プラントアクティベーター
【課題】植物が持つ内在性の防御システムを活性化して病害を防除するプラントアクティベーターとして有用な化合物を提供する。
【解決手段】式:(R3)NH-(CH2)4-N(R1)-(CH2)3-NH(R2)(R1及びR2のいずれか一方はC6-18直鎖アルカノイル基又はアルケノイル基であり、他方は水素原子又はアミノ基の保護基を示し;R3は水素原子又はアミノ基の保護基を示す)で表される化合物。
【解決手段】式:(R3)NH-(CH2)4-N(R1)-(CH2)3-NH(R2)(R1及びR2のいずれか一方はC6-18直鎖アルカノイル基又はアルケノイル基であり、他方は水素原子又はアミノ基の保護基を示し;R3は水素原子又はアミノ基の保護基を示す)で表される化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物が持つ内在性の防御システムを活性化して病害を防除するプラントアクティベーターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
作物の病害は収量低下の大きな原因であり、この対策として殺菌剤などの農薬と病害抵抗性品種とを組み合わせた作物保護が広く行われているが、殺菌剤の使用により殺菌剤に対して植物病原菌が抵抗性を持つようになることが大きな問題となっている。この問題点の解決のために作用機作の異なる殺菌剤を複数組み合わせて使う方法が広く採用されているが、殺菌剤を中心に据えた現行の戦略は環境への影響が懸念されることから、環境に配慮した新しい病害防除法の開発が求められている。
【0003】
このような状況下にあって、植物が持つ内在性の防御システムを活性化して病害を防除するプラントアクティベーター(植物活力剤や病害抵抗性誘導物質とも呼ばれる)が注目されている。プラントアクティベーターは植物病原菌に対して耐性を形成する問題がなく、生態系自体への直接の影響が少ないことから、環境に対する負荷を大幅に軽減する作物保護手段となるものと期待されている。
【0004】
植物は病原菌の侵入を察知すると感染部位周囲の細胞を自発的に死に至らしめる過敏感細胞死とよばれる防御機構を発動させ、特徴的な壊死病斑を形成することで感染拡大を阻止する。過敏感細胞死の成立過程の解明は植物の病害抵抗反応活性化メカニズムの理解につながると期待されているが、その詳細は未だ明らかではない。
【0005】
最近、イネの物質生合成に関与する遺伝子としてアシル転移酵素(OsAT1)が同定されており(Plant Mol. Biol., 63, pp.847-860, 2007)、OsAT1の高発現株では全身獲得抵抗マーカー遺伝子PBZ1、PR1の発現誘導、イネファイトアレキシンの蓄積、およびいもち病に対する抵抗性の向上が起きることが報告されている(日本農薬学会第33回大会、松田ら、演題番号:C312、2008年4月1日)。OsAT1が触媒する反応の生成物が一連の病害抵抗反応の誘導のトリガーになっているものと推測されることから、松田らはOsAT1過剰発現時に含量が常に増加する6成分を見いだし、MS/MS解析からそのうちの1つ(UK1)について含アミノ化合物とヒドロキシラウリン酸とのアミド化合物であると推測できることを報告している。しかしながら、この物質の化学構造は完全には特定されていない。
【0006】
一方、スペルミジンは代表的なポリアミンのひとつであり、過酸化水素の産生を介してHR(Hypersensitive Response)などの細胞死誘導に関与していることが知られている(Plant Mol. Biol., 70(1-2), pp.896-876, 2003; Plant Physiol. 132(4), pp.1973-1981, 2009) また、HR にとって重要なシグナルである過酸化水素などの活性酸素種や一酸化窒素はその他の病害抵抗反応においても重要なシグナルであることから、HR以外の病害抵抗性にも関与している可能性があるものと考えられる。
【0007】
従来、スペルミジンの誘導体の植物に対する作用については4N-ヘキサノイルスペルミジンがエンドウの老化に伴って植物体に蓄積すること(Plant Physiol. 10(4):1177-86, 1996) が知られているが、スペルミジン誘導体が植物病害に対する抵抗性を誘導することについては報告がない。また、スペルミジンの桂皮酸誘導体がいくつか知られており、シロイヌナズナ中に存在する病害誘導性のヒドロキシ桂皮酸誘導体(The Plant Cell, 21, pp.318-333, 2009)、殺虫性などを有するヒドロキシ桂皮酸誘導体(Phytochemistry, 63, pp.315-334, 2003)、及びポリアミン誘導体(Nat. Prod. Rep., 22, pp.647-658, 2005)が報告されているが、これらのスペルミジン桂皮酸誘導体について植物病害に対する抵抗性誘導作用は報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Plant Mol. Biol., 63, pp.847-860, 2007
【非特許文献2】日本農薬学会第33回大会、演題番号:C312、2008年4月1日)
【非特許文献3】Plant Mol. Biol., 70(1-2), pp.896-876, 2003
【非特許文献4】Plant Physiol. 132(4), pp.1973-1981, 2009
【非特許文献5】Plant Physiol. 10(4):1177-86, 1996
【非特許文献6】The Plant Cell, 21, pp.318-333, 2009
【非特許文献7】Phytochemistry, 63, pp.315-334, 2003
【非特許文献8】Nat. Prod. Rep., 22, pp.647-658, 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、植物が持つ内在性の防御システムを活性化して病害を防除するプラントアクティベーターとして有用な化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、アシル化スペルミジン誘導体がイネに対して病害抵抗性反応を惹起することができ、プラントアクティベーターとして利用できることを見出した。また、アシル基として直鎖アルカノイル基で置換されたスペルミジンがプラントアクティベーターとして強い作用を有していること、及び直鎖アルカノイル基に水酸基を導入した化合物がさらに強い作用を有していることを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成されたものである。
【0011】
すなわち、本発明により下記の一般式(I):
(R3)NH-(CH2)4-N(R1)-(CH2)3-NH(R2)
(式中、R1及びR2のいずれか一方は炭素原子数6個から18個の直鎖アルカノイル基又は直鎖アルケノイル基(該直鎖アルカノイル基又は該直鎖アルケノイル基は1から3個の水酸基及び/又は炭素原子数1個から4個のアルキル基を1から3個有していてもよい)であり、他方は水素原子又はアミノ基の保護基を示し;R3は水素原子又はアミノ基の保護基を示す)で表される化合物又はその塩が提供される。
【0012】
上記発明の好ましい態様によれば、R1及びR2のいずれか一方が炭素原子数8個から13個の直鎖アルカノイル基又は直鎖アルケノイル基(該直鎖アルカノイル基又は該直鎖アルケノイル基は1から3個の水酸基を有していてもよい)であり、他方が水素原子又はアミノ基の保護基であり、R3が水素原子又はアミノ基の保護基である上記の化合物又はその塩;R1及びR2のいずれか一方が炭素原子数8個から13個の直鎖アルカノイル基(該直鎖アルカノイル基は1から3個の水酸基を有していてもよい)であり、他方が水素原子又はアミノ基の保護基であり、R3が水素原子又はアミノ基の保護基である上記の化合物又はその塩;該直鎖アルカノイル基が、炭素原子数が9から12個の直鎖アルカノイル基(該直鎖アルカノイル基は1から2個の水酸基を有していてもよい)である上記の化合物又はその塩;該直鎖アルカノイル基が、炭素原子数が9から12個の直鎖アルカノイル基(該直鎖アルカノイル基は1個の水酸基を有する)である上記の化合物又はその塩;及び該直鎖アルカノイル基が、炭素原子数が9から12個の直鎖アルカノイル基(該直鎖アルカノイル基は末端に1個の水酸基を有する)である上記の化合物又はその塩が提供される。アミノ基の保護基としては、例えば炭素原子数2から6個の直鎖又は分枝鎖アルカノイル基又は炭素原子数2から6個の直鎖又は分枝鎖アルコキシカルボニル基などが好ましい。
【0013】
別の観点からは、本発明により上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を有効成分として含むプラントアクティベーターが提供される。好ましい態様によれば、植物における病害の防除のために用いる上記のプラントアクティベーターが提供される。また、上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を有効成分として含む植物内在性防御システムの活性化剤;上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を有効成分として含む植物の病害抵抗性の誘導剤;上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を有効成分として含む植物過敏感細胞死の活性化剤;上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を有効成分として含む植物体内におけるファイトアレキシン産生の亢進剤;及び上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を有効成分として含む植物体内における病害抵抗性遺伝子の発現促進剤が提供される。上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩とともにポリアミンオキシゲナーゼ(PAO)阻害剤を組み合わせて用いることにより病害抵抗性遺伝子の発現促進をさらに高めることができる。
【0014】
さらに別の観点からは、本発明により、植物における病害の防除方法であって、上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を防除有効量を植物に施用する工程を含む方法;植物の内在性防御システムの活性化方法であって、上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を防除有効量を植物に施用する工程を含む方法;植物の病害抵抗性を誘導する方法であって、上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を防除有効量を植物に施用する工程を含む方法;植物において病原菌の侵入後の過敏感細胞死を活性化させる方法であって、上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を防除有効量を植物に施用する工程を含む方法;植物中での病害抵抗反応において産生されるファイトアレキシンの産生量を増加させる方法であって、上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を防除有効量を植物に施用する工程を含む方法;植物において病害抵抗性遺伝子の発現を促進する方法であって、上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を防除有効量を植物に施用する工程を含む方法;及び植物において病害抵抗性遺伝子の発現を促進する方法であって、上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩とともにポリアミンオキシゲナーゼ(PAO)阻害剤を植物に施用する工程を含む方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩は植物が持つ内在性の防御システムを活性化する作用を有しており、プラントアクティベーターとして、例えば植物の病害抵抗性を誘導し、植物の病害を防除するために用いることができる。上記の一般式(I)で表される化合物のうち、例えばR1として末端に1個の水酸基を有するラウロイル基を有する化合物は植物生体内において存在が確認されていることから、上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を有効成分として含むプラントアクティベーターは、生態系への影響を最小限にとどめることができ、環境に対する負荷を軽減した作物保護手段として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】スペルミジン誘導体を適用した後に観察された細胞死スポットの様子を示した図である。
【図2】スペルミジン誘導体を適用した後に引き起こされた細胞死の強度を示した図である。
【図3】スペルミジン又はスペルミジン誘導体(Lau)の水溶液で72時間処理した後のリーフディスクの様子を示した図である。
【図4】スペルミジン又はスペルミジン誘導体(Lau)の水溶液で72時間処理した後のファイトアレキシン産生量を示した図である。右図は左図の部分拡大図である。
【図5】スペルミジン誘導体で処理したイネ葉身における抵抗性遺伝子発現量を示した図である。
【図6】YIS12OH1N(1NHydLau)又はYIS12OH4N(HydLau)で処理したイネ葉身における抵抗性遺伝子発現量を示した図である。mockは被験化合物を含まない溶液で処理した結果を示す。
【図7】5葉期のイネにYIS12OH1N(1NHydLau)又はYIS12OH4N(HydLau)を噴霧処理した後にいもち病菌を接種して感染させ、接種後6日の病斑数を測定した結果を示した図である。mockは被験化合物を含まない溶液を噴霧処理した結果を示す。図中、**及び***はそれぞれ1%および0.1%水準で有意差があることを示す。
【図8】5葉期のイネにYIS12OH1N又はYIS12OH4Nを噴霧処理した後にいもち病菌を接種して感染させ、接種後6日の様子を観察した結果を示した図である。
【図9】5葉期のイネにYIS12OH1N(1NHydLau)又はYIS12OH4N(HydLau)を噴霧処理した後にいもち病菌を接種して感染させ、接種後6日の病斑数を測定した結果を示した図である。mockは被験化合物を含まない溶液を噴霧処理した結果を示す。
【図10】いもち菌に対してYIS12OH1N又はYIS12OH4Nの抗菌作用を阻止円の形成の有無により判定した結果を示した図である。
【図11】OsAT1を過剰発現しているイネ中に存在する天然型のYIS12OH4Nを合成標品を用いて同定した結果を示した図である。
【図12】ラウロイル基に水酸基を導入した化合物を適用した後に引き起こされた細胞死の強度を示した図である。図中、HydLau:YIS12OH4N、1NHydLau:YIS12OH1Nを示す。
【図13】ウロイル基に水酸基を導入した化合物を適用した後に観察された細胞死スポットの様子を示した図である。(A)はHydLau:YIS12OH4N、(B)は1NHydLau:YIS12OH1Nの結果を示す。
【図14】YIS12OH4N(HydLau)(3 mM)による抵抗性遺伝子誘導作用をポリアミンオキシゲナーゼ阻害剤であるグアザチンの存在下で調べた結果を示した図である。図中、mockは被験化合物を含まない溶液で処理した結果を示し、ABAはアブシジン酸を示す。ABAは全身獲得抵抗性による病害抵抗性に対して阻害効果を示すことが報告されているが、本発明の化合物が引き起こす病害抵抗性に対しても阻害効果を示した。
【図15】シロイヌナズナに対してスペルミジン誘導体を適用した後に引き起こされた細胞死の強度を示した図である。3dは3日後、7dは7日後の結果を示す。
【図16】シロイヌナズナに対してYIS12OH1N(1NHydLau)又はYIS12OH4N(HydLau)によるPR1遺伝子発現作用を検討した結果を示した図である。左図は24時間後、右図は72時間後の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
一般式(I)において、R1及びR2のいずれか一方は炭素原子数6個から18個の直鎖アルカノイル基又は炭素原子数6個から18個の直鎖アルケノイル基(炭素原子数はカルボニル炭素原子を含む)を示し、他方は水素原子又はアミノ基の保護基を示す。R3は水素原子又はアミノ基の保護基を示す。R1及びR2のいずれか一方が示す該直鎖アルカノイル基又は該直鎖アルケノイル基は1から3個の水酸基及び/又は炭素原子数1個から4個のアルキル基を1から3個有していてもよい。該アルケノイル基に含まれる二重結合の数は例えば1〜3個程度であり、好ましくは2個、さらに好ましくは1個である。該直鎖アルカノイル基又は該直鎖アルケノイル基上に存在可能な炭素原子数1から4個のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、シクロプロピル基、又はシクロブチル基などが挙げられる。
【0018】
R1及びR2のいずれか一方は好ましくは炭素原子数が8から13個の直鎖アルカノイル基又は直鎖アルケノイル基を示し、他方は水素原子又はアミノ基の保護基を示す。この場合においてR3が水素原子又はアミノ基の保護基のいずれかであることが好ましい。直鎖アルカノイル基又は直鎖アルケノイル基としては、炭素原子数が9から12個の直鎖アルカノイル基又は直鎖アルケノイル基が好ましい。直鎖アルカノイル基又は直鎖アルケノイル基が水酸基を有する場合には、水酸基の個数は1〜3個であり、好ましくは1又は2個、さらに好ましくは1個の水酸基を有することができる。直鎖アルカノイル基又は直鎖アルケノイル基として好ましくは末端に1個の水酸基を有する炭素原子数が9から12個の直鎖アルカノイル基又は直鎖アルケノイル基を用いることができる。より好ましくはR1及びR2のいずれか一方が素原子数が9から12個の直鎖アルカノイル基の場合であり、該直鎖アルカノイル基上には1個の水酸基が置換していてもよい。特に好ましくはR1又はR2が示す直鎖アルカノイル基が末端に1個の水酸基を有する場合であり、最も好ましいのは炭素原子数が11個又は12個の直鎖アルカノイル基が末端に1個の水酸基を有する場合である。
【0019】
アミノ基の保護基の種類は特に限定されず、適宜の保護基を選択して使用することができる。例えば、アセチル基などの炭素原子数2から6個の直鎖又は分枝鎖アルカノイル基、tert-ブトキシカルボニル基や2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル基などの炭素原子数2から6個の直鎖又は分枝鎖アルコキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基などのアラルキルオキシカルボニル基、ベンジル基やp-メトキシベンジル基などのアラルキル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基、又はアリルオキシカルボニル基など、アミノ基の保護基として当業界で周知のものを好適に使用することができるが、これらに限定されることはない。アミノ基の保護基については、例えば、Greenら、Protective Groups in Organic Synthesis, 3rd Edition, 1999, John Wiley & Sons, Inc.などの成書を参照することができる。特に好ましい保護基はtert-ブトキシカルボニル(Boc)基である。一般式(I)で表される化合物に複数のアミノ基の保護基が存在する場合には、それらは同一でも異なっていてもよいが、複数のアミノ基の保護基が同一の保護基であることが好ましい。
【0020】
上記一般式(I)で表される化合物においてR1又はR2が末端以外に水酸基を有する直鎖アルカノイル基又は直鎖アルケノイル基である場合には、上記一般式(I)で表される化合物は1個以上の不斉炭素を有するが、1個又は2個以上の不斉炭素に基づく純粋な形態の光学活性体又はジアステレオ異性体のほか、任意の異性体混合物(例えば、2種以上のジアステレオ異性体の混合物)又はラセミ体などはいずれも本発明の範囲に包含される。また、R1又はR2が直鎖アルケノイル基である場合にはE又はZの幾何異性体が存在するが、純粋な形態の幾何異性体のほかこれらの混合物も本発明の範囲に包含される。
【0021】
上記一般式(I)で表される化合物は酸付加塩を形成することができる。塩の種類は特に限定されず、塩酸、硫酸などの鉱酸類との塩、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、酒石酸などの有機酸類との塩などのほか、グリシンなどのアミノ酸との塩を挙げることができる。さらに、上記式(I)で表される化合物又はその塩は水和物又は溶媒和物として存在することもあるが、これらの物質も本発明の範囲に包含される。
【0022】
上記一般式(I)で表される化合物は、スペルミジンにおいてアシル化すべきアミノ基以外のアミノ基をtert-ブトキシカルボニル基(Boc基)などのアミノ基の保護基で適宜保護した後、導入するアシル基に対応するカルボン酸の酸ハライドなどを用いて未保護のアミノ基をアシル化することにより製造することができ、必要に応じてアミノ基の保護基を適宜の条件で脱保護することにより保護基を有しない化合物を収率よく得ることができる。水酸基を有するアルカノイル基又はアルケノイル基を導入する場合には水酸基を適宜保護しておいてもよい。水酸基の保護基の種類、保護基の導入条件、及び保護基の脱離条件は、例えばGreenら、Protective Groups in Organic Synthesis, 3rd Edition, 1999, John Wiley & Sons, Inc.などの成書を参照することにより適宜選択することができる。
【0023】
上記一般式(I)で表される化合物又はその塩は、植物が持つ内在性の防御システムを活性化する作用を有しており、植物の病害に対する抵抗性を高めることができる。例えば、上記一般式(I)で表される化合物又はその塩は、植物において病原菌の侵入後に感染部位周囲の細胞を自発的に死に至らしめる過敏感細胞死を活性化させ、感染防御システムを活性化させることができる。また、植物中で生じる病害抵抗反応において産生されるファイトアレキシン(例えばファイトカサンA〜EやモミラクトンA及びBなど)の産生量を増加させることもでき、植物体内において病害抵抗性に関与する遺伝子の発現を活性化することもできる。病害抵抗性遺伝子としては、例えばOsPR1b(Biochem. Biophys. Res. Commun., 278, pp.290-298, 2000)、PBZ1(Plant Cell Physiol., 37, pp.9-18, 1996)、WRKY45(Plant Cell, 19, pp.2064-2076, 2007)、OsNPR1(Mol. Plant-Microbe Interact., 18, pp.511-520, 2005)などが挙げられる。また、Mol. Geneti. Genomics 279(4), pp.415-427, 2008; Biosci. Biotechnol. Biochem., 65(1), pp.205-208, 2001も参照することができる。
【0024】
上記の作用に基づいて、上記一般式(I)で表される化合物又はその塩をプラントアクティベーターとして使用することができる。植物の病害の種類は特に限定されないが、例えばカビ類、ウイルス類、又は細菌などによる感染症、好ましくはカビ類による感染症により惹起される病害を防除の対象とすることができるが、この特定の病害に限定されるわけではない。
【0025】
本発明のプラントアクティベーターは、例えば、当業界で周知の製剤用添加物を用いて、農薬用組成物として調製することができる。農薬用組成物の形態は特に限定されず、当業界で利用可能な形態であればいかなる形態を採用してもよい。例えば、乳剤、液剤、油剤、水溶剤、水和剤、フロアブル、粉剤、微粒剤、粒剤、エアゾール、くん蒸剤、又はペースト剤などの形態の組成物を用いることができる。農薬用組成物の製造方法も特に限定されず、当業者に利用可能な方法を適宜採用することができる。一般式(I)で表される化合物におけるアミン部分の酸化を防止するために塩酸塩などの塩の形態の有効成分を用いることが好ましい場合がある。また、農薬用組成物における有効成分の酸化防止手段として利用可能な手段を適宜採用することもできる。
【0026】
本発明のプラントアクティベーターの有効成分としては、上記一般式(I)で表される化合物またはその塩の2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、適用目的に応じて、殺虫剤、殺菌剤、殺虫殺菌剤、除草剤などの他の農薬の有効成分を配合してもよい。上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩とともに例えばグアザチン(GAZ)などのポリアミンオキシゲナーゼ(PAO)阻害剤を植物に施用することにより病害抵抗性遺伝子の発現促進をさらに高めることができる場合がある。本発明のプラントアクティベーターの適用方法及び適用量は、適用目的、剤型、適用場所などの条件に応じて当業者が適宜選択可能である。例えばイネなどに対しては1〜5 mM程度を選択することができるが、適用量は上記の特定の範囲に限定されることはない。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
例1
スペルミジン(Spd, 4.48 g, 22.7 mmol)を脱水テトラヒドロフラン(THF, 50 ml)に溶解し、トリエチルアミン(9.75 ml, 68.1 mmol )を加え、0℃に保ったところにBoc-ON(13.9 g, 56.5 mmol)を脱水THF(50 ml)に溶かした溶液を激しく攪拌しながら滴下し、0℃で一晩攪拌した。THFを減圧下留去したのち残渣に1M NaOH (50 ml)を加えてジクロロメタン(50 ml × 3)で抽出し、有機層を合わせて食塩水(50 ml)、H2O(50 ml×2)で洗浄した。硫酸ナトリウムを加えて脱水した後、濾過して取り除きジクロロメタン/n-ヘキサン中で再結晶した。生じた結晶をn-ヘキサンで洗浄し、白色非晶質の結晶としてN1,N8-bis-Boc-Spd(6.68 g, 85.4%)を得た。
【0028】
得られたN1,N8-bis-Boc-Spdのうち 83 mg(0.234 mmol)をトリエチルアミン2%(v/v)を含んだジクロロメタン 10 ml に溶解し、ラウリル酸クロリド(200 μl, excess) を加えて室温で2時間攪拌した。ジクロロメタンを減圧留去して除いたのち、残渣にH2O 10 ml を加えて酢酸エチル(10 ml×3)抽出し、食塩水(10 ml)、H2O(10 ml×2)で洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水した後溶媒を減圧留去し、シリカゲルカラムによって精製した(酢酸エチル:n-ヘキサン= 1:1 , v/v )。精製した化合物全量に対してトリフルオロ酢酸(TFA) 2 ml を加え、室温で 30分攪拌してから溶媒を減圧留去し、残渣にメタノールを少量入れてから再び真空中で十分に減圧留去した。残渣をn-ヘキサンによって数回洗い、1M NaOH 5 mlを加えて分液ロートに移し、ジクロロメタン(5 ml×4 )抽出し、食塩水(5 ml)、H2O(10 ml×2)で洗浄し硫酸ナトリウムを加えて脱水した後、濾過して黄色オイル状の N4-lauroyl-Spd( 62 mg, 81.0% )を得た。
他の4N-アルカノイルスペルミジンも上記と同様の方法によって合成した。
【0029】
例2
ジアミノブタン(1.2 g, 13 mmol)をトリエチルアミン 10%(v/v)含有メタノール 10 ml に溶解し、0℃に保ったところに Boc2O( 1.0 g, 4.6 mmol )をメタノール 2 ml に溶かした溶液を激しく攪拌しながら滴下し、0℃で30分攪拌してから室温にて一晩攪拌した。溶媒を減圧下留去してほぼ取り除いてからジクロロメタン( 20 ml )に再び溶解し、1M NaOH(20 ml)、H2O(20 ml×2)洗浄した。硫酸ナトリウムを加えて脱水した後濾過し、黄色オイル状のN-Boc-ジアミノブタン (589 mg, 69.6%) を得た。
【0030】
得られたN-Boc-ジアミノブタンをアセトニトリル (20 ml)に溶解し、そこに炭酸カリウム(800 mg)を加えて攪拌しながらブロモプロピルフタルイミド(838 mg, 3.13 mmol)を加えた。その後、室温で15分攪拌してから45℃で一晩攪拌した。アセトニトリルを減圧下留去してから残渣にH2O(20 ml)を加えてジクロロメタン(20 ml×2)抽出し、食塩水(10 ml)、H2O(20 ml×2)洗浄してから硫酸ナトリウムによって脱水した後、濾過してから濃縮して無色オイル状の粗生成物を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し(ジクロロメタン:メタノール=9:1, v/v)、無色オイル状のN8-Boc-N1-phtal-Spd ( 695 mg, 59.2% ) を得た。
【0031】
得られたN8-Boc-N1-phtal-Spdをトリエチルアミン 10% (v/v)含有メタノール 5 ml に溶解し、攪拌しているところに Boc2O(0.56 g, 2.52 mmol)を加え、室温で一晩攪拌した。溶媒を減圧留去でほぼ取り除いてからH2O(10 ml)を加えて酢酸エチル(10 ml×2)抽出し、有機層を合わせて食塩水(10 ml)、H2O(10 ml×2)洗浄した。硫酸ナトリウムを加え脱水した後濾過し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製することで(酢酸エチル:n-ヘキサン = 1:3, v/v)、無色オイル状のN4,N8-bis-Boc-N1-phtal-Spd(332 mg, 81.2%)を得た。
【0032】
得られたN4,N8-bis-Boc-N1-phtal-Spdをエタノール(1 ml)に溶かし、ヒドラジン一水和物(0.2 ml)を加えて室温にて一晩攪拌した。H2O(10 ml)を加えてジクロロメタン(10 ml)抽出し、H2O(5 ml× 2)洗浄した。硫酸ナトリウムを加えて脱水してから濾過し、溶媒を減圧下留去して無色オイル状のN4,N8-bis-Boc-Spd (225 mg, 93.4%)を得た。
【0033】
83 mg(0,234 mmol)の N4,N8-bis-Boc-Spdをトリエチルアミン2%(v/v)含有ジクロロメタン 10 ml に溶解し、ラウリル酸クロリド(200 μl, excess )を加えて室温で2時間攪拌した。ジクロロメタンを減圧留去して除いたのち、残渣にH2O 10 ml を加えて酢酸エチルで抽出し(10 ml×3)、食塩水(10 ml)、H2O(10 ml×2回)によって洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水した後溶媒を減圧留去し、シリカゲルカラムによって精製した(酢酸エチル:n-ヘキサン= 1:1 ,v/v)。精製した化合物全量に対してTFA 2 ml を加え、室温で 30分攪拌してから溶媒を減圧留去し、残渣にメタノールを少量入れてから再び真空中で十分に減圧留去した。残渣をn-ヘキサンによって数回洗い、1M NaOH 5 mlを加えて分液ロートに移し、ジクロロメタン(5ml × 4)抽出し、食塩水(5 ml)、H2O(10 ml × 2)洗浄し硫酸ナトリウムを加えて脱水した後、濾過して黄色オイル状の 1N-lauroyl-Spd( 62 mg, 81.0% )を得た。
他の1N-アルカノイルスペルミジンも上記と同様の方法によって合成した。
【0034】
【表1】
【0035】
4N-hexanoylspermidine
1H NMR (500MHz CDCl3), δ 0.90 (3H, t, JH,H = 7.0 Hz, H2-6'), 1.26-1.49 (6H, m, H2-3'〜5'), 1.54-1.73 (6H, m, H2-2,6,7), 2.29 (2H, m, H2-2'), 2.64-2.77 (4H, m, H2-1,8), 3.21-3.46 (4H, m, H2-3,5)
4N-nonanoylspermidine
1H NMR (500MHz CDCl3), δ 0.88 (3H, t, JH,H = 6.5 Hz, H2-9'), 1.22-1.36 (10 H, m, H2-4'〜8'), 1.45 (2H, m, H2-3'), 1.53-1.73 (6H, m, H2-2,6,7), 2.29 (2H, m, H2-2'), 2.64-2.76 (4H, m, H2-1,8), 3.21-3.44 (4H, m, H2-3,5)
4N-lauroylspermidine
1H NMR (500MHz CDCl3), δ 0.88 (3H, t, JH,H = 6.8 Hz, H2-12'), 1.26-1.30 (16H, m, H2-4'〜11'), 1.45 (2H, m, H2-3'), 1.50-1.73 (6H, m, H2-2,6,7), 2.29 (2H, m, H2-2'), 2.64-2.76 (4H, m, H2-1,8), 3.24-2.42 (4H, m, H2-3,5)
【0036】
4N-stearoylspermidine
1H NMR (500MHz CDCl3), δ 0.88 (3H, t, JH,H = 7.0 Hz, H2-18'), 1.20-1.35 (28H, m, H2-4'〜17'), 1.46 (2H, m, H2-3'), 1.54-1.74 (6H, m, H2-2,6,7), 2.29 (2H, m, H2-2'), 2.66-2.76 (4H, m, H2-1,8), 3.23-3.45 (4H, m, H2-3,5)
4N-benzoylspermidine
1H NMR (500MHz CDCl3), δ 1.45-1.86 (6H, m, H2-2,6,7), 2.48-2.73 (4H, m, H2-1,8), 3.18-3.63 (4H, m, H2-3,5), 7.32-7.44 (5H, m, Ph)
4N-cinnamoylspermidine
1H NMR (500MHz CDCl3), δ 1.47-1.79 (6H, m, H2-2,6,7), 2.71-2.80 (4H, m, H2-1,8), 3.41-3.57 (4H, m, H2-3,5), 6.84-7.00 (1H, dd, JH,H = 68.1 Hz, 15.6 Hz, CHPh), 7.21-7.52 (5H, m, Ph), 7.68-7.72 (1H, dd, JH,H = 15.3 Hz, 5.5 Hz, CHCO)
【0037】
1N-hexanoylspermidine
1H NMR (500MHz CDCl3), δ 0.89 (3H, t, JH,H = 6.8 Hz, H2-6'), 1.31 (4H, m, H2-4',5'), 1.48-1.70 (8H, m, H2-2,6,7,3'), 2.15 (2H, t, JH,H =7.6 Hz, H2-2'), 2.62 (2H, t, JH,H =6.8 Hz, H2-8), 2.72 (4H, m, H2-3.5), 3.34 (2H, dt, JH,H =6.1 Hz, 6.1 Hz, H2-1), 6.88 (1H, s, -NHCO-)
1N-nonanoylspermidine
1H NMR (500MHz CDCl3), δ 0.88 (3H, t, JH,H = 6.9 Hz, H2-9'), 1.21-1.34 (10H, m, H2-4'-8'), 1.44-1.69 (8H, m, H2-2,6,7,3'), 2.14 (2H, t, JH,H =7.6 Hz, H2-2'), 2.61 (2H, t, JH,H =6.9 Hz, H2-8), 2.71 (4H, m, H2-3.5), 3.34 (2H, dt, JH,H =6.1 Hz, 6.1 Hz, H2-1), 6.69 (1H, s, -NHCO)
1N-lauroylspermidine
1H NMR (500MHz CDCl3), δ 0.88 (3H, t, JH,H = 6.9 Hz, H2-12'), 1.22-1.33 (16H, m, H2-4'-11'), 1.46-1.70 (8H, m, H2-2,6,7,3'), 2.15 (2H, t, JH,H =7.6 Hz, H2-2'), 2.62 (2H, t, JH,H =6.9 Hz, H2-8), 2.72 (4H, m, H2-3,5), 3.35 (2H, dt, JH,H =6.1 Hz, 6.1 Hz, H2-1), 6.70 (1H, s, -NHCO)
【0038】
1N-stearoylspermidine
1H NMR (500MHz CDCl3), δ 0.88 (3H, t, JH,H = 7.0 Hz, H2-18'), 1.20-1.32 (28H, m, H2-4'-17'), 1.46-1.69 (8H, m, H2-2,6,7,3'), 2.14 (2H, t, JH,H =7.6 Hz, H2-2'), 2.61 (2H, t, JH,H =6.9 Hz, H2-8), 2.72 (4H, m, H2-3,5), 3.34 (2H, dt, JH,H =6.0 Hz, 6.0 Hz, H2-1), 6.68 (1H, s, -NHCO)
1N-benzoylspermidine
1H NMR (500MHz CDCl3), 1.43-1.58 (4H, m, H2-6,7), 1.78 (2H, qi, H2-2), 2.65 (2H, t, JH,H =7.0 Hz, H2-8), 2.69 (2H, t, JH,H =6.9 Hz, H2-5), 2.83 (2H, t, JH,H =5.8 Hz, H2- 3), 3.58 (2H, dt, JH,H =5.7 Hz, 5.7Hz, H2-1), 7.41 (2H, m, Hph-3,5), 7.48 (1H, m, Hph-4), 7.80 (2H, m, Hph-2,6), 8.20 (1H, s, -NHCO)
1N-cinnamoylspermidine
1H NMR (500MHz CDCl3), δ 1.48-1.59 (4H, m, H2-6,7), 1.74 (2H, qi, JH,H = 6.3 Hz, H2-6), 2.64 (2H, t, JH,H =7.0 Hz, H2-5), 2.72 (2H, t, JH,H =6.5 Hz, H2- 3), 2.77 (2H, dt, JH,H =6.0 Hz, 6.0 Hz, H2- 3), 3.48 (2H, m, H2-1), 6.38 (1H, dd, JH,H = 15.5 Hz, CHPh), 7.22-7.51 (5H, m, Ph), 7.59 (1H, dd, JH,H = 15.5 Hz, CHCO)
【0039】
例3
末端に水酸基を1個導入したラウロイル基を1位又は4位に結合させた化合物を下記のように合成した。
【化1】
【0040】
12-hydoroxylauric acid(225 mg, 1.04 mmol)にジクロロメタン10 ml を加え、窒素ガス雰囲気下においてEDCI(200 mg, 1.04 mmol), DMAP(127 mg, 1.04 mmol)を入れて全体が溶けるまで攪拌した。そこに1N,8N-diBoc-spermidine(300 mg, 0.870 mmol)をジクロロメタン 5 ml に溶解して加えて窒素ガス雰囲気下に室温で3d攪拌した。
【0041】
攪拌終了後、10 ml のクエン酸水溶液(10%, w/w)を反応溶液に加えて5分間攪拌して反応を停止してからジクロロメタン(10ml×3)で抽出し、硫酸ナトリウムで脱水後に溶媒を減圧留去して無色オイル状の粗生成物 0.62 g を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製(酢酸エチル:n-ヘキサン = 4:1)して無色オイル状の 1N,8N-diBoc-4N-(12-hydoroxylauroyl)-spermidine(155 mg, 32.8%)を得た。
1H NMR (500MHz, CDCl3), δ 1.28 (16H, s, H2-4'-11'), 1.44 (20H, m, 2 x Boc, H2-3'), 1.56-1.69 (6H, m,H2-2, 6, 7), 2.34 (2H, t, JH,H = 7.5 Hz, H2-2'),3.07-3.40 (9H, m, H2-1, 3, 5, 8, -OH), 3.62 (2H, t, JH,H = 6.5 Hz, H2-12')
【0042】
これをトリフルオロ酢酸/ジクロロメタン(20% v/v)10 ml 中で1時間攪拌し、トリフルオロ酢酸をメタノールと共沸させて減圧留去した後 1M NaOH 5 ml を加えて分液ロートに移し、ジクロロメタン(5ml×4)で抽出し、蒸留水(5 ml)で洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水後に溶媒を減圧留去して白色非晶質の結晶として4N-(12-hydoroxylauroyl)-spermidine( 73 mg, 24.5% ) を得た。
【0043】
12-hydoroxylauric acid(300 mg, 1.39 mmol)にジクロロメタン15 ml を加え、窒素ガス雰囲気下においてEDCI(275 mg, 1.39 mmol), DMAP(170 mg, 1.39 mmol)を入れて全体が溶けるまで攪拌した。そこに4N,8N-diBoc-spermidine(400 mg, 1.16 mmol)をジクロロメタン 5 ml に溶解して加えて窒素ガス雰囲気下に室温で3日間攪拌した。
【0044】
攪拌終了後、10 ml のクエン酸水溶液(10%, w/w)を反応溶液に加えて5分間攪拌して反応を停止してからジクロロメタン(10ml×3)で抽出し、硫酸ナトリウムで脱水後溶媒を減圧留去して無色オイル状の粗生成物 0.68 g を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(酢酸エチル:n-ヘキサン = 4:1 )、無色オイル状の 4N,8N-diBoc-1N-(12-hydoroxylauroyl)-spermidine( 311 mg, 49.3% )を得た。
1H NMR (500MHz, CDCl3), δ1.27 (16H, s, H2-4'-11'), 1.44 (20H, m, 2 x Boc, H2-3'), 1.51-1.64 (6H, m,H2-2, 6, 7), 2.18 (2H, t, JH,H = 7.8 Hz, H2-2'), 3.13-3.28 (9H, m, H2-1, 3, 5, 8, -OH), 3.63 (2H, m, H2-12')
【0045】
これをトリフルオロ酢酸/CH2Cl2 (20% v/v) 10 ml 中で1時間攪拌し、トリフルオロ酢酸をメタノールと共沸させて減圧留去した後 1M NaOH 5 ml を加えて分液ロートに移し、ジクロロメタン(5ml×4)によって抽出し、蒸留水(5 ml)で洗浄して、硫酸ナトリウムで脱水後に溶媒を減圧留去して白色非晶質の結晶として1N-(12-hydoroxylauroyl)-spermidine (160 mg, 40.2%) を得た。
【0046】
YIS12OH1N(スペルミジンの1位アミノ基に-CO-(CH2)10CH2-OHを結合させた化合物)
1H NMR (500MHz, CDCl3), δ 1.28 (16H, m, H2-4'-11'), 1.44-1.67 (9H, m, H2-2,6,7,3',-OH), 2.30 (2H, m, H2-2'), 2.64-2.76 (4H, m, H2-1,8), 3.00-3.47 (4H , m, H2-3,5), 3.62 (2H, t, JH,H = 6.5 Hz, H2-1')
YIS12OH4N(スペルミジンの4位アミノ基に-CO-(CH2)10CH2-OHを結合させた化合物)
1H NMR (500MHz CDCl3) δ 1.28 (16H, m, H2-4'-11'), 1.50-1.67 (9H , m, H2-2,6,7,3',-OH), 2.14 (2H, t, JH,H =7.5 Hz, H2-2'), 2.61 (2H, t, JH,H =6.8 Hz, H2-8), 2.71 (4H, m, H2-3,5), 3.35 (2H, dt, JH,H =6.0 Hz, 6.0 Hz, H2-1), 3.63 (2H, t, JH,H =6.5 Hz, H2-12), 6.73 (1H, s, -NHCO)
【0047】
例4
スペルミジンは葉身に対する処理でHR(Hypersensitive Response)様の細胞死斑を形成することが様々な植物種において知られている(Plant Physiol. 132(4), pp.1973-1981, 2009)。例1で得られたスペルミジン誘導体を1 mMの水溶液(Tween 20 を終濃度 0.1 %となるように添加)として播種後1月程度のイネ(日本晴)の葉身に 5μl ずつ滴下し、そのまま風乾してその後の細胞死の強度(Severity)を細胞死の重症度及び滴下部位に対する割合を指標として目視によって評価した(図1及び2)。その結果、スペルミジン(Spd)自体とは異なる細かな細胞死斑の形成がNon、Lau、1N Non、及び1N Lau 等で認められた。また、Spd による細胞死が一部の処理葉のみで認められたのに対して、これらのスペルミジン誘導体ではスペルミジンよりも早い時期に多くの処理葉で細胞死斑を与えた。
【0048】
例5
ファイトアレキシンは植物の病害抵抗反応において産生される抗菌物質であり、ファイトカサンA〜E(PA〜PE)、モミラクトンA, B(MA, MB)などが知られている。イネ葉身よりリーフディスクを切り出し、スペルミジン又は例2において強い細胞死誘導効果を認めた Lau の0.5 mM水溶液を調製し、リーフディスクをこの水溶液に浸漬して 72時間後のファイトアレキシン産生量を測定した。その結果、ファイトアレキシン産生を誘導する物質として知られている塩化銅に比べると弱いもののLau 処理によって塩化銅特異的な反応であるリーフディスクの褐変及び明らかなファイトアレキシンの蓄積が認められた(図3及び4)。
【0049】
例6
各スペルミジン誘導体を1 mM の水溶液とし、終濃度 0.01%のTween 20 を加えた。水耕で1週間育てたイネの葉身に対してこの水溶液をスプレーし、24時間後にRNAを抽出した。各サンプルにおけるイネ病害抵抗性マーカー遺伝子である OsPR1b、PBZ1、及びWRKY45 の発現をリアルタイムPCRを用いて測定した。その結果、これらのスペルミジン誘導体には抵抗性マーカー遺伝子の発現を誘導する傾向が認められた(図5)。
【0050】
YIS12OH1N(1NHydLau)又はYIS12OH4N(HydLau)を1 mM の水溶液とし、終濃度 0.01%のTween 20 を加えた。水耕で1週間育てたイネの葉身に対してこの水溶液をスプレーし、24時間後にRNAを抽出した。各サンプルにおけるイネ病害抵抗性マーカー遺伝子である OsPR1b、PBZ1、及びWRKY45 の発現をリアルタイムPCRを用いて測定した。その結果、これらのスペルミジン誘導体には抵抗性マーカー遺伝子の発現を誘導する傾向が認められた(図6)。
【0051】
例7
5葉期のイネにYIS12OH1N(1NHydLau)又はYIS12OH4N(HydLau)を1 mM又は5 mMの濃度で噴霧処理し、その翌日にいもち病菌(Kyu89-246, MAFF101506, race 003.0, 3.4x105 spores/ml)を接種して感染させた。接種後6日の病斑数を測定した結果を図7及び図8に示す。被験化合物無しでの噴霧処理(mock)ではいもち病に感染し多くの病斑が出現しているのに対して、5 mMの濃度でYIS12OH1N又はYIS12OH4Nを処理すると、いもち病抵抗性を示した。YIS12OH1Nは1mM処理でも抵抗性を示した。なお、被験化合物の噴霧のみ(5 mM)では細胞死斑は認められなかった。同様にして5葉期のイネにYIS12OH1N(1NHydLau)又はYIS12OH4N(HydLau)を1 mMの濃度で噴霧処理し、その翌日にいもち病菌(Kyu89-246, MAFF101506, race 003.0, 3.4x105 spores/ml)を接種して感染させた。接種後6日の病斑数を測定した結果を図9に示す。
【0052】
例8
直径6 mmのろ紙にYIS12OH1N(1NHydLau)又はYIS12OH4N(HydLau)の水溶液(1 mM、5 mM、又は10 mM)20μlを染みこませて風乾し、このろ紙を用いていもち病菌(Kyu89-246, MAFF101506, race 003.0)に対しての阻止円の形成を評価した。28℃で遮光下に5-6日培養した後に阻止円の形成は認められなかったことから(図10)、これらの化合物自体は10 mM濃度においてもいもち菌に対する抗菌活性を有しないことが確認された。
【0053】
例9
OsAT1過剰発現体のイネからLN2で凍結粉砕した葉身をメタノール抽出し1M NaOH-CH2Cl2で溶媒分画後、1M HClで有機層から回収してOasis(登録商標)カラムによって精製して試料を調製し、LC/MSMSにより合成標品のYIS12OH4Nを用いてイネ中に存在する天然型のYIS12OH4Nを同定した。結果を図11に示す。OsAT1を過剰発現しているイネ中にYIS12OH4Nが存在することが確認された。LC/MSの測定条件は以下のとおりである。
Waters Acquity UPLC
カラム:AQUITIY C18BEH 1.7 μm 2.1×50 mm column
流速:0.2 mL/min
移動相 A:0.1%ギ酸水溶液 / B:0.1%ギ酸メタノール
グラジエント条件
min flow A B
0 0.2 70 30
1 0.2 70 30
10 0.2 0 100
【0054】
Waters Xevo(登録商標) TQ MS
キャピラリー電圧:3.0 kV
コーン電圧:34 V
ソース温度:150℃
デソルベーション温度:400℃
コーンガス流量:50 L/Hr
デソルベーションガス流量:800 L/Hr
検出モード:MRMモード(positive)
コリジョン電圧:22/16 V (Ch1/Ch2)
チャンネル条件:344.46>256.30 / 344.46>273.34 (CH1/Ch2)
データ解析:MassLynx(登録商標)
【0055】
例8
例4と同様の方法でYIS12OH1N又はYIS12OH4Nを用いて細胞死斑の形成及び細胞死の強度を調べた。細胞死強度の結果を図12、細胞死斑の形成を図13に示す。ラウロイル基の末端炭素原子に水酸基を1個導入した化合物(HydLau:YIS12OH4N、1NHydLau:YIS12OH1N)は水酸基を導入していない化合物(Lau又は1N Lau)に比べて細胞死の強度がそれぞれ増強されていた。
【0056】
例9
例6と同様の方法でYIS12OH4N(HydLau) 3 mMによるイネ病害抵抗性マーカー遺伝子 OsPR1b、PBZ1、WRKY45、及びOsNPR1 の発現をポリアミンオキシゲナーゼ(PA)阻害剤であるグアザチン(GAZ) 5 mMの共存下で検討した。結果を図14に示す。グアザチンの共存下においてYIS12OH4N(HydLau)によるイネ病害抵抗性マーカー遺伝子の発現促進がさらに高められた。
【0057】
例10
例4と同様の方法により双子葉類であるシロイヌナズナに対してYIS12OH1N(1NHydLau)、YIS12OH4N(HydLau)、1N Non、Bnz、及びスペルミジン(Spd)による処理を行ない、肉眼により細胞死の観察を行った。結果を図15に示す。シロイヌナズナに対しても1NHydLau、HydLau、及び1N Nonは強い細胞死を惹起した。YIS12OH1N(1NHydLau)とYIS12OH4N(HydLau)を用いてPR1遺伝子発現促進作用を検討した結果を図16に示す。24時間後及び82時間後においてHydLauは1NHydLauに比べて3倍程度のPR1遺伝子促進作用を発揮した。
【0058】
なお、本明細書に記載の引用文献に記載の内容は全て本明細書中に参照として取り込まれるものとする。
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物が持つ内在性の防御システムを活性化して病害を防除するプラントアクティベーターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
作物の病害は収量低下の大きな原因であり、この対策として殺菌剤などの農薬と病害抵抗性品種とを組み合わせた作物保護が広く行われているが、殺菌剤の使用により殺菌剤に対して植物病原菌が抵抗性を持つようになることが大きな問題となっている。この問題点の解決のために作用機作の異なる殺菌剤を複数組み合わせて使う方法が広く採用されているが、殺菌剤を中心に据えた現行の戦略は環境への影響が懸念されることから、環境に配慮した新しい病害防除法の開発が求められている。
【0003】
このような状況下にあって、植物が持つ内在性の防御システムを活性化して病害を防除するプラントアクティベーター(植物活力剤や病害抵抗性誘導物質とも呼ばれる)が注目されている。プラントアクティベーターは植物病原菌に対して耐性を形成する問題がなく、生態系自体への直接の影響が少ないことから、環境に対する負荷を大幅に軽減する作物保護手段となるものと期待されている。
【0004】
植物は病原菌の侵入を察知すると感染部位周囲の細胞を自発的に死に至らしめる過敏感細胞死とよばれる防御機構を発動させ、特徴的な壊死病斑を形成することで感染拡大を阻止する。過敏感細胞死の成立過程の解明は植物の病害抵抗反応活性化メカニズムの理解につながると期待されているが、その詳細は未だ明らかではない。
【0005】
最近、イネの物質生合成に関与する遺伝子としてアシル転移酵素(OsAT1)が同定されており(Plant Mol. Biol., 63, pp.847-860, 2007)、OsAT1の高発現株では全身獲得抵抗マーカー遺伝子PBZ1、PR1の発現誘導、イネファイトアレキシンの蓄積、およびいもち病に対する抵抗性の向上が起きることが報告されている(日本農薬学会第33回大会、松田ら、演題番号:C312、2008年4月1日)。OsAT1が触媒する反応の生成物が一連の病害抵抗反応の誘導のトリガーになっているものと推測されることから、松田らはOsAT1過剰発現時に含量が常に増加する6成分を見いだし、MS/MS解析からそのうちの1つ(UK1)について含アミノ化合物とヒドロキシラウリン酸とのアミド化合物であると推測できることを報告している。しかしながら、この物質の化学構造は完全には特定されていない。
【0006】
一方、スペルミジンは代表的なポリアミンのひとつであり、過酸化水素の産生を介してHR(Hypersensitive Response)などの細胞死誘導に関与していることが知られている(Plant Mol. Biol., 70(1-2), pp.896-876, 2003; Plant Physiol. 132(4), pp.1973-1981, 2009) また、HR にとって重要なシグナルである過酸化水素などの活性酸素種や一酸化窒素はその他の病害抵抗反応においても重要なシグナルであることから、HR以外の病害抵抗性にも関与している可能性があるものと考えられる。
【0007】
従来、スペルミジンの誘導体の植物に対する作用については4N-ヘキサノイルスペルミジンがエンドウの老化に伴って植物体に蓄積すること(Plant Physiol. 10(4):1177-86, 1996) が知られているが、スペルミジン誘導体が植物病害に対する抵抗性を誘導することについては報告がない。また、スペルミジンの桂皮酸誘導体がいくつか知られており、シロイヌナズナ中に存在する病害誘導性のヒドロキシ桂皮酸誘導体(The Plant Cell, 21, pp.318-333, 2009)、殺虫性などを有するヒドロキシ桂皮酸誘導体(Phytochemistry, 63, pp.315-334, 2003)、及びポリアミン誘導体(Nat. Prod. Rep., 22, pp.647-658, 2005)が報告されているが、これらのスペルミジン桂皮酸誘導体について植物病害に対する抵抗性誘導作用は報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Plant Mol. Biol., 63, pp.847-860, 2007
【非特許文献2】日本農薬学会第33回大会、演題番号:C312、2008年4月1日)
【非特許文献3】Plant Mol. Biol., 70(1-2), pp.896-876, 2003
【非特許文献4】Plant Physiol. 132(4), pp.1973-1981, 2009
【非特許文献5】Plant Physiol. 10(4):1177-86, 1996
【非特許文献6】The Plant Cell, 21, pp.318-333, 2009
【非特許文献7】Phytochemistry, 63, pp.315-334, 2003
【非特許文献8】Nat. Prod. Rep., 22, pp.647-658, 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、植物が持つ内在性の防御システムを活性化して病害を防除するプラントアクティベーターとして有用な化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、アシル化スペルミジン誘導体がイネに対して病害抵抗性反応を惹起することができ、プラントアクティベーターとして利用できることを見出した。また、アシル基として直鎖アルカノイル基で置換されたスペルミジンがプラントアクティベーターとして強い作用を有していること、及び直鎖アルカノイル基に水酸基を導入した化合物がさらに強い作用を有していることを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成されたものである。
【0011】
すなわち、本発明により下記の一般式(I):
(R3)NH-(CH2)4-N(R1)-(CH2)3-NH(R2)
(式中、R1及びR2のいずれか一方は炭素原子数6個から18個の直鎖アルカノイル基又は直鎖アルケノイル基(該直鎖アルカノイル基又は該直鎖アルケノイル基は1から3個の水酸基及び/又は炭素原子数1個から4個のアルキル基を1から3個有していてもよい)であり、他方は水素原子又はアミノ基の保護基を示し;R3は水素原子又はアミノ基の保護基を示す)で表される化合物又はその塩が提供される。
【0012】
上記発明の好ましい態様によれば、R1及びR2のいずれか一方が炭素原子数8個から13個の直鎖アルカノイル基又は直鎖アルケノイル基(該直鎖アルカノイル基又は該直鎖アルケノイル基は1から3個の水酸基を有していてもよい)であり、他方が水素原子又はアミノ基の保護基であり、R3が水素原子又はアミノ基の保護基である上記の化合物又はその塩;R1及びR2のいずれか一方が炭素原子数8個から13個の直鎖アルカノイル基(該直鎖アルカノイル基は1から3個の水酸基を有していてもよい)であり、他方が水素原子又はアミノ基の保護基であり、R3が水素原子又はアミノ基の保護基である上記の化合物又はその塩;該直鎖アルカノイル基が、炭素原子数が9から12個の直鎖アルカノイル基(該直鎖アルカノイル基は1から2個の水酸基を有していてもよい)である上記の化合物又はその塩;該直鎖アルカノイル基が、炭素原子数が9から12個の直鎖アルカノイル基(該直鎖アルカノイル基は1個の水酸基を有する)である上記の化合物又はその塩;及び該直鎖アルカノイル基が、炭素原子数が9から12個の直鎖アルカノイル基(該直鎖アルカノイル基は末端に1個の水酸基を有する)である上記の化合物又はその塩が提供される。アミノ基の保護基としては、例えば炭素原子数2から6個の直鎖又は分枝鎖アルカノイル基又は炭素原子数2から6個の直鎖又は分枝鎖アルコキシカルボニル基などが好ましい。
【0013】
別の観点からは、本発明により上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を有効成分として含むプラントアクティベーターが提供される。好ましい態様によれば、植物における病害の防除のために用いる上記のプラントアクティベーターが提供される。また、上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を有効成分として含む植物内在性防御システムの活性化剤;上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を有効成分として含む植物の病害抵抗性の誘導剤;上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を有効成分として含む植物過敏感細胞死の活性化剤;上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を有効成分として含む植物体内におけるファイトアレキシン産生の亢進剤;及び上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を有効成分として含む植物体内における病害抵抗性遺伝子の発現促進剤が提供される。上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩とともにポリアミンオキシゲナーゼ(PAO)阻害剤を組み合わせて用いることにより病害抵抗性遺伝子の発現促進をさらに高めることができる。
【0014】
さらに別の観点からは、本発明により、植物における病害の防除方法であって、上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を防除有効量を植物に施用する工程を含む方法;植物の内在性防御システムの活性化方法であって、上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を防除有効量を植物に施用する工程を含む方法;植物の病害抵抗性を誘導する方法であって、上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を防除有効量を植物に施用する工程を含む方法;植物において病原菌の侵入後の過敏感細胞死を活性化させる方法であって、上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を防除有効量を植物に施用する工程を含む方法;植物中での病害抵抗反応において産生されるファイトアレキシンの産生量を増加させる方法であって、上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を防除有効量を植物に施用する工程を含む方法;植物において病害抵抗性遺伝子の発現を促進する方法であって、上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を防除有効量を植物に施用する工程を含む方法;及び植物において病害抵抗性遺伝子の発現を促進する方法であって、上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩とともにポリアミンオキシゲナーゼ(PAO)阻害剤を植物に施用する工程を含む方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩は植物が持つ内在性の防御システムを活性化する作用を有しており、プラントアクティベーターとして、例えば植物の病害抵抗性を誘導し、植物の病害を防除するために用いることができる。上記の一般式(I)で表される化合物のうち、例えばR1として末端に1個の水酸基を有するラウロイル基を有する化合物は植物生体内において存在が確認されていることから、上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩を有効成分として含むプラントアクティベーターは、生態系への影響を最小限にとどめることができ、環境に対する負荷を軽減した作物保護手段として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】スペルミジン誘導体を適用した後に観察された細胞死スポットの様子を示した図である。
【図2】スペルミジン誘導体を適用した後に引き起こされた細胞死の強度を示した図である。
【図3】スペルミジン又はスペルミジン誘導体(Lau)の水溶液で72時間処理した後のリーフディスクの様子を示した図である。
【図4】スペルミジン又はスペルミジン誘導体(Lau)の水溶液で72時間処理した後のファイトアレキシン産生量を示した図である。右図は左図の部分拡大図である。
【図5】スペルミジン誘導体で処理したイネ葉身における抵抗性遺伝子発現量を示した図である。
【図6】YIS12OH1N(1NHydLau)又はYIS12OH4N(HydLau)で処理したイネ葉身における抵抗性遺伝子発現量を示した図である。mockは被験化合物を含まない溶液で処理した結果を示す。
【図7】5葉期のイネにYIS12OH1N(1NHydLau)又はYIS12OH4N(HydLau)を噴霧処理した後にいもち病菌を接種して感染させ、接種後6日の病斑数を測定した結果を示した図である。mockは被験化合物を含まない溶液を噴霧処理した結果を示す。図中、**及び***はそれぞれ1%および0.1%水準で有意差があることを示す。
【図8】5葉期のイネにYIS12OH1N又はYIS12OH4Nを噴霧処理した後にいもち病菌を接種して感染させ、接種後6日の様子を観察した結果を示した図である。
【図9】5葉期のイネにYIS12OH1N(1NHydLau)又はYIS12OH4N(HydLau)を噴霧処理した後にいもち病菌を接種して感染させ、接種後6日の病斑数を測定した結果を示した図である。mockは被験化合物を含まない溶液を噴霧処理した結果を示す。
【図10】いもち菌に対してYIS12OH1N又はYIS12OH4Nの抗菌作用を阻止円の形成の有無により判定した結果を示した図である。
【図11】OsAT1を過剰発現しているイネ中に存在する天然型のYIS12OH4Nを合成標品を用いて同定した結果を示した図である。
【図12】ラウロイル基に水酸基を導入した化合物を適用した後に引き起こされた細胞死の強度を示した図である。図中、HydLau:YIS12OH4N、1NHydLau:YIS12OH1Nを示す。
【図13】ウロイル基に水酸基を導入した化合物を適用した後に観察された細胞死スポットの様子を示した図である。(A)はHydLau:YIS12OH4N、(B)は1NHydLau:YIS12OH1Nの結果を示す。
【図14】YIS12OH4N(HydLau)(3 mM)による抵抗性遺伝子誘導作用をポリアミンオキシゲナーゼ阻害剤であるグアザチンの存在下で調べた結果を示した図である。図中、mockは被験化合物を含まない溶液で処理した結果を示し、ABAはアブシジン酸を示す。ABAは全身獲得抵抗性による病害抵抗性に対して阻害効果を示すことが報告されているが、本発明の化合物が引き起こす病害抵抗性に対しても阻害効果を示した。
【図15】シロイヌナズナに対してスペルミジン誘導体を適用した後に引き起こされた細胞死の強度を示した図である。3dは3日後、7dは7日後の結果を示す。
【図16】シロイヌナズナに対してYIS12OH1N(1NHydLau)又はYIS12OH4N(HydLau)によるPR1遺伝子発現作用を検討した結果を示した図である。左図は24時間後、右図は72時間後の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
一般式(I)において、R1及びR2のいずれか一方は炭素原子数6個から18個の直鎖アルカノイル基又は炭素原子数6個から18個の直鎖アルケノイル基(炭素原子数はカルボニル炭素原子を含む)を示し、他方は水素原子又はアミノ基の保護基を示す。R3は水素原子又はアミノ基の保護基を示す。R1及びR2のいずれか一方が示す該直鎖アルカノイル基又は該直鎖アルケノイル基は1から3個の水酸基及び/又は炭素原子数1個から4個のアルキル基を1から3個有していてもよい。該アルケノイル基に含まれる二重結合の数は例えば1〜3個程度であり、好ましくは2個、さらに好ましくは1個である。該直鎖アルカノイル基又は該直鎖アルケノイル基上に存在可能な炭素原子数1から4個のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、シクロプロピル基、又はシクロブチル基などが挙げられる。
【0018】
R1及びR2のいずれか一方は好ましくは炭素原子数が8から13個の直鎖アルカノイル基又は直鎖アルケノイル基を示し、他方は水素原子又はアミノ基の保護基を示す。この場合においてR3が水素原子又はアミノ基の保護基のいずれかであることが好ましい。直鎖アルカノイル基又は直鎖アルケノイル基としては、炭素原子数が9から12個の直鎖アルカノイル基又は直鎖アルケノイル基が好ましい。直鎖アルカノイル基又は直鎖アルケノイル基が水酸基を有する場合には、水酸基の個数は1〜3個であり、好ましくは1又は2個、さらに好ましくは1個の水酸基を有することができる。直鎖アルカノイル基又は直鎖アルケノイル基として好ましくは末端に1個の水酸基を有する炭素原子数が9から12個の直鎖アルカノイル基又は直鎖アルケノイル基を用いることができる。より好ましくはR1及びR2のいずれか一方が素原子数が9から12個の直鎖アルカノイル基の場合であり、該直鎖アルカノイル基上には1個の水酸基が置換していてもよい。特に好ましくはR1又はR2が示す直鎖アルカノイル基が末端に1個の水酸基を有する場合であり、最も好ましいのは炭素原子数が11個又は12個の直鎖アルカノイル基が末端に1個の水酸基を有する場合である。
【0019】
アミノ基の保護基の種類は特に限定されず、適宜の保護基を選択して使用することができる。例えば、アセチル基などの炭素原子数2から6個の直鎖又は分枝鎖アルカノイル基、tert-ブトキシカルボニル基や2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル基などの炭素原子数2から6個の直鎖又は分枝鎖アルコキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基などのアラルキルオキシカルボニル基、ベンジル基やp-メトキシベンジル基などのアラルキル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基、又はアリルオキシカルボニル基など、アミノ基の保護基として当業界で周知のものを好適に使用することができるが、これらに限定されることはない。アミノ基の保護基については、例えば、Greenら、Protective Groups in Organic Synthesis, 3rd Edition, 1999, John Wiley & Sons, Inc.などの成書を参照することができる。特に好ましい保護基はtert-ブトキシカルボニル(Boc)基である。一般式(I)で表される化合物に複数のアミノ基の保護基が存在する場合には、それらは同一でも異なっていてもよいが、複数のアミノ基の保護基が同一の保護基であることが好ましい。
【0020】
上記一般式(I)で表される化合物においてR1又はR2が末端以外に水酸基を有する直鎖アルカノイル基又は直鎖アルケノイル基である場合には、上記一般式(I)で表される化合物は1個以上の不斉炭素を有するが、1個又は2個以上の不斉炭素に基づく純粋な形態の光学活性体又はジアステレオ異性体のほか、任意の異性体混合物(例えば、2種以上のジアステレオ異性体の混合物)又はラセミ体などはいずれも本発明の範囲に包含される。また、R1又はR2が直鎖アルケノイル基である場合にはE又はZの幾何異性体が存在するが、純粋な形態の幾何異性体のほかこれらの混合物も本発明の範囲に包含される。
【0021】
上記一般式(I)で表される化合物は酸付加塩を形成することができる。塩の種類は特に限定されず、塩酸、硫酸などの鉱酸類との塩、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、酒石酸などの有機酸類との塩などのほか、グリシンなどのアミノ酸との塩を挙げることができる。さらに、上記式(I)で表される化合物又はその塩は水和物又は溶媒和物として存在することもあるが、これらの物質も本発明の範囲に包含される。
【0022】
上記一般式(I)で表される化合物は、スペルミジンにおいてアシル化すべきアミノ基以外のアミノ基をtert-ブトキシカルボニル基(Boc基)などのアミノ基の保護基で適宜保護した後、導入するアシル基に対応するカルボン酸の酸ハライドなどを用いて未保護のアミノ基をアシル化することにより製造することができ、必要に応じてアミノ基の保護基を適宜の条件で脱保護することにより保護基を有しない化合物を収率よく得ることができる。水酸基を有するアルカノイル基又はアルケノイル基を導入する場合には水酸基を適宜保護しておいてもよい。水酸基の保護基の種類、保護基の導入条件、及び保護基の脱離条件は、例えばGreenら、Protective Groups in Organic Synthesis, 3rd Edition, 1999, John Wiley & Sons, Inc.などの成書を参照することにより適宜選択することができる。
【0023】
上記一般式(I)で表される化合物又はその塩は、植物が持つ内在性の防御システムを活性化する作用を有しており、植物の病害に対する抵抗性を高めることができる。例えば、上記一般式(I)で表される化合物又はその塩は、植物において病原菌の侵入後に感染部位周囲の細胞を自発的に死に至らしめる過敏感細胞死を活性化させ、感染防御システムを活性化させることができる。また、植物中で生じる病害抵抗反応において産生されるファイトアレキシン(例えばファイトカサンA〜EやモミラクトンA及びBなど)の産生量を増加させることもでき、植物体内において病害抵抗性に関与する遺伝子の発現を活性化することもできる。病害抵抗性遺伝子としては、例えばOsPR1b(Biochem. Biophys. Res. Commun., 278, pp.290-298, 2000)、PBZ1(Plant Cell Physiol., 37, pp.9-18, 1996)、WRKY45(Plant Cell, 19, pp.2064-2076, 2007)、OsNPR1(Mol. Plant-Microbe Interact., 18, pp.511-520, 2005)などが挙げられる。また、Mol. Geneti. Genomics 279(4), pp.415-427, 2008; Biosci. Biotechnol. Biochem., 65(1), pp.205-208, 2001も参照することができる。
【0024】
上記の作用に基づいて、上記一般式(I)で表される化合物又はその塩をプラントアクティベーターとして使用することができる。植物の病害の種類は特に限定されないが、例えばカビ類、ウイルス類、又は細菌などによる感染症、好ましくはカビ類による感染症により惹起される病害を防除の対象とすることができるが、この特定の病害に限定されるわけではない。
【0025】
本発明のプラントアクティベーターは、例えば、当業界で周知の製剤用添加物を用いて、農薬用組成物として調製することができる。農薬用組成物の形態は特に限定されず、当業界で利用可能な形態であればいかなる形態を採用してもよい。例えば、乳剤、液剤、油剤、水溶剤、水和剤、フロアブル、粉剤、微粒剤、粒剤、エアゾール、くん蒸剤、又はペースト剤などの形態の組成物を用いることができる。農薬用組成物の製造方法も特に限定されず、当業者に利用可能な方法を適宜採用することができる。一般式(I)で表される化合物におけるアミン部分の酸化を防止するために塩酸塩などの塩の形態の有効成分を用いることが好ましい場合がある。また、農薬用組成物における有効成分の酸化防止手段として利用可能な手段を適宜採用することもできる。
【0026】
本発明のプラントアクティベーターの有効成分としては、上記一般式(I)で表される化合物またはその塩の2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、適用目的に応じて、殺虫剤、殺菌剤、殺虫殺菌剤、除草剤などの他の農薬の有効成分を配合してもよい。上記の一般式(I)で表される化合物又はその塩とともに例えばグアザチン(GAZ)などのポリアミンオキシゲナーゼ(PAO)阻害剤を植物に施用することにより病害抵抗性遺伝子の発現促進をさらに高めることができる場合がある。本発明のプラントアクティベーターの適用方法及び適用量は、適用目的、剤型、適用場所などの条件に応じて当業者が適宜選択可能である。例えばイネなどに対しては1〜5 mM程度を選択することができるが、適用量は上記の特定の範囲に限定されることはない。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
例1
スペルミジン(Spd, 4.48 g, 22.7 mmol)を脱水テトラヒドロフラン(THF, 50 ml)に溶解し、トリエチルアミン(9.75 ml, 68.1 mmol )を加え、0℃に保ったところにBoc-ON(13.9 g, 56.5 mmol)を脱水THF(50 ml)に溶かした溶液を激しく攪拌しながら滴下し、0℃で一晩攪拌した。THFを減圧下留去したのち残渣に1M NaOH (50 ml)を加えてジクロロメタン(50 ml × 3)で抽出し、有機層を合わせて食塩水(50 ml)、H2O(50 ml×2)で洗浄した。硫酸ナトリウムを加えて脱水した後、濾過して取り除きジクロロメタン/n-ヘキサン中で再結晶した。生じた結晶をn-ヘキサンで洗浄し、白色非晶質の結晶としてN1,N8-bis-Boc-Spd(6.68 g, 85.4%)を得た。
【0028】
得られたN1,N8-bis-Boc-Spdのうち 83 mg(0.234 mmol)をトリエチルアミン2%(v/v)を含んだジクロロメタン 10 ml に溶解し、ラウリル酸クロリド(200 μl, excess) を加えて室温で2時間攪拌した。ジクロロメタンを減圧留去して除いたのち、残渣にH2O 10 ml を加えて酢酸エチル(10 ml×3)抽出し、食塩水(10 ml)、H2O(10 ml×2)で洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水した後溶媒を減圧留去し、シリカゲルカラムによって精製した(酢酸エチル:n-ヘキサン= 1:1 , v/v )。精製した化合物全量に対してトリフルオロ酢酸(TFA) 2 ml を加え、室温で 30分攪拌してから溶媒を減圧留去し、残渣にメタノールを少量入れてから再び真空中で十分に減圧留去した。残渣をn-ヘキサンによって数回洗い、1M NaOH 5 mlを加えて分液ロートに移し、ジクロロメタン(5 ml×4 )抽出し、食塩水(5 ml)、H2O(10 ml×2)で洗浄し硫酸ナトリウムを加えて脱水した後、濾過して黄色オイル状の N4-lauroyl-Spd( 62 mg, 81.0% )を得た。
他の4N-アルカノイルスペルミジンも上記と同様の方法によって合成した。
【0029】
例2
ジアミノブタン(1.2 g, 13 mmol)をトリエチルアミン 10%(v/v)含有メタノール 10 ml に溶解し、0℃に保ったところに Boc2O( 1.0 g, 4.6 mmol )をメタノール 2 ml に溶かした溶液を激しく攪拌しながら滴下し、0℃で30分攪拌してから室温にて一晩攪拌した。溶媒を減圧下留去してほぼ取り除いてからジクロロメタン( 20 ml )に再び溶解し、1M NaOH(20 ml)、H2O(20 ml×2)洗浄した。硫酸ナトリウムを加えて脱水した後濾過し、黄色オイル状のN-Boc-ジアミノブタン (589 mg, 69.6%) を得た。
【0030】
得られたN-Boc-ジアミノブタンをアセトニトリル (20 ml)に溶解し、そこに炭酸カリウム(800 mg)を加えて攪拌しながらブロモプロピルフタルイミド(838 mg, 3.13 mmol)を加えた。その後、室温で15分攪拌してから45℃で一晩攪拌した。アセトニトリルを減圧下留去してから残渣にH2O(20 ml)を加えてジクロロメタン(20 ml×2)抽出し、食塩水(10 ml)、H2O(20 ml×2)洗浄してから硫酸ナトリウムによって脱水した後、濾過してから濃縮して無色オイル状の粗生成物を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し(ジクロロメタン:メタノール=9:1, v/v)、無色オイル状のN8-Boc-N1-phtal-Spd ( 695 mg, 59.2% ) を得た。
【0031】
得られたN8-Boc-N1-phtal-Spdをトリエチルアミン 10% (v/v)含有メタノール 5 ml に溶解し、攪拌しているところに Boc2O(0.56 g, 2.52 mmol)を加え、室温で一晩攪拌した。溶媒を減圧留去でほぼ取り除いてからH2O(10 ml)を加えて酢酸エチル(10 ml×2)抽出し、有機層を合わせて食塩水(10 ml)、H2O(10 ml×2)洗浄した。硫酸ナトリウムを加え脱水した後濾過し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製することで(酢酸エチル:n-ヘキサン = 1:3, v/v)、無色オイル状のN4,N8-bis-Boc-N1-phtal-Spd(332 mg, 81.2%)を得た。
【0032】
得られたN4,N8-bis-Boc-N1-phtal-Spdをエタノール(1 ml)に溶かし、ヒドラジン一水和物(0.2 ml)を加えて室温にて一晩攪拌した。H2O(10 ml)を加えてジクロロメタン(10 ml)抽出し、H2O(5 ml× 2)洗浄した。硫酸ナトリウムを加えて脱水してから濾過し、溶媒を減圧下留去して無色オイル状のN4,N8-bis-Boc-Spd (225 mg, 93.4%)を得た。
【0033】
83 mg(0,234 mmol)の N4,N8-bis-Boc-Spdをトリエチルアミン2%(v/v)含有ジクロロメタン 10 ml に溶解し、ラウリル酸クロリド(200 μl, excess )を加えて室温で2時間攪拌した。ジクロロメタンを減圧留去して除いたのち、残渣にH2O 10 ml を加えて酢酸エチルで抽出し(10 ml×3)、食塩水(10 ml)、H2O(10 ml×2回)によって洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水した後溶媒を減圧留去し、シリカゲルカラムによって精製した(酢酸エチル:n-ヘキサン= 1:1 ,v/v)。精製した化合物全量に対してTFA 2 ml を加え、室温で 30分攪拌してから溶媒を減圧留去し、残渣にメタノールを少量入れてから再び真空中で十分に減圧留去した。残渣をn-ヘキサンによって数回洗い、1M NaOH 5 mlを加えて分液ロートに移し、ジクロロメタン(5ml × 4)抽出し、食塩水(5 ml)、H2O(10 ml × 2)洗浄し硫酸ナトリウムを加えて脱水した後、濾過して黄色オイル状の 1N-lauroyl-Spd( 62 mg, 81.0% )を得た。
他の1N-アルカノイルスペルミジンも上記と同様の方法によって合成した。
【0034】
【表1】
【0035】
4N-hexanoylspermidine
1H NMR (500MHz CDCl3), δ 0.90 (3H, t, JH,H = 7.0 Hz, H2-6'), 1.26-1.49 (6H, m, H2-3'〜5'), 1.54-1.73 (6H, m, H2-2,6,7), 2.29 (2H, m, H2-2'), 2.64-2.77 (4H, m, H2-1,8), 3.21-3.46 (4H, m, H2-3,5)
4N-nonanoylspermidine
1H NMR (500MHz CDCl3), δ 0.88 (3H, t, JH,H = 6.5 Hz, H2-9'), 1.22-1.36 (10 H, m, H2-4'〜8'), 1.45 (2H, m, H2-3'), 1.53-1.73 (6H, m, H2-2,6,7), 2.29 (2H, m, H2-2'), 2.64-2.76 (4H, m, H2-1,8), 3.21-3.44 (4H, m, H2-3,5)
4N-lauroylspermidine
1H NMR (500MHz CDCl3), δ 0.88 (3H, t, JH,H = 6.8 Hz, H2-12'), 1.26-1.30 (16H, m, H2-4'〜11'), 1.45 (2H, m, H2-3'), 1.50-1.73 (6H, m, H2-2,6,7), 2.29 (2H, m, H2-2'), 2.64-2.76 (4H, m, H2-1,8), 3.24-2.42 (4H, m, H2-3,5)
【0036】
4N-stearoylspermidine
1H NMR (500MHz CDCl3), δ 0.88 (3H, t, JH,H = 7.0 Hz, H2-18'), 1.20-1.35 (28H, m, H2-4'〜17'), 1.46 (2H, m, H2-3'), 1.54-1.74 (6H, m, H2-2,6,7), 2.29 (2H, m, H2-2'), 2.66-2.76 (4H, m, H2-1,8), 3.23-3.45 (4H, m, H2-3,5)
4N-benzoylspermidine
1H NMR (500MHz CDCl3), δ 1.45-1.86 (6H, m, H2-2,6,7), 2.48-2.73 (4H, m, H2-1,8), 3.18-3.63 (4H, m, H2-3,5), 7.32-7.44 (5H, m, Ph)
4N-cinnamoylspermidine
1H NMR (500MHz CDCl3), δ 1.47-1.79 (6H, m, H2-2,6,7), 2.71-2.80 (4H, m, H2-1,8), 3.41-3.57 (4H, m, H2-3,5), 6.84-7.00 (1H, dd, JH,H = 68.1 Hz, 15.6 Hz, CHPh), 7.21-7.52 (5H, m, Ph), 7.68-7.72 (1H, dd, JH,H = 15.3 Hz, 5.5 Hz, CHCO)
【0037】
1N-hexanoylspermidine
1H NMR (500MHz CDCl3), δ 0.89 (3H, t, JH,H = 6.8 Hz, H2-6'), 1.31 (4H, m, H2-4',5'), 1.48-1.70 (8H, m, H2-2,6,7,3'), 2.15 (2H, t, JH,H =7.6 Hz, H2-2'), 2.62 (2H, t, JH,H =6.8 Hz, H2-8), 2.72 (4H, m, H2-3.5), 3.34 (2H, dt, JH,H =6.1 Hz, 6.1 Hz, H2-1), 6.88 (1H, s, -NHCO-)
1N-nonanoylspermidine
1H NMR (500MHz CDCl3), δ 0.88 (3H, t, JH,H = 6.9 Hz, H2-9'), 1.21-1.34 (10H, m, H2-4'-8'), 1.44-1.69 (8H, m, H2-2,6,7,3'), 2.14 (2H, t, JH,H =7.6 Hz, H2-2'), 2.61 (2H, t, JH,H =6.9 Hz, H2-8), 2.71 (4H, m, H2-3.5), 3.34 (2H, dt, JH,H =6.1 Hz, 6.1 Hz, H2-1), 6.69 (1H, s, -NHCO)
1N-lauroylspermidine
1H NMR (500MHz CDCl3), δ 0.88 (3H, t, JH,H = 6.9 Hz, H2-12'), 1.22-1.33 (16H, m, H2-4'-11'), 1.46-1.70 (8H, m, H2-2,6,7,3'), 2.15 (2H, t, JH,H =7.6 Hz, H2-2'), 2.62 (2H, t, JH,H =6.9 Hz, H2-8), 2.72 (4H, m, H2-3,5), 3.35 (2H, dt, JH,H =6.1 Hz, 6.1 Hz, H2-1), 6.70 (1H, s, -NHCO)
【0038】
1N-stearoylspermidine
1H NMR (500MHz CDCl3), δ 0.88 (3H, t, JH,H = 7.0 Hz, H2-18'), 1.20-1.32 (28H, m, H2-4'-17'), 1.46-1.69 (8H, m, H2-2,6,7,3'), 2.14 (2H, t, JH,H =7.6 Hz, H2-2'), 2.61 (2H, t, JH,H =6.9 Hz, H2-8), 2.72 (4H, m, H2-3,5), 3.34 (2H, dt, JH,H =6.0 Hz, 6.0 Hz, H2-1), 6.68 (1H, s, -NHCO)
1N-benzoylspermidine
1H NMR (500MHz CDCl3), 1.43-1.58 (4H, m, H2-6,7), 1.78 (2H, qi, H2-2), 2.65 (2H, t, JH,H =7.0 Hz, H2-8), 2.69 (2H, t, JH,H =6.9 Hz, H2-5), 2.83 (2H, t, JH,H =5.8 Hz, H2- 3), 3.58 (2H, dt, JH,H =5.7 Hz, 5.7Hz, H2-1), 7.41 (2H, m, Hph-3,5), 7.48 (1H, m, Hph-4), 7.80 (2H, m, Hph-2,6), 8.20 (1H, s, -NHCO)
1N-cinnamoylspermidine
1H NMR (500MHz CDCl3), δ 1.48-1.59 (4H, m, H2-6,7), 1.74 (2H, qi, JH,H = 6.3 Hz, H2-6), 2.64 (2H, t, JH,H =7.0 Hz, H2-5), 2.72 (2H, t, JH,H =6.5 Hz, H2- 3), 2.77 (2H, dt, JH,H =6.0 Hz, 6.0 Hz, H2- 3), 3.48 (2H, m, H2-1), 6.38 (1H, dd, JH,H = 15.5 Hz, CHPh), 7.22-7.51 (5H, m, Ph), 7.59 (1H, dd, JH,H = 15.5 Hz, CHCO)
【0039】
例3
末端に水酸基を1個導入したラウロイル基を1位又は4位に結合させた化合物を下記のように合成した。
【化1】
【0040】
12-hydoroxylauric acid(225 mg, 1.04 mmol)にジクロロメタン10 ml を加え、窒素ガス雰囲気下においてEDCI(200 mg, 1.04 mmol), DMAP(127 mg, 1.04 mmol)を入れて全体が溶けるまで攪拌した。そこに1N,8N-diBoc-spermidine(300 mg, 0.870 mmol)をジクロロメタン 5 ml に溶解して加えて窒素ガス雰囲気下に室温で3d攪拌した。
【0041】
攪拌終了後、10 ml のクエン酸水溶液(10%, w/w)を反応溶液に加えて5分間攪拌して反応を停止してからジクロロメタン(10ml×3)で抽出し、硫酸ナトリウムで脱水後に溶媒を減圧留去して無色オイル状の粗生成物 0.62 g を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製(酢酸エチル:n-ヘキサン = 4:1)して無色オイル状の 1N,8N-diBoc-4N-(12-hydoroxylauroyl)-spermidine(155 mg, 32.8%)を得た。
1H NMR (500MHz, CDCl3), δ 1.28 (16H, s, H2-4'-11'), 1.44 (20H, m, 2 x Boc, H2-3'), 1.56-1.69 (6H, m,H2-2, 6, 7), 2.34 (2H, t, JH,H = 7.5 Hz, H2-2'),3.07-3.40 (9H, m, H2-1, 3, 5, 8, -OH), 3.62 (2H, t, JH,H = 6.5 Hz, H2-12')
【0042】
これをトリフルオロ酢酸/ジクロロメタン(20% v/v)10 ml 中で1時間攪拌し、トリフルオロ酢酸をメタノールと共沸させて減圧留去した後 1M NaOH 5 ml を加えて分液ロートに移し、ジクロロメタン(5ml×4)で抽出し、蒸留水(5 ml)で洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水後に溶媒を減圧留去して白色非晶質の結晶として4N-(12-hydoroxylauroyl)-spermidine( 73 mg, 24.5% ) を得た。
【0043】
12-hydoroxylauric acid(300 mg, 1.39 mmol)にジクロロメタン15 ml を加え、窒素ガス雰囲気下においてEDCI(275 mg, 1.39 mmol), DMAP(170 mg, 1.39 mmol)を入れて全体が溶けるまで攪拌した。そこに4N,8N-diBoc-spermidine(400 mg, 1.16 mmol)をジクロロメタン 5 ml に溶解して加えて窒素ガス雰囲気下に室温で3日間攪拌した。
【0044】
攪拌終了後、10 ml のクエン酸水溶液(10%, w/w)を反応溶液に加えて5分間攪拌して反応を停止してからジクロロメタン(10ml×3)で抽出し、硫酸ナトリウムで脱水後溶媒を減圧留去して無色オイル状の粗生成物 0.68 g を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し(酢酸エチル:n-ヘキサン = 4:1 )、無色オイル状の 4N,8N-diBoc-1N-(12-hydoroxylauroyl)-spermidine( 311 mg, 49.3% )を得た。
1H NMR (500MHz, CDCl3), δ1.27 (16H, s, H2-4'-11'), 1.44 (20H, m, 2 x Boc, H2-3'), 1.51-1.64 (6H, m,H2-2, 6, 7), 2.18 (2H, t, JH,H = 7.8 Hz, H2-2'), 3.13-3.28 (9H, m, H2-1, 3, 5, 8, -OH), 3.63 (2H, m, H2-12')
【0045】
これをトリフルオロ酢酸/CH2Cl2 (20% v/v) 10 ml 中で1時間攪拌し、トリフルオロ酢酸をメタノールと共沸させて減圧留去した後 1M NaOH 5 ml を加えて分液ロートに移し、ジクロロメタン(5ml×4)によって抽出し、蒸留水(5 ml)で洗浄して、硫酸ナトリウムで脱水後に溶媒を減圧留去して白色非晶質の結晶として1N-(12-hydoroxylauroyl)-spermidine (160 mg, 40.2%) を得た。
【0046】
YIS12OH1N(スペルミジンの1位アミノ基に-CO-(CH2)10CH2-OHを結合させた化合物)
1H NMR (500MHz, CDCl3), δ 1.28 (16H, m, H2-4'-11'), 1.44-1.67 (9H, m, H2-2,6,7,3',-OH), 2.30 (2H, m, H2-2'), 2.64-2.76 (4H, m, H2-1,8), 3.00-3.47 (4H , m, H2-3,5), 3.62 (2H, t, JH,H = 6.5 Hz, H2-1')
YIS12OH4N(スペルミジンの4位アミノ基に-CO-(CH2)10CH2-OHを結合させた化合物)
1H NMR (500MHz CDCl3) δ 1.28 (16H, m, H2-4'-11'), 1.50-1.67 (9H , m, H2-2,6,7,3',-OH), 2.14 (2H, t, JH,H =7.5 Hz, H2-2'), 2.61 (2H, t, JH,H =6.8 Hz, H2-8), 2.71 (4H, m, H2-3,5), 3.35 (2H, dt, JH,H =6.0 Hz, 6.0 Hz, H2-1), 3.63 (2H, t, JH,H =6.5 Hz, H2-12), 6.73 (1H, s, -NHCO)
【0047】
例4
スペルミジンは葉身に対する処理でHR(Hypersensitive Response)様の細胞死斑を形成することが様々な植物種において知られている(Plant Physiol. 132(4), pp.1973-1981, 2009)。例1で得られたスペルミジン誘導体を1 mMの水溶液(Tween 20 を終濃度 0.1 %となるように添加)として播種後1月程度のイネ(日本晴)の葉身に 5μl ずつ滴下し、そのまま風乾してその後の細胞死の強度(Severity)を細胞死の重症度及び滴下部位に対する割合を指標として目視によって評価した(図1及び2)。その結果、スペルミジン(Spd)自体とは異なる細かな細胞死斑の形成がNon、Lau、1N Non、及び1N Lau 等で認められた。また、Spd による細胞死が一部の処理葉のみで認められたのに対して、これらのスペルミジン誘導体ではスペルミジンよりも早い時期に多くの処理葉で細胞死斑を与えた。
【0048】
例5
ファイトアレキシンは植物の病害抵抗反応において産生される抗菌物質であり、ファイトカサンA〜E(PA〜PE)、モミラクトンA, B(MA, MB)などが知られている。イネ葉身よりリーフディスクを切り出し、スペルミジン又は例2において強い細胞死誘導効果を認めた Lau の0.5 mM水溶液を調製し、リーフディスクをこの水溶液に浸漬して 72時間後のファイトアレキシン産生量を測定した。その結果、ファイトアレキシン産生を誘導する物質として知られている塩化銅に比べると弱いもののLau 処理によって塩化銅特異的な反応であるリーフディスクの褐変及び明らかなファイトアレキシンの蓄積が認められた(図3及び4)。
【0049】
例6
各スペルミジン誘導体を1 mM の水溶液とし、終濃度 0.01%のTween 20 を加えた。水耕で1週間育てたイネの葉身に対してこの水溶液をスプレーし、24時間後にRNAを抽出した。各サンプルにおけるイネ病害抵抗性マーカー遺伝子である OsPR1b、PBZ1、及びWRKY45 の発現をリアルタイムPCRを用いて測定した。その結果、これらのスペルミジン誘導体には抵抗性マーカー遺伝子の発現を誘導する傾向が認められた(図5)。
【0050】
YIS12OH1N(1NHydLau)又はYIS12OH4N(HydLau)を1 mM の水溶液とし、終濃度 0.01%のTween 20 を加えた。水耕で1週間育てたイネの葉身に対してこの水溶液をスプレーし、24時間後にRNAを抽出した。各サンプルにおけるイネ病害抵抗性マーカー遺伝子である OsPR1b、PBZ1、及びWRKY45 の発現をリアルタイムPCRを用いて測定した。その結果、これらのスペルミジン誘導体には抵抗性マーカー遺伝子の発現を誘導する傾向が認められた(図6)。
【0051】
例7
5葉期のイネにYIS12OH1N(1NHydLau)又はYIS12OH4N(HydLau)を1 mM又は5 mMの濃度で噴霧処理し、その翌日にいもち病菌(Kyu89-246, MAFF101506, race 003.0, 3.4x105 spores/ml)を接種して感染させた。接種後6日の病斑数を測定した結果を図7及び図8に示す。被験化合物無しでの噴霧処理(mock)ではいもち病に感染し多くの病斑が出現しているのに対して、5 mMの濃度でYIS12OH1N又はYIS12OH4Nを処理すると、いもち病抵抗性を示した。YIS12OH1Nは1mM処理でも抵抗性を示した。なお、被験化合物の噴霧のみ(5 mM)では細胞死斑は認められなかった。同様にして5葉期のイネにYIS12OH1N(1NHydLau)又はYIS12OH4N(HydLau)を1 mMの濃度で噴霧処理し、その翌日にいもち病菌(Kyu89-246, MAFF101506, race 003.0, 3.4x105 spores/ml)を接種して感染させた。接種後6日の病斑数を測定した結果を図9に示す。
【0052】
例8
直径6 mmのろ紙にYIS12OH1N(1NHydLau)又はYIS12OH4N(HydLau)の水溶液(1 mM、5 mM、又は10 mM)20μlを染みこませて風乾し、このろ紙を用いていもち病菌(Kyu89-246, MAFF101506, race 003.0)に対しての阻止円の形成を評価した。28℃で遮光下に5-6日培養した後に阻止円の形成は認められなかったことから(図10)、これらの化合物自体は10 mM濃度においてもいもち菌に対する抗菌活性を有しないことが確認された。
【0053】
例9
OsAT1過剰発現体のイネからLN2で凍結粉砕した葉身をメタノール抽出し1M NaOH-CH2Cl2で溶媒分画後、1M HClで有機層から回収してOasis(登録商標)カラムによって精製して試料を調製し、LC/MSMSにより合成標品のYIS12OH4Nを用いてイネ中に存在する天然型のYIS12OH4Nを同定した。結果を図11に示す。OsAT1を過剰発現しているイネ中にYIS12OH4Nが存在することが確認された。LC/MSの測定条件は以下のとおりである。
Waters Acquity UPLC
カラム:AQUITIY C18BEH 1.7 μm 2.1×50 mm column
流速:0.2 mL/min
移動相 A:0.1%ギ酸水溶液 / B:0.1%ギ酸メタノール
グラジエント条件
min flow A B
0 0.2 70 30
1 0.2 70 30
10 0.2 0 100
【0054】
Waters Xevo(登録商標) TQ MS
キャピラリー電圧:3.0 kV
コーン電圧:34 V
ソース温度:150℃
デソルベーション温度:400℃
コーンガス流量:50 L/Hr
デソルベーションガス流量:800 L/Hr
検出モード:MRMモード(positive)
コリジョン電圧:22/16 V (Ch1/Ch2)
チャンネル条件:344.46>256.30 / 344.46>273.34 (CH1/Ch2)
データ解析:MassLynx(登録商標)
【0055】
例8
例4と同様の方法でYIS12OH1N又はYIS12OH4Nを用いて細胞死斑の形成及び細胞死の強度を調べた。細胞死強度の結果を図12、細胞死斑の形成を図13に示す。ラウロイル基の末端炭素原子に水酸基を1個導入した化合物(HydLau:YIS12OH4N、1NHydLau:YIS12OH1N)は水酸基を導入していない化合物(Lau又は1N Lau)に比べて細胞死の強度がそれぞれ増強されていた。
【0056】
例9
例6と同様の方法でYIS12OH4N(HydLau) 3 mMによるイネ病害抵抗性マーカー遺伝子 OsPR1b、PBZ1、WRKY45、及びOsNPR1 の発現をポリアミンオキシゲナーゼ(PA)阻害剤であるグアザチン(GAZ) 5 mMの共存下で検討した。結果を図14に示す。グアザチンの共存下においてYIS12OH4N(HydLau)によるイネ病害抵抗性マーカー遺伝子の発現促進がさらに高められた。
【0057】
例10
例4と同様の方法により双子葉類であるシロイヌナズナに対してYIS12OH1N(1NHydLau)、YIS12OH4N(HydLau)、1N Non、Bnz、及びスペルミジン(Spd)による処理を行ない、肉眼により細胞死の観察を行った。結果を図15に示す。シロイヌナズナに対しても1NHydLau、HydLau、及び1N Nonは強い細胞死を惹起した。YIS12OH1N(1NHydLau)とYIS12OH4N(HydLau)を用いてPR1遺伝子発現促進作用を検討した結果を図16に示す。24時間後及び82時間後においてHydLauは1NHydLauに比べて3倍程度のPR1遺伝子促進作用を発揮した。
【0058】
なお、本明細書に記載の引用文献に記載の内容は全て本明細書中に参照として取り込まれるものとする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I):
(R3)NH-(CH2)4-N(R1)-(CH2)3-NH(R2)
(式中、R1及びR2のいずれか一方は炭素原子数6個から18個の直鎖アルカノイル基又は直鎖アルケノイル基(該直鎖アルカノイル基又は該直鎖アルケノイル基は1から3個の水酸基及び/又は炭素原子数1個から4個のアルキル基を1から3個有していてもよい)であり、他方は水素原子又はアミノ基の保護基を示し;R3は水素原子又はアミノ基の保護基を示す)で表される化合物又はその塩。
【請求項2】
R1及びR2のいずれか一方が炭素原子数8個から13個の直鎖アルカノイル基又は直鎖アルケノイル基(該直鎖アルカノイル基又は該直鎖アルケノイル基は1から3個の水酸基を有していてもよい)であり、他方が水素原子又はアミノ基の保護基であり、R3が水素原子又はアミノ基の保護基である請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
R1及びR2のいずれか一方が炭素原子数8個から13個の直鎖アルカノイル基(該直鎖アルカノイル基は1から3個の水酸基を有していてもよい)であり、他方が水素原子又はアミノ基の保護基であり、R3が水素原子又はアミノ基の保護基である請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項4】
該直鎖アルカノイル基が、炭素原子数が9から12個の直鎖アルカノイル基(該直鎖アルカノイル基は1から2個の水酸基を有していてもよい)である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項5】
該直鎖アルカノイル基が、炭素原子数が9から12個の直鎖アルカノイル基(該直鎖アルカノイル基は1個の水酸基を有する)である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項6】
該直鎖アルカノイル基が、炭素原子数が9から12個の直鎖アルカノイル基(該直鎖アルカノイル基は末端に1個の水酸基を有する)である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項7】
アミノ基の保護基が炭素原子数2から6個の直鎖又は分枝鎖アルカノイル基又は炭素原子数2から6個の直鎖又は分枝鎖アルコキシカルボニル基である請求項1ないし6のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の化合物又はその塩を有効成分として含むプラントアクティベーター。
【請求項9】
植物における病害の防除のために用いる請求項8に記載のプラントアクティベーター。
【請求項10】
植物における病害の防除方法であって、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の化合物又はその塩を防除有効量を植物に施用する工程を含む方法。
【請求項1】
下記の一般式(I):
(R3)NH-(CH2)4-N(R1)-(CH2)3-NH(R2)
(式中、R1及びR2のいずれか一方は炭素原子数6個から18個の直鎖アルカノイル基又は直鎖アルケノイル基(該直鎖アルカノイル基又は該直鎖アルケノイル基は1から3個の水酸基及び/又は炭素原子数1個から4個のアルキル基を1から3個有していてもよい)であり、他方は水素原子又はアミノ基の保護基を示し;R3は水素原子又はアミノ基の保護基を示す)で表される化合物又はその塩。
【請求項2】
R1及びR2のいずれか一方が炭素原子数8個から13個の直鎖アルカノイル基又は直鎖アルケノイル基(該直鎖アルカノイル基又は該直鎖アルケノイル基は1から3個の水酸基を有していてもよい)であり、他方が水素原子又はアミノ基の保護基であり、R3が水素原子又はアミノ基の保護基である請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
R1及びR2のいずれか一方が炭素原子数8個から13個の直鎖アルカノイル基(該直鎖アルカノイル基は1から3個の水酸基を有していてもよい)であり、他方が水素原子又はアミノ基の保護基であり、R3が水素原子又はアミノ基の保護基である請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項4】
該直鎖アルカノイル基が、炭素原子数が9から12個の直鎖アルカノイル基(該直鎖アルカノイル基は1から2個の水酸基を有していてもよい)である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項5】
該直鎖アルカノイル基が、炭素原子数が9から12個の直鎖アルカノイル基(該直鎖アルカノイル基は1個の水酸基を有する)である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項6】
該直鎖アルカノイル基が、炭素原子数が9から12個の直鎖アルカノイル基(該直鎖アルカノイル基は末端に1個の水酸基を有する)である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項7】
アミノ基の保護基が炭素原子数2から6個の直鎖又は分枝鎖アルカノイル基又は炭素原子数2から6個の直鎖又は分枝鎖アルコキシカルボニル基である請求項1ないし6のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の化合物又はその塩を有効成分として含むプラントアクティベーター。
【請求項9】
植物における病害の防除のために用いる請求項8に記載のプラントアクティベーター。
【請求項10】
植物における病害の防除方法であって、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の化合物又はその塩を防除有効量を植物に施用する工程を含む方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−82661(P2013−82661A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−36947(P2012−36947)
【出願日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年10月1日 「植物の生長調節 Regulation of Plant Growth & Development Vol.45 Supplement 2010 植物化学調節学会 第45回大会 研究発表記録集」にて発表
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年10月1日 「植物の生長調節 Regulation of Plant Growth & Development Vol.45 Supplement 2010 植物化学調節学会 第45回大会 研究発表記録集」にて発表
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】
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