説明

ブレーキパッド

【課題】従来のディスクブレーキ装置用ブレーキパッドに比べ、ラトル音や、スキールノイズを抑制することのできるブレーキパッドを提供する。
【解決手段】ロータ100の半径方向長さと等しいロータ100の円周方向長さを有する複数の貫通孔48a,48bまたは、ロータ100の半径方向長さよりも長いロータ100の円周方向長さを有する複数の貫通孔48a,48bを爪部44a,44bに備えたキャリパ30に保持され、キャリパ30を保持するサポート12に制動トルクを伝達するアウタ側ブレーキパッド80であって、貫通孔48a,48bのそれぞれに遊嵌される複数の凸部88a,88bを備え、凸部88a,88bは、その正面投影形状に長軸と短軸を有し、前記長軸はロータ100の半径方向に沿い、前記短軸はロータ100の円周方向に沿っていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキパッドに係り、特にキャリパ浮動型のディスクブレーキにおいて、ロータのアウタ側に配置される爪部に保持されるブレーキパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダと、その対向面に反力受けである爪部を備えた浮動型ディスクブレーキにおいて、アウタ側ブレーキパッドを爪部により保持する構成は、特許文献1〜4に開示されているように、種々知られている。
このような構造を採るディスクブレーキ装置では、爪部とアウタ側ブレーキパッドにおける爪部対向面との間で凹凸嵌合を成すことで、ロータの円周方向、および半径方向へのブレーキパッドの移動を制限し、保持状態を確保している。具体的には、爪部に形成した凹部に、アウタ側ブレーキパッドのプレッシャプレートに形成した凸部を嵌め込むという構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−261256号公報
【特許文献2】特開平8−240232号公報
【特許文献3】特開2000−97260号公報
【特許文献4】特開2000−104764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような構造を採用するディスクブレーキ装置では、構造的な面や機能的な面から、爪部とアウタ側ブレーキパッドとを完全に嵌め合い状態とすることができない。構造的には一般に、爪側に設けられる凹部は、切削加工により形成されるため、加工精度が高い。これに対しプレッシャプレートにおける凸部の加工はエンボス加工などのプレス加工により行われる。このため、両者のピッチや寸法精度が合わず、公差に応じた嵌め合い状態を確保することは困難となる。よって、一般的に、爪部の凹部と、プレッシャプレートの凸部との間には、隙間が設けられるように設計されている。
【0005】
このような構成とされるディスクブレーキ装置では、凸部と凹部との間に隙間があるために、アウタ側ブレーキパッドがロータの半径方向、および円周方向へ移動して他の要素に接触する時に音(ラトル音や、スキールノイズ)が生じ、この音が問題視されている。
【0006】
本発明では、従来のディスクブレーキ装置用ブレーキパッドに比べ、ラトル音や、スキールノイズを抑制することのできるブレーキパッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係るブレーキパッドは、ロータの半径方向長さと等しい前記ロータの円周方向長さを有する複数の遊嵌部または、前記ロータの半径方向長さよりも長い前記ロータの円周方向長さを有する複数の遊嵌部を爪部内壁に備えたキャリパに保持され、前記キャリパを保持するサポートに制動トルクを伝達するブレーキパッドであって、前記遊嵌部のそれぞれに遊嵌される複数の凸部を備え、前記凸部は、その正面投影形状に長軸と短軸を有し、前記長軸はロータの半径方向に沿い、前記短軸はロータの円周方向に沿っていることを特徴とする。
【0008】
また、上記のような特徴を有するブレーキパッドにおいて前記遊嵌部は、ロータの円周方向に沿って2つ設けられ、2つの前記遊嵌部間の距離をL1とし、前記遊嵌部のそれぞれに遊嵌される2つの前記凸部間の距離をL2とした場合に、前記L1に対してL2が、
L1<L2
L1=L2
L1>L2
のいずれかの関係を満たすように、2つの前記凸部間の距離L2を定めるようにすると良い。
【0009】
このような特徴を有する場合において、L1<L2の関係を満たす場合には、ロータ回出側に位置する凸部が先行して遊嵌部のロータ回出側内周壁に接触し、所謂押しアンカ状態を生じさせる。その後、制動トルクが増加した場合には、キャリパに僅かに歪みが生じ、ブレーキパッドがロータ回出側へとズレる。これにより、ロータ回入側に位置する凸部も遊嵌部のロータ回出側内周壁に接触し、押し引きアンカ状態となる。
【0010】
また、L1=L2の関係を満たす場合には、ロータの回入側に位置する凸部と回出側に位置する凸部とが同時に、遊嵌部のロータ回出側内周壁に接触する。これにより、押し、引きアンカ状態が同時に生ずることとなる。
【0011】
さらに、L1>L2の関係を満たす場合には、ロータの回入側に位置する凸部が先行して遊嵌部のロータ回出側内周壁に接触し、所謂引きアンカ状態を生じさせる。その後、制動トルクが増加した場合には、キャリパの歪みと共にブレーキパッドがロータの回出側へとズレ、ロータの回出側に位置する凸部も遊嵌部のロータ回出側内周壁に接触し、引き押し(押し引き)アンカ状態を生じさせる。
【0012】
また、上記のような特徴を有するブレーキパッドでは、前記凸部の正面投影形状を楕円、長円、平行四辺形、および多角形とすることができる。このような形態であれば、凸部の正面投影形状(平面視形状)に長軸と短軸を持たせることができる。
【0013】
さらに、上記のような特徴を有するブレーキパッドでは、前記凸部の正面投影形状を平行四辺形、および多角形とした場合に、各頂点に円弧部を設けるようにすると良い。このような特徴を持たせることにより、制動トルクを受けて凸部が遊嵌部内周壁に押し付けられた際、角部に負荷される集中応力を緩和することができる。これにより、当接部材間の変形等を抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
上記のような特徴を有するブレーキパッドによれば、従来のブレーキパッドに比べ、ロータの半径方向に対するガタつきを抑制することができる。このため、従来のブレーキパッドを採用する場合に比べ、ラトル音や、スキールノイズを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態に係るブレーキパッドの構成を示す正面図である。
【図2】図1におけるA−A断面を示す図である。
【図3】実施形態に係るブレーキパッドの構成を示す背面図である。
【図4】実施形態に係るブレーキパッドを適用可能なディスクブレーキ装置の構成を示す正面図である。
【図5】実施形態に係るブレーキパッドを適用可能なディスクブレーキ装置の構成を示す右側面断面図である。
【図6】実施形態に係るブレーキパッドを適用可能なディスクブレーキ装置の構成を示す部分断面平面図である。
【図7】実施形態に係るブレーキパッドを適用可能なディスクブレーキ装置の構成を示す背面図である。
【図8】ディスクブレーキ装置を支承するサポートの構成を示す正面図である。
【図9】ディスクブレーキ装置を支承するサポートの構成を示す平面図である。
【図10】キャリパにおける遊嵌部間のピッチL1とブレーキパッドにおける凸部間のピッチL2の関係を説明するための図である。
【図11】凸部の正面投影形状を角部に円弧部を設けた矩形とした場合の例を示す図である。
【図12】凸部の正面投影形状を六角形とした場合の例を示す図である。
【図13】凸部の正面投影形状を長軸をロータの半径方向に沿って配置した平行四辺形とした場合の例を示す図である。
【図14】凸部の正面投影形状を楕円とした場合の例を示す図である。
【図15】貫通孔の形態が長円であるディスクブレーキ装置への適用例を説明するための図である。
【図16】貫通孔の形態が矩形であるディスクブレーキ装置への適用例を説明するための図である。
【図17】貫通孔がフランジ部等の爪部相当部に設けられているディスクブレーキ装置への適用例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のブレーキパッドに係る実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
まず、図4〜図9を参照して、本発明に係るブレーキパッドを適用可能なディスクブレーキ装置の基本的形態について説明する。ここで、図4は、実施形態に係るブレーキパッドを適用可能なディスクブレーキ装置の構成を示す正面図である。また、図5は、同ディスクブレーキ装置の右側面断面図である。また、図6は、同ディスクブレーキ装置の部分断面平面図である。また、図7は、同ディスクブレーキ装置の背面図である。また、図8は、ディスクブレーキ装置を支承するサポートの構成を示す正面図である。さらに、図9は、同サポートの平面図である。
【0017】
図4〜図7に示すディスクブレーキ装置10は、サポート12とキャリパ30、インナ側ブレーキパッド60、アウタ側ブレーキパッド80、およびロータ100を基本として構成される。ここで、その全容を図示しないロータ100は、車輪(不図示)と共に供回りするリング状の摩擦板であり、詳細を後述するインナ側ブレーキパッド60、およびアウタ側ブレーキパッド80により摩擦面を挟み込むことで、摺動面に摩擦力を生じさせ、車輪の回転を抑制し、制動力を得る。
【0018】
サポート12は、一対のインナ側トルク受け部14a,14bと、インナ側ブリッジ部28、ロータパス部22a,22b、および一対のアウタ側トルク受け部24a,24bを基本として構成される。
【0019】
インナ側トルク受け部14a,14b、アウタ側トルク受け部24a,24bは共に、詳細を後述するインナ側ブレーキパッド60あるいはアウタ側ブレーキパッド80による制動トルクを受け止め、制動力を生じさせる役割を担う。
インナ側トルク受け部14a,14bには、取り付け孔16と、ガイド穴18a,18b、およびトルク受け面20a,20bが形成されている。
【0020】
ガイド穴18a,18bは、詳細を後述するキャリパ30をロータ軸方向へスライドさせるためのガイドピン50a,50bを挿入可能な袋穴である。
アウタ側トルク受け部24a,24bは、トルク受け面26a,26bを有する。
【0021】
キャリパ30は、キャリパ本体32、爪部44a,44b、およびブリッジ部42を基本として構成されている。キャリパ本体32は、ロータ100のインナ側に配置され、シリンダ34、およびアーム部38a,38bを備える。シリンダ34には図5に示すように、カップ状のピストン36が配置される。
【0022】
アーム部38a,38bは、キャリパ30をサポート12へ組み付ける際の基点であり、シリンダ34の外壁を基点として、ロータ100の回入側と回出側の双方に対を成すように延設されている。アーム部38a,38bの先端部には、詳細を後述するガイドピン50a,50bを螺合するための雌ネジ孔が形成されている。ガイドピン50a,50bが、上述したガイド穴18a,18bに挿入されることで、キャリパ30の軸方向への摺動が可能となるため、サポート12におけるガイド穴18a,18bの中心ピッチと、アーム部38a,38bにおける雌ネジ孔の中心ピッチとは、両者が一致するように構成する。
ガイドピン50a,50bは、摺動部52a,52bと固定部54a,54b、およびボルト頭56a,56bを備えたピンである(図6参照)。
【0023】
爪部44a,44bは、ロータ100のアウタ側に配置され、キャリパ本体32におけるシリンダ34の対向位置を挟み込むように、ロータ100の回入側と回出側に一対設けられる反力受けである。爪部44a,44bには、詳細を後述するアウタ側ブレーキパッド80における凸部88a,88bが遊嵌される遊嵌部(凹部や貫通孔等を含む。なお、以下の説明では、特に具体例を示さない限り図示に倣い、貫通孔48a,48bと称す。)が設けられている。貫通孔48a,48bに凸部88a,88bを遊嵌させることで、アウタ側ブレーキパッド80の保持と回り止めの双方の役割を果たすことが可能となる。
ブリッジ部42は、ロータ100の外周を跨いでキャリパ本体32と爪部44a,44bを連結する連結部である。
【0024】
インナ側ブレーキパッド60は、キャリパ本体32におけるピストン36に保持されるブレーキパッドである。インナ側ブレーキパッド60は、プレッシャプレート62と、ライニング72を基本として構成される。
【0025】
このような基本構成を有するインナ側ブレーキパッド60は、図5に示すように、プレッシャプレート62に形成したバネ組付け部66に組付け用バネ74を組み付け、この組付け用バネ74をカップ状のピストン36の凹部内壁に付勢させることでキャリパ30に保持される。
【0026】
アウタ側ブレーキパッド80は、爪部44a,44bに形成された貫通孔48a,48bを基点として、蝶バネ96により保持されるブレーキパッドである。アウタ側ブレーキパッド80もインナ側ブレーキパッド60と同様に、プレッシャプレート82とライニング94を基本として構成される。図1〜図3は、アウタ側ブレーキパッドの構成を示す図面であり、図1は、本実施形態に係るアウタ側ブレーキパッドの構成を示す正面図である。また、図2は、同アウタ側ブレーキパッドのA−A断面図である。さらに、図3は、同アウタ側ブレーキパッドの背面図である。
【0027】
プレッシャプレート82は、プレート本体82aと耳部90a,90bにより構成されている。ライニング94は、プレート本体82aにおけるロータ100との対向面(以下、表面と称す)に貼付されている。一方、ライニング貼付面と反対側の面(以下、裏面と称す)には、アウタ側ブレーキパッド80を保持するための蝶バネ96を固定するための凸状のバネ組付け部86と、爪部44a,44bに形成した貫通孔48a,48bに遊嵌させる凸部88a,88bが形成されている。
【0028】
本実施形態に係るアウタ側ブレーキパッド80では、凸部88a,88bの形態を長円形状としている。具体的には、ロータ100の半径方向に沿って配される軸を長軸、円周方向に沿って配される軸を短軸とした長円としている。このような構成とすることで、爪部44a,44bに形成された円形の貫通孔48a,48bとの関係において、ロータ100の半径方向に設けられる隙間と、円周方向に設けられる隙間とを異ならせることができる。本実施形態に係る凸部88a,88bの場合、ロータ100の半径方向に設けられる隙間よりも、円周方向に設けられる隙間の方が大きくなる。このため、アウタ側ブレーキパッド80の半径方向への揺動を抑制し、ラトル音やスキールノイズ等を低減することができる。なお、バネ組付け部86や凸部88a,88bは、エンボス加工により形成することができる。また、エンボス加工によりバネ組付け部86や凸部88a,88bを形成した場合には、プレート本体82aの表面における対応位置には、バネ組付け部86や凸部88a,88bの形成位置に凹部が形成されることとなる。
【0029】
耳部90a,90bは、プレート本体82aにおけるロータ回入側端部と回出側端部のそれぞれから、回入側、回出側へ向けて延設されている。アウタ側ブレーキパッド80は、耳部90a,90bに当接面92a,92bを形成する。このため、耳部90a,90bの配置高さをロータパス部22a,22bの先端に形成されたアウタ側トルク受け部24a,24bのトルク受け面26a,26bに合わせる必要がある。よって、アウタ側ブレーキパッド80における耳部90a,90bは、ロータ100の半径方向外側に向けた傾斜を持って延設され、その回出側端部、および回入側端部をそれぞれ当接面92a,92bとしている。このため、アウタ側ブレーキパッド80における当接面92a,92bは、ロータ100の外周側、すなわちブレーキパッドの中心よりも半径方向外側に配置されることとなる。
【0030】
アウタ側ブレーキパッド80の爪部44a,44bへの組み付けは、凸部88a,88bを貫通孔48a,48bへ遊嵌させると共に、蝶バネ96を利用してアウタ側ブレーキパッド80を爪部44a,44bへ付勢させることで成す。具体的には、アウタ側ブレーキパッド80におけるプレート本体82aの裏面と、蝶バネ96との間に爪部44a,44bを挟み込むようにすれば良い。
【0031】
このような基本構成を有する本実施形態に係るブレーキパッド(アウタ側ブレーキパッド80)は、キャリパ30の爪部44a,44bにおける2つの貫通孔48a,48b間の中心ピッチをL1とし、プレート本体82aにおける2つの凸部88a,88b間の中心ピッチをL2とした場合には、次のいずれかの関係を満たすように、L1を基準としてL2を定めるようにする。すなわち、L1<L2、L1=L2、およびL1>L2のいずれかの関係である。
【0032】
このような関係において、L1<L2の関係を満たす場合には、ロータ回出側に位置する凸部88aが先行して貫通孔48aのロータ回出側内周壁に接触し、所謂押しアンカ状態を生じさせる。その後、制動トルクが増加した場合には、キャリパ30に僅かに歪みが生じ、アウタ側ブレーキパッドがロータ回出側へとズレる。これにより、ロータ回入側に位置する凸部88bも貫通孔48bのロータ回出側内周壁に接触し、押し引きアンカ状態となる。
【0033】
また、L1=L2の関係を満たす場合には、ロータ100の回入側に位置する凸部88aと回出側に位置する凸部88bとが同時に、貫通孔48a,48bそれぞれのロータ回出側内周壁に接触する。これにより、押し、引きアンカ状態が同時に生ずることとなる。
【0034】
さらに、L1>L2の関係を満たす場合には、ロータ100の回入側に位置する凸部88bが先行して貫通孔48bのロータ回出側内周壁に接触し、所謂引きアンカ状態を生じさせる。その後、制動トルクが増加した場合には、キャリパの歪みと共にアウタ側ブレーキパッド80がロータ100の回出側へとズレ、ロータ100の回出側に位置する凸部88aも貫通孔48aのロータ回出側内周壁に接触し、引き押し(押し引き)アンカ状態を生じさせる。
【0035】
なお、L1<L2の関係を満たす場合におけるL2の上限値、およびL1>L2の関係を満たす場合におけるL2の下限値は、貫通孔48a,48bと凸部88a,88bの大小比率に依存する。すなわち、無負荷状態において、2つの貫通孔48a,48bと2つの凸部88a,88bとを互いに遊嵌状態とすることができる範囲で、双方の関係におけるL2の上限値、および下限値を定めるようにすれば良い。
【0036】
次に、上記のような構成のディスクブレーキ装置10に本実施形態に係るアウタ側ブレーキパッド80を採用した場合における制動時の動作について説明する。
まず、キャリパ30におけるキャリパ本体32のシリンダ34内に作動油が供給される。作動油の供給に伴ってシリンダ34内に収容されているピストン36がロータ100側へ突出する。ピストン36が突出することにより、ピストン36に保持されたインナ側ブレーキパッド60がロータ100の摺動面へと押し付けられる。
【0037】
インナ側ブレーキパッド60がロータ100の摺動面に押し付けられると、その反力を受け、ガイドピン50a,50bを基点としてキャリパ本体32が、ロータ100と離間する方向へと移動する。キャリパ本体32の移動に伴い、ブリッジ部42で接続された爪部44a,44bは、ロータアウタ側において、ロータ100の摺動面側へと引き付けられる。ここで、爪部44a,44bには、アウタ側ブレーキパッド80が保持されているため、ロータ100は、インナ側ブレーキパッド60とアウタ側ブレーキパッド80の双方により挟持される。
【0038】
ロータ100がインナ側ブレーキパッド60とアウタ側ブレーキパッド80により挟持されると、インナ側ブレーキパッド60とアウタ側ブレーキパッド80はそれぞれロータ100との間に摩擦力を生じさせ、ロータ100と共に供回りする方向の力を受ける。そして、インナ側ブレーキパッド60とアウタ側ブレーキパッド80の双方の動きが、直接的、または間接的にサポート12により止められることで、ディスクブレーキ装置10を搭載した車両に制動力が生じる。
【0039】
本実施形態に係るアウタ側ブレーキパッド80のように、凸部88a,88bの長軸をロータ100の半径方向、短軸を円周方向とした長円とすることで、円形の貫通孔48a,48bに対し、円周方向のガタに比べて半径方向のガタを小さくすることができる。このため、アウタ側ブレーキパッド80の半径方向への揺動を抑制し、ラトル音やスキールノイズ等を低減することができる。
【0040】
上記実施形態では、アウタ側ブレーキパッド80に設ける凸部88a,88bの正面投影形状(平面視形状)を長円としていたが、凸部88a,88bの形状はこれに限らない。具体的には、図11〜図14に示すような形態であっても良い。なお、図11〜図14は、アウタ側ブレーキパッド80におけるロータ回出側の形態のみを示しているが、ロータ回入側の形態は、ロータ回出側と線対称に現れる。
【0041】
図11に示す形態は、凸部88a(88b)の正面投影形状を矩形とした上で、各頂点(角)部分を円弧状とした場合の例である。投影形状を矩形のままとした場合であっても、上記実施形態と同様な効果を得ることはできるが、角部を円弧状とすることにより、制動力が付与された際の応力集中を抑制することができる。
【0042】
また、図12に示す形態は、凸部88a(88b)の正面投影形状を六角形とした場合の例である。このように、凸部88a(88b)の正面投影形状を、角部を増やした多角形とした場合であっても、本発明の一部とみなすことができる。また、当然に、各角部を円弧状としても良い。
【0043】
また、図13に示す形態は、凸部88a(88b)の正面投影形状を平行四辺形とし、各角部を結ぶ対角線のうち、長い対角線を有する角部をロータの半径方向に沿って配置し、短い対角線をロータの円周方向に沿って配置した場合の例である。このような構成とした場合であっても、凸部88a(88b)における長軸と短軸の関係を、上記実施形態と同様とすることができ、本発明の一部とみなすことができる。
【0044】
さらに、図14に示す形態は、長円形状であった凸部88a(88b)の正面投影形状を楕円とした場合の例である。
なお、上記説明では、本発明に係るブレーキパッドを適用するディスクブレーキ装置10の爪部44a,44bに形成される貫通孔48a,48bの正面投影形状は、いずれも円形として説明した。しかしながら本発明に係るブレーキパッド(アウタ側ブレーキパッド80)は、図15、および図16に示すような形態の貫通孔を有するディスクブレーキ装置に対しても適用することができ、かつ同様な効果を発揮することができる。
【0045】
図15に示す例は、貫通孔48a(48b)を長円形状とし、ロータ100の半径方向に沿う軸を短軸とし、ロータ100の円周方向に沿う軸を長軸としている。このような構成とした場合には、上記実施形態での説明と同様に、凸部88a(88b)のロータ円周方向のガタつきに比べ、ロータ半径方向のガタつきを小さくすることができる。よって、本発明に係るブレーキパッドを適用することができる。
【0046】
また、図16に示す例は、貫通孔48a(48b)を矩形とした上で、各角部を円弧状に形成した場合の例である。このような構成の貫通孔48a(48b)を有するキャリパを備えたディスクブレーキ装置であっても、本発明に係るブレーキパッドを適用することができる。
【0047】
また、上記実施形態では、本発明に係るブレーキパッドを適用可能なディスクブレーキ装置として、爪部44a,44bに貫通孔48a,48bを設けたキャリパ30を備えたものを例に挙げて説明した。しかしながら本発明に係るブレーキパッド(アウタ側ブレーキパッド80)は、図17に示すように、爪部44a,44bの外縁側や内縁側(図17に示す例では外縁側)にフランジ部46a,46b等を設け、このように形成した爪部相当部位に貫通孔48a,48bを設けたようなものであっても適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
10………ディスクブレーキ装置、12………サポート、14a,14b………インナ側トルク受け部、16………取り付け孔、18a,18b………ガイド穴、20a,20b………トルク受け面、22a,22b………ロータパス部、24a,24b………アウタ側トルク受け部、26a,26b………トルク受け面、28………インナ側ブリッジ部、30………キャリパ、32………キャリパ本体、34………シリンダ、36………ピストン、38a,38b………アーム部、42………ブリッジ部、44a,44b………爪部、48a,48b………貫通孔、50a,50b………ガイドピン、60………インナ側ブレーキパッド、62………プレッシャプレート、66………バネ組付け部、72………ライニング、74………組付け用バネ、80………アウタ側ブレーキパッド、82………プレッシャプレート、82a………プレート本体、86………バネ組付け部、88a,88b………凸部、90a,90b………耳部、92a,92b………当接面、94………ライニング、96………蝶バネ、100………ロータ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータの半径方向長さと等しい前記ロータの円周方向長さを有する複数の遊嵌部または、前記ロータの半径方向長さよりも長い前記ロータの円周方向長さを有する複数の遊嵌部を爪部内壁に備えたキャリパに保持され、前記キャリパを保持するサポートに制動トルクを伝達するブレーキパッドであって、
前記遊嵌部のそれぞれに遊嵌される複数の凸部を備え、
前記凸部は、その正面投影形状に長軸と短軸を有し、前記長軸はロータの半径方向に沿い、前記短軸はロータの円周方向に沿っていることを特徴とするブレーキパッド。
【請求項2】
前記遊嵌部は、ロータの円周方向に沿って2つ設けられ、
2つの前記遊嵌部間の距離をL1とし、前記遊嵌部のそれぞれに遊嵌される2つの前記凸部間の距離をL2とした場合に、前記L1に対してL2が、
L1<L2
L1=L2
L1>L2
のいずれかの関係を満たすように、2つの前記凸部間の距離L2を定めたことを特徴とする請求項1に記載のブレーキパッド。
【請求項3】
前記凸部の正面投影形状を楕円、長円、平行四辺形、および多角形としたことを特徴とする請求項1または2に記載のブレーキパッド。
【請求項4】
前記凸部の正面投影形状を平行四辺形、および多角形とした場合に、各頂点に円弧部を設けたことを特徴とする請求項3に記載のブレーキパッド。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−87850(P2013−87850A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228217(P2011−228217)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】