説明

プリプレグの製造方法及び化粧板

【課題】含浸時に硬化性組成物の化粧紙への浸透性を向上させ、仕上がった製品の紙間強度を向上させるとともに、成形時の樹脂フロー性を抑制し成形品外観および耐汚染性を向上させる。
【解決手段】ラジカル重合性結晶性オリゴマーを主成分とする常温にて固体の硬化性組成物を化粧板用化粧紙に加熱溶融含浸し、得られた含浸紙に、活性エネルギー線を照射する。活性エネルギー線としては、電子線を用いる。更にプリプレグを表層としてコア材とともに積層し、熱圧硬化成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプリプレグの製造方法及び化粧板に関する。
【背景技術】
【0002】
常温にて結晶固体である結晶性オリゴマーは、融点以上の温度に加熱し低粘度液体状態にすることにより、化粧板用原紙に含浸させることが可能である。このため従来の熱硬化性樹脂のように有機溶剤で希釈せずに含浸させることができるという利点がある。
【0003】
しかしながら熱圧成形時に低粘度になるため樹脂フローが大きく、樹脂切れ(成形品の外に樹脂が流れ出す)によるピンホールの発現、汚染性の低下など課題があった。
【0004】
そこで例えば、特開2008−231329号公報には、結晶性オリゴマーを主成分として、不飽和ポリエステル及び/又はジアリルフタレートプレポリマーと、ヒュームドシリカを配合した硬化性組成物を用いて化粧板を得ることが行われている。
【特許文献1】特開2008−231329号公報
【特許文献2】特開2009−61593号公報
【特許文献3】特開2010−76103号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ジアリルフタレートプレポリマーは樹脂粘度の上昇、ヒュームドシリカは樹脂粘度、チクソトロピー性を上げ、硬化性組成物の成形時フローを抑制することに寄与するものの、含浸時に硬化性組成物の化粧紙への浸透性の悪化を招き、生産性の低下、樹脂の浸透が不十分な場合には仕上がった製品では、紙間強度が劣るといった問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、結晶性オリゴマーを主成分とする硬化性組成物を化粧板用化粧紙に含浸し、活性エネルギー線により半硬化させることを特徴とするプリプレグの製造方法であり、含浸紙を半硬化(B−ステージ)状態にして用いることで前記の課題を解決することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、硬化性組成物の化粧紙への浸透性が良好であるため出来上がった製品の紙間強度が優れ、表面には樹脂フローによるピンホールの発生がなく、耐汚染性が優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
硬化性を有し常温において固形の結晶性オリゴマーには、ウレタン(メタ)アクリレート、アリルウレタン、ビニルエーテルウレタン、不飽和ポリエステルなどが挙げられる。これらは、常温において固形であって、室温においてベトつかず、取り扱い性が良好であることから使用上好都合である。
【0009】
硬化性を有し常温において固形の結晶性オリゴマーを合成する一例として、水酸基を有する重合性化合物と、イソシアネート基を持つ化合物とを反応させてウレタン(メタ)アクリレート、アリルウレタン、ビニルエーテルウレタンを得る方法がある。
【0010】
水酸基を有する重合性化合物と、イソシアネート基を有する化合物とを反応させる方法の例について述べると、水酸基を有する重合性化合物として2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1、4−シクロヘキサンジメタノールモノアクリレートなどのアクリル系モノマーおよびオリゴマー類、エチレングリコールモノアリルエーテル、アリルアルコール、ポリエチレングリコールモノアリルエーテルなどのアリル系モノマーおよびオリゴマー類、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテルなどビニルエーテル系モノマーおよびオリゴマー類が例示される。
【0011】
イソシアネート基を有する化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、4、4‘−ジフエニルメタンジイソシアネート、ビス(4−イソシアネートシクロヘキシル)メタン、2、4−トルエンジイソシアネート、2、6−トルエンジイソシアネート、2、4−ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、リジンイソシアネート、1、5−ナフチレンジイソシアネート、トランスシクローキサン1、4−ジイソシアネート、2、4−キシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、p−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、などが挙げられる。好ましくはジイソシアネート基間が直鎖状炭化水素構造、左右対称直線構造のものが、得られる化合物の結晶性の点で優れている。
【0012】
硬化性を有し常温において固形の結晶性オリゴマーの合成例について説明すれば、攪拌装置、温度計、コンデンサー、滴下装置を備えたフラスコに、水酸基を持つ重合性化合物を仕込み、生成させる結晶性オリゴマーの融点まで昇温したのち、イソシアネート基を有する化合物を滴下し、重合固化しない温度条件に保持しながらウレタン化反応させることにより、硬化性を有し常温において固形の結晶性オリゴマーが得られる。
【0013】
結晶性オリゴマーを主成分とする硬化性組成物は溶液状態にして基材シートに含浸後、紫外線、電子線等の活性エネルギー線が照射されてBステージ(半硬化)状態になる。基材シートとしては、不織布、織布、ガラス繊維シート、化粧板用化粧紙などが挙げられる。活性エネルギー線は透過性を有する電子線が望ましく1〜100KGy程度の強度の電子線を照射する。照射線量が低いと半硬化状態にならず、樹脂フロー性が大きくなり、出来上がった製品の表面にピンホールが生じやすくなり耐汚染性が悪くなる。逆に照射強度が強いと含浸紙の硬化が進みすぎ、樹脂が完全硬化しフローしなくなり、外観むら、コア材との密着性が劣りやすくなる。含浸紙の種類、成形条件(樹脂種、硬化剤種、厚さ、成形温度・圧力等)と成形品の外観、性能により最適な照射線量を決定する。
【0014】
Bステージ化された含浸紙はコア材とともに積層され、温度120〜160℃、圧力0.4〜6Mpa、時間0.5〜60分の条件で熱圧成形される。
【0015】
コア材としては熱硬化性樹脂含浸コア紙、熱可塑性樹脂含浸コア紙、合板、パーティクルボード、MDFなどの木質基材、珪酸カルシウム板、石膏ボードなどの無機質基材などが挙げられる。
【実施例1】
【0016】
結晶性オリゴマーの合成例
結晶性不飽和ポリエステルの合成
攪拌装置、パーシャルコンデンサー付き流出管、パーシャルコンデンサー頂部温度計、冷却管、縮合水計量器、窒素ガス導入管、反応溶液温度計を備えた反応容器に1,3プロパンジオール8.8モル、フマル酸6モル、コハク酸2モルを仕込み、加熱開始して、温度上昇に伴い溶液粘度が低下したら攪拌速度を上げる。溶液の温度が60℃に達したら、フラスコ内部を窒素ガスにて置換する。溶液温度が140〜160℃で縮合水が流出する。
この時、パーシャルコンデンサー頂部温度が110℃以下となるようにフラスコの加熱度合いをコントロールする。約4時間かけて反応溶液温度230℃まで昇温させた。
30分間230℃にて放置し、その後、パーシャルコンデンサーをはずし、窒素ガスを反応溶液に噴きつけ、230℃にて60分間エステル化反応を進め、冷却した。
150℃となった時点で反応溶液を冷却バットに移し結晶化固化させ白色の結晶性不飽和ポリエステルを得た。
得られた結晶性不飽和ポリエステルは酸価15(50℃ジオキサンに溶解し滴定した)融点114℃(DTA分析、昇温速度10℃/分、吸熱ピーク先端温度を融点とした)、溶融粘度300mPa・sec(140℃、ブルックフィールド回転型粘度計)溶融液は透明であった。
【0017】
硬化性組成物A
結晶性不飽和ポリエステルを130℃(適正範囲は120〜140℃)で溶融液状とし、下記の配合にて溶解混合させた後、冷却し結晶化固化させ、硬化性組成物Aを得た。
配合例
結晶性不飽和ポリエステル 800部
ジアリルオルソフタレート 200部
ペンタエリスリトールテトラキス
[3−(3,5−ジ−tert−ブチルー4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](安定剤) 0.5部
硬化性組成物Aの溶融粘度は120mPa・sec(140℃、BM型粘度計)であった。なおジアリルオルソフタレートモノマー(常温透明液体、20℃の粘度10mPa・sec、ブルックフィールド回転型粘度計)は市販品をそのまま使用した。
【0018】
成形例1
硬化性組成物Aを130℃(適正範囲は120〜140℃)で溶融し液状とし、白色化粧紙(酸化チタン含有、灰分30%、150g/m)に塗布含浸後冷却し、350g/mの表面べたつきのない含浸紙を得た。次に、窒素雰囲気下300kV、30kGyの電子線を照射した。
電子線を照射した側と反対面にはラジカル重合開始剤として、1,6ビス(tert−ブチルパーオキシカルボニロキシヘキサン)(97℃、10時間で半分分解する。常温液体)を2g/mなるよう塗布し、表面層用プリプレグシートを得た。
基材層用プリプレグシートは電子線を照射しない以外、表面層用プリプレグシートと同様の方法で作製した。
表面用プリプレグシートを1枚、基材層用プリプレグシート4枚の順に積層し、艶消しステンレス板で挟み、1MPa、150℃条件にて10分硬化成形し、厚さ1mmの白色化粧板を得た。
【実施例2】
【0019】
結晶性アリルウレタンの合成
攪拌装置、温度計、留分凝縮冷却器(コンデンサー)、滴下装置を備えた反応容器にアリルアルコール2モルおよびウレタン化触媒であるジn−ブチルスズジラウレート0.06gを加え攪拌し70℃に昇温した。次にヘキサメチレンジイソシアネート1モルを滴下した。
この時内温が90℃以下となるように滴下速度を調整した。滴下終了後、内温を80℃に保持し、反応液をサンプリングしFTIRを用いて測定した。イソシアネート(−N=C=O)に基づく2275cm−1の吸収ピークが消失したことを確認し留分凝縮冷却器を留分追出し用冷却器にかえ、減圧(20mmHg)条件下にて未反応のアリルアルコール(沸点97℃)を留去させた。
その後、冷却バットに移し結晶化固化させ白色の結晶性アリルウレタンを得た。
得られた結晶性アリルウレタンは融点74℃(DTA分析、昇温速度10℃/分、吸熱ピーク先端温度を融点とした)、溶融粘度5mPa・sec(100℃、ブルックフィールド回転型粘度計)溶融液は透明であった。
【0020】
硬化性組成物B
実施例1の結晶性不飽和ポリエステル、結晶性アリルウレタンを130℃(適正範囲は120〜140℃)で溶融液状とし、下記配合にて溶解混合させた後、冷却し結晶化固化させ、硬化性組成物Bを得た。
配合例
結晶性不飽和ポリエステル 800部
結晶性アリルウレタン 200部
ペンタエリスリトールテトラキス
[3−(3,5−ジ−tert−ブチルー4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](安定剤) 0.5部
硬化性組成物Bの溶融粘度は180mPa・sec(140℃、ブルックフィールド回転型粘度計)であった。
【0021】
成形例2
硬化性組成物Bを130℃(適正範囲は120〜140℃)で溶融し液状とし、白色化粧紙(酸化チタン含有、灰分30%、150g/m)に塗布含浸後冷却し、350g/mの表面べたつきのない含浸紙を得た。次に、窒素雰囲気下300kV、30kGyの電子線を照射した。
電子線を照射した側と反対面にラジカル重合開始剤として、1,6ビス(tert−ブチルパーオキシカルボニロキシヘキサン)(97℃、10時間で半分分解する。常温液体)を2g/mなるよう塗布し、表面層用プリプレグシートを得た。
基材層用プリプレグシートは電子線を照射しない以外、表面層用プリプレグシートと同様の方法で作製した。
表面用プリプレグシートを1枚、基材層用プリプレグシート4枚の順に積層し、艶消しステンレス板で挟み、1MPa、150℃条件にて10分硬化成形し、厚さ1mmの白色化粧板を得た。
【実施例3】
【0022】
結晶性アクリルウレタンの合成
攪拌装置、温度計、留分凝縮冷却器(コンデンサー)、滴下装置を備えた反応容器に2ヒドロキシエチルメタクリレート2モル、ウレタン化触媒であるジn−ブチルスズジラウレート0.13gおよび安定剤であるハイドロキノンモノメチルエーテル(安定剤)0.1gを加え攪拌し70℃に昇温した。
次にヘキサメチレンジイソシアネート1モルを滴下した。このとき内温が90℃以下となるように滴下速度を調整した。滴下終了後、内温を80℃に保持し、反応液をサンプリングしFTIRを用いて測定した。イソシアネート(−N=C=O)に基づく2275cm−1の吸収ピークが消失したことを確認し、冷却バットに移し結晶化固化させ白色の結晶性アクリルウレタンを得た。
得られた結晶性アクリルウレタンは融点78℃(DTA分析、昇温速度10℃/分、吸熱ピーク先端温度を融点とした)、溶融粘度25mPa・sec(100℃、ブルックフィールド回転型粘度計)溶融液は透明であった。
【0023】
成形例3
結晶性アクリルウレタンを100℃(適正範囲は90〜110℃)で溶融し液状とし、白色化粧紙(酸化チタン含有、灰分30%、150g/m)に塗布含浸後冷却し、350g/m2の表面べたつきのない含浸紙を得た。次に、窒素雰囲気下300kV、10kGyの電子線を照射した。
電子線を照射した側と反対面にラジカル重合開始剤として、1,6ビス(tert−ブチルパーオキシカルボニロキシヘキサン)(97℃、10時間で半分分解する。常温液体)を2g/mなるよう塗布し、表面層用プリプレグシートを得た。
基材層用プリプレグシートは電子線を照射しない以外、表面層用プリプレグシートと同様の方法で作製した。
表面用プリプレグシートを1枚、基材層用プリプレグシート4枚の順に積層し、艶消しステンレス板で挟み、1MPa、130℃条件にて15分硬化成形し、厚さ1mmの白色化粧板を得た。
【0024】
比較例1
実施例1の電子線を照射しない以外は同様の方法で化粧板を作製した。
【0025】
比較例2
実施例2の電子線を照射しない以外は同様の方法で化粧板を作製した。
【0026】
比較例3
実施例3の電子線を照射しない以外は同様の方法で化粧板を作製した。
【0027】
比較例4
実施例1において電子線を窒素雰囲気下300kV、80kGyの電子線を照射した以外は同様の方法で化粧板を作製した。
【0028】
得られた実施例および比較例化粧板の評価結果を表に示した。

【表1】

【0029】
試験方法は以下の通りとした。
(1)表面外観:目視にて確認した。
(2)耐汚染性:JIS K 6902;1998(熱硬化性樹脂高圧化粧板試験方法)に準じ実施した。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性結晶性オリゴマーを主成分とする常温にて固体の硬化性組成物を基材シートに加熱溶融含浸し、得られた含浸紙に、活性エネルギー線を照射することを特徴とするプリプレグの製造方法。
【請求項2】
前記活性エネルギー線が、電子線によるものであることを特徴とする請求項1記載のプリプレグの製造方法。
【請求項3】
前記基材シートが化粧板用化粧紙であることを特徴とする請求項1記載のプリプレグの製造方法。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載のプリプレグを表層としてコア材とともに積層し、熱圧硬化成形してなることを特徴とする化粧板。


【公開番号】特開2013−60557(P2013−60557A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201258(P2011−201258)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】