説明

フレキシブル基板及びコーティング液

本発明のフレキシブル基板10は、無機ガラス層110とポリマー層120A,120Bとの積層体からなるフレキシブル基板10であって、ポリマー層120A,120Bはポリオルガノシルセスキオキサンを主成分として含むポリマー層であることを特徴とする。 このため、本発明のフレキシブル基板10によれば、優れた柔軟性、優れた耐衝撃性及び優れたガスバリア性を有するのに加えて優れた耐熱性をも有するフレキシブル基板となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルフラットパネルディスプレイに好適に用いることのできるフレキシブル基板に関する。また、このようなフレキシブル基板などの製造に好適に用いることができるコーティング液に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量で折り曲げ可能なフレキシブルフラットパネルディスプレイが未来のディスプレイとして注目を集めている。このフレキシブルフラットパネルディスプレイ用の基板として用いるフレキシブル基板としては、有機樹脂フィルムからなるフレキシブル基板や、ベース基板となるガラスフィルムにポリマー層が被覆されたガラス/プラスチック複合体フィルムからなるフレキシブル基板が提案されている(例えば、特許文献1及び2並びに非特許文献1参照。)。
【0003】
このうち、有機樹脂フィルムからなるフレキシブル基板は軽量で優れた柔軟性及び優れた耐衝撃性が得られるという長所はあるものの、水蒸気や酸素などのガスに対するガスバリア性に難があるため内部素子を保護することが困難であるという問題があった。
これに対して、ガラス/プラスチック複合体フィルムからなるフレキシブル基板は、ベース基板としてガラスフィルムを用いたことにより、従来のガラス基板の場合と同様に優れたガスバリア性が得られるとともに、ガラスフィルムにポリマー層を被覆したことにより、優れた柔軟性及び優れた耐衝撃性も得られている。なお、ここでいう柔軟性とは、フレキシブル基板を自在に湾曲させることができる性質をいう。
【0004】
図11は、特許文献2に開示されたガラス/プラスチック複合体フィルムからなる従来のフレキシブル基板の構造を示す図である。このフレキシブル基板900は、例えば10μm〜100μm厚のガラスフィルム901と、このガラスフィルム901に被覆された例えば2μm〜50μm厚のポリマー層904との積層構造を有するガラス/プラスチック複合体フィルムからなっている。
【0005】
このフレキシブル基板900によれば、ガラスフィルム901にポリマー層904を被覆したことにより、従来のガラス基板では得られないほどの優れた柔軟性(破壊直前の限界曲率半径が12mm)及び優れた耐衝撃性が得られている。また、このフレキシブル基板900によれば、ベース基板としてガラスフィルム901を用いたことにより、従来のガラス基板の場合と同様に優れたガスバリア性が得られている。すなわち、このフレキシブル基板900は、優れた柔軟性及び優れた耐衝撃性並びに優れたガスバリア性を兼ね備えた優れた基板といえる(非特許文献1参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開平4−235527号公報(図1)
【特許文献2】特表2002−534305号公報(図1)
【非特許文献1】SID02ダイジェスト,セッション6.3,第53〜55頁,題「Thin Glass−Polymer Systems as Flexible Substrates for Displays」(表1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記したフレキシブル基板900の耐熱性は、数時間使用の場合で130℃程度、数分間使用の場合で200℃程度であり(特許文献2参照。)、フレキシブル基板に低抵抗の透明電極を形成したりTFT等の能動素子を形成したりするためには耐熱性が低すぎるという問題があった。すなわち、低抵抗の透明電極を形成する工程やTFT等の能動素子を形成する工程においては、少なくとも300℃〜350℃の温度がフレキシブル基板にかかるため、上記したフレキシブル基板900の耐熱性では低すぎるのである。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、優れた柔軟性、優れた耐衝撃性及び優れたガスバリア性を有するのに加えて優れた耐熱性をも有するフレキシブル基板を提供することを目的とする。また、このような優れたフレキシブル基板などの製造に好適に用いることができるコーティング液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述した目的を達成すべく鋭意努力を重ねた結果、無機ガラス層に柔軟性を付与するためのポリマー層として、ポリオルガノシルセスキオキサンを主成分として含むポリマー層を用いることにより、優れた柔軟性、優れた耐衝撃性及び優れたガスバリア性が得られるのに加えて優れた耐熱性も得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明のフレキシブル基板は、無機ガラス層と、ポリオルガノシルセスキオキサンを主成分として含むポリマー層との積層体からなることを特徴とする。
【0011】
このため、本発明のフレキシブル基板によれば、無機ガラス層に柔軟性を付与するためのポリマー層として、ポリオルガノシルセスキオキサンを主成分として含む耐熱性に優れたポリマー層を用いているため、有機樹脂からなるポリマー層を用いる場合とは異なり、優れた耐熱性が得られる。ポリオルガノシルセスキオキサンが優れた耐熱性を示すのは、このポリオルガノシルセスキオキサンが、ケイ素原子同士が酸素原子を介して結合された骨格構造を有する金属酸化物系のポリマーであるからである。
【0012】
また、本発明のフレキシブル基板によれば、無機ガラス層にポリオルガノシルセスキオキサンを主成分として含む柔軟性に優れたポリマー層を積層させた構造を有しているため、優れた柔軟性及び優れた耐衝撃性が得られる。ポリオルガノシルセスキオキサンが優れた柔軟性を示すのは、このポリオルガノシルセスキオキサン中では、ケイ素原子同士が酸素原子を介して三次元網目状に強固に結合された骨格構造ではなく、ケイ素原子同士が酸素原子を介して二次元状に連なったしなやかな骨格構造を有しているためであり、このため、フレキシブル基板に折り曲げによる応力や衝撃力が加わってもそれらの力を柔軟に吸収することができる。
【0013】
さらにまた、本発明のフレキシブル基板によれば、ベース基板として本来的に優れたガスバリア性を有する無機ガラス層を用いているため、優れたガスバリア性が得られる。
【0014】
このため、本発明のフレキシブル基板は、優れた柔軟性、優れた耐衝撃性及び優れたガスバリア性を有するのに加えて優れた耐熱性をも有するフレキシブル基板となる。
【0015】
ここで、ポリオルガノシルセスキオキサンは、上記したようにケイ素原子同士が酸素原子を介して二次元状に連なったしなやかな骨格構造を有する金属酸化物系のポリマーである。このポリオルガノシルセスキオキサンは、同じケイ素酸化物である、シリコーン樹脂や石英ガラスとはその構造や物性が大きく異なるため、赤外吸収スペクトル、紫外可視吸収スペクトル、NMR、DSC、その他の分析方法により区別可能である。
【0016】
本発明のフレキシブル基板においては、前記ポリマー層は、ポリオルガノシルセスキオキサンを主成分として含むコーティング液を前記無機ガラス層に塗布した後、乾燥及び熱処理を行うことにより製造されるポリマー層であることが好ましい。
このように構成することにより、このコーティング液の粘度やコーティング方法などを調整することで、ポリマー層の厚さを容易に制御することができるようになる。また、このコーティング液に、ポリオルガノシルセスキオキサン以外の成分を添加することが容易になる。
このコーティング液は、ポリオルガノシルセスキオキサンを水又は有機溶剤に溶解することにより作成することができる。
【0017】
本発明のフレキシブル基板においては、前記コーティング液中に含まれるポリオルガノシルセスキオキサンの分子量は特に限定されないが、優れた柔軟性及び優れた耐熱性を有するポリマー層を得るためには、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)として、1000〜100000の範囲内にあることが好ましく、4500〜25000の範囲内にあることが特に好ましい。
【0018】
コーティング液中に含まれるポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が4500未満の場合(特に1000未満の場合)には、350℃近い条件でフレキシブル基板の熱処理を行うとポリマー層にクラックが入ることがあるからである。ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が4500未満の場合(特に1000未満の場合)にクラックが入る理由としては、ポリマー層中には低分子量のオリゴマーが比較的多量に含まれているため、また、ポリマー層自身の強度が低いため、これらのオリゴマー同士が熱処理の過程で縮合反応を起してポリマー層が大きく収縮することになるためであると推測される。
【0019】
一方、コーティング液中に含まれるポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が25000を超える場合(特に100000を超える場合)には、溶剤に対する溶解性が低下して、無機ガラス層上にポリオルガノシルセスキオキサンを含むコーティング溶液を塗布してポリマー層とすることが容易ではなくなるからである。
【0020】
本発明のフレキシブル基板においては、前記コーティング液中に含まれるポリオルガノシルセスキオキサンの赤外吸収スペクトルにおける、1000cm−1〜1200cm−1の領域に見られるSi−O結合に基づく吸収帯のうち最も吸収の大きい吸収帯の吸収強度に対する、830cm−1〜930cm−1の領域に見られるSi−OH結合に基づく吸収帯の吸収強度の比(以下、「IR強度比」という。)は、0.01〜0.2の範囲内にあることが好ましい。
【0021】
コーティング液中に含まれるポリオルガノシルセスキオキサンにおけるIR強度比が0.2を超える場合には、350℃近い条件でフレキシブル基板の熱処理を行うとポリマー層にクラックが入ることがあるからである。IR強度比が0.2を超える場合にポリマー層にクラックが入る理由としては、IR強度比が0.2を超える場合にはポリマー層中にシラノール基が比較的多量に含まれているため、熱処理の過程でシラノール基同士が比較的激しく縮合反応を起こすようになるとともにポリマー層自身の強度が低くなり、その結果、ポリマー層が大きく収縮することになるためであると推測される。
【0022】
一方、コーティング液中に含まれるポリオルガノシルセスキオキサンのIR強度比が0.01未満の場合には、熱処理を行ってもポリマー層中のポリマー同士の架橋反応が不十分になるため、ポリマー層の機械的強度や耐薬品性が低下するからである。
【0023】
本発明のフレキシブル基板においては、前記コーティング液中に含まれるポリオルガノシルセスキオキサンは、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンであることが好ましい。
【0024】
ポリオルガノシルセスキオキサンには、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンとかご型のポリオルガノシルセスキオキサンとが存在する。本発明のフレキシブル基板においては、これらいずれのポリオルガノシルセスキオキサンも用いることができるが、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンを特に好ましく用いることができる。
これは、かご型のポリオルガノシルセスキオキサンは、ケイ素原子同士が酸素原子を介して連なったいわゆるかごのような骨格構造を有する比較的小さな分子であるため、これをポリマーにするには、モノマーに特別な有機置換基を導入することが必要になる。このため、かご型のポリオルガノシルセスキオキサンは、有機置換基を導入することに起因して耐熱性が低下する傾向にある。また、かご型のポリオルガノシルセスキオキサンは、溶剤に対する溶解性がそれほど高くないので、無機ガラス層上にかご型のポリオルガノシルセスキオキサンを含むコーティング液を塗布してポリマー層とすることもそれほど容易でない。
【0025】
これに対して、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンは、ケイ素原子同士が酸素原子を介していわゆるはしごのように二次元状に連なった骨格構造を有する金属酸化物系のポリマーである。このため、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンは、骨格構造を形成するために特別な有機置換基を導入する必要がないため、有機置換基を導入することに起因して耐熱性が低下することもない。また、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンは、溶剤に対する溶解性が高いので、無機ガラス層上にラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンを含むコーティング液を塗布してポリマー層とすることも容易である。
【0026】
このラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンは、赤外吸収スペクトルを測定することによりその存在を確認することができる。図1は、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサン(粉末状)の赤外吸収スペクトルを示す図である。ケイ素酸化物ポリマーは、1100cm−1付近の波数領域にSi−Oの伸縮振動に帰属される吸収バンドを示すが、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンは、図1に示すように、この吸収バンドが2つに分裂している点(図1中、Aで表示。)を特徴としている。
このことは、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンが、異なった環境下にある2つのSi−O結合(いわゆるはしごの長手方向に沿った方向のSi−O結合及びいわゆるはしごの横木方向に沿った方向のSi−O結合)を有し、これらのSi−O結合が異なった振動数で振動しているためであると推測される。
【0027】
本発明のフレキシブル基板においては、コーティング液中に含まれるポリオルガノシルセスキオキサンの原料として、各種の含ケイ素アルコキシドを好適に用いることができる。そして、これらの含ケイ素アルコキシドが三官能の場合には、これらの含ケイ素アルコキシドを単独で又は組み合わせたものを用いることができる。また、これらの含ケイ素アルコキシドが四官能、二官能又は一官能の場合には、これらの含ケイ素アルコキシドを組み合わせて又はこれらの含ケイ素アルコキシドと三官能の含ケイ素アルコキシドとを組み合わせて用いることができる。
【0028】
四官能の含ケイ素アルコキシドとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシランを好適に用いることができる。
【0029】
また、三官能の含ケイ素アルコキシドとしては、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のアリールトリアルコキシシラン;メチルトリメトキシラン、エチルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等のアルキルトリアルコキシシランを好適に用いることができる。
【0030】
また、二官能の含ケイ素アルコキシドとしては、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルエチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、フェニルエチルジエトキシシラン等のアリールアルキルジアルコキシシラン;ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン等のジアルキルジアルコキシシランを好適に用いることができる。
【0031】
また、一官能の含ケイ素アルコキシドとしては、ジフェニルメチルメトキシシラン、フェニルジメチルメトキシシラン、ジフェニルエチルメトキシシラン、フェニルジエチルメトキシシラン、ジフェニルメチルエトキシシラン、フェニルジメチルエトキシシラン、ジフェニルエチルエトキシシラン、フェニルジエチルエトキシシラン等のジアリールアルキルアルコキシシラン又はアリールジアルキルアルコキシシラン;トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン等のトリアリールアルコキシシラン;トリメチルメトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルエトキシシラン等のトリアルキルアルコキシシランを好適に用いることができる。
【0032】
本発明のフレキシブル基板においては、前記コーティング液中に含まれるポリオルガノシルセスキオキサンは、上記した含ケイ素アルコキシドのうち、少なくとも三官能の含ケイ素アルコキシドを含む溶液(含ケイ素アルコキシド溶液)を加水分解及び脱水縮合して得られるケイ素酸化物ポリマーであることが好ましい。
このようにすることにより、ポリマー中でケイ素原子同士が酸素原子を介して二次元状に連なった骨格構造を有するポリオルガノシルセスキオキサンを安定して形成することができるようになるため、優れた柔軟性及び優れた耐熱性を有するポリマー層を安定して得ることができるようになる。
【0033】
この場合、上記含ケイ素アルコキシド溶液としては、三官能の含ケイ素アルコキシドを主成分として含む溶液を用いることがさらに好ましい。
このようにすることにより、ポリマー中でケイ素原子同士が酸素原子を介して二次元状に連なった骨格構造を有するポリオルガノシルセスキオキサンをさらに安定して形成することができるようになるため、優れた柔軟性及び優れた耐熱性を有するポリマー層をさらに安定して得ることができるようになる。
ここで、この明細書において、「三官能の含ケイ素アルコキシドを主成分として含む」とは、含ケイ素アルコキシドのうち三官能の含ケイ素アルコキシドを50重量%以上含むことを意味する。
【0034】
本発明のフレキシブル基板においては、前記コーティング液中に含まれるポリオルガノシルセスキオキサンは、アリール基、アルキル基及び置換アルキル基のうち少なくとも一の置換基を有するケイ素酸化物ポリマーであることが好ましい。
このようにすることにより、これらの有機置換基の存在によりポリオルガノシルセスキオキサンの柔軟性及び耐熱性の程度、ひいてはフレキシブル基板の柔軟性、耐衝撃性及び耐熱性の程度を適宜調整することができるようになる。
【0035】
本発明のフレキシブル基板においては、前記コーティング液は、前記ポリオルガノシルセスキオキサンに加えて有機樹脂及び/又は有機低分子化合物をさらに含むコーティング液あることが好ましい。
このように構成することにより、ポリマー層に各種の望ましい性質(所望の柔軟性、耐衝撃性、耐熱性、耐光性、耐候性、耐薬品性、平坦性、層厚、機械的強度など)を付与することができるようになる。
【0036】
ポリマー層がポリオルガノシルセスキオキサンに加えて有機樹脂をさらに含むものである場合には、このコーティング液には、ポリオルガノシルセスキオキサン以外の成分として、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂などの公知の有機樹脂をさらに含有することもできる。これらの有機樹脂は、ポリマー層中でポリオルガノシルセスキオキサンが主成分(含有量50重量%以上)となる範囲で含ませることが好ましい。
これらの有機樹脂を含有することによって、フレキシブル基板の耐熱性を維持したまま柔軟性及び耐衝撃性をさらに優れたものにすることができる。
【0037】
ポリマー層がポリオルガノシルセスキオキサンに加えて有機低分子化合物をさらに含むものである場合には、その有機低分子化合物としては、ポリマー層に各種の望ましい性質(所望の柔軟性、耐衝撃性、耐熱性、耐光性、耐候性、耐薬品性、平坦性、層厚、機械的強度など)を付与するための多種多様なものを用いることができる。
【0038】
このような有機低分子化合物としては、例えばトリアジン系、ベンゾフェノン系などのラジカル系重合開始剤、オニウム系などの光酸発生剤系の重合開始剤、有機過酸化物からなる重合開始剤なども好適に用いることができる。この場合、ポリオルガノシルセスキオキサンとしては、所定濃度の架橋性官能基が含まれているポリオルガノシルセスキオキサンを好ましく用いることができる。このようにすることにより、ポリオルガノシルセスキオキサンの柔軟な骨格構造を維持したまま側鎖同士を適宜結合することが可能になるため、ポリマー層の柔軟性を損なわずに機械的強度を高めることが可能になる。
【0039】
本発明のフレキシブル基板においては、前記コーティング液は、前記ポリオルガノシルセスキオキサンに加えてシリコーン樹脂をさらに含むコーティング液であることも好ましい。
このように構成することにより、シリコーン樹脂がバインダの役割を果たすようになることから、コーティング液に適度な粘度を与えることができるようになり、ポリマー層を望ましい厚みにしてフレキシブル基板の柔軟性及び耐衝撃性を向上させるのが容易になる。この場合、シリコーン樹脂単独でポリマー層を構成した場合には低い耐熱性しか得られないのであるが、ポリオルガノシルセスキオキサンに加えてシリコーン樹脂をさらに含むコーティング液を用いた場合には優れた耐熱性が得られる。
【0040】
本発明のフレキシブル基板においては、前記コーティング液は、前記ポリオルガノシルセスキオキサンに加えてコロイダルシリカをさらに含むコーティング液であることも好ましい。
このように構成することにより、ポリオルガノシルセスキオキサンにおける通常の架橋に加えて、コロイダルシリカによる架橋が生ずるため、ポリマー層の耐熱性、機械的強度及び耐薬品性をさらに向上させることができる。
【0041】
本発明のフレキシブル基板においては、上記したポリマー溶液を無機ガラス層に塗布する方法としては、回転塗布法(スピナー法)、浸漬引き上げ塗布法(ディッピング法)、スプレー塗布法、ダイコート法などの公知の湿式塗布法を用いることができる。
【0042】
本発明のフレキシブル基板においては、ポリオルガノシルセスキオキサンを主成分として含むポリマー層の膜厚は特に限定されるものではないが、優れた柔軟性及び優れた耐衝撃性を得るためには、0.5μm〜100μmであることが好ましく、1μm〜60μmであることがより好ましく、2μm〜30μmであることがさらに好ましい。
【0043】
本発明のフレキシブル基板においては、無機ガラス層の材料としては、硼珪酸ガラス、アルカリ成分を含まない硼珪酸ガラス、その他の種々のガラスを用いることができる。
本発明のフレキシブル基板においては、無機ガラス層の厚さとしては、1μm〜300μmであることが好ましく、5μm〜200μmであることがより好ましく、10μm〜100μmであることがさらに好ましい。
【0044】
本発明のフレキシブル基板においては、ポリマー層を無機ガラス層の片面に形成することもできるし、ポリマー層を無機ガラス層の両面に形成することもできる。
ポリマー層を無機ガラス層の両面に形成した場合には、フレキシブル基板の柔軟性及び耐衝撃性をさらに向上させることができる。
【0045】
本発明のフレキシブル基板は、350℃以上の耐熱性を有するフレキシブル基板であることが好ましい。
このようにすることにより、フレキシブルフラットパネルディスプレイを製造する過程において、フレキシブル基板に低抵抗の透明電極を形成したりTFT等の能動素子を形成したりすることができるようになり、フレキシブルフラットパネルディスプレイの品質を高めることができるようになる。
【0046】
本発明のフレキシブル基板は、空気中350℃の温度で熱処理した後において、400nm〜800nmの波長域における光透過率が90%以上であるようなフレキシブル基板であることが好ましい。
このようにすることにより、フレキシブルフラットパネルディスプレイを製造する過程において、フレキシブル基板に低抵抗の透明電極を形成したりTFT等の能動素子を形成したりした場合であっても、このフレキシブル基板の光透過率を高いまま維持することができるため、フレキシブルフラットパネルディスプレイの表示品質を低下させることもなくなる。
【0047】
本発明のフレキシブル基板は、空気中350℃の温度で熱処理した後において、このフレキシブル基板に対して垂直な方向に0.3mNmの衝撃を加えても割れないフレキシブル基板であることが好ましい。
このようにすることにより、フレキシブルフラットパネルディスプレイを製造する過程において、フレキシブル基板に低抵抗の透明電極を形成したりTFT等の能動素子を形成したりした場合であっても、このフレキシブル基板の耐衝撃性を高いまま維持することができるようになり、フレキシブルフラットパネルディスプレイを様々な用途に応用できるようになる。また、このフレキシブル基板を用いてフラットパネルディスプレイを製造する工程中でこのフレキシブル基板が破損することがなくなる。
【0048】
本発明のフレキシブル基板においては、耐衝撃力は高いほうが好ましいため、空気中350℃の温度で熱処理した後において、このフレキシブル基板に対して垂直な方向に3mNmの衝撃を加えても割れないフレキシブル基板であることがより好ましく、30mNmの衝撃を加えても割れないフレキシブル基板であることがさらに好ましい。
本発明のフレキシブル基板は、ポリオルガノシルセスキオキサンを主成分として含む柔軟性に優れたポリマー層を用いているため、優れた耐衝撃性を有するようになり、上記したような衝撃力にも十分に耐え得るフレキシブル基板となる。
【0049】
本発明のコーティング液は、ポリオルガノシルセスキオキサンを主成分として含むことを特徴とする。
このため、本発明のコーティング液は、上記したように優れた特性を有するフレキシブル基板におけるポリマー層を製造するための原料として好適に用いることができる。
なお、本発明のコーティング液における好ましい態様については、上記した本発明のフレキシブル基板で説明したとおりである。
【0050】
以上述べたように、本発明のフレキシブル基板は、優れた柔軟性、優れた耐衝撃性及び優れたガスバリア性を有するのに加えて優れた耐熱性をも有しているため、軽量で折り曲げ可能なディスプレイ(例えば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ)用の基板として好適に用いることができる。
また、本発明のコーティング液は、このように優れたフレキシブル基板をはじめ各種用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンの赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図2】実施形態1に係るフレキシブル基板10の構造を模式的に示す図である。
【図3】実施形態1に係るフレキシブル基板10の光透過率を示す図である。
【図4】実施形態1に係るフレキシブル基板10の耐衝撃試験方法を説明するために示す模式図である。
【図5】実施形態1に係るフレキシブル基板10の耐衝撃試験の結果を示す図である。
【図6】実施形態2に係るフレキシブル基板20の構造を模式的に示す図である。
【図7】実施例1におけるポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算分子量分布及び赤外線吸収スペクトルを示す図である。
【図8】実施例2におけるポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算分子量分布及び赤外線吸収スペクトルを示す図である。
【図9】実施例3におけるポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算分子量分布及び赤外線吸収スペクトルを示す図である。
【図10】実施例4におけるポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算分子量分布及び赤外線吸収スペクトルを示す図である。
【図11】従来のフレキシブル基板の構造を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、本発明の実施の形態に基づいて、本発明のフレキシブル基板をさらに詳細に説明する。但し、いうまでもなく、本発明の技術的範囲は、以下の本発明の実施の形態の記載に限定されるものではない。
【0053】
[実施形態1]
図2は、実施形態1に係るフレキシブル基板10の構造を模式的に示す図である。実施形態1に係るフレキシブル基板10は、図2に示すように、無機ガラス層110と、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンを主成分として含むポリマー層120A,120Bとの積層体からなる基板である。ポリマー層120A,120Bは、無機ガラス層110の両面に形成されている。なお、図2においては、構造を分かり易くするために、無機ガラス層110とポリマー層120A,120Bとを一部剥がした状態で示している。
【0054】
以下のような方法で実施形態1に係るフレキシブル基板を作成した。
まず、フェニルトリメトキシシラン及び3−メルカプトプロピルトリメトキシシランの混合溶液を加水分解及び脱水縮合してラダー型のポリオルガノシルセスキオキサン(ポリスチレン換算の重量平均分子量:Mw=19512)を作成した。
次に、このポリオルガノシルセスキオキサンの20重量部をγ−ブチロラクトン80重量部に溶解してコーティング液を調製した。
【0055】
次に、このコーティング液を、縦40mm×横40mmの正方形の形状を有する厚さ50μmの硼珪酸ガラス基板(無機ガラス層)の一方の面に回転塗布し、80℃の乾燥機で30分間乾燥した。次に、さらに同じコーティング液を硼珪酸ガラス基板の他方の面に回転塗布し80℃の乾燥機でさらに30分間乾燥した。
次に、電気炉を用いて400℃で30分熱処理することにより実施形態1に係るフレキシブル基板10を作成した。ポリマー層120A,120Bの膜厚はそれぞれ1.5μmである。
【0056】
このようにして得られた実施形態1に係るフレキシブル基板10によれば、ポリマー層としてラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンを主成分として含む耐熱性に優れたポリマー層120A,120Bを用いているため、優れた耐熱性が得られるようになる。また、無機ガラス層110にラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンを主成分とする柔軟性に優れたポリマー層120A,120Bを積層させた構造を有しているため、優れた柔軟性及び優れた耐衝撃性が得られる。さらにまた、フレキシブル基板のベース基板として本来的に高いガスバリア性を有する無機ガラス層110を用いているため、優れたガスバリア性が得られる。
このため、実施形態1に係るフレキシブル基板10は、優れた柔軟性、優れた耐衝撃性及び優れたガスバリア性を有するのに加えて優れた耐熱性をも有するフレキシブル基板となる。
【0057】
実施形態1に係るフレキシブル基板10においては、350℃以上の耐熱性が得られる。このため、フレキシブルフラットパネルディスプレイを製造する過程において、フレキシブル基板に低抵抗の透明電極を形成したりTFT等の能動素子を形成したりすることができるようになり、フレキシブルフラットパネルディスプレイの品質を高めることができるようになる。
【0058】
実施形態1に係るフレキシブル基板10においては、空気中350℃の温度で熱処理した後において、400nm〜800nmの波長域における光透過率が90%以上であり、優れた光透過性を示す。
図3は、実施形態1に係るフレキシブル基板10の光透過率を示す図である。図3中、符号aで示す透過率曲線は実施形態1に係るフレキシブル基板10のものであり、符号bで示す透過率曲線は硼珪酸ガラスのものである。図3に示すように、実施形態1に係るフレキシブル基板10においては、空気中350℃の温度で熱処理した後においても、400nm〜800nmの波長域における光透過率が90%以上である。
このため、フレキシブルフラットパネルディスプレイを製造する過程において、フレキシブル基板に低抵抗の透明電極を形成したりTFT等の能動素子を形成したりした場合であっても、フレキシブル基板の光透過率を高いまま維持することができるため、フレキシブルフラットパネルディスプレイの表示品質を低下させることがなくなる。
【0059】
実施形態1に係るフレキシブル基板10においては、空気中350℃の温度で熱処理した後において、このフレキシブル基板に対して垂直な方向に0.3mNmの衝撃を加えても割れることがなく、優れた耐衝撃性を示す。
このため、フレキシブルフラットパネルディスプレイを製造する過程において、フレキシブル基板に低抵抗の透明電極を形成したりTFT等の能動素子を形成したりした場合であっても、このフレキシブル基板の耐衝撃性を高いまま維持することができるようになる。このため、フレキシブルフラットパネルディスプレイを様々な用途に応用できるようになる。また、このフレキシブル基板を用いてフラットパネルディスプレイを製造する工程中でこのフレキシブル基板が破損することもなくなる。
【0060】
実施形態1に係るフレキシブル基板10の耐衝撃性試験は図4に示したような方法で行った。図4は、実施形態1に係るフレキシブル基板10の耐衝撃試験方法を説明するために示す模式図である。
この耐衝撃試験方法では、ディスプレイ用の基板として最も耐衝撃性が要求されると考えられる基板面垂直方向に力を加えたときの耐衝撃性を評価した。すなわち、図4に示す試験装置200の試料台(一辺が40mmの正方形の四隅に支持部が配置されている。)上にフレキシブル基板10(40mm×40mm)を載置し、所定重量のジルコニアボールMを所定高さから自由落下させることにより衝撃力(単位:mNm)を測定し、耐衝撃性を評価した。
このときのジルコニアボールMの質量として2水準(0.3118g、0.4873g)、自由落下させるときの所定高さとして2水準(70mm、140mm)の合計4水準の衝撃力を与えることにより耐衝撃性の評価を行った。
【0061】
図5は、実施形態1に係るフレキシブル基板10の耐衝撃試験の結果を示す図である。図5(a)は実施形態1に係るフレキシブル基板10における耐衝撃試験の結果を示す図であり、図5(b)は実施形態1で用いる厚さ50μmの硼珪酸ガラスからなる無機ガラス層110における耐衝撃試験の結果を示す図である。このときの衝撃力は、図5(a)、図5(b)のいずれの場合も2.1×10−4Nm(=0.21mNm)である。
図5からも明らかなように、実施形態1に係るフレキシブル基板10は優れた耐衝撃性能を有していることがわかる。
【0062】
[実施形態2]
図6は、実施形態2に係るフレキシブル基板20の構造を模式的に示す図である。実施形態2に係るフレキシブル基板20は、図6に示すように、無機ガラス層110と、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンを主成分として含むポリマー層120Aとの積層体からなる基板である。ポリマー層は、実施形態1の場合とは異なり、無機ガラス層110の一方の面のみに形成されている。この点を除けば、実施形態2に係るフレキシブル基板20は実施形態1に係るフレキシブル基板10と全く同じである。
【0063】
このように、実施形態2に係るフレキシブル基板20は、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンを主成分として含むポリマー層120Aが無機ガラス層110の一方の面のみに形成されている点で、実施形態1に係るフレキシブル基板10と異なるが、それでも、実施形態1に係るフレキシブル基板10の場合と同様に、ポリマー層としてラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンを主成分として含む耐熱性に優れたポリマー層120Aを用いているため、優れた耐熱性が得られる。また、無機ガラス層110にラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンを主成分として含む柔軟性に優れたポリマー層120Aを積層させた構造を有しているため、優れた柔軟性及び優れた耐衝撃性が得られる。さらにまた、フレキシブル基板のベース基板として本来的に優れたガスバリア性を有する無機ガラス層110を用いているため、優れたガスバリア性が得られる。
このため、実施形態2に係るフレキシブル基板20も、実施形態1に係るフレキシブル基板10と同様に、優れた柔軟性、優れた耐衝撃性及び優れたガスバリア性を有するのに加えて優れた耐熱性をも有するフレキシブル基板となる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を参照しながら、本発明のフレキシブル基板の効果を説明する。
【0065】
フレキシブル基板の評価は以下のようにして行った。
(1)柔軟性
縦40mm×横20mmの長方形の形状を有するフレキシブル基板の中央部を、開口幅が14mmの開口部に、毎秒0.05mmのスピードで押し込みながらフレキシブル基板を曲げて行き、破壊が起こる直前の曲率半径を限界曲率半径(単位:mm)として測定した。この値が小さいほど柔軟性が優れていることを示す。
【0066】
(2)耐衝撃性
縦40mm×横40mmの正方形の形状を有するフレキシブル基板を350℃の電気炉に入れ30分放置した。その後、図4に示す試験装置200を用いて衝撃力(単位:mNm)を測定した。その結果を以下の基準に従って評価した。
◎:0.7mNmの衝撃力でも割れない。
○:0.3mNmの衝撃力でも割れない。
×:0.3mNmの衝撃力で割れる。
【0067】
(3)ガスバリア性
以下の基準に従って評価した。
◎:優れたガスバリア性を示す。
×:優れたガスバリア性を示さない。
【0068】
(4)耐熱性
フレキシブル基板を300℃〜400℃の電気炉に入れ30分放置した。その後、フレキシブル基板を取り出して、フレキシブル基板の外観を観察することにより行った。その結果を以下の基準に従って評価した。
◎:変色・変形は全く見られない。また、表面のクラックも全く見られない。さらにまた、膜質の劣化も全く見られない。
○a:変色・変形は全く見られない。また、膜質の劣化も全く見られない。但し、表面のクラックに関しては、300℃ではクラックがほとんど見られないが、350℃を超えるとクラックが見られることもある。
○b:変色・変形は全く見られない。また、表面のクラックも全く見られない。但し、膜質に関しては、300℃では膜質の劣化がほとんど見られないが、350℃を超えると膜質の劣化が見られることもある。
×:変色・変形がはなはだしい。
【0069】
(5)光透過率
フレキシブル基板を350℃の電気炉に入れ30分放置した。その後、紫外可視吸収スペクトル測定装置により400nm及び600nmにおける光透過率(単位:%)を測定した。この値が大きいほど透明性に優れていることを示す。
【0070】
〔実施例1〕
以下のような方法で実施例1に係るフレキシブル基板を作成した。
まず、フェニルトリメトキシシラン及び3−メルカプトプロピルトリメトキシシランの混合溶液を加水分解及び脱水縮合してラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンを作成した。
【0071】
図7は、実施例1における上記したラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算分子量分布及び赤外線吸収スペクトルを示す図である。このラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算の重量平均分子量Mwは、図7(a)に示すように、19512である。また、このラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンの赤外吸収スペクトルにおける、1000cm−1〜1200cm−1の領域に見られるSi−O結合に基づく吸収帯のうち最も吸収の大きい吸収帯の吸収強度に対する、830cm−1〜930cm−1の領域に見られるSi−OH結合に基づく吸収帯の吸収強度の比(IR強度比)は、図7(b)に示すように、0.074である。
【0072】
次に、このラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンの20重量部をγ−ブチロラクトン80重量部に溶解してコーティング液を調製した。
次に、このコーティング液を、厚さ50μmの、無機ガラス層としての硼珪酸ガラス基板(縦40mm×横40mmの正方形の形状を有する硼珪酸ガラス基板及び縦40mm×横20mmの長方形の形状を有する硼珪酸ガラス基板)の一方の面に回転塗布し、80℃の乾燥機で30分間乾燥した。次に、さらに同じコーティング液を硼珪酸ガラス基板の他方の面に回転塗布し80℃の乾燥機でさらに30分間乾燥した。
次に、電気炉を用いて400℃で30分熱処理することにより実施例1に係るフレキシブル基板を作成した。ポリマー層の膜厚はそれぞれ1.5μmである。
【0073】
得られたフレキシブル基板における、厚さ、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算の重量平均分子量、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのIR強度比、柔軟性、耐衝撃性、ガスバリア性、耐熱性及び光透過率を表1に示す。なお、分子量はGPCを用いて測定した。
【0074】
〔実施例2〕
フェニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン及び3−メルカプトプロピルトリメトキシシランの混合溶液を加水分解及び脱水縮合してラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンを作成した。
【0075】
図8は、実施例2におけるラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算分子量分布及び赤外線吸収スペクトルを示す図である。このラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算の重量平均分子量Mwは、図8(a)に示すように、13396である。また、このラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンの赤外吸収スペクトルにおける、IR強度比は、図8(b)に示すように、0.087である。
【0076】
次に、このラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンの20重量部をγ−ブチロラクトン80重量部に溶解してコーティング液を調製した。それ以降の工程は実施例1と同様にして実施例2に係るフレキシブル基板を作成した。ポリマー層の膜厚はそれぞれ1.5μmである。
【0077】
得られたフレキシブル基板における、厚さ、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算の重量平均分子量、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのIR強度比、柔軟性、耐衝撃性、ガスバリア性、耐熱性及び光透過率を表1に示す。
【0078】
〔実施例3〕
フェニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン及び3−メルカプトプロピルトリメトキシシランの混合溶液を、実施例2の場合よりも希薄な濃度条件で加水分解及び脱水縮合して、実施例2の場合よりも低分子量のラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンを作成した。
【0079】
図9は、実施例3におけるラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算分子量分布及び赤外線吸収スペクトルを示す図である。このラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算の重量平均分子量Mwは、図9(a)に示すように、6549である。また、このラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンの赤外吸収スペクトルにおける、IR強度比は、図9(b)に示すように、0.082である。
【0080】
次に、このラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンの20重量部をγ−ブチロラクトン80重量部に溶解してコーティング液を調製した。それ以降の工程は実施例1と同様にして実施例3に係るフレキシブル基板を作成した。ポリマー層の膜厚はそれぞれ1.5μmである。
【0081】
得られたフレキシブル基板における、厚さ、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算の重量平均分子量、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのIR強度比、柔軟性、耐衝撃性、ガスバリア性、耐熱性及び光透過率を表1に示す。
【0082】
〔実施例4〕
米テクネグラス社より入手したラダー型のポリオルガノシルセスキオキサン(GR−100)の20重量部をγ−ブチロラクトン80重量部に溶解してコーティング液を調製した。
図10は、実施例4におけるラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算分子量分布及び赤外線吸収スペクトルを示す図である。このラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算の重量平均分子量Mwは、図10(a)に示すように、3177である。また、このラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンの赤外吸収スペクトルにおける、IR強度比は、図10(b)に示すように、0.216である。
【0083】
次に、このラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンの20重量部をγ−ブチロラクトン80重量部に溶解してコーティング液を調製した。それ以降の工程は実施例1と同様にして実施例4に係るフレキシブル基板を作成した。ポリマー層の膜厚はそれぞれ1.5μmである。
【0084】
得られたフレキシブル基板における、厚さ、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算の重量平均分子量、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンのIR強度比、柔軟性、耐衝撃性、ガスバリア性、耐熱性及び光透過率を表1に示す。
【0085】
〔実施例5〕
実施例2で作成したラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンの25重量部及びアクリル樹脂(A−DCP 新中村化学工業株式会社)の1重量部をγ−ブチロラクトン74重量部に溶解してコーティング液を調製した。それ以降の工程は実施例1と同様にして、実施例5に係るフレキシブル基板を作成した。ポリマー層の膜厚はそれぞれ6μmである。
【0086】
得られたフレキシブル基板における、厚さ、柔軟性、耐衝撃性、ガスバリア性、耐熱性及び光透過率を表1に示す。
【0087】
〔実施例6〕
実施例3で作成したラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンの50重量部及び及び耐熱性シリコーン樹脂(TSR−144 ジーイー東芝シリコーン株式会社)の50重量部をγ−ブチロラクトンに溶解してコーティング液を調製した。それ以降の工程は実施例1と同様にして実施例6に係るフレキシブル基板を作成した。ポリマー層の膜厚はそれぞれ15μmである。
【0088】
得られたフレキシブル基板における、厚さ、柔軟性、耐衝撃性、ガスバリア性、耐熱性及び光透過率を表1に示す。
【0089】
〔実施例7〕
実施例3で作成したラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンの60重量部及びコロイダルシリカ(NanoTek(登録商標)Slurry シーアイ化成株式会社)の40重量部をγ−ブチロラクトンに溶解してコーティング液を調製した。それ以降の工程は実施例1と同様にして実施例7に係るフレキシブル基板を作成した。ポリマー層の膜厚はそれぞれ8μmである。
【0090】
得られたフレキシブル基板における、厚さ、柔軟性、耐衝撃性、ガスバリア性、耐熱性及び光透過率を表1に示す。
【0091】
〔実施例8〕
実施例3で作成したラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンの60重量部及び米テクネグラス社より入手したラダー型のポリオルガノシルセスキオキサン(GR−100)の40重量部をγ−ブチロラクトンに溶解してコーティング液を調製した。それ以降の工程は実施例1と同様にして実施例8のフレキシブル基板を作成した。ポリマー層の膜厚はそれぞれ7μmである。
【0092】
得られたフレキシブル基板における、厚さ、柔軟性、耐衝撃性、ガスバリア性、耐熱性及び光透過率を表1に示す。
【0093】
〔比較例1〕
厚さが50μmの硼珪酸ガラス基板(縦40mm×横40mmの正方形の形状を有する硼珪酸ガラス基板及び縦40mm×横20mmの長方形の形状を有する硼珪酸ガラス基板)を比較例1に係るフレキシブル基板とした。この硼珪酸ガラス基板における、厚さ、柔軟性、耐衝撃性、ガスバリア性、耐熱性及び光透過率を表1に示す。
【0094】
〔比較例2〕
ポリビニルピロリドン(重量平均分子量360000)1重量部をジメチルフォルムアミド99重量部に溶解させてコーティング液を調整した。それ以降は実施例1と同様にして比較例2に係るフレキシブル基板を作成した。ポリマー層の膜厚はそれぞれ3μmである。
得られたフレキシブル基板における、厚さ、柔軟性、耐衝撃性、ガスバリア性、耐熱性及び光透過率を表1に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
表1からも明らかなように、本発明のフレキシブル基板(実施例1〜8)は、比較例1のフレキシブル基板と比較して優れた柔軟性及び優れた耐衝撃性を示すことがわかった。また、本発明のフレキシブル基板(実施例1〜8)は、比較例2のフレキシブル基板と比較して優れた耐熱性及び高い光透過率を示すことがわかった。
また、本発明のフレキシブル基板の中でも、実施例1〜3及び6〜8のフレキシブル基板は、実施例4及び5のフレキシブル基板と比較してさらに優れた耐熱性を示すことがわかった。
【0097】
以上のように、本発明のフレキシブル基板は、優れた柔軟性、優れた耐衝撃性及び優れたガスバリア性に加えて優れた耐熱性を有するため、軽量で折り曲げ可能なディスプレイ(例えば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ)用の基板として好適に用いることができる。
また、本発明のコーティング液は、このように優れたフレキシブル基板をはじめ各種用途に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機ガラス層と、ポリオルガノシルセスキオキサンを主成分として含むポリマー層との積層体からなることを特徴とするフレキシブル基板。
【請求項2】
請求項1に記載のフレキシブル基板において、
前記ポリマー層は、ポリオルガノシルセスキオキサンを主成分として含むコーティング液を前記無機ガラス層に塗布した後、乾燥及び熱処理を行うことにより製造されるポリマー層であることを特徴とするフレキシブル基板。
【請求項3】
請求項2に記載のフレキシブル基板において、
前記コーティング液中に含まれるポリオルガノシルセスキオキサンのポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、1000〜100000の範囲内にあることを特徴とするフレキシブル基板。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のフレキシブル基板において、
前記コーティング液中に含まれるポリオルガノシルセスキオキサンの赤外吸収スペクトルにおける、1000cm−1〜1200cm−1の領域に見られるSi−O結合に基づく吸収帯のうち最も吸収の大きい吸収帯の吸収強度に対する、830cm−1〜930cm−1の領域に見られるSi−OH結合に基づく吸収帯の吸収強度の比は、0.01〜0.2の範囲内にあること特徴とするフレキシブル基板。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかに記載のフレキシブル基板において、
前記コーティング液中に含まれるポリオルガノシルセスキオキサンは、ラダー型のポリオルガノシルセスキオキサンであることを特徴とするフレキシブル基板。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれかに記載のフレキシブル基板において、
前記コーティング液中に含まれるポリオルガノシルセスキオキサンは、少なくとも三官能の含ケイ素アルコキシドを含む溶液を加水分解及び脱水縮合して得られるケイ素酸化物ポリマーであることを特徴とするフレキシブル基板。
【請求項7】
請求項2〜6のいずれかに記載のフレキシブル基板において、
前記コーティング液中に含まれるポリオルガノシルセスキオキサンは、アリール基、アルキル基及び置換アルキル基のうち少なくとも一の置換基を有するケイ素酸化物ポリマーであることを特徴とするフレキシブル基板。
【請求項8】
請求項2〜7のいずれかに記載のフレキシブル基板において、
前記コーティング液は、前記ポリオルガノシルセスキオキサンに加えて有機樹脂及び/又は有機低分子化合物をさらに含むコーティング液であることを特徴とするフレキシブル基板。
【請求項9】
請求項2〜8のいずれかに記載のフレキシブル基板において、
前記コーティング液は、前記ポリオルガノシルセスキオキサンに加えてシリコーン樹脂をさらに含むコーティング液であることを特徴とするフレキシブル基板。
【請求項10】
請求項2〜9のいずれかに記載のフレキシブル基板において、
前記コーティング液は、前記ポリオルガノシルセスキオキサンに加えてコロイダルシリカをさらに含むコーティング液であることを特徴とするフレキシブル基板。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のフレキシブル基板において、
前記ポリマー層は、前記無機ガラス層の両面に形成されていることを特徴とするフレキシブル基板。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載のフレキシブル基板において、
350℃以上の耐熱性を有することを特徴とするフレキシブル基板。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載のフレキシブル基板において、
空気中350℃の温度で熱処理した後において、400nm〜800nmの波長域における光透過率が90%以上であることを特徴とするフレキシブル基板。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載のフレキシブル基板において、
空気中350℃の温度で熱処理した後において、このフレキシブル基板に対して垂直な方向に0.3mNmの衝撃を加えても割れないことを特徴とするフレキシブル基板。
【請求項15】
ポリオルガノシルセスキオキサンを主成分として含むことを特徴とするコーティング液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【国際公開番号】WO2005/047200
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【発行日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515425(P2005−515425)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016601
【国際出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(000002129)住友商事株式会社 (42)
【Fターム(参考)】