上の整数を示す。m1、m2、k1又はk2が、それぞれ2以上である場合、複数のR1a、R1b、R2aおよびR2bは、それぞれ、同一又は異なっていてもよい。)
【請求項2】
式(1)において、環Zおよび環Zがナフタレン環である請求項1記載のフェノキシ樹脂。
【請求項3】
フルオレン類(A1)が、9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレンである請求項1記載のフェノキシ樹脂。
【請求項4】
フルオレン類(A1)の割合がフェノール類(A)全体に対して80モル%以上である請求項1記載のフェノキシ樹脂。
【請求項5】
フルオレン類(A1)の割合がフェノール類(A)全体に対して95モル%以上である請求項1記載のフェノキシ樹脂。
【請求項6】
フェノール類(A)と二官能性エポキシ化合物との反応物である請求項1記載のフェノキシ樹脂。
【請求項7】
二官能性エポキシ化合物が、ビスフェノール型エポキシ樹脂である請求項6記載のフェノキシ樹脂。
【請求項8】
二官能性エポキシ化合物のエポキシ当量が、140〜500g/eqである請求項6記載のフェノキシ樹脂。
【請求項9】
請求項1記載のフェノール類(A)と二官能エポキシ化合物とを反応させる請求項6記載のフェノキシ樹脂の製造方法。
【請求項10】
二官能性エポキシ化合物の使用割合が、フェノール類(A)1重量部に対して、0.1〜10重量部である請求項9記載のフェノキシ樹脂の製造方法。
【請求項11】
請求項1記載のフェノキシ樹脂で形成された成形体。

【公開番号】特開2013−32549(P2013−32549A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−252003(P2012−252003)
【出願日】平成24年11月16日(2012.11.16)
【分割の表示】特願2007−109766(P2007−109766)の分割
【原出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】