説明

ブラシ用毛材およびブラシ

【課題】従来よりも簡単に染色することができ、染色部と非染色部とが鮮明に色分けされた視認性および意匠性の高いブラシ用毛材およびその毛材を使用したブラシの提供。
【解決手段】合成樹脂モノフィラメントのカットブリッスルからなるブラシ用毛材であって、前記合成樹脂モノフィラメントは合成樹脂(A)を鞘成分とし、合成樹脂(A)よりも易染性の合成樹脂(B)を芯成分とする芯鞘複合構造からなり、前記カットブリッスルの少なくとも一端にはテーパー部が形成され、且つ前記テーパー部の先端に現れる芯成分には染色が施されていることを特徴とするブラシ用毛材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来よりも染色しやすく、染色部と非染色部とが鮮明に色分けされた視認性および意匠性の高いブラシ用毛材およびその毛材を使用したブラシに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からブラシ用毛材には、安価で容易に加工できることから合成樹脂モノフィラメントが主に使用されている。
【0003】
特に近年では、ブラシに様々な機能が要求されてきており、ブラシに使用される毛材にも様々な形態や機能を持つものが提案されている。
【0004】
例えば、毛先にテーパー部を有する歯ブラシ用毛材(例えば、特許文献1参照)は、毛先が歯間に入りやすいために狭い部分の歯垢を落としやすく、また触感性にも優れているために歯茎へのマッサージ効果が得られるなど、従来の歯ブラシ用毛材にはない特異的な機能を発揮するものであることから、今やデンタルケア商品の主流となりつつある。
【0005】
また、最近では、毛材に着色や染色を施したデザイン性の高いブラシも市場に広まりつつある。
【0006】
特に歯ブラシは、色がその商品のイメージを決定付けると言っても過言ではなく、特に個性が求められる今日においては、広い世代のそれぞれの好みに合った豊富なカラーバリエーションが求められる商品の一つとなりつつある。
【0007】
例えば、他の歯ブラシとの商品識別が簡単にでき、かつ毛開きによる交換時期を目で確認できるように、テーパー部の全体もしくはその一部に、その他の部分とは異なる色を染色したブラシ用毛材(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【0008】
このブラシ用毛材は、アルカリ水溶液による化学的減量法を利用すれば簡単に毛先をテーパー状に加工できることから、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂から主に構成されているが、ポリエステル系樹脂は、酸性染料や塩基性染料のようなイオン性染料とは親和性を持たず、また分散染料を使用する場合も、ポリエステル系樹脂の分子構造は緻密であるために、染色液に一定時間浸漬させた後、加圧下で蒸熱処理しなければならないなど、染色方法が困難で製造コストのアップに繋がるなどの問題があった。
【0009】
また、染色液が非染色部に浸食するのを防ぐ目的で、染色前に糊などの増粘剤を付与する方法があるが、この手法を用いても非染色部に染色液が付着する場合が多々あり、染色部と非染色部とを鮮明に色分けすることは極めて難しく、美観が損なわれやすいなどの問題もあった。
【0010】
さらに、芯成分と鞘成分のそれぞれに色の異なる顔料を練り込んで溶融紡糸し、得られた芯鞘複合モノフィラメントのカットブリッスルの一端をテーパー加工したブラシ用毛材(例えば、特許文献3参照)も知られている。
【0011】
このブラシ用毛材は、テーパー加工を行なうことによって、毛先に芯成分が現れて呈色するというものであることから、染色処理を施す必要がなく、従来通りのテーパー加工で比較的簡単に製造できるなどの特長があるが、鞘の厚みが数十μmと薄いために芯成分の色が透けて糸表面に見えてしまい、染色処理した場合と同様に、毛先に現れる芯成分とそれ以外の部分とが鮮明に色分けできず、美観が損なわれやすいなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3145213号公報
【特許文献2】特開2002−223855号公報
【特許文献3】特開2002−223856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、従来よりも染色しやすく、染色部分と非染色部とが鮮明に色分けされた視認性および意匠性の高いブラシ用毛材およびその毛材を使用したブラシを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明によれば、合成樹脂モノフィラメントのカットブリッスルからなるブラシ用毛材であって、前記合成樹脂モノフィラメントは合成樹脂(A)を鞘成分とし、合成樹脂(A)よりも易染性の合成樹脂(B)を芯成分とする芯鞘複合構造からなり、前記カットブリッスルの少なくとも一端にはテーパー部が形成され、且つ前記テーパー部の先端に現れる芯成分には染色が施されていることを特徴とするブラシ用毛材、
または、合成樹脂モノフィラメントのカットブリッスルからなるブラシ用毛材であって、前記合成樹脂モノフィラメントは合成樹脂(A)を芯成分とし、合成樹脂(A)よりも易染性の合成樹脂(B)を鞘成分とする芯鞘複合構造からなり、前記カットブリッスルの少なくとも一端にはテーパー部が形成され、且つ前記鞘成分には染色が施されていることを特徴とするブラシ用毛材が提供される。
【0015】
なお、本発明においては、
前記合成樹脂(A)がポリエステル系樹脂からなり、前記合成樹脂(B)がポリアミド系樹脂からなること、
前記合成樹脂(A)および合成樹脂(B)がともにポリエステル系樹脂からなること、
前記合成樹脂(B)が、ポリプロピレンテレフタレートからなること、および
前記合成系樹脂(B)が、ポリプロピレンテレフタレート5〜95重量%とそれ以外のポリエステル系樹脂95〜5重量%との混合物からなることがさらに好ましい条件として挙げられる。
【0016】
また、本発明のブラシは、上記いずれかのブラシ用毛材を毛材の少なくとも一部に使用したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、以下に説明するとおり、従来よりも染色しやすく、染色部と非染色部とが鮮明に色分けされた視認性および意匠性の高いブラシ用毛材およびブラシを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は本発明のブラシ用毛材の第1実施例を示す拡大模式図であり、(b)および(c)はそれぞれブラシ用毛材1の線I−Iおよび線II−IIにおける断面図である。
【図2】(a)は本発明のブラシ用毛材の第2実施例を示す拡大模式図であり、(b)および(c)はそれぞれブラシ用毛材1の線I−Iおよび線II−IIにおける断面図である。
【図3】テーパー部2を有する従来のブラシ用毛材の毛先に染色を施した場合の拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を図に従って具体的に説明する。
【0020】
図1の(a)は本発明のブラシ用毛材の第1実施例を示す拡大模式図であり、1はブラシ用毛材、2はテーパー部、3はストレート部、4は染色部、5は非染色部分をそれぞれ示し、テーパー部2の先端に現れる芯成分に染色を施した場合のブラシ用毛材を示している。
【0021】
また、図1の(b)および(c)は、(a)に記すブラシ用毛材1の線I−IおよびII−IIにおける断面図であり、6は芯成分、7は鞘成分をそれぞれ示している。
【0022】
図2の(a)は本発明のブラシ用毛材の第2実施例を示す拡大模式図であり、1はブラシ用毛材、2はテーパー部、3はストレート部、4は染色部、5は非染色部をそれぞれ示し、鞘成分に染色を施した場合のブラシ用毛材を示している。
【0023】
また、図2の(b)および(c)は、(a)に記すブラシ用毛材1の線I−IおよびII−IIにおける断面図であり、6は芯成分、7は鞘成分をそれぞれ示している。
【0024】
図1および2に示すように、本発明のブラシ用毛材1は、合成樹脂モノフィラメントのカットブリッスルからなるブラシ用毛材であって、前記合成樹脂モノフィラメントは合成樹脂(A)を鞘成分7とし、合成樹脂(A)よりも易染性の合成樹脂(B)を芯成分6とする芯鞘複合構造からなり、前記カットブリッスルの少なくとも一端にはテーパー部2が形成され、且つ前記テーパー部2の先端に現れる芯成分6には染色が施されていることを特徴とするものである。
【0025】
また、本発明のブラシ用毛材1のもう1つの形態は、合成樹脂モノフィラメントのカットブリッスルからなるブラシ用毛材であって、前記合成樹脂モノフィラメントは合成樹脂(A)を芯成分6とし、合成樹脂(A)よりも易染性の合成樹脂(B)を鞘成分7とする芯鞘複合構造からなり、前記カットブリッスルの少なくとも一端にはテーパー部2が形成され、且つ前記鞘成分7には染色が施されていることを特徴とするものでもある。
【0026】
つまり、本発明のブラシ用毛材1は、芯成分または鞘成分のいずれかに易染性の合成樹脂を使用することによって、染色部を簡単に染色することができ、且つ染色部4と非染色部5とを鮮明に色分けできるという特長を持っている。
【0027】
これは、単一素材からなり、毛先にテーパー部を有する従来のブラシ用毛材では成しえない特長である。
【0028】
図3に示すように、例えば、ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと言う)のみからなり、毛先にテーパー部2を有する従来のブラシ用毛材1の場合は、染色しにくい素材のみからなるために染色に時間がかかり、染色液が非染色部5にも付着して汚れ8となりやすく、また染色部4と非染色部5とが鮮明に色分けできず、美観が損なわれやすい。
【0029】
また、図3のブラシ用毛材1がナイロンなどのポリアミド系樹脂のみからなる場合も、上記PBTより染色しやすい素材であるために、一度、染色液が非染色部5に付着すると、汚れ8となりやすく、また染色部4と非染色部5とが鮮明に色分けできず、かえって美観が損なわれやすい。
【0030】
なお、本発明で使用する合成樹脂(A)と合成樹脂(B)の組み合わせは、合成樹脂(B)が合成樹脂(A)よりも易染性の素材であれば、どのような組み合わせであっても構わないが、一例としては、合成樹脂(A)がポリエステル系樹脂、且つ合成樹脂(B)がポリアミド系樹脂の場合が挙げられる。
【0031】
つまり、鞘成分7がポリエステル系樹脂(合成樹脂(A))、且つ芯成分6がポリアミド系樹脂(合成樹脂(B))となる場合は、図1のブラシ用毛材1のように、テーパー部2の先端に現れる芯成分6がポリアミド系樹脂となり、この部分が染色部4となる。
【0032】
逆に鞘成分7がリアミド系樹脂(合成樹脂(B))、且つ芯成分6がポリエステル系樹脂(合成樹脂(A))となる場合は、図2のブラシ用毛材1のように、鞘成分7のポリアミド系樹脂が染色部4となる。
【0033】
なお、ここで使用するポリアミド系樹脂については特に限定はされないが、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン46、ナイロン56、ナイロンMDX6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6・66共重合体およびナイロン6・12共重合体、さらにはこれらの中から2種以上をブレンドしたものも挙げることができる。
【0034】
また、合成樹脂(A)がポリエステル系樹脂、且つ合成樹脂(B)がポリアミド系樹脂の場合は、両方の合成樹脂を化学的減量法で溶かしてテーパー部2を形成させる必要があるために、酸とアルカリ水溶液の両方を使用しなければならないが、合成樹脂(A)と合成樹脂(B)を共にポリエステル系樹脂とした場合は、アルカリ水溶液だけでテーパー部2を簡単に形成させることができる。
【0035】
なお、合成樹脂(A)と合成樹脂(B)が共にポリエステル系樹脂である場合においても、合成樹脂(B)は合成樹脂(A)よりも易染性の素材であることが必要であるが、この場合の組み合わせとしては、例えば、合成樹脂(A)にポリエチレンテレフタレート(以下、PETと言う)、PBT、ポリプロピレンテレフタレート(以下、PPTと言う)、ポリエチレンナフタレート、ポリメチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレートなどから選ばれた少なくとも一種のポリエステル系樹脂を選んだ場合は、合成樹脂(B)としては、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸等の脂肪族カルボン酸、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ジフェニルカルカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸あるいはプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ジメチロールヘプタン、ジメチロールペンタン、ダイマージオール等の脂肪族ジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリアルキレングリコール、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、5−リチウムスルホイソフタル酸、ナトリウムスルホナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホテレフタル酸などのスルホン酸塩基含有成分、ネオペンチルグリコール、1,2−プロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、ビスフェノールSまたはそのエチレンオキシド付加体、フルオレン誘導体などの共重合成分を添加せしめた共重合ポリエステルを選ぶことができる。
【0036】
また、PPTはポリエステル系樹脂の中でも比較的低温・常圧条件下で染色可能な素材であることから、PPTホモポリマー、PPT成分を含む共重合体、さらにはPPTとPPT以外のポリエステル系樹脂との混合物を合成樹脂(B)の主成分として使用することもできる。
【0037】
特に、合成樹脂(B)として、PPTとPPT以外のポリエステル系樹脂との混合物を選んだ場合には、PPT以外のポリエステル系樹脂を合成樹脂(A)と同じポリエステル系樹脂とすることが、芯成分6と鞘成分7とが剥離しにくく、耐久性の高いブラシ用毛材1が得られやすいことから好ましいといえる。
【0038】
この際、PPTの比率が少ないと染色されにくい傾向にあり、逆に多すぎると芯成分5と鞘成分6とが剥離し易くなる傾向にあることから、PPTを他のポリエステル系樹脂と混合して使用する場合には、PPTが5〜95重量%に対して、PPT以外のポリエステル系樹脂が95〜5重量%であることが好ましく、さらにはPPTが10〜90重量%に対して、PPT以外のポリエステル系樹脂が90〜10重量%であることが好ましい。
【0039】
なお、合成樹脂(A)および合成樹脂(B)に使用するポリエステル系樹脂には、本発明の目的や効果に影響しない範囲であれば、上記以外の共重合成分を、ジカルボン酸またはグリコールとして添加せしめても良い。
【0040】
ここで、本発明のブラシ用毛材の製造方法について説明する。
【0041】
本発明のブラシ用毛材1の製造方法については特に限定されないが、一般的な方法としては、公知の複合型溶融紡糸機を使用して合成樹脂モノフィラメントを紡糸し、そのカットブリッスルの先端を化学的減量法でテーパー加工した後に染色する方法が挙げられる。
【0042】
具体的に、図1に示すような、芯成分6がPPT、鞘成分7がPBTからなるブラシ用毛材1を製造する場合を例に挙げると、まず、PPTおよびPBTをそれぞれ複合型溶融紡糸機に供給して、溶融紡糸機内で溶融混練した後、複合口金から合成樹脂の溶融物を共押し出しする。
【0043】
引き続き、共押し出された合成樹脂の溶融物は、冷却浴中で冷却固化された後、延伸および熱セットされて、合成樹脂モノフィラメントとなる。
【0044】
そして、得られた合成樹脂モノフィラメントは必要な長さにカットされ、さらにこのカットブリッスルをアルカリ水溶液に浸漬してテーパー部を形成することにより、その片端または両端にテーパー部2を有するテーパードブリッスルとなる。
【0045】
次に、得られたテーパードブリッスルのテーパー部2の先端を染色液に浸漬して染色した後、洗浄、乾燥などを行うことにより、本発明のブラシ用毛材1が得られる。
【0046】
なお、本発明のブラシ用毛材1に使用する合成樹脂モノフィラメントの断面形状は特に限定はされず、例えば、円形以外にも、中空、扁平、正方形、半月状、三角形、5角以上の多角形、多葉状、ドックボーン状、および繭型などの形状であっても良い。
【0047】
また、本発明のブラシ用毛材1には、銀イオンを担持させたリン酸塩系、ゼオライト系、ヒドロキシアパタイト系抗菌剤のほか、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、リン酸亜鉛、硝酸亜鉛、炭酸亜鉛、酢酸亜鉛、シュウ酸亜鉛、クエン酸亜鉛、フマル産亜鉛、ギ酸亜鉛などの亜鉛化合物、ベンゼトニウム、ベンザルコニウム、セチルピリジウム、クロルヘキシジンなどのカチオン系抗菌剤、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキン、エピカテキンガレートなどの茶カテキン、アナターゼ型またはルチル型二酸化チタンなどの光触媒を使用して、抗菌性能を付与することもできる。
【0048】
さらに、本発明のブラシ用毛材1には、発明の目的や効果に影響しない範囲であれば、各種無機粒子、各種金属粒子および架橋高分子粒子などの粒子類、抗酸化剤、耐光剤、耐侯剤、イオン交換剤、着色防止剤、耐電防止剤、各種着色剤、ワックス類、シリコーンオイル、各種界面活性剤および各種強化繊維類などを適宜に添加することもできる。
【0049】
なお、非染色部5には合成樹脂(A)が使用されるが、合成樹脂(A)に顔料などの着色剤を添加することで、非染色部5にも色を付けることができ、染色部4と非染色部5との色の組み合わせが増えて、より一層バリエーションに富んだブラシ用毛材1が得られる。
【0050】
さらにまた、本発明のブラシ用毛材1のテーパー部2に現れる芯成分6の長さは、使用するブラシの用途や目的に応じて適宜選択すればよく、特に限定はされないが、染色部4と非染色部5との色の違いが鮮明で、視認性も得られ易いことから、テーパー部2の長さに対して10〜90%が好ましく、さらには20〜80%が好ましい。
【0051】
この場合、テーパー部2に現れる芯成分6の長さは、芯成分6と鞘成分7の断面積比を変更することで、容易に調整することができる。
【0052】
一方、本発明のブラシ用毛材1に使用できる染料は、合成樹脂(B)に使用する素材の種類に応じて使い分ければ良く、特に限定はされないが、例えば、アゾ染料、酸性染料、塩基性染料、蛍光増白染料、反応染料、分散染料、アイゾック染料、酸化染料などが挙げられ、さらに染色方法についても、侵染、パッド染色、スプレー染色、捺染、転写捺染など、公知の方法で処理すれば良い。
【実施例1】
【0053】
以下、本発明のブラシ用毛材について、実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0054】
なお、視認性評価は、ブラシ用毛材を植毛して歯ブラシを製作し、これを使用して評価した。歯ブラシの仕様は次の通り。
基台:ABS製(9mm×22mm)
植毛孔数:34箇
植毛本数:一つの孔につき20本
毛丈:10mm
【0055】
[染色性評価]
まず、5段階の色見本サンプル(濃染レベル:5〜淡染レベル:1)を用意した。得られたブラシ用毛を直径約50mmの束にして、その束の毛先表面(テーパー部に染色した場合)、または側面(ストレート部に染色した場合)を、色見本サンプルと比較して5段階で染色性を評価した。
【0056】
[視認性評価]
ブラシ用毛材の染色部の視認性と全体の色調について、20名のモニターに歯ブラシを次の3段階で評価してもらい、その平均値を求めた。
1:染色部と非染色部とがはっきりと色分けされており、見た目が奇麗であった、
2:染色部と非染色部との境界がややぼやけているが、見た目は奇麗であった、
3:染色部と非染色部とのがはっきりしておらず、あまり奇麗でなかった。
【0057】
[耐久性評価]
表面に凹凸を有するステンレス板に歯ブラシを垂直荷重350gで押し当て、35℃の温水をかけながらで5万回摺動させた。その後、n=5本の歯ブラシについて、毛先の状態を観察し、芯成分と鞘成分とが剥離していた割合を求め、次の4段階で評価した。
A:0〜5%以下
B:6〜15%
C:16〜20%
D:21%以上
なお、実施例および比較例においては、次の2種類の染色液を使用した。
【0058】
[染色液I]
カチオン染料(日本化薬(株)製 Kayacryl Blue GSL−ED(B−54))6%owf、酢酸0.3mL/L、硝酸ナトリウム20g/L、キャリア剤としてベンジルアルコール70g/L、分散剤として染色助剤(明成化学工業(株)製 ディスパーTL)0.5g/Lとなるように調整したものである。
【0059】
[染色液II]
20Lの純水に分散染料(三菱化成社製“DiAMIX Yellow F3G−E”)250g添加し、マイグレーション防止剤として、5Lの純水にアルギン酸ナトリウム100gを溶解したのり剤溶液を添加して製したものである。
【0060】
[実施例1]
合成樹脂(A)にPBTペレット(東レ社製 トレコン1200S)、合成樹脂(B)にナイロン6ペレット(東レ(株)製 CM1021)を原料に使用した。
【0061】
PBTが鞘成分、ナイロン610が芯成分となるように、各合成樹脂ペレットを複合溶融紡糸機に供給し、溶融紡糸機内で溶融混練した後、複合口金から合成樹脂の溶融物を共押し出しした。
【0062】
引き続き、共押し出された合成樹脂の溶融物を、冷却浴中で冷却固化した後、延伸および熱セットを行い、直径0.2mmの合成樹脂モノフィラメントを得た。
【0063】
次に、得られた合成樹脂モノフィラメントをカットし、さらにこのカットブリッスルを水酸化ナトリウム水溶液とギ酸水溶液に侵漬して化学的減量加工を行い、その一端にテーパー部を有するテーパードブリッスルを得た。
【0064】
そして、このテーパードブリッスルのテーパー部を、120℃で60分間、染色液Iに浸漬した後、ハイドロサルファイト2.0g/L、アラミジンD(第一工業製薬(株)製)2.0g/L、水酸化ナトリウム1.0g/Lからなる処理液を使用して、80℃で20分間還元洗浄し、さらに水洗と乾燥を行なうことにより、テーパー部の芯成分に染色が施されたブラシ用毛材を得た。
【0065】
[実施例2]
合成樹脂(A)にPBTペレット、合成樹脂(B)にPPTペレット(Shell Chemicals社製 CORTERRA CP513000)を原料に使用した。
【0066】
PBTが鞘成分、PPTが芯成分となるように、各合成樹脂を複合溶融紡糸機に供給し、溶融紡糸機内で溶融混練した後、複合口金から合成樹脂の溶融物を共押し出しした。
【0067】
引き続き、共押し出された合成樹脂の溶融物を、冷却浴中で冷却固化した後、延伸および熱セットを行い、直径0.2mmの合成樹脂モノフィラメントを得た。
【0068】
次に、得られた合成樹脂モノフィラメントをカットし、さらにこのカットブリッスルを水酸化ナトリウム水溶液に侵漬して化学的減量加工を行い、その一端にテーパー部を有するテーパードブリッスルを得た。
【0069】
そして、このテーパードブリッスルのテーパー部を、40℃で30分、染色液IIに浸漬した後、103℃の常圧下で蒸気処理し、さらに冷却、水洗、乾燥処理を行なって、テーパー部に現れた芯成分に染色が施されたブラシ用毛材を得た。
【0070】
[実施例3]
合成樹脂(A)にPPTペレット、合成樹脂(B)にPBTペレットを原料に使用した。
【0071】
PBTが芯成分、PPTが鞘成分となるように、各合成樹脂を複合溶融紡糸機に供給し、溶融紡糸機内で溶融混練した後、複合口金から合成樹脂の溶融物を共押し出しした。
【0072】
引き続き、共押し出された合成樹脂の溶融物を、冷却浴中で冷却固化した後、延伸および熱セットを行い、直径0.2mmの合成樹脂モノフィラメントを得た。
【0073】
次に、得られた合成樹脂モノフィラメントをカットし、さらにこのカットブリッスルをギ酸水溶液と水酸化ナトリウム水溶液に侵漬して化学的減量加工を行い、その一端にテーパー部を有するテーパードブリッスルを得た。
【0074】
そして、このテーパードブリッスルのテーパー部を、40℃で30分、染色液IIに浸漬した後、103℃の常圧下で蒸気処理し、さらに冷却、水洗、乾燥処理を行うことにより、テーパー部に現れた芯成分に染色が施されたブラシ用毛材を得た。
【0075】
[実施例4]
合成樹脂(A)に5−ナトリウムスルホイソフタル酸を含むPET共重合体、合成樹脂(B)にPBTペレットを原料に使用した。
【0076】
PBTが芯成分、PET共重合体が鞘成分となるように、各合成樹脂を複合溶融紡糸機に供給し、溶融紡糸機内で溶融混練した後、複合口金から合成樹脂の溶融物を共押し出しした。
【0077】
引き続き、共押し出された合成樹脂の溶融物を、冷却浴中で冷却固化した後、延伸および熱セットを行い、直径0.2mmの合成樹脂モノフィラメントを得た。
【0078】
次に、得られた合成樹脂モノフィラメントをカットし、さらにこのカットブリッスルをギ酸水溶液と水酸化ナトリウム水溶液に侵漬して化学的減量加工を行い、その一端にテーパー部を有するテーパードブリッスルを得た。
【0079】
そして、このテーパードブリッスルのテーパー部を、40℃で30分、染色液IIに浸漬した後、103℃の常圧下で蒸気処理し、さらに冷却、水洗、乾燥処理を行うことにより、テーパー部に現れた芯成分に染色が施されたブラシ用毛材を得た。
【0080】
[実施例5〜6]
PPTペレットの代わりに、表1に示すように、PPTペレットとPBTペレットとの混合物を使用したこと以外は、実施例実施例2と同じ方法でブラシ用毛材を得た。
【0081】
[実施例7〜8]
芯成分と鞘成分の断面積比を変えて、テーパー部に現れる芯成分の長さを表1に示すように変更したこと以外は、実施例2と同じ方法でブラシ用毛材を得た。
【0082】
[実施例9]
PBTペレットの代わりに、PBTペレット95重量%と青の顔料を含むPBTマスターバッチ(大日精化工業社製 PBTM(F)20911ブルー)5重量%との混合物を使用したこと以外は、実施例2と同じ方法でブラシ用毛材を得た。
【0083】
[比較例1]
PBTペレットを溶融紡糸機に供給し、溶融紡糸機内で溶融混練した後、口金から合成樹脂の溶融物を押し出しした。
【0084】
引き続き、押し出された合成樹脂の溶融物を、冷却浴中で冷却固化した後、延伸および熱セットを行い、PBTのみからなる直径0.2mmの合成樹脂モノフィラメントを得た。
【0085】
次に、得られた合成樹脂モノフィラメントをカットし、さらにこのカットブリッスルを水酸化ナトリウム水溶液に侵漬して化学的減量加工を行い、その一端にテーパー部を有するテーパードブリッスルを得た。
【0086】
そして、このテーパードブリッスルのテーパー部を、40℃で30分、染色液IIに浸漬した後、103℃の常圧下で蒸気処理し、さらに冷却、水洗、乾燥処理を行うことにより、テーパー部に現れた芯成分に染色が施されたブラシ用毛材を得た。
【0087】
[比較例2]
ナイロン6ペレットを溶融紡糸機に供給し、溶融紡糸機内で溶融混練した後、口金から合成樹脂の溶融物を押し出しした。
【0088】
引き続き、押し出された合成樹脂の溶融物を、冷却浴中で冷却固化した後、延伸および熱セットを行い、ナイロン6のみからなる直径0.2mmの合成樹脂モノフィラメントを得た。
【0089】
次に、得られた合成樹脂モノフィラメントをカットし、さらにこのカットブリッスルをギ酸水溶液に侵漬して化学的減量加工を行い、その一端にテーパー部を有するテーパードブリッスルを得た。
【0090】
そして、このテーパードブリッスルのテーパー部を120℃の染色液Iに60分間浸漬した後、ハイドロサルファイト2.0g/L、アラミジンD(第一工業製薬(株)製)2.0g/L、水酸化ナトリウム1.0g/Lからなる処理液を使用して、80℃で20分間還元洗浄し、さらに水洗後乾燥して、テーパー部の芯成分に染色が施されたブラシ用毛材を得た。
【0091】
上記実施例および比較例で得られたブラシ用毛材の各評価結果を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
表1に示す結果からも明らかなように、本発明のブラシ用毛材(実施例1〜9)は、従来のテーパードブリッスルに染色を施したもの(比較例1〜2)に比べて、染色部と非染色部との色分けがはっきりとしており、また染色性も至って良好で、視認性および意匠性の高いブラシ用毛材であった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のブラシ用毛材は、従来よりも染色しやすく、染色部と非染色部とが鮮明に色分けされた視認性および意匠性の高いブラシ用毛材であることから、歯ブラシ、ヘアブラシ、ボディブラシ、クリーニングブラシ、化粧ブラシ、画筆などの各種ブラシの他にも、ロールブラシ、ホイールブラシ、カップブラシ、ナイブレットブラシなどの各種工業用ブラシにも利用でき、デザイン性や商品識別性を持った付加価値の高いブラシを得ることができる。
【符号の説明】
【0095】
1 ブラシ用毛材
2 テーパー部
3 ストレート部
4 染色部分
5 非染色部分
6 芯成分
7 鞘成分
8 汚れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂モノフィラメントのカットブリッスルからなるブラシ用毛材であって、前記合成樹脂モノフィラメントは合成樹脂(A)を鞘成分とし、合成樹脂(A)よりも易染性の合成樹脂(B)を芯成分とする芯鞘複合構造からなり、前記カットブリッスルの少なくとも一端にはテーパー部が形成され、且つ前記テーパー部の先端に現れる芯成分には染色が施されていることを特徴とするブラシ用毛材。
【請求項2】
合成樹脂モノフィラメントのカットブリッスルからなるブラシ用毛材であって、前記合成樹脂モノフィラメントは合成樹脂(A)を芯成分とし、合成樹脂(A)よりも易染性の合成樹脂(B)を鞘成分とする芯鞘複合構造からなり、前記カットブリッスルの少なくとも一端にはテーパー部が形成され、且つ前記鞘成分には染色が施されていることを特徴とするブラシ用毛材。
【請求項3】
前記合成樹脂(A)がポリエステル系樹脂からなり、前記合成樹脂(B)がポリアミド系樹脂からなることを特徴とする請求項1または2に記載のブラシ用毛材。
【請求項4】
前記合成樹脂(A)および合成樹脂(B)がともにポリエステル系樹脂からなることを特徴とする請求項1または2に記載のブラシ用毛材。
【請求項5】
前記合成樹脂(B)が、ポリプロピレンテレフタレートからなることを特徴とする請求項4に記載のブラシ用毛材。
【請求項6】
前記合成系樹脂(B)が、ポリプロピレンテレフタレート5〜95重量%とそれ以外のポリエステル系樹脂95〜5重量%との混合物からなることを特徴とする請求項4に記載のブラシ用毛材。
【請求項7】
請求項1〜6に記載のブラシ用毛材を毛材の少なくとも一部に使用したことを特徴とするブラシ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−233613(P2010−233613A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82116(P2009−82116)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】