プラズマ処理装置
【課題】 誘導結合型のプラズマ処理装置において、アンテナの実効インダクタンスを小さくしてアンテナの長手方向の両端部間に発生する電位差を小さく抑え、それによってプラズマ電位を低く抑えると共にアンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布の均一性を高める。
【解決手段】 プラズマ処理装置を構成する平面形状が実質的にまっすぐなアンテナ30は、二枚の矩形導体板31、32を同一平面上に位置するように互いに隙間34をあけて近接させて平行に配置し、かつ両導体板の長手方向Xの一方端同士を導体33で接続した往復導体構造をしている。両導体板31、32に高周波電流IR が互いに逆向きに流される。かつ両導体板31、32の隙間側の辺に開口部37を形成し、それを複数、アンテナ30の長手方向Xに分散させて配置している。
【解決手段】 プラズマ処理装置を構成する平面形状が実質的にまっすぐなアンテナ30は、二枚の矩形導体板31、32を同一平面上に位置するように互いに隙間34をあけて近接させて平行に配置し、かつ両導体板の長手方向Xの一方端同士を導体33で接続した往復導体構造をしている。両導体板31、32に高周波電流IR が互いに逆向きに流される。かつ両導体板31、32の隙間側の辺に開口部37を形成し、それを複数、アンテナ30の長手方向Xに分散させて配置している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プラズマを用いて基板に、例えばプラズマCVD法による膜形成、エッチング、アッシング、スパッタリング等の処理を施すプラズマ処理装置に関し、より具体的には、アンテナに高周波電流を流すことによって発生する誘導電界によってプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施す誘導結合型のプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波を用いてプラズマを生成するプラズマ処理装置に属するものとして、容量結合型プラズマ(略称CCP)を生成する容量結合型のプラズマ処理装置と、誘導結合型プラズマ(略称ICP)を生成する誘導結合型のプラズマ処理装置とがある。
【0003】
容量結合型のプラズマ処理装置は、簡単に言えば、二枚の平行電極間に高周波電圧を印加して、両電極間に発生する高周波電界を用いてプラズマを生成するものである。
【0004】
この容量結合型のプラズマ処理装置においては、プラズマに高い電圧が印加されてプラズマ電位が高くなり、プラズマ中の荷電粒子(例えばイオン)が高いエネルギーで基板に入射衝突するので、基板上に形成する膜に与えるダメージが大きくなり、膜質が低下する等の課題がある。
【0005】
一方、誘導結合型のプラズマ処理装置は、簡単に言えば、アンテナに高周波電流を流すことによって発生する誘導電界によってプラズマを生成するものであり、基本的に、容量結合型に比べてプラズマ電位を低くすることができる等の利点がある。
【0006】
このような誘導結合型のプラズマ処理装置の一例として、特許文献1には、平板状のアンテナを真空容器の開口部に絶縁枠を介して取り付け、当該アンテナの一端と他端間に高周波電源から高周波電力を供給して高周波電流を流し、それによって発生する誘導電界によってプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施すプラズマ処理装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第WO 2009/142016号パンフレット(段落0024−0026、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
誘導結合型のプラズマ処理装置においても、大型の基板に対応する等のためにアンテナを長くすると、当該アンテナのインピーダンス(特にインダクタンス)が大きくなり、それによってアンテナの長手方向の両端部間に大きな電位差が発生する。
【0009】
このアンテナの電位は、プラズマとの間の静電容量を介してプラズマ電位に反映されるので、アンテナの電位が高いとプラズマ電位も高くなる。その結果、プラズマ中の荷電粒子(例えばイオン)が高いエネルギーで基板に入射衝突するので、基板上に形成する膜に与えるダメージが大きくなり、膜質が低下する等の課題が生じる。
【0010】
また、アンテナの長手方向の両端部間に大きな電位差が発生すると、電位の高い方の端部付近においてはアンテナの電位の振幅が大きいために、容量結合型によるプラズマ生成作用が本来の誘導結合型によるプラズマ生成作用に重畳されるようになり、電位の高い方の端部付近のプラズマ密度が他端部付近のプラズマ密度よりも高くなる。その結果、アンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布の均一性が悪くなり、ひいては基板処理の均一性が悪くなる。
【0011】
そこでこの発明は、誘導結合型の装置であって、アンテナの実効インダクタンスを小さくしてアンテナの長手方向の両端部間に発生する電位差を小さく抑えることができ、それによってプラズマ電位を低く抑えると共にアンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができるプラズマ処理装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係るプラズマ処理装置は、平面形状が実質的にまっすぐなアンテナに高周波電流を流すことによって真空容器内に誘導電界を発生させてプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施す誘導結合型のプラズマ処理装置であって、前記アンテナは、二枚の矩形導体板を前記基板の表面に沿う同一の平面上に位置するように互いに隙間をあけて近接させて平行に配置し、かつ両矩形導体板の長手方向の一方端同士を導体で接続した往復導体構造をしていて、当該二枚の矩形導体板に前記高周波電流が互いに逆向きに流されるものであり、かつ前記二枚の矩形導体板の前記隙間側の辺に前記隙間を挟んで対向する切り欠きをそれぞれ設けて当該対向する切り欠きによって開口部を形成し、この開口部を複数、前記アンテナの長手方向に分散させて配置している、ことを特徴としている。
【0013】
このプラズマ処理装置を構成するアンテナは、大局的に見ると往復導体構造をしていてその二枚の矩形導体板に高周波電流が互いに逆向きに流されるので、往復導体間に存在する相互インダクタンスのぶん、アンテナの実効インダクタンスが小さくなる。従って、従来の単なる平板状のアンテナに比べて、アンテナの長手方向の両端部間に発生する電位差を小さく抑えることができ、それによってプラズマ電位を低く抑えると共にアンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができる。
【0014】
また、アンテナを流れる高周波電流について詳細に見ると、高周波電流は、表皮効果によって、主に二枚の矩形導体板の端部を流れる傾向がある。その内でも、二枚の矩形導体板の隙間側の辺に着目すると、ここでは互いに近接している辺に高周波電流が逆向きに流れるので、隙間と反対側の辺に比べて、インダクタンス(ひいてはインピーダンス。以下同様)がより小さくなる。従って、隙間側の辺およびそこに形成されている開口部に沿って高周波電流がより多く流れることになる。その結果、各開口部は、アンテナの長手方向に分散配置されたコイルと同様に機能するので、簡単な構造で、複数のコイルを直列接続したのと同様の構造を形成することができる。従って簡単な構造で、各開口部付近に強い磁場を発生させて、プラズマ生成効率を高めることができる。
【0015】
しかも、各開口部間の接続部分は、互いに近接している辺に高周波電流が逆向きに流れてインダクタンスが小さくなるので、通常の(即ち片道の)接続導体によって単に複数のコイルを直列接続した構造に比べても、アンテナのインダクタンスを小さくして、アンテナの長手方向の両端部間に発生する電位差を小さく抑えることができる。それによる効果は上記のとおりである。
【0016】
前記アンテナの長手方向における両端部の前記開口部の大きさを、その他の前記開口部の大きさよりも大きくしても良いし、前記アンテナの長手方向における両端部の前記開口部の間隔を、その他の前記開口部の間隔よりも小さくしても良いし、両者を併用しても良い。
【0017】
前記二枚の矩形導体板を、前記基板の表面に沿う同一の平面上に配置する代りに、前記基板の表面と反対側が広がった断面V字構造になるように互いに隙間をあけて近接させて平行に配置しても良いし、短辺方向において湾曲させて、前記基板の表面と反対側が広がった断面U字構造になるように互いに隙間をあけて近接させて平行に配置しても良い。
【0018】
前記二枚の矩形導体板の前記隙間と反対側の辺の周りを、それぞれ、前記矩形導体板の材料の比抵抗よりも大きな比抵抗の導体によって、当該導体を流れる前記高周波電流の表皮厚さ以上の厚さで被覆しておいても良い。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載の発明によれば、アンテナは、大局的に見ると往復導体構造をしていてその二枚の矩形導体板に高周波電流が互いに逆向きに流されるので、往復導体間に存在する相互インダクタンスのぶん、アンテナの実効インダクタンスが小さくなる。従って、従来の単なる平板状のアンテナに比べて、アンテナの長手方向の両端部間に発生する電位差を小さく抑えることができ、それによってプラズマ電位を低く抑えると共にアンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができる。
【0020】
プラズマ電位を低く抑えることができる結果、プラズマから基板に入射する荷電粒子のエネルギーを小さく抑えることができるので、それによって例えば、基板上に形成する膜に与えるダメージを小さく抑えて、膜質向上を図ることができる。また、アンテナを長くする場合でも、上記理由によって、アンテナの電位を低く抑えてプラズマ電位を低く抑えることができるので、アンテナを長くして基板の大型化に対応することが容易になる。
【0021】
アンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができる結果、アンテナの長手方向における基板処理の均一性を高めることができる。例えば、アンテナの長手方向における膜厚分布の均一性を高めることができる。
【0022】
また、アンテナを流れる高周波電流について詳細に見ると、高周波電流は、表皮効果によって、主に二枚の矩形導体板の端部を流れる傾向がある。その内でも、二枚の矩形導体板の隙間側の辺に着目すると、ここでは互いに近接している辺に高周波電流が逆向きに流れるので、隙間と反対側の辺に比べて、インダクタンスひいてはインピーダンスがより小さくなる。従って、隙間側の辺およびそこに形成されている開口部に沿って高周波電流がより多く流れることになる。その結果、各開口部は、アンテナの長手方向に分散配置されたコイルと同様に機能するので、簡単な構造で、複数のコイルを直列接続したのと同様の構造を形成することができる。従って簡単な構造で、各開口部付近に強い磁場を発生させて、プラズマ生成効率を高めることができる。
【0023】
しかも、各開口部間の接続部分は、互いに近接している辺に高周波電流が逆向きに流れてインダクタンスが小さくなるので、通常の(即ち片道の)接続導体によって単に複数のコイルを直列接続した構造に比べても、アンテナのインダクタンスを小さくして、アンテナの長手方向の両端部間に発生する電位差を小さく抑えることができる。それによる効果は上記のとおりである。
【0024】
請求項2に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、アンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布は、通常は、両端部付近のプラズマ密度が他よりも小さくなる傾向にある。これに対して、この発明のように、アンテナの長手方向における両端部の開口部の大きさを、その他の開口部の大きさよりも大きくすることによって、両端部の開口部付近の磁束密度を大きくしてプラズマ密度を大きくすることができるので、アンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができる。その結果、アンテナの長手方向における基板処理の均一性を高めることができる。例えば、アンテナの長手方向における膜厚分布の均一性を高めることができる。
【0025】
請求項3に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、アンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布は、通常は、両端部付近のプラズマ密度が他よりも小さくなる傾向にある。これに対して、この発明のように、アンテナの長手方向における両端部の開口部の間隔を、その他の開口部の間隔よりも小さくすることによって、両端部の開口部付近の磁束密度を大きくしてプラズマ密度を大きくすることができるので、アンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができる。その結果、アンテナの長手方向における基板処理の均一性を高めることができる。例えば、アンテナの長手方向における膜厚分布の均一性を高めることができる。
【0026】
請求項4に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、プラズマ中には二枚の矩形導体板を流れる高周波電流と逆向きの誘導電流が流れ、これによってもアンテナのインダクタンスが低下するけれども、二枚の矩形導体板は断面V字構造に配置されていてその隙間と反対側の辺は、隙間側の辺に比べてプラズマからの距離が大きいのでインダクタンスの低下は少なく、インピーダンスが大きい。その結果、二枚の矩形導体板の隙間側の辺およびそこに形成されている開口部に沿って高周波電流をより多く流すことができるので、高周波電力をプラズマ生成により効率的に投入することができる。従って、プラズマの生成効率ひいては高周波電力の利用効率を高めることができる。
【0027】
請求項5に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、二枚の矩形導体板は断面U字構造に配置されていてその隙間と反対側の辺は、隙間側の辺に比べてプラズマからの距離が大きいので、請求項4の発明と同様の理由から、インダクタンスの低下は少なく、インピーダンスが大きい。その結果、二枚の矩形導体板の隙間側の辺およびそこに形成されている開口部に沿って高周波電流をより多く流すことができるので、高周波電力をプラズマ生成により効率的に投入することができる。従って、プラズマの生成効率ひいては高周波電力の利用効率を高めることができる。
【0028】
請求項6に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、二枚の矩形導体板の隙間と反対側の辺の周りを、矩形導体板の材料の比抵抗よりも大きな比抵抗の導体によって、当該導体を流れる高周波電流の表皮厚さ以上の厚さで被覆していて、表皮効果によって高周波電流は主にこの比抵抗の大きい導体を流れるので、二枚の矩形導体板の隙間と反対側の辺のインピーダンスが大きくなる。その結果、二枚の矩形導体板の隙間側の辺およびそこに形成されている開口部に沿って高周波電流をより多く流すことができるので、高周波電力をプラズマ生成により効率的に投入することができる。従って、プラズマの生成効率ひいては高周波電力の利用効率を高めることができる。
【0029】
請求項7に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、真空容器内側に位置するアンテナとプラズマの生成領域との間に、アンテナをプラズマから遮る誘電体板を設けておくことによって、アンテナの表面がプラズマ中の荷電粒子(主としてイオン)によってスパッタされるのを防止することができるので、当該スパッタによってプラズマおよび基板に対して金属汚染(メタルコンタミネーション)が生じることを防止することができる。更に、プラズマを構成する電子はイオンよりも軽くて移動度が遥かに大きいけれども、上記誘電体板によって当該電子がアンテナに入射してプラズマから逃げるのを防止することができるので、プラズマ電位の上昇を抑制することもできる。
【0030】
また、真空容器内側に位置するアンテナを誘電体内に埋めておくことによって、真空容器内に位置するアンテナのすぐ近くで不要なプラズマが発生するのを防止することができる。それによって、基板処理に必要なプラズマの不安定性増加、高周波電力の利用効率低下等の不都合発生を防止することができる。
【0031】
請求項8に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、互いに並列に配置され、かつ並列に高周波電力が供給される複数のアンテナを備えているので、より大面積のプラズマを生成することができる。しかも、共通の高周波電源から、隣り合うアンテナの隣り合う矩形導体板の隙間と反対側の隣り合う辺に流れる高周波電流が互いに同方向となるように高周波電力を並列に供給するように構成しているので、上記隙間と反対側の隣り合う辺間の相互インダクタンスのぶん、当該辺のインダクタンスが大きくなる。その結果、上記隙間と反対側の隣り合う辺に沿って流れる高周波電流を減少させ、隙間側の辺およびそこに形成されている開口部に沿って流れる高周波電流を増大させることができるので、各開口部付近に発生させる磁場を強めることができる。その結果、高周波電力をプラズマ生成により効率的に投入することができるので、プラズマの生成効率ひいては高周波電力の利用効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明に係るプラズマ処理装置の一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】図1中の一つのアンテナの概略平面図である。
【図3】図1中の一つのアンテナの概略平面図であり、冷却パイプは省略している。
【図4】図3中の線A−Aに沿う拡大断面図である。
【図5】図3に示すアンテナの概略の等価回路図である。
【図6】図3に示すアンテナの一つの開口部周りを拡大して示す平面図である。
【図7】上下方向に配置された往復導体の一例を示す概略断面図である。
【図8】図3に示すアンテナの寸法を表す符号を記入した図である。
【図9】図8に示すアンテナのX方向における磁束密度分布を測定した結果の一例を示す図である。
【図10】図8に示すアンテナのY方向における磁束密度分布を測定した結果の一例を示す図である。
【図11】アンテナの他の例を示す概略断面図であり、図4に示す断面図に対応している。
【図12】アンテナの更に他の例を示す概略断面図であり、図4に示す断面図に対応している。
【図13】アンテナの更に他の例を示す概略図であり、(A)は平面図、(B)は断面図である。
【図14】開口部の大きさを変えて開口部付近の導体面垂直方向の磁束密度を測定したときのモデルを示す図である。
【図15】図14に示すモデルにおいて開口部の大きさを変えて開口部付近の導体面垂直方向の磁束密度を測定した結果の一例を示す図である。
【図16】複数のアンテナを並列配置してそれらに共通の高周波電源から高周波電力を並列に供給する構成の一例を示す概略平面図である。
【図17】複数のアンテナを並列配置してそれらに共通の高周波電源から高周波電力を並列に供給する構成の他の例を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
この発明に係るプラズマ処理装置の一実施形態を図1に示し、その一つのアンテナ30を抜き出して図2〜図4に示す。図1、図2以外では、図示を簡略化するために、冷却パイプは省略している。後述する他の実施形態においても同様である。
【0034】
アンテナ30等の向きを表すために、一点で互いに直交するX方向、Y方向およびZ方向を各図中に記載している。Z方向は基板2の表面に立てた垂線3に平行な方向であり、Y方向は当該垂線3に直交する方向であり、これらは表現を簡略化するために、それぞれ、上下方向Z、左右方向Yと呼ぶことにする。X方向は、垂線3に直交する方向であり、かつアンテナ30の長手方向である。例えば、X方向およびY方向は水平方向であるが、これに限られるものではない。以上のことは、他の図においても同様である。
【0035】
この装置は、平面形状が実質的にまっすぐなアンテナ30に高周波電源60から高周波電流IR を流すことによって真空容器4内に誘導電界を発生させて当該誘導電界によってプラズマ50を生成し、このプラズマ50を用いて基板2に処理を施す誘導結合型のプラズマ処理装置である。
【0036】
「実質的にまっすぐ」というのは、文字どおりまっすぐな状態だけでなく、まっすぐに近い状態(ほぼまっすぐな状態)をも含む意味である。
【0037】
真空容器4内には、基板2を保持するホルダ10が設けられている。
【0038】
基板2は、例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)用の基板、フレキシブルディスプレイ用のフレキシブル基板、太陽電池等の半導体デバイス用の基板等であるが、これに限られるものではない。
【0039】
基板2の平面形状は、例えば円形、四角形等であり、特定の形状に限定されない。
【0040】
基板2に施す処理は、例えば、プラズマCVD法による膜形成、エッチング、アッシング、スパッタリング等である。
【0041】
このプラズマ処理装置は、プラズマCVD法によって膜形成を行う場合はプラズマCVD装置、エッチングを行う場合はプラズマエッチング装置、アッシングを行う場合はプラズマアッシング装置、スパッタリングを行う場合はプラズマスパッタリング装置とも呼ばれる。
【0042】
このプラズマ処理装置は、例えば金属製の真空容器4を備えており、その内部は真空排気口8を通して真空排気される。
【0043】
真空容器4内には、ガス導入管22を通してガス24が導入される。ガス導入管22は、この例では、各アンテナ30の長手方向Xに複数本ずつ配置されており、それらの前にはガス24を拡散させるガス拡散板26が設けられている。
【0044】
ガス24は、基板2に施す処理内容に応じたものにすれば良い。例えば、プラズマCVD法によって基板2に膜形成を行う場合は、ガス24は、原料ガスまたはそれを希釈ガス(例えばH2 )で希釈したガスである。より具体例を挙げると、原料ガスがSiH4 の場合はSi 膜を、SiH4 +NH3 の場合はSiN膜を、SiH4 +O2 の場合はSiO2 膜を、それぞれ基板2の表面に形成することができる。
【0045】
真空容器4の天井面6に、各アンテナ30の平面形状に対応した平面形状の開口部7がこの例では二つ設けられており、各開口部7内にアンテナ30がそれぞれ設けられている。即ち、この実施形態はアンテナ30を二つ有している。
【0046】
各開口部7の上部には蓋板(例えばフランジ)44が設けられており、各蓋板44と天井面6との間には真空シール用のパッキン46が設けられている。各蓋板44は誘電体製でも良いが、この例では金属製にして、真空容器4と共に電気的に接地している。そのようにすると、各アンテナ30からの高周波の外部への漏れを抑えることができる。
【0047】
主に図3を参照して、各アンテナ30は、二枚のX方向に長い矩形導体板31、32を、基板2の表面に沿う同一の平面上(即ちこの例では、XY平面に平行な同一平面上)に位置するように、互いに隙間34をあけて近接させて平行に配置した構成をしている。換言すれば、二枚の矩形導体板31、32を、それらの端面を隙間34をあけて対向させて、両矩形導体板31、32が平面になるように互いに近接させて平行に配置している。かつ、両矩形導体板31、32の長手方向Xの一方端同士を導体33で接続している。これによって、各アンテナ30は往復導体構造をしている。導体33は、両矩形導体板31、32と別体のものでも良いし、一体のものでも良い。
【0048】
各矩形導体板31、32および導体33の材質は、例えば、銅(より具体的には無酸素銅)、アルミニウム等であるが、これに限られるものではない。
【0049】
各アンテナ30を構成する二枚の矩形導体板31、32には、高周波電源60から整合回路62を経由して高周波電力が供給され、それによって当該二枚の矩形導体板31、32には、互いに逆向きの高周波電流(往復電流)IR が流される(高周波だから、この高周波電流IR の向きは時間によって反転する。以下同様)。詳述すると、往復導体構造をしている一方側の矩形導体板31の、上記導体33とは反対側の端部を高周波電力の給電点とし、他方側の矩形導体板32の、上記導体33とは反対側の端部を終端点としている。この終端点は、図示例のように直接接地しても良いし、コンデンサを介して接地しても良い。後述する他の例のアンテナ30についても同様である。
【0050】
なお、図3、図5等では、説明を分かりやすくする等のために、一つのアンテナ30につき高周波電源60および整合回路62を一つずつ設けた例を図示しているが、そのようにせずに、一つの高周波電源60および整合回路62を複数のアンテナ30に共用しても良い。即ち、複数のアンテナ30に共通の高周波電源60から高周波電力を並列に供給するようにしても良い。その場合の例は後述する。
【0051】
上記高周波電流IR によって、各アンテナ30の周囲に高周波磁界が発生し、それによって高周波電流IR と逆方向に誘導電界が発生する。この誘導電界によって、真空容器4内において、電子が加速されてアンテナ30の近傍のガス24を電離させてアンテナ30の近傍にプラズマ50が発生する。このプラズマ50は基板2の近傍まで拡散し、このプラズマ50によって基板2に前述した処理を施すことができる。
【0052】
高周波電源60から出力する高周波電力の周波数は、例えば、一般的な13.56MHzであるが、これに限られるものではない。
【0053】
二枚の矩形導体板31、32の隙間34側の辺(換言すれば内側の辺)31a、32aに、隙間34を挟んで対向する切り欠き35、36をそれぞれ設けて、当該対向する切り欠き35、36によって開口部37を形成し、この開口部37を複数、アンテナ30の長手方向Xに分散させて配置している。開口部37の数はこの例では五つであるが、それ以外でも良い。後述する他の例のアンテナ30についても同様である。
【0054】
各切り欠き35、36は、隙間34を中心にして対称形のものにするのが好ましい。各開口部37の形状は、図示例のように円形でも良いし、方形等でも良い。
【0055】
上記各アンテナ30は、大局的に見ると往復導体構造をしていてその二枚の矩形導体板に高周波電流IR が互いに逆向きに流されるので、往復導体31、32間に存在する相互インダクタンスのぶん、アンテナ30の実効インダクタンスが小さくなる。
【0056】
これを詳述すると、互いに接近している平行な往復導体の総合インピーダンスZT は、差動接続として電気理論の書籍等にも記載されているように、次式で表される。ここでは説明を簡略化するために、各導体の抵抗を共にR、自己インダクタンスを共にLとし、両導体間の相互インダクタンスをMとしている。
【0057】
[数1]
ZT =2R+j2(L−M)
【0058】
上記総合インピーダンスZT の内のインダクタンスLT は次式で表される。このインダクタンスLT のように、自己インダクタンスと相互インダクタンスとを合成したものを、この明細書では実効インダクタンスと呼ぶことにする。
【0059】
[数2]
LT =2(L−M)
【0060】
上記式からも分るように、往復導体の実効インダクタンスLT は、相互インダクタンスMのぶん小さくなり、ひいては総合インピーダンスZT も小さくなる。この原理が往復導体構造をしている上記アンテナ30にも適用される。
【0061】
上記原理によってアンテナ30の実効インダクタンスが小さくなる結果、前述した従来の単なる平板状のアンテナに比べて、アンテナ30の長手方向Xの両端部間に発生する電位差を小さく抑えることができ、それによってプラズマ50の電位を低く抑えると共にアンテナ30の長手方向Xにおけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができる。
【0062】
プラズマ50の電位を低く抑えることができる結果、プラズマ50から基板2に入射する荷電粒子(例えばイオン)のエネルギーを小さく抑えることができる。それによって例えば、プラズマ50によって基板2上に膜を形成する場合、当該膜に与えるダメージを小さく抑えて、膜質向上を図ることができる。また、アンテナ30をX方向に長くする場合でも、上記理由によって、アンテナ30の電位を低く抑えてプラズマ電位を低く抑えることができるので、アンテナ30を長くして基板2の大型化に対応することが容易になる。
【0063】
アンテナ30の長手方向Xにおけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができる結果、アンテナ30の長手方向Xにおける基板処理の均一性を高めることができる。例えば、プラズマ50によって基板2上に膜を形成する場合、アンテナ30の長手方向における膜厚分布の均一性を高めることができる。
【0064】
また、各アンテナ30を流れる高周波電流IR について詳細に見ると、図3、図4に示すように、高周波電流IR は、表皮効果によって、主に二枚の矩形導体板31、32の端部を流れる傾向がある。その内でも、二枚の矩形導体板31、32の隙間34側の辺(内側の辺)31a、32aに着目すると、ここでは互いに近接している辺に高周波電流IR が逆向きに流れるので、隙間34と反対側の辺(換言すれば外側の辺)31b、32bに比べて、インダクタンスひいてはインピーダンスがより小さくなる。
【0065】
即ち、アンテナ30を流れる高周波電流IR について見れば、外側の辺31b、32bを流れる高周波電流IR に対してはその逆向きに流れる高周波電流がないのに対して、互いに近接している内側の辺31a、32aには高周波電流IR が互いに逆向きに流れるので、内側の辺31a、32aの方がインダクタンスひいてはインピーダンスがより小さくなる。これは先に数1、数2を参照して説明した原理による。即ち、内側の辺31a、32aは、その相互インダクタンスのぶん実効インダクタンスが低下するということである。
【0066】
先にアンテナ30を大局的に見て説明した、相互インダクタンスの存在による実効インダクタンスの低下には、詳しく見ると、この内側の辺31a、32a間の相互インダクタンスによるインダクタンスの低下が大きく寄与していると言うことができる。
【0067】
アンテナ30の内側の辺31a、32aおよび外側の辺31b、32bを流れる高周波電流IR に着目して、図3に示すアンテナ30の概略の等価回路を描くと図5となる。実際は各辺31a、32a、31b、32b上に分散して分布して存在しているインピーダンスを、この例ではまとめてZ1 〜Z4 で示している。上述したように、外側の辺31b、32bのインピーダンスZ2 、Z4 に比べて、内側の辺31a、32aのインピーダンスZ1 、Z3 の方が小さくなる。
【0068】
従って、内側の辺31a、32aおよびそこに形成されている開口部37に沿って高周波電流IR がより多く流れることになる。その結果、各開口部37は、アンテナ30の長手方向Xに分散配置されたコイルと同様に機能するので、簡単な構造で、複数のコイルを直列接続したのと同様の構造を形成することができる。従って簡単な構造で、各開口部37付近に強い磁場を発生させて、プラズマ生成効率を高めることができる。
【0069】
各開口部37付近に作られる磁場の例を図6を参照して説明する。開口部37に沿って高周波電流IR が互いに逆向きに流れ、それぞれが発生させる磁界64、65は開口部37において互いに同方向になるので、磁場強度は両者の和となり、強い磁場を発生させることができる。また、アンテナ面(導体面)に垂直な方向(即ちZ方向)の磁界66を強くすることができる。この磁場によって誘起されてプラズマ50中を流れる誘導電流68は、磁界66を周回するように、高周波電流IR とは逆方向に流れる。
【0070】
また、図3を参照して、各開口部37間の接続部分38は、互いに近接している辺に高周波電流IR が逆向きに流れて、前述した理由によってインダクタンスが小さくなるので、通常の(即ち片道の)接続導体によって単に複数のコイルを直列接続した構造に比べても、アンテナ30のインダクタンスを小さくして、アンテナの長手方向Xの両端部間に発生する電位差を小さく抑えることができる。それによる効果は前述のとおりである。
【0071】
なお、アンテナ30を流れる高周波電流IR と、この高周波電流IR によって誘起されてプラズマ50内を流れる誘導電流68との関係について見れば、図4に示すように両者は互いに逆向きに流れる。
【0072】
往復導体によってアンテナの実効インダクタンスを小さくしてアンテナの長手方向Xの両端部間に発生する電位差を小さく抑えるためには、図7に示す例のように、平板状の二つの導体(往復導体)71、72をプラズマ50の生成領域に対して上下方向に近接して配置するという考えもあるけれども、この場合は両導体71、72を互いに逆向きに流れる高周波電流IR が作る磁界73、74は、プラズマ50の生成領域では互いに逆方向になるので、磁場強度は両者の差となり弱くなる。これに対して、この実施形態のアンテナ30の場合は、先に図6を参照して説明したように、開口部37に沿って流れる高周波電流IR が作る磁場強度は和であるため、強い磁場を発生させることができる。それによって、プラズマ50の生成効率ひいては高周波電力の利用効率を高めることができる。
【0073】
アンテナ30の冷却は、図1、図2に示す例のように、両矩形導体板31、32の上面にまっすぐな冷却パイプ42を取り付けることによって行うことができる。従って、冷却構造が簡単であり、製作しやすい。後述する他の例のアンテナ30の場合も同様である。
【0074】
図3に示したアンテナ30の寸法を表す符号を記入した図を図8に示す。この図8では、X、Y方向の原点Oを、長手方向Xの中央の開口部37の中心に取っている。そしてこの図8に示すアンテナのX方向における磁束密度分布を測定した結果の一例を図9に示し、Y方向における磁束密度分布を測定した結果の一例を図10に示す。
【0075】
この測定の条件は次のとおりである。即ち、両矩形導体板31、32の長さL1 を300mm、幅W1 を50mm、隙間34の幅W2 を5mm、開口部37の数を五つ、各開口部37の直径Dを40mm、隣り合う開口部37の間隔を50mmとした。両矩形導体板31、32の材質を銅、高周波電力の周波数を13.56MHz、高周波電源60の出力を3Wとした。反射電力は0Wであった。磁束密度は導体面から30mmの位置で測定した。プラズマ50は発生させていない。
【0076】
図9に示すように、開口部37の位置に対応する脈動は少なく、アンテナ30の長手方向Xにおいて、均一性の良い磁束密度分布が得られている。これは、(a)導体面から30mm程度の位置では、各開口部37付近で作られる磁束密度がX方向に広がりを持っている、(b)隙間34の幅W2 が5mmあるので、開口部37間の接続部分38でも少しは磁場が発生している、こと等によるものと考えられる。
【0077】
図10に示すように、Y方向においては、開口部37の中心付近に強い磁場が発生しているのに対して、両矩形導体板31、32の外側の辺31b、32b付近(±50mm付近)での磁場は小さい。これは、前述したように、外側の辺31b、32bを流れる高周波電流が小さいことを表している。
【0078】
複数の開口部37の大きさまたは隣り合う開口部37間の間隔を、全て同一にするのでなく、アンテナ30の長手方向Xにおいて異ならせても良い。両者を併用しても良い。必要に応じて、長手方向Xの中央部付近の開口部37を省いても良い。このようにすることによって、アンテナ30の長手方向Xにおけるプラズマ密度分布を調整することができる。後述する他の例のアンテナ30においても同様である。
【0079】
図14に示すモデルを用いて、その開口部37の大きさ(直径)を変えて、開口部37付近の導体面垂直方向(即ち前述したZ方向)の磁束密度を測定した結果の一例を図15に示す。この測定条件は次のとおりである。矩形導体板31、32および隙間34の寸法は図14中に記載したとおりであり、両矩形導体板31、32の材質を銅、高周波電力の周波数を13.56MHz、測定時の高周波電力を3Wとした。磁束密度は導体面から30mmの位置で測定した。プラズマは発生させていない。
【0080】
図15に示すように、開口部37の寸法を大きくすることによって、開口部37付近の磁束密度を大きくすることができる。
【0081】
上述した複数の開口部37の大きさまたは隣り合う開口部37間の間隔を、全て同一にするのでなく、アンテナ30の長手方向Xにおいて異ならせる場合の具体例を説明する。
【0082】
アンテナ30の長手方向Xにおけるプラズマ密度分布は、通常は、両端部付近のプラズマ密度が他よりも小さくなる傾向にある。その理由を簡単に説明すると、両端部以外は左右両側からプラズマが拡散して来るのに対して、両端部は片側からしかプラズマが拡散して来ないからである。
【0083】
そこで、アンテナ30の長手方向Xにおける両端部の開口部37の大きさを、その他の開口部37の大きさよりも大きくしても良い。それによって、上記図15に示す測定結果からも分るように、両端部の開口部37付近の磁束密度を大きくしてプラズマ密度を大きくすることができるので、アンテナ30の長手方向Xにおけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができる。その結果、アンテナ30の長手方向Xにおける基板処理の均一性を高めることができる。例えば、プラズマ50によって基板2上に膜を形成する場合、アンテナ30の長手方向Xにおける膜厚分布の均一性を高めることができる。
【0084】
この場合、必要に応じて長手方向Xの中央部付近の開口部37を省いても良い。
【0085】
また、アンテナ30の長手方向Xにおける両端部の開口部37の間隔(つまり隣り合う開口部37間の間隔)を、その他の開口部37の間隔よりも小さくしても良い。それによって、両端部の開口部37付近の磁束密度を大きくしてプラズマ密度を大きくすることができるので、アンテナ30の長手方向Xにおけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができる。その結果、アンテナ30の長手方向Xにおける基板処理の均一性を高めることができる。例えば、プラズマ50によって基板2上に膜を形成する場合、アンテナ30の長手方向Xにおける膜厚分布の均一性を高めることができる。
【0086】
この場合も、必要に応じて長手方向Xの中央部付近の開口部37を省いても良い。
【0087】
また、上述したアンテナ30の長手方向Xにおける両端部の開口部37の大きさを、その他の開口部37の大きさよりも大きくすることと、アンテナ30の長手方向Xにおける両端部の開口部37の間隔を、その他の開口部37の間隔よりも小さくすることとを併用しても良い。
【0088】
図1に示す例のように、真空容器4内に位置するアンテナ30とプラズマ50の生成領域との間に、アンテナ30をプラズマ50から遮る誘電体板52を設けておいても良い。誘電体板52は、アンテナ30に近接させて設けるのが好ましい。その方が、プラズマ50の生成空間を広く取ることができる等の利点があるからである。より具体的にはこの例では、各アンテナ30を配置している各開口部7の入口付近に誘電体板52をそれぞれ設けている。誘電体板52は、開口部7の入口付近に直接取り付けても良いし、この例のように支持板54を用いて取り付けても良い。また、複数のアンテナ30に共通の誘電体板52を設けても良い。後述する他の例のアンテナ30を用いる場合も同様である。
【0089】
誘電体板52は、例えば、石英、アルミナ、シリコンカーバイドなどのセラミックス、あるいはシリコン板などから成る。
【0090】
誘電体板52を設けておくと、アンテナ30の表面がプラズマ50中の荷電粒子(主としてイオン)によってスパッタされるのを防止することができるので、当該スパッタによってプラズマ50および基板2に対して金属汚染(メタルコンタミネーション)が生じることを防止することができる。更に、プラズマ50を構成する電子はイオンよりも軽くて移動度が遥かに大きいけれども、上記誘電体板52によって当該電子がアンテナ30に入射してプラズマ50から逃げるのを防止することができるので、プラズマ電位の上昇を抑制することもできる。
【0091】
また、図1に示す例のように、真空容器4内に位置するアンテナ30を誘電体48内に埋めておいても良い。アンテナ30に冷却パイプ42を取り付けている場合はそれも埋めておけば良い。より具体的にはこの例では、各アンテナ30を配置している各開口部7内の、蓋板44とアンテナ30の下面との間の空間のほぼ全てを誘電体48で埋めている。後述する他の例のアンテナ30を用いる場合も同様である。
【0092】
誘電体48は、例えば、セラミックスなどの絶縁性無機材料、あるいは絶縁性樹脂などから成る。
【0093】
誘電体板52を設けていない場合はもちろんであるが、誘電体板52を設けていても、それでガス24を完全にシールしているわけではないので、真空容器4内に位置するアンテナ30の部分には、誘電体48を設けていないと、ガス24が拡散して来る。この拡散して来たガス24が電離されてアンテナ30のすぐ近くでプラズマが発生したり、状況によっては発生しなかったりするので、基板処理に必要な本来のプラズマ50の不安定性を増加させる。
【0094】
これに対して、アンテナ30を上記のように誘電体48内に埋めておくことによって、アンテナ30のすぐ近くにガス24が拡散して来るのを防止することができるので、真空容器4内に位置するアンテナ30のすぐ近くで不要なプラズマが発生するのを防止することができる。それによって、基板処理に必要な本来のプラズマ50の不安定性増加、高周波電力の利用効率低下等の不都合発生を防止することができる。
【0095】
次に、アンテナ30の他の例を、上述した例との相違点を主体に説明する。
【0096】
アンテナ30を構成する二枚の矩形導体板31、32を、前述したように基板2の表面に沿う同一の平面上に配置する代りに、図11に示す例のように、基板2の表面と反対側(換言すればプラズマ50の生成領域と反対側)が広がった断面V字構造になるように互いに隙間34をあけて近接させて平行に配置しても良い。冷却パイプ42、誘電体48、誘電体板52については、図1に示した例の場合と同様である。
【0097】
前述したように、高周波電流IR によってプラズマ50を発生させると、プラズマ50中には二枚の矩形導体板31、32を流れる高周波電流IR と逆向きの誘導電流68が流れ、これによっても、先に数1および数2を参照して説明したのと同様の原理によって、アンテナ30のインダクタンスひいてはインピーダンスが低下するけれども、二枚の矩形導体板31、32は断面V字構造に配置されていてその隙間34と反対側の辺31b、32bは、隙間側の辺31a、32aに比べてプラズマ50からの距離L2 が大きいのでインダクタンスの低下は少なく、インピーダンスが大きい。その結果、二枚の矩形導体板31、32の隙間側の辺31a、32aおよびそこに形成されている開口部37に沿って高周波電流IR をより多く流すことができるので、高周波電力をプラズマ生成により効率的に投入することができる。従って、プラズマ50の生成効率ひいては高周波電力の利用効率を高めることができる。
【0098】
二枚の矩形導体板31、32の傾きの程度は適宜定めれば良く、傾きを大きくすると、上述した内側の辺31a、32aと外側の辺31b、32bとの間にインダクタンスひいてはインピーダンスの差をつける作用は大きくなる。
【0099】
アンテナ30を構成する二枚の矩形導体板31、32を、基板2の表面に沿う同一の平面上に配置する代りに、図12に示す例のように、各矩形導体板31、32をその短辺方向において湾曲させて、基板2の表面と反対側(換言すればプラズマ50の生成領域と反対側)が広がった断面U字構造になるように互いに隙間34をあけて近接させて平行に配置しても良い。開口部37付近は平面でも良い。冷却パイプ42、誘電体48、誘電体板52については、図1に示した例の場合と同様である。
【0100】
この例の場合も、二枚の矩形導体板31、32は断面U字構造に配置されていてその隙間34と反対側の辺31b、32bは、隙間側の辺31a、32aに比べてプラズマ50からの距離L2 が大きいので、図11の例の場合と同様の理由から、インダクタンスの低下は少なく、インピーダンスが大きい。その結果、二枚の矩形導体板31、32の隙間側の辺31a、32aおよびそこに形成されている開口部37に沿って高周波電流IR をより多く流すことができるので、高周波電力をプラズマ生成により効率的に投入することができる。従って、プラズマ50の生成効率ひいては高周波電力の利用効率を高めることができる。
【0101】
二枚の矩形導体板31、32の湾曲の程度は適宜定めれば良く、湾曲を大きくすると、上述した内側の辺31a、32aと外側の辺31b、32bとの間にインダクタンスひいてはインピーダンスの差をつける作用は大きくなる。
【0102】
図13に示す例のように、アンテナ30を構成する二枚の矩形導体板31、32の隙間34と反対側の辺31b、32bの周りを、それぞれ、矩形導体板31、32の材料の比抵抗よりも大きな比抵抗の導体76によって、当該導体76を流れる高周波電流IR の表皮厚さ以上の厚さで被覆しておいても良い。
【0103】
前述したように、表皮効果によって高周波電流IR は矩形導体板31、32の主に端部を流れる。そこで、ここでは矩形導体板31、32の外側の辺31b、32bに着目して、その辺31b、32bの周り(上下面および端面)を導体76で覆っておく。導体76のY方向の幅W4 は、例えば10mm〜20mm程度で十分である。導体76で上記のように覆うためには、例えば、矩形導体板31、32の外側の辺31b、32bに導体76をメッキによって形成するのが簡単で良い。
【0104】
矩形導体板31、32の材質は、前述したように銅、アルミニウム等である。それよりも比抵抗の大きい導体76の材質は、例えばニッケル、鉄等である。これらは、比抵抗が大きいだけでなく、透磁率も大きいので好ましい。
【0105】
上記高周波電流IR の表皮厚さδは次式で表される。ここで、fは高周波電流IR の周波数、μは導体76の透磁率、σは導体76の導電率(=1/比抵抗ρ)である。
【0106】
[数3]
δ=1/√(πfμσ)
【0107】
具体例を挙げると、周波数fは13.56MHzである。導体76がニッケルの場合、透磁率μは約2.4π×10-4N/A2 、比抵抗ρは約6.84×10-8Ωm、導電率σは約14.5×106 /Ωmであるので、表皮厚さδは約1.47μmとなる。従って、導体76の厚さをこれ以上にすれば良い。
【0108】
上記導体76を被覆しておくと、矩形導体板31、32の外側の辺31b、32b側を流れる高周波電流IR は、表皮効果によって、主にこの比抵抗の大きい導体76を流れるので、矩形導体板31、32の隙間と反対側の辺31b、32bのインピーダンスが大きくなる。その結果、二枚の矩形導体板31、32の隙間側の辺31a、32aおよびそこに形成されている開口部37に沿って高周波電流IR をより多く流すことができるので、高周波電力をプラズマ生成により効率的に投入することができる。従って、プラズマ50の生成効率ひいては高周波電力の利用効率を高めることができる。
【0109】
図16、図17にそれぞれ示す例のように、前記構成のアンテナ30を、複数、互いにY方向に並列に配置し、この複数のアンテナ30に、共通の高周波電源60から高周波電力を並列に供給するようにしても良い。各アンテナ30は、前述したいずれの構成でも良い。
【0110】
高周波電源60(より具体的にはそれに接続された整合回路62)と各アンテナ30とは、図示例のように可変インピーダンス78を介在させて接続しても良いし、そのようにせずに直接接続しても良い。
【0111】
可変インピーダンス78は、図示例のような可変インダクタンスでも良いし、可変コンデンサ(可変キャパシタンス)でも良いし、両者を混在させても良い。可変インダクタンスを挿入することによって、給電回路のインピーダンスを増大させることができるので、高周波電流IR が流れ過ぎるアンテナ30の電流を抑えることができる。可変コンデンサを挿入することによって、誘導性リアクタンスが大きい場合に容量性リアクタンスを増大させて、給電回路のインピーダンスを低下させることができるので、高周波電流IR が流れにくいアンテナ30の電流を増加させることができる。
【0112】
図16、図17の例の内、図16の例は、共通の高周波電源60から、隣り合うアンテナ30の隣り合う矩形導体板32、31の隙間34と反対側の隣り合う辺32b、31bに流れる高周波電流IR が互いに逆方向となるように高周波電力を並列に供給するように構成している例であり、図17の例は、共通の高周波電源60から、隣り合うアンテナ30の隣り合う矩形導体板32、31の隙間34と反対側の隣り合う辺32b、31bに流れる高周波電流IR が互いに同方向となるように高周波電力を並列に供給するように構成している例である。
【0113】
並列に配置するアンテナ30の数は、図示例の二つに限られるものではなく、三つ以上でも良い。
【0114】
図16、図17のいずれの例の場合も、互いに並列に配置され、かつ並列に高周波電力が供給される複数のアンテナ30を備えているので、より大面積のプラズマを生成することができる。
【0115】
但し、各開口部37付近に発生させる磁場の観点からは、図17に示す例の方が好ましい。これは次の理由による。
【0116】
即ち、図16に示す例の場合は、上記隙間34と反対側の隣り合う辺32b、31bに流れる高周波電流IR が互いに逆方向となるので、先に数1、数2を参照して説明した原理によって、両辺32b、31b間の相互インダクタンスのぶん、当該辺のインダクタンスが小さくなる。その結果、上記隙間34と反対側の隣り合う辺32b、31bに沿って流れる高周波電流IR を増大させ、隙間34側の辺32a、31aおよびそこに形成されている開口部37に沿って流れる高周波電流IR を減少させることになるので、各開口部37付近に発生させる磁場を弱めることになる。この課題は、隣り合うアンテナ30間の間隔を大きくすれば軽減することができるけれども、そのようにすると、大きくした間隔の部分でプラズマ密度が低下するので、複数のアンテナ30によって発生させるプラズマ全体の均一性が低下するという別の課題が生じる。
【0117】
これに対して、図17に示す例の場合は、上記隙間34と反対側の隣り合う辺32b、31bに流れる高周波電流IR が互いに同方向となるので、先に数1、数2を参照して説明した原理によって(但し、この場合は+Mとなる)、両辺32b、31b間の相互インダクタンスのぶん、当該辺のインダクタンスが大きくなる。その結果、上記隙間34と反対側の隣り合う辺32b、31bに沿って流れる高周波電流IR を減少させ、隙間34側の辺32a、31aおよびそこに形成されている開口部37に沿って流れる高周波電流IR を増大させることができるので、各開口部37付近に発生させる磁場を強めることができる。その結果、高周波電力をプラズマ生成により効率的に投入することができるので、プラズマの生成効率ひいては高周波電力の利用効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0118】
2 基板
4 真空容器
24 ガス
30 アンテナ
31、32 矩形導体板
31a、32a 隙間側の辺
31b、32b 隙間と反対側の辺
33 導体
34隙間
37 開口部
48 誘電体
50 プラズマ
52 誘電体板
60 高周波電源
IR 高周波電流
【技術分野】
【0001】
この発明は、プラズマを用いて基板に、例えばプラズマCVD法による膜形成、エッチング、アッシング、スパッタリング等の処理を施すプラズマ処理装置に関し、より具体的には、アンテナに高周波電流を流すことによって発生する誘導電界によってプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施す誘導結合型のプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波を用いてプラズマを生成するプラズマ処理装置に属するものとして、容量結合型プラズマ(略称CCP)を生成する容量結合型のプラズマ処理装置と、誘導結合型プラズマ(略称ICP)を生成する誘導結合型のプラズマ処理装置とがある。
【0003】
容量結合型のプラズマ処理装置は、簡単に言えば、二枚の平行電極間に高周波電圧を印加して、両電極間に発生する高周波電界を用いてプラズマを生成するものである。
【0004】
この容量結合型のプラズマ処理装置においては、プラズマに高い電圧が印加されてプラズマ電位が高くなり、プラズマ中の荷電粒子(例えばイオン)が高いエネルギーで基板に入射衝突するので、基板上に形成する膜に与えるダメージが大きくなり、膜質が低下する等の課題がある。
【0005】
一方、誘導結合型のプラズマ処理装置は、簡単に言えば、アンテナに高周波電流を流すことによって発生する誘導電界によってプラズマを生成するものであり、基本的に、容量結合型に比べてプラズマ電位を低くすることができる等の利点がある。
【0006】
このような誘導結合型のプラズマ処理装置の一例として、特許文献1には、平板状のアンテナを真空容器の開口部に絶縁枠を介して取り付け、当該アンテナの一端と他端間に高周波電源から高周波電力を供給して高周波電流を流し、それによって発生する誘導電界によってプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施すプラズマ処理装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第WO 2009/142016号パンフレット(段落0024−0026、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
誘導結合型のプラズマ処理装置においても、大型の基板に対応する等のためにアンテナを長くすると、当該アンテナのインピーダンス(特にインダクタンス)が大きくなり、それによってアンテナの長手方向の両端部間に大きな電位差が発生する。
【0009】
このアンテナの電位は、プラズマとの間の静電容量を介してプラズマ電位に反映されるので、アンテナの電位が高いとプラズマ電位も高くなる。その結果、プラズマ中の荷電粒子(例えばイオン)が高いエネルギーで基板に入射衝突するので、基板上に形成する膜に与えるダメージが大きくなり、膜質が低下する等の課題が生じる。
【0010】
また、アンテナの長手方向の両端部間に大きな電位差が発生すると、電位の高い方の端部付近においてはアンテナの電位の振幅が大きいために、容量結合型によるプラズマ生成作用が本来の誘導結合型によるプラズマ生成作用に重畳されるようになり、電位の高い方の端部付近のプラズマ密度が他端部付近のプラズマ密度よりも高くなる。その結果、アンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布の均一性が悪くなり、ひいては基板処理の均一性が悪くなる。
【0011】
そこでこの発明は、誘導結合型の装置であって、アンテナの実効インダクタンスを小さくしてアンテナの長手方向の両端部間に発生する電位差を小さく抑えることができ、それによってプラズマ電位を低く抑えると共にアンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができるプラズマ処理装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係るプラズマ処理装置は、平面形状が実質的にまっすぐなアンテナに高周波電流を流すことによって真空容器内に誘導電界を発生させてプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施す誘導結合型のプラズマ処理装置であって、前記アンテナは、二枚の矩形導体板を前記基板の表面に沿う同一の平面上に位置するように互いに隙間をあけて近接させて平行に配置し、かつ両矩形導体板の長手方向の一方端同士を導体で接続した往復導体構造をしていて、当該二枚の矩形導体板に前記高周波電流が互いに逆向きに流されるものであり、かつ前記二枚の矩形導体板の前記隙間側の辺に前記隙間を挟んで対向する切り欠きをそれぞれ設けて当該対向する切り欠きによって開口部を形成し、この開口部を複数、前記アンテナの長手方向に分散させて配置している、ことを特徴としている。
【0013】
このプラズマ処理装置を構成するアンテナは、大局的に見ると往復導体構造をしていてその二枚の矩形導体板に高周波電流が互いに逆向きに流されるので、往復導体間に存在する相互インダクタンスのぶん、アンテナの実効インダクタンスが小さくなる。従って、従来の単なる平板状のアンテナに比べて、アンテナの長手方向の両端部間に発生する電位差を小さく抑えることができ、それによってプラズマ電位を低く抑えると共にアンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができる。
【0014】
また、アンテナを流れる高周波電流について詳細に見ると、高周波電流は、表皮効果によって、主に二枚の矩形導体板の端部を流れる傾向がある。その内でも、二枚の矩形導体板の隙間側の辺に着目すると、ここでは互いに近接している辺に高周波電流が逆向きに流れるので、隙間と反対側の辺に比べて、インダクタンス(ひいてはインピーダンス。以下同様)がより小さくなる。従って、隙間側の辺およびそこに形成されている開口部に沿って高周波電流がより多く流れることになる。その結果、各開口部は、アンテナの長手方向に分散配置されたコイルと同様に機能するので、簡単な構造で、複数のコイルを直列接続したのと同様の構造を形成することができる。従って簡単な構造で、各開口部付近に強い磁場を発生させて、プラズマ生成効率を高めることができる。
【0015】
しかも、各開口部間の接続部分は、互いに近接している辺に高周波電流が逆向きに流れてインダクタンスが小さくなるので、通常の(即ち片道の)接続導体によって単に複数のコイルを直列接続した構造に比べても、アンテナのインダクタンスを小さくして、アンテナの長手方向の両端部間に発生する電位差を小さく抑えることができる。それによる効果は上記のとおりである。
【0016】
前記アンテナの長手方向における両端部の前記開口部の大きさを、その他の前記開口部の大きさよりも大きくしても良いし、前記アンテナの長手方向における両端部の前記開口部の間隔を、その他の前記開口部の間隔よりも小さくしても良いし、両者を併用しても良い。
【0017】
前記二枚の矩形導体板を、前記基板の表面に沿う同一の平面上に配置する代りに、前記基板の表面と反対側が広がった断面V字構造になるように互いに隙間をあけて近接させて平行に配置しても良いし、短辺方向において湾曲させて、前記基板の表面と反対側が広がった断面U字構造になるように互いに隙間をあけて近接させて平行に配置しても良い。
【0018】
前記二枚の矩形導体板の前記隙間と反対側の辺の周りを、それぞれ、前記矩形導体板の材料の比抵抗よりも大きな比抵抗の導体によって、当該導体を流れる前記高周波電流の表皮厚さ以上の厚さで被覆しておいても良い。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載の発明によれば、アンテナは、大局的に見ると往復導体構造をしていてその二枚の矩形導体板に高周波電流が互いに逆向きに流されるので、往復導体間に存在する相互インダクタンスのぶん、アンテナの実効インダクタンスが小さくなる。従って、従来の単なる平板状のアンテナに比べて、アンテナの長手方向の両端部間に発生する電位差を小さく抑えることができ、それによってプラズマ電位を低く抑えると共にアンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができる。
【0020】
プラズマ電位を低く抑えることができる結果、プラズマから基板に入射する荷電粒子のエネルギーを小さく抑えることができるので、それによって例えば、基板上に形成する膜に与えるダメージを小さく抑えて、膜質向上を図ることができる。また、アンテナを長くする場合でも、上記理由によって、アンテナの電位を低く抑えてプラズマ電位を低く抑えることができるので、アンテナを長くして基板の大型化に対応することが容易になる。
【0021】
アンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができる結果、アンテナの長手方向における基板処理の均一性を高めることができる。例えば、アンテナの長手方向における膜厚分布の均一性を高めることができる。
【0022】
また、アンテナを流れる高周波電流について詳細に見ると、高周波電流は、表皮効果によって、主に二枚の矩形導体板の端部を流れる傾向がある。その内でも、二枚の矩形導体板の隙間側の辺に着目すると、ここでは互いに近接している辺に高周波電流が逆向きに流れるので、隙間と反対側の辺に比べて、インダクタンスひいてはインピーダンスがより小さくなる。従って、隙間側の辺およびそこに形成されている開口部に沿って高周波電流がより多く流れることになる。その結果、各開口部は、アンテナの長手方向に分散配置されたコイルと同様に機能するので、簡単な構造で、複数のコイルを直列接続したのと同様の構造を形成することができる。従って簡単な構造で、各開口部付近に強い磁場を発生させて、プラズマ生成効率を高めることができる。
【0023】
しかも、各開口部間の接続部分は、互いに近接している辺に高周波電流が逆向きに流れてインダクタンスが小さくなるので、通常の(即ち片道の)接続導体によって単に複数のコイルを直列接続した構造に比べても、アンテナのインダクタンスを小さくして、アンテナの長手方向の両端部間に発生する電位差を小さく抑えることができる。それによる効果は上記のとおりである。
【0024】
請求項2に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、アンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布は、通常は、両端部付近のプラズマ密度が他よりも小さくなる傾向にある。これに対して、この発明のように、アンテナの長手方向における両端部の開口部の大きさを、その他の開口部の大きさよりも大きくすることによって、両端部の開口部付近の磁束密度を大きくしてプラズマ密度を大きくすることができるので、アンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができる。その結果、アンテナの長手方向における基板処理の均一性を高めることができる。例えば、アンテナの長手方向における膜厚分布の均一性を高めることができる。
【0025】
請求項3に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、アンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布は、通常は、両端部付近のプラズマ密度が他よりも小さくなる傾向にある。これに対して、この発明のように、アンテナの長手方向における両端部の開口部の間隔を、その他の開口部の間隔よりも小さくすることによって、両端部の開口部付近の磁束密度を大きくしてプラズマ密度を大きくすることができるので、アンテナの長手方向におけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができる。その結果、アンテナの長手方向における基板処理の均一性を高めることができる。例えば、アンテナの長手方向における膜厚分布の均一性を高めることができる。
【0026】
請求項4に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、プラズマ中には二枚の矩形導体板を流れる高周波電流と逆向きの誘導電流が流れ、これによってもアンテナのインダクタンスが低下するけれども、二枚の矩形導体板は断面V字構造に配置されていてその隙間と反対側の辺は、隙間側の辺に比べてプラズマからの距離が大きいのでインダクタンスの低下は少なく、インピーダンスが大きい。その結果、二枚の矩形導体板の隙間側の辺およびそこに形成されている開口部に沿って高周波電流をより多く流すことができるので、高周波電力をプラズマ生成により効率的に投入することができる。従って、プラズマの生成効率ひいては高周波電力の利用効率を高めることができる。
【0027】
請求項5に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、二枚の矩形導体板は断面U字構造に配置されていてその隙間と反対側の辺は、隙間側の辺に比べてプラズマからの距離が大きいので、請求項4の発明と同様の理由から、インダクタンスの低下は少なく、インピーダンスが大きい。その結果、二枚の矩形導体板の隙間側の辺およびそこに形成されている開口部に沿って高周波電流をより多く流すことができるので、高周波電力をプラズマ生成により効率的に投入することができる。従って、プラズマの生成効率ひいては高周波電力の利用効率を高めることができる。
【0028】
請求項6に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、二枚の矩形導体板の隙間と反対側の辺の周りを、矩形導体板の材料の比抵抗よりも大きな比抵抗の導体によって、当該導体を流れる高周波電流の表皮厚さ以上の厚さで被覆していて、表皮効果によって高周波電流は主にこの比抵抗の大きい導体を流れるので、二枚の矩形導体板の隙間と反対側の辺のインピーダンスが大きくなる。その結果、二枚の矩形導体板の隙間側の辺およびそこに形成されている開口部に沿って高周波電流をより多く流すことができるので、高周波電力をプラズマ生成により効率的に投入することができる。従って、プラズマの生成効率ひいては高周波電力の利用効率を高めることができる。
【0029】
請求項7に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、真空容器内側に位置するアンテナとプラズマの生成領域との間に、アンテナをプラズマから遮る誘電体板を設けておくことによって、アンテナの表面がプラズマ中の荷電粒子(主としてイオン)によってスパッタされるのを防止することができるので、当該スパッタによってプラズマおよび基板に対して金属汚染(メタルコンタミネーション)が生じることを防止することができる。更に、プラズマを構成する電子はイオンよりも軽くて移動度が遥かに大きいけれども、上記誘電体板によって当該電子がアンテナに入射してプラズマから逃げるのを防止することができるので、プラズマ電位の上昇を抑制することもできる。
【0030】
また、真空容器内側に位置するアンテナを誘電体内に埋めておくことによって、真空容器内に位置するアンテナのすぐ近くで不要なプラズマが発生するのを防止することができる。それによって、基板処理に必要なプラズマの不安定性増加、高周波電力の利用効率低下等の不都合発生を防止することができる。
【0031】
請求項8に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、互いに並列に配置され、かつ並列に高周波電力が供給される複数のアンテナを備えているので、より大面積のプラズマを生成することができる。しかも、共通の高周波電源から、隣り合うアンテナの隣り合う矩形導体板の隙間と反対側の隣り合う辺に流れる高周波電流が互いに同方向となるように高周波電力を並列に供給するように構成しているので、上記隙間と反対側の隣り合う辺間の相互インダクタンスのぶん、当該辺のインダクタンスが大きくなる。その結果、上記隙間と反対側の隣り合う辺に沿って流れる高周波電流を減少させ、隙間側の辺およびそこに形成されている開口部に沿って流れる高周波電流を増大させることができるので、各開口部付近に発生させる磁場を強めることができる。その結果、高周波電力をプラズマ生成により効率的に投入することができるので、プラズマの生成効率ひいては高周波電力の利用効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明に係るプラズマ処理装置の一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】図1中の一つのアンテナの概略平面図である。
【図3】図1中の一つのアンテナの概略平面図であり、冷却パイプは省略している。
【図4】図3中の線A−Aに沿う拡大断面図である。
【図5】図3に示すアンテナの概略の等価回路図である。
【図6】図3に示すアンテナの一つの開口部周りを拡大して示す平面図である。
【図7】上下方向に配置された往復導体の一例を示す概略断面図である。
【図8】図3に示すアンテナの寸法を表す符号を記入した図である。
【図9】図8に示すアンテナのX方向における磁束密度分布を測定した結果の一例を示す図である。
【図10】図8に示すアンテナのY方向における磁束密度分布を測定した結果の一例を示す図である。
【図11】アンテナの他の例を示す概略断面図であり、図4に示す断面図に対応している。
【図12】アンテナの更に他の例を示す概略断面図であり、図4に示す断面図に対応している。
【図13】アンテナの更に他の例を示す概略図であり、(A)は平面図、(B)は断面図である。
【図14】開口部の大きさを変えて開口部付近の導体面垂直方向の磁束密度を測定したときのモデルを示す図である。
【図15】図14に示すモデルにおいて開口部の大きさを変えて開口部付近の導体面垂直方向の磁束密度を測定した結果の一例を示す図である。
【図16】複数のアンテナを並列配置してそれらに共通の高周波電源から高周波電力を並列に供給する構成の一例を示す概略平面図である。
【図17】複数のアンテナを並列配置してそれらに共通の高周波電源から高周波電力を並列に供給する構成の他の例を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
この発明に係るプラズマ処理装置の一実施形態を図1に示し、その一つのアンテナ30を抜き出して図2〜図4に示す。図1、図2以外では、図示を簡略化するために、冷却パイプは省略している。後述する他の実施形態においても同様である。
【0034】
アンテナ30等の向きを表すために、一点で互いに直交するX方向、Y方向およびZ方向を各図中に記載している。Z方向は基板2の表面に立てた垂線3に平行な方向であり、Y方向は当該垂線3に直交する方向であり、これらは表現を簡略化するために、それぞれ、上下方向Z、左右方向Yと呼ぶことにする。X方向は、垂線3に直交する方向であり、かつアンテナ30の長手方向である。例えば、X方向およびY方向は水平方向であるが、これに限られるものではない。以上のことは、他の図においても同様である。
【0035】
この装置は、平面形状が実質的にまっすぐなアンテナ30に高周波電源60から高周波電流IR を流すことによって真空容器4内に誘導電界を発生させて当該誘導電界によってプラズマ50を生成し、このプラズマ50を用いて基板2に処理を施す誘導結合型のプラズマ処理装置である。
【0036】
「実質的にまっすぐ」というのは、文字どおりまっすぐな状態だけでなく、まっすぐに近い状態(ほぼまっすぐな状態)をも含む意味である。
【0037】
真空容器4内には、基板2を保持するホルダ10が設けられている。
【0038】
基板2は、例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)用の基板、フレキシブルディスプレイ用のフレキシブル基板、太陽電池等の半導体デバイス用の基板等であるが、これに限られるものではない。
【0039】
基板2の平面形状は、例えば円形、四角形等であり、特定の形状に限定されない。
【0040】
基板2に施す処理は、例えば、プラズマCVD法による膜形成、エッチング、アッシング、スパッタリング等である。
【0041】
このプラズマ処理装置は、プラズマCVD法によって膜形成を行う場合はプラズマCVD装置、エッチングを行う場合はプラズマエッチング装置、アッシングを行う場合はプラズマアッシング装置、スパッタリングを行う場合はプラズマスパッタリング装置とも呼ばれる。
【0042】
このプラズマ処理装置は、例えば金属製の真空容器4を備えており、その内部は真空排気口8を通して真空排気される。
【0043】
真空容器4内には、ガス導入管22を通してガス24が導入される。ガス導入管22は、この例では、各アンテナ30の長手方向Xに複数本ずつ配置されており、それらの前にはガス24を拡散させるガス拡散板26が設けられている。
【0044】
ガス24は、基板2に施す処理内容に応じたものにすれば良い。例えば、プラズマCVD法によって基板2に膜形成を行う場合は、ガス24は、原料ガスまたはそれを希釈ガス(例えばH2 )で希釈したガスである。より具体例を挙げると、原料ガスがSiH4 の場合はSi 膜を、SiH4 +NH3 の場合はSiN膜を、SiH4 +O2 の場合はSiO2 膜を、それぞれ基板2の表面に形成することができる。
【0045】
真空容器4の天井面6に、各アンテナ30の平面形状に対応した平面形状の開口部7がこの例では二つ設けられており、各開口部7内にアンテナ30がそれぞれ設けられている。即ち、この実施形態はアンテナ30を二つ有している。
【0046】
各開口部7の上部には蓋板(例えばフランジ)44が設けられており、各蓋板44と天井面6との間には真空シール用のパッキン46が設けられている。各蓋板44は誘電体製でも良いが、この例では金属製にして、真空容器4と共に電気的に接地している。そのようにすると、各アンテナ30からの高周波の外部への漏れを抑えることができる。
【0047】
主に図3を参照して、各アンテナ30は、二枚のX方向に長い矩形導体板31、32を、基板2の表面に沿う同一の平面上(即ちこの例では、XY平面に平行な同一平面上)に位置するように、互いに隙間34をあけて近接させて平行に配置した構成をしている。換言すれば、二枚の矩形導体板31、32を、それらの端面を隙間34をあけて対向させて、両矩形導体板31、32が平面になるように互いに近接させて平行に配置している。かつ、両矩形導体板31、32の長手方向Xの一方端同士を導体33で接続している。これによって、各アンテナ30は往復導体構造をしている。導体33は、両矩形導体板31、32と別体のものでも良いし、一体のものでも良い。
【0048】
各矩形導体板31、32および導体33の材質は、例えば、銅(より具体的には無酸素銅)、アルミニウム等であるが、これに限られるものではない。
【0049】
各アンテナ30を構成する二枚の矩形導体板31、32には、高周波電源60から整合回路62を経由して高周波電力が供給され、それによって当該二枚の矩形導体板31、32には、互いに逆向きの高周波電流(往復電流)IR が流される(高周波だから、この高周波電流IR の向きは時間によって反転する。以下同様)。詳述すると、往復導体構造をしている一方側の矩形導体板31の、上記導体33とは反対側の端部を高周波電力の給電点とし、他方側の矩形導体板32の、上記導体33とは反対側の端部を終端点としている。この終端点は、図示例のように直接接地しても良いし、コンデンサを介して接地しても良い。後述する他の例のアンテナ30についても同様である。
【0050】
なお、図3、図5等では、説明を分かりやすくする等のために、一つのアンテナ30につき高周波電源60および整合回路62を一つずつ設けた例を図示しているが、そのようにせずに、一つの高周波電源60および整合回路62を複数のアンテナ30に共用しても良い。即ち、複数のアンテナ30に共通の高周波電源60から高周波電力を並列に供給するようにしても良い。その場合の例は後述する。
【0051】
上記高周波電流IR によって、各アンテナ30の周囲に高周波磁界が発生し、それによって高周波電流IR と逆方向に誘導電界が発生する。この誘導電界によって、真空容器4内において、電子が加速されてアンテナ30の近傍のガス24を電離させてアンテナ30の近傍にプラズマ50が発生する。このプラズマ50は基板2の近傍まで拡散し、このプラズマ50によって基板2に前述した処理を施すことができる。
【0052】
高周波電源60から出力する高周波電力の周波数は、例えば、一般的な13.56MHzであるが、これに限られるものではない。
【0053】
二枚の矩形導体板31、32の隙間34側の辺(換言すれば内側の辺)31a、32aに、隙間34を挟んで対向する切り欠き35、36をそれぞれ設けて、当該対向する切り欠き35、36によって開口部37を形成し、この開口部37を複数、アンテナ30の長手方向Xに分散させて配置している。開口部37の数はこの例では五つであるが、それ以外でも良い。後述する他の例のアンテナ30についても同様である。
【0054】
各切り欠き35、36は、隙間34を中心にして対称形のものにするのが好ましい。各開口部37の形状は、図示例のように円形でも良いし、方形等でも良い。
【0055】
上記各アンテナ30は、大局的に見ると往復導体構造をしていてその二枚の矩形導体板に高周波電流IR が互いに逆向きに流されるので、往復導体31、32間に存在する相互インダクタンスのぶん、アンテナ30の実効インダクタンスが小さくなる。
【0056】
これを詳述すると、互いに接近している平行な往復導体の総合インピーダンスZT は、差動接続として電気理論の書籍等にも記載されているように、次式で表される。ここでは説明を簡略化するために、各導体の抵抗を共にR、自己インダクタンスを共にLとし、両導体間の相互インダクタンスをMとしている。
【0057】
[数1]
ZT =2R+j2(L−M)
【0058】
上記総合インピーダンスZT の内のインダクタンスLT は次式で表される。このインダクタンスLT のように、自己インダクタンスと相互インダクタンスとを合成したものを、この明細書では実効インダクタンスと呼ぶことにする。
【0059】
[数2]
LT =2(L−M)
【0060】
上記式からも分るように、往復導体の実効インダクタンスLT は、相互インダクタンスMのぶん小さくなり、ひいては総合インピーダンスZT も小さくなる。この原理が往復導体構造をしている上記アンテナ30にも適用される。
【0061】
上記原理によってアンテナ30の実効インダクタンスが小さくなる結果、前述した従来の単なる平板状のアンテナに比べて、アンテナ30の長手方向Xの両端部間に発生する電位差を小さく抑えることができ、それによってプラズマ50の電位を低く抑えると共にアンテナ30の長手方向Xにおけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができる。
【0062】
プラズマ50の電位を低く抑えることができる結果、プラズマ50から基板2に入射する荷電粒子(例えばイオン)のエネルギーを小さく抑えることができる。それによって例えば、プラズマ50によって基板2上に膜を形成する場合、当該膜に与えるダメージを小さく抑えて、膜質向上を図ることができる。また、アンテナ30をX方向に長くする場合でも、上記理由によって、アンテナ30の電位を低く抑えてプラズマ電位を低く抑えることができるので、アンテナ30を長くして基板2の大型化に対応することが容易になる。
【0063】
アンテナ30の長手方向Xにおけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができる結果、アンテナ30の長手方向Xにおける基板処理の均一性を高めることができる。例えば、プラズマ50によって基板2上に膜を形成する場合、アンテナ30の長手方向における膜厚分布の均一性を高めることができる。
【0064】
また、各アンテナ30を流れる高周波電流IR について詳細に見ると、図3、図4に示すように、高周波電流IR は、表皮効果によって、主に二枚の矩形導体板31、32の端部を流れる傾向がある。その内でも、二枚の矩形導体板31、32の隙間34側の辺(内側の辺)31a、32aに着目すると、ここでは互いに近接している辺に高周波電流IR が逆向きに流れるので、隙間34と反対側の辺(換言すれば外側の辺)31b、32bに比べて、インダクタンスひいてはインピーダンスがより小さくなる。
【0065】
即ち、アンテナ30を流れる高周波電流IR について見れば、外側の辺31b、32bを流れる高周波電流IR に対してはその逆向きに流れる高周波電流がないのに対して、互いに近接している内側の辺31a、32aには高周波電流IR が互いに逆向きに流れるので、内側の辺31a、32aの方がインダクタンスひいてはインピーダンスがより小さくなる。これは先に数1、数2を参照して説明した原理による。即ち、内側の辺31a、32aは、その相互インダクタンスのぶん実効インダクタンスが低下するということである。
【0066】
先にアンテナ30を大局的に見て説明した、相互インダクタンスの存在による実効インダクタンスの低下には、詳しく見ると、この内側の辺31a、32a間の相互インダクタンスによるインダクタンスの低下が大きく寄与していると言うことができる。
【0067】
アンテナ30の内側の辺31a、32aおよび外側の辺31b、32bを流れる高周波電流IR に着目して、図3に示すアンテナ30の概略の等価回路を描くと図5となる。実際は各辺31a、32a、31b、32b上に分散して分布して存在しているインピーダンスを、この例ではまとめてZ1 〜Z4 で示している。上述したように、外側の辺31b、32bのインピーダンスZ2 、Z4 に比べて、内側の辺31a、32aのインピーダンスZ1 、Z3 の方が小さくなる。
【0068】
従って、内側の辺31a、32aおよびそこに形成されている開口部37に沿って高周波電流IR がより多く流れることになる。その結果、各開口部37は、アンテナ30の長手方向Xに分散配置されたコイルと同様に機能するので、簡単な構造で、複数のコイルを直列接続したのと同様の構造を形成することができる。従って簡単な構造で、各開口部37付近に強い磁場を発生させて、プラズマ生成効率を高めることができる。
【0069】
各開口部37付近に作られる磁場の例を図6を参照して説明する。開口部37に沿って高周波電流IR が互いに逆向きに流れ、それぞれが発生させる磁界64、65は開口部37において互いに同方向になるので、磁場強度は両者の和となり、強い磁場を発生させることができる。また、アンテナ面(導体面)に垂直な方向(即ちZ方向)の磁界66を強くすることができる。この磁場によって誘起されてプラズマ50中を流れる誘導電流68は、磁界66を周回するように、高周波電流IR とは逆方向に流れる。
【0070】
また、図3を参照して、各開口部37間の接続部分38は、互いに近接している辺に高周波電流IR が逆向きに流れて、前述した理由によってインダクタンスが小さくなるので、通常の(即ち片道の)接続導体によって単に複数のコイルを直列接続した構造に比べても、アンテナ30のインダクタンスを小さくして、アンテナの長手方向Xの両端部間に発生する電位差を小さく抑えることができる。それによる効果は前述のとおりである。
【0071】
なお、アンテナ30を流れる高周波電流IR と、この高周波電流IR によって誘起されてプラズマ50内を流れる誘導電流68との関係について見れば、図4に示すように両者は互いに逆向きに流れる。
【0072】
往復導体によってアンテナの実効インダクタンスを小さくしてアンテナの長手方向Xの両端部間に発生する電位差を小さく抑えるためには、図7に示す例のように、平板状の二つの導体(往復導体)71、72をプラズマ50の生成領域に対して上下方向に近接して配置するという考えもあるけれども、この場合は両導体71、72を互いに逆向きに流れる高周波電流IR が作る磁界73、74は、プラズマ50の生成領域では互いに逆方向になるので、磁場強度は両者の差となり弱くなる。これに対して、この実施形態のアンテナ30の場合は、先に図6を参照して説明したように、開口部37に沿って流れる高周波電流IR が作る磁場強度は和であるため、強い磁場を発生させることができる。それによって、プラズマ50の生成効率ひいては高周波電力の利用効率を高めることができる。
【0073】
アンテナ30の冷却は、図1、図2に示す例のように、両矩形導体板31、32の上面にまっすぐな冷却パイプ42を取り付けることによって行うことができる。従って、冷却構造が簡単であり、製作しやすい。後述する他の例のアンテナ30の場合も同様である。
【0074】
図3に示したアンテナ30の寸法を表す符号を記入した図を図8に示す。この図8では、X、Y方向の原点Oを、長手方向Xの中央の開口部37の中心に取っている。そしてこの図8に示すアンテナのX方向における磁束密度分布を測定した結果の一例を図9に示し、Y方向における磁束密度分布を測定した結果の一例を図10に示す。
【0075】
この測定の条件は次のとおりである。即ち、両矩形導体板31、32の長さL1 を300mm、幅W1 を50mm、隙間34の幅W2 を5mm、開口部37の数を五つ、各開口部37の直径Dを40mm、隣り合う開口部37の間隔を50mmとした。両矩形導体板31、32の材質を銅、高周波電力の周波数を13.56MHz、高周波電源60の出力を3Wとした。反射電力は0Wであった。磁束密度は導体面から30mmの位置で測定した。プラズマ50は発生させていない。
【0076】
図9に示すように、開口部37の位置に対応する脈動は少なく、アンテナ30の長手方向Xにおいて、均一性の良い磁束密度分布が得られている。これは、(a)導体面から30mm程度の位置では、各開口部37付近で作られる磁束密度がX方向に広がりを持っている、(b)隙間34の幅W2 が5mmあるので、開口部37間の接続部分38でも少しは磁場が発生している、こと等によるものと考えられる。
【0077】
図10に示すように、Y方向においては、開口部37の中心付近に強い磁場が発生しているのに対して、両矩形導体板31、32の外側の辺31b、32b付近(±50mm付近)での磁場は小さい。これは、前述したように、外側の辺31b、32bを流れる高周波電流が小さいことを表している。
【0078】
複数の開口部37の大きさまたは隣り合う開口部37間の間隔を、全て同一にするのでなく、アンテナ30の長手方向Xにおいて異ならせても良い。両者を併用しても良い。必要に応じて、長手方向Xの中央部付近の開口部37を省いても良い。このようにすることによって、アンテナ30の長手方向Xにおけるプラズマ密度分布を調整することができる。後述する他の例のアンテナ30においても同様である。
【0079】
図14に示すモデルを用いて、その開口部37の大きさ(直径)を変えて、開口部37付近の導体面垂直方向(即ち前述したZ方向)の磁束密度を測定した結果の一例を図15に示す。この測定条件は次のとおりである。矩形導体板31、32および隙間34の寸法は図14中に記載したとおりであり、両矩形導体板31、32の材質を銅、高周波電力の周波数を13.56MHz、測定時の高周波電力を3Wとした。磁束密度は導体面から30mmの位置で測定した。プラズマは発生させていない。
【0080】
図15に示すように、開口部37の寸法を大きくすることによって、開口部37付近の磁束密度を大きくすることができる。
【0081】
上述した複数の開口部37の大きさまたは隣り合う開口部37間の間隔を、全て同一にするのでなく、アンテナ30の長手方向Xにおいて異ならせる場合の具体例を説明する。
【0082】
アンテナ30の長手方向Xにおけるプラズマ密度分布は、通常は、両端部付近のプラズマ密度が他よりも小さくなる傾向にある。その理由を簡単に説明すると、両端部以外は左右両側からプラズマが拡散して来るのに対して、両端部は片側からしかプラズマが拡散して来ないからである。
【0083】
そこで、アンテナ30の長手方向Xにおける両端部の開口部37の大きさを、その他の開口部37の大きさよりも大きくしても良い。それによって、上記図15に示す測定結果からも分るように、両端部の開口部37付近の磁束密度を大きくしてプラズマ密度を大きくすることができるので、アンテナ30の長手方向Xにおけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができる。その結果、アンテナ30の長手方向Xにおける基板処理の均一性を高めることができる。例えば、プラズマ50によって基板2上に膜を形成する場合、アンテナ30の長手方向Xにおける膜厚分布の均一性を高めることができる。
【0084】
この場合、必要に応じて長手方向Xの中央部付近の開口部37を省いても良い。
【0085】
また、アンテナ30の長手方向Xにおける両端部の開口部37の間隔(つまり隣り合う開口部37間の間隔)を、その他の開口部37の間隔よりも小さくしても良い。それによって、両端部の開口部37付近の磁束密度を大きくしてプラズマ密度を大きくすることができるので、アンテナ30の長手方向Xにおけるプラズマ密度分布の均一性を高めることができる。その結果、アンテナ30の長手方向Xにおける基板処理の均一性を高めることができる。例えば、プラズマ50によって基板2上に膜を形成する場合、アンテナ30の長手方向Xにおける膜厚分布の均一性を高めることができる。
【0086】
この場合も、必要に応じて長手方向Xの中央部付近の開口部37を省いても良い。
【0087】
また、上述したアンテナ30の長手方向Xにおける両端部の開口部37の大きさを、その他の開口部37の大きさよりも大きくすることと、アンテナ30の長手方向Xにおける両端部の開口部37の間隔を、その他の開口部37の間隔よりも小さくすることとを併用しても良い。
【0088】
図1に示す例のように、真空容器4内に位置するアンテナ30とプラズマ50の生成領域との間に、アンテナ30をプラズマ50から遮る誘電体板52を設けておいても良い。誘電体板52は、アンテナ30に近接させて設けるのが好ましい。その方が、プラズマ50の生成空間を広く取ることができる等の利点があるからである。より具体的にはこの例では、各アンテナ30を配置している各開口部7の入口付近に誘電体板52をそれぞれ設けている。誘電体板52は、開口部7の入口付近に直接取り付けても良いし、この例のように支持板54を用いて取り付けても良い。また、複数のアンテナ30に共通の誘電体板52を設けても良い。後述する他の例のアンテナ30を用いる場合も同様である。
【0089】
誘電体板52は、例えば、石英、アルミナ、シリコンカーバイドなどのセラミックス、あるいはシリコン板などから成る。
【0090】
誘電体板52を設けておくと、アンテナ30の表面がプラズマ50中の荷電粒子(主としてイオン)によってスパッタされるのを防止することができるので、当該スパッタによってプラズマ50および基板2に対して金属汚染(メタルコンタミネーション)が生じることを防止することができる。更に、プラズマ50を構成する電子はイオンよりも軽くて移動度が遥かに大きいけれども、上記誘電体板52によって当該電子がアンテナ30に入射してプラズマ50から逃げるのを防止することができるので、プラズマ電位の上昇を抑制することもできる。
【0091】
また、図1に示す例のように、真空容器4内に位置するアンテナ30を誘電体48内に埋めておいても良い。アンテナ30に冷却パイプ42を取り付けている場合はそれも埋めておけば良い。より具体的にはこの例では、各アンテナ30を配置している各開口部7内の、蓋板44とアンテナ30の下面との間の空間のほぼ全てを誘電体48で埋めている。後述する他の例のアンテナ30を用いる場合も同様である。
【0092】
誘電体48は、例えば、セラミックスなどの絶縁性無機材料、あるいは絶縁性樹脂などから成る。
【0093】
誘電体板52を設けていない場合はもちろんであるが、誘電体板52を設けていても、それでガス24を完全にシールしているわけではないので、真空容器4内に位置するアンテナ30の部分には、誘電体48を設けていないと、ガス24が拡散して来る。この拡散して来たガス24が電離されてアンテナ30のすぐ近くでプラズマが発生したり、状況によっては発生しなかったりするので、基板処理に必要な本来のプラズマ50の不安定性を増加させる。
【0094】
これに対して、アンテナ30を上記のように誘電体48内に埋めておくことによって、アンテナ30のすぐ近くにガス24が拡散して来るのを防止することができるので、真空容器4内に位置するアンテナ30のすぐ近くで不要なプラズマが発生するのを防止することができる。それによって、基板処理に必要な本来のプラズマ50の不安定性増加、高周波電力の利用効率低下等の不都合発生を防止することができる。
【0095】
次に、アンテナ30の他の例を、上述した例との相違点を主体に説明する。
【0096】
アンテナ30を構成する二枚の矩形導体板31、32を、前述したように基板2の表面に沿う同一の平面上に配置する代りに、図11に示す例のように、基板2の表面と反対側(換言すればプラズマ50の生成領域と反対側)が広がった断面V字構造になるように互いに隙間34をあけて近接させて平行に配置しても良い。冷却パイプ42、誘電体48、誘電体板52については、図1に示した例の場合と同様である。
【0097】
前述したように、高周波電流IR によってプラズマ50を発生させると、プラズマ50中には二枚の矩形導体板31、32を流れる高周波電流IR と逆向きの誘導電流68が流れ、これによっても、先に数1および数2を参照して説明したのと同様の原理によって、アンテナ30のインダクタンスひいてはインピーダンスが低下するけれども、二枚の矩形導体板31、32は断面V字構造に配置されていてその隙間34と反対側の辺31b、32bは、隙間側の辺31a、32aに比べてプラズマ50からの距離L2 が大きいのでインダクタンスの低下は少なく、インピーダンスが大きい。その結果、二枚の矩形導体板31、32の隙間側の辺31a、32aおよびそこに形成されている開口部37に沿って高周波電流IR をより多く流すことができるので、高周波電力をプラズマ生成により効率的に投入することができる。従って、プラズマ50の生成効率ひいては高周波電力の利用効率を高めることができる。
【0098】
二枚の矩形導体板31、32の傾きの程度は適宜定めれば良く、傾きを大きくすると、上述した内側の辺31a、32aと外側の辺31b、32bとの間にインダクタンスひいてはインピーダンスの差をつける作用は大きくなる。
【0099】
アンテナ30を構成する二枚の矩形導体板31、32を、基板2の表面に沿う同一の平面上に配置する代りに、図12に示す例のように、各矩形導体板31、32をその短辺方向において湾曲させて、基板2の表面と反対側(換言すればプラズマ50の生成領域と反対側)が広がった断面U字構造になるように互いに隙間34をあけて近接させて平行に配置しても良い。開口部37付近は平面でも良い。冷却パイプ42、誘電体48、誘電体板52については、図1に示した例の場合と同様である。
【0100】
この例の場合も、二枚の矩形導体板31、32は断面U字構造に配置されていてその隙間34と反対側の辺31b、32bは、隙間側の辺31a、32aに比べてプラズマ50からの距離L2 が大きいので、図11の例の場合と同様の理由から、インダクタンスの低下は少なく、インピーダンスが大きい。その結果、二枚の矩形導体板31、32の隙間側の辺31a、32aおよびそこに形成されている開口部37に沿って高周波電流IR をより多く流すことができるので、高周波電力をプラズマ生成により効率的に投入することができる。従って、プラズマ50の生成効率ひいては高周波電力の利用効率を高めることができる。
【0101】
二枚の矩形導体板31、32の湾曲の程度は適宜定めれば良く、湾曲を大きくすると、上述した内側の辺31a、32aと外側の辺31b、32bとの間にインダクタンスひいてはインピーダンスの差をつける作用は大きくなる。
【0102】
図13に示す例のように、アンテナ30を構成する二枚の矩形導体板31、32の隙間34と反対側の辺31b、32bの周りを、それぞれ、矩形導体板31、32の材料の比抵抗よりも大きな比抵抗の導体76によって、当該導体76を流れる高周波電流IR の表皮厚さ以上の厚さで被覆しておいても良い。
【0103】
前述したように、表皮効果によって高周波電流IR は矩形導体板31、32の主に端部を流れる。そこで、ここでは矩形導体板31、32の外側の辺31b、32bに着目して、その辺31b、32bの周り(上下面および端面)を導体76で覆っておく。導体76のY方向の幅W4 は、例えば10mm〜20mm程度で十分である。導体76で上記のように覆うためには、例えば、矩形導体板31、32の外側の辺31b、32bに導体76をメッキによって形成するのが簡単で良い。
【0104】
矩形導体板31、32の材質は、前述したように銅、アルミニウム等である。それよりも比抵抗の大きい導体76の材質は、例えばニッケル、鉄等である。これらは、比抵抗が大きいだけでなく、透磁率も大きいので好ましい。
【0105】
上記高周波電流IR の表皮厚さδは次式で表される。ここで、fは高周波電流IR の周波数、μは導体76の透磁率、σは導体76の導電率(=1/比抵抗ρ)である。
【0106】
[数3]
δ=1/√(πfμσ)
【0107】
具体例を挙げると、周波数fは13.56MHzである。導体76がニッケルの場合、透磁率μは約2.4π×10-4N/A2 、比抵抗ρは約6.84×10-8Ωm、導電率σは約14.5×106 /Ωmであるので、表皮厚さδは約1.47μmとなる。従って、導体76の厚さをこれ以上にすれば良い。
【0108】
上記導体76を被覆しておくと、矩形導体板31、32の外側の辺31b、32b側を流れる高周波電流IR は、表皮効果によって、主にこの比抵抗の大きい導体76を流れるので、矩形導体板31、32の隙間と反対側の辺31b、32bのインピーダンスが大きくなる。その結果、二枚の矩形導体板31、32の隙間側の辺31a、32aおよびそこに形成されている開口部37に沿って高周波電流IR をより多く流すことができるので、高周波電力をプラズマ生成により効率的に投入することができる。従って、プラズマ50の生成効率ひいては高周波電力の利用効率を高めることができる。
【0109】
図16、図17にそれぞれ示す例のように、前記構成のアンテナ30を、複数、互いにY方向に並列に配置し、この複数のアンテナ30に、共通の高周波電源60から高周波電力を並列に供給するようにしても良い。各アンテナ30は、前述したいずれの構成でも良い。
【0110】
高周波電源60(より具体的にはそれに接続された整合回路62)と各アンテナ30とは、図示例のように可変インピーダンス78を介在させて接続しても良いし、そのようにせずに直接接続しても良い。
【0111】
可変インピーダンス78は、図示例のような可変インダクタンスでも良いし、可変コンデンサ(可変キャパシタンス)でも良いし、両者を混在させても良い。可変インダクタンスを挿入することによって、給電回路のインピーダンスを増大させることができるので、高周波電流IR が流れ過ぎるアンテナ30の電流を抑えることができる。可変コンデンサを挿入することによって、誘導性リアクタンスが大きい場合に容量性リアクタンスを増大させて、給電回路のインピーダンスを低下させることができるので、高周波電流IR が流れにくいアンテナ30の電流を増加させることができる。
【0112】
図16、図17の例の内、図16の例は、共通の高周波電源60から、隣り合うアンテナ30の隣り合う矩形導体板32、31の隙間34と反対側の隣り合う辺32b、31bに流れる高周波電流IR が互いに逆方向となるように高周波電力を並列に供給するように構成している例であり、図17の例は、共通の高周波電源60から、隣り合うアンテナ30の隣り合う矩形導体板32、31の隙間34と反対側の隣り合う辺32b、31bに流れる高周波電流IR が互いに同方向となるように高周波電力を並列に供給するように構成している例である。
【0113】
並列に配置するアンテナ30の数は、図示例の二つに限られるものではなく、三つ以上でも良い。
【0114】
図16、図17のいずれの例の場合も、互いに並列に配置され、かつ並列に高周波電力が供給される複数のアンテナ30を備えているので、より大面積のプラズマを生成することができる。
【0115】
但し、各開口部37付近に発生させる磁場の観点からは、図17に示す例の方が好ましい。これは次の理由による。
【0116】
即ち、図16に示す例の場合は、上記隙間34と反対側の隣り合う辺32b、31bに流れる高周波電流IR が互いに逆方向となるので、先に数1、数2を参照して説明した原理によって、両辺32b、31b間の相互インダクタンスのぶん、当該辺のインダクタンスが小さくなる。その結果、上記隙間34と反対側の隣り合う辺32b、31bに沿って流れる高周波電流IR を増大させ、隙間34側の辺32a、31aおよびそこに形成されている開口部37に沿って流れる高周波電流IR を減少させることになるので、各開口部37付近に発生させる磁場を弱めることになる。この課題は、隣り合うアンテナ30間の間隔を大きくすれば軽減することができるけれども、そのようにすると、大きくした間隔の部分でプラズマ密度が低下するので、複数のアンテナ30によって発生させるプラズマ全体の均一性が低下するという別の課題が生じる。
【0117】
これに対して、図17に示す例の場合は、上記隙間34と反対側の隣り合う辺32b、31bに流れる高周波電流IR が互いに同方向となるので、先に数1、数2を参照して説明した原理によって(但し、この場合は+Mとなる)、両辺32b、31b間の相互インダクタンスのぶん、当該辺のインダクタンスが大きくなる。その結果、上記隙間34と反対側の隣り合う辺32b、31bに沿って流れる高周波電流IR を減少させ、隙間34側の辺32a、31aおよびそこに形成されている開口部37に沿って流れる高周波電流IR を増大させることができるので、各開口部37付近に発生させる磁場を強めることができる。その結果、高周波電力をプラズマ生成により効率的に投入することができるので、プラズマの生成効率ひいては高周波電力の利用効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0118】
2 基板
4 真空容器
24 ガス
30 アンテナ
31、32 矩形導体板
31a、32a 隙間側の辺
31b、32b 隙間と反対側の辺
33 導体
34隙間
37 開口部
48 誘電体
50 プラズマ
52 誘電体板
60 高周波電源
IR 高周波電流
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面形状が実質的にまっすぐなアンテナに高周波電流を流すことによって真空容器内に誘導電界を発生させてプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施す誘導結合型のプラズマ処理装置であって、
前記アンテナは、二枚の矩形導体板を前記基板の表面に沿う同一の平面上に位置するように互いに隙間をあけて近接させて平行に配置し、かつ両矩形導体板の長手方向の一方端同士を導体で接続した往復導体構造をしていて、当該二枚の矩形導体板に前記高周波電流が互いに逆向きに流されるものであり、
かつ前記二枚の矩形導体板の前記隙間側の辺に前記隙間を挟んで対向する切り欠きをそれぞれ設けて当該対向する切り欠きによって開口部を形成し、この開口部を複数、前記アンテナの長手方向に分散させて配置している、ことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記アンテナの長手方向における両端部の前記開口部の大きさを、その他の前記開口部の大きさよりも大きくしている請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記アンテナの長手方向における両端部の前記開口部の間隔を、その他の前記開口部の間隔よりも小さくしている請求項1または2記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記二枚の矩形導体板を前記基板の表面に沿う同一の平面上に配置する代りに、前記二枚の矩形導体板を、前記基板の表面と反対側が広がった断面V字構造になるように互いに隙間をあけて近接させて平行に配置している請求項1、2または3記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記二枚の矩形導体板を前記基板の表面に沿う同一の平面上に配置する代りに、前記二枚の矩形導体板を、短辺方向において湾曲させて、前記基板の表面と反対側が広がった断面U字構造になるように互いに隙間をあけて近接させて平行に配置している請求項1、2または3記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記二枚の矩形導体板の前記隙間と反対側の辺の周りを、それぞれ、前記矩形導体板の材料の比抵抗よりも大きな比抵抗の導体によって、当該導体を流れる前記高周波電流の表皮厚さ以上の厚さで被覆している請求項1、2または3記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記真空容器内側に位置する前記アンテナと前記プラズマの生成領域との間に、前記アンテナを前記プラズマから遮る誘電体板を備えており、かつ前記真空容器内側に位置する前記アンテナを誘電体内に埋めている請求項1から6のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
前記アンテナを複数備えていてこれらは互いに並列に配置されており、
当該複数のアンテナに共通の高周波電源から、隣り合うアンテナの隣り合う前記矩形導体板の前記隙間と反対側の隣り合う辺に流れる高周波電流が互いに同方向となるように高周波電力を並列に供給するように構成している請求項1から7のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項1】
平面形状が実質的にまっすぐなアンテナに高周波電流を流すことによって真空容器内に誘導電界を発生させてプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施す誘導結合型のプラズマ処理装置であって、
前記アンテナは、二枚の矩形導体板を前記基板の表面に沿う同一の平面上に位置するように互いに隙間をあけて近接させて平行に配置し、かつ両矩形導体板の長手方向の一方端同士を導体で接続した往復導体構造をしていて、当該二枚の矩形導体板に前記高周波電流が互いに逆向きに流されるものであり、
かつ前記二枚の矩形導体板の前記隙間側の辺に前記隙間を挟んで対向する切り欠きをそれぞれ設けて当該対向する切り欠きによって開口部を形成し、この開口部を複数、前記アンテナの長手方向に分散させて配置している、ことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記アンテナの長手方向における両端部の前記開口部の大きさを、その他の前記開口部の大きさよりも大きくしている請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記アンテナの長手方向における両端部の前記開口部の間隔を、その他の前記開口部の間隔よりも小さくしている請求項1または2記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記二枚の矩形導体板を前記基板の表面に沿う同一の平面上に配置する代りに、前記二枚の矩形導体板を、前記基板の表面と反対側が広がった断面V字構造になるように互いに隙間をあけて近接させて平行に配置している請求項1、2または3記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記二枚の矩形導体板を前記基板の表面に沿う同一の平面上に配置する代りに、前記二枚の矩形導体板を、短辺方向において湾曲させて、前記基板の表面と反対側が広がった断面U字構造になるように互いに隙間をあけて近接させて平行に配置している請求項1、2または3記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記二枚の矩形導体板の前記隙間と反対側の辺の周りを、それぞれ、前記矩形導体板の材料の比抵抗よりも大きな比抵抗の導体によって、当該導体を流れる前記高周波電流の表皮厚さ以上の厚さで被覆している請求項1、2または3記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記真空容器内側に位置する前記アンテナと前記プラズマの生成領域との間に、前記アンテナを前記プラズマから遮る誘電体板を備えており、かつ前記真空容器内側に位置する前記アンテナを誘電体内に埋めている請求項1から6のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
前記アンテナを複数備えていてこれらは互いに並列に配置されており、
当該複数のアンテナに共通の高周波電源から、隣り合うアンテナの隣り合う前記矩形導体板の前記隙間と反対側の隣り合う辺に流れる高周波電流が互いに同方向となるように高周波電力を並列に供給するように構成している請求項1から7のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2013−101862(P2013−101862A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245408(P2011−245408)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【特許番号】特許第5018994号(P5018994)
【特許公報発行日】平成24年9月5日(2012.9.5)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【特許番号】特許第5018994号(P5018994)
【特許公報発行日】平成24年9月5日(2012.9.5)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】
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