説明

プレス成形性および耐熱性に優れたAl−Zn系合金めっき鋼板

【課題】優れた深絞り成形性と耐熱性を兼ね備えたアルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板を提供する。
【解決手段】重量%で、C:0.003%未満、S:0.015%以下、N:0.003%以下、Ti:0.02〜0.1%,B:0.0002〜0.0015%、P:0.036%以下を含有する鋼板に、Al:25〜90%,Si:Al量の1%以上10%以下を含み、残部は実質的にZnであるAl−Zn系合金めっきを施したことを特徴とするプレス成形性および耐熱性に優れたアルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は優れた深絞り成形性と耐熱性を合わせ持つアルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板に関する。
【0002】
【従来の技術】アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板は、高い耐食性・耐候性を有し、建材用途などに使用されているほか、耐熱性も併せ持ち電気器具、熱器具、自動車などの耐熱用途にも使用されている(特公昭46-7161 号公報など)。このめっき鋼板は、一般に、冷間圧延後の鋼板を連続溶融亜鉛めっきラインに通板して、連続焼鈍、めっき浴へ浸漬の後めっき付着量を調整して製造されている。
【0003】このアルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板は、耐熱性の限界を超える環境下で使用された場合、めっき皮膜と下地鋼板との合金化が急激に進行し、耐食性などの特性が劣化してしまう。これに対して、特公平1-35071 号公報には、アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の下地鋼板にPを0.039重量%以上含有する炭素鋼を使用することにより、高温環境下での下地鋼板へのZnの拡散が抑制され、耐熱特性が向上することが開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】電気製品や自動車などの用途では苛酷な成形加工が行われる場合があり、この場合、アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板に高い成形加工性が要求される。連続溶融亜鉛めっきでは、このような用途の素材として、深絞り性に優れ非時効性の鋼板の得られる極低炭素鋼にTiなどを添加したいわゆるIF(Interstitial Free) 鋼が用いられるのが一般的である。
【0005】しかしながら、このようなIF鋼を下地鋼板とするアルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板では、耐熱限界温度近傍において、より深絞り成形性の劣る一般の低炭素アルミキルド鋼を下地鋼板とする場合よりも、めっき皮膜と下地鋼板の合金化の進行がかなり早く、耐熱耐久性に劣るものとなっていた。これは、このようなIF鋼においては、鋼の清浄性が一般の低炭素鋼に比較して非常に高く、このため結晶粒界での合金化反応がより早いためである。
【0006】耐熱性改善のため、このようなIF鋼への前述のような高濃度のPの添加は、鋼の強度上昇を招いて成形性を低下させるばかりでなく、低温靭性を低下させ2次加工脆性をも劣化させてしまい、このような苛酷な成形加工用途への適用は困難となる場合がある。
【0007】本発明は、このような問題を有利に解決するものであって、優れた深絞り成形性(プレス成形性)と耐熱性とを備えたアルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板を提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者は、このような目的のための検討してきた結果、下地鋼板の化学成分およびその濃度を適正に規制することによりIF鋼の特性を損なわず、高温環境における合金化の進行を抑制することが可能となることを見出だした。
【0009】すなわち、本発明の要旨とするところは、重量%で、C:0.0030%未満、S:0.015%以下、N:0.0030%以下、Ti:0.02〜0.1%,B:0.0003〜0.0015%,P:0.036%以下、好ましくは0.02〜0.036%を含有し、さらにSi:0.05%以下、Mn:0.05〜0.5%,sol.Al:0.02〜0.1%を含む鋼板に、Al:25〜90%,Si:Al量の1%以上10%以下を含み、残部は実質的にZnであるAl−Zn系合金めっきを施したことを特徴とするプレス成形性および耐熱性に優れたアルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板である。
【0010】以下、本発明について詳細に説明する。本発明のアルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板は、通常の工程を経て製造された冷間圧延後の鋼板を連続溶融亜鉛めっきラインにおいて、連続焼鈍、めっき浴への浸漬、付着量の調整を行って、アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板を製造するものである。下地鋼板の各化学成分は、以下に示すように、めっき後の鋼板の諸性質におよぼす作用から定めた。
【0011】Cは、高い深絞り成形性を得るためには低い方がよいが、実用上本発明の効果を損なわない範囲として、0.003重量%未満とした。Sは、鋼板の延性に有害な元素であり出来るだけ低い方がよいが、実用上本発明の効果を損なわない範囲として、その上限を0.015重量%とした。
【0012】Nは、高成形成を得るためには少ない方が望ましく、実用上本発明の効果を損なわない範囲として、その上限を0.003重量%とした。Tiは、鋼中の固溶C,Nを析出物として固定し、高い深絞り成形性を得るためには不可欠な成分である。0.02重量%未満ではその効果が十分でなく、また、0.1重量%を超えて含有してもその効果が飽和するばかりか、コスト的にも不利となるため0.02〜0.1重量%の範囲に限定した。
【0013】Bは、微量の添加でも、結晶粒界に濃化し粒界拡散によって促進される高温環境でのめっき皮膜と下地鋼板の合金化を抑制する効果がある。このためにBは、0.0002重量%以上の添加が必要である。しかし、Bは鋼板の深絞り成形性を劣化させる元素であり、0.0015重量%を超えると深絞り成形性が実用上問題となる。すなわち、このような微量の範囲で、耐熱性と深絞り成形性のバランスが可能となるのである。
【0014】Pは、前述のように高温環境でのめっき皮膜と下地鋼板の合金化を抑制する効果があるが、Pを単独で添加する場合、比較的高濃度の添加が必要とされる。しかし、比較的高濃度のPの添加は、鋼の強度上昇を招いて成形性を低下させるため、Pの添加量を低く押さえる必要がある。本発明では、Bとの複合添加とすることにより、0.036重量%以下という少ないPの添加量で耐熱性改善効果を向上することができる。ただし、好ましくは、0.02重量%〜0.036重量%とする。また、P添加による2次加工脆性の低下は、Bを複合添加しているために緩和され、このような少ない添加範囲では問題とならない。
【0015】Siは、必要により添加する鋼を強化する元素で、それぞれSi:0.05重量%を超えて添加すると延性が低下し成形性に悪影響が出るため、この範囲とした。
【0016】Mnも、必要により添加し、Siと同様に強度上昇に影響する元素で、0.5重量%を超えて添加すると成形性を劣化させるため、この範囲とした。Alは、必要により添加し、脱酸の目的で添加する元素で、sol.Al:0.02重量%以上必要であるが、多量に添加しても効果が飽和するため上限を0.1重量%とした。
【0017】上述の成分の鋼を通常の方法により熱間圧延、酸洗の後、冷間圧延し、その後、連続溶融亜鉛めっきラインにて連続焼鈍され、所定のめっき浴に浸漬された後ガスワイピングによりめっき付着量が調整され、アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板が製造される。
【0018】このアルミニウム−亜鉛合金めっきはAlおよびZnを主成分とし、少量のSiを添加したものであるが、めっき皮膜特性の改善のため微量の合金添加元素を添加したものも本発明の適用の範囲に含まれる。ここで、Alはめっき皮膜に耐食性、耐熱性を付与する元素であるが、25重量%未満ではこれらの特性に劣り、90重量%を越えるとZn含有量が少なく犠牲防食性に劣る。Siはめっき時のFe−Alを主体とする合金層の発達を抑制するために添加する。Al量の1%未満では合金層の抑制が不十分であり、Al量の10%を越えるとめっき皮膜の加工時のクラックが多くなるなど皮膜特性が劣化する。
【0019】
【発明の実施の形態】次に本発明を具体例を用いてさらに詳しく説明する。表1、表2に示す本発明鋼成分及び表3に示す比較鋼成分の連続鋳造鋼片を、それぞれ1150〜1250℃に加熱した後、熱間圧延して厚さ3.2mmの鋼板とし、570〜670℃で巻取り、続いて、酸洗の後、板厚0.7mmまで冷間圧延を行った。次いで、連続溶融亜鉛めっきラインにて、820〜890℃で連続焼鈍を行った後Zn−55重量%Al−1.5重量%Si合金めっき浴(浴温600℃)を通過させて付着量調整の後、両面で150g/m2 のアルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板を得た。得られたアルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板について、以下の性能試験を行った。
【0020】(1)プレス成形性JIS5号試験片に加工の後、引張り試験を行って機械的特性値を測定し、伸び(E1)およびランクフォード値(r値)により成形性を評価した。
【0021】r値は圧延方向に0,45,90度の方向でそれぞれ測定し、次の式により平均のr値(r*)として評価した。
r*=1/4(r0 +2r45+r90
以上の評価では、El:40%以上かつr*値1.85以上の材料について成形性良好とした。その評価を表4〜表6に示す(表6は比較例)。
【0022】(2)耐熱性試料を大気雰囲気中400℃で480時間加熱し、試料の表面状態を観察した。その観察結果を表2に示す。ここで、各符号は以下の意味である。
【0023】
○:表面状態にほとんど変化無く、良好△:局部的に表面迄合金化の進行が見られ、表面がわずかに灰黒色に変化×:合金化の進行が著しく、表面のかなりの部分が灰黒色に変化表4〜表6から、本発明の試料は、いずれもプレス成形性、耐熱性に優れていることがわかる。
【0024】
【表1】


【0025】
【表2】


【0026】
【表3】


【0027】
【表4】


【0028】
【表5】


【0029】
【表6】


【0030】
【発明の効果】以上述べたように本発明によれば、プレス成形性に優れ、かつ、耐熱性にも優れるアルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板を得ることができるものであって、この工業的利用価値は高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】B添加量に伴う耐熱性とr*値の変化を示す図面。
【図2】P添加量に伴う耐熱性とElの変化を示す図面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 重量%で、C:0.003%未満、S:0.015%以下、N:0.003%以下、Ti:0.02〜0.1%,B:0.0002〜0.0015%、P:0.036%以下を含有する鋼板に、Al:25〜90%,Si:Al量の1%以上10%以下、残部は実質的にZnであるAl−Zn系合金めっきを施したことを特徴とするプレス成形性および耐熱性に優れたアルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板。
【請求項2】 鋼板は、重量%で、さらにSi:0.05%以下、Mn:0.05〜0.5%,sol.Al:0.02〜0.1%を含む請求項1又は2に記載のプレス成形性および耐熱性に優れたアルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板。

【図1】
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【図2】
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