説明

フルオロアルカンスルホン酸無水物の製造方法

【課題】 本発明の目的は、フルオロアルキルスルホン酸と五酸化二燐とを反応させて、フルオロアルキルスルホン酸無水物を製造する際に、高収率な製造方法を提供する。
【解決手段】 実容量100Lあたりの最大の動力が1.0kW以上である、少なくとも二軸以上のブレードを具備するニーダー型反応器を用いて、フルオロアルカンスルホン酸と五酸化二燐とを40℃以上100℃未満で混練しながら、反応、且つ、生成するフルオロアルキルスルホン酸無水物を排出させ、排出後の該反応器内残渣を100℃以上140℃未満の温度で混練しながら、未反応のフルオロアルキルスルホン酸を排出して回収し、原料として再利用することを特徴とするフルオロアルカンスルホン酸無水物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、有機合成等の触媒又は合成原料として有用なフルオロアルカンスルホン酸無水物を、フルオロアルカンスルホン酸と五酸化二燐との反応により製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、フルオロアルカンスルホン酸無水物を製造する方法としては、例としてトリフルオロメタンスルホン酸無水物((CFSOO)の製造方法を挙げると、トリフルオロメタンスルホン酸(CFSOH)を出発原料として、下記反応式1に示すようにトリフルオロメタンスルホン酸に五酸化二燐(P)を添加し、脱水縮合反応により生成させる方法が知られている。この方法を用いる場合、生成したトリフルオロメタンスルホン酸無水物は加熱により揮発させて回収する。
【0003】
反応式1:2CFSOH + P → (CFSO)O + P・H
しかしながら、本方法においてはトリフルオロメタンスルホン酸の脱水縮合反応により副成するメタ燐酸(P・HO)は、ガラス状であり、粘度が非常に高いため、一般に高粘性物質の混合撹拌に使用されている一軸羽根の攪拌型反応器では、反応途中で撹拌が出来なくなり、そのため反応が進行せず、また生成したトリフルオロメタンスルホン酸無水物も加熱回収できなくなってしまうため、トリフルオロメタンスルホン酸無水物の収率は、トリフルオロメタンスルホン酸ベースで最大でも60%以下となってしまう。
【0004】
そこでこのガラス状の反応残渣に水又は燐酸を加え、メタ燐酸を溶解させ反応器の攪拌が可能な状態にした上で再度減圧蒸留を行い、未反応のトリフルオロメタンスルホン酸を回収する方法が知られている(特許文献1)。
【0005】
しかしながらこの方法では、一度反応を止め、反応熱による急激な温度上昇が無いように水又は燐酸を少しずつ添加する必要があり、また、溶解するまでは撹拌もできない。したがって、添加した水又は燐酸にメタ燐酸が完全に溶解するまで長時間待つ必要があり、工業的観点から見た場合、必ずしも生産性が良いプロセスとは考えにくい。
【0006】
一方、メタ燐酸の固結による低収率を改善するため、トリフルオロメタンスルホン酸と五酸化二燐をフッ素系溶媒中で反応させる方法(特許文献2、3)、五酸化二燐に対して過剰量のトリフルオロメタンスルホン酸を用いる方法(特許文献4)などにより、反応中のメタ燐酸による固結を抑制できることが知られている。しかしながら、少なくとも反応中の攪拌を維持できる程度の粘性を得るためには、多量の溶媒又は反応により消費されない多量の原料を必要とするため、工業的観点から見た場合、必ずしも生産性が良いプロセスとは考えにくい。
【0007】
上記の方法に対しフルオロアルキルスルホン酸無水物の高収率な製造方法として、フルオロアルキルスルホン酸と五酸化二燐を二軸のブレードを具備したニーダー型反応器を用いて反応させることにより、メタ燐酸による固結状態でも強制的に混練し、反応を継続させる方法が知られている(特許文献5)。
【0008】
また、ニーダー型反応器は、多糖類の製造方法(特許文献6)、ゲル状ポリマーの製造方法(特許文献7)に用いられていることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2−268148号公報
【特許文献2】特開平09−227498号公報
【特許文献3】特開平10−114734号公報
【特許文献4】特開2007−145815号公報
【特許文献5】特開2007−297359号公報
【特許文献6】特表2009−540068号公報
【特許文献7】特表2003−514961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
フルオロアルキルスルホン酸と五酸化二燐を二軸のブレードを具備したニーダー型反応器を用いて反応させる従来の方法は、フルオロアルキルスルホン酸無水物を高収率に製造するのに有効な方法であり、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸無水物の場合、原料のトリフルオロメタンスルホン酸ベースで85%程度の収率で製造可能である。しかしながら、やはり残渣であるメタ燐酸中に未反応のトリフルオロメタンスルホン酸が残留するため収率を向上させることは困難である。
【0011】
本発明は、フルオロアルカンスルホン酸無水物の収率を更に向上させる製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、フルオロアルキルスルホン酸と五酸化二燐を二軸のブレードを具備したニーダー型反応器を用いて反応させ、主生成物のフルオロアルキルスルホン酸無水物を該反応器から排出した後の残渣を更に加熱することにより未反応のフルオロアルキルスルホン酸を回収できることを見出し、本発明に至った。
【0013】
すなわち、実容量100Lあたりの最大の動力が1.0kW以上である、少なくとも二軸以上のブレードを具備するニーダー型反応器に、下記一般式(1)で表されるフルオロアルカンスルホン酸と五酸化二燐とを導入し、該反応器にて実容量100Lあたり0.5kW以上の動力により混練させることにより下記一般式(2)で表されるフルオロアルカンスルホン酸無水物を製造する方法において、該反応器にフルオロアルカンスルホン酸と五酸化二燐をそれぞれの全導入量がモル比で2.0以上となるように導入する第一工程、第一工程で導入したフルオロアルカンスルホン酸と五酸化二燐とを、該反応器内の温度を40℃以上100℃未満で混練しながら、フルオロアルカンスルホン酸と五酸化二燐とを反応させて主生成物であるフルオロアルカンスルホン酸無水物と副生成物であるメタ燐酸を生成させ、且つ、該反応器から主生成物であるフルオロアルカンスルホン酸無水物を排出させる第二工程、及び第二工程により得られる該反応器内の残渣をさらに、該反応器内の温度を100℃以上140℃未満で混練しながら、該反応器から未反応のフルオロアルカンスルホン酸を排出させる第三工程と、を有し、更に、第三工程で排出される未反応のフルオロアルカンスルホン酸を、第一工程で導入するフルオロアルカンスルホン酸の全部又は一部として使用することを特徴とするフルオロアルカンスルホン酸無水物の製造方法を提供するものである。
【0014】
SOH ・・・(1)
(RSOO ・・・(2)
(式中のRは、炭素数1〜4の直鎖又は炭素数3〜4の分岐鎖の、飽和又は不飽和のフルオロアルキル基を示す。)
さらには、上記第一工程において、フルオロアルカンスルホン酸と五酸化二燐の導入順序は、フルオロアルカンスルホン酸の後に五酸化二燐を、又はフルオロアルカンスルホン酸と五酸化二燐を同時に、導入することを特徴とする上記のフルオロアルカンスルホン酸無水物の製造方法を提供するものである。
【0015】
さらには、上記第一工程において、五酸化二燐を該反応器に導入する際のフルオロアルカンスルホン酸の液温は30℃以上100℃以下であることを特徴とする上記のフルオロアルカンスルホン酸無水物の製造方法を提供するものである。
【0016】
又は、上記第二工程で排出されるフルオロアルカンスルホン酸無水物を冷却することにより液化回収することを特徴とする上記のフルオロアルカンスルホン酸無水物の製造方法を提供するものである。
【0017】
又は、上記第三工程により得られる該反応器内の残渣に、オルト燐酸を加えて残渣中のメタ燐酸と反応させることにより、ピロ燐酸を合成する第四工程と、第四工程で合成されたピロ燐酸を含有する残渣を、該反応器から抜き出す第五工程と、を有することを特徴とする上記のフルオロアルカンスルホン酸無水物の製造方法を提供するものである。
【0018】
さらには、上記第五工程で抜き出された残渣に、水を加えて残渣中のピロ燐酸と反応させてオルト燐酸を合成し、得られるオルト燐酸を、第四工程で添加するオルト燐酸の全部又は一部として使用することを特徴とする上記のフルオロアルカンスルホン酸無水物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造方法により、フルオロアルカンスルホン酸無水物の収率を90%以上に向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を更に詳述する。
【0021】
本発明の製造方法において、実容量100Lあたりの最大の動力が1.0kW以上である、少なくとも二軸以上のブレードを具備するニーダー型反応器を用いる。この反応器に、一般式RSOH(式中のRは、炭素数1〜4の直鎖又は炭素数3〜4の分岐鎖の、飽和又は不飽和のフルオロアルキル基を示す。)で示されるフルオロアルカンスルホン酸と五酸化二燐とを導入する。該反応器にて実容量100Lあたり0.5kW以上の動力により混練させることにより一般式(RSOO(式中のRは、原料のフルオロアルカンスルホン酸と同じフルオロアルキル基を示す。)で示されるフルオロアルカンスルホン酸無水物を製造する。より詳しくは、本発明の製造方法は次の工程からなる。
【0022】
(第一工程)該反応器にフルオロアルカンスルホン酸と五酸化二燐をそれぞれの全導入量がモル比で2.0以上となるように導入する。
【0023】
(第二工程)第一工程後に導入物を該反応器内の温度を40℃以上100℃未満で混練しながら、フルオロアルカンスルホン酸と五酸化二燐と反応させて主生成物であるフルオロアルカンスルホン酸無水物と副生成物であるメタ燐酸を生成させ、且つ、該反応器から主生成物であるフルオロアルカンスルホン酸無水物を排出させる。
【0024】
(第三工程)第二工程により得られる該反応器内の残渣をさらに、該反応器内の温度を100℃以上140℃未満で混練しながら、該反応器から未反応のフルオロアルカンスルホン酸を排出させる。
【0025】
本発明の製造方法においては、更に、第三工程で排出される未反応のフルオロアルカンスルホン酸を、第一工程で導入するフルオロアルカンスルホン酸の全部又は一部として使用する。
【0026】
ニーダー型反応器は、一般に、外気を遮断するための蓋と反応温度を設定するために内部の加温又は冷却が可能な温度変更手段とを有する反応器内に、外部からの導入物を混練するためのブレードを少なくとも一軸以上有しており、更に、該反応器に原料を導入する導入口、該反応器内の気相部の気体を排出する排気口、及び反応器内の残渣を排出する残渣排出口を少なくとも具備している。温度変更手段としては、例えば、反応器の内部又は外側に電気ヒーターを設置する方法や、反応器の内部又は外側に冷媒又は熱媒が流通する熱交換器やジャケットを設置する方法などがある。一般に、このニーダー型反応器は、ポリマー重合の化学反応など、反応物質の粘性が高い場合に用いられる反応器である。
【0027】
本発明に用いるニーダー型反応器は、一般的なニーダー型反応器の中でも、特に、混練するためのブレードを二軸以上具備しているものを指す。二軸に具備されるブレードの形状は特に限定されない。例えばZ型ブレードやFT型ブレード、スクリュー型ブレードなどが使用可能である。
【0028】
また、軸の回転方向は、特に指定はなく、複数の軸が同一方向に回転しても、逆方向に回転してもかまわない。更に、その動力については、第二工程で反応残渣を混練してガラス状のメタ燐酸(P・HO)中から未反応のフルオロアルカンスルホン酸を効率よく回収することを考慮すると、ニーダー型反応器にて実容量100Lあたり0.5kW以上の動力により混練させることが好ましいため、該反応器の最大動力は、反応器容量100L当たり1.0kW以上が好ましく、より好ましくは2.0kW以上を有する。最大動力が1.0kWより小さくなるとガラス状のメタ燐酸(P・HO)中を実容量100Lあたり0.5kW以上の動力で混練することが困難になり、未反応のフルオロアルカンスルホン酸を効率的に回収できなくなる可能性が生じる。
【0029】
尚、ニーダー型反応器の実容量とは、ニーダー型反応器内部に具備するブレードが、どのような回転位置においても、該反応器内部に充填される液面以下となる最小の液充填量のことを言う。すなわち、ブレードによる充填物の攪拌が実質的に可能な最小の充填容量のことである。
【0030】
本工程で使用するフルオロアルカンスルホン酸は、一般式RSOHで表されるものであり、式中のRは目的物である一般式(RSOOで表されるフルオロアルカンスルホン酸無水物のRと同一であり、炭素数1〜4の直鎖又は炭素数3〜4の分岐鎖の、飽和又は不飽和のフルオロアルキル基を示す。このフルオロアルキル基は少なくとも一つのフッ素が置換したものであり、中でもトリフルオロメチル基の様なペルフルオロアルキル基が好ましい。
【0031】
具体的には、トリフルオロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸が挙げられるが、中でもより好ましくはトリフルオロメタンスルホン酸である。
【0032】
第一工程において、上記ニーダー型反応器に原料であるフルオロアルカンスルホン酸と五酸化二燐を導入する順序は、同時でも、一方を先に導入しても、又は交互に導入してもよく、導入順序は限定されない。
【0033】
尚、五酸化二燐を先に導入した場合、該反応器内で五酸化二燐が塊を形成し易くブレードを回転させる軸の負荷が大きくなってしまう可能性があり、また、塊状物質は反応性が乏しくなるため、反応に長時間を要してしまう可能性がることから、フルオロアルカンスルホン酸を導入後に五酸化二燐を導入するか、又はフルオロアルカンスルホン酸と五酸化二燐を同時に導入する方が好ましい。この場合、五酸化二燐導入時には、該反応器内のフルオロアルカンスルホン酸の液温が30℃以上100℃未満であることが好ましい。30℃未満で五酸化二燐を導入した場合、該反応器内でトリフルオロメタンスルホン酸液中に五酸化二燐の塊が発生し易くなり、効率よく混合できない可能性がある。さらには、ブレードを回転させる軸の負荷が大きくなってしまう可能性がある。
【0034】
一方、五酸化二燐導入時の該反応器内のフルオロアルカンスルホン酸の液温が100℃以上では、五酸化二燐を導入して反応させる際、下記反応式2に示す反応により、フルオロアルカンスルホン酸エステル(RSO)の生成量が増加してしまうため好ましくない。
【0035】
反応式2:
2RSOH + P → RSO + SO + P・H
また、第一工程で導入するフルオロアルカンスルホン酸と五酸化二燐の導入量は、五酸化二燐に対するフルオロアルカンスルホン酸のモル比が2以上であることが好ましい。モル比が2よりも小さい場合は、反応後の反応残渣であるメタ燐酸(P・HO)の粘性が高くなりすぎてしまい、上記ニーダー型反応器を用いて0.5kW以上の動力を駆けたとしても、混練が困難となる可能性がある。また、モル比の上限については、フルオロアルカンスルホン酸の量が増加する分、混練時の粘度は低くなりブレードの駆動に問題は生じないため、特に限定されない。ただし、効率を考慮すると、モル比が3.0以上になると未反応のフルオロアルカンスルホン酸の量が増えてしまい、主生成物の生成量に対して必要とされる反応器容積も大きくなる上、未反応のフルオロアルカンスルホン酸を排出する際の加熱等に必要なエネルギーも増加してしまうため、3.0未満が好ましく、より好ましくは2.5未満である。
【0036】
第二工程における上記ニーダー型反応器内の温度範囲としては、40℃以上100℃未満が好ましい。40℃よりも低い値では、反応残渣の粘性が高くなりすぎてしまい、上記ニーダー型反応器を用いて0.5kW以上の動力を駆けたとしても、混練が困難となる可能性がある。一方、100℃以上の温度では、下記反応式3に示す分解反応が生じ易くなり、副生成物であるフルオロアルカンスルホン酸エステル(RSO)が生成し、目的物であるフルオロアルカンスルホン酸無水物の収量を低下させてしまう可能性がある。
【0037】
反応式3: (RSOO → RSO + SO
第二工程において、フルオロアルカンスルホン酸無水物を排出する方法としては、一般的にヘリウム、アルゴン、窒素、二酸化炭素などの不活性ガスを該反応器内に導入することにより該不活性ガス中にフルオロアルカンスルホン酸無水物が揮発し、その後パージすることにより該不活性ガスに同伴させて排出する方法や、該反応器内を真空ポンプ等の吸引手段を用いて減圧することにより、揮発するフルオロアルカンスルホン酸無水物を排気する方法を用いることができる。生産性を考えると、該反応器内を真空ポンプ等の排気手段を用いて排出する方法が好ましい。
【0038】
吸引手段を用いて吸引する際の該反応器内の圧力範囲としては、特に指定は無いが、反応主生成物であるフルオロアルカンスルホン酸無水物の揮発により排出させることから、操業し易い圧力範囲であることが好ましい。具体的には、0.1kPa以上50kPa未満の範囲の圧力まで吸引することが好ましい。0.1kPaよりも低い圧力は、実用的な運転面を考慮すると、真空ポンプなどの吸引手段の能力が特に大きなものを用いる必要がある。また、50kPa以上の圧力では、該反応器内でのフルオロアルカンスルホン酸無水物の揮発量が低下するため、所望の生産性を得られない可能性がある。
【0039】
第二工程において該反応器から排出されるフルオロアルカンスルホン酸無水物は、そのまま回収してもよいが、冷却し液化回収を行うことができる。液化回収のための冷却温度は、フルオロアルカンスルホン酸無水物が凝縮し液化する温度であれば特に指定はしないが、フルオロアルカンスルホン酸無水物の回収率を向上させるためには、10℃以下まで冷却する方が好ましい。回収する装置としては、例としてシェルアンドチューブタイプの熱交換器などが挙げられるが、冷却することで液化回収できる手段であれば装置の形態は選ばない。
【0040】
第二工程後、上記ニーダー型反応器をさらに昇温し、第三工程へと移行する。
【0041】
第三工程において、該反応器内の温度範囲は、100℃以上140℃未満が好ましい。100℃よりも低い温度においては、第二工程で得られる残渣から未反応のフルオロアルカンスルホン酸が揮発し難くなるため、排出させることが困難となる。140℃以上の温度では、上記反応式2と同様の反応が起こり易くなり、このため副生成物であるフルオロアルカンスルホン酸エステルが生成し未反応のフルオロアルカンスルホン酸の回収率が低下する虞がある。
【0042】
第三工程で未反応のフルオロアルカンスルホン酸を排出する方法としては、一般的にヘリウム、アルゴン、窒素、二酸化炭素などの不活性ガスを該反応器内に導入することにより該不活性ガス中にフルオロアルカンスルホン酸が揮発し、その後パージすることにより該不活性ガスに同伴させて排出する方法や、該反応器内を真空ポンプ等の吸引手段を用いて減圧することにより、揮発するフルオロアルカンスルホン酸を排気する方法が考えられるが、生産性を考えると、該反応器内を真空ポンプ等の排気手段を用いて排出する方法が好ましい。
【0043】
吸引手段を用いて吸引する際の該反応器内の圧力範囲としては、特に指定は無いが、未反応のフルオロアルカンスルホン酸を留出させることから、留出し易い圧力範囲であることが好ましい。具体的には、0.1kPa以上25kPa未満の範囲の圧力まで吸引することが好ましい。0.1kPaよりも低い圧力は、実用的な運転面を考慮すると、真空ポンプなどの吸引手段の能力が特に大きなものを用いる必要がある。また、25kPa以上の圧力では、該反応器内での未反応のフルオロアルカンスルホン酸の揮発量が低下するため、所望の生産性を得られない可能性がある。また、第二工程と第三工程を比較した場合、第二工程よりも第三工程の方が、排出速度が低くなる傾向がある。第二工程と第三工程の排出速度を同程度にするためには、第二工程よりも第三工程の方が該反応器内の圧力は低い方が好ましい。
【0044】
第三工程において、該反応器から排出される未反応のフルオロアルカンスルホン酸は、そのまま回収してもよいが、冷却し液化回収を行うことができる。液化回収のための冷却温度は、フルオロアルカンスルホン酸が凝縮し液化する温度であれば特に指定はしないが、フルオロアルカンスルホン酸の回収率を向上させるためには、10℃以下まで冷却する方がより好ましい。回収する装置としては、例としてシェルアンドチューブタイプの熱交換器などが挙げられるが、冷却することで液化回収できる手段であれば装置の形態は選ばない。
【0045】
第三工程で排出される揮発物中の未反応のフルオロアルカンスルホン酸の純度は高く概ね90wt%以上であり、その他に、フルオロアルカンスルホン酸無水物又はフルオロアルカンスルホン酸エステルが含まれている。したがって、排出される未反応のフルオロアルカンスルホン酸は、そのままでも超強酸用途などに使用可能である。また、再度フルオロアルカンスルホン酸無水物合成用原料部としても、使用が可能であり、再度、第一工程で導入される原料であるフルオロアルカンスルホン酸の一部又は全部に使用することによりフルオロアルカンスルホン酸無水物の収率を向上できる。この場合、排出される未反応のフルオロアルカンスルホン酸を直接導入して用いてもよく、液化回収したものを導入して用いてもよく、複数回の第三工程で回収した未反応のフルオロアルカンスルホン酸を貯槽に溜めておいて、所定量溜まったところで、第一工程の原料として用いてもかまわない。
【0046】
第三工程が終了後の上記ニーダー型反応器内に、残渣としてメタ燐酸(P・HO)が残留している。メタ燐酸は、100〜140℃の温度範囲では、ガラス状の高粘性物質であることから、配管移液等の通常の方法では、該反応器からの抜き出しは困難である。したがって、ある程度粘性を低下させて抜き出すために、水などに溶解させて該残渣を抜き出せる。
【0047】
水にメタ燐酸を直接溶解させた場合、メタ燐酸が溶解していく過程において、水中の燐酸濃度は上昇していき、メタ燐酸は最終的に完全溶解した段階で、P・nHO(3.0≦n<7.9)の組成となって溶解している燐酸水溶液となる。
【0048】
しかしながら、該燐酸水溶液は、上記ニーダー型反応器を構成する金属材質を著しく腐食してしまう虞がある。このため、第三工程で上記ニーダー型反応器内に生じた残渣に、オルト燐酸を加えて残渣中のメタ燐酸と反応させてピロ燐酸を合成し(第四工程)、合成されたピロ燐酸を含有する残渣を該反応器から抜き出す(第五工程)ことにより、残渣の溶解に水を用いないこと及び該反応器内に導入又は生成する、メタ燐酸、オルト燐酸、ピロ燐酸は金属材質を腐食しないことから、上記ニーダー型反応器のブレード、反応器、配管等の残渣が接触する部分に、グラスライニングやポリテトラフルオロエチレンライニングといった強度の低い耐腐食性材質だけではなく、ステンレス鋼等の強度の高い金属材質を用いることができる。さらには、第四工程で合成されるピロ燐酸は、メタ燐酸に比べ粘性が低く、60℃以上600℃以下の温度範囲では、配管での移液が容易なほど液状であるため、容易に該反応器内の残渣を抜き出せる。600℃よりも高い温度では、ピロ燐酸がガス化し液状を保てなくなるため好ましくない。
【0049】
次に抜き出したピロ燐酸を含有する残渣を再利用する方法について説明する。抜き出した該残渣は、60℃以下で固化してしまうため、通常70℃以上600℃以下の温度に維持できる容器に抜き出すことが好ましい。
【0050】
更に、抜き出した該残渣に、水を加えて残渣中のピロ燐酸と反応させてオルト燐酸を合成することができる。水の添加量は、第一工程で投入する五酸化二燐の量に合わせて添加する方法を採る。具体的には、第一工程で投入する五酸化二燐1kgに対し、0.12kg以上0.76kg未満の割合で添加する。0.12kgよりも少ない場合、得られるピロ燐酸の粘性を十分に低下できないため好ましくない。また、0.76kg以上の場合、金属材質を腐食させる濃度になってしまうことから同様に好ましくない。
【0051】
水を加えて残渣中のピロ燐酸と反応させるために用いる反応槽は、水を添加するため、耐腐食性の材質のものがよく、ピロ燐酸を使用するため、70℃以上600℃以下の温度に維持できる加温タイプのものが望ましい。
【0052】
該反応槽の材質としては、例えば、グラスライニング、ポリテトラフルオロエチレンライニング、又はPFAライニングなどが挙げられ、これら耐食性の材質の中から、所望の温度に対して耐熱性のあるものを選定することが好ましい。例えば、グラスライニングの場合は所望の温度を600℃まで、ポリテトラフルオロエチレンライニング又はPFAライニングの場合は所望の温度を260℃まで選択できる。
【0053】
また、水の添加は、マグネットポンプ、ダイアフラムポンプ、シリンジポンプ、プランジャーポンプ、ベローズポンプ、ギアポンプ、シリンジポンプ、チュービングポンプ等の一般的な送液手段を用いることで送液が可能である。ヘッド差を利用した送液手段も使用可能である。さらには、オルト燐酸の必要量に応じて、抜き出した該残渣と添加する水の量を適宜調整できるものが好ましく、例えば、マグネットポンプ、ダイアフラムポンプ等を用いることが好ましい。
【0054】
抜き出したピロ燐酸を含有する残渣から合成したオルト燐酸は、第四工程でメタ燐酸と反応させるために使用するオルト燐酸一部又は全部として使用でき、溶解に使用する燐酸の使用量の削減が可能である。
【0055】
本発明により得られるフルオロアルカンスルホン酸無水物は、既に十分純度の高いものが得られるが、さらに高純度化するために、得られたフルオロアルカンスルホン酸無水物を精留しても良い。
【0056】
精留方法としては、例えば、精留塔を用い、得られたフルオロアルカンスルホン酸無水物を精留塔のリボイラーに仕込み、30℃以上100℃未満の温度で炊き上げを行い、精留を実施する。そうすることにより、さらに高純度化されたフルオロアルカンスルホン酸無水物が得られる。なお、100℃以上の温度で炊き上げを実施した場合、上記反応式3に示すようにフルオロアルカンスルホン酸無水物の分解反応が生じ易くなり、この分解反応によりフルオロアルカンスルホン酸エステルが生成してしまい、フルオロアルカンスルホン酸無水物の収率を低下させてしまう可能性がある。
【0057】
精留塔で精留する場合、精留後のリボイラー内に残留する精留釜残には、フルオロアルカンスルホン酸およびフルオアロアルカンスルホン酸無水物が含まれる。この精留釜残は、再度、第一工程の原料であるフルオロアルカンスルホン酸として用いることができる。
【0058】
以下、実施例により本発明の一つの形態を詳しく説明するが、本発明はかかる実施例に限られるものではない。
【実施例1】
【0059】
ジャケット及び二軸のブレードを具備したニーダー型反応器(実容量:400L、最大動力45kW)に純度99.5wt%のトリフルオロメタンスルホン酸430.0kgを仕込んだ後、ジャケットに温水を流通させ、仕込んだトリフルオロメタンスルホン酸を40℃に昇温させた後、該反応器内部を撹拌させた状態で、純度98.5wt%の五酸化二燐の粉末180.0kg(トリフルオロメタンスルホン酸と五酸化二燐のモル比は2.3)を添加した。その後、ジャケットに流通している温水の温度を上昇させ、第二工程に相当する、該反応器内部を動力8kWで混練しながら、90℃まで該反応器内温を上げてトリフルオロメタンスルホン酸無水物を生成させ、且つ、該反応器に接続した真空ポンプを用いて反応器内を吸引することにより、生成したトリフルオロメタンスルホン酸無水物を該反応器から排出させる操作を行った。ニーダー型反応器から排出されたトリフルオロメタンスルホン酸無水物は、該反応器と真空ポンプを接続する配管途中に設置したシェルアンドチューブ型冷却器を用いて10℃に冷却することにより、液化凝縮を行った。液化したトリフルオロメタンスルホン酸無水物は製品タンクに回収を行った。回収したトリフルオロメタンスルホン酸無水物の重量は317.8kgであり、回収物の純度についてNMR測定装置(JNM−AL400,JEOL製)を用いて分析したところ、純度は97.7wt%であった。
【0060】
続いて、ニーダー型反応器のジャケットに流通させている温媒を温水から蒸気へと変更し、第三工程に相当する、該反応器内の残渣を動力10kWで混練しながら、ニーダー型反応器の内温を120℃まで上昇し、該反応器に接続した真空ポンプを用いて反応器内を吸引することにより、未反応のトリフルオロメタンスルホン酸を該反応器から排出させる操作を行った。該反応器から排出された未反応のトリフルオロメタンスルホン酸は、該反応器と真空ポンプを接続する配管途中に設置したシェルアンドチューブ型冷却器を用いて10℃に冷却することにより、液化凝縮を行った。液化したトリフルオロメタンスルホン酸は未反応トリフルオロメタンスルホン酸回収タンクに回収を行った。回収したトリフルオロメタンスルホン酸の重量は85.0kgであり、回収物の組成についてNMR測定装置(JNM−AL400,JEOL製)を用いて分析したところ、トリフルオロメタンスルホン酸の純度は98.9wt%、トリフルオロメタンスルホン酸無水物は0.5wt%、トリフルオロメタンスルホン酸エステルは0.6wt%であった。
【0061】
トリフルオロメタンスルホン酸無水物の収率は、回収した未反応のトリフルオロメタンスルホン酸を差し引いたトリフルオロメタンスルホン酸をベースに計算を行い、96.1%であることがわかった。回収した未反応のトリフルオロメタンスルホン酸85.0kgは、次のバッチの原料として全量使用した。
【実施例2】
【0062】
実施例1と同様な装置を用いて、試験を行った。ニーダー型反応器に、純度99.5wt%のトリフルオロメタンスルホン酸315.5kgを仕込んだ後、実施例1で回収した純度98.9wt%の未反応の回収トリフルオロメタンスルホン酸を85.0kg仕込んだ。続いて、仕込んだトリフルオロメタンスルホン酸を40℃に保ち、該反応器内部を撹拌させた状態で、純度98.5wt%の五酸化二燐の粉末180.0kg(トリフルオロメタンスルホン酸と五酸化二燐のモル比は2.1)を添加した。その他の条件については実施例1と全て同条件で実施した。
【0063】
回収したトリフルオロメタンスルホン酸無水物の重量は312.8kgであり、回収物中のトリフルオロメタンスルホン酸無水物の純度についてNMR測定装置(JNM−AL400,JEOL製)を用いて分析したところ、98.0wt%であった。
【0064】
また、回収した未反応のトリフルオロメタンスルホン酸の重量は58.6kgであり、回収物の組成は、トリフルオロメタンスルホン酸の純度98.2wt%、トリフルオロメタンスルホン酸無水物1.1wt%、トリフルオロメタンスルホン酸エステル0.7wt%であった。
【0065】
トリフルオロメタンスルホン酸無水物の収率は、回収した未反応のトリフルオロメタンスルホン酸を差し引いたトリフルオロメタンスルホン酸をベースに計算を行い、95.8%であることがわかった。回収した未反応のトリフルオロメタンスルホン酸58.6kgは、他のバッチの原料として全量使用した。
【実施例3】
【0066】
実施例1と同様な装置を用いて試験を行った。ニーダー型反応器に、純度99.5wt%のトリフルオロメタンスルホン酸451.2kgを仕込んだ後、ジャケットに温水を流通させ、仕込んだトリフルオロメタンスルホン酸を40℃に保ち、該反応器内部を撹拌させた状態で、純度98.5wt%の五酸化二燐の粉末150.0kg(トリフルオロメタンスルホン酸と五酸化二燐のモル比は2.9)を添加した。その後、ジャケットに流通している温水の温度を上昇させ、第二工程に相当する、該反応器内部を動力8kWで混練しながら、90℃まで該反応器内温を上げてトリフルオロメタンスルホン酸無水物を生成させ、且つ、該反応器に接続した真空ポンプを用いて反応器内を吸引することにより、生成したトリフルオロメタンスルホン酸無水物を該反応器から排出させる操作を行った。該反応器から排出されたトリフルオロメタンスルホン酸無水物は、該反応器と真空ポンプを接続する配管途中に設置したシェルアンドチューブ型冷却器を用いて10℃に冷却することにより、液化凝縮を行った。液化したトリフルオロメタンスルホン酸無水物は製品タンクに回収を行った。回収したトリフルオロメタンスルホン酸無水物の重量は251.2kgであり、純度は97.1wt%であった。
【0067】
続いて、ニーダー型反応器のジャケットに流通させている温媒を温水から蒸気へと変更し、第三工程に相当する、該反応器内の残渣を動力10kWで混練しながら、該反応器の内温を120℃に上昇させ、該反応器に接続した真空ポンプを用いて反応器内を吸引することにより、未反応のトリフルオロメタンスルホン酸を該反応器から排出させる操作を行った。該反応器から排出された未反応のトリフルオロメタンスルホン酸は、該反応器と真空ポンプを接続する配管途中に設置したシェルアンドチューブ型冷却器を用いて10℃に冷却することにより、液化凝縮を行った。液化したトリフルオロメタンスルホン酸は未反応トリフルオロメタンスルホン酸回収タンクに回収を行った。回収したトリフルオロメタンスルホン酸の重量は171.2kgであり、回収物の組成は、トリフルオロメタンスルホン酸98.1wt%、トリフルオロメタンスルホン酸無水物1.3wt%、トリフルオロメタンスルホン酸エステル0.6wt%であった。
【0068】
トリフルオロメタンスルホン酸無水物の収率は、回収した未反応のトリフルオロメタンスルホン酸を差し引いたトリフルオロメタンスルホン酸をベースに計算を行い、92.4%であることがわかった。回収した未反応のトリフルオロメタンスルホン酸171.2kgは、他のバッチの原料として全量使用した。
【実施例4】
【0069】
実施例1と同様な装置を用いて試験を行った。ニーダー型反応器に、純度99.5wt%のトリフルオロメタンスルホン酸430.0kgを仕込んだ後、ジャケットに温水を流通させ、仕込んだトリフルオロメタンスルホン酸を40℃に保ち、該反応器内部を撹拌させた状態で、純度98.5wt%の五酸化二燐の粉末180.0kg(トリフルオロメタンスルホン酸と五酸化二燐のモル比は2.3)を添加した。その後、ジャケットに流通している温水の温度を調整し、第二工程に相当する、該反応器内部を動力8kWで混練しながら、45℃まで該反応器内温を上げてトリフルオロメタンスルホン酸無水物を生成させ、且つ、該反応器に接続した真空ポンプを用いて反応器内を吸引することにより、生成したトリフルオロメタンスルホン酸無水物を該反応器から排出させる操作を行った。ニーダー型反応器から排出されたトリフルオロメタンスルホン酸無水物は、該反応器と真空ポンプを接続する配管途中に設置したシェルアンドチューブ型冷却器を用いて10℃に冷却することにより、液化凝縮を行った。液化したトリフルオロメタンスルホン酸無水物は製品タンクに回収を行った。回収したトリフルオロメタンスルホン酸無水物の重量は289.5kgであり、回収物の純度についてNMR測定装置(JNM−AL400,JEOL製)を用いて分析したところ、純度は98.8wt%であった。
【0070】
続いて、ニーダー型反応器のジャケットに流通させている熱媒を温水から蒸気へと変更し、第三工程に相当する、該反応器内の残渣を動力10kWで混練しながら、該反応器の内温を120℃に上昇させ、該反応器に接続した真空ポンプを用いて反応器内を吸引することにより、未反応のトリフルオロメタンスルホン酸を該反応器から排出させる操作を行った。該反応器から排出された未反応のトリフルオロメタンスルホン酸は、該反応器と真空ポンプを接続する配管途中に設置したシェルアンドチューブ型冷却器を用いて10℃に冷却することにより、液化凝縮を行った。液化したトリフルオロメタンスルホン酸は未反応トリフルオロメタンスルホン酸回収タンクに回収を行った。回収したトリフルオロメタンスルホン酸の重量は114.5kgであり、回収物の組成についてNMR測定装置(JNM−AL400,JEOL製)を用いて分析したところ、トリフルオロメタンスルホン酸の純度は93.5wt%、トリフルオロメタンスルホン酸無水物は5.9wt%、トリフルオロメタンスルホン酸エステルは0.6wt%であった。
【0071】
トリフルオロメタンスルホン酸無水物の収率は、回収した未反応のトリフルオロメタンスルホン酸を差し引いたトリフルオロメタンスルホン酸をベースに計算を行い、94.9%であることがわかった。回収した未反応のトリフルオロメタンスルホン酸114.5kgは、他のバッチの原料として使用した。
【実施例5】
【0072】
実施例1と同様な装置を用いて、試験を行った。ニーダー型反応器に、純度99.5wt%のトリフルオロメタンスルホン酸374.8kgを仕込んだ後、実施例4で回収した純度93.5wt%の未反応の回収トリフルオロメタンスルホン酸を58.6kg仕込んだ。続いて、仕込んだトリフルオロメタンスルホン酸を40℃に保ち、該反応器内部を撹拌させた状態で、純度98.5wt%の五酸化二燐の粉末180.0kg(トリフルオロメタンスルホン酸と五酸化二燐のモル比は2.3)を添加した。その後、ジャケットに流通している温水の温度を上昇させ、第二工程に相当する、該反応器内部を動力8kWで混練しながら、90℃まで該反応器内温を上げてトリフルオロメタンスルホン酸無水物を生成させ、且つ、該反応器に接続した真空ポンプを用いて反応器内を吸引することにより、生成したトリフルオロメタンスルホン酸無水物を該反応器から排出させる操作を行った。該反応器から排出されたトリフルオロメタンスルホン酸無水物は、該反応器と真空ポンプを接続する配管途中に設置したシェルアンドチューブ型冷却器を用いて10℃に冷却することにより、液化凝縮を行った。液化したトリフルオロメタンスルホン酸無水物は製品タンクに回収を行った。回収したトリフルオロメタンスルホン酸無水物の重量は315.4kgであり、純度は97.6wt%であった。
【0073】
続いて、ニーダー型反応器のジャケットに流通させている熱媒を温水から蒸気へと変更し、第三工程に相当する、該反応器内の残渣を動力10kWで混練しながら、該反応器の内温を138℃に上昇させ、該反応器に接続した真空ポンプを用いて反応器内を吸引することにより、未反応のトリフルオロメタンスルホン酸を該反応器から排出させる操作を行った。該反応器から排出された未反応のトリフルオロメタンスルホン酸は、該反応器と真空ポンプを接続する配管途中に設置したシェルアンドチューブ型冷却器を用いて10℃に冷却することにより、液化凝縮を行った。液化したトリフルオロメタンスルホン酸は未反応トリフルオロメタンスルホン酸回収タンクに回収を行った。回収したトリフルオロメタンスルホン酸の重量は92.1kgであり、回収物の組成を分析したところ、トリフルオロメタンスルホン酸の純度は92.4wt%、トリフルオロメタンスルホン酸無水物は0.6wt%、トリフルオロメタンスルホン酸エステルは7.0wt%であった。
【0074】
回収した未反応のトリフルオロメタンスルホン酸を差し引いたトリフルオロメタンスルホン酸をベースに、トリフルオロメタンスルホン酸無水物の収率を計算すると、95.6%であることがわかった。回収した未反応のトリフルオロメタンスルホン酸92.1kgは、他のバッチの原料として全量使用した。
【実施例6】
【0075】
ジャケット及び二軸のブレードを具備したニーダー型反応器(実容量:400L、最大動力45kW)にジャケットに温水を流通させ、該反応器内部の温度を40℃に昇温した後、該反応器内部のブレードを回転させた状態で、純度99.5wt%のトリフルオロメタンスルホン酸430.0kgと、純度98.5wt%の五酸化二燐の粉末180.0kg(トリフルオロメタンスルホン酸と五酸化二燐のモル比は2.3)を同時に該反応器に導入した。その後、ジャケットに流通している温水の温度を上昇させ、第二工程に相当する、該反応器内部を動力8kWで混練しながら、90℃まで該反応器内温を上げてトリフルオロメタンスルホン酸無水物を生成させ、且つ、該反応器に接続した真空ポンプを用いて反応器内を吸引することにより、生成したトリフルオロメタンスルホン酸無水物を該反応器から排出させる操作を行った。該反応器から排出されたトリフルオロメタンスルホン酸無水物は、該反応器と真空ポンプを接続する配管途中に設置したシェルアンドチューブ型冷却器を用いて10℃に冷却することにより、液化凝縮を行った。反応中、ニーダー型反応器内部では、一部塊が発生しており、塊全てが反応を終えるまでに長時間を要する結果となった。最終的に、実施例1と比べて2倍の反応時間を要した。回収したトリフルオロメタンスルホン酸無水物の重量は319.8kgであり、回収物の純度についてNMR測定装置(JNM−AL400,JEOL製)を用いて分析したところ、純度は97.2wt%であった。
【0076】
続いて、ニーダー型反応器のジャケットに流通させている熱媒を温水から蒸気へと変更し、第三工程に相当する、該反応器内の残渣を動力10kWで混練しながら、該反応器の内温を120℃に上昇させ、該反応器に接続した真空ポンプを用いて反応器内を吸引することにより、未反応のトリフルオロメタンスルホン酸を該反応器から排出させる操作を行った。該反応器から排出された未反応のトリフルオロメタンスルホン酸は、該反応器と真空ポンプを接続する配管途中に設置したシェルアンドチューブ型冷却器を用いて10℃に冷却することにより、液化凝縮を行った。液化したトリフルオロメタンスルホン酸は未反応トリフルオロメタンスルホン酸回収タンクに回収を行った。回収したトリフルオロメタンスルホン酸の重量は84.8kgであり、回収物の組成を分析したところ、トリフルオロメタンスルホン酸の純度は97.4wt%、トリフルオロメタンスルホン酸無水物は1.1wt%、トリフルオロメタンスルホン酸エステルは1.5wt%であった。
【0077】
回収した未反応のトリフルオロメタンスルホン酸を差し引いたトリフルオロメタンスルホン酸をベースに、トリフルオロメタンスルホン酸無水物の収率を計算すると、95.8%であることがわかった。回収した未反応のトリフルオロメタンスルホン酸84.8kgは、次のバッチの原料として全量使用した。
【実施例7】
【0078】
実施例1と同様な装置を用いて試験を行った。ニーダー型反応器に、ジャケットに温水を流通させ、該反応器内部の温度を40℃に昇温した後、該反応器内部のブレードを回転させた状態で、純度98.5wt%の五酸化二燐の粉末を180.0kg導入した。続いて、純度99.5wt%のトリフルオロメタンスルホン酸353.3kgを導入し、さらに実施例6で回収した未反応のトリフルオロメタンスルホン酸84.8kgを導入した(トリフルオロメタンスルホン酸と五酸化二燐のモル比は2.3)。その後、ジャケットの温水温度を変更し、第二工程に相当する、該反応器内部を動力8kWで混練しながら、90℃まで該反応器内温を上げてトリフルオロメタンスルホン酸無水物を生成させ、且つ、該反応器に接続した真空ポンプを用いて反応器内を吸引することにより、生成したトリフルオロメタンスルホン酸無水物を該反応器から排出させる操作を行った。該反応器から排出されたトリフルオロメタンスルホン酸無水物は、該反応器と真空ポンプを接続する配管途中に設置したシェルアンドチューブ型冷却器を用いて10℃に冷却することにより、液化凝縮を行った。反応中、ニーダー型反応器内部では、一部塊が発生しており、塊全てが反応を終了するまでに時間を要した。最終的に、実施例1と比べて2.5倍の反応時間を要した。回収したトリフルオロメタンスルホン酸無水物の重量は314.5kgであり、トリフルオロメタンスルホン酸無水物の純度は98.0wt%であった。
【0079】
続いて、ニーダー型反応器のジャケットに流通させている熱媒を温水から蒸気へと変更し、第三工程に相当する、該反応器内の残渣を動力10kWで混練しながら、該反応器の内温を120℃に上昇させ、該反応器に接続した真空ポンプを用いて反応器内を吸引することにより、未反応のトリフルオロメタンスルホン酸を該反応器から排出させる操作を行った。該反応器から排出された未反応のトリフルオロメタンスルホン酸は、該反応器と真空ポンプを接続する配管途中に設置したシェルアンドチューブ型冷却器を用いて10℃に冷却することにより、液化凝縮を行った。液化したトリフルオロメタンスルホン酸は未反応トリフルオロメタンスルホン酸回収タンクに回収を行った。回収したトリフルオロメタンスルホン酸の重量は82.6kgであり、回収物の組成は、トリフルオロメタンスルホン酸の純度は98.2wt%、トリフルオロメタンスルホン酸無水物は1.1wt%、トリフルオロメタンスルホン酸エステルは0.7wt%であった。
【0080】
回収した未反応のトリフルオロメタンスルホン酸を差し引いたトリフルオロメタンスルホン酸をベースに、トリフルオロメタンスルホン酸無水物の収率を計算すると、92.9%であることがわかった。回収した未反応のトリフルオロメタンスルホン酸82.6kgは、他のバッチの原料として全量使用した。
【実施例8】
【0081】
実施例1と同様な装置を用いて試験を行った。ニーダー型反応器に、純度99.5wt%のトリフルオロメタンスルホン酸430.0kgを仕込んだ後、ジャケットに温水を流通させ、仕込んだトリフルオロメタンスルホン酸を80℃に保ち、該反応器内部を撹拌させた状態で、純度98.5wt%の五酸化二燐の粉末180.0kg(トリフルオロメタンスルホン酸と五酸化二燐のモル比は2.3)を添加した。その後、ジャケットに流通している温水の温度を変更し、第二工程に相当する、該反応器内部を動力8kWで混練しながら、90℃まで該反応器内温を上げてトリフルオロメタンスルホン酸無水物を生成させ、且つ、該反応器に接続した真空ポンプを用いて反応器内を吸引することにより、生成したトリフルオロメタンスルホン酸無水物を該反応器から排出させる操作を行った。該反応器から排出されたトリフルオロメタンスルホン酸無水物は、該反応器と真空ポンプを接続する配管途中に設置したシェルアンドチューブ型冷却器を用いて10℃に冷却することにより、液化凝縮を行った。液化したトリフルオロメタンスルホン酸無水物は製品タンクに回収を行った。回収したトリフルオロメタンスルホン酸無水物の重量は327.5kgであり、トリフルオロメタンスルホン酸無水物の純度は94.0wt%であった。
【0082】
続いて、ニーダー型反応器のジャケットに流通させている熱媒を温水から蒸気へと変更し、第三工程に相当する、該反応器内の残渣を動力10kWで混練しながら、該反応器の内温を120℃に上昇させ、該反応器に接続した真空ポンプを用いて反応器内を吸引することにより、未反応のトリフルオロメタンスルホン酸を該反応器から排出させる操作を行った。該反応器から排出された未反応のトリフルオロメタンスルホン酸は、該反応器と真空ポンプを接続する配管途中に設置したシェルアンドチューブ型冷却器を用いて10℃に冷却することにより、液化凝縮を行った。液化したトリフルオロメタンスルホン酸は未反応トリフルオロメタンスルホン酸回収タンクに回収を行った。回収したトリフルオロメタンスルホン酸の重量は87.2kgであり、トリフルオロメタンスルホン酸の純度は97.7wt%、トリフルオロメタンスルホン酸無水物は1.1wt%、トリフルオロメタンスルホン酸エステルは1.2wt%であった。
【0083】
回収した未反応のトリフルオロメタンスルホン酸を差し引いたトリフルオロメタンスルホン酸をベースに、トリフルオロメタンスルホン酸無水物の収率を計算すると、95.6%であることがわかった。回収した未反応のトリフルオロメタンスルホン酸87.2kgは、他のバッチの原料として全量使用した。
【実施例9】
【0084】
実施例1と同様な装置を用いて試験を行った。ニーダー型反応器に、純度99.5wt%のトリフルオロメタンスルホン酸430.0kgを仕込んだ後、該反応器内が室温状態(25℃)で、純度98.5wt%の五酸化二燐の粉末180.0kg(トリフルオロメタンスルホン酸と五酸化二燐のモル比は2.3)を添加した。その後、ジャケットに温水を流通させ、第二工程に相当する、該反応器内部を動力8kWで混練しながら、90℃まで該反応器内温を上げてトリフルオロメタンスルホン酸無水物を生成させ、且つ、該反応器に接続した真空ポンプを用いて反応器内を吸引することにより、生成したトリフルオロメタンスルホン酸無水物を該反応器から排出させる操作を行った。該反応器から排出されたトリフルオロメタンスルホン酸無水物は、該反応器と真空ポンプを接続する配管途中に設置したシェルアンドチューブ型冷却器を用いて10℃に冷却することにより、液化凝縮を行った。反応中、ニーダー型反応器内部では、いくつもの塊が発生しており、塊全てが反応を終了するまでに時間を要した。最終的に、実施例1と比べて2.5倍の反応時間を要した。回収したトリフルオロメタンスルホン酸無水物の重量は316.2kgであり、回収物の純度についてNMR測定装置(JNM−AL400,JEOL製)を用いて分析したところ、純度は95.5wt%であった。
【0085】
続いて、ニーダー型反応器のジャケットに流通させている熱媒を温水から蒸気へと変更し、第三工程に相当する、該反応器内の残渣を動力10kWで混練しながら、該反応器の内温を120℃に上昇させ、該反応器に接続した真空ポンプを用いて反応器内を吸引することにより、未反応のトリフルオロメタンスルホン酸を該反応器から排出させる操作を行った。該反応器から排出された未反応のトリフルオロメタンスルホン酸は、該反応器と真空ポンプを接続する配管途中に設置したシェルアンドチューブ型冷却器を用いて10℃に冷却することにより、液化凝縮を行った。液化したトリフルオロメタンスルホン酸は未反応トリフルオロメタンスルホン酸回収タンクに回収を行った。回収したトリフルオロメタンスルホン酸の重量は84.2kgであり、回収物の組成についてNMR測定装置(JNM−AL400,JEOL製)を用いて分析したところ、トリフルオロメタンスルホン酸の純度は97.4wt%、トリフルオロメタンスルホン酸無水物は2.1wt%、トリフルオロメタンスルホン酸エステルは0.5wt%であった。
【0086】
回収した未反応のトリフルオロメタンスルホン酸を差し引いたトリフルオロメタンスルホン酸をベースに、トリフルオロメタンスルホン酸無水物の収率を計算すると、92.9%であることがわかった。回収した未反応のトリフルオロメタンスルホン酸84.2kgは、他のバッチの原料として全量使用した
【実施例10】
【0087】
実施例1において第三工程に相当する、ニーダー型反応器内の残渣を動力10kWで混練しながら、該反応器に接続した真空ポンプを用いて反応器内を吸引することにより、未反応のトリフルオロメタンスルホン酸を該反応器から排出させ、その後の残渣(94.0wt%がメタ燐酸)216.0Kgに、オルト燐酸127.0Kgを加え、残渣と反応させることにより該反応器内部でピロ燐酸を合成した。このピロ燐酸を圧力差により、外部の受け槽に移液を実施した。
【0088】
次に、この外部の受け槽中の残渣(95.0wt%がピロ燐酸)343.0Kgに、水88.0Kg(五酸化二燐1kgに対し、0.49kg)を加えてピロ燐酸と反応させ、純度96.0wt%のオルト燐酸を合成した。ここで、合成したオルト燐酸127.0Kgを用い、実施例2の第三工程に相当する、ニーダー型反応器内の残渣を動力10kWで混練しながら、該反応器に接続した真空ポンプを用いて反応器内を吸引することにより、未反応のトリフルオロメタンスルホン酸を該反応器から排出させ、その後のニーダー型反応器内部の残渣に加え、前記と同様に該反応器内部の残渣を外部の受け槽に移液した。
【実施例11】
【0089】
実施例10をくり返し30回実施したところ、ニーダー型反応器内部には、依然として金属光沢が保たれており、燐酸水による腐食は生じていないことがわかった。
【0090】
[比較例1]
実施例1と同様な装置を用いて試験を行った。ニーダー型反応器に、純度99.5wt%のトリフルオロメタンスルホン酸352.6kgを仕込んだ後、ジャケットに温水を流通させ、仕込んだトリフルオロメタンスルホン酸を40℃に保ち、該反応器内部を撹拌させた状態で、純度98.5wt%の五酸化二燐の粉末180.0kg(トリフルオロメタンスルホン酸と五酸化二燐のモル比は1.9)を添加した。その後、ジャケットに流通している温水の温度を上昇させながら、第二工程に相当する、該反応器内部を混練しながら、90℃まで該反応器内温を上げてトリフルオロメタンスルホン酸無水物を生成させ、且つ、該反応器に接続した真空ポンプを用いて反応器内を吸引することにより、生成したトリフルオロメタンスルホン酸無水物を該反応器から排出させる操作を実施しようとしたところ、内部で生成した硝子状生成物の粘性が高くなりすぎてしまい、本試験で用いたニーダー型反応器の最大動力である45kWの負荷を与えても、混練が不能となってしまったため、反応を中止した。
【0091】
[比較例2]
実施例1と同様な装置を用いて試験を行った。ニーダー型反応器に、純度99.5wt%のトリフルオロメタンスルホン酸430.0kgを仕込んだ後、ジャケットに温水を流通させ、仕込んだトリフルオロメタンスルホン酸を40℃に保ち、該反応器内部を撹拌させた状態で、純度98.5wt%の五酸化二燐の粉末180.0kg(トリフルオロメタンスルホン酸と五酸化二燐のモル比は2.3)を添加した。その後、ジャケットに流通している温水の温度を低下させて、第二工程に相当する、該反応器内部を混練しながら、25℃まで該反応器内温を下げてトリフルオロメタンスルホン酸無水物を生成させ、且つ、該反応器に接続した真空ポンプを用いて反応器内を吸引することにより、生成したトリフルオロメタンスルホン酸無水物を該反応器から排出させる操作を実施しようとしたところ、内部で硝子状の物質が生成してしまい、粘性が高く、本試験で用いたニーダー型反応器の最大動力である45kWの負荷を与えても、混練が不能となってしまったため、反応を中止した。
【0092】
[比較例3]
実施例1と同様な装置を用いて試験を行った。ニーダー型反応器に、純度99.5wt%のトリフルオロメタンスルホン酸430.0kgを仕込んだ後、ジャケットに温水を流通させ、仕込んだトリフルオロメタンスルホン酸を40℃に保ち、該反応器内部を撹拌させた状態で、純度98.5wt%の五酸化二燐の粉末180.0kg(トリフルオロメタンスルホン酸と五酸化二燐のモル比は2.3)を添加した。その後、ジャケットに流通している熱媒を温水から蒸気へと変更し、第二工程に相当する、該反応器内部を動力8kWで混練しながら、110℃まで該反応器内温を上げてトリフルオロメタンスルホン酸無水物を生成させ、且つ、該反応器に接続した真空ポンプを用いて反応器内を吸引することにより、生成したトリフルオロメタンスルホン酸無水物を該反応器から排出させる操作を行った。該反応器から排出されたトリフルオロメタンスルホン酸無水物は、該反応器と真空ポンプを接続する配管途中に設置したシェルアンドチューブ型冷却器を用いて10℃に冷却することにより、液化凝縮を行った。液化したトリフルオロメタンスルホン酸無水物は製品タンクに回収を行った。反応は、反応器からの揮発および排出が完全に認められなくなるまで行った。反応終了後、蒸気温度を上げ、該反応器内の残渣を動力10kWで混練しながら、120℃に反応器内温を変更し、未反応のトリフルオロメタンスルホン酸を回収する第三工程を実施したが、回収物は得られなかった。第二工程で得られたトリフルオロメタンスルホン酸無水物の重量は340.3kgであり、純度は91.4wt%であった。またトリフルオロメタンスルホン酸エステルは6.2wt%であった。
【0093】
上記回収量を差し引いたトリフルオロメタンスルホン酸ベースに、トリフルオロメタンスルホン酸無水物の収率を計算すると、77.3%と低い収率であることがわかった。
【0094】
[比較例4]
実施例1と同様な装置を用いて試験を行った。ニーダー型反応器に、純度99.5wt%のトリフルオロメタンスルホン酸430.0kgを仕込んだ後、ジャケットに温水を流通させ、仕込んだトリフルオロメタンスルホン酸を40℃に保ち、該反応器内部を撹拌させた状態で、純度98.5wt%の五酸化二燐の粉末180.0kg(トリフルオロメタンスルホン酸と五酸化二燐のモル比は2.3)を添加した。その後、ジャケットに流通している温水の温度を上昇させ、第二工程に相当する、該反応器内部を動力8kWで混練しながら、90℃まで該反応器内温を上げてトリフルオロメタンスルホン酸無水物を生成させ、且つ、該反応器に接続した真空ポンプを用いて反応器内を吸引することにより、生成したトリフルオロメタンスルホン酸無水物を該反応器から排出させる操作を行った。該反応器から排出されたトリフルオロメタンスルホン酸無水物は、該反応器と真空ポンプを接続する配管途中に設置したシェルアンドチューブ型冷却器を用いて10℃に冷却することにより、液化凝縮を行った。液化したトリフルオロメタンスルホン酸無水物は製品タンクに回収を行った。回収したトリフルオロメタンスルホン酸無水物の重量は302.2kgであり、回収物の純度についてNMR測定装置(JNM−AL400,JEOL製)を用いて分析したところ、純度は97.5wt%であった。
【0095】
続いて、ニーダー型反応器のジャケットに流通させている熱媒を温水から蒸気へと変更し、第三工程に相当する、該反応器内の残渣を動力10kWで混練しながら、該反応器の内温を150℃に上昇させ、該反応器に接続した真空ポンプを用いて反応器内を吸引することにより、未反応のトリフルオロメタンスルホン酸を該反応器から排出させる操作を行った。該反応器から排出された未反応のトリフルオロメタンスルホン酸は、該反応器と真空ポンプを接続する配管途中に設置したシェルアンドチューブ型冷却器を用いて10℃に冷却することにより、液化凝縮を行った。液化したトリフルオロメタンスルホン酸は未反応トリフルオロメタンスルホン酸回収タンクに回収を行った。回収したトリフルオロメタンスルホン酸の重量は91.2kgであり、回収物の組成についてNMR測定装置(JNM−AL400,JEOL製)を用いて分析したところ、トリフルオロメタンスルホン酸の純度は58.2wt%、トリフルオロメタンスルホン酸無水物は16.6wt%、トリフルオロメタンスルホン酸エステルは25.2wt%であった。
【0096】
回収した未反応のトリフルオロメタンスルホン酸を差し引いたトリフルオロメタンスルホン酸をベースに、トリフルオロメタンスルホン酸無水物の収率を計算すると、83.6%と、85.0%よりも低い収率であることがわかった。
【0097】
[比較例5]
実施例1と同様な装置を用いて試験を行った。ニーダー型反応器に、純度99.5wt%のトリフルオロメタンスルホン酸430.0kgを仕込んだ後、ジャケットに温水を流通させ、仕込んだトリフルオロメタンスルホン酸を40℃に保ち、該反応器内部を撹拌させた状態で、純度98.5wt%の五酸化二燐の粉末180.0kg(トリフルオロメタンスルホン酸と五酸化二燐のモル比は2.3)を添加した。その後、ジャケットに流通している温水の温度を変更して、第二工程に相当する、該反応器内部を動力8kWで混練しながら、45℃までニーダー型反応器内温を上げてトリフルオロメタンスルホン酸無水物を生成させ、且つ、該反応器に接続した真空ポンプを用いて反応器内を吸引することにより、生成したトリフルオロメタンスルホン酸無水物を該反応器から排出させる操作を行った。該反応器から排出されたトリフルオロメタンスルホン酸無水物は、該反応器と真空ポンプを接続する配管途中に設置したシェルアンドチューブ型冷却器を用いて10℃に冷却することにより、液化凝縮を行った。液化したトリフルオロメタンスルホン酸無水物は製品タンクに回収を行った。回収したトリフルオロメタンスルホン酸無水物の重量は289.5kgであり、回収物の純度についてNMR測定装置(JNM−AL400,JEOL製)を用いて分析したところ、純度は98.3wt%であった。
【0098】
続いて、ニーダー型反応器のジャケットに流通している温水の温度を変更し、第三工程に相当する、該反応器内の残渣を動力10kWで混練しながら、該反応器の内温を90℃に上昇させ、該反応器に接続した真空ポンプを用いて反応器内を吸引することにより、未反応のトリフルオロメタンスルホン酸を該反応器から排出させる操作を行った。該反応器から排出された未反応のトリフルオロメタンスルホン酸は、該反応器と真空ポンプを接続する配管途中に設置したシェルアンドチューブ型冷却器を用いて10℃に冷却することにより、液化凝縮を行った。液化したトリフルオロメタンスルホン酸は未反応トリフルオロメタンスルホン酸回収タンクに回収を行った。回収したトリフルオロメタンスルホン酸の重量は48.2kgであり、純度は53.6wt%、トリフルオロメタンスルホン酸無水物は45.8wt%、トリフルオロメタンスルホン酸エステルは0.6wt%であった。
【0099】
回収した未反応のトリフルオロメタンスルホン酸を差し引いたトリフルオロメタンスルホン酸をベースに、トリフルオロメタンスルホン酸無水物の収率を計算すると、75.3%と低い収率であることがわかった。
【0100】
実施例1〜9及び比較例1〜5の結果を表1に示す。各実施例の収率は90%以上であった。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の製造方法は、フルオロアルカンスルホン酸無水物を高収率で得ることができることから、従来のフルオロアルカンスルホン酸無水物の製造方法に比べ、効率的な製造方法であり、工業的な製造方法として提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実容量100Lあたりの最大の動力が1.0kW以上である、少なくとも二軸以上のブレードを具備するニーダー型反応器に、下記一般式(1)で表されるフルオロアルカンスルホン酸と五酸化二燐とを導入し、該反応器にて実容量100Lあたり0.5kW以上の動力により混練させることにより下記一般式(2)で表されるフルオロアルカンスルホン酸無水物を製造する方法において、
該反応器にフルオロアルカンスルホン酸と五酸化二燐を、それぞれの全導入量がモル比で2.0以上となるように導入する第一工程、
第一工程で導入したフルオロアルカンスルホン酸と五酸化二燐とを、該反応器内の温度を40℃以上100℃未満で混練しながら、フルオロアルカンスルホン酸と五酸化二燐とを反応させて主生成物であるフルオロアルカンスルホン酸無水物と副生成物であるメタ燐酸を生成させ、且つ、該反応器から主生成物であるフルオロアルカンスルホン酸無水物を排出させる第二工程、
及び第二工程により得られる該反応器内の残渣をさらに、該反応器内の温度を100℃以上140℃未満で混練しながら、該反応器から未反応のフルオロアルカンスルホン酸を排出させる第三工程と、を有し、
更に、第三工程で排出される未反応のフルオロアルカンスルホン酸を、第一工程で導入するフルオロアルカンスルホン酸の全部又は一部として使用することを特徴とするフルオロアルカンスルホン酸無水物の製造方法。
SOH ・・・(1)
(RSOO ・・・(2)
(式中のRは、炭素数1〜4の直鎖又は炭素数3〜4の分岐鎖の、飽和又は不飽和のフルオロアルキル基を示す。)
【請求項2】
第一工程において、フルオロアルカンスルホン酸と五酸化二燐の導入順序は、フルオロアルカンスルホン酸の後に五酸化二燐を、又はフルオロアルカンスルホン酸と五酸化二燐を同時に、導入することを特徴とする、請求項1に記載のフルオロアルカンスルホン酸無水物の製造方法。
【請求項3】
第一工程において、五酸化二燐を該反応器に導入する際のフルオロアルカンスルホン酸の液温は、30℃以上100℃未満であることを特徴とする、請求項2に記載のフルオロアルカンスルホン酸無水物の製造方法。
【請求項4】
第二工程で排出されるフルオロアルカンスルホン酸無水物を冷却することにより液化回収することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のフルオロアルカンスルホン酸無水物の製造方法。
【請求項5】
第三工程により得られる該反応器内の残渣に、オルト燐酸を加えて残渣中のメタ燐酸と反応させることにより、ピロ燐酸を合成する第四工程と、
第四工程で合成されたピロ燐酸を含有する残渣を、該反応器から抜き出す第五工程と、
を有することを特徴とする請求項1に記載のフルオロアルカンスルホン酸無水物の製造方法。
【請求項6】
第五工程で抜き出された残渣に、水を加えて残渣中のピロ燐酸と反応させてオルト燐酸を合成し、得られるオルト燐酸を、第四工程で添加するオルト燐酸の全部又は一部として使用することを特徴とする、請求項5に記載のフルオロアルカンスルホン酸無水物の製造方法。

【公開番号】特開2013−112670(P2013−112670A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262371(P2011−262371)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】