説明

プルシアンブルー型錯体を含むインクの製造方法及び前記インクを用いたエレクトロクロミック素子の製造方法

【課題】 特に、インクの固化を改善したプルシアンブルー型錯体を含むインクの製造方法及び前記インクを用いたエレクトロクロミック素子の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 Feを中心金属とする金属シアノ錯体陰イオンを含有する水溶液と、金属原子M1の金属陽イオンを含有する硝酸水溶液とを混合して構造式がM1x[Fe(CN)6y(ただしx,yは任意の整数である)で示されるプルシアンブルー型錯体の沈殿物を得る合成工程(図2(a))、洗浄液との混合、沈殿物11の析出及び上澄み液12の破棄を硝酸イオン濃度が所定濃度以下となるまで繰り返す洗浄工程(図2(b)〜図2(e))、前記沈殿物11に対して所定量の表面処理剤を添加し、更に所定時間、所定温度の熱を加えた状態を維持する表面処理工程(図2(f))、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばエレクトロクロミック層を印刷形成するのに用いるプルシアンブルー型錯体を含むインクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロクロミック素子を構成するエレクトロクロミック層を電極表面に印刷形成できれば、電界析出やスパッタで形成する方法に比べて低コスト化を図ることが可能になる。
【0003】
エレクトロクロミック材料であるプルシアンブルー型錯体(M1x[Fe(CN)6y)は、金属元素M1がFeであり青色を成すプルシアンブルー(紺青)のほか、金属元素M1が他の遷移元素に置換されることで様々な色を発する。
【0004】
しかしながらプルシアンブルー型錯体を含むインクは、チキソ性が高く、インクの固化が起こるため、印刷が困難であり、あるいは印刷時における膜厚のばらつきが非常に大きくなり、安定した膜厚再現性を得ることができない問題があった。そして各特許文献には、プルシアンブルー型錯体を含むインクの固化を改善するための製造条件等については何も記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−106260号公報
【特許文献2】特開2003−55575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、インクの固化を改善したプルシアンブルー型錯体を含むインクの製造方法及び前記インクを用いたエレクトロクロミック素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明におけるプルシアンブルー型錯体を含むインクの製造方法は、
Feを中心金属とする金属シアノ錯体陰イオンを含有する水溶液と、金属原子M1の金属陽イオンを含有する硝酸水溶液とを混合して構造式がM1x[Fe(CN)6y(ただしx,yは任意の整数である)で示されるプルシアンブルー型錯体の沈殿物を得る合成工程、
洗浄液との混合、沈殿物の析出及び上澄み液の破棄を硝酸イオン濃度が所定濃度以下となるまで繰り返す洗浄工程、
前記沈殿物に対して所定量の表面処理剤を添加し、更に所定時間、所定温度の熱を加えた状態を維持する表面処理工程、
を有することを特徴とするものである。これにより、プルシアンブルー型錯体を含むインクの固化を改善できる。
【0008】
本発明では、金属原子M1に、FeあるいはNiを選択することが好ましい。
本発明では、前記合成工程では、フェロシアン化物水溶液と、硝酸鉄水溶液とを混合し、
前記洗浄工程での前記硝酸イオン濃度を1000ppm以下に設定し、
前記表面処理剤にはフェロシアン化物を用い、前記表面処理剤を7〜15mol%添加し、表面処理温度を60℃〜90℃の範囲内とし、表面処理時間を3日以上とすることが好ましい。これによりプルシアンブルー(Fe4[Fe(CN)63)を含むインクの固化を効果的に改善できる。
【0009】
あるいは本発明では、前記合成工程では、フェリシアン化物水溶液と、硝酸ニッケル水溶液とを混合し、
前記洗浄工程での前記硝酸イオン濃度を500ppm以下に設定し、
前記表面処理剤にはフェロシアン化物を用い、前記表面処理剤を7〜10mol%添加し、表面処理温度を70℃〜90℃の範囲内とし、表面処理時間を6日以上とすることが好ましい。
【0010】
これにより、ニッケル置換プルシアンブルー類似体(Ni3[Fe(CN)62)を含むインクの固化を効果的に改善できる。
【0011】
また本発明におけるエレクトロクロミック素子は、一対の電極間に電解質層及びエレクトロクロミック層を有するエレクトロクロミック素子の製造方法において、前記エレクトロクロミック層を、上記いずれかに記載のプルシアンブルー型錯体を含むインクにより印刷して形成することを特徴とするものである。これによりエレクトロクロミック層を膜厚再現性良く印刷形成できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来に比べて、プルシアンブルー型錯体を含むインクの固化を適切に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、エレクトロクロミック素子の部分縦断面図である。
【図2】図2は、本実施形態におけるプルシアンブルー型錯体を含むインクの製造工程を示す模式図である。
【図3】図3(a)は、プルシアンブルー型錯体を含むインクの理想状態を示す模式図であり、図3(b)(c)は、インクの固化の原因を説明するための模式図である。
【図4】図4(a)は、比較例(インクが固化した試料)におけるプルシアンブルーの粒度分布(経時変化)を示し、図4(b)は、実施例(インクが固化しなかった試料)におけるプルシアンブルーの粒度分布(経時変化)を示す。
【図5】図5は、洗浄回数と、硝酸濃度との関係を示すグラフである。
【図6】図6(a)は、比較例(インクが固化した試料)におけるニッケル置換プルシアンブルー類似体の粒度分布(経時変化)、図6(b)は、実施例(インクが固化しなかった試料)におけるニッケル置換プルシアンブルー類似体の粒度分布(経時変化)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、エレクトロクロミック素子の部分縦断面図である。
図1に示すエレクトロクロミック素子1は、第1の基材2と第2の基材3を有している。2つの基材2,3は例えば、ガラス基板などの透明基板である。
【0015】
第1の基材2の対向内面に、酸化インジウムスズ(ITO)で形成された透明な第1の電極4が形成され、第1の電極4の表面に第1のエレクトロクロミック層5が形成されている。
【0016】
また第2の基材3の対向内面に同じくITOで形成された透明な第2の電極6が形成され、第2の電極の表面に第2のエレクトロクロミック層7が形成されている。
【0017】
図1に示すように第1のエレクトロクロミック層5と第2のエレクトロクロミック層7とは電解質層8を介して対向している。ただし、各エレクトロクロミック層5,7は膜厚方向で対向せず、平面視にてずれた状態とされていてもよい。
【0018】
例えば第1のエレクトロクロミック層5は、プルシアンブルー(Fe4[Fe(CN)63)を含むインクを印刷して形成されたものであり、第2のエレクトロクロミック層7は、ニッケル置換プルシアンブルー類似体(Ni3[Fe(CN)62)を含むインクを印刷して形成されたものである。この明細書において、プルシアンブルー型錯体とは、M1x[Fe(CN)6yの構造式で示され、x,yは任意の整数を示す。また金属元素M1をFe以外の遷移元素で置換したプルシアンブルー型錯体を、プルシアンブルー類似体とする。
【0019】
金属元素M1にはFeやNi、(そのほか、ありましたら記載願います)を選択できる。このうち、金属元素M1にはFe、あるいはNiを選択することが好ましい。
【0020】
電解質には、液体状電解質のみならず、ゲル状の電解質、固体電解質を用いることが出来る。電解質としては、過塩素酸塩、鉄錯体、金属ハロゲン化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等を提示でき、溶媒としては、エーテル類、カーボネート類、アルコール類等を提示できる。また、内部に酸化チタン(TiO2)などの白色化フィラーが混入された白色で実質的に非透光性のゲル状電解質層とすることもできる。
【0021】
電解質層8を介して第1のエレクトロクロミック層5と第2のエレクトロクロミック層7との間で酸化還元反応が起こり、第1のエレクトロクロミック層5が酸化状態にあるとプルシアンブルー特有の紺青色を呈し、一方、第2のエレクトロクロミック層7は還元状態になり消色する(透明になる)。逆に、第2のエレクトロクロミック層7が酸化状態になると黄色を呈し、一方、第1のエレクトロクロミック層5は還元状態になり消色する(透明になる)。例えば、第1の基材2の表面側が表示面として、基材、電極及び電解質が透明あるいは透明に近い状態であれば、表面から第1のエレクトロクロミック層5における紺青の表示とともに、第2のエレクトロクロミック層7における黄色の表示とを交互に見ることができる。
【0022】
図2は、本実施形態におけるプルシアンブルー錯体を含むインクの製造工程を示す模式図である。図2(a)は、合成工程、図2(b)〜図2(e)は、洗浄工程、図2(f)は、表面処理工程、図2(g)は乾燥工程、図2(h)は、インク化工程を示している。
【0023】
図2(a)の合成工程では、Feを中心金属とする金属シアノ錯体陰イオンを含有する水溶液aと、金属原子M1の金属陽イオンを含有する硝酸水溶液bとを予め洗浄された遠沈管9内で混合する。その後、攪拌機にて攪拌し合成液10を得る。
【0024】
図2(a)の合成工程で出来た合成液10に沈殿物がないことを確認した後、超音波洗浄を1分程度行い、続いて遠心分離を行う。これにより図2(b)に示すようにプルシアンブルー型錯体の沈殿物11が析出する。沈殿物11と分離した上澄み液12を廃棄する(図2(c))。続いて図2(d)の工程では、純水c(洗浄液)を添加し、さらには上記した攪拌や、超音波洗浄を行った後、再び遠心分離を行う。そして、図2(e)において、沈殿物11と分離した上澄み液12を廃棄する。上記の洗浄工程を、硝酸イオン濃度が所定濃度以下になるまで繰り返し行う。
【0025】
次に、図2(f)の表面処理工程では、上記の洗浄工程後の沈殿物11を瓶13に移して純水を加え、さらに懸濁液14に所定量の表面処理剤dを添加する。そして、所定時間、所定温度の熱を加えながら懸濁液14を攪拌する。
【0026】
図2(g)では、懸濁液14から水を取り除いて乾燥させ、図2(f)では、溶媒(水)eを加えてインク化する。
【0027】
図3(a)は、インクの理想状態を示す。すなわち図3(a)のように、プルシアンブルー錯体粒子の表面が適度に表面処理されて個々の粒子が凝集しにくくなっており、また不純物が少ない状態(不純物がない状態が理想的)とされている。一方、図3(b)の状態は粒子に対する表面処理が不十分で各粒子が凝集しやすくなっており、また図3(c)の状態は、不純物が多く含まれた状態になっている。図3(b)、図3(c)に示す状態であるとインクが固化しやすいと考えられる。なお図3(a)の理想状態は推測であり、このような推測のもと、本実施形態では、洗浄工程と表面処理工程とに着目し、硝酸イオン濃度が所定濃度以下となるまで何回も洗浄工程を繰り返し、更に表面処理工程では所定量の表面処理剤を添加するとともに熱を加えながら数日間、攪拌した。これにより、実際に固化しないインクを製造することが出来た。
【0028】
以下、プルシアンブルー(Fe4[Fe(CN)63)を含むインクの製造方法について具体的に説明する。
【0029】
まず図2(a)の合成工程では、Feを中心金属とする金属シアノ錯体陰イオンを含有する水溶液aとしてフェロシアン化ナトリウム(Na4[Fe(CN)6])水溶液と、金属原子M1の金属陽イオンを含有する硝酸水溶液bとして硝酸鉄(Fe(NO33)水溶液とを混合する。
【0030】
続いて、図2(b)〜図(e)に示す洗浄工程を、硝酸イオン濃度が1000ppm以下になるまで繰り返し行う。
【0031】
また図2(f)に示す表面処理工程では、表面処理剤としてフェロシアン化ナトリウム水溶液を用い、前記表面処理剤を7mol%〜15mol%の範囲内で添加する。表面処理剤の添加量は、上記洗浄工程後の沈殿物11中のプルシアンブルー(Fe4[Fe(CN)63)を100mol%として調整される。
【0032】
また図2(f)での表面処理工程では、表面処理温度を60℃〜90℃の範囲内とし、更に表面処理時間を3日以上に設定する。
以上により、プルシアンブルーを含むインクの固化を効果的に改善することができる。
【0033】
続いて、ニッケル置換プルシアンブルー類似体(Ni3[Fe(CN)62)を含むインクの製造方法を具体的に説明する。
【0034】
まず図2(a)の合成工程では、Feを中心金属とする金属シアノ錯体陰イオンを含有する水溶液aとしてフェリシアン化カリウム(K3[Fe(CN)6])水溶液と、金属原子M1の金属陽イオンを含有する硝酸水溶液bとして硝酸ニッケル(Ni(NO32)水溶液とを混合する。
【0035】
続いて、図2(b)〜図(e)に示す洗浄工程を、硝酸イオン濃度が500ppm以下になるまで繰り返し行う。
【0036】
また図2(f)に示す表面処理工程では、表面処理剤としてフェロシアン化ナトリウム水溶液を用い、前記表面処理剤を7mol%〜10mol%の範囲内で添加する。表面処理剤の添加量は、上記洗浄工程後の沈殿物11中のニッケル置換プルシアンブルー類似体(Ni3[Fe(CN)62)を100mol%として調整される。
【0037】
また図2(f)での表面処理工程では、表面処理温度を70℃〜90℃の範囲内とし、更に表面処理時間を6日以上に設定する。
【0038】
以上により、ニッケル置換プルシアンブルー類似体を含むインクの固化を効果的に改善することができる。
【0039】
以上により製造されたインクを用いることで、エレクトロクロミック層5,7を膜厚再現性良く印刷形成できる。
【実施例】
【0040】
(プルシアンブルー(Fe4[Fe(CN)63)を含むインクの実験)
図2(a)の合成工程で、フェロシアン化ナトリウム(Na4[Fe(CN)6])水溶液と、硝酸鉄(Fe(NO33)水溶液とを混合した。0.6(mol/l)のフェロシアン化ナトリウム(Na4[Fe(CN)6])水溶液を10ml、0.8(mol/l)の硝酸鉄(Fe(NO33)水溶液を10ml添加した。
また表面処理工程では、フェロシアン化ナトリウムを表面処理剤として添加した。
【0041】
実験では以下の表1に示す複数の試料を用いた。表1には、各試料に対し洗浄工程、表面処理工程で行った条件が記載されている。
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示す「硝酸イオン濃度(ppm)」欄は、表に記載された濃度になるまで各試料に対して洗浄工程を繰り返したことを示す。表1に示すように、洗浄及び表面処理工程での条件を変えて、各試料において洗浄・表面処理でのいずれかの条件が異なるようにした。
【0044】
表1に示す「固化の有無」における○は、固化していない試料(実施例)、×は固化した試料(比較例)を示す。固化の判断は、瓶に入ったインクをひっくり返したときにインクが底に付いた状態を保持するか(固化状態)、あるいは所定時間内に流動性を持って下方へ移動するか否かで判断した。
【0045】
また表1の「粒度分布の安定度」については図4を用いて後述する。
表1に示すように、硝酸イオン濃度が1000ppmを越える、試料No.3,4では、インクの固化が確認された。また硝酸イオン濃度が1000ppm以下であっても、表面処理工程での温度が50℃以下となる試料No.5,6では、インクの固化が確認された。続いて、硝酸イオン濃度が1000ppm以下、表面処理工程での温度が90℃であっても、表面処理時間が1日、2日の試料No.11,12では、インクの固化が確認された。さらに、硝酸イオン濃度が1000ppm以下、表面処理工程での温度が90℃、表面処理時間が7日であっても、表面処理剤の添加量が5%、30%の試料No.18,22では、インクの固化が確認された。
【0046】
以上により、プルシアンブルーを含むインクを製造する際の最適条件を以下の表2にまとめた。
【0047】
【表2】

【0048】
すなわち表2に示すように洗浄工程での硝酸イオン濃度を1000ppm以下に設定し、また表面処理工程での表面処理温度を60℃〜90℃、表面処理時間を3日以上、表面処理剤の添加量を7mol%〜15mol%の範囲内に設定した。
【0049】
図4(a)は、試料No.5の粒度分布を示し、図4(b)は、試料No.10の粒度分布を示す。実験では、インクの製造後、インク内におけるプルシアンブルー粒子の粒度分布の経時変化を調べた。図4(a)に示す比較例では、最大粒径が300000nm以上にまで大きくなった。これは時間経過とともに粒子同士が凝集して大きくなったためと考えられる。一方、図4(b)の実施例では、粒径は時間が経っても図4(a)のように急激に変化せず500nm以下の粒径を維持できた。このように図4(b)の実施例では粒子の凝集を抑制できており、したがって高い流動性を維持でき、インクの固化を改善できることがわかった。
【0050】
(ニッケル置換プルシアンブルー類似体(Ni3[Fe(CN)62の実験)
図2(a)の合成工程で、フェリシアン化カリウム(K3[Fe(CN)6])水溶液と、硝酸ニッケル(Ni(NO32)水溶液とを混合した。0.6(mol/l)のフェリシアン化カリウム(K2[Fe(CN)6])水溶液を10ml、0.9(mol/l)の硝酸ニッケル(Ni(NO32)水溶液を10ml添加した。
また表面処理工程では、フェロシアン化ナトリウムを表面処理剤として添加した。
【0051】
実験では以下の表3に示す複数の試料を用いた。表3には、各試料に対し洗浄工程、表面処理工程で行った条件が記載されている。
【0052】
【表3】

【0053】
表3では、表1とは異なって、「洗浄時分散性」欄を設けた。「洗浄時分散性」は沈殿物を水とを混ぜて攪拌したときに簡単に懸濁化できれば、「洗浄時分散性」欄を「良」とし、懸濁化に所定以上の時間や攪拌条件が必要とされる場合には、「洗浄時分散性」欄を「悪」とした。なお表4に示すように「洗浄時分散性」は良くても悪くても固化の改善に対し影響が無かった。
【0054】
表3に示すように、硝酸イオン濃度が500ppmを越える、試料No.23,25,47では、インクの固化が確認された。また硝酸イオン濃度が500ppm以下であっても、表面処理工程での温度が60℃以下となる試料No.27,28,29では、インクの固化が確認された。また硝酸イオン濃度が500ppm以下、表面処理工程での温度が90℃とされても、表面処理時間が1日〜5日の試料No.33〜37では、インクの固化が確認された。さらに、硝酸イオン濃度が500ppm以下、表面処理工程での温度が90℃、表面処理時間が7日とされても、表面処理剤の添加量が5%、15%の試料No.40,43では、インクの固化が確認された。
【0055】
図5は、洗浄回数と硝酸イオン濃度との関係を示すグラフであるが図5に示すように、洗浄回数を5回以上行うと、硝酸イオン濃度を非常に小さくでき、500ppm以下にできることがわかった。ただし図5は一例であり、洗浄回数を規定するものではない。
【0056】
以上により、ニッケル置換プルシアンブルー類似体を含むインクを製造する際の最適条件を以下の表4にまとめた。
【0057】
【表4】

【0058】
すなわち表4に示すように洗浄工程での硝酸イオン濃度を500ppm以下に設定し、また表面処理工程での表面処理温度を70℃〜90℃、表面処理時間を3日以上、表面処理剤の添加量を7mol%〜10mol%の範囲内に設定した。
【0059】
このようにニッケル置換プルシアンブルー類似体を含むインクのほうがプルシアンブルーを含むインクに比べて製造条件が厳しくなることがわかった。
【0060】
図6(a)は、試料No.27の粒度分布を示し、図6(b)は、試料No.32の粒度分布を示す。実験では、インクの製造後、インク内におけるニッケル置換プルシアンブルー類似体粒子の粒度分布の経時変化を調べた。図6(a)に示す比較例では、粒径が時間が経つにつれて大きくなり、特に最大粒径が10000nm以上にまで大きくなった。これは時間経過とともに粒子同士が凝集して大きくなったためと考えられる。一方、図6(b)の実施例では、粒径は時間が経っても図4(a)のように急激に変化せず300nm以下の粒径を維持できた。このように図6(b)の実施例では粒子の凝集を抑制できており、したがって高い流動性を維持でき、インクの固化を改善できることがわかった。
【符号の説明】
【0061】
a 金属シアノ錯体陰イオンを含有する水溶液
b 金属陽イオンを含有する硝酸水溶液
c 純水
d 表面処理剤
1 エレクトロクロミック素子
2、3 基材
4、6 電極
5、7 エレクトロクロミック層
8 電解質層
10 合成液
11 沈殿物
12 上澄み液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feを中心金属とする金属シアノ錯体陰イオンを含有する水溶液と、金属原子M1の金属陽イオンを含有する硝酸水溶液とを混合して構造式がM1x[Fe(CN)6y(ただしx,yは任意の整数である)で示されるプルシアンブルー型錯体の沈殿物を得る合成工程、
洗浄液との混合、沈殿物の析出及び上澄み液の破棄を硝酸イオン濃度が所定濃度以下となるまで繰り返す洗浄工程、
前記沈殿物に対して所定量の表面処理剤を添加し、更に所定時間、所定温度の熱を加えた状態を維持する表面処理工程、
を有することを特徴とするプルシアンブルー型錯体を含むインクの製造方法。
【請求項2】
金属原子M1には、FeあるいはNiを選択する請求項1記載のプルシアンブルー型錯体を含むインクの製造方法。
【請求項3】
前記合成工程では、フェロシアン化物水溶液と、硝酸鉄水溶液とを混合し、
前記洗浄工程での前記硝酸イオン濃度を1000ppm以下に設定し、
前記表面処理剤にはフェロシアン化物を用い、前記表面処理剤を7〜15mol%添加し、表面処理温度を60℃〜90℃の範囲内とし、表面処理時間を3日以上とする請求項1記載のプルシアンブルー型錯体を含むインクの製造方法。
【請求項4】
前記合成工程では、フェリシアン化物水溶液と、硝酸ニッケル水溶液とを混合し、
前記洗浄工程での前記硝酸イオン濃度を500ppm以下に設定し、
前記表面処理剤にはフェロシアン化物を用い、前記表面処理剤を7〜10mol%添加し、表面処理温度を70℃〜90℃の範囲内とし、表面処理時間を6日以上とする請求項1記載のプルシアンブルー型錯体を含むインクの製造方法。
【請求項5】
一対の電極間に電解質層及びエレクトロクロミック層を有するエレクトロクロミック素子の製造方法において、前記エレクトロクロミック層を、請求項1ないし4のいずれか一項に記載のプルシアンブルー型錯体を含むインクにより印刷して形成することを特徴とするエレクトロクロミック素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−112767(P2013−112767A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261683(P2011−261683)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】