説明

プレス加工用焼鈍鋼板および製造法並びに耐摩耗性に優れる機械部品

【課題】プレス加工性が良好であり、かつ調質熱処理後には優れた耐アブレシブ摩耗性が実現できる鋼板を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.10〜0.30%、Si:0.03〜1.00%、Mn:0.10〜2.50%、P:0.001〜0.030%、S:0.001〜0.030%、Cr:0〜2.00%、Ti:0〜0.25%、Nb:0〜0.25%、V:0〜1.00%、Ni:0〜2.00%、Mo:0〜1.0%、B:0〜0.0200%、T.Al:0.005〜0.070%、N:0.001〜0.008%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、Mn+Cr:1.00〜3.00%、Ti+Nb:0.07%以上を満たす化学組成を有する鋼板であって、断面硬さが200HV以下であり、局部伸びの異方性が小さいプレス加工用焼鈍鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプレス加工に供したのち調質熱処理を経て機械部品とするためのプレス加工用焼鈍鋼板およびその製造法に関する。また、その焼鈍鋼板にプレス加工および調質熱処理を施して得られる耐摩耗性に優れた機械部品に関する。
【背景技術】
【0002】
歯車、プーリー、軸受けなど、表面に高い応力を負荷した条件(高面圧条件)で使用される機械部品には優れた耐摩耗性と靱性が要求される。これらの部品は一般的には表面を潤滑油に曝した状態で使用されることが多いのでアブレシブ摩耗(摩擦面に介在する異物に起因した摩耗)は少なく、主として疲れ摩耗(転動疲労)による表層部の剥離によって部品寿命が左右される。
【0003】
しかし、潤滑油中に硬質粒子が混入した場合にはアブレシブ摩耗が問題となることがある。例えば、エンジンや変速機のメンテナンス不良の場合には転動疲労などで鋼材から剥離した微小粒子が潤滑油中に浮遊し、これが歯車や軸受けなどの部品同士の間に巻き込まれて研磨粒子として作用しアブレシブ摩耗を引き起こす要因となる。また、劣化した潤滑油に含まれるゴミや酸化物粒子もアブレシブ摩耗の原因となる。近年経済成長の著しい新興国における機械使用環境では劣化油の問題が大きい。さらに、ディーゼルエンジンや近年増加している直噴エンジンで発生するススは非常に硬質な粒子であり(1000HV相当以上とされる)、エンジン部品のアブレシブ摩耗を増大させる原因物質として問題視されるようになってきた。ススは、ディーゼルエンジン、直噴エンジン、過給器など燃費対策を追求した機構で発生しやすい傾向にある。このように昨今の内燃機関とその関連機構は部品のアブレシブ摩耗に対して従来以上に厳しい環境となっており、今後もそのような状況が続くものと予想される。
【0004】
一方、従来からアブレシブ摩耗が問題となりやすい用途として、丸鋸や刃物などが挙げられる。この場合、アブレシブ摩耗の原因となる硬質粒子は、砂粒などの他、凝着摩耗によって剥落した金属小片やその酸化物などである。アブレシブ摩耗は硬質粒子が鋼材の表面に押し付けられて引きずられることによって起こるので、一般的には鋼材の硬さが大きいほど耐アブレシブ摩耗性は向上する。したがってアブレシブ摩耗対策としては調質熱処理後の硬さを増大させることが有効となる。しかし、調質硬さを増大させると靱性が低下しやすいので、丸鋸など靱性を重視する用途ではあまり硬さを高めることができず、硬さ、靱性、耐摩耗性のバランスを最適化することが重要である。
【0005】
特許文献1には刃物を対象とした耐摩耗性の付与手段として、C含有量が0.4質量%以上の亜共析鋼にV、Ti、Nbを添加することにより旧オーステナイト粒径を微細化するとともに、非常に硬質なV、Ti、Nbの炭化物を分散させる手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−161809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の技術は鋼材の耐摩耗性と靱性を同時に改善するうえで有効である。しかしながら、歯車、プーリー、軸受けなど、高面圧下で使用される摺動部品においては転動疲労性、耐摩耗性ともに不足する場合が多い。また、鋼板をプレス加工してこれらの摺動部品を製造するためには高い塑性加工性が要求されるが、特許文献1の鋼はC含有量が高いため焼鈍状態での塑性加工性は十分とは言えない。その一方で、調質熱処理後の耐摩耗性(特に耐アブレシブ摩耗性)を高く維持するうえでC含有量の低減は不利となる。さらに、プレス加工性を改善するためには鋼板素材の塑性変形挙動に関する異方性(塑性異方性)が小さいことが望まれる。特にTiやNbを含有する鋼材ではそれらの炭化物が圧延方向に沿って分布しやすいために塑性異方性が生じやすい。塑性異方性の大きい鋼板をプレス加工に供するとプレス加工品の寸法精度が低下しやすい。
【0008】
本発明では、プレス加工性が良好であり、かつ調質熱処理後には優れた耐アブレシブ摩耗性が実現できる鋼板を提供する。またその鋼板をプレス加工および調質熱処理することによって得られる耐アブレシブ摩耗性に優れた機械部品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは詳細な研究の結果、以下のような知見を得た。
(1)焼鈍状態で優れたプレス加工性を得るためにはC含有量レベルが0.30質量%以下の鋼を適用することが有利である。
(2)そのような比較的C含有量の低い鋼を適用して機械部品の摺動面となる表面を十分に硬質化させるためには調質熱処理において浸炭焼入れを採用することが極めて有効である。
(3)機械部品における耐アブレシブ摩耗性を向上させるためにはある程度の大きさを有するTiまたはNb系炭化物が摺動面となる表面に多数露出していることが有効である。
(4)そのようなTiまたはNb系炭化物を鋼材中に分散させるためには焼鈍鋼板の段階でTiまたはNb系炭化物の分布形態を適正化しておくことが有効である。
(5)プレス加工性を向上させるためには焼鈍鋼板における局部伸びの異方性をできるだけ小さくすることが有効である。
(6)その局部伸びの異方性を小さくするためには焼鈍鋼板中に存在するTiまたはNb系炭化物が列状に分布した組織となることを抑制する必要がある。
(7)焼鈍鋼板中の炭化物の上記列状分布を抑制するためには熱間圧延時の加熱を1200℃以上とすること、および熱延板の焼鈍を650℃以上で5h以上保持する条件とすることが極めて効果的である。
(8)摺動部品の摺動面に露出しているTiまたはNb系炭化物の脱落を効果的に抑止するためには、浸炭焼入れによってC含有量0.70%以上、表面硬さ600HV以上のマルテンサイト相からなる表層部を形成することが有効である。
(9)浸炭焼入れ後の肉厚中心部の硬さを高めるためにはMnおよびCrの合計含有量を十分に確保することが有効である。
本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0010】
すなわち上記目的を達成するために、本発明では、質量%で、C:0.10〜0.30%、Si:0.03〜1.00%、Mn:0.10〜2.50%、P:0.001〜0.030%、S:0.001〜0.030%、Cr:0〜2.00%、Ti:0〜0.25%、Nb:0〜0.25%、V:0〜1.00%、Ni:0〜2.00%、Mo:0〜1.0%、B:0〜0.0200%、T.Al(トータルAl量):0.005〜0.070%、N:0.001〜0.008%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、Mn+Cr:1.00〜3.00%、Ti+Nb:0.07%以上を満たす化学組成を有する鋼板であって、断面硬さが200HV以下、下記(1)式で定義される局部伸び異方性指数E値が0.7〜1.0であるプレス加工用焼鈍鋼板が提供される。
E値=El(C)/El(L) …(1)
ただし、El(C)は鋼板の圧延方向(L方向)を長手方向とするJIS 5号引張試験片による局部伸び(%)、El(L)は鋼板の圧延方向に対して直角の方向(C方向)を長手方向とするJIS 5号引張試験片による局部伸び(%)である。
【0011】
浸炭焼入れ・焼戻し後の部品において適正サイズ・量のTiまたはNb系炭化物が摺動面に露出した表面性状を得るためには、上記プレス加工用焼鈍鋼板の段階で、鋼板の圧延方向と板厚方向に平行な断面(L断面)において、見掛け面積500nm2以上のTiまたはNb系炭化物が100μm2あたり850個以上の密度で観測される組織状態としておくことが好適である。
【0012】
ここで、「Mn+Cr」および「Ti+Nb」は、それぞれ「MnとCrの合計含有量」および「TiとNbの合計含有量」を意味する。プレス加工は、対となった工具の間に挟んだ鋼板にそれらの工具間で外力を付与することにより当該鋼板を塑性変形させる加工であり、絞り加工、張出し加工、穴拡げ加工などが例示できる。打抜きを伴ってもよい。「TiまたはNb系炭化物」とは、炭化物を構成する金属元素のうち含有量(原子%)が最も多い元素がTi、Nbのいずれかである炭化物をいう。Ti炭化物(TiC)やNb炭化物(NbC)がその代表例であるがTiとNbの複合炭化物が生じている場合にはそれも含まれる。TiまたはNb系炭化物の見掛け面積は、試料の表面のSEM観察像から定められる。例えばSEM観察像を画像処理することによって特定すればよい。表面に観察される粒子が「TiまたはNb系炭化物」であるかどうかは、SEM装置に付属のEDXなどを使用して容易に判別することができる。局部伸びは、引張試験の公称応力−公称歪み曲線において、均一伸びが終了して応力が頂点となる位置から破断位置までの伸びである。
【0013】
また本発明では、上記の焼鈍鋼板の製造法として、上記の化学組成を有する鋳造スラブを1200〜1270℃に加熱した後に熱間圧延して熱延板を得る工程、
前記熱延板を650〜710℃で5h以上保持する条件で焼鈍する工程、
を有する製造法が提供される。
【0014】
さらに本発明では、上記の焼鈍鋼板にプレス加工を施した後、浸炭焼入・焼戻しを経て表面硬さ(荷重100g)が600HV以上、肉厚中央の断面硬さが350HV以上に調整された耐摩耗性に優れる機械部品が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐アブレシブ摩耗性に優れる摺動機械部品を、鋼板を素材としてプレス加工する工程により効率的に提供することが可能である。素材の鋼板(焼鈍鋼板)は軟質かつ塑性異方性が小さいので寸法精度の高いプレス加工部品を得ることができる。そのプレス加工品は焼入れ性が良好であるため肉厚中心部においても高い強度が得られる。高温の調質熱処理に曝してもマトリクス中に分布する微細なTiまたはNb系炭化物により旧オーステナイト粒の粗大化が抑制されるので機械的特性の劣化を伴うことなく高温の浸炭焼入れを適用することができ、耐摩耗性の高い表層部を短時間で容易に得ることができる。したがって本発明は、高面圧下で使用されるエンジン部品(歯車、プーリー、軸受けなど)の生産性向上・コスト低減に寄与するものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を特定するための事項について説明する。
〔化学組成〕
以下、化学組成に於ける「%」は特に断らない限り質量%を意味する。
Cは、鋼の強度や延性に大きく影響する。本発明では焼鈍鋼板のプレス加工性を重視するので、C含有量をあまり高くすることはできない。種々検討の結果、C含有量は0.30%以下に抑える必要がある。それよりC含有量が高くなると焼鈍鋼板における延性が不十分となり良好なプレス加工性を安定して得ることが難しくなる。C含有量を0.30%以下に抑えても浸炭焼入れによって耐摩耗性に優れた硬質表層を実現することが可能である。一方、焼入れ後の部品における肉厚中央部での強度レベルを十分に確保するためには0.10%以上のC含有量を確保することが必要である。したがって本発明ではC含有量が0.10〜0.30%の狭い範囲に調整されている鋼を対象とする。
【0017】
Siは、基本的には脱酸材として添加されるが、調質熱処理後の強度向上にも有効である。種々検討の結果、本発明ではSi含有量0.03%以上の鋼を対象とする。Si含有量が高くなるとプレス加工性を損なう要因となるが、本発明では1.00%まで許容できる。
【0018】
MnおよびCrは、その含有量を調整することによって焼入れ性をコントロールすることができる元素である。Mn+Cr(MnとCrの合計量)を増大させると焼入れ性が向上する。種々検討の結果、歯車等の高強度機械部品を想定している本発明ではCr+Mnを1.00%以上とする。ただしCr+Mnが過剰となるとプレス加工性が劣化するのでCr+Mnは3.00%以下に制限される。Mnは原料から混入するので通常0.10%以上の含有量となるが、過剰の含有は鋼を硬質化させ加工性を阻害するのでMnは2.50%以下の範囲で含有させる。Cr含有量が多くなると焼入れ処理時の加熱においてセメンタイトの溶体化を妨げる場合があるので、Crは2.00%以下の含有量とする。
【0019】
PおよびSは、靱性に悪影響を及ぼすので低い方が望ましいが、いずれも0.030%まで許容される。ただし、過剰の脱リンや脱硫は製鋼での負荷を増大させるので、P含有量は0.001〜0.030%、S含有量も0.001〜0.030%に収まるようにすればよい。
【0020】
TiおよびNbは、いずれも硬質な炭化物を形成する元素であり、耐アブレシブ摩耗性を向上させる上で重要である。また、浸炭焼入れ後の旧オーステナイト粒径を微細化する作用を有する。TiとNbはいずれか1種のみを添加してもよいし、双方を添加してもよい。種々検討の結果、耐アブレシブ摩耗性の向上に有効なTiまたはNb系炭化物は浸炭焼入れ処理における高温加熱時に固溶してその量が減少するが、プレス加工前の焼鈍鋼板の状態で見掛け面積500nm2以上のTiまたはNb系炭化物が100μm2あたり850個以上の密度で存在していれば、浸炭焼入れ時にある程度固溶化が進行しても耐アブレシブ摩耗性の向上に必要なTiまたはNb系炭化物の量が確保されることが確認された。焼鈍鋼板の状態で上記のようなTiまたはNb系炭化物の分布状態を実現するためには、Ti+Nb(TiとNbの合計量)を0.07%以上とすることが有効であり、0.10%以上とすることがより好ましい。ただし、Ti、Nbの含有量が過剰であると鋼板中に列状の粗大炭化物の凝集帯が形成される。このような粗大炭化物は耐摩耗性を向上させる効果を発揮しないだけでなく、プレス成形性を劣化させる要因となる。発明者らの検討によるとTi含有量は0.25%以下に抑える必要があり、0.20%以下とすることがより好ましい。Nb含有量についても0.25%以下に抑える必要があり、0.20%以下とすることがより好ましい。
【0021】
V、Ni、Mo、Bは、最終的に求められる機械部品の特性に応じて、適宜添加することができる。Vは微細炭化物の生成により耐アブレシブ摩耗性を向上させるとともに旧オーステナイト粒径を微細化する作用を有する。Ni、Moは焼入れ性を向上させる作用を有する。Bは焼入れ性を高めるとともに粒界破壊を抑制する作用を有する。しかし、これらの元素の過剰添加はいずれもプレス加工性を劣化させる要因となる。検討の結果、これらの元素を添加する場合、Vは1.00%以下、Niは2.00%以下、Moは1.0%以下、Bは0.0200%以下の含有量範囲とする。
【0022】
Alは、脱酸剤として添加される。その効果を十分に得るためにT.Al(トータルAl量)を0.005%以上確保する。ただし過剰のAl含有は加工性を阻害する要因となるので、T.Al量は0.070%以下に制限され、0.050%以下に管理してもよい。
【0023】
Nは、鋼の強度向上に有効である。ただしNはTiと結合しやすいので、Ti炭化物の形成に有効なTiを消費する。また過剰のN含有は鋼の加工性を低下させる。種々検討の結果、本発明ではN含有量が0.001〜0.008%の鋼を対象とする。
【0024】
〔焼鈍鋼板の断面硬さ〕
プレス加工により鋼板を種々の形状の部品に成形するためには、プレス加工に供するための焼鈍鋼板が十分に軟質であることが要求される。具体的には焼鈍鋼板の断面硬さが200HV以下に軟質化されている必要があり、175HV以下であることがより好ましい。過度に軟質化する必要はないが、本発明に従う化学組成の鋼の場合、焼鈍後の硬さは通常120HV以上となる。
【0025】
〔局部伸び異方性指数E値〕
プレス加工部品の寸法精度を高めるためには、プレス加工に供する焼鈍鋼板において圧延方向(L方向)とそれに直角の方向(C方向)の局部伸びの差が小さいこと、すなわち局部伸び異方性が小さいこと要求される。本発明に適用する鋼はTi、Nbの1種以上を含有している。そのため鋳造スラブ中に粗大なTiまたはNb系炭化物が存在し、それが熱間圧延やその後の冷間圧延によって圧延方向に引き伸ばされると、鋼板中に列状の炭化物凝集帯が形成される。このような列状の炭化物凝集帯は、特に焼鈍鋼板のC方向における局部伸びを低下させ、局部伸び異方性を増大させる。したがって、焼鈍鋼板においては列状の炭化物凝集帯が消失して微細なTiまたはNb系炭化物ができるだけ均一に分散していることが重要である。
【0026】
良好な寸法形状のプレス加工製品を得るためには、焼鈍鋼板において下記(1)式で定義される局部伸び異方性指数E値が0.7以上であることが極めて有効である。0.85以上であることがより好ましい。
E値=El(C)/El(L) …(1)
ただし、El(C)は鋼板の圧延方向(L方向)を長手方向とするJIS 5号引張試験片による局部伸び(%)、El(L)は鋼板の圧延方向に対して直角の方向(C方向)を長手方向とするJIS 5号引張試験片による局部伸び(%)である。
通常、El(C)はEl(L)より低い値となるので、E値の上限は1.0と定めることができる。
【0027】
〔焼鈍鋼板におけるTiまたはNb系炭化物の分布形態〕
前述のように調質熱処理後の機械部品において優れた耐アブレシブ摩耗性を実現するためには、焼鈍鋼板の段階で微細なTiまたはNb系炭化物が十分に分布していることが有効である。具体的には、焼鈍鋼板の圧延方向と板厚方向に平行な断面(L断面)において、見掛け面積500nm2以上のTiまたはNb系炭化物が100μm2あたり850個以上の密度で観測される組織状態となっていることが極めて効果的であることがわかった。上記見掛け面積が500nm2に満たないTiまたはNb系炭化物は、浸炭焼入れの高温加熱時の固溶化を考慮すると、耐アブレシブ摩耗性の改善にはあまり寄与しない。また、見掛け面積が500nm2以上であるTiまたはNb系炭化物の断面内存在密度が100μm2あたり850個未満であると、浸炭焼入れ後の耐アブレシブ摩耗性改善効果を十分に得ることが難しくなる。見掛け面積500nm2以上のTiまたはNb系炭化物が100μm2あたり1000個以上の密度で存在していることがより好ましい。
【0028】
ここでは対象とするTiまたはNb系炭化物の見掛け面積を500nm2以上と規定し、大きさの上限については特に規定していない。この場合、見掛け面積だけに着目すると、対象とするTiまたはNb系炭化物の中には後述の浸炭焼入れ・焼戻し後に耐アブレシブ摩耗性の向上に寄与しないような粗大な炭化物も形式的に含まれる。しかし、析出し得るTiまたはNb系炭化物の体積の上限は一定であるから、粗大なTiまたはNb系炭化物の数が増えていくと、必然的に見掛け面積が500nm2以上であるTiまたはNb系炭化物の総数は急激に減少していき、やがて「100μm2あたり850個以上」という存在密度の条件を満たさなくなる。すなわち存在密度による制限を受けるので、対象とするTiまたはNb系炭化物の大きさの上限を規定していなくても、浸炭焼入れ・焼戻し後に耐アブレシブ摩耗性の向上に寄与する微細なTiまたはNb系炭化物が不足するような組織状態が無制限に含まれることにはならない。発明者らの詳細な検討によれば、本発明に従うC、TiおよびNb含有量の鋼を採用した場合、焼鈍鋼板において見掛け面積500nm2以上のTiまたはNb系炭化物が100μm2あたり850個以上存在していれば、浸炭焼入れ・焼戻し後において耐アブレシブ摩耗性の向上に寄与する微細なTiまたはNb系炭化物の量は十分に確保される。
【0029】
なお、カウント対象とするTiまたはNb系炭化物を、見掛け面積が500〜2000nm2であるものに限定しても構わない。具体的には、L断面において見掛け面積500〜2000nm2のTiまたはNb系炭化物が100μm2あたり850個以上の密度で観測される焼鈍鋼板が特に好適な対象となり、100μm2あたり1000個以上であることが一層好ましい。
【0030】
〔製造工程〕
本発明に従えば、例えば以下の工程を経て耐アブレシブ摩耗性に優れた機械部品を製造することができる。
鋼の溶製→スラブ加熱・熱間圧延→熱延板焼鈍→(冷間圧延→焼鈍)※→(スキンパス圧延)→プレス加工→浸炭焼入れ・焼戻し
ここで※印の「冷間圧延→焼鈍」の工程は必要に応じて1回または複数回挿入される。
【0031】
鋼の溶製;
通常の製鋼・連続鋳造プロセスにより鋼を溶製することができる。
【0032】
スラブ加熱・熱間圧延;
本発明で対象とする鋼種はTi、Nbの1種以上が添加されており、鋳造スラブ中には通常、粗大なTiまたはNb系炭化物が存在する。しかし、このような粗大な炭化物は耐アブレシブ摩耗性の改善に有効でないばかりでなく、靱性、疲労特性にも悪影響を及ぼし、さらにプレス加工性を阻害する要因ともなる。そこで、プレス加工に供する前に、微細なTiまたはNb系炭化物が分散した組織状態としておく必要がある。発明者らの詳細な検討によれば、熱間圧延時のスラブ加熱を利用して鋳造スラブ中の粗大なTiまたはNb系炭化物をできるだけ固溶させることが効果的である。具体的には鋳造スラブを1200〜1270℃に加熱した後に熱間圧延する。鋳造スラブの内部まで1200℃以上の温度に到達する必要がある。スラブ温度が1200℃未満であると鋳造時に生成した粗大なTiまたはNb系炭化物を十分に固溶させることが難しくなる場合がある。1270℃を超える高温加熱は不経済となる。1200〜1270℃での保持時間は0.5〜120hとすればよい。その後、スラブを炉から出して通常の手法で熱間圧延を行うことにより、微細なTiまたはNb系炭化物を再析出させることできる。熱延板の板厚は2〜12mmの範囲で設定すればよい。
【0033】
熱延板焼鈍;
プレス加工に供する前の鋼板はできるだけ軟質であることが望ましい。また、セメンタイト(Fe3C)の粒子については粗大化している方がプレス加工性には有利となる。そこで、熱延板を焼鈍することにより軟質化とセメンタイトの粗大化を図る。具体的にはL断面に観察されるセメンタイトの平均粒子径(円相当径)を0.5〜2.0μmの範囲に調整することが好ましい。これらの効果を十分に得るためには熱延板を650℃以上の温度で保持することが有効である。670℃以上とすることがより好ましい。保持時間は5h以上とする。10h以上とすることがより効果的である。保持温度の上限は710℃とすればよい。また、この焼鈍により微細なTiまたはNb系炭化物の再析出も進行する。焼鈍後には断面硬さ200HV以下で、かつ見掛け面積500nm2以上のTiまたはNb系炭化物が100μm2あたり850個以上の密度で存在する組織状態の焼鈍鋼板を得ることができる。この焼鈍鋼板においては鋳造時に生成した粗大なTiまたはNb系炭化物に起因する列状の炭化物凝集帯がほとんど消失しているので、上記の局部伸び異方性指数E値も適正化されている。
【0034】
冷間圧延および焼鈍;
冷間圧延と焼鈍を行うことにより一層の軟質化を図ることができるので、加工性の向上には有利となる。必要に応じて上記焼鈍後に「冷間圧延→焼鈍」の工程を1回または複数回実施することができる。その場合、冷間圧延後の焼鈍は650〜710℃で4〜40h保持する条件で行えばよい。
【0035】
スキンパス圧延;
必要に応じて、上記の熱延板焼鈍または冷間圧延後の焼鈍によって得られた焼鈍鋼板に対してスキンパス圧延を施すことができる。ただし、スキンパス圧延後の断面硬さが200HV以下となるようにする。スキンパス圧延後の鋼板も本明細書では「焼鈍鋼板」として扱う。
【0036】
プレス加工;
上記の熱延板焼鈍または冷間圧延後の焼鈍によって得られた焼鈍鋼板、あるいは上記スキンパス圧延後の焼鈍鋼板をプレス加工に供し、プレス加工品を得る。上記焼鈍鋼板を使用することによって寸法精度の高い良好なプレス加工品が得られる。
【0037】
浸炭焼入れ・焼戻し;
上記プレス加工品は、必要に応じて切削、研磨等の加工を受け所定の部品形状とされる。その後、調質熱処理として浸炭焼入れ・焼戻しに供される。浸炭温度は930〜1100℃とすることができるが、本発明に従えば高温浸炭を行っても旧オーステナイト粒径の粗大化が抑制されるので、例えば1000〜1100℃での高温浸炭に供することが効率的である。保持時間は、浸炭温度が930〜1000℃未満の場合60〜180min、1000〜1100℃の高温浸炭の場合30〜60minとすればよい。この範囲の条件であれば、耐アブレシブ摩耗性の向上に必要な量のTiまたはNb系炭化物を残存させることができる。カーボンポテンシャル(CP)は0.7%C以上とすることが望ましく、0.75%C以上、あるいは0.80%C以上とすることがより好ましい。浸炭焼入れ後にC含有量が0.7質量%以上となった表層部をここでは「浸炭表層」と呼ぶ。浸炭表層の厚さは、CP、浸炭温度および保持時間によって調整できるが、100〜300μmとすることが望ましい。
【0038】
浸炭後には焼入れを行い、その後、焼戻しを行う。焼入れ焼戻し条件は、表面硬さが600HV以上好ましくは700〜750HV、肉厚中央の断面硬さが350HV以上好ましくは380〜450HVとなる条件とする。焼戻し条件は、温度180〜400℃、保持時間30〜60minの範囲で設定すればよい。
【0039】
浸炭焼入れ・焼戻し後の部品の摺動面において、その表層部がC含有量0.7質量%以上、硬さ600HV以上のマルテンサイト組織であるとき、表面に露出して存在しているTiまたはNb系炭化物粒子はマトリクス中に強固に支持され、脱落しにくいことがわかった。したがって、上記の各工程を経て得られた機械部品は優れた耐アブレシブ摩耗性を長期間にわたって維持しうるものである。
【実施例】
【0040】
《実施例1》
表1に示す化学組成の鋳造スラブを製造し、1250℃で40min加熱した後、熱間圧延して板厚6.0mmの熱延板とした。巻取温度は550℃である。この熱延板のコイルを650℃で10h焼鈍したのち酸洗して板厚6.0mmの焼鈍鋼板を得た。
【0041】
【表1】

【0042】
各焼鈍鋼板について、断面硬さ、局部伸び異方性指数E値、TiまたはNb系炭化物の存在密度、プレス加工性を以下の手法で調べた。
【0043】
・断面硬さ
焼鈍鋼板の圧延方向と板厚方向に平行な断面(L断面)について、板厚中心部のビッカース硬さを荷重10kgで測定した。この断面硬さが200HV以下であるものを○評価(断面硬さ;良好)、それ以外を×評価(断面硬さ;不良)とし、○評価を合格とした。
・局部伸び異方性指数E値
焼鈍鋼板から採取したJIS Z2201に規定の5号引張試験片を用いてJIS Z2241の引張試験をL方向およびC方向について行い、上述の(1)式に従って局部伸び異方性指数E値を求めた。このE値が0.85以上のものを◎評価(等方性;優秀)、0.70以上0.85未満のものを○評価(等方性;良好)、0.70未満のものを×評価(等方性;不良)とし、○評価以上を合格とした。
【0044】
・TiまたはNb系炭化物の存在密度
焼鈍鋼板のL断面を鏡面研磨した後、ピクラール(メチルアルコール+ピクリン酸)溶液でエッチングした表面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて50000倍で観察し、見掛け面積が2000nm2以上のTi炭化物およびNb炭化物の数をカウントし、それらの合計をTiまたはNb系炭化物の数とした。観察される粒子がTi炭化物あるいはNb炭化物であることはEDXによって確認できる。見掛け面積が2000nm2以上の粒子の選択はSEM像の画像処理によって行った。無作為に観察視野を選び、合計20μm2の表面を観察し、100μm2あたり存在密度を算出した。見掛け面積2000nm2以上のTiまたはNb系炭化物が100μm2あたり850個以上存在するものを○評価(TiまたはNb系炭化物の存在密度;良好)、それより少ないものを×評価(TiまたはNb系炭化物の存在密度;不良)とし、○評価を合格とした。
【0045】
・プレス加工性
焼鈍鋼板にクリアランス20%で直径d0=10mmの穴を打ち抜いた後、この打抜き穴をバリが外側となるように60°円錐ポンチで押し拡げ、板厚を貫通する割れが発生したときの穴径d(mm)を測定した。下記(2)式により穴拡げ率λ(%)を求めた。
λ=(d−d0)/d0×100 …(2)
一般的なプレス加工において必要とされる穴拡げ率λは60%以上とされることから、λが80%以上のものを◎評価(プレス加工性;優秀)、60%以上80%未満のものを○評価(プレス加工性;良好)、60%未満のものを×評価(プレス加工性;不良)とし、○評価を合格とした。
【0046】
次に、焼鈍鋼板に以下の方法で真空浸炭焼入れ・焼戻しを施した。
・真空浸炭焼入れ
850℃で30min加熱保持(予熱)→CP0.8%Cの雰囲気にて1050℃で100min加熱保持→60℃の油浴中へ材料を浸漬して急冷
・焼戻し
180℃で2h加熱保持→空冷
【0047】
上記浸炭焼入れ・焼戻し後の鋼板について、表面硬さ、断面硬さ、耐摩耗性を以下の手法で調べた。
・表面硬さ
マイクロビッカース硬度計を用い、鋼板表面から板厚方向に100gの荷重を付与する方法で硬さを測定した。この硬さが600HV以上のものを○評価(表面硬さ;良好)、それ以外を×評価(表面硬さ;不良)とし、○評価を合格とした。
・断面硬さ
鋼板のL断面について、板厚中心部のビッカース硬さを荷重10kgで測定した。この断面硬さが350HV以上であるものを○評価(断面硬さ;良好)、それ以外を×評価(断面硬さ;不良)とし、○評価を合格とした。
【0048】
・耐摩耗性
鋼板から切り出した直径5mmの円板試験片(酸化スケールを研磨除去したもの)をピンオンディスク型摩耗試験機の試料ホルダに固定し、回転する#400エメリー研磨紙(炭化ケイ素粉末を塗布した研磨紙)に試験片表面を荷重F=30Nで押し付けながら、摩擦速度0.66m/sec、摩擦距離L=200mの条件で摩耗試験を行った。試験前後の試料板厚差から摩耗により消失した材料の体積を算出し、これを摩耗減量W(mm3)とした。下記(3)式により比摩耗量C(mm3/N・m)を算出した。この試験により耐アブレシブ摩耗性が評価できる。
C=W/(F×L) …(3)
高硬度鋼材において、上記比摩耗量Cが1.5×10-4mm3/N・m以下であれば、歯車、プーリー、軸受に使用した場合いずれも非常に優れた耐アブレシブ摩耗性を有すると判断されることから、比摩耗量Cが1.5×10-4mm3/N・m以下であるものを○評価(耐アブレシブ摩耗性;良好)、それ以外を×評価(耐アブレシブ摩耗性;不良)とし、○評価を合格とした。
これらの結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
表1、表2からわかるように、本発明に従う化学組成の鋼を用いた焼鈍鋼板においては断面硬さ200HV以下の軟質、かつE値が0.70以上の局部伸び異方性が小さい特性が得られ、その結果良好なプレス加工性が実現できた。その焼鈍鋼板には見掛け面積500nm2以上のTiまたはNb系炭化物が100μm2あたり850個以上の密度で分散していた。これらのTiまたはNb系炭化物は見掛け面積500〜1000nm2のもので占められていることが確認された。この焼鈍鋼板に存在するTiまたはNb系炭化物が浸炭焼入れ・焼戻し後においても適正量残存したことによって、浸炭焼入れ・焼戻し材は良好な耐摩耗性(耐アブレシブ摩耗性)を呈した。また、浸炭焼入れ・焼戻し材は表面硬さ600HV以上、断面硬さ350HV以上の高硬度特性を呈するものであった。特に浸炭表層中に存在するTiまたはNb系炭化物はC含有量0.7質量%以上、硬さ600HV以上の硬質なマルテンサイト組織に強固に支えられており、摺動時における脱落防止性能に優れる。
【0051】
これに対し比較例である鋼No.1〜4はTi、Nb無添加またはそれらの含有量が不足するものであるためTiまたはNb系炭化物による耐アブレシブ摩耗性が発揮されなかった。またMn+Crが少ないために焼入れ性が悪く、浸炭焼入れ・焼戻し後の断面硬さが低かった。鋼No.10はMn+Crが過剰であるためプレス加工性に劣るとともに、Nbが過剰であるために微細なTiまたはNb系炭化物が少なくなり耐摩耗性に劣った。鋼No.17はTiが過剰であるためプレス加工性に劣った。鋼No.19はNが過剰であるためTiNが生成しTi炭化物が不足したので耐摩耗性に劣った。鋼No.20はC、Siが過剰であるためプレス加工性が悪く、Mn+Crが少ないため浸炭焼入れ・焼戻し後の断面硬さが低かった。鋼No.21〜26はC含有量が高いためプレス加工性が悪く、Ti、Nb無添加であるため耐摩耗性に劣った。
【0052】
《実施例2》
本発明に従う化学組成を有する表1の鋼No.5、9、11の鋳造スラブを用いて、実施例1と同様の工程にて焼鈍鋼板および浸炭焼入れ・焼戻し材を作製し、実施例1と同様の試験を行った。ただしここでは、鋳造スラブ加熱温度、熱延板焼鈍条件、浸炭条件を変化させた。なお、鋳造スラブ加熱時間は40min、熱延板の板厚は6.0mm、巻取温度は550℃である(実施例1と同じ)。また一部の例において熱延板焼鈍後に「冷間圧延→焼鈍」の工程を挿入することによって焼鈍鋼板を得た。この場合の焼鈍条件も熱延板焼鈍と同様とした。表3に製造条件を示す。また、表4に試験結果を示す。表4中、「焼鈍鋼板」とあるのはプレス加工試験に供した焼鈍鋼板を意味する。具体的には冷間圧延を施さなかったものは熱延板焼鈍を終えた段階の鋼板、冷間圧延を施したものは冷間圧延後の焼鈍を終えた段階の鋼板を意味する。
【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
表3、表4からわかるように、本発明に従う製造条件で製造した焼鈍鋼板は良好なプレス加工性を呈し、浸炭焼入れ・焼戻し後の表面硬さ、断面硬さ、耐摩耗性(耐アブレシブ摩耗性)も良好であった。
【0056】
これに対し比較例である処理No.Aは焼鈍温度が低いためTiまたはNb系炭化物の分散化が不十分であるとともに微細なTiまたはNb系炭化物の再析出が不十分となり、プレス加工性および耐摩耗性が悪かった。処理No.Bは焼鈍時間が短いため焼鈍鋼板の軟質化およびTiまたはNb系炭化物の分散化が不十分であり、プレス加工性に劣った。処理No.E、Fは鋳造スラブの加熱温度が低いため粗大な列状のTiまたはNb炭化物が残留しプレス加工性および耐摩耗性に劣った。処理No.Jは浸炭雰囲気のカーボンポテンシャル(CP)が低いため浸炭表層のC含有量が低くなり、表面硬さが不十分となった。その結果摺動面でのTiまたはNb系炭化物の脱落が生じ耐摩耗性に劣った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.10〜0.30%、Si:0.03〜1.00%、Mn:0.10〜2.50%、P:0.001〜0.030%、S:0.001〜0.030%、Cr:0〜2.00%、Ti:0〜0.25%、Nb:0〜0.25%、V:0〜1.00%、Ni:0〜2.00%、Mo:0〜1.0%、B:0〜0.0200%、T.Al:0.005〜0.070%、N:0.001〜0.008%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、Mn+Cr:1.00〜3.00%、Ti+Nb:0.07%以上を満たす化学組成を有する鋼板であって、断面硬さが200HV以下、下記(1)式で定義される局部伸び異方性指数E値が0.7〜1.0であるプレス加工用焼鈍鋼板。
E値=El(C)/El(L) …(1)
ただし、El(C)は鋼板の圧延方向(L方向)を長手方向とするJIS 5号引張試験片による局部伸び(%)、El(L)は鋼板の圧延方向に対して直角の方向(C方向)を長手方向とするJIS 5号引張試験片による局部伸び(%)である。
【請求項2】
鋼板の圧延方向と板厚方向に平行な断面(L断面)において、見掛け面積500nm2以上のTiまたはNb系炭化物が100μm2あたり850個以上の密度で観測される請求項1に記載のプレス加工用焼鈍鋼板。
【請求項3】
鋳造スラブを1200〜1270℃に加熱した後に熱間圧延して熱延板を得る工程、
前記熱延板を650〜710℃で5h以上保持する条件で焼鈍する工程、
を有する請求項2に記載のプレス加工用焼鈍鋼板の製造法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の焼鈍鋼板にプレス加工を施した後、浸炭焼入れ・焼戻しを経て表面硬さ(荷重100g)が600HV以上、肉厚中央の断面硬さが350HV以上に調整された耐摩耗性に優れる機械部品。

【公開番号】特開2013−112890(P2013−112890A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263080(P2011−263080)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】