説明

ブレーキアクチユエータ

【目的】 電気信号によってブレーキ作動をおこなわせるブレーキアクチュエータに、電気的制御不能によるブレーキ力消失時においてもブレーキアクチュエータを作動できる機械式ブレーキ作動機構を組込み、ブレーキアクチュエータの安全性を向上する。
【構成】 電気的失陥が発生しレバー18が図面に垂直方向に回転すると軸19が回転しボールランプ機構17が作動しクラッチ16を接続する。更にこの状態で軸19が回転を続けるとギア14が回転し、スクリュウ9の回転により、ナット7がピストン6のシリンダ内を摺動し、ナット7が図中右方に移動し、スリーブ10がピストン底部に当たる。この状態で更にナット7が右動するとブレーキパッド2及び3がロータ4を挟みロータに制動力を付与する。

【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、車両用のブレーキアクチュエータに関するものであり、更に詳しくは、電気信号によってブレーキを作動させる所謂バイワイヤ方式のブレーキ装置に使用する安全性の高いブレーキアクチュエータに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
通常、電気信号によってブレーキを作動させる所謂バイワイヤ方式のブレーキ装置に使用するブレーキアクチュエータとしては、特開昭64−21229号に記載されたもの等が知られている。このブレーキアクチュエータは、ブレーキペダルの踏力又はストロークをセンサで検知し、センサからの出力に応じて電気制御装置から踏力或いはストロークに比例した電流をブレーキ駆動用モータに流し、これによって、ブレーキアクチュエータを作動させるようにしたものである。
【0003】
【考案が解決しようとする課題】
前記のようなバイワイヤ方式で使用するブレーキアクチュエータは、電気信号
によって種々のコントロールが可能であるため、特にアンチスキッドブレーキシステムやトラクションコントロールシステムに適合し易く、また従来のブレーキ装置に比較してブレーキ力の制御機構も簡単であるため今後その利用性が高まる可能性がある。しかし、このブレーキアクチュエータは、ブレーキペダルの踏力又はストロークを検知するセンサからの信号に基づき、ブレーキの作動力を全て電気的に制御するようにしたものであるため、即ち、従来の油圧や機械式リンクを使用した機械的なブレーキ作動機構とは異なる電気式制御機構であるため、万一センサの故障やワイヤの断線等の電気的失陥が発生するとブレーキが作動しなくなり、安全上大きな問題があった。
【0004】
こうしたことから、本考案は前記のバイワイヤ方式で使用するブレーキアクチュエータに、電気的制御不能によるブレーキ力消失時においてもブレーキアクチュエータを作動できる機械式のブレーキ作動機構を組込み、前記問題点を解決せんとするものである。またこの機械式ブレーキ作動機構を組込んだブレーキアクチュエータは駐車ブレーキとしても利用することができ、極めて有効である。
【0005】
【課題を解決するための手段】
このため本考案の第1の技術解決手段は、「ブレーキキャリパ1に摺動自在に支持されたピストン6と、前記ピストン6により押圧される第1ブレーキパッド2と、前記第1ブレーキパッド2に対向して配置されかつブレーキキャリパ1により押圧される第2ブレーキパッド3と、前記両ブレーキパッド間に配置された被制動部材と、前記ピストン6に作用的に係合するナット部材7と、前記ナット部材7に螺合しかつナット部材7をスクリュウ軸方向に移動させるべく作用するスクリュウ部材9と、このスクリュウ部材9に回転力を付与するためのモータ16とからなるブレーキアクチュエータにおいて、前記スクリュウ部材9にクラッチ機構16を介して回転軸19を設け、該回転軸19に外部から回転力が作用した時のみ、前記クラッチ機構16が接続し、前記スクリュウ部材9に回転力を付与し、前記ピストンの移動で前記両ブレーキパッド2、3によって非制動部材にブレーキ力を付与することができるようにしたこと」を特徴とするものであり、 また第2の技術解決手段は、「回転軸19に外部から回転力が作用した時のみ、前記クラッチ機構を接続するための機構として、前記クラッチ機構16と回転軸19との間にボールランプ機構17を設けたこと」を特徴とするものであり、 第3の技術解決手段は、「回転軸19にはレバーが設けられており、このレバーはサイドブレーキ装置と接続されていること」を特徴とするものであり、さらに、 第4の技術解決手段は、「ホイールシリンダに所定の油圧を発生できるようにしたブレーキアクチュエータであって、前記ブレーキアクチュエータは電子制御装置32からの信号により駆動されるモータ16と、前記モータ16の駆動によって回転するスクリュウ部材9と、前記スクリュウ部材9の回転によってシリンダ内を移動し油圧発生室20に油圧を発生するべく構成されたピストン6とからなり、前記スクリュウ部材9にクラッチ機構16を介して回転軸19を設け、該回転軸19に外部から回転力が作用した時のみ、前記クラッチ機構16が接続し、前記スクリュウ部材9に回転力を付与し、ピストン6をシリンダ内で移動させブレーキ圧を発生できるようにしたこと」を特徴とするものであり、これらを課題解決のための手段とするものである。
【0006】
【作用】
第1実施例において、ブレーキペダル30が踏まれ、センサ31がブレーキペダルの踏力を検知すると、電気制御装置32によってモータが駆動され、モータ16によりピニオン15が回転する。ピニオン15の回転によりギア14が回転し、これによってスクリュウ9が回転する。スクリュウ9の回転により、ナット7がピストン6のシリンダ内を摺動し、ナット7が図中右方に移動し、スリーブ10がピストン底部に当たる。この状態で更にナット7が右動するとブレーキパッド2及び3がロータ4を挟みロータに制動力が作用することになる。 電気的失陥が発生しレバー18が図面に垂直な平面において回転すると軸19が回転しボールランプ機構17が作動しクラッチ16を接続する。更にこの状態で軸19が回転を続けるとギア14が回転し、前述したと同様な作動でブレーキが作動する。
【0007】
第2実施例において、ブレーキペダルが踏まれ、図示しないセンサがブレーキペダルの踏力を検知すると、電子制御装置32からの信号により、モータ16が駆動され、ピニオン15、ギア14が回転し、これに伴ってスクリュウ9が回転する。スクリュウ9の回転はナット7に伝達され、ナット7は回り止め8にて回転を規制されながらスクリュウ9上を図中左方に移動する。ナット7の移動によりナット7と一体のピストン6もスプリングの付勢力に抗して図中左方に移動し、油圧発生室20内で所定の油圧を発生する。油圧発生室20内で発生した油圧は車輪に装備された図示しない既知のブレーキシリンダに供給され車輪にブレーキをかけることができる。電気的失陥が発生しレバー18が図面に垂直な平面において回転すると軸19が回転しボールランプ機構17が作動しクラッチ16を接続する。更にこの状態で軸19が回転を続けるとギア14が回転し、前述したと同様な作動でブレーキが作動する。
【0008】
【実施例】
以下、図面に基づいて本考案の実施例を説明する。
図1は本考案の実施例に係るブレーキアクチュエータの断面図である。
図1において1はフローティング式のブレーキキャリパであり、このブレーキキャリパ1は、周知の案内装置(図示せず)によりロータ4の軸方向に移動可能に支持されている。第1、第2のブレーキパッド2,3は図示しないサポートにより支持されている。ピストン6はブレーキキャリパ1の本体に形成されたシリンダ内に摺動自在に配置されており、パッド2の凸部がピストン6の凹部に係合され、ピストン6はシリンダ内で回転不能となっている。ピストン6とシリンダとの摺動部にはシール部材20及び21が設けられ外部から摺動部に埃やゴミなどが侵入するのを防いでいる。
【0009】
前記ピストン6のブレーキパッド2とは反対側の中心部にはシリンダ部が形成され、このシリンダ内にはスクリュウ部材9と螺合しているナット部材7が配置されている。ナット7はシリンダ内に摺動可能に配置されていると共に、キイ8によりシリンダ内で回転不能に設けられている。またナット7とピストン6のシリンダ底部との間には図示形状のスリーブ10とスプリング11とが配置されており、このスプリング11の作用でナット7は図中左方に押圧されている。またナット7はピストン6に固定されたストッパ12によりシリンダ内から飛び出さないようになっている。更に、図示状態の時には、前記スリーブ10とピストン底部との間には適当な間隙Sが形成されるようにしてある。
【0010】
前記ナット7にはブレーキキャリパ1に回転可能に支持されているスクリュウ9が螺合している。13はスラストベアリングである。スクリュウ9が回転するとナット7はピストンのシリンダ内をスクリュウ9に沿って摺動することになる。またスクリュウ9の端部にはギア14が固定されており、このギア14はモータ16の駆動軸に固定されたピニオン15と噛み合っている。前記モータはブレーキ踏力センサ31或いはストロークセンサからの信号に基づいて電気制御装置32によって駆動される。
【0011】
従って、ブレーキペダルが踏まれ、センサ31がブレーキペダルの踏力(または移動)を検知すると、電気制御装置32によってモータ16が駆動され、モータ16によりピニオン15が回転すると、ギア14が回転し、これによってスクリュウ9が回転する。スクリュウ9の回転により、ナット7がピストン6のシリンダ内を摺動し、ナット7が図中右方に移動するとスリーブ10がスプリング11に抗して右動し、ピストン底部に当たる。この状態で更にナット7が右動するとブレーキパッド2がロータ4の一側を押圧し、その反作用でキャリパ1が左方に動きブレーキパッド3をロータ4の他側に押圧して制動力が作用することになる。以上のようにしてこのブレーキアクチュエータでは、モータ16が作動すると車輪に制動力を作用させることができる。またブレーキの解除はモータ16を逆方向に回転させて行われる。
【0012】
ところで、前記ブレーキアクチュエータには、万一センサの故障やワイヤの断線等の電気的失陥が発生した時に備えて、機械式ブレーキ作動機構が組み込まれている。この機械式ブレーキ作動機構は、前記ギア14とハウジングとの間に配置された摩擦クラッチ機構(クラッチ)16とボールランプ機構17とから構成されている。ボールランプ機構17は一対のカムプレート17a、17bと両カムプレート17a、17bに形成されるランプ溝間に挾持される鋼球17cとからなり、その詳細は実公平2−18828号公報や特公昭60−10214号に記載されている公知ものと同様のものである。カムプレート17bと軸19とレバー18は一体的に構成されている。カムプレート17aはハウジング15に固定されている。レバー18が図面に垂直な平面内において回転すると軸19が回転しボールランプ機構17が作動しカムプレート17bが回転しながら右方へ動いてクラッチ16を接続する。更にこの状態で軸19が回転を続けるとギア14が回転し、これによってスクリュウ9が回転し、更にナット7が移動して、前述したと同様な作動でブレーキが作動する。ブレーキを緩める場合はレバーを逆方向に回転するとブレーキの解除が行われる。
【0013】
つづいて、本考案の第2実施例を図2にもとづいて説明する。
第2実施例のブレーキアクチュエータは、通常のマスタシリンダ内のピストンをモータによって移動させこれによってブレーキ圧を発生する形式のものであり、図2に示す如くブレーキアクチュエータはモータ16、前記モータ16によって回転させられるピニオン15、ギア14、ギア14に固定されているスクリュウ9、スクリュウ9に螺合しているナット7、ナット7に固定されたピストン6、ピストン6の移動によって油圧を発生する油圧発生室20、リザーバ21及びこれらの部材を効率的に収納できるハウジング15とから構成されている。ピストン6はハウジング15内に形成したシリンダ内に摺動自在に嵌入されており、このピストン6に固定されたナット7はスクリュウ軸方向の溝を有しており、この溝には回り止め8が嵌入されていて、スクリュウ9が回転してもナット7は回転しないように構成されている。またピストン6はスプリングにより常時は図中右方に付勢されている。
【0014】
従って、このブレーキアクチュエータは電子制御装置32からの信号により、モータ16が駆動されると、ピニオン15、ギア14が回転し、これに伴ってスクリュウ9が回転する。スクリュウ9の回転はナット7に伝達され、ナット7は回り止め8にて回転を規制されながらスクリュウ9上を図中左方に移動する。ナット7の移動によりナット7と一体のピストン6もスプリングの付勢力に抗して図中左方に移動し、油圧発生室20内で所定の油圧を発生する。油圧発生室20内で発生した油圧は車輪に装備されたホイールシリンダに供給され車輪にブレーキをかけることができる。モータ16が逆回転するとピストン6はスプリングの付勢力により初期状態に復帰する。以上のようにこのブレーキアクチュエータはマスタシリンダ形式を採用し、バイワイヤ方式でモータが駆動されると、車輪にブレーキをかけることができることになる。
【0015】
ところで、前記第2実施例のブレーキアクチュエータにも第1実施例と同様に、万一センサの故障やワイヤの断線等の電気的失陥が発生した時に備えて、機械式ブレーキ作動機構が組み込まれている。この機械式ブレーキ作動機構は、前記ギア14とハウジングとの間に配置されたクラッチ機構(クラッチ)16とボールランプ機構17とから構成されている。ボールランプ機構17は一対のカムプレート17a、17bと両カムプレートに形成されるランプ溝間に挾持される鋼球17cとからなり、その詳細は実公平2−18828号公報や特公昭60−10214号に記載されている公知ものと同様のものである。カムプレート17bは軸19と一体であり、カムプレート17aはハウジング15に固定されている。このレバー18が図面に垂直な平面において回転すると軸19とカムプレート17bが回転しボールランプ機構17が作動しクラッチ16を接続する。更にこの状態で軸19が回転を続けるとギア14が回転し、これによってスクリュウが回転し、更にナットが移動して、前述したと同様な作動でブレーキが作動する。
ブレーキを緩める場合はレバーを逆回転して、ブレーキの解除が行われる。
【0016】
以上詳細に述べてきたように、本考案のブレーキアクチュエータでは、通常時はブレーキバイワイヤ方式でブレーキ制御を行いながら、一旦センサの故障やワイヤの断線等の電気的失陥が発生しても、機械式ブレーキ作動機構でブレーキアクチュエータを作動させることができるため、極めて安全性の高いブレーキアクチュエータを提供することができる。
【0017】
なお、電気的失陥が発生した場合に機械的機構を作動させる方法として、例えばブレーキペダルとは異なる位置に配置された操作部材(サイドブレーキレバー等)に連動してレバーを作動できるようにして置くなど種々の実施形態が可能である。またレバーの作動でピストンを移動させる機械式機構も前述したボールランプ機構、クラッチ機構に限らずレバーの回転運動を軸方向運動に変換できる公知の機構を使用して種々の実施形態が可能である。
【0018】
【考案の効果】
以上の如く本考案によれば、バイワイヤ方式のブレーキ装置に使用しているブレーキアクチュエータに電気的制御不能によるブレーキ力消失時においてもブレーキアクチュエータを作動できる機械式ブレーキ作動機構を組込んだため、センサの故障やワイヤの断線等の電気的失陥が発生しても、機械式機構でブレーキアクチュエータを作動させることができ、極めて安全性の高いブレーキアクチュエータを得ることができる。またこの機械式機構を組込んだブレーキアクチュエータは駐車ブレーキとしても利用することができる。更に電気制御部分とブレーキアクチュエータとを一体化することによりブレーキアクチュエータを安価にかつ簡単な機構として構成することができる等々の優れた効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本考案の第1実施例としてのブレーキアクチュエータの断面図である。
【図2】本考案の第2実施例としてのブレーキアクチュエータの断面図である。
【符号の説明】
1 ブレーキキャリパ
2,3 ブレーキパッド
4 ロータ
5 回り止め
6 ピストン
7 ナット
8 キイ
9 スクリュウ
10 スリーブ
11 スプリング
12 ストッパ
13 ベアリング
14 ギア
15 ハウジング
16 クラッチ
17 ボールランプ機構
18 レバー

【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 ブレーキキャリパ1に摺動自在に支持されたピストン6と、前記ピストン6により押圧される第1ブレーキパッド2と、前記第1ブレーキパッド2に対向して配置されかつブレーキキャリパ1により押圧される第2ブレーキパッド3と、前記両ブレーキパッド間に配置された被制動部材と、前記ピストン6に作用的に係合するナット部材7と、前記ナット部材7に螺合しかつナット部材7をスクリュウ軸方向に移動させるべく作用するスクリュウ部材9と、このスクリュウ部材9に回転力を付与するためのモータ16とからなるブレーキアクチュエータにおいて、前記スクリュウ部材9にクラッチ機構16を介して回転軸19を設け、該回転軸19に外部から回転力が作用した時のみ、前記クラッチ機構16が接続し、前記スクリュウ部材9に回転力を付与し、前記ピストンの移動で前記両ブレーキパッド2、3によって非制動部材にブレーキ力を付与することができるようにしたことを特徴とするブレーキアクチュエータ。
【請求項2】 前記回転軸19に外部から回転力が作用した時のみ、前記クラッチ機構を接続するための機構として、前記クラッチ機構16と回転軸19との間にボールランプ機構17を設けたことを特徴とする請求項1に記載のブレーキアクチュエータ。
【請求項3】 前記回転軸19にはレバーが設けられており、このレバーはサイドブレーキ装置と接続されていることを特徴とする請求項1、請求項2の何れに記載のブレーキアクチュエータ。
【請求項4】 ホイールシリンダに所定の油圧を発生できるようにしたブレーキアクチュエータであって、前記ブレーキアクチュエータは電子制御装置32からの信号により駆動されるモータ16と、前記モータ16の駆動によって回転するスクリュウ部材9と、前記スクリュウ部材9の回転によってシリンダ内を移動し油圧発生室20に油圧を発生するべく構成されたピストン6とからなり、前記スクリュウ部材9にクラッチ機構16を介して回転軸19を設け、該回転軸19に外部から回転力が作用した時のみ、前記クラッチ機構16が接続し、前記スクリュウ部材9に回転力を付与し、ピストン6をシリンダ内で移動させブレーキ圧を発生できるようにしたことを特徴とするブレーキアクチュエータ。

【図2】
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【図1】
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