説明

フロントフォーク

【課題】 フロントフォークの改良に関し、フロントフォークの最伸長時の衝撃を吸収する伸び切りばねの調整を可能にする。
【解決手段】 アウターチューブ1と、アウターチューブ1の一方側から出没可能に挿入されるシリンダ3と、アウターチューブ1の他方側に取り付けられるキャップ部材4と、キャップ部材4に保持されてシリンダ3内に移動可能に挿入されるロッド5と、ロッド5に保持されてシリンダ3の内周面に摺接するピストン6と、シリンダ3に取り付けられてロッド5を軸支するロッドガイド7と、ピストン6とロッドガイド7との間に配置され最伸長時の衝撃を吸収可能な伸び切りばねS1とを備えるフロントフォークにおいて、シリンダ側に固定されるストッパ部材80と、キャップ部材側に固定され最伸長時にストッパ部材80が当接されるばね受け部材81と、ロッド5をキャップ部材4に対して軸方向に移動させる調整部材9とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フロントフォークの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、フロントフォークは、自動二輪車等の鞍乗型車両において前輪を懸架する懸架装置である。そして、フロントフォークは、アウターチューブと、このアウターチューブ内に移動可能に挿入されるインナーチューブとからなる懸架装置本体を備え、この懸架装置本体内に懸架ばねとダンパとを収容する。
【0003】
そして、上記懸架ばねは、懸架装置本体を常に伸長方向に附勢して車体を弾性支持し、車両走行中における路面の凹凸による衝撃を吸収して衝撃が車体に伝わることを防いでいる。他方、ダンパは、上記懸架ばねと並列に配置され、この懸架ばねの衝撃吸収に伴う懸架装置本体の伸縮運動を抑制している。
【0004】
例えば、特許文献1に開示されるフロントフォークは、図6に示すように、アウターチューブ(外筒)1が車体側に連結され、インナーチューブ2が車輪側に連結されて倒立型に設定されている。
【0005】
そして、アウターチューブ1とインナーチューブ2からなる懸架装置本体Fに収容されるダンパDは、インナーチューブ側に連結されるシリンダ(内筒)3と、アウターチューブ側に連結されフロントフォークの伸縮に伴い上記シリンダ3内に出没するロッド5と、このロッド5の先端に保持されて上記シリンダ3の内周面に摺接するピストン6とを備える。上記シリンダ3内には、上記ピストン6で区画される伸側室Aと圧側室Bとが形成されており、これら伸側室Aと圧側室Bには、作動流体が充填されている。
【0006】
また、ダンパDは、伸側室Aと圧側室Bを連通する図示しない流路と、この流路を通過する作動流体に抵抗を与える減衰力発生手段とを備えている。これにより、ダンパDは減衰力発生手段の抵抗に起因する減衰力を発生することができる。
【0007】
また、上記ダンパDにおいて、上記ロッド5の基端部(図6中上端部)は、アウターチューブ1の図6中上端開口を塞ぐキャップ部材4Aに螺合している。他方、上記ロッド5の先端側は、上記シリンダ3の図6中上端開口を塞ぐ環状のロッドガイド7で軸支されている。
【0008】
そして、フロントフォークは、このロッドガイド7に吊設されるとともに、ロッド5がシリンダ3から退出してフロントフォークが所定量伸長したときピストン6に当接して所定の反力を生じる伸び切りばねS1を備えており、この伸び切りばねS1でフロントフォークの最伸長時の衝撃を吸収している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−286200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、上記フロントフォークにおける伸び切りばねS1は、車体の挙動に大きく影響することから、この伸び切りばねS1による反力を調整可能とすることが好ましい。しかしながら、従来のフロントフォークにおいて、伸び切りばねS1による反力を調整するための機能がないため、フロントフォークを分解し、シリンダ3を取り外して仕様の異なる伸び切りばねと交換するしかなかった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、伸び切りばねによる反力を調整可能なフロントフォークを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための手段は、外筒と、この外筒の一方側から上記外筒内に出没可能に挿入される内筒と、上記外筒の他方側に取り付けられる保持部材と、この保持部材に保持されて上記内筒内に移動可能に挿入されるロッドと、このロッドに保持されて上記内筒の内周面に摺接するピストンと、上記内筒の開口部に取り付けられて上記ロッドを軸支するロッドガイドと、上記ピストンと上記ロッドガイドとの間に配置され最伸長時の衝撃を吸収可能な伸び切りばねとを備えるフロントフォークにおいて、上記内筒側に固定される一方側伸び切り部材と、保持部材側に固定され最伸長時に上記一方側伸び切り部材が当接される他方側伸び切り部材と、上記ロッドを上記保持部材に対して軸方向に移動させる調整部材とを備えることである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ロッドを保持部材に対して軸方向に移動させることで、伸び切りばねによる反力を調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態に係るフロントフォークの主要部を部分的に切り欠いて示す正面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係るフロントフォークの主要部を部分的に拡大して示し、正面側から見た縦断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係るフロントフォークの主要部を簡略化して示す説明図である。(a)は、ロッドを図中上側に移動させた場合におけるフロントフォークの最伸長時を示す。(b)は、ロッドを図中下側に移動させた場合におけるフロントフォークの最伸長時を示す。
【図4】本発明の他の実施の形態に係るフロントフォークを簡略化し、拡大して示す説明図である。
【図5】図4の主要部を更に簡略化して示す説明図である。(a)は、ロッドを図中上側に移動させた場合におけるフロントフォークの最伸長時を示す。(b)は、ロッドを図中下側に移動させた場合におけるフロントフォークの最伸長時を示す。
【図6】従来のフロントフォークの主要部を部分的に拡大して示し、正面側から見た縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の一実施の形態に係るフロントフォークについて、図面を参照しながら説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同じ部品か対応する部品を示す。
【0016】
図1に示すように、本実施の形態に係るフロントフォークは、アウターチューブ(外筒)1と、このアウターチューブ1の一方側(図1中下側)から上記アウターチューブ1内に出没可能に挿入されるシリンダ(内筒)3と、上記アウターチューブ1の他方側(図1中上側)に取り付けられるキャップ部材(保持部材)4と、このキャップ部材4に保持されて上記シリンダ3内に移動可能に挿入されるロッド5と、このロッド5に保持されて上記シリンダ3の内周面に摺接するピストン6と、上記シリンダ3の開口部に取り付けられて上記ロッド5を軸支するロッドガイド7と、上記ピストン6と上記ロッドガイド7との間に配置され最伸長時の衝撃を吸収可能な伸び切りばねS1とを備える。
【0017】
さらに、本実施の形態に係るフロントフォークは、上記シリンダ側に固定されるストッパ部材(一方側伸び切り部材)80と、キャップ部材側に固定され最伸長時に上記ストッパ部材80が当接されるばね受け部材(他方側伸び切り部材)81と、上記ロッド5を上記キャップ部材4に対して軸方向に移動させる調整部材9とを備える。
【0018】
以下、詳細に説明すると、本実施の形態に係るフロントフォークは、自動二輪車等の鞍乗型車両に搭載され、前輪の両側に起立する一対の懸架装置部材を有して前輪を懸架する。
【0019】
そして、一方の懸架装置部材が上記ストッパ部材80や上記ばね受け部材81や上記調整部材9を備える伸び切りばね調整用の懸架装置部材であり、本実施の形態を示す図1〜3には、この伸び切りばね調整用の懸架装置部材のみを示す。また、図示しない他方の懸架装置部材は、車体を弾性支持する懸架ばねの初期荷重を調整可能な懸架ばね調整用の懸架装置部材である。
【0020】
本実施の形態において、各懸架装置部材は、アウターチューブ1とインナーチューブ2とからなる懸架装置本体Fをそれぞれ備え、各アウターチューブ1が車体側に連結され、各インナーチューブ2が車輪側に連結されて倒立型に設定されている。
【0021】
そして、伸び切りばね調整用の一方の懸架装置部材における懸架装置本体F内には、フロントフォークを常に伸長方向に附勢して車体を弾性支持する懸架ばねS2と、この懸架ばねS2の衝撃吸収に伴うフロントフォークの伸縮運動を抑制するダンパDとが収容されており、上記懸架装置本体FとダンパDとの間にリザーバRが形成されている。
【0022】
このリザーバR内には、作動流体が収容されるとともに、その液面Oを介して上側に懸架装置本体Fの圧縮時に反力を発生する気体が充填されている。この気体は、窒素等の不活性ガスである。また、上記作動流体は、水やグリコール水溶液等の水系流体または、鉱物油等の油系流体である。
【0023】
そして、上記懸架装置本体Fの図1中上側の開口は、アウターチューブ1の図1中上端に取り付けられるキャップ部材4で塞がれる。他方、上記懸架装置本体Fの図1中下側の開口は、インナーチューブ2の図1中下端に取り付けられる図示しないボトムブラケットで塞がれる。また、上記懸架装置本体Fにおけるアウターチューブ1とインナーチューブ2との間に形成される筒状の隙間(符示せず)は、アウターチューブ1の図1中下端部内周に取り付けられる環状のオイルシール10及びダストシール11で塞がれる。これにより、上記リザーバR内に収容される作動流体や気体が懸架装置本体Fの外側に漏れることを防止している。
【0024】
つづいて、一方の懸架装置部材におけるダンパDの構成は、周知の構成を採用することが可能であるが、本実施の形態において、ダンパDは、インナーチューブ側に固定されてこのインナーチューブ2とともにアウターチューブ(外筒)1内に出没可能に挿入されるシリンダ(内筒)3と、キャップ部材4に吊り下げた状態に保持されるロッド5と、このロッド5の先端(図1中下端)に保持されて上記シリンダ3の内周面に摺接するピストン6とを備える。
【0025】
上記シリンダ3内には、上記ピストン6で区画される二つの部屋が形成されており、ロッド側(図1中上側)の部屋が伸側室A、ピストン側(図1中下側)の部屋が圧側室Bである。これら伸側室A及び圧側室Bには、上記リザーバRに収容される作動流体と共通の作動流体が充填されている。
【0026】
また、図2に示すように、上記ピストン6には、伸側室Aから圧側室Bへの作動流体の移動のみを許容する伸側流路60と、圧側室Bから伸側室Aへの作動流体の移動のみを許容する圧側流路61とが形成されている。
【0027】
そして、伸側流路60の入口は、常に伸側室Aと連通しており、伸側流路60の出口は、上記ピストン6の圧側室側(図2中下側)に積層される伸側減衰バルブV1で開閉可能に塞がれている。他方、圧側流路61の入口は、常に圧側室Bと連通しており、圧側流路61の出口は、上記ピストン6の伸側室側(図2中上側)に積層される圧側チェックバルブC1で開閉可能に塞がれている。
【0028】
もどって、上記シリンダ3のボトム部(図1,2中下部)には、図示しないベース部材が固定されている。このベース部材の構成は、周知であるため図示しないが、このベース部材には、リザーバRから圧側室Bへの作動流体の移動のみを許容する伸側流路と、圧側室BからリザーバRへの作動流体の移動のみを許容する圧側流路とが形成されている。
【0029】
そして、図示しないベース部材の伸側流路の入口は、常にリザーバRと連通しており、ベース部材の伸側流路の出口は、ベース部材の圧側室側たる一方側に積層される伸側チェックバルブ(図示せず)で開閉可能に塞がれている。他方、ベース部材の圧側流路の入口は、常に圧側室Bと連通しており、ベース部材の圧側流路の出口は、ベース部材の他方側に積層される圧側減衰バルブ(図示せず)で開閉可能に塞がれている。
【0030】
尚、圧側チェックバルブC1及び図示しない伸側チェックバルブは、ピストン6の圧側流路61及び図示しないベース部材の伸側流路を作動流体が通過する際、小さな抵抗しか生じさせないようになっている。これに対して、伸側減衰バルブV1及び図示しない圧側減衰バルブは、ピストン6の伸側流路60および図示しないベース部材の圧側流路を作動流体が通過する際、比較的大きな抵抗を生じさせるよう設定されており、上記伸側減衰バルブV1及び圧側減衰バルブでダンパDにおけるメインの減衰力を発生するようになっている。
【0031】
そして、ロッド5がシリンダ3から退出するフロントフォークの伸長時には、ピストン6で伸側室Aが加圧され、伸側室Aの作動流体が伸側減衰バルブV1を押し開いてピストン6の伸側流路60を通過し、圧側室Bに移動する。
【0032】
このとき、シリンダ3内では、退出したロッド体積分の作動流体が不足するため、図示しないベース部材に積層される伸側チェックバルブが開き、不足分の作動流体がリザーバRから上記ベース部材の伸側流路を通過して圧側室Bに移動する。
【0033】
他方、ロッド5がシリンダ3内に進入するフロントフォークの圧縮時には、ピストン6で圧側室Bが加圧されるため、圧側チェックバルブC1が開き、圧側室Bの作動流体がピストン6の圧側流路61を通過して伸側室Aに移動する。
【0034】
このとき、シリンダ3内では、進入したロッド体積分の作動流体が余剰となり、この余剰分の作動流体が図示しないベース部材に積層される圧側減衰バルブを押し開いて上記ベース部材の圧側流路を通過し圧側室BからリザーバRに移動する。
【0035】
したがって、ダンパDは、シリンダ3内にロッド5が出没するフロントフォークの伸縮時に、ピストン6及び図示しないベース部材に形成される各流路を作動流体が通過する際の抵抗に起因する減衰力を発生し、フロントフォークの伸縮運動を抑制する。そして、シリンダ3内に出没するロッド体積分のシリンダ内容積変化をリザーバRで補償する。
【0036】
また、ダンパDが発生する減衰力は、キャップ部材4に取り付けられる減衰力調整用アジャスタ40で調整することができる。具体的に、減衰力を調整するための減衰力調整手段は、ピストン6に形成される伸側流路60及び圧側流路61を迂回して伸側室Aと圧側室Bとを連通するバイパス路62と、このバイパス路62内に尖端部を挿入した状態に配置されるニードル弁63と、このニードル弁63の基端側(図2中上側)に当接するコントロールロッド50と、このコントロールロッド50を介して上記ニードル弁63を駆動する上記減衰力調整用アジャスタ40とを備える。
【0037】
そして、上記減衰力調整用アジャスタ40は、その回転方向に従いキャップ部材4に対して図2中上下方向に移動する。また、ニードル弁63及びコントロールロッド50は、附勢ばね64で減衰力調整用アジャスタ40に押し付けられており、減衰力調整用アジャスタ40の移動に伴い図1中上下に移動する。これにより、ニードル弁63の尖端部外周に形成される隙間量、即ち、バイパス路62の開口量が変更されてピストン6の伸側流路60及び圧側流路61を通過する作動流体の流量が変化する。つまり、ピストン6の伸側流路60及び圧側流路61を通過する作動流体の流量を上記減衰力調整用アジャスタ40で変更することにより、減衰力を調整することができる。
【0038】
もどって、上記ダンパDにおけるシリンダ3の図2中上端には、上記ロッド5を軸支する環状のロッドガイド7が取り付けられている。このロッドガイド7は、取り付け部材70を介してインナーチューブ2に固定される。
【0039】
上記取り付け部材70は、環状に形成されて内周に上記ロッドガイド7が螺合するホルダ70aと、このホルダ70aの側面を貫通してインナーチューブ2の孔20に引っ掛かるピン70bと、このピン70bを外側(インナーチューブ側)に附勢するリング70cとを備えている。
【0040】
また、上記ロッドガイド7のシリンダ側(図2中下側)には、伸び切りばねS1が吊り下げられている。この伸び切りばねS1は、フロントフォークが所定量伸長したとき、圧縮されて所定の反力を生じる。これにより、伸び切りばねS1でフロントフォークの最伸長時の衝撃を吸収する。
【0041】
つづいて、上記ダンパDと共に懸架装置本体F内に収容される懸架ばねS2は、上記ホルダ70aのキャップ部材側(図2中上側)に積層される環状のばねシート71と、キャップ部材4に吊り下げた状態に保持されるばね受け部材81との間に介装されており、常にフロントフォークを伸長方向に附勢して車体を弾性支持する。
【0042】
そして、上記ばね受け部材81は、筒状に形成されており、基端部81aが上記キャップ部材4に螺合される。他方、ばね受け部材81の先端部81bは、外周が拡径されて肉厚に形成されており、先端部81bとその他の部分の境界に環状の段部81cが形成される。そして、この段部81cは、フロントフォークの最伸長時においてインナーチューブ2の図2中上端部内周に固定される環状のストッパ部材80に当接し、これ以上のフロントフォークが伸長することを阻止する。つまり、フロントフォークの伸び切り位置は、上記ストッパ部材80と上記ばね受け部材81とで決定される。
【0043】
尚、上記ストッパ部材80は、インナーチューブ2、固定部材70、ロッドガイド7を介してシリンダ3に固定されるものであり、本実施の形態において、上記ストッパ部材80がシリンダ側に固定される一方側伸び切り部材である。また、上記ばね受け部材81は、ロッド5を保持するキャップ部材(保持部材)4に固定されるものであり、本実施の形態において、上記ばね受け部材81が保持部材側に固定される他方側伸び切り部材である。
【0044】
つづいて、上記ダンパDにおけるロッド5は、調整部材9を介してキャップ部材4に取り付けられている。上記調整部材9は、キャップ部材4を軸方向(図1,2中上下方向)に貫通する取り付け孔4aに螺合される。そして、上記ロッド5は、上記調整部材9のシリンダ側(図1,2中下側)に螺合され、ロックナットNで緩み止めされている。これにより、ロッド5は、調整部材9に同軸に固定され、この調整部材9を回転することにより、この調整部材9とともに軸方向(図1,2中上下方向)に移動する。また、上記調整部材9と上記キャップ部材4との間には、シール4bが設けられており、リザーバR内の作動流体や気体が漏れないようになっている。
【0045】
尚、本実施の形態において、調整部材9は筒状に形成されて内側に減衰力調整用アジャスタ40が螺合されている。つまり、この減衰力調整用アジャスタ40は、調整部材9を介してキャップ部材4に取り付けられている。
【0046】
ところで、上記構成を有する一方の懸架装置部材と対をなす図示しない他方の懸架装置部材は、上記一方の懸架装置部材と同様に、アウターチューブとインナーチューブとからなる懸架装置本体内に車体を弾性支持する懸架ばねを収容している。
【0047】
さらに、他方の懸架装置部材は、上記懸架ばねの初期荷重の調整をするための初期荷重調整手段を備えている。この初期荷重調整手段の構成は、従来周知の構成を採用することが可能である。
【0048】
例えば、特許文献1に開示される初期荷重調整手段は、図6に示すように、懸架装置本体Fの図6中上側開口を塞ぐキャップ部材4Aに取り付けられる懸架ばね用アジャスタ90と、この懸架ばね用アジャスタ90の先端(図6中下端)が当接する環板状のシート部材91と、懸架装置本体F内に収容される懸架ばねS2と上記シート部材91との間に介装される筒状のばね受け部材81Aとを備えている。
【0049】
そして、上記シート部材91と上記ばね受け部材81Aは、上記懸架ばねS2によって図6中上側に附勢されて懸架ばね用アジャスタ90に押し付けられている。
【0050】
また、この懸架ばね用アジャスタ90は、上記キャップ部材4Aに対して軸方向(図6中上下方向)に移動可能に螺合されている。これにより、懸架ばね用アジャスタ90を図6中上下に移動させると、懸架ばね用アジャスタ90とともにシート部材91及びばね受け部材81Aも図6中上下に移動する。したがって、上記懸架ばね用アジャスタ90を回転して軸方向に移動させることにより、懸架ばねS2の初期荷重を変更することが可能となる。
【0051】
次に、本実施の形態に係るフロントフォークの作用効果について図3を参照して説明する。本実施の形態において、フロントフォークの伸び切り位置は、上記したように、一方側伸び切り部材たるストッパ部材80と他方側伸び切り部材たるばね受け部材81とで決定される。
【0052】
したがって、調整部材9でロッド5を図3中上側に移動させた場合、図3(a)に示すように、このロッド5の移動に伴いピストン6も図3中上側に移動する。これにより、キャップ部材4とピストン6との距離が短くなり、フロントフォークの最伸長時における伸び切りばねS1の圧縮量が増える。
【0053】
他方、調整部材9でロッド5を図3中下側に移動させた場合、図3(b)に示すように、このロッド5の移動に伴いピストン6も図3中下側に移動する。これにより、キャップ部材4とピストン6との距離が長くなり、フロントフォークの最伸長時における伸び切りばねS1の圧縮量が減る。
【0054】
つまり、調整部材9でロッド5をキャップ部材4に対して軸方向に移動させると、フロントフォークの最伸長時における伸び切りばねS1の圧縮量が変わり、伸び切りばねS1による反力を変更することができる。また、これと同時に、伸び切りばねS1とピストン6が当接し、伸び切りばねS1が効き始めるタイミングも調整することができる。
【0055】
尚、上記軸方向とは、ロッド5の軸心線に沿って移動させることをいい、図1,2,3,4中において、各図中上下方向に移動させることである。
【0056】
また、従来の形態のフロントフォークにおいては、キャップ部材4Aに懸架ばね用アジャスタ90が取り付けられているため、このキャップ部材4Aに更に伸び切りばね用の調製部材9を取り付けようとすると、構造が極めて複雑になる。
【0057】
しかしながら、本実施の形態において、フロントフォークを構成する一対の懸架装置部材のうち、一方の懸架装置部材を伸び切りばね調整用の懸架装置部材、他方の懸架装置部材を懸架ばね調整用の懸架装置部材とした。これにより、構造を複雑化させることなく、フロントフォークにおける伸び切りばねS1の反力の調整と、懸架ばねS2の初期荷重の調整の両方を行うことが可能となる。
【0058】
また、本実施の形態において、フロントフォークの伸び切り位置を決定する一対の伸び切り部材のうち、他方側伸び切り部材がばね受け部材81であり、このばね受け部材81が懸架ばねS2を受けるとともにフロントフォークの伸び切り位置を決定することから、フロントフォークを構成する部品数を減らすことが可能となる。
【0059】
さらに、本実施の形態において、一方側伸び切り部材がインナーチューブ2に固定されるストッパ部材80であり、このストッパ部材80とロッドガイド7との間に上記ばね受け部材81の先端部81bが配置されることから、ロッド5がシリンダ3から退出するフロントフォークの伸長時にストッパ部材80と先端部81bが接近する。
【0060】
また、フロントフォークの最伸長時にストッパ部材80と先端部81bとが当接することから、これ以上のフロントフォークの伸長をストッパ部材80と先端部81bとで阻止して、フロントフォークの伸び切り位置を決定することができ、その構成が簡易である。
【0061】
次に、本発明の他の実施の形態に係るフロントフォークについて説明する。図4に示すように、本実施の形態に係るフロントフォークは、一実施の形態に係るフロントフォークと同様に、アウターチューブ1とこのアウターチューブ1の一方側(図4中下側)からアウターチューブ1内に出没可能に挿入されるインナーチューブ200とからなり伸縮可能な懸架装置本体Fを備えている。
【0062】
そして、一実施の形態においては、アウターチューブ1が特許請求の範囲中外筒、シリンダ3が同内筒に相当するが、本実施の形態におけるフロントフォークは、シリンダ3を有しておらず、アウターチューブ1が特許請求の範囲中外筒、インナーチューブ200が同内筒に相当し、このインナーチューブ200の内周面にピストン600が直接摺接し、インナーチューブ200の開口部にロッド5を軸支するロッドガイド700が取り付けられる。
【0063】
また、上記インナーチューブ200内(ロッドガイド700の図4中下側)は、上記ピストン600で伸側室Aと圧側室Bに区画されている。これら伸側室Aと圧側室Aは、作動流体で満たされており、ピストン600に形成される伸側流路65及び圧側流路66を介して連通可能である。
【0064】
そして、上記伸側流路65の途中には、伸側減衰バルブV2が設けられており、作動流体が伸側室Aから圧側室Bに移動することのみを許容するとともに、伸側流路65を通過する作動流体に所定の抵抗を与える。他方、上記圧側流路66の途中には、圧側減衰バルブV3が設けられており、作動流体が圧側室Bから伸側室Aに移動することのみを許容するとともに、圧側流路66を通過する作動流体に所定の抵抗を与える。
【0065】
また、インナーチューブ200内に形成される上記伸側室Aは、インナーチューブ200に形成される連通孔21を介して、アウターチューブ1とインナーチューブ200の重複部の間に形成される筒状隙間22と常に連通している。
【0066】
もどって、上記インナーチューブ200における上記ロッドガイド700の図4中上側には、作動流体が収容されて液溜室R1が形成されるとともに、その液面O2を介して上側にフロントフォークの圧縮時に反力を生じる気体が収用されて気室R2が形成されている。
【0067】
また、上記液溜室R1は、ロッドガイド700に形成される伸側流路72及び圧側流路73を介して上記伸側室Aと連通している。このロッドガイド700において、上記伸側流路72の途中には、この伸側流路72を通過する作動流体に抵抗を与える絞りV4が設けられている。他方、上記圧側流路73の途中には、作動流体が液溜室R1から伸側室Aに移動することのみを許容する圧側チェックバルブC2が設けられている。
【0068】
さらに、本実施の形態におけるフロントフォークにおいて、ロッド5の断面積より、筒状隙間22の断面積の方が大きくなるよう設定されている。
【0069】
上記構成を備えることにより、ロッド5がインナーチューブ200から退出するフロントフォークの伸長時には、ピストン600で伸側室Aが加圧される。また、インナーチューブ200から退出するロッド体積よりも筒状隙間22が縮小する体積の方が大きく、この差分の作動流体がインナーチューブ200内で余剰となる。
【0070】
このため、伸側室Aの作動流体がピストン600の伸側流路65を通過し、圧側室Bに移動するとともに、余剰分の作動流体がロッドガイド700の伸側流路72を通過して一方室Aから液溜室R1に移動する。
【0071】
他方、ロッド5がインナーチューブ200内に進入するフロントフォークの圧縮時には、ピストン600で圧側室Bが加圧される。また、インナーチューブ200内に進入するロッド体積よりも筒状部材22が拡大する体積の方が大きく、この差分の作動流体がインナーチューブ200内で不足する。
【0072】
このため、圧側室Bの作動流体がピストン600の圧側流路66を通過し、伸側室Aに移動するとともに、不足分の作動流体がロッドガイド7Aの圧側流路73を通過して液溜室R1から伸側室Aに移動する。
【0073】
つまり、本実施の形態に係るフロントフォークの伸縮時において、ピストン600及びロッドガイド700に形成される各流路65,66,72,73を作動流体が通過する際の抵抗に起因する減衰力が発生し、本実施の形態においてもフロントフォークの伸縮運動を抑制することができる。
【0074】
また、本実施の形態において、上記ロッドガイド700は、上記ロッド5を軸支するガイド部701と、このガイド部701のキャップ部材側(図4中上側)に連設される筒状部702とを備えており、この筒状部702の内周に環状のストッパ部材(一方側伸び切り部材)80が設けられている。
【0075】
また、本実施の形態において、一実施の形態と同様に、筒状の他方側伸び切り部材810がキャップ部材4に垂設されており、この他方側伸び切り部材810の先端部811が上記ストッパ部材80とロッドガイド700におけるガイド部701との間に配置される。
【0076】
また、本実施の形態において、一実施の形態と同様に、ロッドガイド700とピストン600との間にフロントフォークの最伸長時の衝撃を吸収可能な伸び切りばねS1が配置されるとともに、ロッド5がキャップ部材4に軸方向に移動可能に螺合する調整部材9に同軸に設けられている。
【0077】
次に、本実施の形態に係るフロントフォークの作用効果について説明する。本実施の形態において、フロントフォークの伸び切り位置は、一実施の形態と同様に、一方側伸び切り部材たるストッパ部材80と、他方側伸び切り部材810とで決定される。
【0078】
したがって、調整部材9でロッド5を上側に移動させた場合、図5(a)に示すように、このロッド5の移動に伴いピストン600も図5中上側に移動する。これにより、キャップ部材4とピストン600との距離が短くなり、フロントフォークの最伸長時における伸び切りばねS1の圧縮量が増える。
【0079】
他方、調整部材9でロッドを図5中下側に移動させた場合、図5(b)に示すように、このロッド5の移動に伴いピストン600も図5中下側に移動する。これにより、キャップ部材4とピストン600との距離が長くなり、フロントフォークの最伸長時における伸び切りばねS1の圧縮量が減る。
【0080】
つまり、調整部材9でロッド5をキャップ部材4に対して軸方向に移動させると、フロントフォークの最伸長時における伸び切りばねS1の圧縮量が変わり、伸び切りばねS1による反力を変更することができる。また、これと同時に、伸び切りばねS1とピストン600が当接し、伸び切りばねS1が効き始めるタイミングも調整することができる。
【0081】
また、本実施の形態において、一方側伸び切り部材がロッドガイド700の筒状部702に固定されるストッパ部材80であり、このストッパ部材80とガイド部701との間に他方側伸び切り部材810の先端部811が配置されることから、ロッド5がインナーチューブ200から退出するフロントフォークの伸長時にストッパ部材80と先端部811が接近する。
【0082】
また、フロントフォークの最伸長時にストッパ部材80と先端部811とが当接することから、これ以上のフロントフォークの伸長をストッパ部材80と先端部811とでそして、フロントフォークの伸び切り位置を決定することができ、その構成が簡易である。
【0083】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱することなく改造、変形及び変更を行うことができることは理解すべきである。
【0084】
例えば、上記各実施の形態におけるフロントフォークは、アウターチューブ1が車体側に連結されるとともに、インナーチューブ2が車輪側に連結される倒立型のフロントフォークであるが、アウターチューブ1が車輪側に連結され、インナーチューブ2を車体側に連結されて正立型のフロントフォークとされるとしてもよい。
【0085】
また、上記一実施の形態において、懸架装置本体に収容されるダンパDが正立型に設定されるが、倒立型に設定されるとしても良い。
【0086】
また、上記一実施の形態において、ダンパDは、水系流体若しくは油系流体からなる作動流体を収容する液圧ダンパであるが、作動流体が気体からなる空圧ダンパであるとしても良い。
【0087】
また、上記各実施の形態において、調整部材9がキャップ部材4に螺合され、キャップ部材4に対して軸方向に移動可能であるとともに、この調整部材9に同軸にロッド5が保持されることにより、調整部材9でロッド5を軸方向に移動することが可能であるが、ロッド5を軸方向に移動するための構成は、上記の限りではなく、適宜選択することが可能である。
【0088】
また、上記各実施の形態において、フロントフォークの伸び切り位置を決定する一対の伸び切り部材の構成も上記の限りではなく、フロントフォークが所定量伸長したとき、それ以上フロントフォークが伸長することを阻止することが可能な限りにおいて、適宜構成を選択することが可能である。
【0089】
また、上記他の実施の形態において、車体を弾性支持する懸架ばねを省略しているが、一実施の形態と同様に、他方側伸び切り部材810がばね受けを兼ね、懸架ばねが他方側伸び切り部材810とロッドガイド700との間に配置されるとしても良く、また、懸架ばねが圧側室B内に配置されるとしても良い。
【符号の説明】
【0090】
A 伸側室
B 圧側室
C1,C2 圧側チェックバルブ
D ダンパ
F 懸架装置本体
S1 伸び切りばね
S2 懸架ばね
V1,V2 伸側減衰バルブ
V3 圧側減衰バルブ
V4 絞り
1 アウターチューブ(外筒)
2 インナーチューブ
3 シリンダ(内筒)
4,4A キャップ部材
4a 取り付け孔
4b シール
5 ロッド
6,600 ピストン
7,700 ロッドガイド
9 調整部材
10 オイルシール
11 ダストシール
20 孔
40 減衰力調整用アジャスタ
50 コントロールロッド
60,65,72 伸側流路
61,66,73 圧側流路
63 ニードル弁
64 附勢ばね
70 取り付け部材
70a ホルダ
70b ピン
70c リング
71 ばねシート
80 ストッパ部材(一方側伸び切り部材)
81 ばね受け部材(他方側伸び切り部材)
81a 基端部
81b 先端部
81c 段部
200 インナーチューブ(内筒)
810 他方側伸び切り部材
811 先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外筒と、この外筒の一方側から上記外筒内に出没可能に挿入される内筒と、上記外筒の他方側に取り付けられる保持部材と、この保持部材に保持されて上記内筒内に移動可能に挿入されるロッドと、このロッドに保持されて上記内筒の内周面に摺接するピストンと、上記内筒の開口部に取り付けられて上記ロッドを軸支するロッドガイドと、上記ピストンと上記ロッドガイドとの間に配置され最伸長時の衝撃を吸収可能な伸び切りばねとを備えるフロントフォークにおいて、
上記内筒側に固定される一方側伸び切り部材と、保持部材側に固定され最伸長時に上記一方側伸び切り部材が当接される他方側伸び切り部材と、上記ロッドを上記保持部材に対して軸方向に移動させる調整部材とを備えることを特徴とするフロントフォーク。
【請求項2】
上記他方側伸び切り部材は、筒状に形成されており、基端部が上記保持部材に保持されるとともに、先端部の外周が拡径されて肉厚に形成されており、上記先端部とその他の部分の境界に環状の段部が形成されることを特徴とする請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項3】
アウターチューブとこのアウターチューブ内に出没可能に挿入されるインナーチューブとからなり伸縮可能な懸架装置本体と、この懸架装置本体内に収容されるダンパとを備え、このダンパが上記懸架装置本体内に起立するシリンダを備えるフロントフォークであって、
上記アウターチューブが上記外筒、上記シリンダが上記内筒であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフロントフォーク。
【請求項4】
上記インナーチューブに上記シリンダが固定されるとともに、上記インナーチューブの内周に環状の上記一方側伸び切り部材が固定され、この一方側伸び切り部材と上記ロッドガイドとの間に上記他方側伸び切り部材における上記先端部が配置されることを特徴とする請求項3に記載のフロントフォーク。
【請求項5】
アウターチューブとこのアウターチューブ内に出没可能に挿入されるインナーチューブとからなり伸縮可能な懸架装置本体を備えるフロントフォークであって、上記アウターチューブが上記外筒、上記インナーチューブが上記内筒であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフロントフォーク。
【請求項6】
上記ロッドガイドが上記ロッドを軸支するガイド部と、このガイド部の保持部材側に連設される筒状部とを備え、この筒状部の内周に環状の上記一方側伸び切り部材が固定され、この一方側伸び切り部材と上記ガイド部との間に上記他方側伸び切り部材における上記先端部が配置されることを特徴とする請求項5に記載のフロントフォーク。
【請求項7】
上記他方側伸び切り部材の上記先端部と上記ロッドガイドとの間に懸架ばねが配置され、上記他方側伸び切り部材がばね受けを兼ねることを特徴とする請求項2から請求項6の何れか一項に記載のフロントフォーク。
【請求項8】
上記調整部材が上記保持部材を軸方向に貫通する取り付け孔に螺合されており、上記ロッドが上記保持部材の内筒側に同軸に固定されることを特徴とする請求項1から請求項7の何れか一項に記載のフロントフォーク。
【請求項9】
一対の懸架装置部材を有するフロントフォークであって、一方の懸架装置部材が請求項1から請求項8の何れか一項に記載の構成を有する伸び切りばね調整用の懸架装置部材であり、
他方の懸架装置部材が、アウターチューブとこのアウターチューブ内に出没可能に挿入されるインナーチューブとからなる懸架装置本体と、この懸架装置本体内に収容される懸架ばねと、この懸架ばねの初期荷重を調整する初期荷重調整手段とを備える懸架ばね調整用の懸架装置部材であることを特徴とするフロントフォーク。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−108542(P2013−108542A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252524(P2011−252524)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】