説明

ブレーキ液圧制御装置

【課題】ブレーキ配管系をフロント左右、およびリヤの3系統とすることで、フロント液圧系の一方に失陥が生じた場合でも、残りのフロント系およびリヤ系とにより確実にブレーキ力を得ることができる安全性に優れたブレーキ液圧制御装置を提供する。
【解決手段】マスターシリンダ2で発生した液圧に比例して増圧されたアキュムレータの液圧を出力するコントロールバルブ3と、該コントロールバルブからの出力液圧によってピストンを作動させ液圧を発生できる一対の液圧伝達装置4、5を備え、前記一対の液圧伝達装置4、5は左右前輪系の独立した配管系にそれぞれ配置し、前記コントロールバルブからの出力液圧を直接後輪ホイールシリンダに供給するようにするとともに、前記一対の前輪液圧伝達装置のピストンを作動し、前記前輪液圧伝達装置で発生した液圧をそれぞれ対応する左右の前輪ホイールシリンダに供給するように構成したことを特徴とするブレーキ液圧制御装置。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、車両用ブレーキ液圧制御装置に関するものであり、更に詳細には、ブレーキ配管系をフロント左右、およびリヤの3系統とすることで、フロント液圧系の一方に失陥が生じた場合でも、残りのフロント系およびリヤ系とにより確実にブレーキ力を得ることができる安全性に優れたブレーキ液圧制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より、マスターシリンダで発生した圧力によって流路を切換え、液圧源からの液圧を液圧伝達装置に伝えることにより倍力機能を果たすブレーキ液圧制御装置が知られている(特公昭61−53265号)。
【0003】前記公報に記載された液圧ブレーキシステムについて図4を参照して簡単に説明すると、このシステムでは、ドライバーがブレーキペダル301を操作すると、マスターシリンダ302中に油圧が生起され、この圧力は、分岐管路304a、306aを通ってモジュレータシリンダ303に至り、ピストン307、308の基部に作用し、ピストン307、308を左方向へ変位せしめ、遮断弁309の円錐型端部310によって、ピストン308の孔311を閉じるとともに流路312を閉じ、室313室中にサーボ油圧を生起する。
【0004】室313に生じた液圧は遮断弁309を復帰スプリング314に力に抗して変位せしめ、その結果加圧された作動油が分配室315に流入し、さらにそこから前輪、後輪系の管路316を介して、両サーボシリンダの各々の室317へ流入する。室317中に生じた圧力は、夫々のサーボピストン318を変位せしめ、それに伴ってステム319が図中右方へ変位し、その結果各ステムの端部フランジ320が各補助ピストン321と係合し、各補助ピストン321の孔322を閉鎖する。こうして、サーボピストン318のスラストにより、各補助ピストン321が移動し室323の作動油が加圧され、マスターシリンダ302から分岐管路304a、306aを介して供給される夫々の室323中に存在する油圧が更に比例的に増加され、補助ピストン321はサーボ力を受け前輪、後輪系のブレーキが作動されることになり、ブレーキペダル301の踏力を小さくすることができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記公報に記載のブレーキ液圧制御装置は、前輪、後輪系に分割された2系統のブレーキ配管系となっているため、いずれか一系統のブレーキ系、例えば図中上方のブレーキ系(ここではフロント系とする)に失陥が発生するとフロント系はブレーキ力が働かず、左右後輪のみのブレーキ力による制動状態となり、ブレーキ力不足の状態となる。即ち、上記のようなブレーキ液圧制御装置では、2系統の配管のうち一方に失陥が生ずるとその系の左右両輪がともにブレーキ力が働かない事態となり、安全性で問題がある。また、上記ブレーキ液圧制御装置ではブレーキ系を前後輪の2系統とし、夫々のブレーキ系にサーボピストン318、ステム319等からなる倍力装置(ブースタ)を配置しているため、ブレーキ液圧制御装置が大型化するとともに、コストの低減上で不利である。
【0006】そこで、本発明は、マスターシリンダ2で発生した液圧に比例して増圧されたアキュムレータの液圧を出力するコントロールバルブ3を備え、さらにこのコントロールバルブからの出力液圧によって液圧を発生できる左右前輪用の一対の液圧伝達装置4、5を左右前輪系の独立した配管系にそれぞれ配置し、ブレーキ作動時には、後輪系では前記コントロールバルブからの出力液圧を直接後輪ホイールシリンダに供給してブレーキを作動し、また、前輪系では前記コントロールバルブからの出力液圧を前記左右前輪液圧伝達装置に作用させ前記左右前輪液圧伝達装置で発生した液圧をそれぞれ対応する前輪ホイールシリンダに供給できるようにし、これにより上記問題点を解決することを目的とする。また、コントロールバルブ(倍力装置)をマスターシリンダとは分離した構成とすることで、車両搭載性の向上を図る。本発明では、前輪系のいずれか一方に仮に失陥が発生したとしても他側の前輪のブレーキ力は維持されるためブレーキ力不足となる事態を防止することができるとともに、後輪系の液圧伝達装置を省略することで、装置の大型化、コストアップを防止することができる。
【0007】
【課題を解決するための手段】このため、本発明が採用した技術解決手段は、マスターシリンダで発生した液圧に比例して増圧されたアキュムレータの液圧を出力するコントロールバルブと、該コントロールバルブからの出力液圧によってピストンを作動させ液圧を発生できる一対の液圧伝達装置を備え、前記一対の液圧伝達装置は左右前輪系の独立した配管系にそれぞれ配置し、前記コントロールバルブからの出力液圧を直接後輪ホイールシリンダに供給するようにするとともに、前記一対の前輪液圧伝達装置のピストンを作動し、前記前輪液圧伝達装置で発生した液圧をそれぞれ対応する左右の前輪ホイールシリンダに供給するように構成したことを特徴とするブレーキ液圧制御装置、である。
【0008】
【実施の形態】以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明すると、図1は本ブレーキ液圧制御装置の全体構成図、図2は本ブレーキ液圧制御装置内に使用するコントロールバルブと液圧伝達装置の拡大断面図である。以下、本ブレーキ液圧制御装置の全体構成を説明した後、コントロールバルブ、液圧伝達装置の各構成要素の詳細説明をすることとする。
【0009】図1において、1はブレーキぺダル、Bはブレーキストロークセンサ、2はタンデムマスターシリンダ、3はコントロールバルブ、4は左前輪液圧伝達装置、5は右前輪液圧伝達装置、6は左フロントホイールシリンダ、7は右フロントホイールシリンダ、8は左右リヤホイールシリンダ、9は各車輪に対応したホールドバルブ、10は各車輪に対応したディケイバルブ、11は圧力源としてのアキュムレータ、12は圧力センサ、13は液圧ポンプ、14はリリーフ弁、15は常開型の第1切換バルブ、16は常閉型の第2切換バルブ、17は左右前輪の独立した配管系に配置される流路切換バルブ、18はリザーバ、Sは車輪速センサであり、これらは図示の如く流路によって連通されている。なお、本形態ではコントロールバルブ3、左右前輪液圧伝達装置4、5は一つの制御ユニットMとして一体に組付け構成されている。アキュムレータの圧力は常時圧力センサ12で監視されアキュムレータ11の圧力が所定範囲になるように液圧ポンプ13は制御される。
【0010】また上記各センサS、B、各切換バルブ15、16、17、ホールドバルブ9、ディケイバルブ10、液圧ポンプ13等は図中の電子制御装置(ECU)に接続され、ブレーキ作動状態(後述する)に応じて開閉、駆動制御され、また、第2切換バルブ16は作動時、電子制御装置からの信号で小刻みに開閉しアキュムレータから供給する液圧を調整できる機能をもっている。
【0011】このブレーキ液圧制御装置は、ブレーキぺダル1を操作しタンデムマスターシリンダ2に流体圧(液圧)が発生すると、この液圧によってコントロールバルブ3(詳細は後述する)が作動し、コントロールバルブ3からマスターシリンダの液圧に対して比例的に増圧された液圧が出力され、コントロールバルブ3の第1出力ポート3cより直接左右後輪のブレーキシリンダに伝えられるとともに、後述する流路を介して左右前輪液圧伝達装置4、5に伝えられ、さらに液圧伝達装置4、5の出力ポート4a、5aから流路切換バルブ17を経て左右前輪ホイールシリンダ6、7に供給されブレーキ力が働く構成となっている。
【0012】ブレーキ作動時に、車輪にロックの虞れが生じると、車輪速センサSからの信号で、電子制御装置(ECU)が流路切換バルブ17を切換え、各液圧伝達装置4、5の出力室64をフロントホイールシリンダ6、7と遮断し、左右フロントホイールシリンダ6、7と第1出力ポート3cとを連通する。なおこの時にはコントロールバルブ3、左右液圧伝達装置4、5はブレーキ作動時の状態で維持される。この状態でホールドバルブ9が閉じるとホイールシリンダ圧を保持し、ホールドバルブ9を閉じた状態でディケイバルブ10を開くとホイールシリンダ6〜8内の圧力流体がリザーバ11に還流してホイールシリンダ圧を減圧する。また、再加圧する必要がある時には、ディケイバルブ10が閉じ、ホールトバルブ9を開くと、前後輪系ともコントロールバルブ3を介してアキュムレータ11の液圧が第3入力ポート3d→コントロールバルブ3内の流路→第1出力ポート3cを経由して前後輪の各ホイールシリンダに供給され再加圧が行われる。なお、アンチロック制御中にアキュムレータ11の液圧が所定圧以下になると電子制御装置からの指令により流路切換バルブ17が図1の通常ブレーキ状態に戻る。
【0013】こうしてコントロールバルブ3を介して必要に応じてホイールシリンダ6、7、8内の液圧を保持、減圧、再加圧しながらアンチロック制御を実行する。液圧ポンプ13はアンチロック制御時のみならずアキュムレータ内の液圧が減少した場合には圧力センサ12からの信号により作動し、必要に応じてアキュムレータ13に所定圧を蓄圧できるようになっている。なお、上記アンチロック制御中の減圧時に、ホイールシリンダからの液圧はディケイバルブ10から直接リザーバに還流する構成となっているため、本実施形態では従来のようなアンチロック制御時においてブレーキ液をマスターシリンダに還流させるための液圧ポンプを不要とすることができ、装置の小型、軽量化を図ることができる。
【0014】また、車両発進時に車輪にスリップが発生した場合、あるいは車間距離の短縮により自動的にブレーキを働かせる場合、さらには旋回時の車体の安定性を確保するためにヨーモーメント制御等の自動ブレーキ制御を実行する場合には、第1切換バルブ15を閉じ、第2切換バルブ16を開き、後輪のホイールシリンダ8には直接アキュムレータ11から液圧を供給し、さらにアキュムレータ11の液圧を前後液圧伝達装置4、5に供給し、この液圧伝達装置4、5の出力室で発生した液圧を出力ポート4a、4b→流路切換バルブ17を介して左右前輪に供給し、左右前輪に対して適当なブレーキ力を働かせる。なお、この時の液圧の調整は、アンチロック制御と同様にホールドバルブ9、ディケイバルブ10を開閉しておこなう。
【0015】以下、本液圧制御装置を構成する主構成要素の詳細を説明する。
〔コントロールバルブ3〕図2において、コントロールバルブ3は、本体内にパイロットピストン20、ダイアフラムピストン21、スプールピストン22を図示の配列で備えており、夫々のピストン20〜22は本体内に形成した第1シリンダ24、第2シリンダ25、ポート部材27に形成した第3シリンダ26内に摺動自在に配置されている。ポート部材27は本体に適宜手段により固定されている。なお、ダイアフラムピストン21、スプールピストン22の夫々の受圧面積A5、A4はA5>A4となっている(図3参照)。
【0016】パイロットピストン20は第1シリンダ24内に摺動自在に配置されており、大径部20a、小径部20bからなる段付きピストンとして形成され、第1シリンダ24内に第1液室28、第2液室29および大気室30を区画している。コントロールバルブ3の第1液室28は第1入力ポート3aを介してタンデムマスターシリンダ2の第1液圧発生室2aに、また、流路31を介して左前輪液圧伝達装置4(後述する)の入力液室62に連通されており、さらに、第2液室29は第2入力ポート3bを介してタンデムマスターシリンダ2の第2液圧発生室2bに、また、流路33を介して右前輪液圧伝達装置5の入力液室62に連通している。コントロールバルブ3内の大気室30は大気に連通している。そして、パイロットピストン20は第2液室29内に配置した第1スプリング34によって通常図中右方に付勢され本体壁面に当接している。
【0017】パイロットピストン20に対向して配置するダイアフラムピストン21は本体内に形成した第2シリンダ25内に摺動自在に設けられ、端面にダイアフラム36が設けられ、ダイヤフラム36によって第2液室29と液密に区画している。ダイアフラムピストン21の図中左端面にはスプールピストン22と当接する係合突起38が形成されており、またダイアフラムピストン21の図中左側端面によって区画された液室37は、第2出力ポート3e→第1切換バルブ15を介してリザーバ18に連通されている。ダイアフラムピストン21は第2スプリング35によりスプールピストン22に向けて付勢され、係合突起38がスプールピストン22に当接している。
【0018】ダイアフラムピストン21の係合突起38に当接しているスプールピストン22は本体に固定されているポート部材27内の第3シリンダ26内に摺動自在に配置され、スプールピストン22中心部に流路42が形成されこの流路42がスプールピストン22の外周に形成した溝41に連通している。この溝41は、非作動時にはポート部材27の第1通路39、第2出力ポート3e、第1切換バルブ15を介してリザーバ18に連通しており、スプールピストン22が図示状態より左方に移動すると(即ち作動時には)ポート部材27内の第2通路40、第3入力ポート3dを介してアキュムレータ11に連通する。なお、溝41の幅Lはポート部材27に形成した第1通路39と第2通路40の間の距離よりも若干小さく設定してあり、このため、スプールピストン22の中心部の流路42がポート部材27側の第1通路39と連通している状態から、スプールピストン22が移動して溝41がポート部材27側の第2通路40と連通状態に切り換わる際に、若干のタイムラグが生じるようにしてある。また、スプールピストン22は復帰スプリング43の付勢力によって図中右端面で本体壁面によって位置決めがなされている。なお上述の復帰スプリング43と第2スプリング35との荷重関係は、復帰スプリング43>第2スプリング35となっている。
【0019】スプールピストン22中心部の流路42はブースト室46→第1出力ポート3c→第2切換バルブ16を介してアキュムレータ11に、またブースト室46は流路切換バルブ17を介して左右前輪側のホールドバルブ9に接続しているとともに、直接後輪系のホールドバルブ9に接続している。また流路45を介して後述する左右前輪液圧伝達装置4、5の圧力導入室63に連通している。このため、このコントロールバルブ3では、非作動時にはブースト室46はスプールピストン22の中心部の流路42→スプールピストンの溝41→ポート部材27側の第1通路39→第2出力ポート3e→常開型第1切換バルブ15を介してリザーバ18に連通しており、さらにブースト室46は常閉型第2切換弁16によりアキュムレータと遮断されているため、ブースト室46は無圧状態となっている。したがって、後輪のホイールシリンダ8には液圧は発生せず、さらに前輪液圧伝達装置4、5の圧力導入室63にも液圧が作用しないため前輪ホイールシリンダ6、7にも液圧は発生していない。上記コントロールバルブ3では、パイロットピストン20の両端面にマスタシリンダからの液圧が同時に作用するように構成されているが、第1液圧発生室2aおよび第2液圧発生室2bのいづれか一方が失陥しても同様のブレーキ作用を実現することができる。
【0020】〔液圧伝達装置4、5〕左右前輪用の各液圧伝達装置4、5は共に同じ構造、機能を有しているため、ここでは左前輪側の液圧伝達装置4について図2を参照して説明する。図2において液圧伝達装置4は、第1ピストン51、第2ピストン52、第3ピストン53を図示の配列で本体内に摺動自在に備えており、第2ピストン52の図中右方中心部には、第1ピストン51の小径部51aが摺動自在に嵌合しており、第1ピストン51は本体内に入力液室62を区画しており、第1ピストン51、第2ピストン52の間には液室58が形成され、また第2ピストン52の外周には第3ピストン53が図示の如く嵌合しており、第2ピストン52と第3ピストン53の図中左側に出力室64を区画するとともに、第2ピストン52と第3ピストン53との間に液室65を区画している。この液室65は第2ピストン52内に形成した通路57および第1ピストンに形成した通路58aを介して第1ピストン51と第2ピストン52との間に形成した液室58に連通している。また第2ピストン52と第3ピストン53は隙間Sをもって対向して配置されている。さらに、第2ピストン52と本体との間には圧力導入室63が区画されており、圧力導入室63はコントロールバルブ3のブースト室46に流路45を介して図示の如く連通している。
【0021】液圧伝達装置4の入力液室62は、コントロールバルブ3の第1液室28(常時マスターシリンダの第1液圧発生室2aと連通している)に連通しており、また後述するポペットバルブ59の通路59aを介して液圧伝達装置内の出力室64と連通している。ポペットバルブ59はポペットスプリング60によってその突起59bが第1ピストン51と当接すべく付勢されており、ポペットバルブ59は非作動時には図示の如く通路59aを開いて入力液室62と出力室64とを連通している。また第1ピストン51が図中左方に移動すると、ポペットバルブ59はポペットスプリング60の付勢力によって図中左方に移動し弁体61により入力液室62と出力室64との連通を遮断する。
【0022】出力室64内にはスプリング55が配置されており、このスプリング55の付勢力Fによって後述するスプリングホルダ54、第2ピストン52、第1ピストン51が図中右方に付勢されており、第1ピストン51が本体に突き当たっている。また、第2ピストン52と第3ピストン53との間にはスプリングホルダ54を介してスプリング56が配置され、スプリング55の付勢力Fに対抗する付勢力fを発揮すべく構成されており、第3ピストン53はスプリングホルダ54がスプリング55によって図中右方向に押されているため、スプリング56の付勢力によって本体側に形成したストッパ66に当接している。
【0023】なお、上述のポペットスプリング60、各スプリング55、56の荷重関係は、ポペットスプリング60+スプリング56<スプリング55となっている。また第1ピストン51の受圧面積はA1、第2ピストン52の環状受圧面積はA2、第3ピストン53の受圧面積と第2ピストン52の図中左端面の受圧面積との和はA3として形成されており、先述したスプリング55、56のバネ力をF、f、マスターシリンダの液圧をPm、受圧面積A2に作用する液圧導入室63側の液圧をPr、受圧面積A3に作用する出力室64側の液圧(出力液圧)をPfとすると、通路59aが閉じられた後におけるバランス式は、f+Pm・A1+Pr・A2=Pf・A3+Fの関係となり、この式から、Pr、Pfが適切な関係となるように、受圧面積、スプリング力を設定する。左右前輪液圧伝達装置4、5の出力室64はポート4a、5aを介してそれぞれ流路切換バルブ17に連通している。液圧伝達装置4は、非作動時、ポペットバルブ59は図示状態を維持し、通路59aを開いている。
【0024】〔ホイールシリンダおよびディケイバルブ、ホールドバルブ〕ディケイバルブ9およびホールドバルブ10からなる制御弁装置は従来の還流型アンチロック制御装置と同じ構成であり、ディケイバルブおよびホールドバルブの開閉は、図1に示す電子制御装置(ECU)からの指令によっておこなう。このホールドバルブ9、ディケイバルブ10はアンチロック制御の時のみでなく、後述する作動の項において説明するように、トラクション制御、ヨーモーメント制御等の自動ブレーキ時にも電子制御装置からの指令により開閉し、ブレーキ圧の調整を実行する。また電子制御装置は上記したセンサの外に必要に応じて他のセンサ等から情報を採り入れ、各バルブを開閉制御することも可能である。
【0025】以上のように構成されたブレーキ液圧制御装置の作動を説明する。
〔非作動時〕ブレーキぺダル1が開放されタンデムマスターシリンダ2に液圧が発生していない時には、コントロールバルブ3内の第1、第2液室28、29に液圧が発生しないためコントロールバルブ3は作動せず、図2の状態を維持している。この結果、アキュムレータ11からの圧力流体はコントロールバルブ3内のスプールピストン22に依って遮断され、また、液圧伝達装置の入力液室62および圧力導入室63内は無圧であるためホイールシリンダには液圧が発生しない。
【0026】〔作動時〕運転者がブレーキぺダル1を踏み込みタンデムマスターシリンダ2で液圧が発生すると、コントロールバルブ3内の第1液室28および第2液室29の液圧も上昇するが、パイロットピストン20の両端の液圧は等しいのでパイロットピストン20は動かない。マスターシリンダ2の第2液圧発生室2bの液圧はコントロールバルブ3の第2入力ポート3b、第2液室29を介してコントロールバルブ3内のダイアフラムピストン21に作用するとともに、流路33を介して右前輪側液圧伝達装置5の入力液室62に伝達される。入力液室62内に導入された液圧により右前輪液圧伝達装置5内の第2ピストン52が隙間Sの間を移動する。この隙間Sの間の移動中にポペットバルブ59が通路59aを閉じ、出力室64との連通を遮断する。
【0027】一方、タンデムマスターシリンダ2の第1液圧発生室2aの液圧はコントロールバルブ3の第1液室28、流路31を介して左前輪液圧伝達装置4の入力液室62に伝達される。入力液室62内に導入された液圧により液圧伝達装置内の第2ピストン52が図中左方の隙間Sの間を移動する。この隙間Sの間の移動中にポペットバルブ59が通路59aを閉じ、出力室64との連通を遮断する。コントロールバルブ3内において、ダイアフラムピストン21に液圧が作用すると、同ピストン21が図2中左方に移動し、さらにスプールピストン22も図中左方に移動する。このとき、ダイアフラムピストン21はダイアフラム36を変形しながら移動するため、従来のようにピストンの周囲にシールを配置した場合に比べて、ダイアフラムピストン21の摺動抵抗を軽減でき、応答性が向上する。
【0028】スプールピストン22のさらなる移動により、スプールピストン22内の中心部流路42が溝41→ポート部材27の第2通路40→第3入力ポート3dを介してアキュムレータ11に連通し、アキュムレータ11内の圧力流体が中心部流路42→ブースト室46→流路45→前輪液圧伝達装置4、5の圧力導入室63に導入され、液圧伝達装置内の第2ピストン52を図3に示す如く移動する。この時には第2ピストン52と第3ピストン53との間の隙間Sが前述したように無くなっているため第2ピストン52が第1ピストン53とともに左方に移動して出力室64内に液圧を発生し、出力室64内の圧力流体が流路切換バルブ17、ホールドバルブ9を介して左右前後輪のホイールシリンダ6、7に供給され、左右前輪ブレーキを働かせる。また、スプールピストン22のブースト室46内の圧液はそのままホールドバルブを介して後輪のホイールシリンダにも供給され、後輪のブレーキを働かせる。
【0029】そして、スプールピストン22の左端に作用するブースト室46の液圧による液圧力とダイアフラムピストン21の右端に作用するマスターシリンダ液圧による液圧力とがバランスするようにスプールピストン22が左右に動くことによって、ブースト室46の液圧はマスターシリンダ液圧に対して比例的に増大(倍力)される。その倍力比はスプールピストン22の左端の面積A4と、ダイアフラムピストン21の右端の受圧面積A5との比A5/A4によって決定される。こうして増大(倍力)された液圧によって前後輪ともにブレーキが働く。一方、コントロールバルブ3の第1、第2液室28、29を介して液圧伝達装置4、5の入力液室62に作用した液圧により左右前輪液圧伝達装置4、5内の第1ピストン51も第2ピストン52の移動につれて図中左方に移動する。
【0030】またブレーキ開放時には、コントロールバルブ3内のスプールピストン22が初期位置に復帰し、液圧伝達装置の圧力導入室63の圧力流体はスプールピストン22の流路42→ポート部材27の第1通路39を介してリザーバ18に還流して液圧伝達装置4、5内の第1〜第3ピストン51〜53も初期位置に復帰し、出力室64内の圧力流体も開放されて前輪ブレーキが開放される。また後輪ブレーキもスプールピストン22の流路42の液圧がリザーバ18に開放されるためブレーキ開放される。なお、前述のごとくブレーキ作動時にマスターシリンダからの液圧で液圧伝達装置4、5内の第1ピストン51が左方へ移動し、入力液室62の容積が増大することによってマスターシリンダよりの吐出液が吸収されるため、ブレーキペダルの踏力を増大させるにつれてブレーキペダルの踏み込み量が増大し好適な操作フィーリングを得ることができる。
【0031】〔アンチロック制御時〕ブレーキ作動時に、車輪にロックの虞れが生じると、車輪速センサSの信号で、電子制御装置(ECU)からの指令によって流路切換バルブ17を切換える。この結果各液圧伝達装置4、5の出力室64は左右前輪配管系のホールドバルブ9と遮断され、かつ、そのホールドバルブ9はブースト室46に接続され、さらにコントロールバルブ3、左右液圧伝達装置4、5はブレーキ作動時の状態で維持される。具体的には、流路切換バルブ17が切換わった時点でホールドバルブ9が閉じてホイールシリンダ圧を保持し、その後ディケイバルブ10を開くとホイールシリンダ6〜8内の圧力流体がリザーバ11に還流してホイールシリンダ圧を減圧する。また、再加圧する必要がある時には、ディケイバルブ10が閉じ、ホールトバルブ9を開くと、前後輪系ともアキュムレータ11からの液圧が第3入力ポート3d→ポート部材27の第2通路40→コントロールバルブ3のスプールピストン22の中心部流路42→ブースト室46→第1出力ポート3cを経由してホイールシリンダ6〜8に供給され再加圧が行われる。上記アンチロック制御中の減圧時に、ホイールシリンダからの液圧はディケイバルブ10から直接リザーバに還流することができるため、従来のようなアンチロック制御時にホイールシリンダ圧を減圧した際のブレーキ液を液圧源に還流するための液圧ポンプを不要とすることができる。
【0032】〔自動ブレーキ〕車両発進時に車輪にスリップが発生したり、車間距離が異常に短縮したり、旋回時の車体の安定性を確保するためにブレーキを働かせる必要がある場合(自動ブレーキ時)には、車輪速度センサS、車間距離センサ(図示せず)等からの信号により電子制御装置(ECU)が常閉型の第2切換バルブ16を開くとともに常開型の第1切換バルブ15を閉じる。この結果、アキュムレータ11内の液圧が後輪系では開いた第2切換バルブ16を介してホイールシリンダに直接供給され、また前輪系ではアキュムレータ11からの液圧が第1出力ポート3c→流路45を介して液圧伝達装置4、5の圧力導入室63内に導入され、この液圧伝達装置4、5の第2ピストン52、第3ピストン53を図中左方に移動しポペットバルブ59を閉じ出力室64に液圧を発生させ、この液圧を流路切換バルブ17を介して左右前輪に供給して、左右前輪に対して適当なブレーキ力を働かせ、スリップ等を解消する。なお、この時のホイールシリンダ内の液圧の調整は、アンチロック制御と同様にホールドバルブ9、ディケイバルブ10を開閉して行う。ところで前述の第1、第2ピストン51、52を一体的に形成してあると、自動ブレーキ作動時に液圧伝達装置内4、5の入力液室62の容積が増大し、一時的に入力液室62およびそれにつながる配管系内の圧力が負圧となって空気が入力液室内等に流入するおそれがある。しかし、本制御装置において第1、第2ピストン51、52は互いに相対的に移動可能となるように別体に形成してあるため、第1ピストン51は移動することがなく上記のごとく入力液室62内等に負圧が発生することがない。
【0033】〔急ブレーキ時〕ブレーキストロークセンサBの信号により急ブレーキ操作がなされたと電子制御装置(ECU)が判断したときには、第1切換バルブ15を閉じ、第2切換バルブ16を開くことによってアキュムレータ11内の大きな液圧力が前後輪のホイールシリンダ6〜8に作用する。
〔フェイル時〕本液圧伝達装置は、何等かの原因によりアキュムレータ11からの圧力流体が供給されず倍力機能を発揮しない場合(フェイル時)には、コントロールバルブ内のスプールピストン22が移動しても圧力導入室63に液圧が発生せず第2ピストン52、第3ピストン53は圧力導入室63内の液圧では移動しない。しかし、タンデムマスターシリンダで発生した液圧が、コントロールバルブ3の第1、第2入力ポート3a、3b→第1、第2液室28、29→流路31、33→左右前輪液圧伝達装置4、5の入力液室62に作用し、第1ピストン51、第2ピストン、第3ピストンを一体に移動して出力室に液圧を発生させ、この液圧を前輪ホイールシリンダに直接伝達してブレーキ作用を行うことができる。なお、本液圧伝達装置においてはタンデムマスターシリンダの液圧ピストンの径を比較的に小さくすることができ、液圧伝達装置の第3ピストン53の受圧面積を大きくとることができるためアキュムレータ11のフェイル時においても十分なブレーキ力を確保することができる。
【0034】また、タンデムマスターシリンダ2の第1液圧発生室2aの系統が失陥したときにはコントロールバルブ3の第2液室29に流入するタンデムマスターシリンダ2の第2液圧発生室2bの液圧によってダイアフラムピストン21、スプールピストン22を左方に移動し、アキュムレータからの液圧により後輪では直接ブレーキが作用し、また前輪では左右前輪液圧伝達装置内の第2、第3ピストンを移動して出力室64内に液圧を発生させブレーキを働かせる。また、タンデムマスターシリンダ2の第2液圧発生室2bの系統が失陥したときには、その第1液圧発生室2aの液圧でパイロットピストン20が移動してダイアフラムピストン21に当接し、上記と同様に左右前後輪にブレーキが作用する。
【0035】
【発明の効果】以上詳細に述べた如く本発明によれば、1)ブレーキ配管系を前後輪の2系統としながら、前輪系統をさらに左右輪独立の配管系とし、後輪系統は左右共通の配管系としたため、前輪系のいずれか一方に仮に失陥が発生したとしても他側の前輪のブレーキ力が維持されるためブレーキ力不足となる事態を防止することができる。
2)後輪配管系には液圧伝達装置を設けずブレーキ液圧制御装置内のアキュムレータからの液圧を直接ブレーキシリンダに供給できるようにたため、装置の大型化、コストアップを防止することができる。
3)倍力装置をマスターシリンダとは分離した構成とすることで、車両搭載性の向上を図る。
4)種々のセンサからの情報をもとに電子制御装置によって液圧ポンプや各種弁を制御できるため、電子制御装置内のプログラムを変更するだけで、種々のブレーキ態様を実現することができる。
5)アンチロック制御時、トラクション制御時等のブレーキ液圧の再加圧、減圧、保持等を精度よく実現することができブレーキのフィーリングを向上できる6)液圧伝達装置内の第1、第2ピストンを分離して構成したため、自動ブレーキ作動時には、液圧伝達装置内の第1ピストンが移動せず、同装置内の入力液室内等に負圧が発生することがない。
7)アンチロック制御中の減圧時に、ホイールシリンダからの液圧をディケイバルブから直接リザーバに還流することができるため、従来のようなアンチロック制御用の液圧ポンプを不要とすることができ構成が簡略化する。等々の優れた効果を奏するこ等の優れた効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係わるブレーキ液圧制御装置の全体構成図である。
【図2】本ブレーキ液圧制御装置内のコントロールバルブと液圧伝達装置の拡大断面図である。
【図3】本液圧伝達装置のブレーキ作動時の状態図である。
【図4】従来のブレーキ液圧制御装置の全体構成図である。
【符号の説明】
1 ブレーキぺダル
2 タンデムマスターシリンダ
3 コントロールバルブ
4 左前輪液圧伝達装置
5 右前輪液圧伝達装置
6 左フロントホイールシリンダ
7 右フロントホイールシリンダ
8 左右リヤホイールシリンダ
9 ホールドバルブ
10 ディケイバルブ
11 アキュムレータ
12 圧力センサ
13 液圧ポンプ
14 リリーフ弁
15 第1切換バルブ
16 第2切換バルブ
17 流路切換バルブ
18 リザーバ
20 パイロットピストン
21 ダイアフラムピストン
22 スプールピストン
24 第1シリンダ
25 第2シリンダ
26 第3シリンダ
27 ポート部材
28 第1液室
29 第2液室
30 大気室
31、33 流路
34 第1スプリング
35 第2スプリング
36 ダイアフラム
37 液室
38 係合突起
39 第1通路
40 第2通路
41 スプールピストンに形成した溝
42 スプールピストンの中心部に形成した流路
43 復帰スプリング
45 流路
46 ブースト室
51 第1ピストン
52 第2ピストン
53 第3ピストン
54 スプリングホルダ
55、56 スプリング
57 通路
58 液室
59 ポペットバルブ
60 ポペットスプリング
61 弁体
62 入力液室
63 液圧導入室
64 出力室
65 液室
66 ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】マスターシリンダ2で発生した液圧に比例して増圧されたアキュムレータの液圧を出力するコントロールバルブ3と、該コントロールバルブからの出力液圧によってピストンを作動させ液圧を発生できる一対の液圧伝達装置4、5を備え、前記一対の液圧伝達装置4、5は左右前輪系の独立した配管系にそれぞれ配置し、前記コントロールバルブからの出力液圧を直接後輪ホイールシリンダに供給するようにするとともに、前記一対の前輪液圧伝達装置のピストンを作動し、前記前輪液圧伝達装置で発生した液圧をそれぞれ対応する左右の前輪ホイールシリンダに供給するように構成したことを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項2】前記コントロールバルブはマスターシリンダからの液圧によって流路を切換えるスプールピストンを備え、該スプールピストンの移動によりアキュムレータからの液圧を導入し、このアキュムレータ圧をマスターシリンダからの液圧に比例して倍力された液圧に調整するべく構成されていることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ液圧制御装置。
【請求項3】前記液圧伝達装置は、マスターシリンダからの液圧によって作動する第1ピストンとコントロールバルブで制御された液圧によって作動する第2ピストンとを備え、コントロールバルブからの制御された液圧によって第2ピストンを移動して出力室に液圧を発生できるようにするとともに、マスターシリンダからの液圧によって第1ピストンを移動し、さらに第2ピストンをも移動して出力室内に液圧を発生できるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のブレーキ液圧制御装置。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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