説明

フローティング型ディスクブレーキとその組立方法並びにパッドクリップとリターンスプリングとの組立体

【課題】パッドクリップ15aの組み付け時に、このパッドクリップ15aとリターンスプリング16aとを一体(サブアッセンブリ)として扱う事が可能で、組み付け作業を容易に行える構造を実現する。
【解決手段】前記各パッドクリップ15aの軸方向両端部にそれぞれ拘束部24、24を設ける。又、前記各リターンスプリング16aを、インナ側スプリング素子26aとアウタ側スプリング素子26bとから構成し、これら両スプリング素子26a、26bを、コイル部27を備えた捩りコイルばねとする。そして、前記各拘束部24、24の内側面に、前記各スプリング素子26a、26aにそれぞれ設けた突き当て部31、31を、弾性復元力を利用して押し付ける。又、これら各コイル部27の中心軸を、ほぼロータの回転方向に配置する。これにより、上記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、制動解除時にパッドの戻りを円滑に行わせる事により、非制動時にパッドのライニングとロータの側面とが擦れ合う事を防止して、非制動時に於けるロータの引き摺りトルクの低減と、前記ライニングの摩耗低減とを効率良く図れると共に、組立性の向上を図れ、組立コストを低減できる、フローティング型ディスクブレーキとその組立方法並びにパッドクリップとリターンスプリングとの組立体を実現するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の制動を行う為のディスクブレーキとして従来から、サポートに対しキャリパを軸方向(本明細書及び特許請求の範囲中で「軸方向」、「径方向」、「周方向」とは、それぞれロータに関する「軸方向」、「径方向」、「周方向」を言う)の変位を可能に支持するフローティング型のものが広く知られ、実際に広く使用されている。図66は、フローティング型ディスクブレーキとして、特許文献1に記載された従来構造の第1例を示している。このフローティング型ディスクブレーキは、制動時には、車輪(図示せず)と共に回転するロータ1に対しキャリパ2を変位させる。車両への組み付け状態では、このロータ1の軸方向片側に隣接して設けるサポート3を車体(図示せず)に固定する。又、このサポート3に前記キャリパ2を、軸方向に変位可能に支持している。
【0003】
この為に、前記キャリパ2の周方向両端部に一対の案内ピン4を、同じく前記サポート3の周方向両端部に一対の案内孔5を、それぞれ前記ロータ1の中心軸に対し平行に設けている。そして、前記両案内ピン4を前記両案内孔5内に、軸方向の摺動可能に挿入している。これら両案内ピン4の基端部外周面と前記両案内孔5の開口部との間には、防塵用のブーツ6、6を設けている。
【0004】
又、前記サポート3の両端部で、前記ロータ1の周方向に離隔した部分に、回入側、回出側両係合部7、8を、それぞれ設けている。そして、これら両係合部7、8に、パッド9a、9bを構成するプレッシャプレート10a、10bの周方向両端部を、軸方向に摺動可能に係合させている。又、前記両パッド9a、9bを跨ぐ様に、シリンダ部11と爪部12とを有する、前記キャリパ2を配置している。又、このシリンダ部11に、インナ側(車両の幅方向内側で図66の上側)のパッド9aを前記ロータ1に対し押圧するピストン13を、液密に嵌装している。
【0005】
制動を行う場合には、前記シリンダ部11内に圧油を送り込み、前記ピストン13により前記インナ側のパッド9aのライニング14aを、前記ロータ1の内側面に、図66の上から下に押し付ける。すると、この押し付け力の反作用として前記キャリパ2が、前記両案内ピン4と前記両案内孔5との摺動に基づいて、図66の上方に変位し、前記爪部12がアウタ側(車両の幅方向外側で図66の下側)のパッド9bのライニング14bを、前記ロータ1の外側面に押し付ける。この結果、このロータ1が内外両側面側から強く挟持されて、制動が行われる。
【0006】
上述の様に構成し作用するディスクブレーキの非制動時に、前記各パッド9a、9bのライニング14a、14bと前記ロータ1の側面とが擦れ合うと、このロータ1の引き摺りトルク(回転抵抗)が大きくなり、燃費性能が悪化する原因になると共に、前記ライニング14a、14bが無駄に摩耗する。この様なライニング14a、14bの無駄な摩耗は、前記各パッド9a、9bを交換するまでの走行距離の低下を招き、運転経費が嵩む原因となる。
【0007】
この様な不都合を解消する為に従来から、例えば特許文献2〜4に記載されている様に、インナ側、アウタ側両パッド同士の間にリターンスプリングを設け、制動解除に伴って、これら両パッドのライニングの摩擦面を、ロータの両側面から離隔させる構造が知られている。図67は、前記特許文献2に記載された従来構造の第2例を示している。
【0008】
この第2例の場合、サポート3と両パッド9a、9bとの間に、これら両パッド9a、9bのがたつきを防止する為のパッドクリップ15を設けると共に、これら両パッド9a、9bに互いに離れる方向の弾力(戻し力)を付与する為のリターンスプリング16を設けている。このリターンスプリング16は、全体形状が略M字形で、軸方向中央部にコイル部17を有する。そして、このリターンスプリング16の両端部を、プレッシャプレート10a、10bの周方向端部外周縁部に形成した係止孔18、18に係止すると共に、前記コイル部17を、前記パッドクリップ15の上端縁から延出する状態で形成された突片19に係止している。この様な構成により、前記両パッド9a、9bに互いに離れる方向の弾力を付与し、制動解除時に、これら両パッド9a、9bのライニング14a、14bの摩擦面を、ロータの両側面から離隔させる様にしている。
【0009】
上述の様な従来構造の第2例の場合、非制動時に、前記各パッド9a、9bのライニング14a、14bと前記ロータの側面とが擦れ合う事は防止できるが、組立作業が面倒で、組立コストが嵩む事が避けられない。即ち、第2例の構造の場合には、前記パッドクリップ15に対して前記リターンスプリング16を十分な支持力を持って支持する事ができない為、このパッドクリップ15の組み付け時に、このパッドクリップ15と前記リターンスプリング16とを一体として扱えず、組み付け作業を別個に行う必要がある。しかも、このリターンスプリング16を組み付けた直後から、前記両パッド9a、9bには互いに離れる方向の弾力が付与される為、これら両パッド9a、9bが前記サポート3から軸方向に抜け出して脱落しない様に配慮する必要もある。又、これら各パッド9a、9bの交換時にキャリパを取り外した際にも、これら各パッド9a、9bには前記リターンスプリング16の弾力が付与されている為、これら各パッド9a、9bが脱落しない様に配慮する必要がある。この様な組立作業や交換作業は面倒で、組立コストを高くする原因となる。
【0010】
又、前記第2例の構造の場合には、前記リターンスプリング16の両端部を前記各パッド9a、9bの外周縁部に係止している為、制動解除の状態で、これら両パッド9a、9bが、内径側(内周縁)ほど前記ロータに対して近づく方向に傾斜し易くなる。この為、このロータの側面と前記両パッド9a、9bのライニング14a、14bの内周縁とが擦れ合い易くなる。
【0011】
更に、前記リターンスプリング16によって前記両パッド9a、9bに付与される弾力の大きさが同じである為、これら両パッド9a、9bのうちで、アウタ側のパッド9bのライニング14bの摩耗量が、インナ側のパッド9aのライニング14aの摩耗量よりも多くなる可能性がある。即ち、制動解除時に、シリンダ部内への圧油送り込みの解除に伴って、インナ側のパッド9aを前記ロータに向けて押圧する力は喪失する為、このインナ側のパッド9aは、このロータの内側面から離れる方向に比較的容易に変位できる。これに対して、前記アウタ側のパッド9bは、前記ロータの外側面から離れる方向に変位する事に対して、前記キャリパの摺動部に作用する摩擦(案内ピンと案内孔との間に作用する摺動摩擦等)が抵抗として作用する。この為、前記アウタ側のパッド9bは、前記ロータの外側面から離れる方向に変位しにくくなる。この結果、上述した様に、前記アウタ側のパッド9bのライニング14bの摩耗量が、前記インナ側のパッド9aのライニング14aの摩耗量に比べて多くなる可能性がある。更に、前記ロータが摩耗によって肉厚変動を起こす可能性があり、この肉厚変動はジャダーを発生させる要因にもなる。
【0012】
前記特許文献2を含め、前記特許文献3、4の何れにも、上述の様な問題を解決する事に就いては、記載も示唆もされていない。
又、特許文献5には、図68に示す様に、線材を曲げ形成して成り、中間部に一対のコイル部55、55を備えたリターンスプリング56を、アンチラトルスプリング57に係止した構造が記載されている。但し、前記特許文献5に記載された構造の場合、前記各コイル部55、55を、その中心軸の方向と径方向とがほぼ一致する状態で設けている。この為、これら各コイル部55、55を載置する分だけ、サポート3の円周方向に関する寸法が過大になり、レイアウト上、このサポート3と図示しないホイールの内周面と間の隙間を確保する事が難しくなる。又、前記リターンスプリング56に設けた押圧部(係止部)58、58により、一対のパッド9a、9bの径方向外端部を押圧する構造である為、制動解除に伴って、径方向外側程互いの間隔が広くなる、パッド9a、9bの倒れを生じ易い。仮に、前記各パッド9a、9bの径方向中央部を押圧しようとしても、前記各コイル部55、55から押圧部58、58までの距離(全長)が長くなるだけでなく、これら各コイル部55、55と押圧部58、58とが径方向に関して大きくずれてしまい(径方向距離が大きくなり)、これら各コイル部55、55の弾性変形を前記各パッド9a、9bをロータから離隔させる戻し力として有効利用できない。又、前記特許文献5に記載された構造の場合、前記サポート3に対して前記アンチラトルスプリング57を組み付け、前記各パッド9a、9bを組み込んだ後に、前記リターンスプリング56を組み付ける事のみを意図している。前記各パッド9a、9bを組み込む以前の状態で、前記アンチラトルスプリング57に対して前記リターンスプリング56を組み付ける事、延いては、これらアンチラトルスプリング57とリターンスプリング56とを一体(組立体)として取り扱う事は、全く意図していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】実公昭61−21619号公報
【特許文献2】特開平5−36141号公報
【特許文献3】実開平5−14679号公報
【特許文献4】実開平2−92130号公報
【特許文献5】特開昭56−127830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、パッドクリップの組み付け時に、このパッドクリップとリターンスプリングとを一体(サブアッセンブリ)として扱う事が可能で、組み付け作業を容易に行える構造を実現すべく発明したものである。又、リターンスプリングを構成するコイル部の弾性変形を、パッドをロータから離隔させる戻し力として有効利用できる構造を実現するものである。更に、必要に応じて、制動解除時に、インナ側のパッドとアウタ側のパッドとに付与する戻し力を、互いに異ならせる事のできる構造を実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のフローティング型ディスクブレーキとその組立方法並びにパッドクリップとリターンスプリングとの組立体のうち、フローティング型ディスクブレーキは、前述した従来から知られているフローティング型ディスクブレーキと同様に、サポートと、一対のパッドと、キャリパと、パッドクリップと、リターンスプリングとを備える。
このうちのサポートは、車輪と共に回転するロータに隣接して車体に固定される。
又、前記両パッドは、それぞれがプレッシャプレートの表面(軸方向両側面のうちでロータの軸方向側面に対向する面)にライニングを設けて成り(プレッシャプレートとライニングとが別体であるか一体であるかは問わない)、前記ロータの軸方向両側に配置されると共に、前記サポートにより軸方向への移動可能に案内されている。
又、前記キャリパは、このサポートに支持された状態で、軸方向に変位可能である。
又、前記パッドクリップは、前記各パッドと前記サポートとの間に設けられて、これら各パッドがこのサポートに対してがたつく事を防止する。
更に、前記リターンスプリングは、前記パッドを前記ロータから離れる方向に向けて押圧する。
【0016】
特に、本発明のフローティング型ディスクブレーキの場合には、前記両パッドの組み付け以前の状態で、前記リターンスプリングを前記パッドクリップに対して装着(プリセット)可能とすべく、このパッドクリップの一部に、このリターンスプリングの弾力を支承して、このリターンスプリングを支持する為の拘束部を設けている。
又、前記パッドクリップを、前記サポートと前記パッドを構成するプレッシャプレートとの間に配置され、その一部に前記拘束部が設けられた脚部を備えたものとしている。
又、前記リターンスプリングを、線材を曲げ形成して成るものとし、自身の弾性復元力によって前記拘束部に突き当てられる突き当て部と、前記ロータ側に向けて延出する状態で設けられた延出腕部と、この延出腕部のロータ側の端部に設けられた戻し部と、前記パッドクリップの一部に係止されて、この戻し部を前記パッドに押し付ける事に伴う反力を支承する係止部と、これら戻し部と係止部との間に設けられて、その中心軸をほぼ前記ロータの回転方向に配置したコイル部とを備えたものとしている。
そして、前記戻し部を、前記プレッシャプレートの周方向端部で前記ライニングの周方向端縁よりも周方向に突出した部分のうち前記ロータの側面に対向する面に当接させている。
【0017】
尚、パッド(ライニング)が新品の状態からほぼ擦り減った状態に至るまでの前記戻し部の軌跡は、できる限りロータ中心軸と平行になる様にする事が好ましい。この為に、例えば、パッド組み付け時の状態で、前記延出腕部を前記ロータの中心軸とほぼ平行に配置する事ができる。尚、ほぼ平行に配置とは、前記リターンスプリングの弾力を前記パッドのプレッシャプレートに効率良く伝達できる程度に、平行に近い状態を言う。前記延出腕部の角度は、前記パッドのライニングの摩耗進行に伴って変化する為、完全に平行である場合に限らず、平行に近い状態、即ち、パッド組み付け時の状態で、前記ライニングの厚さ(摩耗の進行状況)に拘らず、前記延出腕部の前記中心軸に対する傾斜角度が±15度以内、好ましくは±10度以内、より好ましくは±5度以内である状態を言う。
【0018】
又、前記コイル部の中心軸をほぼ前記ロータの回転方向に配置する状態とは、前記パッドの周方向中央部でのこの回転方向(接線方向)と前記中心軸とが一致する状態を言う。但し、これら回転方向と中心軸の方向とが完全に一致する状態に限定するものではなく、多少(例えば±20度以内、好ましくは±10度以内)ずれている場合も含む。
【0019】
上述の様な本発明のフローティング型ディスクブレーキを実施する場合に好ましくは、例えば請求項2に記載した発明の様に、前記コイル部の中心軸に対して直交する仮想平面のうち前記コイル部を通過する仮想平面上に、少なくとも前記戻し部の一部を位置させる。言い換えれば、前記コイル部と前記戻し部の一部との周方向に関する位置を一致させる(周方向に関して重畳させる)。
【0020】
又、本発明のフローティング型ディスクブレーキを実施する場合に好ましくは、例えば請求項3に記載した発明の様に、前記コイル部と前記戻し部とを、前記ロータの軸方向に関して重畳させる。より好ましくは、前記コイル部の中心軸と前記戻し部とを、前記ロータの軸方向に関して重畳させる。この場合に、新品のパッドを組み付けた状態で、前記コイル部と前記戻し部とを軸方向に関して重畳させる事が好ましい。
【0021】
又、本発明のフローティング型ディスクブレーキを実施する場合に好ましくは、例えば請求項4に記載した発明の様に、前記戻し部の径方向位置を、前記パッドの摩擦中心とほぼ一致させる。この場合に於けるほぼ一致させるとは、完全に一致させる状態が最も好ましい事は勿論であるが、完全に一致させる状態に限定するものではない。即ち、完全に一致させた状態から、前記パッドの摩擦面(ライニングのうちで、制動時に前記ロータの側面と摩擦係合する面)の径方向に関する幅寸法の±10%以内(より好ましくは±5%以内)、径方向にずれている状態も、ほぼ一致する状態である。実際の場合には、前記戻し部の径方向位置を、前記プレッシャプレートの周方向端部で前記ライニングの周方向端縁よりも周方向に突出した部分(係合突片)の範囲に収まる様に(より具体的には係合突片のうちで最も周方向に突出した部分よりも径方向に関して内方位置に)規制する。この様に規制すれば、前記戻し部の径方向位置が前記パッドの摩擦中心とほぼ一致した状態となる。
【0022】
又は、請求項5に記載した発明の様に、周方向に関して、前記戻し部と前記プレッシャプレートとが当接する位置と、前記係止部の位置とをほぼ一致させる。尚、この場合に於けるほぼ一致させるとは、前記戻し部と前記プレッシャプレートとの当接部から前記リターンスプリングに加えられる力と、前記係止部と前記パッドクリップとの係合部からこのリターンスプリングに加えられる力との偶力により、このリターンスプリングに、前記ロータの径方向の軸を中心として回動する方向のモーメントが発生しないか、仮に発生しても無視できる程度の僅少な値に留まる程度に、周方向に関する前記両位置を一致させる事を言う。例えば、前記戻し部と前記プレッシャプレートとは、周方向に関して、或る程度の長さ範囲で当接する。従って、前記係止部の位置がこの長さ範囲に存在すれば、前記モーメントは発生しない。この状態は、前記当接する位置と前記係止部の位置とが一致している状態である。
【0023】
又、本発明を実施する場合に好ましくは、請求項6に記載した発明の様に、前記戻し部が前記プレッシャプレートを押圧する方向と、前記係止部が前記パッドクリップを押圧する方向とを、何れもほぼ軸方向で、且つ、互いに逆向きとする。尚、この場合に於けるほぼ軸方向とは、前記各部が相手部分を押圧する力の方向が、完全に前記ロータの軸方向に一致する場合は勿論、この押圧方向と軸方向とのずれが小さく(45度以下、好ましくは30度以下)、前記各部が相手部分を押圧する力の分力のうち、前記軸方向の分力が大きい(70%以上、好ましくは85%以上である)場合も含む。
【0024】
又、本発明を実施する場合に好ましくは、請求項7に記載した発明の様に、前記パッドクリップの脚部の径方向中間部に周方向に関して前記パッド側に向け突出する状態で設けられた、断面略コ字形の位置決め段部を、前記サポートの一部に形成した凸部に弾性的に外嵌する。そして、この位置決め段部により凸部を挟持して、前記パッドクリップの径方向に関する位置決めを図る。更に、前記位置決め段部の先端部で前記凸部の先端面よりも突出した部分に形成した係止孔に、前記リターンスプリングの係止部を挿入する。即ち、前記位置決め段部の両内側面(径方向両側面)と前記凸部の両外側面(径方向両側面)とを、軸方向に関するほぼ全幅で当接させる代わりに、前記位置決め段部の先端部を前記凸部の先端部よりも、前記ロータの周方向に少し突出させて、これら位置決め段部の先端部内面と凸部の先端面との間に隙間を介在させる。そして、前記係止部を前記係止孔を介して、この隙間内に挿入する。
【0025】
又、本発明を実施する場合に好ましくは、例えば請求項8に記載した発明の様に、前記プレッシャプレートの周方向端部のうちで前記戻し部を当接させる面に、この戻し部を収納可能な凹溝を形成する。そして、この凹溝内にこの戻し部を収納する。
【0026】
又、本発明を実施する場合に好ましくは、例えば請求項9に記載した発明の様に、前記延出腕部の軸方向中間部を、前記プレッシャプレートの周方向端縁部に形成された凹部の内側を軸方向に挿通させる。
【0027】
又、本発明を実施する場合に好ましくは、例えば請求項10に記載した発明の様に、前記拘束部及び前記突き当て部を、前記パッドクリップのうちで前記プレッシャプレートの周方向端面と周方向に対向する面よりも、周方向に関して反パッド側にオフセットさせる。
【0028】
又、前記拘束部は、例えば請求項11に記載した発明の様に、前記脚部のうちで前記パッドの周方向端部を周方向に弾性的に押圧する為に設けられたトルク受部から軸方向に関して反ロータ側に延出する状態で設ける。
【0029】
又、本発明を実施する場合に好ましくは、例えば請求項12に記載した発明の様に、前記拘束部を、前記脚部のうちで前記サポートの一部と係合してこのサポートに対する前記パッドクリップの径方向の位置決めを図る為に設けられた段部から軸方向に関して反ロータ側に延出する状態で設ける。
【0030】
又、本発明を実施する場合に好ましくは、請求項13に記載した発明の様に、前記パッドクリップを、前記サポートと前記各パッドとの間にそれぞれ配置される一対の脚部を備えたものとする。又、前記リターンスプリングを、突き当て部と、延出腕部と、戻し部と、コイル部とを、それぞれ一対ずつ備えたものとする。
【0031】
又、上述した請求項13に記載した発明を実施する場合に好ましくは、例えば請求項14に記載した発明の様に、軸方向に関して前記パッドクリップの両端部に拘束部を設け、前記リターンスプリングの突き当て部をこれら両拘束部に突き当てた状態で、これら両拘束部によりこのリターンスプリングの中間部を係止する。そして、このリターンスプリングのうちで前記戻し部を除く部分が、前記ロータの周方向に関して前記サポートの中央寄りに突出する事を防止し、このサポートに対して前記両パッドを組み付けにくくならない様にする(パッドの組み付け性を良好にする)。
【0032】
又、上述した請求項13、14に記載した発明を実施する場合に好ましくは、例えば請求項15に記載した発明の様に、前記リターンスプリングを、一本の線材を曲げ形成して成るものとし、前記係止部を省略して、前記両コイル部同士を前記ロータを跨ぐ状態で設けられた連結腕部により連結する。
【0033】
或いは、例えば請求項16に記載した発明の様に、前記リターンスプリングを、互いに別体であるインナ側スプリング素子とアウタ側スプリング素子とから構成する。そして、これらインナ、アウタスプリング素子毎にそれぞれ、突き当て部と、延出腕部と、戻し部と、係止部と、コイル部とを設ける。
【0034】
更に、上述した様な請求項13〜16に記載した発明を実施する場合には、例えば請求項17に記載した発明の様に、前記パッドクリップを、それぞれに拘束部を備えた、互いに別体であるインナ側クリップ素子と、アウタ側クリップ素子とから構成する。
【0035】
又、上述した請求項13〜14、16に記載した発明を実施する場合に好ましくは、例えば請求項18に記載した発明の様に、前記リターンスプリングを、軸方向に離隔して設けられた一対のコイル部と、これら各コイル部から軸方向に関して反ロータ側に延出する状態で設けられ、それぞれの一部に突き当て部が設けられた一対の外側腕部とを備えたものとする。
一方、前記パッドクリップを、一対の脚部の径方向外端部同士を、前記リターンスプリングの一部を係止可能な係止切り欠き又は係止孔を有する連結部により連結したものとする。又、前記各脚部を、前記サポートの一部と係合してこのサポートに対する前記パッドクリップの径方向の位置決めを図る為の段部が設けられたものとする。
そして、前記各外側腕部の一部に設けられた突き当て部を、前記各拘束部に対し、軸方向に関して前記ロータから離れる方向に向いた弾力を付与した状態で突き当てると共に、前記リターンスプリングのうちで軸方向に関して前記両コイル部同士の間に設けられた係止部(コイル部から軸方向に関してロータ側に延出する状態で設けられた内側腕部或いは一対の内側腕部を連結した如き形状を有する連結腕部に設けた係止部)を、前記係止切り欠き又は係止孔に対して、径方向外方に向いた弾力を付与した状態で且つ軸方向に関する変位を不能に係止する。
この状態で、前記各コイル部の径方向内端部を、前記各段部の径方向外側面に対して、径方向内方に向けそれぞれ弾性的に押し付ける。
【0036】
或いは、上述した請求項13〜14、16〜17に記載した発明を実施する場合に好ましくは、例えば請求項19に記載した発明の様に、前記リターンスプリングを、それぞれがコイル部と一対の腕部とを備えた、互いに別体のインナ側スプリング素子とアウタ側スプリング素子とから構成する。
又、前記パッドクリップを構成する各脚部を、前記サポートの一部と係合してこのサポートに対する前記パッドクリップの径方向に関する位置決めを図る為の段部と、この段部の径方向外側面から径方向外方にほぼ直角に折れ曲がる状態で、その径方向中間部を略U字状に折り返して成る折り返し部とが、それぞれ設けられたものとする。
そして、前記インナ、アウタ各スプリング素子を構成する一対の腕部のうちで、前記各コイル部から軸方向に関して反ロータ側に延出する外側腕部の一部に設けられた突き当て部を、前記各拘束部に対して、軸方向に関して前記ロータから離れる方向に向いた弾力を付与した状態で突き当てると共に、前記各コイル部から軸方向に関してロータ側に延出する内側腕部の一部に設けられた係止部を、前記パッドクリップの一部に対して、軸方向に関して前記ロータ側に向いた弾力を付与した状態で係止する。
又、この状態で、前記各コイル部を、前記各段部の径方向外側面と前記各折り返し部とにより囲まれる部分にそれぞれ組み込む。
【0037】
更に、上述した様な請求項19に記載した発明を実施する場合に好ましくは、例えば請求項20に記載した発明の様に、前記各内側腕部の先端部に設けられた係止部を、前記各段部の径方向外側面に形成した係止孔に対して係止する。
【0038】
又、請求項21に記載した本発明のフローティング型ディスクブレーキの組立方法は、請求項1〜20に記載したフローティング型ディスクブレーキの組立方法であって、前記リターンスプリングを弾性変形させた後、この弾性変形を解除する事で、このリターンスプリングの弾性復元力によって、このリターンスプリングの一部に設けられた突き当て部を前記パッドクリップの拘束部に突き当て、このリターンスプリングを前記パッドクリップに対して装着する。その後、これらパッドクリップとリターンスプリングとを同時に前記サポートに組み付ける。次いで、前記両パッドをこのサポートに組み付ける。
【0039】
更に、請求項22に記載した本発明のパッドクリップとリターンスプリングとの組立体は、パッドクリップとリターンスプリングとを組み合わせて成る。
このうちのパッドクリップは、ディスクブレーキを構成するサポートとパッドとの間に配置される脚部と、この脚部の一部に形成された拘束部とを備える。
又、前記リターンスプリングは、線材を曲げ形成して成り、コイル部と、このコイル部から延出した腕部の一部に設けられた突き当て部と、この腕部の先端部に設けられ、前記パッドの一部と当接してこのパッドをロータから離れる方向に押圧する為の戻し部とを備える。
そして、前記コイル部をその中心軸が前記脚部の表裏両面(周方向に関してパッドに対向する面及び反対の面)に対してほぼ垂直方向になる様に配置すると共に、前記リターンスプリング自身の弾性復元力により前記突き当て部を前記拘束部に突き当てる。これにより、前記リターンスプリングを前記パッドクリップに対して支持(装着)し、本発明のパッドクリップとリターンスプリングとの組立体を構成する。
尚、本発明のパッドクリップとリターンスプリングとの組立体は、前記リターンスプリングが前記パッドクリップに対して支持されていれば足り、このリターンスプリングは、このパッドクリップをサポートに対して取り付ける以前の状態で支持されていても良いし、このパッドクリップをサポートに対して取り付けた以後に支持しても良い。
【発明の効果】
【0040】
上述の様に構成する本発明によれば、パッドクリップの組み付け時に、このパッドクリップとリターンスプリングとを一体(組立体、サブアッセンブリ)として扱え、組み付け作業が容易になる。
即ち、本発明の場合には、前記パッドクリップの一部に設けた拘束部により、前記リターンスプリングの弾力を支承する事で、このリターンスプリングを前記パッドクリップに対してこの弾力に応じた十分な支持力を持って支持できる。この為、このパッドクリップと前記リターンスプリングとを一体として扱え、これらパッドクリップとリターンスプリングとの組み付け作業を同時に行える為、組み付け作業が容易になる。この結果、組立性の向上を図れ、組立コストを低減できる。
更に、本発明のパッドクリップとリターンスプリングとの組立体は、取り扱い性に優れ、ディスクブレーキの組立工場内での管理等が、パッドクリップとリターンスプリングとをそれぞれ別体として取り扱う場合に比べて約半分で済む。又、段取り工数を低減できると共に、誤組み付けの防止を図れ、組付工数も低減できる。又、市場での交換部品の販売等も容易になる。
【0041】
又、本発明の場合には、パッドスプリングにコイル部を設けている為、コイル部を有しない線ばねを用いて構成した場合に比べて、ばね定数を低く抑える事ができる。この為、前記パッドのライニングの摩耗量が変化して、制動時に於けるパッドの軸方向に関する移動量が変化した場合にも、パッドに付与する弾力の変化を小さく抑えられる。しかも、前記コイル部の中心軸を前記ロータの回転方向に配置している為、このコイル部を、パッドのプレッシャプレートの端部とサポートとの間の隙間内に設置できる。又、前記コイル部の弾力を、前記リターンスプリングに設けた戻し部と係止部とに効率良く伝達できる。この為、このリターンスプリングの弾性係数をより低く抑えて、前記パッドのライニングの摩耗が進行する事に伴う、前記戻し部がパッドを押圧する弾力の変化を、より小さく抑えられる。
【0042】
又、請求項2に記載した発明によれば、前記コイル部と前記戻し部の一部との周方向に関する位置が一致しており、制動時に、前記コイル部をねじり方向(巻き込み方向)に弾性変形させられる為、このコイル部の弾性変形(弾力)を、パッドをロータから離隔させる戻し力として有効利用できる。
【0043】
又、請求項3に記載した発明によれば、前記戻し部による戻し力の作用方向を、前記ロータの移動方向である軸方向にほぼ一致させられる。この為、前記パッドをロータから効率良く離隔させる事ができる。
【0044】
又、請求項4に記載した発明によれば、制動解除状態で、前記パッドが前記ロータに対して傾斜し、パッドの内外両周縁部のうちの何れかの周縁部が前記ロータの側面と擦れ合う事を有効に防止できる。
【0045】
又、請求項5に記載した発明によれば、前記リターンスプリングにより前記パッドに、前記ロータから離れる方向の弾力を付与する事に伴ってこのリターンスプリングに、径方向の軸を中心として回動する方向のモーメントが発生しないか、仮に発生しても無視できる程度の僅少な値に止める事ができる。従って、例えば請求項16に記載した発明の様に、前記リターンスプリングを、互いに別体であるインナ側スプリング素子とアウタ側スプリング素子とから構成した場合にも、これら両スプリング素子が前記パッドクリップから不用意に脱落する事を防止できる。
【0046】
又、請求項6に記載した発明によれば、前記リターンスプリングの弾力を前記パッドに対し、前記ロータから離隔(両パッド同士を離隔)させる方向の力として、効率良く伝達できる。この為、特に大きな弾力を有する(例えば太い線材を使用した)リターンスプリングでなくても、前記パッドを確実に離隔させる事ができる。この様にリターンスプリングの弾力を特に大きくする必要がない為、このリターンスプリングの加工コストを抑えられるだけでなく、このリターンスプリングの組み付け作業の容易化も図れる。この様な請求項6に記載した発明も、請求項16に記載した発明の様に、前記リターンスプリングを、互いに別体であるインナ側スプリング素子とアウタ側スプリング素子とから構成した構造と組み合わせた場合に有効である。
【0047】
又、請求項7に記載した発明によれば、パッドクリップ側の位置決め段部と、サポート側の凸部とを、ほぼ全幅に亙って当接させる事ができる。この為、このサポートに対する前記パッドクリップの支持剛性を高くできる。又、前記リターンスプリングの係止部の設置位置を、前記サポートの周方向中央部に近づけて、前述した請求項5に記載した発明の構造を実現し易くできる。
【0048】
又、請求項8に記載した発明によれば、前記各パッドを構成するライニングの摩耗量が多くなった場合にも(完全に摩耗し切るまで)、前記戻し部と前記ロータの側面とが摺れ合う、所謂引き摺りを低減できる。この為、前記ライニングの有効利用(省資源化)を図りつつ、摺れ合いを減少できてロータ摺動面の摩耗も少なくできる。
【0049】
又、請求項9に記載した発明によれば、前記リターンスプリング及び前記パッドクリップ等の形状を徒に複雑化する事なく、前記戻し部を前記プレッシャプレートの周方向端部側面(ロータに対向する面)に当接させる構造を実現できる。
【0050】
又、請求項10、14に記載した発明によれば、前記パッドの組み付け作業時に、前記プレッシャプレートと前記拘束部及び前記突き当て部とが干渉する事を有効に防止できる為、前記パッドの組み付け作業の作業効率の向上を図れる。
【0051】
又、請求項15に記載した発明によれば、部品点数の低減、及び、前記パッドクリップに対する前記リターンスプリングの組み付け工数の低減を図れる(組み付け回数が一度で済む)。
これに対して、請求項16に記載した発明によれば、両スプリング素子同士の間で、形状や線径等を異ならせる事で、インナ側のパッドとアウタ側のパッドとにそれぞれ付与する弾力を容易に異ならせる事ができる。この為、アウタ側のパッドに付与する弾力を、インナ側のパッドに付与する弾力に比べて大きくする事で、摩耗量が増加し易いアウタ側のパッドのライニングの摩耗量を少なく抑える事もできる。
【0052】
更に、請求項17に記載した発明によれば、パッドクリップ全体を一体とした場合(一対の脚部同士を連結部により連結する門型の場合)に比べて、パッドクリップ(クリップ素子)を小型・軽量に構成できる。この為、このパッドクリップの取り扱い性を向上させる事ができて、パッドクリップの組み付け作業性を向上できる。又、パッドクリップを形成する為の材料費の低減も図れる。更に、組み合わせて使用するロータの厚さ(軸方向寸法)に関係なく、使用できる(パッドクリップ素子の共通化を図れる)。
これに対して、パッドクリップを、一対の脚部同士を連結部により連結した如き門型とした場合には、サポートに対する組み付け性の向上(組み付け回数の低減)を図れると共に、サポートに対する精度良い組み付け(クランプ)が可能になる。例えば、サポートのうちでロータを跨ぐ様に設けられた部分(ロータパス部)の加工面を利用する事で、パッドクリップの連結部の背面を精度良く保持できる(位置決めできる)。
【0053】
又、請求項18、19に記載した発明によれば、前記リターンスプリングの姿勢(形状)を安定させる事ができる。この為、このリターンスプリングがパッドクリップから脱落したり、取付位置がずれたりする事を有効に防止できる。従って、サポートに対するパッドクリップ及びリターンスプリングの組み付け作業の作業性の向上を図れる。更に、この様にサポートに組み付けた状態で、前記リターンスプリングにより、前記パッドに対して所望の弾力(戻し力)を付与し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を、キャリパを省略した状態で外径側且つアウタ側から見た状態を示す斜視図。
【図2】同じく外径側から見た正投影図。
【図3】同じくインナ側から見た正投影図。
【図4】同じく図3の左側から見た正投影図。
【図5】パッドクリップにリターンスプリングを装着した状態(組立体)を、外径側且つ正面側から見た状態で示す斜視図。
【図6】同じく内径側且つ背面側から見た状態で示す斜視図。
【図7】同じく(A)は正面図、(B)は平面図、(C)は側面図。
【図8】リターンスプリングを構成する一方のスプリング素子のみを取り出して、パッドクリップへの装着状態にまで弾性変形させた状態で示す、(A)は正面図、(B)は平面図、(C)は側面図。
【図9】プレッシャプレートの係合突片に形成する凹部の2例を示す図。
【図10】本発明の実施の形態の第2例を示す、図5と同様の図。
【図11】本発明の実施の形態の第3例を、キャリパを省略した状態で外径側且つインナ側から見た状態を示す斜視図。
【図12】同じく図2と同様の図。
【図13】同じく図3と同様の図。
【図14】同じく図4と同様の図。
【図15】同じくパッドを組み付ける以前の状態で示す図11に相当する図。
【図16】同じくパッドを組み付ける以前の状態で示す図12に相当する図。
【図17】同じくパッドを組み付ける以前の状態で示す図13に相当する図。
【図18】同じくパッドを組み付ける以前の状態で示す図14に相当する図。
【図19】同じく図5と同様の図。
【図20】同じくパッドクリップにリターンスプリングを装着した状態(組立体)を示す、(A)は正面図、(B)は平面図。
【図21】同じくパッドクリップのみを取り出して示す斜視図。
【図22】同じくパッドクリップのみを取り出して示す、(A)は正面図、(B)は平面図。
【図23】同じくリターンスプリングを構成する一方のスプリング素子の2例を示す斜視図。
【図24】同じくリターンスプリングを構成する一方のスプリング素子のみを取り出して、パッドクリップへの装着状態にまで弾性変形させた状態で示す、(A)は正面図、(B)は平面図。
【図25】本発明の実施の形態の第4例を示す、図11と同様の図。
【図26】同じく図12と同様の図。
【図27】同じく図13と同様の図。
【図28】同じく図14と同様の図。
【図29】同じく図19と同様の図。
【図30】同じくリターンスプリングを構成する一方のスプリング素子のみを取り出して、パッドクリップへの装着状態にまで弾性変形させた状態で示す斜視図。
【図31】本発明の実施の形態の第5例を示す、図15と同様の図。
【図32】同じくパッドクリップを構成する一方のクリップ素子に、リターンスプリングを構成する一方のスプリング素子を組み付けた状態(組立体)を示す斜視図。
【図33】同じく一方のクリップ素子に一方のスプリング素子を組み付けた状態(組立体)を示す、(A)は正面図、(B)は平面図、(C)は側面図。
【図34】本発明の実施の形態の第6例を、ロータを除いて組み立てた状態で、アウタ側且つ径方向外側から見た状態で示す斜視図。
【図35】キャリパの一部を切除した状態で示す、図34と同様の図。
【図36】キャリパ及びパッドを除いて、各スプリング素子をパッド装着状態にまで弾性変形させた状態で示す、図34と同様の図。
【図37】図36のX部拡大図。
【図38】リターンスプリングをパッド組み付け前の状態で示す、図36のY−Y断面図。
【図39】同じくパッド組み付けに伴って弾性変形した後の状態で示す、図38と同様の図。
【図40】パッド組み付けに伴ってリターンスプリングが弾性変形する状態を示す、図38〜39の左部に相当する図。
【図41】パッドクリップ及びリターンスプリングを組み付けたサポートにパッドを組み付ける状態を、径方向外側から見た状態で示す正投影図。
【図42】同じくアウタ側から見た状態で示す正投影図。
【図43】同じく図42の左方から見た状態で示す正投影図。
【図44】同じくパッドクリップとリターンスプリングとの組立体を取り出して示す正面図。
【図45】本発明の実施の形態の第7例を、パッド及びキャリパを省略した状態で外径側且つアウタ側から見た状態を示す斜視図。
【図46】同じく外径側且つアウタ側から見た状態を示す斜視図。
【図47】同じく外径側から見た正投影図。
【図48】同じくアウタ側から見た正投影図。
【図49】同じく図48の右側から見た正投影図。
【図50】図45の部分拡大図。
【図51】同じくパッドクリップ(素子)とリターンスプリング(素子)との組立体を取り出して示す斜視図。
【図52】本発明の実施の形態の第8例を、パッド及びキャリパを省略した状態で外径側且つアウタ側から見た状態を示す斜視図。
【図53】同じく外径側且つアウタ側から見た状態を示す斜視図。
【図54】同じく外径側から見た正投影図。
【図55】同じくアウタ側から見た正投影図。
【図56】同じく図55の右側から見た正投影図。
【図57】図52の部分拡大図。
【図58】同じくパッドクリップとリターンスプリングとの組立体を取り出して示す斜視図。
【図59】本発明の実施の形態の第9例を、パッド及びキャリパを省略した状態で外径側且つアウタ側から見た状態を示す斜視図。
【図60】同じく外径側且つアウタ側から見た状態を示す斜視図。
【図61】同じく外径側から見た正投影図。
【図62】同じくアウタ側から見た正投影図。
【図63】同じく図62の右側から見た正投影図。
【図64】図59の部分拡大図。
【図65】同じくパッドクリップ(素子)とリターンスプリング(素子)との組立体を取り出して示す斜視図。
【図66】フローティング型ディスクブレーキの従来構造の第1例を、外径側から見た状態で示す部分断面図。
【図67】従来構造の第2例を、一部を取り出して示す部分切断斜視図。
【図68】従来構造の第3例を、一部を省略して示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0055】
[実施の形態の第1例]
図1〜9は、請求項1〜4、8、9、11、13、16、21、22に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例の構造を含め、本発明の特徴は、パッドクリップ15aとリターンスプリング16aとの組み付け作業の容易化を図るべく、これらパッドクリップ15a及びリターンスプリング16aの構造を工夫した点にある。その他の部分の構造及び作用効果に就いては、前述した従来構造の第1例の場合とほぼ同様である為、同等部分に関する図示並びに説明は省略若しくは簡略し、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0056】
本例の場合にも、サポート3の周方向両端部の回入側、回出側両係合部7、8に形成した係止凹部20、20に、インナ側、アウタ側各パッド9a、9bを構成するプレッシャプレート10a、10bの周方向両端部に設けた係合突片21、21を係合させる事により、前記両パッド9a、9bを軸方向の変位を可能に支持している。又、前記各係合凹部20、20と前記各係合突片21、21との間に、前記各パッドクリップ15a、15aを介在させている。これら各パッドクリップ15a、15aは、ステンレスのばね鋼の様に、弾性及び耐蝕性を有する金属板を折り曲げ形成する事により造っており、軸方向に離隔して設けられた一対の脚部22、22の径方向外端部同士を、連結部23により連結して成る。
【0057】
これら各脚部22は、径方向に連続する状態で、位置決め段部36と、トルク受部37と、折れ曲がり部38とを備える。このうちの位置決め段部36は、前記各脚部22の径方向中間部に周方向に関して前記各パッド9a、9b側に向け突出する状態で設けられたもので、断面略コ字形であり、前記サポート3の一部に形成された凸部39と係合(凸部39を弾性的に外嵌・挟持)して、前記各パッドクリップ15aの径方向に関する位置決めを図る。又、前記トルク受部37は、前記位置決め段部36の径方向内側面から径方向内方にほぼ直角に折れ曲がる状態で設けられており、前記各パッド9a、9bの周方向端部に設けた前記各係合突片21を周方向に弾性的に押圧する。又、前記折れ曲がり部38は、前記トルク受部37の径方向内端部から周方向に関して前記各パッド9a、9b側に折れ曲がる状態で設けられており、前記各係合突片21の径方向内側面に弾性的に当接する。
【0058】
特に、本例の場合には、前記各パッドクリップ15a、15aの軸方向両端部で、前記各パッド9a、9bを構成するプレッシャプレート10a、10bよりも軸方向に関してロータ1(図2参照)から離隔した部分に、一対の拘束部24、24を設けている。これら各拘束部24、24は、前記各脚部22、22の内径寄り部分に設けられた前記各トルク受部37、37から軸方向に関して互いに離れる方向に延出した状態で、中間部を周方向に関して前記各パッド9a、9b側に折り曲げる事により形成されている。この様な構成を有する前記各拘束部24、24は、前記両パッド9a、9bを組み付ける以前の状態で、後述するリターンスプリング16aを前記各パッドクリップ15aに装着可能とすべく(パッドクリップ15aとリターンスプリング16aとの組立体を構成すべく)設けたもので、これら各リターンスプリング16aの弾力(戻し力)を支承して、これら各リターンスプリング16aを支持する。又、前記両脚部22、22の外径寄り部分で前記各位置決め段部36、36の径方向外側面から径方向外方にほぼ直角に折れ曲がる状態で設けられた部分には、それぞれ突片25、25を形成している。これら各突片25、25は、前記各脚部22、22の外径寄り部分にコ字形の切目を形成し、この切目の内側を前記キャリパ側(互いに近づく方向)に曲げ起こす事により形成されている。
【0059】
上述の様な構成を有するパッドクリップ15a、15aは、ディスクブレーキのアンカ側(ブレーキトルクを支承する側)と、反アンカ側部分とにそれぞれ設けるが、それぞれのパッドクリップ15a、15aを構成する脚部22、22は、それぞれの部分で、前記インナ側、アウタ側各パッド9a、9bの端部に設けた係合突片21、21の外面と、前記回入側、回出側両係合部7、8に形成した係合凹部20、20の内面との間に配置される。そして、前記各脚部22、22のうちのトルク受部37、37により、前記各係合突片21、21を周方向に向け弾性的に押圧して、前記各パッド9a、9bが前記サポート3に対しがたつく事を防止する。又、この状態で前記連結部23は、前記ロータ1の外周縁よりも径方向外方に位置し、前記一対の脚部22、22の径方向外端部同士を互いに連結する。
【0060】
又、制動解除に伴って、前記各パッド9a、9bを構成するライニング14a、14bの摩擦面を前記ロータ1の両側面から離隔させる為に、これら各パッド9a、9bの周方向両端部に、リターンスプリング16a、16aを設けている。本例の場合には、これら各リターンスプリング16a、16aを、互いに別体である、インナ側スプリング素子26aと、アウタ側スプリング素子26bとから構成している。これら各スプリング素子26a、26bは、図8に示した様に、例えばステンレス、ピアノ線等のばね鋼製の線材を曲げ形成して成る捩りコイルばねであり、軸方向中間部に設けたコイル部27に、一対の腕部28a、28b(内側腕部28a、外側腕部28b)の基部をそれぞれ連続させている。
【0061】
前記コイル部27は、その内側に前記各パッドクリップ15aに形成された突片25を挿通自在な内径を有し、その中心軸をほぼ前記ロータ1の回転方向{前記パッド9a、9bの周方向中央部でのロータ1の回転方向(接線方向)で、脚部22の表裏両面に対する垂直方向であり、図2の左右方向}に配置している。又、前記両腕部28a、28bのうち、軸方向に関して前記ロータ1側に向け延出した内側腕部28aの先端部は、周方向に関して前記パッドクリップ15a側(反パッド9a、9b側)に曲げ形成して、それぞれ係止部29としている。又、必要に応じて、図6中に2点鎖線で示した様に、これら各係止部29、29の先端部を径方向外方に折り曲げて外れ止め片40、40とする。そして、これら各外れ止め片40、40を連結部23の背面に係合させて、前記パッドクリップ15aに対する前記各リターンスプリング16aの外れ止めを図っても良い。これに対して、反ロータ1側に延出した外側腕部28bは、正面視略レ字形で、基端側部分から先端側部分に向かって順に、湾曲部30と、突き当て部31と、延出腕部32と、戻し部33とを有する。このうちの突き当て部31は、前記各スプリング素子26a(26b)の弾性復元力によって、前記各パッドクリップ15aを構成する拘束部24、24のうち、前記ロータ1の側面に対向する面(内側面)に突き当てられる部分であり、本例の場合には、直線状で、前記湾曲部30の内径側端部から径方向内方に垂下する状態で設けられている。
【0062】
又、前記延出腕部32は、前記突き当て部31の径方向内端部から、前記ロータ1に近づく方向にほぼ直角に折れ曲がる状態で設けられており、このロータ1の中心軸とほぼ平行に配置されている。この為、本例の場合には、前記延出腕部32と前記各プレッシャプレート10a、10bの周方向端縁部との干渉を防止すべく、これら各プレッシャプレート10a、10bの係合突片21、21の周方向端縁部に、凹部34(34a)を形成している。そして、これら各凹部34(34a)の内側に、前記延出腕部32の軸方向中間部を軸方向に挿通させている。具体的には、この延出腕部32の軸方向中間部を、図9の(A)に示した様な、周方向にのみ開口する凹部34の内側に挿通させるか、或いは、同図の(B)に示した様な、周方向及び径方向(内方)に開口した凹部34aの内側に挿通させている。又、本例の場合には、前記延出腕部32の軸方向に関する長さ寸法を、次の様に規制している。即ち、この延出腕部32の軸方向寸法を、前記各パッド9a、9bの軸方向に関する厚さ寸法よりも大きくし、且つ、これら両パッド9a、9bの組み付け状態(非制動時に於けるパッド9a、9bの軸方向位置)で、前記突き当て部31と前記各拘束部24の内側面とを当接させた状態のまま、後述する戻し部33を、前記各係合突片21、21のうち前記ロータ1の側面に対向する面(内側面)に当接させられる長さとしている。
【0063】
更に、前記戻し部33は、前記延出腕部32の先端部(ロータ1側の端部)から、周方向に関して前記各パッドクリップ15aから離隔する方向(係止部29とは反対側)に折れ曲がる状態で設けられており、前記各係合突片21、21の内側面に当接している。又、前記戻し部33の一部(図示の例では基端部)は、前記コイル部27の中心軸{図8の(C)中に示した一点鎖線X}に対して直交する仮想平面のうち、このコイル部27を通過する仮想平面{同図中に示した一点鎖線Y}上に位置している。又、前記リターンスプリング16aを前記パッドクリップ15aに組み付けた状態(更にはパッド9a、9bを組み付けた状態)で、前記ロータ1の軸方向に関して前記コイル部27と重畳する位置(同図中の下方)に、前記戻し部33を位置させている。又、前記戻し部33の径方向位置は、前記各パッド9a、9bを構成するライニング14a、14bの摩擦中心の径方向位置とほぼ一致している。
【0064】
又、本例の場合には、各図面には表していないが、前記両スプリング素子26a、26b同士の間で線径若しくは形状を異ならせる事ができる。具体的には、これら両スプリング素子26a、26bのうち、前記ロータ1のアウタ側に配置された(アウタ側のパッド9bに弾力を付与する)アウタ側スプリング素子26bの荷重(戻し力)を、インナ側に配置された(インナ側のパッド9aに弾力を付与する)インナ側スプリング素子26aの荷重(戻し力)よりも大きくできる。更に、反アンカ側(入口側、回入側)に設けるスプリング素子の荷重(戻し力)を、アンカ側(出口側、回出側)に設けるスプリング素子の荷重(戻し力)よりも大きくする事もできる。
【0065】
以上の様なパッドクリップ15a及びリターンスプリング16aを有する本例の場合、フローティング型ディスクブレーキの組み立て作業を行う際には、前記各パッド9a、9bを前記サポート3に対して組み付ける以前の状態で、図5〜7に示した様に、前記リターンスプリング16aを前記パッドクリップ15aに対して装着(プリセット)する。つまり、前記図5〜7に示した様な、前記パッドクリップ15aと前記リターンスプリング16aとの組立体を構成する。この為に、具体的には、前記各スプリング素子26a、26bを構成する両腕部28a、28b同士を互いに近づく方向に弾性変形させた状態で、前記コイル部27の内側に前記突片25を挿入した後、前記両腕部28a、28bを弾性復帰させる(弾性変形を解除する)。これにより、前記内側腕部28aの先端部に設けられた係止部29を、前記連結部23の内周縁部に対して、径方向外方に向いた弾力を付与した状態で係止すると共に、前記外側腕部28bに設けられた突き当て部31を、前記拘束部24の内側面に対して、軸方向に関して前記ロータ1から離れる方向の弾力を付与した状態で突き当てる。言い換えれば、前記パッドクリップ15aを構成する連結部23の内周縁部と前記拘束部24の内側面同士の間で、前記各スプリング素子26a、26bの両腕部28a、28bを突っ張らせる。これにより、前記コイル部27の内周面を、前記突片25に対して、径方向内方且つ軸方向に関して前記ロータ1側に向けて押し付ける。この状態で、前記両スプリング素子26a、26b(リターンスプリング16a)が、前記パッドクリップ15aに対して装着される。更に、前記コイル部27の内周面を前記突片25に押し付ける事により、前記パッドクリップ15aに対する前記各スプリング素子26a、26bの径方向及び軸方向に関する位置決めが図られる。尚、この様に前記リターンスプリング16aを前記パッドクリップ15aに対して装着する作業は、ディスクブレーキの組立工場で行う事もできるし、予め部品の供給元(パッドクリップ15a、リターンスプリング16aを製造する工場等)で行う事もできる。部品の供給元で装着作業を行う場合には、ディスクブレーキの組立工場では、前記パッドクリップ15aと前記リターンスプリング16aとの組立体のまま、搬入、段取り、組立の各工程を行う。
【0066】
以上の様にして、前記リターンスプリング16aを前記パッドクリップ15aに対して装着した後(或いは装着した状態の組立体を用意した後)は、これらパッドクリップ15aとリターンスプリング16aとの組立体を前記サポート3に組み付け、その後、図1〜4に示した様に、このサポート3に対して前記両パッド9a、9bを組み付ける。本例の場合には、これら両パッド9a、9bを組み付けた状態で、これら両パッド9a、9bには、前記リターンスプリング16aから未だ弾力は付与されない。但し、更に図示しないキャリパを組み付ける状態では、前記両パッド9a、9b同士を僅かに(例えば1mm以下の微少量だけ)近づけ、これら両パッド9a、9bに、互いに離れる方向の弾力を付与する。この状態では、前記各突き当て部31、31が前記各拘束部24、24から、少しだけ浮き上がる。
【0067】
以上の様にして組み立てられる本例のフローティング型ディスクブレーキの制動時並びに制動解除時の動作は、次の通りである。
先ず、制動時には、図示しないキャリパに設けられたシリンダ部内に圧油を送り込み、ピストンにより前記インナ側のパッド9aのライニング14aを、前記ロータ1の内側面に、図2の上から下に押し付ける。すると、この押し付け力の反作用として、前記キャリパが、両案内ピンと両案内孔5、5との摺動に基づいて、図2の上方に変位し、爪部がアウタ側(車両の幅方向外側で図2の下側)のパッド9bのライニング14bを、前記ロータ1の外側面に押し付ける。この結果、このロータ1が内外両側面側から強く挟持されて、制動が行われる。この際、前記各リターンスプリング16a、16aを構成する戻し部33、33が、前記各係合突片21、21の内側面により押されて、前記ロータ1に近づく方向に軸方向に変位する。これと同時に、前記各延出腕部32、32が軸方向に変位し、前記各突き当て部31、31を前記各拘束部24、24の内側面から離隔させる。この結果、前記各外側腕部28b、28bのたわみ量(前記コイル部27の弾性変形量)が、非制動時の場合に比べて大きくなる。
【0068】
そして、制動解除時には、前記各リターンスプリング16a、16aの弾性復元力に基づいて、前記各戻し部33、33を前記各係合突片21、21の内側面に押し付け、前記両パッド9a、9bに互いに離れる方向(各パッド9a、9bを前記ロータ1から離隔させる方向)の弾力を付与する。これにより、これら両パッド9a、9bのライニング14a、14bの摩擦面を、前記ロータ1の両側面から離隔させる。特に本例の場合には、前記各突き当て部31、31が前記各拘束部24、24の内側面に突き当たるまでの間、前記両パッド9a、9aに弾力を付与し、突き当たると同時に弾力を付与しなくなる。
【0069】
以上の説明から明らかな通り、本例の場合には、前記各パッドクリップ15aの組み付け時に、これら各パッドクリップ15aと前記各リターンスプリング16aとを一体(組立体、サブアッセンブリ)として扱え、組み付け作業が容易になる。
即ち、本例の場合には、上述した様に、前記各パッドクリップ15aに設けた拘束部24、24により、前記各リターンスプリング16a(スプリング素子26a、26b)の弾力を支承する事で、これら各リターンスプリング16aを前記各パッドクリップ15aに対してこの弾力に応じた十分な支持力を持って支持できる。この為、これら各パッドクリップ15aと前記各リターンスプリング16aとを一体(組立体)として扱え、これら各パッドクリップ15aとリターンスプリング16aとの組み付け作業を同時に行える為、組み付け作業が容易になる。この結果、組立性の向上を図れ、組立コストを低減できる。しかも、前記各リターンスプリング16aを前記各パッドクリップ15aに対して装着する作業は、作業スペースが制限されない広い空間内で行える為、この作業も容易に行える。更に、本例の場合には、前記両パッド9a、9bを組み付けた直後(未だキャリパを組み付ける以前)の状態で、これら両パッド9a、9bに弾力が付与されない為、これら両パッド9a、9bが前記サポート3から軸方向に抜け出して脱落しない様に配慮する必要もない。又、前記各拘束部24、24は、前記各パッド9a、9bの係合突片21、21と係合する事で、これら各パッド9a、9bが前記サポート3から脱落する事を防止する事もできる。従って、組立作業や搬送作業が面倒になる事もない。又、前記各パッドクリップ15aと前記各リターンスプリング16aとを一体として取り扱える分、部品管理コストの低減も図れる。又、前記各リターンスプリング16aを前記各パッドクリップ15aに装着する作業は、予め部品の供給元で行い、ディスクブレーキの組立工場には、前記各パッドクリップ15aと前記各リターンスプリング16aとの組立体として搬入する事もできる。この場合には、ディスクブレーキの組立工場内での管理(納入管理、箱等の管理、番号管理、在庫管理、発注管理、保管場所)等が、前記各パッドクリップ15aと前記各リターンスプリング16aとをそれぞれ別体として取り扱う場合に比べて約半分で済む。又、段取り工数を低減できると共に、誤組み付けの防止を図れ、組付工数も低減できる。
【0070】
又、本例の場合には、前記各コイル部27の内周面を前記各突片25に弾性的に押し付けている為、前記各スプリング素子26a、26bの姿勢(形状)を安定させる事ができる。この為、前記各リターンスプリング16a(スプリング素子26a、26b)が前記各パッドクリップ15aから脱落したり、取付位置がずれたりする事を有効に防止できる。従って、前記サポート3に対する前記各パッドクリップ15a及び前記各リターンスプリング16aの組み付け作業の作業性の向上を図れる。更に、これら各リターンスプリング16aにより、前記両パッド9a、9bに対して所望の戻し力を付与し易くなる。又、前記各リターンスプリング16aを、前記各コイル部27を備えた捩りコイルばねとする事により、例えばコイル部を有しない線ばねを用いた場合に比べて、ばね定数を低く抑える事ができる。この為、前記両パッド9a、9bのライニング14a、14aの摩耗量が変化して、制動時に於けるこれら両パッド9a、9aの軸方向に関する移動量が大きくなった場合にも、これら両パッド9a、9bに付与する弾力の変化を小さく抑えられる(安定させられる)。即ち、前記各ライニング14a、14bが新品の状態からほぼ擦り減った状態まで、前記両パッド9a、9bに付与する弾力をほぼ一定にできる。又、本例の場合には、前記各戻し部33の一部を、前記各コイル部27の中心軸に対して直交する仮想平面のうち、これら各コイル部27を通過する仮想平面上に位置させている為、前記コイル部27と前記戻し部33の一部(基端部)との円周方向に関する位置が一致しており、制動時に、これら各コイル部27は、ねじり方向(巻き込み方向)に弾性変形させられる。この為、これら各コイル部27の弾性変形(弾力)を、前記各パッド9a、9bを前記ロータ1から離隔させる戻し力として有効利用できる。又、前記各コイル部27と前記各戻し部33とを、前記ロータ1の軸方向に重畳させている為、これら各戻し部33による戻し力の作用方向を、前記各パッド9a、9bの移動方向である前記ロータ1の軸方向にほぼ一致させられる。この為、前記各パッド9a、9bをこのロータ1から効率良く離隔させる事ができる。
【0071】
又、本例の場合には、前記各延出腕部32を前記ロータ1の中心軸とほぼ平行に配置すると共に、前記各戻し部33、33の径方向位置を、前記各パッド9a、9bを構成するライニング14a、14bの摩擦中心の径方向位置と一致させている為、制動解除状態で、前記両パッド9a、9bが前記ロータ1に対して傾斜し、これら両パッド9a、9bの内外両周縁部のうちの何れかの周縁部が、前記ロータ1の側面と擦れ合う事を有効に防止できる。又、前記各延出腕部32を前記ロータ1の中心軸とほぼ平行に配置している為、前記各パッド9a、9b(ライニング14a、14b)が新品の状態からほぼ擦り減った状態に至るまでの前記各戻し部33、33の軌跡を、平行にし易くできる。又、前記各係合突片21、21の周方向端縁部に凹部34(34a)を形成し、これら各凹部34(34a)内に前記各延出腕部32を軸方向に挿通させている為、前記各リターンスプリング16a(スプリング素子26a、26b)及び前記各パッドクリップ15a等の形状を徒に複雑化する事なく、前記各戻し部33、33を、前記各係合突片21、21の内側面に当接させる構造を実現できる。
【0072】
更に、本例の場合には、前記各リターンスプリング16aを、前記インナ側スプリング素子26aと前記アウタ側スプリング素子26bとから構成している為、例えば、このうちのアウタ側スプリング素子26bの線径を、インナ側スプリング素子26aの線径よりも大きくする事ができる。この為、アウタ側のパッド9bに付与する弾力を、インナ側のパッド9aに付与する弾力に比べて大きくできて、摩耗量が増加し易いアウタ側のパッド9bのライニング14bの摩耗量を効果的に少なく抑えられる。更に、前記ロータ1の肉厚変動を抑える事ができ、ジャダーの発生を効果的に防止できる。又、前記インナ側、アウタ側両スプリング素子26a、26b同士の間で、線径を異ならせる以外にも、自由状態での形状、コイル部27の巻き数等を異ならせる事で、アウタ側のパッド9bに付与する弾力と、インナ側のパッド9aに付与する弾力を異ならせる事ができる事は言うまでもない。
尚、本発明を実施する場合に、係合突片21、21の内側面に凹溝を形成し、この凹溝内に前記各戻し部33、33を収納する事もできる。この様な構成によれば、ライニング14a、14bの摩耗量が多くなった場合にも(完全に摩耗し切るまで)、前記各戻し部33、33とロータ1の側面とが擦れ合う事を防止できる。
【0073】
[実施の形態の第2例]
図10は、請求項1〜4、8、9、11、13、15、21、22に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、上述した実施の形態の第1例の場合とは異なり、リターンスプリング16bを一本の線材を曲げ形成する事により一体に形成している。このリターンスプリング16bは、前記第1例の場合の、インナ側スプリング素子26aの内側腕部28aの先端部と、アウタ側スプリング素子26bの内側腕部28a(例えば図5参照)の先端部とを連結した如き形状を有する。具体的には、前記リターンスプリング16bは、前記ロータ1(図2等参照)を跨ぐ状態で設けられた軸方向中央部の連結腕部35と、この連結腕部35の軸方向両端部をそれぞれ連続させた一対のコイル部27a、27aと、これら各コイル部27a、27aにそれぞれの基部を連続させた外側腕部28b、28bとから構成される。これら各コイル部27a、外側腕部28bの構成は、前記第1例の場合と同様である。
【0074】
この様な構成を有するリターンスプリング16bを用いる本例の場合にも、フローティング型ディスクブレーキの組み立て作業を行う際には、前記リターンスプリング16bを、パッドクリップ15aに対して、このパッドクリップ15aの軸方向両端部に設けた拘束部24、24を利用して装着する。つまり、前記図10に示した様な、前記パッドクリップ15aと前記リターンスプリング16b(インナ側スプリング素子26a、アウタ側スプリング素子26b)との組立体を構成する。この為に、具体的には、前記リターンスプリング16bを構成する前記両外側腕部28b、28b同士を互いに近づく方向に弾性変形させた状態で、前記各コイル部27a、27aの内側に前記パッドクリップ15aに形成された突片25、25をそれぞれがたつきなく挿入した後、前記両外側腕部28b、28bを弾性復帰させる(弾性変形を解除する)。これにより、前記リターンスプリング16bを構成する一対の突き当て部31、31が、このリターンスプリング16bの弾性復元力によって、前記各拘束部24、24の内側面に弾性的に突き当てられる。言い換えれば、前記両突き当て部31、31を、これら各拘束部24、24の内側面同士の間で突っ張らせる。この状態で、前記リターンスプリング16bが前記パッドクリップ15aに対して装着される。そして、本例の場合にも、これらパッドクリップ15aとリターンスプリング16bとの組立体をサポート3(図1等参照)に組み付け、その後、このサポート3に対して両パッド9a、9b(図1等参照)を組み付ける。更に、本例の場合にも、必要に応じて、図10中に2点鎖線で示した様に、前記リターンスプリング16bを構成する連結腕部35の軸方向中間部を、周方向に関してキャリパ2(図34、35、66参照)から離れる方向に且つ径方向外方に張り出させて外れ止め片40aとする。そして、この外れ止め片40aを前記パッドクリップ15aを構成する連結部23の背面に係合させて、このパッドクリップ15aに対する前記リターンスプリング16bの外れ止めを図っても良い。この様な外れ止め片40aを設ける場合には、このリターンスプリング16bを前記パッドクリップ15aに対して傾けた状態で、前記外れ止め片40aを脚部22、22同士の間に挿入し、その後、前記リターンスプリング16bの姿勢を戻して、このリターンスプリング16bを前記パッドクリップ15aに対して組み付ける。
【0075】
以上の様な構成を有するリターンスプリング16bを使用し、上述の様な組み付け作業を行える本例の場合には、このリターンスプリング16bを一体に形成している分、前記第1例の場合の様に、別体の構造を採用した場合に比べて、部品点数の低減、及び、前記パッドクリップ15aに対する組み付け工数の低減を図れる。又、前記両コイル部27、27同士を前記連結腕部35により連結する事で、戻し部33、33を前記各パッド9a、9bに押し付ける事に伴う反力を支承する為の係止部29(図5〜8等参照)を省略できる。この為、組立作業(パッドクリップ15aとリターンスプリング16bとの装着作業)をより簡易にできる。
その他の構成及び作用効果に就いては、上述した第1例の場合と同様である。
【0076】
[実施の形態の第3例]
図11〜24は、請求項1〜4、8〜11、13、16〜18、21、22に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の特徴は、パッドクリップ15bに対するリターンスプリング16cの支持構造を、前述した実施の形態の第1例の場合とは異ならせた点にある。これらパッドクリップ15b及びリターンスプリング16cの基本的な構造に就いては、前記第1例の場合とほぼ同じである為、共通する部分の説明は省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0077】
図21〜22に示す様に、本例の場合にも、前記各パッドクリップ15bを、軸方向に離隔して設けた一対の脚部22a、22aの径方向外端部同士を、連結部23aにより連結する事により構成している。特に本例の場合には、この連結部23aに、前記各リターンスプリング16cの一部(後述する係止部29a)を係止する為の1対の係止切り欠き41、41を設けている。これら各係止切り欠き41、41は、前記連結部23aの径方向内端縁にそれぞれ開口しており、軸方向に互いに離隔する状態で設けられている。又、前記各係止切り欠き41、41の径方向に関する深さ寸法は、前記各リターンスプリング16cの線径の2倍程度であり、軸方向に関する幅寸法は、この線径よりも僅かに大きい程度である。尚、図示は省略するが、前記各係止切り欠き41、41に代えて、前記連結部23aにこの連結部23aを周方向(板厚方向)に貫通する一対の係止孔を形成し、これら各係止孔に後述する係止部29a、29aを係止する事もできる。
【0078】
又、本例の場合には、前記連結部23aに上述の様な係止切り欠き41、41を形成する代わりに、前記各脚部22a、22aの外径寄り部分で位置決め段部36、36の径方向外側面から径方向外方に折れ曲がる状態で設けられた部分を、単なる平坦面としている。即ち、本例の場合には、前記第1例及び第2例の場合の様な、突片25(図1、7等参照)を省略している。
【0079】
又、インナ側、アウタ側両パッド9a、9bを組み付ける以前の状態で、前記各リターンスプリング16cを前記各パッドクリップ15bに装着可能とすべく、これら各パッドクリップ15bの軸方向両端部に、一対の拘束部24a、24aを設けている。特に本例の場合には、これら各拘束部24a、24aを、前記各脚部22a、22aの内径寄り部分に設けられたトルク受部37、37から軸方向に関して互いに離れる方向に延出した状態で、先端寄り部分を周方向に関して反パッド9a、9b側に折り曲げる事により形成している。これにより、本例の場合には、前記各拘束部24a、24aを、前記各トルク受部37、37の内側面(係止突片21、21の周方向端面と周方向に対向する面)よりも、周方向に関して反パッド9a、9b側に設けている(オフセットさせている)。
【0080】
又、制動解除に伴って、前記各パッド9a、9bを構成するライニング14a、14bの摩擦面をロータ1(図12参照)の両側面から離隔させる為に、前記各パッド9a、9bの周方向両端部に、前記各リターンスプリング16c、16cを設けている。そして、本例の場合にも、これら各リターンスプリング16c、16cを、互いに別体である、インナ側スプリング素子26cと、アウタ側スプリング素子26dとから構成している。これら各スプリング素子26c、26dは、図23〜24に示した様に、例えばステンレス、ピアノ線等のばね鋼製の線材を曲げ形成して成る捩りコイルばねであり、径方向外端寄り部分の軸方向中間部に設けたコイル部27bに、一対の腕部28c、28d(内側腕部28c、外側腕部28d)の基部をそれぞれ連続させている。
【0081】
特に本例の場合には、前記コイル部27bの直径を、前述した実施の形態の第1例及び第2例に使用したリターンスプリング16a(16b)を構成するコイル部27(27a)の直径よりも大きくしている。これにより、前記各スプリング素子26c、26dを前記各パッドクリップ15bに対して装着した状態で、前記各コイル部27bの径方向内端部を、前記各脚部22aの径方向中間部に設けられた前記各位置決め段部36の径方向外側面に対して当接させられる様にしている。尚、本例を実施する場合に、前記各コイル部27bの巻き数は特に問わない。図23の(A)に示した様に1巻としても良いし、同図の(B)に示した様な2巻、或いはそれ以上としても良い。又、インナスプリング素子26cと、アウタ側スプリング素子26dとの間で、コイル部27bの巻き数を異ならせても良い。この場合に好ましくは、アウタ側スプリング素子26dを構成するコイル部27bの巻き数を、インナ側スプリング素子26cを構成するコイル部27bの巻き数よりも多くすると共に、アウタ側スプリング素子26dを構成する線材を、インナ側スプリング素子26cを構成する線材よりも太くして、アウタ側パッド9bに付与する戻し力を、ばね定数を大きくせずに、インナ側パッド9aに付与する戻し力よりも大きくする。
【0082】
又、前記両腕部28c、28dのうちで、軸方向に関して前記ロータ1側に向け延出した内側腕部28cの先端部は、周方向に関して前記各パッドクリップ15b側(反パッド9a、9b側)に曲げ形成して、それぞれ係止部29aとしている。そして、これら各係止部29aを、前記連結部23aに形成した各係止切り欠き41に対して、それぞれがたつきなく係止している。具体的には、前記各係止部29aを前記各係止切り欠き41に対して、径方向外方に向いた弾力を付与した状態で、且つ、軸方向に関する変位を不能に係止している。更に、前記各係止部29aの先端部を径方向外方に折り曲げる事により、当該部分に外れ止め片40bを形成している。そして、これら各外れ止め片40bを、前記連結部23aの背面に係合させて、前記各パッドクリップ15bに対する前記各リターンスプリング16cの外れ止めを図っている。
【0083】
一方、反ロータ1側に延出した外側腕部28dは、正面視略コ字形で、基端側部分から先端側部分に向かって順に、湾曲部30aと、外径側折れ曲がり部42と、突き当て部31aと、内径側折れ曲がり部43と、延出腕部32aと、戻し部33aとを有する。このうちの湾曲部30aは、四分の一円弧状で、先端側に向かう程、径方向内方に向かう方向に折れ曲がっている。又、前記外径側折れ曲がり部42は、前記湾曲部30aの内径側端部から周方向に関して反パッド9a、9b側にほぼ直角に折れ曲がる状態で設けられている。又、前記突き当て部31aは、前記各スプリング素子26c(26d)の弾性復元力によって、前記各パッドクリップ15bを構成する拘束部24a、24aのうち、前記ロータ1の側面に対向する面(内側面)に突き当てられる部分であり、直線状で、前記外径側折れ曲がり部42の内径側端部から径方向内方に垂下する状態で設けられている。又、前記内径側折れ曲がり部43は、前記突き当て部31aの内径側端部から周方向に関して前記各パッド9a、9b側に、且つ、軸方向に関して前記ロータ1側に折れ曲がる状態で設けられている。この様な構成により、前記突き当て部31aを、前記各トルク受部37、37の内側面(係止突片21、21の周方向端面と周方向に対向する面)よりも、周方向に関して反パッド9a、9b側に設けている(オフセットさせている)。
【0084】
又、前記延出腕部32aは、直線状で、前記内径側折れ曲がり部43の先端部から前記ロータ1に近づく方向に延出しており、このロータ1の中心軸と略平行に配置されている。この為、本例の場合にも、前記延出腕部32aと前記各プレッシャプレート10a、10bの周方向端縁部との干渉を防止すべく、これら各プレッシャプレート10a、10bの係合突片21、21の周方向端縁部に、凹部34(34a)を形成している。そして、これら各凹部34(34a)の内側に、前記延出腕部32aの軸方向中間部を軸方向に挿通させている。更に、前記戻し部33aは、前記延出腕部32aの先端部から、周方向に関して前記各パッドクリップ15aから離隔する方向(係止部29aとは反対側)に折れ曲がる状態で設けられており、前記各係合突片21、21の内側面に当接している。又、前記戻し部33aの径方向位置は、前記各パッド9a、9bを構成するライニング14a、14bの摩擦中心の径方向位置とほぼ一致している。
【0085】
以上の様なパッドクリップ15b及びリターンスプリング16cを有する本例の場合、フローティング型ディスクブレーキの組み立て作業を行う際には、前記各パッド9a、9bを前記サポート3に対して組み付ける以前の状態で、図19〜20に示した様に、前記リターンスプリング16cを前記パッドクリップ15bに対して装着(プリセット)する。つまり、前記図19〜20に示した様な、前記パッドクリップ15bと前記リターンスプリング16c(インナ側スプリング素子26c、アウタ側スプリング素子26d)との組立体を構成する。この為に、例えば、前記各スプリング素子26c、26dを構成する内側腕部28cの先端部に設けられた係止部29aを、前記連結部23aに形成された係止切り欠き41に挿入(係止)した状態で、前記外側腕部28bを前記内側腕部28aに向けて近づける方向に弾性変形させた後、この外側腕部28bを弾性復帰させる(弾性変形を解除する)。これにより、前記係止部29aを前記係止切り欠き41に対して、径方向外方に向いた弾力を付与した状態で、且つ、軸方向に関する変位を不能に係止すると共に、前記突き当て部31aを前記拘束部24aの内側面に対して、軸方向に関して前記ロータ1から離れる方向の弾力を付与した状態で突き当てる。又、この状態で、前記コイル部27bの内径側端部を前記各位置決め段部36の外径側側面に対して径方向内方に向け弾性的に押し付ける。この結果、本例の場合には、前記両スプリング素子26c、26d(リターンスプリング16c)が、前記パッドクリップ15bに対して、径方向及び軸方向に関する位置決めが図られた状態で装着される(前記パッドクリップ15bと前記リターンスプリング16cとの組立体が構成される)。更に、本例の場合には、前記両スプリング素子26c、26dのうちの外れ止め片40b及び突き当て部31aを、前記パッドクリップ15bの背面側に、残りの部分を正面側にそれぞれ配置している為、このパッドクリップ15bに対する前記両スプリング素子26c、26dの周方向に関する位置決めも図られる。
【0086】
以上の様にして、前記リターンスプリング16cを前記パッドクリップ15bに対して装着した後は、これらパッドクリップ15bとリターンスプリング16cとの組立体を前記サポート3に組み付け(図15〜18参照)、その後、図11〜14に示した様に、このサポート3に対して前記両パッド9a、9bを組み付ける。又、この様にしてこれら両パッド9a、9bを前記サポート3に組み付けた状態で、これら両パッド9a、9bには、前記リターンスプリング16cから未だ弾力は付与されない。
【0087】
以上の様な構成を有し、上述の様にして組み立てられる本例のフローティング型ディスクブレーキの場合にも、前述した実施の形態の第1例及び第2例の場合と同様に、前記各パッドクリップ15bの組み付け時に、これら各パッドクリップ15bと前記各リターンスプリング16cとを一体(組立体、サブアッセンブリ)として扱える。この為、これら各パッドクリップ15bとリターンスプリング16cとの組み付け作業を同時に行う事ができて、組み付け作業が容易になる。この結果、組立性の向上を図れ、組み立てコストの低減を図れる。又、前記両パッド9a、9bを組み付けた直後(未だキャリパを組み付ける以前)の状態で、これら両パッド9a、9bに弾力が付与されない為、これら両パッド9a、9bが前記サポート3から軸方向に抜け出して脱落しない様に配慮する必要もない。従って、この面から組立作業や搬送作業が面倒になる事もない。又、前記各パッドクリップ15bと前記各リターンスプリング16cとを一体(組立体)として取り扱える分、部品管理コストの低減も図れる。
【0088】
しかも、本例の場合には、前記各リターンスプリング16cを前記各パッドクリップ15bに対して装着した状態で、前記各スプリング素子26c、26dの軸方向、径方向及び周方向に関する位置決めが図られる。この為、これら各スプリング素子26c、26dの姿勢(形状)を安定させる事ができる。従って、前記各リターンスプリング16c(スプリング素子26c、26d)が前記各パッドクリップ15aから脱落したり、取付位置がずれたりする事を有効に防止できる。この結果、前記サポート3に対する前記各パッドクリップ15b及び前記各リターンスプリング16cの組み付け作業の作業性の向上を図れる。更に、これら各リターンスプリング16cにより、前記各パッド9a、9bに対して、安定した戻し力を付与する事ができる。
【0089】
更に、前記各拘束部24a、24a及び前記各突き当て部31a、31aを、前記各トルク受部37、37の内側面(係止突片21、21の周方向端面と対向する面)よりも、周方向に関して反パッド9a、9b側にオフセットさせている為、前記両パッド9a、9bの組み付け作業を、これら両パッド9a、9bを軸方向に単に平行移動させる様にして行える。この為、組み付け作業が容易で、作業効率の向上を図れる。
その他の構成及び作用効果に就いては、前記第1例の場合と同様である。
【0090】
[実施の形態の第4例]
図25〜30は、請求項1〜6、8〜10、12〜14、16、19〜22に対応する、本発明の実施の形態の第4例を示している。本例の特徴は、パッドクリップ15cに対するリターンスプリング16dの支持構造を、前述した実施の形態の第1例〜第3例の場合とは異ならせた点にある。これらパッドクリップ15c及びリターンスプリング16dの基本的な構造に就いては、前記第1例の場合とほぼ同じである為、共通する部分の説明は省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0091】
本例の場合にも、前記各パッドクリップ15cを、軸方向に離隔して設けた一対の脚部22b、22bの径方向外端部同士を、連結部23bにより連結する事により構成している。特に本例の場合には、前記各脚部22b、22bの径方向外端部に、前記リターンスプリング16dを構成するコイル部27c、27cを支持する為の折り返し部44、44を設けている。具体的には、これら各折り返し部44、44を、位置決め段部36、36の径方向外側面から径方向外方にほぼ直角に折れ曲がる状態で、その径方向中間部を周方向に関してパッド9a、9b側に略U字状に折り返す事により形成している。尚、前記折り返し部44、44の径方向内側面と前記位置決め段部36、36の径方向外側面との間の径方向に関する寸法は、前記各コイル部27cの直径よりも僅かに大きい程度としている。又、前記各折り返し部44、44の周方向に対向する両側面同士の間隔に就いては、前記各コイル部27cの厚さ寸法よりも僅かに大きい程度としている。
【0092】
又、本例の場合にも、前記各パッドクリップ15cの軸方向両端部に、一対の拘束部24b、24bを設けている。特に、本例の場合には、これら各拘束部24b、24bを、前記位置決め段部36、36の径方向外側面及び前記折り返し部44、44の径方向内端寄り部分から軸方向に関して反ロータ側に延出させた状態で、その先端部(反ロータ側端部)を周方向に関して反パッド9a、9b側に折れ曲がる様に延出させる事により形成している。この様な本例の場合にも、前記各拘束部24b、24bが、トルク受部37、37の内側面(係止突片21、21の周方向端面と対向する面)よりも、周方向に関して反パッド9a、9b側にオフセットしている。
【0093】
更に、本例の場合には、前記各脚部22b、22bを構成する位置決め段部36、36の径方向外側面に、前記リターンスプリング16dの一部(スプリング素子26e、26fの内側腕部28eの先端部)を係止する為の係止孔45、45を、径方向に貫通する状態で形成している。
【0094】
又、制動解除に伴って、パッド9a、9bを構成するライニング14a、14bの摩擦面をロータ1(図26参照)の両側面から離隔させる為に、前記各パッド9a、9bの周方向両端部に、前記各リターンスプリング16d、16dを設けている。そして、これら各リターンスプリング16d、16dを、互いに別体である、インナ側スプリング素子26eと、アウタ側スプリング素子26fとから構成している。これら各スプリング素子26e、26fは、図30に示した様に、例えばステンレス、ピアノ線等のばね鋼製の線材を曲げ形成して成る捩りコイルばねであり、径方向外端寄り部分の軸方向中間部に設けたコイル部27cに、一対の腕部28e、28fの基部をそれぞれ連続させている。
【0095】
特に本例の場合には、前記各コイル部27cを、前記各突き当て段部36の径方向外側面と前記各折り返し部44とにより囲まれる部分に、がたつきなく組み込んでいる。又、前記両腕部28e、28fのうちで、軸方向に関して前記ロータ1側に且つ径方向内方に向け延出した内側腕部28eの先端部を、軸方向に関して前記ロータ1側に曲げ形成して、それぞれ係止部46としている。そして、これら各係止部46を、前記位置決め段部36に形成した前記各係止孔45に径方向外方から係止している。又、この状態で、前記各内側腕部28eの先端寄り部分をこれら各係止孔45の開口部分に対して、軸方向に関して前記ロータ1側に向いた弾力を付与した状態で突き当てている。
【0096】
一方、反ロータ1側に延出した外側腕部28fは、正面視略L字形で、基端側部分から先端側部分に向かって順に、基端部47と、折れ曲がり部48と、延出腕部32bと、戻し部33bとを有する。このうちの基端部47は、その径方向中間部を突き当て部31bとしており、直線状である。又、この突き当て部31bは、前記各スプリング素子26e、26f(コイル部27c、27c)の弾性復元力によって、前記各パッドクリップ15cを構成する拘束部24b、24bのうちで、前記ロータ1の側面に対向する側縁部(内側縁部)に対して、軸方向に関して反ロータ1側の弾力を付与した状態で突き当てられる部分である。又、前記折れ曲がり部48は、前記基端部47の内径側端部から周方向に関して前記各パッド9a、9b側に、且つ、軸方向に関して前記ロータ1側に折れ曲がる状態で設けられている。
【0097】
又、前記延出腕部32bは、直線状で、前記折れ曲がり部48の先端部から前記ロータ1に近づく方向に延出しており、このロータ1の中心軸とほぼ平行に配置されている。この為、本例の場合にも、前記延出腕部32bと各プレッシャプレート10a、10bの周方向端縁部との干渉を防止すべく、これら各プレッシャプレート10a、10bの係合突片21、21の周方向端縁部に、凹部34(34a)を形成している。そして、これら各凹部34(34a)の内側に、前記延出腕部32bの軸方向中間部を軸方向に挿通させている。更に、前記戻し部33bは、前記延出腕部32bの先端部から、周方向に関して前記各パッドクリップ15cから離隔する方向に折れ曲がる状態で設けられており、前記各係合突片21、21の内側面に当接している。又、前記戻し部33bの径方向位置は、前記各パッド9a、9bを構成するライニング14a、14bの摩擦中心の径方向位置とほぼ一致している。
【0098】
以上の様なパッドクリップ15c及びリターンスプリング16dを有する本例の場合、フローティング型ディスクブレーキの組み立て作業を行う際には、前記各パッド9a、9bを前記サポート3に対して組み付ける以前の状態で、図29に示した様に、前記リターンスプリング16dを前記パッドクリップ15cに対して装着(プリセット)する。つまり、前記図29に示した様な、前記パッドクリップ15cと前記リターンスプリング16d(インナ側スプリング素子26e、アウタ側スプリング素子26f)との組立体を構成する。この為に例えば、前記各スプリング素子26e、26fを構成するコイル部27cを、前記各位置決め段部36の径方向外側面と前記各折り返し部44とにより囲まれる部分に組み込む。そして、前記内側腕部28eの先端部に設けられた係止部46を、前記位置決め段部36の径方向外側面に形成された係止孔45に係止した状態で、前記外側腕部28fを、前記内側腕部28eに向けて近づける方向に弾性変形させた後、この外側腕部28fを弾性復帰させる(弾性変形を解除する)。これにより、前記内側腕部28eの先端寄り部分を、前記各係止孔45の開口部分に対して、軸方向に関して前記ロータ1側に向いた弾力を付与した状態で突き当てると共に、前記突き当て部31bを、前記拘束部24bの側縁部に対して、軸方向に関して前記ロータ1から離れる方向且つ径方向外方に向いた弾力を付与した状態で突き当てる。この結果、本例の場合には、前記両スプリング素子26e、26f(リターンスプリング16d)が、前記パッドクリップ15cに対して、径方向、周方向及び軸方向に関する位置決めが図られた状態で装着される(前記パッドクリップ15cと前記リターンスプリング16dとの組立体が構成される)。
【0099】
以上の様にして、前記リターンスプリング16dを前記パッドクリップ15cに対して装着した後は、これらパッドクリップ15cとリターンスプリング16dとの組立体を前記サポート3に組み付け、その後、図25〜28に示した様に、このサポート3に対して前記両パッド9a、9bを組み付ける。又、本例の場合にも、この様にしてこれら両パッド9a、9bを前記サポート3に組み付けた状態で、これら両パッド9a、9bには、前記リターンスプリング16dから未だ弾力は付与されない。
【0100】
以上の様な構成を有し、上述の様にして組み立てられる本例のフローティング型ディスクブレーキの場合にも、前述した実施の形態の第1〜3例の場合と同様に、前記各パッドクリップ15cの組み付け時に、これら各パッドクリップ15cと前記各リターンスプリング16dとを一体(組立体、サブアッセンブリ)として扱える。この為、これら各パッドクリップ15cとリターンスプリング16dとの組み付け作業を同時に行う事ができて、組み付け作業が容易になる。この結果、組立性の向上を図れ、組み立てコストの低減を図れる。又、前記両パッド9a、9bを組み付けた直後(未だキャリパを組み付ける以前)の状態で、これら両パッド9a、9bには弾力が付与されない為、これら両パッド9a、9bが前記サポート3から軸方向に抜け出して脱落しない様に配慮する必要もない。従って、この面から組立作業や搬送作業が面倒になる事もない。又、前記各パッドクリップ15cと前記各リターンスプリング16dとを一体(組立体)として取り扱える分、部品管理コストの低減も図れる。
【0101】
しかも、本例の場合には、前記各リターンスプリング16dを前記各パッドクリップ15cに対して装着した状態で、前記各スプリング素子26e、26fの軸方向、周方向及び径方向に関する位置決めが図られる為、これら各スプリング素子26e、26fの姿勢(形状)を安定させる事ができる。従って、前記各リターンスプリング16d(スプリング素子26e、26f)が前記各パッドクリップ15cから脱落したり、取付位置がずれたりする事を有効に防止できる。この結果、前記サポート3に対する前記各パッドクリップ15c及び前記各リターンスプリング16dの組み付け作業の作業性の向上を図れる。更に、この様にサポート3に組み付けた状態で、前記各リターンスプリング16dにより、前記各パッド9a、9bに対して、安定した戻し力を付与する事ができる。又、本例のパッドクリップ15cの場合には、前記各拘束部24c、24cを、前記位置決め段部36、36の径方向外側面部分に設けている為、前述した実施の形態の第1〜3例の場合のパッドクリップ15(15a、15b)に比べて、材料コストを低く抑えられる。即ち、前記第1〜3例の場合のパッドクリップ15(15a、15b)の場合には、拘束部24、24aをトルク受部37から軸方向に関して互いに離れる方向に延出した状態で設けており、延出量が本例の場合に比べて大きくなる。この為、前記各拘束部24、24aを折り曲げ加工する以前の展開時のパッドクリップ15(15a、15b)の幅寸法が嵩む。これに対して、本例のパッドクリップ15cの場合には、展開時の幅寸法を小さく抑えられる為、材料コストを抑えられる。
その他の構成及び作用効果に就いては、前記第1例及び第3例の場合と同様である。
【0102】
[実施の形態の第5例]
図31〜33は、請求項1〜6、8〜10、12〜14、16、17、19〜22に対応する、本発明の実施の形態の第5例を示している。本例の特徴は、前述した実施の形態の第4例のパッドクリップ15cの形状を工夫した点にある。即ち、本例のパッドクリップ15dは、前記第4例のパッドクリップ15cから連結部23bを省略した如き形状を有し、それぞれが脚部22b、22bを備えた、互いに別体のインナ側クリップ素子49aとアウタ側クリップ素子49bから構成される。
【0103】
この様なパッドクリップ15dを有する本例の場合には、フローティング型ディスクブレーキの組み立て作業を行う際には、図32〜33に示す様に、前記インナ側クリップ素子49a及び前記アウタ側クリップ素子49bに対してそれぞれ、リターンスプリング16dを構成するインナ側スプリング素子26e及びアウタ側スプリング素子26fを装着(プリセット)する。つまり、前記パッドクリップ15d(インナ側クリップ素子49a、アウタ側クリップ素子49b)と前記リターンスプリング16d(インナ側スプリング素子26e、アウタ側スプリング素子26f)との組立体を構成する。そして、図31に示した様に、前記インナ側クリップ素子49aと前記インナ側スプリング素子26eとにより構成されるインナ側組立体50aと、前記アウタ側クリップ素子49bと前記アウタ側クリップ素子26fとにより構成されるアウタ側組立体50bとを、それぞれ別々に(或いは同時に)サポート3に対して組み付ける。
【0104】
以上の様な構成を有する本例の場合には、前記第4例の構造の様に、前記パッドクリップ15cを一体とした場合に比べて、パッドクリップ15d(インナ側、アウタ側クリップ素子49a、49b)を小型・軽量に構成できる。この為、前記各パッドクリップ15dの取り扱い性を向上させる事ができて、これら各パッドクリップ15dの組み付け作業性を向上できる。又、これら各パッドクリップ15dを形成する為の材料費の低減も図れる。
その他の構成及び作用効果に就いては、前述した実施の形態の第1例及び第4例の場合と同様である。
【0105】
[実施の形態の第6例]
図34〜44は、請求項1〜10、13、14、16、21、22に対応する、本発明の実施の形態の第6例を示している。本例の場合も、回入側と回出側とに設けた一対のリターンスプリング16e、16eを、それぞれインナ側スプリング素子26gとアウタ側スプリング素子26hとから構成している。又、サポート3の回入側、回出側両端部に装着した一対のパッドクリップ15e、15eにそれぞれ一対ずつ設けた各脚部22c、22cの径方向中間部に、それぞれが断面略コ字形である位置決め段部36a、36aを、周方向に関してインナ側、アウタ側各パッド9a、9bに向け突出する状態で設けている。そして、前記各位置決め段部36a、36bを、それぞれ前記サポート3の一部、即ち、前記各パッド9a、9bを保持する為、このサポート3に径方向外側が開口する状態で設けた保持部の内面の円周方向両端部に形成した凸部39a、39aに弾性的に外嵌している。そして、前記各位置決め段部36a、36aによりこれら各凸部39a、39aを、径方向両側から挟持して、前記各パッドクリップ15e、15eの径方向に関する位置決めを図っている。
【0106】
特に、本例の構造の場合には、前記各位置決め段部36a、36aによりこれら各凸部39a、39aを、軸方向全幅に亙り挟持している。即ち、前述の実施の形態の第4〜5例の場合、位置決め段部36と凸部39とは(図31参照)、この位置決め段部36の幅方向の一部にのみ折り返し形成した抑え片51{図31及び図33の(C)参照}部分でのみ挟持していた。この為、サポート3に対する各パッドクリップ15c、15dの支持剛性が必ずしも十分とは言えなくなる可能性があった。特に、図31〜33に記載した実施の形態の第5例の様に、パッドクリップをインナ側、アウタ側クリップ素子49a、49bに分割する構造の場合、インナ側、アウタ側各スプリング素子26e、26f(図25〜33参照)の、各スプリング素子26e、26fの弾力の作用方向に関する剛性が不足する可能性がある。これに対して本例の構造の場合には、前記各位置決め段部36a、36aにより前記各凸部39a、39aを、軸方向全幅に亙り挟持している(これら各部36a、39aが軸方向全幅に亙り、十分に高い面圧で当接している)為、前記剛性を十分に確保できる。
【0107】
又、本例の構造の場合には、周方向に関する前記各位置決め段部36a、36aの突出量を、同じく前記各凸部39a、39aの突出量よりも多くして、これら各位置決め段部36a、36aの先端部内面とこれら各凸部39a、39aの先端面との間に、隙間52(図42)を介在させている。そして、前記各位置決め段部36a、36aの先端部で前記各凸部39a、39aの先端面よりも突出した部分に形成した係止孔45a、45aに、前記両リターンスプリング16e、16eを構成するインナ側スプリング素子26gとアウタ側スプリング素子26hとの一端部に設けた、各係止部46a、46aを挿入している。
【0108】
本例の構造の場合には、この構成により、これら各係止部46a、46aの設置位置を、前記サポート3の周方向中央部に近づけ、周方向に関して、前記各スプリング素子26g、26hの他端部に設けた戻し部33c、33cとインナ側、アウタ側各パッド9a、9bのプレッシャプレート10a、10bとが当接する位置と、前記各係止部46a、46aの位置とをほぼ一致させている。即ち、前記各戻し部33c、33cと前記各プレッシャプレート10a、10bとは、周方向に関して或る程度の長さ範囲(図41、42中に示す鎖線αと鎖線βとの間の長さ範囲)で当接する。本例の場合、前記各係止部46a、46aの周方向位置(図41、42中に示す鎖線γ)は、この長さ範囲に存在する。即ち、図41、42に示す様に、鎖線γは、鎖線αと鎖線βとの間に位置する。従って、前記サポート3への前記各パッド9a、9bへの組み付けに伴って、前記各スプリング素子26g、26hを、それぞれの両端部に設けた戻し部33c、33cと係止部46a、46aとを互いに近づける方向に弾性変形させた場合でも、前記各スプリング素子26g、26hに、ロータの径方向の軸を中心として回動する方向のモーメントが発生する事はない。この為、前記各スプリング素子26g、26hが前記パッドクリップ15eから不用意に脱落する事を防止できる。
【0109】
又、本例の場合には、前記各戻し部33c、33cが前記各プレッシャプレート10a、10bを押圧する方向と、前記各係止部46a、46aが前記パッドクリップ15eを押圧する方向とを、何れもほぼ軸方向で、且つ、互いに逆向きとしている。この為、前記各スプリング素子26g、26hの弾力を前記両パッド9a、9bに対し、これら両パッド9a、9b同士を離隔させる方向の力として、効率良く伝達できる。この為、前記各スプリング素子26g、26hとして、例えば太い線材を使用する等により、特に大きな弾力を有するものを使用しなくても、前記両パッド9a、9bを確実に離隔させる事ができる。この為、前記各スプリング素子26g、26hの加工コストを抑えられるだけでなく、これら各スプリング素子26g、26hの組み付け作業の容易化も図れる。
【0110】
又、本例の場合には、前記パッドクリップ15eの軸方向両端部で且つ径方向外端部に、径方向外方に開口する断面略U字形の折り返し部53、53を形成している。そして、これら各折り返し部53、53に、前記各スプリング素子26g、26hを構成するコイル部27c、27cを掛け止めている(コイル部27cの内側に折り返し部53を挿入している)。この様な本例の構造の場合には、前記各係止孔45a、45aへの前記係止部46a、46aの挿入方向と、前記各折り返し部53、53への前記各コイル部27c、27cの掛け止め方向とが一致している為、前記各スプリング素子26g、26hの組み付け作業を容易に行える。尚、前記各折り返し部53、53の先端部には折り曲げ部を設ける等により、この折り返し部53、53の開口端部の幅寸法を、前記各コイル部27c、27cの幅寸法よりも小さくしている。従って、これら各コイル部27c、27cを前記各折り返し部53、53に掛け止めした状態では、これら各コイル部27c、27cがこれら各折り返し部53、53から不用意に脱落する事はない。
【0111】
更に本例の構造の場合には、軸方向に関して前記パッドクリップ15eの両端部で径方向外端部(パッドクリップ15eの肩部)に、下方が開いた鉤形の拘束部24c、24cを設けている。これら各拘束部24c、24cは、それぞれの先端部(径方向内半部で、図37〜40等の下半部)が周方向に関してパッド9a、9bに近づく方向に折れ曲がっている。又、前記各スプリング素子26g、26hのうちで、前記各コイル部27c、27cと前記各戻し部33c、33cとの間部分には、これら各コイル部27c、27cの側から順番に、その基端側部分に突き当て部59を設けた基端側直線部54と、湾曲部30bと、延出腕部32cとを設けている。そして、図44に示した様に、前記各パッドクリップ15eに対して前記各リターンスプリング16e(スプリング素子26g、26h)を装着し、前記各パッドクリップ15eと前記各リターンスプリング16eとの組立体を構成した状態で、前記各スプリング素子26g、26hの突き当て部59、59を前記各拘束部24c、24cに突き当てている。又、前記パッドクリップ15e及び前記各スプリング素子26g、26hを(パッドクリップ15eとリターンスプリング16eとの組立体を)前記サポート3に組み付けた後、前記両パッド9a、9bを組み付ける以前の状態で、図38及び図40の実線状態で示す様に、前記各スプリング素子26g、26hの突き当て部61、61を前記各拘束部24c、24cに係合させる(突き当てる)様にしている。
【0112】
前記突き当て部59、59を前記各拘束部24c、24cに係合させた状態で、これら各拘束部24c、24cは、前記各戻し部33c、33cが図38、図44に示した状態よりも互いに遠ざかる方向に変位する事を阻止すると同時に、前記両拘束部24c、24cが前記各突き当て部59、59を保持する。そして、前記各スプリング素子26g、26hのうちで前記戻し部33c、33cを除く部分が、前記ロータの周方向に関して前記サポート3の中央寄りに突出する事を防止する。この状態では、このサポート3に対して前記両パッド9a、9bを、軸方向に平行移動させて組み付ける際に、前記各スプリング素子26g、26hが干渉する事が無く、この組み付け作業を容易に行える。前記サポート3に対して前記両パッド9a、9bを組み付けるには、図41〜43に示す様に、前記両パッド9a、9bの周方向端部(係合突片21)で前記パッドクリップ15eの折れ曲がり部38を、押し潰す方向に弾性変形させつつ、この周方向端部をこのパッドクリップ15eのトルク受部37に押し込めば良い。
【0113】
この押し込み作業に伴って、これら両パッド9a、9bのプレッシャプレート10a、10bの周方向両端部が前記各戻し部33c、33cを図38に示す状態から図39に示す状態にまで、図40の実線状態から鎖線状態にまで弾性変形させつつ、前記サポート3に組み込まれる。尚、前記図36、37に示したリターンスプリング16eの形状は、前記各パッド9a、9b(及びキャリパ2)を前記サポート3に対して組み付けた状態まで弾性変形させた状態で示している。
その他の構成及び作用効果に就いては、前述した実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0114】
[実施の形態の第7例]
図45〜51は、請求項1〜10、13、14、16、17、21、22に対応する、実施の形態の第7例を示している。尚、前記図45〜51に示したリターンスプリング16e(インナ側スプリング素子26g、アウタ側スプリング素子26h)の形状は、パッド9a、9b(図1〜3等参照)をサポート3に対して組み付けた状態まで弾性変形させた状態で示している。本例の場合には、パッドクリップ15fとして、前述した実施の形態の第6例のパッドクリップ15eから連結部23cを省略した如き形状を有するものを使用している。具体的には、前記パッドクリップ15fは、それぞれが脚部22c、22cより成る、互いに別体のインナ側クリップ素子49cとアウタ側クリップ素子49dとから構成される。
【0115】
この様なパッドクリップ15fを有する本例の場合には、前記各パッド9a、9bを前記サポート3に対して組み付ける以前の状態で、前記図51に示した様に、前記インナ側クリップ素子49c及び前記アウタ側クリップ素子49dに対してそれぞれ、前記リターンスプリング16eを構成するインナ側スプリング素子26g及びアウタ側スプリング素子26hを装着(プリセット)する。つまり、前記パッドクリップ15f(インナ側クリップ素子49c、アウタ側クリップ素子49d)とリターンスプリング16e(インナ側スプリング素子26g、アウタ側スプリング素子26h)との組立体を構成する。そして、前記インナ側クリップ素子49cと前記インナ側スプリング素子26gとにより構成されるインナ側組立体50cと、前記アウタ側クリップ素子49dと前記アウタ側スプリング素子26hとにより構成されるアウタ側組立体50dとを、それぞれ別々に(或いは同時に)サポート3に対して組み付ける。
【0116】
以上の様な構成を有する本例の場合には、前記第6例の構造の様に、前記パッドクリップ15eを一体とした場合に比べて、パッドクリップ15f(インナ側、アウタ側クリップ素子49c、49d)を小型・軽量に構成できる。この為、前記各パッドクリップ15fの取り扱い性を向上させる事ができて、これら各パッドクリップ15fの組み付け作業性を向上できる。又、これら各パッドクリップ15fを形成する為の材料費の低減も図れる。
その他の構成及び作用効果に就いては、前述した実施の形態の第1例及び第6例の場合と同様である。
【0117】
[実施の形態の第8例]
図52〜58は、請求項1〜9、11、13、14、16、21、22に対応する、実施の形態の第8例を示している。尚、前記図52〜58に示したリターンスプリング16e(インナ側スプリング素子26g、アウタ側スプリング素子26h)の形状も、パッド9a、9b(図1〜3等参照)をサポート3に対して組み付けた状態まで弾性変形させた状態で示している。本例のパッドクリップ15gは、前述した実施の形態の第6例のパッドクリップ15eの拘束部24c、24cを、前述した実施の形態の第1例のパッドクリップ15aの拘束部24、24に置き換えた如き構造を有する。即ち、本例のパッドクリップ15gの拘束部24、24は、脚部22d、22dの内径寄り部分に設けられたトルク受部37、37から軸方向に関して互いに離れる方向に延出した状態で、中間部を周方向に関して前記各パッド9a、9b側に折り曲げる事により形成されている。
【0118】
この様なパッドクリップ15gを有する本例の場合にも、フローティング型ディスクブレーキの組み立て作業を行う際には、図58に示す様に、前記パッドクリップ15gに対して、リターンスプリング16eを構成するインナ側スプリング素子26g及びアウタ側スプリング素子26hをそれぞれ装着(プリセット)する。つまり、前記パッドクリップ15gと前記リターンスプリング16e(インナ側スプリング素子26g、アウタ側スプリング素子26h)との組立体を構成する。そして、図52、53等に示した様に、前記パッドクリップ15gと前記リターンスプリング16eとの組立体を、前記サポート3に対して組み付ける。
その他の構成及び作用効果に就いては、前述した実施の形態の第1例及び第6例の場合と同様である。
【0119】
[実施の形態の第9例]
図59〜65は、請求項1〜9、11、13、14、16、17、21、22に対応する、実施の形態の第9例を示している。尚、前記図59〜65に示したリターンスプリング16e(インナ側スプリング素子26g、アウタ側スプリング素子26h)の形状も、パッド9a、9b(図1〜3等参照)をサポート3に対して組み付けた状態まで弾性変形させた状態で示している。本例の場合には、パッドクリップ15hとして、前述した実施の形態の第8例のパッドクリップ15gから連結部23cを省略した如き形状を有するものを使用している。具体的には、前記パッドクリップ15hは、それぞれが脚部22d、22dより成る、互いに別体のインナ側クリップ素子49eとアウタ側クリップ素子49fとから構成される。
【0120】
この様なパッドクリップ15hを有する本例の場合には、前記各パッド9a、9bをサポート3に対して組み付ける以前の状態で、前記図65に示した様に、前記インナ側クリップ素子49e及び前記アウタ側クリップ素子49fに対してそれぞれ、リターンスプリング16eを構成するインナ側スプリング素子26g及びアウタ側スプリング素子26hを装着(プリセット)する。つまり、前記パッドクリップ15h(インナ側クリップ素子49e、アウタ側クリップ素子49f)とリターンスプリング16e(インナ側スプリング素子26g、アウタ側スプリング素子26h)との組立体を構成する。そして、前記インナ側クリップ素子49eと前記インナ側スプリング素子26gとにより構成されるインナ側組立体50eと、前記アウタ側クリップ素子49fと前記アウタ側スプリング素子26hとにより構成されるアウタ側組立体50fとを、それぞれ別々に(或いは同時に)前記サポート3に対して組み付ける。
【0121】
以上の様な構成を有する本例の場合には、前記第8例の構造の様に、前記パッドクリップ15gを一体とした場合に比べて、パッドクリップ15h(インナ側、アウタ側クリップ素子49e、49f)を小型・軽量に構成できる。この為、前記各パッドクリップ15hの取り扱い性を向上させる事ができて、これら各パッドクリップ15hの組み付け作業性を向上できる。又、これら各パッドクリップ15hを形成する為の材料費の低減も図れる。
その他の構成及び作用効果に就いては、前述した実施の形態の第1例及び第8例の場合と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0122】
上述した実施の形態の各例では、リターンスプリングをパッドクリップに対して組み付けた後(パッドクリップとリターンスプリングとの組立体を構成した後)、これらパッドクリップとリターンスプリングとを同時に、サポートに対して組み付ける組み付け方法に就いて説明した。但し、本発明を実施する場合に、パッドクリップ単体をサポートに対して組み付けた後、このパッドクリップに対してリターンスプリングを組み付ける組み付け方法も当然に実施できる。
【0123】
前記実施の形態の各例では何れも、サポートとインナ側、アウタ側両パッドとの間にパッドクリップを構成する脚部をそれぞれ配置し、制動解除時に、これら両パッドを、リターンスプリングの弾力を利用してロータから離隔させる場合に就いて説明したが、本発明はこの様な構成に限定されるものではない。即ち、サポートと一方のパッドとの間にのみパッドクリップを構成する脚部を配置し、この一方のパッドのみを、リターンスプリングの弾力を利用してロータから離隔させる事もできる。この様な構成を採用する場合には、例えば、インナ側クリップ素子(或いはアウタ側クリップ素子)とインナ側スプリング素子(或いはアウタ側スプリング素子)とから成る組立体のみを、サポートに組み付ける。これら各素子の組立体を組み付ける位置は、インナ側、アウタ側、アンカ側、反アンカ側を問わず、自由に選択できる。又、インナ側、アウタ側、アンカ側、反アンカ側に組み付ける組立体として、それぞれ異なる構成の組立体を組み付ける事もできる。
【符号の説明】
【0124】
1 ロータ
2 キャリパ
3 サポート
4 案内ピン
5 案内孔
6 ブーツ
7 回入側係合部
8 回出側係合部
9a、9b パッド
10a、10b プレッシャプレート
11 シリンダ部
12 爪部
13 ピストン
14a、14b ライニング
15、15a〜15h パッドクリップ
16、16a〜16e リターンスプリング
17、17a、17b コイル部
18 係止孔
19 突片
20 係合凹部
21 係合突片
22、22a、22b、22c、22d 脚部
23、23a、23b、23c 連結部
24、24a、24b、24c 拘束部
25 突片
26a、26c、26e、26g インナ側スプリング素子
26b、26d、26f、26h アウタ側スプリング素子
27、27a、27b、27c コイル部
28a、28c、28e 内側腕部
28b、28d、28f 外側腕部
29、29a 係止部
30、30a、30b 湾曲部
31、31a、31b 突き当て部
32、32a、32b、32c 延出腕部
33、33a、33b、33c 戻し部
34、34a 凹部
35 連結腕部
36、36a 位置決め段部
37 トルク受部
38 折れ曲がり部
39、39a 凸部
40、40a、40b 外れ止め片
41 係止切り欠き
42 外径側折れ曲がり部
43 内径側折れ曲がり部
44 折り返し部
45、45a 係止孔
46、46a 係止部
47 基端部
48 折れ曲がり部
49a、49c、49e インナ側クリップ素子
49b、49d、49f アウタ側クリップ素子
50a、50c インナ側組立体
50b、50d アウタ側組立体
51 抑え片
52 隙間
53 折り返し部
54 基端側直線部
55 コイル部
56 リターンスプリング
57 アンチラトルスプリング
58 押圧部
59 突き当て部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転するロータに隣接して車体に固定されるサポートと、このロータの軸方向両側に配置されると共に、このサポートにより軸方向への移動可能に案内された、それぞれがプレッシャプレートの表面にライニングを設けた一対のパッドと、前記サポートに支持された状態で、軸方向に変位可能なキャリパと、これら各パッドとサポートとの間に設けられてこれら各パッドがこのサポートに対してがたつく事を防止するパッドクリップと、パッドを前記ロータから離れる方向に向けて押圧するリターンスプリングとを備えたフローティング型ディスクブレーキに於いて、
前記両パッドの組み付け以前の状態で、前記リターンスプリングを前記パッドクリップに対して装着可能とすべく、このパッドクリップの一部に、このリターンスプリングの弾力を支承して、このリターンスプリングを支持する為の拘束部が設けられており、
前記パッドクリップは、前記サポートと前記パッドを構成するプレッシャプレートとの間に配置され、その一部に前記拘束部が設けられた脚部を備えており、
前記リターンスプリングは、線材を曲げ形成して成るものであり、自身の弾性復元力によって前記拘束部に突き当てられる突き当て部と、前記ロータ側に向けて延出する状態で設けられた延出腕部と、この延出腕部のロータ側の端部に設けられた戻し部と、前記パッドクリップの一部に係止されて、この戻し部を前記パッドに押し付ける事に伴う反力を支承する係止部と、これら戻し部と係止部との間に設けられて、その中心軸をほぼ前記ロータの回転方向に配置したコイル部とを備えており、
前記戻し部が、前記プレッシャプレートの周方向端部で前記ライニングの周方向端縁よりも周方向に突出した部分のうち前記ロータの側面に対向する面に当接している事を特徴とする
フローティング型ディスクブレーキ。
【請求項2】
前記コイル部の中心軸に対して直交する仮想平面のうち前記コイル部を通過する仮想平面上に少なくとも前記戻し部の一部が位置している、請求項1に記載したフローティング型ディスクブレーキ。
【請求項3】
前記コイル部と前記戻し部とが前記ロータの軸方向に関して重畳している、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載したフローティング型ディスクブレーキ。
【請求項4】
前記戻し部の径方向位置が前記パッドの摩擦中心とほぼ一致している、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載したフローティング型ディスクブレーキ。
【請求項5】
前記ロータの周方向に関して、前記戻し部と前記プレッシャプレートとが当接する位置と、前記係止部の位置とがほぼ一致している、請求項1〜4のうちの何れか1項に記載したフローティング型ディスクブレーキ。
【請求項6】
前記戻し部が前記プレッシャプレートを押圧する方向と、前記係止部が前記パッドクリップを押圧する方向とが、何れもほぼ前記ロータの軸方向で、且つ、互いに逆向きである、請求項1〜5のうちの何れか1項に記載したフローティング型ディスクブレーキ。
【請求項7】
前記パッドクリップの脚部の径方向中間部に周方向に関して前記パッド側に向け突出する状態で設けられた、断面略コ字形の位置決め段部を、前記サポートの一部に形成した凸部に弾性的に外嵌しこの凸部を挟持して、前記パッドクリップの径方向に関する位置決めを図っており、前記位置決め段部の先端部で前記凸部の先端面よりも突出した部分に形成した係止孔に前記リターンスプリングの係止部を挿入している、請求項1〜6のうちの何れか1項に記載したフローティング型ディスクブレーキ。
【請求項8】
前記プレッシャプレートの周方向端部のうちで前記戻し部を当接させる面に、この戻し部を収納可能な凹溝が形成されている、請求項1〜7のうちの何れか1項に記載したフローティング型ディスクブレーキ。
【請求項9】
前記延出腕部の軸方向中間部が、前記プレッシャプレートの周方向端縁部に形成された凹部の内側を軸方向に挿通している、請求項1〜8のうちの何れか1項に記載したフローティング型ディスクブレーキ。
【請求項10】
前記拘束部及び前記突き当て部が、前記パッドクリップのうちで前記プレッシャプレートの周方向端面と周方向に対向する面よりも、周方向に関して反パッド側にオフセットしている、請求項1〜9のうちの何れか1項に記載したフローティング型ディスクブレーキ。
【請求項11】
前記拘束部が、前記脚部のうちで前記パッドの周方向端部を周方向に弾性的に押圧する為に設けられたトルク受部から軸方向に関して反ロータ側に延出する状態で設けられている、請求項1〜10に記載したフローティング型ディスクブレーキ。
【請求項12】
前記拘束部が、前記脚部のうちで前記サポートの一部と係合してこのサポートに対する前記パッドクリップの径方向の位置決めを図る為に設けられた段部から軸方向に関して反ロータ側に延出する状態で設けられている、請求項1〜10に記載したフローティング型ディスクブレーキ。
【請求項13】
前記パッドクリップが、前記サポートと前記各パッドとの間にそれぞれ配置される一対の脚部を備えており、前記リターンスプリングが、突き当て部と、延出腕部と、戻し部と、コイル部とを、それぞれ一対ずつ備えている、請求項1〜12のうちの何れか1項に記載したフローティング型ディスクブレーキ。
【請求項14】
軸方向に関して前記パッドクリップの両端部に拘束部を設け、前記リターンスプリングの突き当て部をこれら両拘束部に突き当てた状態で、これら両拘束部がこのリターンスプリングの中間部を係止して、このリターンスプリングのうちで前記戻し部を除く部分が、前記ロータの周方向に関して前記サポートの中央寄りに突出する事を防止し、このサポートに対して前記両パッドを組み付ける際に干渉するのを防止する、請求項13に記載したフローティング型ディスクブレーキ。
【請求項15】
前記リターンスプリングが、一本の線材を曲げ形成して成るものであり、前記係止部を省略して、前記両コイル部同士を前記ロータを跨ぐ状態で設けられた連結腕部により連結している、請求項13〜14のうちの何れか1項に記載したフローティング型ディスクブレーキ。
【請求項16】
前記リターンスプリングが、互いに別体であるインナ側スプリング素子とアウタ側スプリング素子とから構成されており、これらインナ、アウタスプリング素子毎にそれぞれ、突き当て部と、延出腕部と、戻し部と、係止部と、コイル部とが設けられている、請求項13〜14のうちの何れか1項に記載したフローティング型ディスクブレーキ。
【請求項17】
前記パッドクリップが、それぞれに拘束部を備えた、互いに別体であるインナ側クリップ素子とアウタ側クリップ素子とから構成されている、請求項13〜16のうちの何れか1項に記載したフローティング型ディスクブレーキ。
【請求項18】
前記リターンスプリングが、軸方向に離隔して設けられた一対のコイル部と、これら各コイル部から軸方向に関して反ロータ側に延出する状態で設けられ、それぞれの一部に突き当て部が設けられた一対の外側腕部とを備えており、
前記パッドクリップが、一対の脚部の径方向外端部同士を、前記リターンスプリングの一部に設けられた係止部を係止可能な係止切り欠き又は係止孔を有する連結部により連結しており、前記各脚部には、前記サポートの一部と係合してこのサポートに対する前記パッドクリップの径方向に関する位置決めを図る為の段部が設けられており、
前記各外側腕部の一部に設けられた突き当て部を、前記各拘束部に対して、軸方向に関して前記ロータから離れる方向に向いた弾力を付与した状態で突き当てると共に、
前記リターンスプリングのうちで軸方向に関して前記両コイル部同士の間に設けられた係止部を、前記係止切り欠き又は係止孔に対して、径方向外方に向いた弾力を付与した状態で且つ軸方向に関する変位を不能に係止する事により、
前記各コイル部の径方向内端部を、前記各段部の径方向外側面に対して、径方向内方に向けそれぞれ弾性的に押し付けている、
請求項13〜14、16のうちの何れか1項に記載したフローティング型ディスクブレーキ。
【請求項19】
前記リターンスプリングが、それぞれがコイル部と一対の腕部とを備えた、互いに別体のインナ側スプリング素子とアウタ側スプリング素子とから構成されており、
前記パッドクリップを構成する各脚部には、前記サポートの一部と係合してこのサポートに対する前記パッドクリップの径方向に関する位置決めを図る為の段部と、この段部の径方向外側面から径方向外方にほぼ直角に折れ曲がる状態で、その径方向中間部を略U字状に折り返して成る折り返し部とが、それぞれ設けられており、
前記インナ、アウタ各スプリング素子を構成する一対の腕部のうちで、前記各コイル部から軸方向に関して反ロータ側に延出した外側腕部の一部に設けられた突き当て部を、前記各拘束部に対して、軸方向に関して前記ロータから離れる方向に向いた弾力を付与した状態で突き当てると共に、
前記各コイル部から軸方向に関してロータ側に延出した内側腕部の一部に設けられた係止部を、前記パッドクリップの一部に対して、軸方向に関して前記ロータ側に向いた弾力を付与した状態で係止し、
前記各コイル部を、前記各段部の径方向外側面と前記各折り返し部とにより囲まれる部分にそれぞれ組み込んでいる、
請求項13〜14、16〜17のうちの何れか1項に記載したフローティング型ディスクブレーキ。
【請求項20】
前記各内側腕部の先端部に設けられた係止部が、前記各段部の径方向外側面に形成した係止孔に対して係止されている、請求項19に記載したフローティング型ディスクブレーキ。
【請求項21】
請求項1〜20に記載したフローティング型ディスクブレーキの組立方法であって、前記リターンスプリングを弾性変形させた後、この弾性変形を解除する事で、このリターンスプリングの弾性復元力によって、このリターンスプリングの一部に設けられた突き当て部を前記パッドクリップの拘束部に突き当て、このリターンスプリングを前記パッドクリップに対して装着した後、これらパッドクリップとリターンスプリングとを同時に、前記サポートに組み付け、次いで、前記両パッドをこのサポートに組み付ける、フローティング型ディスクブレーキの組立方法。
【請求項22】
ディスクブレーキを構成するサポートとパッドとの間に配置される脚部と、この脚部の一部に形成された拘束部とを備えたパッドクリップと、
線材を曲げ形成して成り、コイル部と、このコイル部から延出した腕部の一部に設けられた突き当て部と、この腕部の先端部に設けられ、前記パッドの一部と当接してこのパッドを前記ロータから離れる方向に押圧する為の戻し部とを備えたリターンスプリングとから成り、
前記コイル部をその中心軸が前記脚部の表裏両面に対してほぼ垂直方向になる様に配置すると共に、前記リターンスプリング自身の弾性復元力により前記突き当て部を前記拘束部に突き当てる事で、前記パッドクリップに前記リターンスプリングを支持して成る、パッドクリップとリターンスプリングとの組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【図58】
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【図59】
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【図60】
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【図61】
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【図62】
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【図63】
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【図64】
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【図65】
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【図66】
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【図67】
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【図68】
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【公開番号】特開2012−97894(P2012−97894A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55045(P2011−55045)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】