プレフィルドシリンジ用ホルダー及び注射器
【課題】外径の増大を抑制でき且つシリンジを安定に保持でき、薬剤の混合を自動的に行う2室式プレフィルドシリンジ用ホルダー及び該ホルダーにシリンジを装填してなる注射器を提供すること。
【解決手段】バイパス溝の位置の外周面に突条が形成されている2室式プレフィルドシリンジを装填して薬剤成分の混合及び注射を行うためのホルダーであって、シリンジを少なくとも突条の後端まで挿入して収容することのできる概略筒状の前部本体81であって、挿入に際して突条を通過させる縦方向のスロット84を側壁に有するものである前部本体と、前部本体に収容された状態の該2室式プレフィルドシリンジをシリンジの端側から所定の深さまで挿入することができ前部本体の少なくとも後部を覆ってこれを固定するように構成された概略筒状の胴部を有する後部本体90とを含んでなり、前部本体又は後部本体に指掛用の鍔部92が形成されているものであるホルダー。
【解決手段】バイパス溝の位置の外周面に突条が形成されている2室式プレフィルドシリンジを装填して薬剤成分の混合及び注射を行うためのホルダーであって、シリンジを少なくとも突条の後端まで挿入して収容することのできる概略筒状の前部本体81であって、挿入に際して突条を通過させる縦方向のスロット84を側壁に有するものである前部本体と、前部本体に収容された状態の該2室式プレフィルドシリンジをシリンジの端側から所定の深さまで挿入することができ前部本体の少なくとも後部を覆ってこれを固定するように構成された概略筒状の胴部を有する後部本体90とを含んでなり、前部本体又は後部本体に指掛用の鍔部92が形成されているものであるホルダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレフィルドシリンジ用ホルダーに関し、より詳しくは、薬剤を前後2つの区画に分離して収容した2室式プレフィルドシリンジを装填して、それらの薬剤の混合による注射液の調製及びそれに続く注射を行うためのホルダー及び該ホルダーに2室式プレフィルドシリンジを装填した注射器に関する。
【背景技術】
【0002】
成長ホルモン等の注射用ペプチド製剤では、安定性を保持するために、凍結乾燥等による乾燥薬剤成分と、これを溶解又は懸濁させて注射液とするための液状の薬剤成分(緩衝剤等の溶解液)とからなる、2剤形の形態で製剤が提供されている。また患者における扱いを簡便かつ確実にするために、例えばヒト成長ホルモン製剤の場合、1本のシリンジ(注射筒)内にそれらの成分を区分して別々に収容した2室式プレフィルドシリンジ(多室シリンダーアンプルともいう)が広く用いられている。
【0003】
2室式プレフィルドシリンジは、例えば図1(図面左方向を上方とする)に側方断面図で示すように、内部がガスケットである2つの可動壁(前側可動壁2、後側可動壁3)で液密に仕切られて、前側スペース4と後側スペース5とが形成されている。前側スペース4の僅かに前方において2室シリンジの内壁には、前側可動壁2の厚みを跨ぐ長さの(すなわち、前側可動壁2の厚みより幾分長い)、前後方向の1本の細長いバイパス溝が、外周面の突条6の内側を通して設けられており、それにより、前側可動壁2の全体がバイパス溝の範囲内にあるときにはバイパス溝を通って前側可動壁の前後のスペースを連通する流路が形成されるようになっている。前側スペース4には、凍結乾燥粉末等の乾燥薬剤10が封入されており、これを溶解させるための溶解液11が後側スペース5に封入されている。2室シリンジ1の前端には、目的及び用途に応じて、例えば、図1に示すように両頭針15が隔壁を刺入した状態で固定され、これに保護キャップ16が被せられ、或いは、図2に示すように、シリンジ21の先端のオスルアー22にキャップ23が被せられている。
【0004】
2室式シリンジ内での乾燥薬剤10と溶解液11との混合及び注射は次のように行われる。すなわち、シリンジ先端側を上にして注射針が取り付けられた状態で、後側可動壁3が押し込まれ、これにつれて前側可動壁2も押し込まれる。前側可動壁2の後縁からバイパス溝の後部が露出したときバイパス6を通る流路が前側スペース4と後側スペース5の間に形成され、これを通って後側スペース5内の溶解液11が前側スペース4内へと送られ始め、前側可動壁はその位置に止まる。後側可動壁3が前側可動壁2に当接することにより、後側スペース5中の溶解液11は全て前側スペース4内に移され、そこで薬剤10と混合してこれを溶解させ、注射液を構成する。その後は、後側可動壁3と前側可動壁2とが一体で押されるため、通常の1室式のシリンジと同様に操作される。
【0005】
製造工程において、2室式プレフィルドシリンジ内の乾燥粉末は、薬剤成分の溶液を当該シリンジ内で凍結乾燥することにより調製される。この凍結乾燥はバッチ式で行われるが、シリンジの径が小さい程一度に処理できるシリンジ本数が増えるため、製造効率を高めることを優先する場合、シリンジは注射の際に指をかけるための鍔を省略して円筒形状に作製される。その結果、注射に際してはシリンジを保持して操作するための、指掛け用の鍔つきのホルダーが必要となる。シリンジにはバイパス溝の設けられた位置に対応して外周面に突条が形成されているが、ホルダーの胴部は従来、この突条を前後に通過させるための縦溝を有し、シリンジの全周を被う筒状の前部本体の後部に、筒状の後部本体の前部を被せる形に作られている。従って、ホルダーの胴部の全体としての外径は、突条の先端を被う前部本体を更に後部本体で覆うことになるため、両者の肉厚が加わりってシリンジの胴部外径に比してかなり大きなものとなる。しかしながら注射の際には、ホルダーの胴部外径が余り大きいと操作性に劣り、この点改善の余地があった。また、前部本体に挿入しただけのシリンジは前部本体に固定されていないため、不用意に前部本体の先端側を高くするとシリンジが滑り落ちるという問題もあった。
【0006】
また、成長ホルモンのようなペプチドホルモン製剤の場合、長期間にわたる日常的な少量ずつの反復投与が必要である。この投与は、患者自身又はその家族(以下、あわせて「患者等」という。)によって自宅でなされ、患者等は、溶解前の薬剤を収容した数本の2室式プレフィルドシリンジ及びこれを装填するためのホルダー(例えば、特許文献1参照)を受け取って、自らシリンジ内の薬剤の混合・溶解の操作を行う。
【0007】
2室式プレフィルドシリンジを用いた患者等の自宅での薬剤混合操作において、後側可動壁を無理やり急激に押し込むと、前後の可動壁2、3の連携が十分に行われず溶解液の後方への液漏れが起こる場合のあることが、本発明者によって見出されている。同様の問題は、緊急時に使用される種々の注射剤について2室式プレフィルドシリンジを使用した場合にも、一刻を争うという状況のため、起こり得る。
【0008】
このような後方への液漏れは、狭い流路を形成するバイパスを通じた溶解液の前方への送りが間に合わず、前側可動壁2と後側可動壁3との間に溶解液を残したまま前側可動壁2がバイパス溝よりも前方へ押し出されてしまうことにより起こる。すなわち、状態でピストンロッドが更に押し込まれたとき、後側可動壁3及び前側可動壁2は、それらの間に溶解液を閉じ込めたまま前進し、後側可動壁3がバイパスの長さの範囲に入ったときに、溶解液がバイパスを通って後方へ漏れ出すものである。
【0009】
上記のような液漏れが発生している場合には、薬剤が適正に混合できておらず、射出可能な液量も薬剤成分の濃度も共に、所定の規格とは異なっており、2室式プレフィルドシリンジはもはや注射に適さない。ホルダーとの取り扱いに患者等が慣れてくると、ホルダーのこのような大雑把な取り扱いが却って起こり易くなり、使用上の注意喚起のみによってこのようなトラブルを根絶することは困難であった。
【0010】
従って、ホルダーは、2室式プレフィルドシリンジ内の薬剤の混合がホルダー自体の機能により適切に行われることを保証するものであることが望ましい。またそのようなホルダーは、製造コストを、従って医療コストを抑制できるよう、構造を複雑にせずに目的を達成できるものであるのが一層望ましい。
【0011】
更には、2室式プレフィルドシリンジは、緊急時における組立及び溶解の手間を簡略化して即時対応を容易にするために、予めホルダーにシリンジを薬剤の溶解前の状態のままで組み込んで準備しておくことができ、使用する時にはホルダー自身の機能により直ちに薬剤の混合が適切に行われることを保証するものであることが好ましい。
【0012】
一方、2室式プレフィルドシリンジ内での薬剤の溶解に、ネジ機構を用いてピストンロッドを押し込むものが知られている(特許文献2参照)。しかしながら、薬剤溶解時のピストンロッドの押し込みを手でネジを回して行うようにするのは、取り扱いが複雑であり、溶解操作に要する時間も長くなるため極めて不便であり、緊急時や、様々な患者の存在(自家注射の場合)を想定すると、好ましくない。
【0013】
また、2部分カプセル内の成分の混合及び注射をばねで行う注射装置が報告されている(特許文献3参照)。この注射装置は、装填した2部分カプセル後端に位置するプランジャーを装置内のばねで前方へ移動させて成分を混合し、次いで引き金を引きカプセルの固定を開放してばねにより前方に付勢し、それによりカプセルの前端部に位置する薄膜に両頭針を貫通させるとともに針を装置から突出させて注射液を噴出させるものである。しかしながらこの装置では、カプセル内の成分の混合の後にエア抜きの操作を行うことができない。従って、このような装置は実際には使用不能である。
【0014】
2室式プレフィルドシリンジの後側可動壁を漸進させるばねを備えた注射器が知られている(特許文献4参照)。これによれば、シリンジを保持した本体の前半部分を後半部分に奥まで押し込んだとき、ロックが解除されて筒状のプランジャーが後方からばねで押し出され、それによる後側可動壁の前進により薬剤が混合される。混合後はインジェクターロッドを押し込むことで注射することができる。この装置によれば2室式プレフィルドシリンジ内の薬剤の混合が急激に行われるおそれは防止できるもものの、装置が複雑で部品点数が多く、しかも胴部の外径がシリンジに比して非常に大きくなり、操作性が極めて悪いという問題がある。
【特許文献1】特開平11−267205号公報
【特許文献2】特公平6−61361号公報
【特許文献3】特表平2000−512523号公報
【特許文献4】米国特許第6793646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記背景において、本発明の一目的は、円筒状の2室式プレフィルドシリンジのためのホルダーであって、シリンジに比したその胴部の外径の増大を抑制でき且つシリンジを安定に保持できる簡便な構造のホルダー及び該ホルダーにシリンジを装填してなる注射器を提供することである。
本発明の更なる一目的は、2室式プレフィルドシリンジのための上記ホルダーであって、更にホルダー自身の機能によって薬剤の混合を適正に行わせることができるものであるホルダー及び該ホルダーにシリンジを装填してなる注射器を提供することである。
本発明の尚も更なる一目的は、自身の機能によって薬剤の混合を適正に行わせることができる上記ホルダーであって、且つ予めホルダーに2室式プレフィルドシリンジを薬剤の溶解前の状態のままで組み込んで準備しておくことができ、簡単な操作でホルダー自身に自動的に薬剤の混合を行わせることのできる簡便な構造ホルダー及び該ホルダーにシリンジを装てんしてなる注射器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的のために検討の結果、本発明者は、ホルダーの前部本体の側壁にスロットを設け、2室式プレフィルドシリンジのバイパス溝の部分に対応した外周面の突条をこれに通すようにすることにより、ホルダー全体の外径の増大を抑制することができること、及び装填されたシリンジの突条の後端に接する位置においてスロットの対向する縁にスロット幅を僅かに狭める突起を設けておけば、シリンジの挿入時に突条がスロット幅を僅かに押し広げながら突起を通過させることができ、通過後は元に戻るため、注射器の組み立てる際におけるシリンジの後方への抜け落ちを確実に防止できることも見出した。更に、前方へばね付勢されるピストンロッドをホルダーの後部本体に備えておくことにより、ホルダーの前部本体に保持されたシリンジにホルダーの後部本体を被せたときに、圧縮されるばねの反発力によりシリンジの後側可動壁が前方へ押されることで、常に所定範囲の力で所定距離だけ後側可動壁を押し込むことができることを見出した。また、ばねを圧縮した状態で保持しておくことができ且つ使用者が簡単に解除できるストッパー手段を後部本体とピストンロッドとの間に形成しておけば、ばねを圧縮した状態のままでシリンジをホルダーに装填しておくことができ、緊急時の即時対応に便利となることをも見出した。すなわち、本発明は、以下を提供するものである。
【0017】
1.前端及び筒状の側壁を有し、該側壁内に液密にスライド可能にはめ込まれた前側可動壁及び後側可動壁と、該前端と該前側可動壁との間において該側壁の内面に該前側可動壁の厚みを跨ぐ前後長のバイパス溝を備え、該バイパス溝の位置に対応して外周面に突条が形成されている2室式プレフィルドシリンジの、該前端と該前側可動壁との間に規定される前側スペース内に第1の薬剤成分を収容し、該前側可動壁と該後側可動壁との間に規定される後側スペース内に液状の第2の薬剤成分を収容したものを装填して、該2室式プレフィルドシリンジ内において第1の薬剤成分及び第2の薬剤成分の混合及び得られた注射液の注射を行うためのホルダーであって、
該2室式プレフィルドシリンジを少なくとも該突条の後端まで挿入して収容することのできる概略筒状の前部本体であって、挿入に際して該突条を通過させる縦方向のスロットを側壁に有するものである前部本体と、
該前部本体に収容された状態の該2室式プレフィルドシリンジを該2室式プレフィルドシリンジの後端側から所定の深さまで挿入することができ該前部本体の少なくとも後部を覆ってこれを固定するように構成された概略筒状の胴部を有する後部本体と、
を含んでなり、該前部本体又は該後部本体に指掛用の鍔部が形成されているものであるホルダー。
2.該固定が、該前部本体と該後部本体との間の嵌合又は螺合によるものである、上記1のホルダー。
3.収容された該2室式プレフィルドシリンジの該突条の後端部に接するように該スロットの縁に該スロットの中心線へ向けて突起が設けられており、該突起が、該突条がスロットを通過するとき該突条に押されてスロット幅を僅かに押し広げることにより該突条を通過させることのできるものである、上記1又は2のホルダー。
4.該後部本体にピストンロッドが前後にスライド可能に挿入されており、第1のばねが、自然長から圧縮されたとき該ピストンロッドを前方へ付勢するよう、該ピストンロッドの先端と該後部本体の後端との間の領域に設けられており、該第1のばねが、該後部本体に挿入された該2室式プレフィルドシリンジの後側可動壁を、該後側スペース内の第2の薬剤成分が該バイパス溝を通って該前側スペースへと流入するまでピストンロッドを介して押し込むことができるものである、上記1ないし3の何れかのホルダー。
5.該第1のばねの先端が該ピストンロッドの先端部をその背後から押すものである上記4のホルダー。
6.該第1のばねが、該ピストンロッドを介して該後側可動壁を該前側可動壁に当接するまで押すものである、上記4又は5のホルダー。
7.該第1のばねが、該ピストンロッドを中に通して配置されたつる巻きばねである、上記4ないし6の何れかのホルダー。
8.該第1のばねの付勢力に抗して該ピストンロッドを解除可能に該後部本体の定位置に固定しておくストッパー手段を更に含むものである、上記4ないし7の何れかのホルダー。
9.第2のばねが、自然長より圧縮されたときピストンロッドを後方へと付勢するよう、該後部本体から後方へ突出した該ピストンロッドの後端と該後部本体との間の領域に設けられており、該第1のばねと該第2のばねとが、その前後方向への付勢力の均衡によりピストンロッドを定位置に保持できるものである、上記4ないし6の何れかのホルダー。
10.該第2のばねが、該ピストンロッドを中に通して配置されたつる巻きばねである、上記9のホルダー。
11.上記1ないし10の何れかのホルダーとこれに装填された2室式プレフィルドシリンジとを含んでなる、注射器。
【発明の効果】
【0018】
上記構成になる本発明は、装填される2室式プレフィルドシリンジに比してホルダーの胴部により外径が増大するのを抑制して、操作性のよい簡便なホルダー及び注射器を提供することができる。また、第1のばねを有するものは、更に、シリンジ内の薬剤を混合・溶解に際し急激にピストンが押されるのを防止して注射液の適正な調製を保証することができる。また、ピストンロッドのためのストッパー手段を更に含むものは、予めホルダーにシリンジを薬剤の溶解前の状態のままで組み込んで準備しておき必要時にストッパーを解除するだけで直ちに薬剤を混合でき、速やかに注射を行うことができるため、緊急時における即時対応を容易にすることができる。また、第1のばねに加えて第2のばねを有するものは、組立て前のホルダーのピストンが(ストッパー手段を備えるものではそれが解除されていても)、それら2つのばねにより所定位置に保持されるため、操作する者にとって扱い易いばかりでなく、圧縮された第1のばねがピストンロッドを前方へ押し込みつつ自然長に戻る直前に第2のばねの後方への付勢力が作用し始めるようにすることができることから、ホルダーによるシリンジ内の薬剤の自動的な混合・溶解に際して、押し込むべきピストンロッドの深さの調節が極めて容易となるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のホルダーに装填して注射に用いられる縦方向のバイパス溝に対応する突条を外周面に有する2室式プレフィルドシリンジは周知のものであり、複数の製品が販売されているから、それらのうち、混合し調製すべき注射液の量に応じた適当なサイズ及びタイプのものを選択して使用し、ホルダーの各寸法は、それらに適合するように設定すればよい。
【0020】
本発明においてホルダーの前部本体の形態は、2室式プレフィルドシリンジのバイパス溝に対応して外周に形成されている突条を側壁に形成されたスロット内に収容した状態で、シリンジを被って保持できるものである限り、特に制限はない。その肉厚はシリンジの外周面からの突条の高さに実質的に等しくしておくことが特に好ましい。スロットから突条が実質的に突出していない限りホルダーの後部本体を被せる上で支障がなく、前部本体に余分な肉厚がない方がホルダー全体としての胴部の外径を小さくできるからである。また注射時に指を掛けるための鍔部は、前部本体に形成されていてもよく、後部本体に形成されていてもよい。鍔部は、これに指を掛けて注射器を操作するのに便利なものである限りその形状に限定はなく、例えば、ホルダーの胴部を巡って円形又は楕円形その他の長円形に突出した板状部であってよく、また胴部の左右に突出した棒状の部分であってもよい。
【0021】
前部本体が有するスロットは、装填される2室式プレフィルドシリンジのバイパス溝の部位にある外周面の突条を収容できるものであればよいが、、シリンジが前部本体内で回転できないよう、突条の両側に接してこれを挟むことができる幅のものとするのが更に好ましい。必須ではないが、前部本体にシリンジが収容されたとき、シリンジが前部本体から自然に脱落することがないよう、突条の後端部に接するようにスロットの縁にスロットの中心線へ向けて突起を設けておくことが好ましい。スロットの中心線方向へ向かうこの突起の高さは、突起を乗り越えてシリンジが挿入されるときスロットの幅が僅かに押し広げられるようなものとしておくのが好ましい。それにより、前部本体にシリンジが無理なく挿入できる一方、自然に脱落することも防ぐことができるからである。そのような突起の形状は任意であるが、例えば、シリンジの挿入の容易さを増すために突起の後端側を傾斜面とする一方、シリンジの偶発的な脱落は確実に阻止するために突起の前端側は傾斜面とせず垂直に立ち上がるものとしてもよい。
【0022】
ホルダーの後部本体の形態は、前部本体に収容された状態の2室式プレフィルドシリンジをその後端側から所定の深さまで挿入し、前部本体の少なくとも後部を覆って後部本体に固定でき、後部にピストンロッドが前後にスライド可能に取り付けられるものであれば、その具体的形態は特に限定されない。後部本体がピストンロッドを付勢するためのばねを備えない場合には、ピストンロッドはホルダーとは別体であってよく、ばねを備える場合には、ピストンロッドはホルダーの一部としてこれに組み込まれた状態で備えられる。注射時に指を掛けるための上記した鍔部を、前部本体に設ける代わりに後部本体に設けてもよい。
【0023】
前部本体と後部本体とを固定するための手段は、偶発的に外れることのない確実な固定ができる限り任意であり、両者の具体的構造に適しするよう、周知の固定手段から適宜選んで採用すればよい。例えばそのような手段として、前部本体の後部と後部本体の前部とが相互にかみ合うようにそれぞれの対応する位置に設けられた、突起と窪み若しくは段差面との組み合わせによる嵌着や、両者の螺着が挙げられる。これらのうち螺着によるのが、操作が簡単であり固定の確実性も高いため、特に好ましい。
【0024】
後側可動壁を後方から押して前進させるための、後部本体に前後に可動に配置されたピストンロッドは、後部本体の後方から前方へと押すことのできるものである限り、その具体的形態は適宜であってよい。ピストンロッドは、ホルダーの後部本体と別体の場合、2室式プレフィルドシリンダの後部可動壁が通常有するねじ穴に螺着できるように、先端に対応する雄ねじを形成した短いボルトを設けておけばよい。
【0025】
ピストンロッドに関して設けられた第1のばねは、好ましくは、後部本体内においてピストンロッドの周りに備えられたつる巻きばねである。この場合、つる巻きばねの後端は、例えば、ピストンロッドの周囲において後部本体の内面の適宜な部位で支持されるようにしておけばよい。また、ピストンロッドには、一部(例えば頭部付近)に、つる巻きばねの先端の内径よりも突出した突起を設けておくか、又は、ピストンロッドの頭部をつる巻きばねの内径より大径としておくことによって、つる巻きばねとピストンロッドとの間でのピストンを前進させる方向への力の伝達を行わせることができる。
【0026】
第1のばねの強さ及び長さは、前部本体に装填された2室式プレフィルドシリンジの後側可動壁を、前方へと、前側可動壁に当接させるか又は少なくとも溶解液の大半(例えば75%以上)をバイパス溝を通って前側スペースへ流入させることとなるまでピストンロッドを押すことができるように設定しておけばよい。差し込まれる2室式プレフィルドシリンジにおいて、後側可動壁が前側可動壁に当接することとなる位置又は収容される溶解液の大半を前側スペースに流入させることとなる位置、及び当該に後側可動壁を到達させるに必要な力の強さから、第1のばねの適切な長さ及び適切な強さは当業者に極めて容易に算出できる。また、バイパス溝によって前側スペースと後側スペースが連通した状態では、ばねは後側可動壁のみを2室シリンジ内面との摩擦力に抗して前進させればよいが、後側可動壁が前側可動壁に当接した後は、後側可動壁の前進には各可動壁と2室シリンジ内面との摩擦力の合力がばねの復元力に対抗する。従って、その位置で両可動壁を前進させない程度の強さにばねを設定しておけば、第1のばねによって溶解液の全てを前側スペースに送り込んだ段階で後側可動壁の前進を止めることができる。また第1のばねをそのような強さより僅かに弱くしておけば、後側可動壁が前側可動壁に当接はしないが大半の溶解液を前側スペースに送り込んだ段階で後側可動壁の前進を止めることができる。続く操作はシリンジ先端部からのエア抜きを含むが、この操作では注射液の無駄な噴出を避けるため如何なる場合も手加減して緩やかにピストンが押されることから、後側可動壁が前側可動壁にまだ密着しておらず狭まった後側スペース内に溶解液の一部が残っていても、バイパスを通って前側スペース内へ静かに送られるため、混合ミスが起こる心配はない。
【0027】
ホルダーの後側本体が第1のばねを有する場合には、これに加えて第2のばねを設けておくことができる。設ける場合、第2のばねは、ピストンロッドが後側可動壁を第1のばねによって押し込もうとする目標位置に達したあと、当該位置を超えて前方へとピストンが押されたとき、ピストンロッドを当該位置に戻すよう後方へ付勢するものであり、それ以上にピストンを後退させるように後方へ付勢するものではない。従って第2のばねは、ピストンロッドが上記位置に達したときに初めて圧縮され始めるよう、且つ、それ以前には圧縮も引張もされない自由長であるような長さ及び取り付け方法で、後部本体に設けておけばよい。このように第2のばねを設けておけば、第1のばねと協力して組立て前のホルダーのピストンが所定位置に保持されるほか、第1のばねがピストンロッドを前方へ押しつつ自然長に復帰しつつあるときに第2のばねの後方への付勢力が作用し始めるようにすることができることから、第2のばねをブレーキとして作用させることができ、2つのばねの作用によって後側可動壁を到達させるべき位置の調節が極めて容易となる。該2のばねとピストンロッドとが力を及ぼし合うためには、例えば、第2のばねの後端がピストンロッドの適宜の部位に当接するよう、その部位から後方のピストンロッドの外周を第2のばねの内径より大きくしておくか、又はその部位に第2のばねの内径よりも大きな外径の環状突起若しくはそのような高さまで突出した複数の突起を設けておけばよい。第2のばねの前端は、後部本体の適宜の部位で支持すればよく、例えば、後部本体の後部の、ピストンロッドが貫通する穴の周囲であってよい。
【0028】
該第1のばねの付勢力に抗して該ピストンロッドを解除可能に該後部本体の定位置に固定しておくストッパー手段は、ホルダーが第1のばねのみを有する場合にも、第2のばねを合わせて有する場合にも、共に設けることができる。ストッパー手段は、ピストンロッドの前進を阻止して第1のばね圧縮状態に止めておき、その間ホルダー内の2室式プレフィルドシリンジ内で薬剤が混合されるのを防止するためのものであるから、この目的に適う限り、適宜の構成であってよい。例えば、ピストンの先端付近に雄ねじを形成すると共に、これに対応する雌ねじをホルダーの後部本体のピストン貫通穴に形成しておき、ピストンの後退位置で両者を螺合させるようにしてもよく、また、ピストンロッドの断面を非円形とし、後部本体のピストン貫通穴をこの形状に従ったものとすると共に、ピストンロッドの後退位置においてピストン貫通穴内に位置するピストンロッドの断面をピストン貫通穴内でのピストンロッドの回転を許す形状(例えば小径の円)に形成しておき、その位置でピストンロッドを回転(例えば1/4回転)して貫通穴の非円形の断面形状とこれより後方のピストンロッドの断面形状とに干渉を起こさせることによってもよい。また、後部本体とピストンロッドとを横方向に貫く抜去可能なピンであってもよい。
【0029】
ホルダーに装填される2室プレフィルドシリンジには、両頭針が取り付けられるものとルアー先のものとが存在するから、ホルダーの前部本体の先端部の形状は、これに合わせてそれぞれのシリンジ形態を前方に脱落不能に固定できるように適宜設計すればよい。通常は、例えば、ホルダーの前部本体の先端付近の内周面がシリンジの先端側の外周縁に噛み合うようにしておけばよい。また、ルアー先のシリンジの場合には、ホルダーの前部本体の先端部には、メスルアーの周囲をねじ止めする方式(ルアーロック方式)に対応できるよう、雌ねじを形成した筒状部を設けておいてもよい。
【実施例】
【0030】
以下、典型的な実施例を参照して本発明を更に具体的に説明するが、本発明が実施例に限定されることは意図しない。
【0031】
〔実施例1〕
図3は実施例1のホルダーの透明な樹脂により成形された概略円筒状の前部本体31とこれに装填されるルアー先の2室式プレフィルドシリンジ21を示す側面図であり、図において、左方が上方を示す(他の側面図において同じ)。前部本体31において、34は側壁に設けられたスロットであり、シリンジ21を前部本体31に挿入するときにシリンジ21の突条6を受け入れる。前部本体31の胴部の肉厚は、スロット34内に入った突条6の先端と前部本体31の胴部の外周面とが等しい高さになるように設定されている。スロット34の幅は、シリンジ21を前部本体31内に挿入したときシリンジ21の突条6が丁度スロット34の両側の縁に挟まれて回動不能になるように設定されている。スロット34には内側へ向かう1対の突起36、37が形成されている。シリンジ21を前部本体31の奥まで挿入するとき、突起36、37の位置で突条6によってスロット34の幅が僅かに押し広げられるため、突条6は突起36、37の間を通過することができるが、シリンジ21が偶発的に脱落することは防止される。前部本体31の先端部には、ルアーロック方式に対応できる雌ねじつきの筒状部39が形成されている。
【0032】
図4は、シリンジ21を完全に収納した前部本体31と、これに後方から螺着される後部本体40とを示す側面図である。図より明らかなように、スロット34の突起36、37は、前部本体31内に装填されたシリンジ21の突条6の後端に接しており、これによりシリンジ21が前部本体31から偶発的に抜け落ちるのを阻止している。後部本体40は、後述のピストンロッドを通すための穴を後端に有し、外周面には、長円形の板状に張り出した突出部よりなる指掛用の鍔部42が形成されている。
【0033】
図5は、シリンジ21を前部本体31内に収容してその後部に後部本体40を螺着した状態のホルダーと、雄ねじ44が形成された短いボルトを先端に備えたピストンロッド45とを示す側面図である。雄ねじ44は、後部本体40の後端の穴を通してシリンジ21の後側可動壁3のねじ穴(図示せず)に螺着される。
【0034】
図6は、シリンジ21をホルダーに装填し、後側可動壁3にピストンロッド45の雄ねじ44を螺着した状態の、一部を断面とした注射器の側面図であり、シリンジ21及びホルダーは、図5に示した位置から軸回りに90°回転させてある。図に見られるように、シリンジ21の突条6の先端は、前部本体31の外周面とフラットになっている。
【0035】
図6に示した状態からピストンロッド45を押し込んで後側可動壁3、溶解液11及び前側可動壁2を前進させ、前側可動壁2が突条6の内側のバイパス溝の範囲内に入った後、後側可動壁3を前側可動壁2に当接するまで押し込んで溶解液11の全量をバイパス溝を通して前側スペース4内へ送り込み、乾燥薬剤10を溶解して注射液を調製することにより、図7に示した状態となり、その後は注射針を取り付け、1室式シリンジでの通常の注射と同様にエア抜きの後、患者に針を刺入し図8の状態となるまでピストンロッド45を押し込むことにより、注射を完了することができる。
【0036】
〔実施例2〕
図9は、実施例2のホルダーの概略円筒状の前部本体51とこれに装填されるルアー先の2室式プレフィルドシリンジ21とを示す側面図である。前部本体51において、54は側壁に設けられたスロットであり、シリンジ21を前部本体51に挿入するときにシリンジ21の突条6を受け入れる。前部本体51の胴部の肉厚は、スロット54内に入った突条6の先端と前部本体51の胴部の外周面とが等しい高さとなるように設定されている。スロット54の幅は、シリンジ21を前部本体51に挿入したときシリンジ21の突条6が丁度スロット54の両側の縁に挟まれて回動不能になるように設定されている。スロット54には、実施例1と同様に機能する1対の突起56、57が設けられている。
【0037】
図10は、シリンジ21を装填した前部本体51と、これに後方から螺着される後部本体60とを示す側面図である。図より明らかなように、スロット54の突起56、57も、実施例1の対応する突起と同様に、前部本体51内に奥まで挿入されたシリンジ21の突条6の後端に接しており、これにより組立ての際にシリンジ21が前部本体51から偶発的に抜け落ちるのが防止される。特に本実施例では、スロット54の長手方向に対して突起56、57の後側は斜めに、前側は垂直にそれぞれ立ち上がっており、シリンジ21の挿入に比して抜き取りに一層大きな抵抗を示すように構成されている。後部本体60にはその後端にある穴70にピストンロッド64が通されており、外周面には、長円形の板状に張り出した突出部よりなる指掛用の鍔部62が形成されている。
【0038】
図11は、シリンジ21を装填した前部本体51を後部本体60内へ挿入し始めた状態を示す、一部を断面とした側面図である。図に見られるように、ピストンロッド64は後退した位置にある。ピストンロッド64の先端寄りの部分の周囲には、つる巻きばね66が圧縮された状態で備えられ、ピストンロッド64を前方へ付勢しているが、ピストンロッド64は、次に述べるようにして当該位置に固定されている。ピストンロッド64の先端には雄ねじ68を有する短いボルトが前方へ突出している。
【0039】
図12は、ピストンロッド64を通している後部本体60の後端を後部本体60の内側から見たときの内壁面及び穴70の形状並びに穴70より後方にすなわち後部本体60の外部に位置するピストンロッド64の部分の断面形状を示す図である。図において(a)はピストンロッド64が固定されているときの状態を、(b)はピストンロッド64を解放した状態を示す。図(b)に見られるようにピストンロッド64は、穴70の後方において、大径部分64L及び小径部分64Sより構成されており、この断面形状に沿いこれを収容できるように、穴70は大径部分70L及び小径部分70Sをそれぞれ有している。従って、図(b)の状態ではピストンロッド64は穴70を通って自由に前進することができるが、ピストンロッド64を予め90°回転させておくことにより、図(a)に示すように、ピストンロッド64の大径部分64Lが穴70の小径部分70Sの背面に載るため、ピストンロッド64の前進が阻止され、図11に示した状態のように、つる巻きばね66による前方への付勢力を受けたまま、後退位置に留まることができる。穴70を横断しているピストンロッド64部分は、小径部分64Sと同径の円形断面を有する。
【0040】
図13は、前部本体51を後部本体60に挿入して両者を互いに対して回し螺合した状態を示す、一部を断面図とした側面図である。図において、前部本体51及びシリンジ21は、図11に示した状態から軸回りに90°回転させてある。図13の状態では、シリンジ21は後部本体69の最も奥まで達しており、ピストンロッド64の先端に備えられた雄ねじ68を有するボルトは、シリンジ21の後側可動壁2に設けられた対応するねじ穴に螺合している。この状態でも図11に示した状態と同様、ピストンロッドは後退位置に固定されており、従ってシリンジ21内の薬剤は、混合前の状態で維持されている。
【0041】
図14は、図13に示した状態から、キャップ23を除去し、ピストンロッドを90°回転させて図12(b)の状態にすることによって固定を解除し、つる巻きばね66の力によりピストンロッド64を前進させた後の状態を示す、一部を断面図とした側面図である。図に見られるとおり、つる巻きばね66がピストンロッド64を前方へ押してシリンジ21の後側可動壁3を前進させ、これにより前側可動壁2を(溶解液を介して)押して前進させて突条6の内側のバイパス溝の長さの範囲内に入らせ、これにより連通したバイパス溝を通して溶解液11を前側スペース4内に送り込んで薬剤を混合することによって注射液が調製されている。従って、その後は注射針(図示せず)を取り付け、1室式シリンジでの通常の注射と同様に図15に示したようにエア抜きした、患者に針を刺入しピストンロッド64を押し込むことにより、注射を完了することができる。
【0042】
〔実施例3〕
図16は、ルアー先の2室式プレフィルドシリンジ21を装填した実施例3のホルダーの前部本体81と、これに後方から螺着される後部本体90とを示す側面図である。概略円筒状の前部本体81において、84は側壁に設けられたスロットであり、これはシリンジ21を前部本体81に挿入するときにシリンジ21の突条6を受け入れる。前部本体81の胴部の肉厚は、スロット84内に入った突条6の先端と前部本体81の胴部の外周面とが等しい高さとなるように設定されている。スロット84の幅は、シリンジ21を前部本体81に装填したときシリンジ21の突条6が丁度スロット84の両側の縁に挟まれて回動不能になるように設定されている。スロット84には、実施例1と同様に機能する1対の突起86、87が設けられている。後部本体90に通されたピストンロッド94には、後部本体90の後方において、つる巻きばね95が取り付けられている。
【0043】
図17は、シリンジ21を装填した前部本体81を後部本体90内へ挿入し始めた状態を示す、一部を断面とした側面図である。図に見られるように、ピストンロッド94には、更に別のつる巻きばね96が後部本体90の内部に取り付けられており、つる巻きばね95及び96は、ピストンロッド94を後部本体90に対して、それぞれ後方及び前方へ付勢することができ、図に示した状態においてそれぞれ実質的に自然長にり、両者の均衡によりピストンロッド94は図に示した定位置に保持されている。
【0044】
図18は、シリンジ21を装填した前部本体81を後部本体90内へ途中まで挿入した状態を概念的に示す、一部を断面図とした側面図である。図において、前部本体81及びシリンジ21は、図17に示した状態から軸回りに90°回転させてある。図に見られるように、挿入されるシリンジの後側可動壁3によりピストンロッド94が押され、つる巻きばね96が圧縮されて、それによりピストンロッド94が前方へと付勢され、その結果、後側可動壁3が前方へ押し込まれる。前部本体81が後部本体90完全に挿入され螺着されたとき、図19に示されるように、溶解液は前側スペース内に送り込まれておりそこで乾燥薬剤10と混合して注射液が調製された状態となる。従って、その後は注射針を取り付け、1室式シリンジでの通常の注射と同様にエア抜きした後、患者に針を刺入しピストンロッド94を押し込むことにより、注射を完了することができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、2室式プレフィルドシリンジを用いた注射において、注射器を構成するホルダーの胴周りの外径の増大を抑制して操作性の改善された注射器を提供することができる。またばねを備えることによって、2室式プレフィルドシリンジをホルダーに装填してシリンジ内での薬剤の混合による注射液の調製を自動的に行わせることができるため、常に適正に注射液が調製されることを保障すると共に、更にストッパー手段を供えることにより、緊急時における迅速な注射を容易にする注射器も提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】2室式プレフィルドシリンジの一例の側面図
【図2】2室式プレフィルドシリンジの別の一例の側面図
【図3】実施例1のホルダーの前部本体とこれに装填される2室式プレフィルドシリンジと示す側面図
【図4】2室式プレフィルドシリンジを装填した前部本体と、これに後方から螺着される後部本体とを示す側面図
【図5】2室式プレフィルドシリンジを前部本体内に装填して後部本体を螺着した状態の実施例1のホルダーと、ピストンロッドとを示す側面図
【図6】2室式プレフィルドシリンジをホルダーに装填し、後側可動壁にピストンロッドを螺着した状態の、一部を断面とした注射器の側面図
【図7】乾燥薬剤を溶解して注射液を調製した状態を示す、一部を断面図とした注射器の側面図
【図8】注射を完了した状態を示す、一部を断面図とした注射器の側面図
【図9】実施例2のホルダーとこれに装填される2室式プレフィルドシリンジとを示す側面図
【図10】2室式プレフィルドシリンジを装填した前部本体と、これに後方から羅着される後部本体とを示す側面図
【図11】2室式プレフィルドシリンジを装填した前部本体を後部本体内へ挿入し始めた状態を示す一部を断面とした側面図
【図12】内側から見たときの後部本体の後端内壁面及び穴形状及び後方に位置するピストンロッド部分の断面形状を示す図
【図13】前部本体を後部本体に挿入して両者を螺合した状態を示す、一部を断面図とした側面図
【図14】ピストンロッドの固定を解除し、つる巻きばねの力によりピストンロッドを前進させた後の状態を示す、一部を断面図とした側面図
【図15】エア抜きした状態を示す注射器の一部を断面図とした側面図
【図16】2室式プレフィルドシリンジを装填した実施例3のホルダーの前部本体と、これに後方から螺着される後部本体とを示す側面図
【図17】2室式プレフィルドシリンジを装填した前部本体を後部本体内へ挿入し始めた状態を示す、一部を断面とした側面図
【図18】2室式プレフィルドシリンジを装填した前部本体を後部本体内へ途中まで挿入した状態を概念的に示す、一部を断面図とした側面図
【図19】注射液の調製が完了した状態の実施例3の注射器の、一部を断面図とした側面図
【符号の説明】
【0047】
1=2室式プレフィルドシリンジ、2=前側可動壁、3=後側可動壁、4=前側スペース、5=後側スペース、6=突条、10=乾燥薬剤、11=溶解液、15=両頭針、16=保護キャップ、22=オスルアー、23=キャップ、31=前部本体、34=スロット、36、37=突起、39=筒状部、42=鍔部、44=雄ねじ、45=ピストンロッド、51=前部本体、54=スロット、56、57=突起、60=後部本体、62=鍔部、64=ピストンロッド、64L=大径部分、64S=小径部分、66=つる巻きばね、68=雄ねじ、70=穴、70L=大径部分、70S=小径部分、81=前部本体、90=後部本体、84=スロット、86、87=突起、90=後部本体、94=ピストンロッド、95、96=つる巻きばね
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレフィルドシリンジ用ホルダーに関し、より詳しくは、薬剤を前後2つの区画に分離して収容した2室式プレフィルドシリンジを装填して、それらの薬剤の混合による注射液の調製及びそれに続く注射を行うためのホルダー及び該ホルダーに2室式プレフィルドシリンジを装填した注射器に関する。
【背景技術】
【0002】
成長ホルモン等の注射用ペプチド製剤では、安定性を保持するために、凍結乾燥等による乾燥薬剤成分と、これを溶解又は懸濁させて注射液とするための液状の薬剤成分(緩衝剤等の溶解液)とからなる、2剤形の形態で製剤が提供されている。また患者における扱いを簡便かつ確実にするために、例えばヒト成長ホルモン製剤の場合、1本のシリンジ(注射筒)内にそれらの成分を区分して別々に収容した2室式プレフィルドシリンジ(多室シリンダーアンプルともいう)が広く用いられている。
【0003】
2室式プレフィルドシリンジは、例えば図1(図面左方向を上方とする)に側方断面図で示すように、内部がガスケットである2つの可動壁(前側可動壁2、後側可動壁3)で液密に仕切られて、前側スペース4と後側スペース5とが形成されている。前側スペース4の僅かに前方において2室シリンジの内壁には、前側可動壁2の厚みを跨ぐ長さの(すなわち、前側可動壁2の厚みより幾分長い)、前後方向の1本の細長いバイパス溝が、外周面の突条6の内側を通して設けられており、それにより、前側可動壁2の全体がバイパス溝の範囲内にあるときにはバイパス溝を通って前側可動壁の前後のスペースを連通する流路が形成されるようになっている。前側スペース4には、凍結乾燥粉末等の乾燥薬剤10が封入されており、これを溶解させるための溶解液11が後側スペース5に封入されている。2室シリンジ1の前端には、目的及び用途に応じて、例えば、図1に示すように両頭針15が隔壁を刺入した状態で固定され、これに保護キャップ16が被せられ、或いは、図2に示すように、シリンジ21の先端のオスルアー22にキャップ23が被せられている。
【0004】
2室式シリンジ内での乾燥薬剤10と溶解液11との混合及び注射は次のように行われる。すなわち、シリンジ先端側を上にして注射針が取り付けられた状態で、後側可動壁3が押し込まれ、これにつれて前側可動壁2も押し込まれる。前側可動壁2の後縁からバイパス溝の後部が露出したときバイパス6を通る流路が前側スペース4と後側スペース5の間に形成され、これを通って後側スペース5内の溶解液11が前側スペース4内へと送られ始め、前側可動壁はその位置に止まる。後側可動壁3が前側可動壁2に当接することにより、後側スペース5中の溶解液11は全て前側スペース4内に移され、そこで薬剤10と混合してこれを溶解させ、注射液を構成する。その後は、後側可動壁3と前側可動壁2とが一体で押されるため、通常の1室式のシリンジと同様に操作される。
【0005】
製造工程において、2室式プレフィルドシリンジ内の乾燥粉末は、薬剤成分の溶液を当該シリンジ内で凍結乾燥することにより調製される。この凍結乾燥はバッチ式で行われるが、シリンジの径が小さい程一度に処理できるシリンジ本数が増えるため、製造効率を高めることを優先する場合、シリンジは注射の際に指をかけるための鍔を省略して円筒形状に作製される。その結果、注射に際してはシリンジを保持して操作するための、指掛け用の鍔つきのホルダーが必要となる。シリンジにはバイパス溝の設けられた位置に対応して外周面に突条が形成されているが、ホルダーの胴部は従来、この突条を前後に通過させるための縦溝を有し、シリンジの全周を被う筒状の前部本体の後部に、筒状の後部本体の前部を被せる形に作られている。従って、ホルダーの胴部の全体としての外径は、突条の先端を被う前部本体を更に後部本体で覆うことになるため、両者の肉厚が加わりってシリンジの胴部外径に比してかなり大きなものとなる。しかしながら注射の際には、ホルダーの胴部外径が余り大きいと操作性に劣り、この点改善の余地があった。また、前部本体に挿入しただけのシリンジは前部本体に固定されていないため、不用意に前部本体の先端側を高くするとシリンジが滑り落ちるという問題もあった。
【0006】
また、成長ホルモンのようなペプチドホルモン製剤の場合、長期間にわたる日常的な少量ずつの反復投与が必要である。この投与は、患者自身又はその家族(以下、あわせて「患者等」という。)によって自宅でなされ、患者等は、溶解前の薬剤を収容した数本の2室式プレフィルドシリンジ及びこれを装填するためのホルダー(例えば、特許文献1参照)を受け取って、自らシリンジ内の薬剤の混合・溶解の操作を行う。
【0007】
2室式プレフィルドシリンジを用いた患者等の自宅での薬剤混合操作において、後側可動壁を無理やり急激に押し込むと、前後の可動壁2、3の連携が十分に行われず溶解液の後方への液漏れが起こる場合のあることが、本発明者によって見出されている。同様の問題は、緊急時に使用される種々の注射剤について2室式プレフィルドシリンジを使用した場合にも、一刻を争うという状況のため、起こり得る。
【0008】
このような後方への液漏れは、狭い流路を形成するバイパスを通じた溶解液の前方への送りが間に合わず、前側可動壁2と後側可動壁3との間に溶解液を残したまま前側可動壁2がバイパス溝よりも前方へ押し出されてしまうことにより起こる。すなわち、状態でピストンロッドが更に押し込まれたとき、後側可動壁3及び前側可動壁2は、それらの間に溶解液を閉じ込めたまま前進し、後側可動壁3がバイパスの長さの範囲に入ったときに、溶解液がバイパスを通って後方へ漏れ出すものである。
【0009】
上記のような液漏れが発生している場合には、薬剤が適正に混合できておらず、射出可能な液量も薬剤成分の濃度も共に、所定の規格とは異なっており、2室式プレフィルドシリンジはもはや注射に適さない。ホルダーとの取り扱いに患者等が慣れてくると、ホルダーのこのような大雑把な取り扱いが却って起こり易くなり、使用上の注意喚起のみによってこのようなトラブルを根絶することは困難であった。
【0010】
従って、ホルダーは、2室式プレフィルドシリンジ内の薬剤の混合がホルダー自体の機能により適切に行われることを保証するものであることが望ましい。またそのようなホルダーは、製造コストを、従って医療コストを抑制できるよう、構造を複雑にせずに目的を達成できるものであるのが一層望ましい。
【0011】
更には、2室式プレフィルドシリンジは、緊急時における組立及び溶解の手間を簡略化して即時対応を容易にするために、予めホルダーにシリンジを薬剤の溶解前の状態のままで組み込んで準備しておくことができ、使用する時にはホルダー自身の機能により直ちに薬剤の混合が適切に行われることを保証するものであることが好ましい。
【0012】
一方、2室式プレフィルドシリンジ内での薬剤の溶解に、ネジ機構を用いてピストンロッドを押し込むものが知られている(特許文献2参照)。しかしながら、薬剤溶解時のピストンロッドの押し込みを手でネジを回して行うようにするのは、取り扱いが複雑であり、溶解操作に要する時間も長くなるため極めて不便であり、緊急時や、様々な患者の存在(自家注射の場合)を想定すると、好ましくない。
【0013】
また、2部分カプセル内の成分の混合及び注射をばねで行う注射装置が報告されている(特許文献3参照)。この注射装置は、装填した2部分カプセル後端に位置するプランジャーを装置内のばねで前方へ移動させて成分を混合し、次いで引き金を引きカプセルの固定を開放してばねにより前方に付勢し、それによりカプセルの前端部に位置する薄膜に両頭針を貫通させるとともに針を装置から突出させて注射液を噴出させるものである。しかしながらこの装置では、カプセル内の成分の混合の後にエア抜きの操作を行うことができない。従って、このような装置は実際には使用不能である。
【0014】
2室式プレフィルドシリンジの後側可動壁を漸進させるばねを備えた注射器が知られている(特許文献4参照)。これによれば、シリンジを保持した本体の前半部分を後半部分に奥まで押し込んだとき、ロックが解除されて筒状のプランジャーが後方からばねで押し出され、それによる後側可動壁の前進により薬剤が混合される。混合後はインジェクターロッドを押し込むことで注射することができる。この装置によれば2室式プレフィルドシリンジ内の薬剤の混合が急激に行われるおそれは防止できるもものの、装置が複雑で部品点数が多く、しかも胴部の外径がシリンジに比して非常に大きくなり、操作性が極めて悪いという問題がある。
【特許文献1】特開平11−267205号公報
【特許文献2】特公平6−61361号公報
【特許文献3】特表平2000−512523号公報
【特許文献4】米国特許第6793646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記背景において、本発明の一目的は、円筒状の2室式プレフィルドシリンジのためのホルダーであって、シリンジに比したその胴部の外径の増大を抑制でき且つシリンジを安定に保持できる簡便な構造のホルダー及び該ホルダーにシリンジを装填してなる注射器を提供することである。
本発明の更なる一目的は、2室式プレフィルドシリンジのための上記ホルダーであって、更にホルダー自身の機能によって薬剤の混合を適正に行わせることができるものであるホルダー及び該ホルダーにシリンジを装填してなる注射器を提供することである。
本発明の尚も更なる一目的は、自身の機能によって薬剤の混合を適正に行わせることができる上記ホルダーであって、且つ予めホルダーに2室式プレフィルドシリンジを薬剤の溶解前の状態のままで組み込んで準備しておくことができ、簡単な操作でホルダー自身に自動的に薬剤の混合を行わせることのできる簡便な構造ホルダー及び該ホルダーにシリンジを装てんしてなる注射器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的のために検討の結果、本発明者は、ホルダーの前部本体の側壁にスロットを設け、2室式プレフィルドシリンジのバイパス溝の部分に対応した外周面の突条をこれに通すようにすることにより、ホルダー全体の外径の増大を抑制することができること、及び装填されたシリンジの突条の後端に接する位置においてスロットの対向する縁にスロット幅を僅かに狭める突起を設けておけば、シリンジの挿入時に突条がスロット幅を僅かに押し広げながら突起を通過させることができ、通過後は元に戻るため、注射器の組み立てる際におけるシリンジの後方への抜け落ちを確実に防止できることも見出した。更に、前方へばね付勢されるピストンロッドをホルダーの後部本体に備えておくことにより、ホルダーの前部本体に保持されたシリンジにホルダーの後部本体を被せたときに、圧縮されるばねの反発力によりシリンジの後側可動壁が前方へ押されることで、常に所定範囲の力で所定距離だけ後側可動壁を押し込むことができることを見出した。また、ばねを圧縮した状態で保持しておくことができ且つ使用者が簡単に解除できるストッパー手段を後部本体とピストンロッドとの間に形成しておけば、ばねを圧縮した状態のままでシリンジをホルダーに装填しておくことができ、緊急時の即時対応に便利となることをも見出した。すなわち、本発明は、以下を提供するものである。
【0017】
1.前端及び筒状の側壁を有し、該側壁内に液密にスライド可能にはめ込まれた前側可動壁及び後側可動壁と、該前端と該前側可動壁との間において該側壁の内面に該前側可動壁の厚みを跨ぐ前後長のバイパス溝を備え、該バイパス溝の位置に対応して外周面に突条が形成されている2室式プレフィルドシリンジの、該前端と該前側可動壁との間に規定される前側スペース内に第1の薬剤成分を収容し、該前側可動壁と該後側可動壁との間に規定される後側スペース内に液状の第2の薬剤成分を収容したものを装填して、該2室式プレフィルドシリンジ内において第1の薬剤成分及び第2の薬剤成分の混合及び得られた注射液の注射を行うためのホルダーであって、
該2室式プレフィルドシリンジを少なくとも該突条の後端まで挿入して収容することのできる概略筒状の前部本体であって、挿入に際して該突条を通過させる縦方向のスロットを側壁に有するものである前部本体と、
該前部本体に収容された状態の該2室式プレフィルドシリンジを該2室式プレフィルドシリンジの後端側から所定の深さまで挿入することができ該前部本体の少なくとも後部を覆ってこれを固定するように構成された概略筒状の胴部を有する後部本体と、
を含んでなり、該前部本体又は該後部本体に指掛用の鍔部が形成されているものであるホルダー。
2.該固定が、該前部本体と該後部本体との間の嵌合又は螺合によるものである、上記1のホルダー。
3.収容された該2室式プレフィルドシリンジの該突条の後端部に接するように該スロットの縁に該スロットの中心線へ向けて突起が設けられており、該突起が、該突条がスロットを通過するとき該突条に押されてスロット幅を僅かに押し広げることにより該突条を通過させることのできるものである、上記1又は2のホルダー。
4.該後部本体にピストンロッドが前後にスライド可能に挿入されており、第1のばねが、自然長から圧縮されたとき該ピストンロッドを前方へ付勢するよう、該ピストンロッドの先端と該後部本体の後端との間の領域に設けられており、該第1のばねが、該後部本体に挿入された該2室式プレフィルドシリンジの後側可動壁を、該後側スペース内の第2の薬剤成分が該バイパス溝を通って該前側スペースへと流入するまでピストンロッドを介して押し込むことができるものである、上記1ないし3の何れかのホルダー。
5.該第1のばねの先端が該ピストンロッドの先端部をその背後から押すものである上記4のホルダー。
6.該第1のばねが、該ピストンロッドを介して該後側可動壁を該前側可動壁に当接するまで押すものである、上記4又は5のホルダー。
7.該第1のばねが、該ピストンロッドを中に通して配置されたつる巻きばねである、上記4ないし6の何れかのホルダー。
8.該第1のばねの付勢力に抗して該ピストンロッドを解除可能に該後部本体の定位置に固定しておくストッパー手段を更に含むものである、上記4ないし7の何れかのホルダー。
9.第2のばねが、自然長より圧縮されたときピストンロッドを後方へと付勢するよう、該後部本体から後方へ突出した該ピストンロッドの後端と該後部本体との間の領域に設けられており、該第1のばねと該第2のばねとが、その前後方向への付勢力の均衡によりピストンロッドを定位置に保持できるものである、上記4ないし6の何れかのホルダー。
10.該第2のばねが、該ピストンロッドを中に通して配置されたつる巻きばねである、上記9のホルダー。
11.上記1ないし10の何れかのホルダーとこれに装填された2室式プレフィルドシリンジとを含んでなる、注射器。
【発明の効果】
【0018】
上記構成になる本発明は、装填される2室式プレフィルドシリンジに比してホルダーの胴部により外径が増大するのを抑制して、操作性のよい簡便なホルダー及び注射器を提供することができる。また、第1のばねを有するものは、更に、シリンジ内の薬剤を混合・溶解に際し急激にピストンが押されるのを防止して注射液の適正な調製を保証することができる。また、ピストンロッドのためのストッパー手段を更に含むものは、予めホルダーにシリンジを薬剤の溶解前の状態のままで組み込んで準備しておき必要時にストッパーを解除するだけで直ちに薬剤を混合でき、速やかに注射を行うことができるため、緊急時における即時対応を容易にすることができる。また、第1のばねに加えて第2のばねを有するものは、組立て前のホルダーのピストンが(ストッパー手段を備えるものではそれが解除されていても)、それら2つのばねにより所定位置に保持されるため、操作する者にとって扱い易いばかりでなく、圧縮された第1のばねがピストンロッドを前方へ押し込みつつ自然長に戻る直前に第2のばねの後方への付勢力が作用し始めるようにすることができることから、ホルダーによるシリンジ内の薬剤の自動的な混合・溶解に際して、押し込むべきピストンロッドの深さの調節が極めて容易となるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のホルダーに装填して注射に用いられる縦方向のバイパス溝に対応する突条を外周面に有する2室式プレフィルドシリンジは周知のものであり、複数の製品が販売されているから、それらのうち、混合し調製すべき注射液の量に応じた適当なサイズ及びタイプのものを選択して使用し、ホルダーの各寸法は、それらに適合するように設定すればよい。
【0020】
本発明においてホルダーの前部本体の形態は、2室式プレフィルドシリンジのバイパス溝に対応して外周に形成されている突条を側壁に形成されたスロット内に収容した状態で、シリンジを被って保持できるものである限り、特に制限はない。その肉厚はシリンジの外周面からの突条の高さに実質的に等しくしておくことが特に好ましい。スロットから突条が実質的に突出していない限りホルダーの後部本体を被せる上で支障がなく、前部本体に余分な肉厚がない方がホルダー全体としての胴部の外径を小さくできるからである。また注射時に指を掛けるための鍔部は、前部本体に形成されていてもよく、後部本体に形成されていてもよい。鍔部は、これに指を掛けて注射器を操作するのに便利なものである限りその形状に限定はなく、例えば、ホルダーの胴部を巡って円形又は楕円形その他の長円形に突出した板状部であってよく、また胴部の左右に突出した棒状の部分であってもよい。
【0021】
前部本体が有するスロットは、装填される2室式プレフィルドシリンジのバイパス溝の部位にある外周面の突条を収容できるものであればよいが、、シリンジが前部本体内で回転できないよう、突条の両側に接してこれを挟むことができる幅のものとするのが更に好ましい。必須ではないが、前部本体にシリンジが収容されたとき、シリンジが前部本体から自然に脱落することがないよう、突条の後端部に接するようにスロットの縁にスロットの中心線へ向けて突起を設けておくことが好ましい。スロットの中心線方向へ向かうこの突起の高さは、突起を乗り越えてシリンジが挿入されるときスロットの幅が僅かに押し広げられるようなものとしておくのが好ましい。それにより、前部本体にシリンジが無理なく挿入できる一方、自然に脱落することも防ぐことができるからである。そのような突起の形状は任意であるが、例えば、シリンジの挿入の容易さを増すために突起の後端側を傾斜面とする一方、シリンジの偶発的な脱落は確実に阻止するために突起の前端側は傾斜面とせず垂直に立ち上がるものとしてもよい。
【0022】
ホルダーの後部本体の形態は、前部本体に収容された状態の2室式プレフィルドシリンジをその後端側から所定の深さまで挿入し、前部本体の少なくとも後部を覆って後部本体に固定でき、後部にピストンロッドが前後にスライド可能に取り付けられるものであれば、その具体的形態は特に限定されない。後部本体がピストンロッドを付勢するためのばねを備えない場合には、ピストンロッドはホルダーとは別体であってよく、ばねを備える場合には、ピストンロッドはホルダーの一部としてこれに組み込まれた状態で備えられる。注射時に指を掛けるための上記した鍔部を、前部本体に設ける代わりに後部本体に設けてもよい。
【0023】
前部本体と後部本体とを固定するための手段は、偶発的に外れることのない確実な固定ができる限り任意であり、両者の具体的構造に適しするよう、周知の固定手段から適宜選んで採用すればよい。例えばそのような手段として、前部本体の後部と後部本体の前部とが相互にかみ合うようにそれぞれの対応する位置に設けられた、突起と窪み若しくは段差面との組み合わせによる嵌着や、両者の螺着が挙げられる。これらのうち螺着によるのが、操作が簡単であり固定の確実性も高いため、特に好ましい。
【0024】
後側可動壁を後方から押して前進させるための、後部本体に前後に可動に配置されたピストンロッドは、後部本体の後方から前方へと押すことのできるものである限り、その具体的形態は適宜であってよい。ピストンロッドは、ホルダーの後部本体と別体の場合、2室式プレフィルドシリンダの後部可動壁が通常有するねじ穴に螺着できるように、先端に対応する雄ねじを形成した短いボルトを設けておけばよい。
【0025】
ピストンロッドに関して設けられた第1のばねは、好ましくは、後部本体内においてピストンロッドの周りに備えられたつる巻きばねである。この場合、つる巻きばねの後端は、例えば、ピストンロッドの周囲において後部本体の内面の適宜な部位で支持されるようにしておけばよい。また、ピストンロッドには、一部(例えば頭部付近)に、つる巻きばねの先端の内径よりも突出した突起を設けておくか、又は、ピストンロッドの頭部をつる巻きばねの内径より大径としておくことによって、つる巻きばねとピストンロッドとの間でのピストンを前進させる方向への力の伝達を行わせることができる。
【0026】
第1のばねの強さ及び長さは、前部本体に装填された2室式プレフィルドシリンジの後側可動壁を、前方へと、前側可動壁に当接させるか又は少なくとも溶解液の大半(例えば75%以上)をバイパス溝を通って前側スペースへ流入させることとなるまでピストンロッドを押すことができるように設定しておけばよい。差し込まれる2室式プレフィルドシリンジにおいて、後側可動壁が前側可動壁に当接することとなる位置又は収容される溶解液の大半を前側スペースに流入させることとなる位置、及び当該に後側可動壁を到達させるに必要な力の強さから、第1のばねの適切な長さ及び適切な強さは当業者に極めて容易に算出できる。また、バイパス溝によって前側スペースと後側スペースが連通した状態では、ばねは後側可動壁のみを2室シリンジ内面との摩擦力に抗して前進させればよいが、後側可動壁が前側可動壁に当接した後は、後側可動壁の前進には各可動壁と2室シリンジ内面との摩擦力の合力がばねの復元力に対抗する。従って、その位置で両可動壁を前進させない程度の強さにばねを設定しておけば、第1のばねによって溶解液の全てを前側スペースに送り込んだ段階で後側可動壁の前進を止めることができる。また第1のばねをそのような強さより僅かに弱くしておけば、後側可動壁が前側可動壁に当接はしないが大半の溶解液を前側スペースに送り込んだ段階で後側可動壁の前進を止めることができる。続く操作はシリンジ先端部からのエア抜きを含むが、この操作では注射液の無駄な噴出を避けるため如何なる場合も手加減して緩やかにピストンが押されることから、後側可動壁が前側可動壁にまだ密着しておらず狭まった後側スペース内に溶解液の一部が残っていても、バイパスを通って前側スペース内へ静かに送られるため、混合ミスが起こる心配はない。
【0027】
ホルダーの後側本体が第1のばねを有する場合には、これに加えて第2のばねを設けておくことができる。設ける場合、第2のばねは、ピストンロッドが後側可動壁を第1のばねによって押し込もうとする目標位置に達したあと、当該位置を超えて前方へとピストンが押されたとき、ピストンロッドを当該位置に戻すよう後方へ付勢するものであり、それ以上にピストンを後退させるように後方へ付勢するものではない。従って第2のばねは、ピストンロッドが上記位置に達したときに初めて圧縮され始めるよう、且つ、それ以前には圧縮も引張もされない自由長であるような長さ及び取り付け方法で、後部本体に設けておけばよい。このように第2のばねを設けておけば、第1のばねと協力して組立て前のホルダーのピストンが所定位置に保持されるほか、第1のばねがピストンロッドを前方へ押しつつ自然長に復帰しつつあるときに第2のばねの後方への付勢力が作用し始めるようにすることができることから、第2のばねをブレーキとして作用させることができ、2つのばねの作用によって後側可動壁を到達させるべき位置の調節が極めて容易となる。該2のばねとピストンロッドとが力を及ぼし合うためには、例えば、第2のばねの後端がピストンロッドの適宜の部位に当接するよう、その部位から後方のピストンロッドの外周を第2のばねの内径より大きくしておくか、又はその部位に第2のばねの内径よりも大きな外径の環状突起若しくはそのような高さまで突出した複数の突起を設けておけばよい。第2のばねの前端は、後部本体の適宜の部位で支持すればよく、例えば、後部本体の後部の、ピストンロッドが貫通する穴の周囲であってよい。
【0028】
該第1のばねの付勢力に抗して該ピストンロッドを解除可能に該後部本体の定位置に固定しておくストッパー手段は、ホルダーが第1のばねのみを有する場合にも、第2のばねを合わせて有する場合にも、共に設けることができる。ストッパー手段は、ピストンロッドの前進を阻止して第1のばね圧縮状態に止めておき、その間ホルダー内の2室式プレフィルドシリンジ内で薬剤が混合されるのを防止するためのものであるから、この目的に適う限り、適宜の構成であってよい。例えば、ピストンの先端付近に雄ねじを形成すると共に、これに対応する雌ねじをホルダーの後部本体のピストン貫通穴に形成しておき、ピストンの後退位置で両者を螺合させるようにしてもよく、また、ピストンロッドの断面を非円形とし、後部本体のピストン貫通穴をこの形状に従ったものとすると共に、ピストンロッドの後退位置においてピストン貫通穴内に位置するピストンロッドの断面をピストン貫通穴内でのピストンロッドの回転を許す形状(例えば小径の円)に形成しておき、その位置でピストンロッドを回転(例えば1/4回転)して貫通穴の非円形の断面形状とこれより後方のピストンロッドの断面形状とに干渉を起こさせることによってもよい。また、後部本体とピストンロッドとを横方向に貫く抜去可能なピンであってもよい。
【0029】
ホルダーに装填される2室プレフィルドシリンジには、両頭針が取り付けられるものとルアー先のものとが存在するから、ホルダーの前部本体の先端部の形状は、これに合わせてそれぞれのシリンジ形態を前方に脱落不能に固定できるように適宜設計すればよい。通常は、例えば、ホルダーの前部本体の先端付近の内周面がシリンジの先端側の外周縁に噛み合うようにしておけばよい。また、ルアー先のシリンジの場合には、ホルダーの前部本体の先端部には、メスルアーの周囲をねじ止めする方式(ルアーロック方式)に対応できるよう、雌ねじを形成した筒状部を設けておいてもよい。
【実施例】
【0030】
以下、典型的な実施例を参照して本発明を更に具体的に説明するが、本発明が実施例に限定されることは意図しない。
【0031】
〔実施例1〕
図3は実施例1のホルダーの透明な樹脂により成形された概略円筒状の前部本体31とこれに装填されるルアー先の2室式プレフィルドシリンジ21を示す側面図であり、図において、左方が上方を示す(他の側面図において同じ)。前部本体31において、34は側壁に設けられたスロットであり、シリンジ21を前部本体31に挿入するときにシリンジ21の突条6を受け入れる。前部本体31の胴部の肉厚は、スロット34内に入った突条6の先端と前部本体31の胴部の外周面とが等しい高さになるように設定されている。スロット34の幅は、シリンジ21を前部本体31内に挿入したときシリンジ21の突条6が丁度スロット34の両側の縁に挟まれて回動不能になるように設定されている。スロット34には内側へ向かう1対の突起36、37が形成されている。シリンジ21を前部本体31の奥まで挿入するとき、突起36、37の位置で突条6によってスロット34の幅が僅かに押し広げられるため、突条6は突起36、37の間を通過することができるが、シリンジ21が偶発的に脱落することは防止される。前部本体31の先端部には、ルアーロック方式に対応できる雌ねじつきの筒状部39が形成されている。
【0032】
図4は、シリンジ21を完全に収納した前部本体31と、これに後方から螺着される後部本体40とを示す側面図である。図より明らかなように、スロット34の突起36、37は、前部本体31内に装填されたシリンジ21の突条6の後端に接しており、これによりシリンジ21が前部本体31から偶発的に抜け落ちるのを阻止している。後部本体40は、後述のピストンロッドを通すための穴を後端に有し、外周面には、長円形の板状に張り出した突出部よりなる指掛用の鍔部42が形成されている。
【0033】
図5は、シリンジ21を前部本体31内に収容してその後部に後部本体40を螺着した状態のホルダーと、雄ねじ44が形成された短いボルトを先端に備えたピストンロッド45とを示す側面図である。雄ねじ44は、後部本体40の後端の穴を通してシリンジ21の後側可動壁3のねじ穴(図示せず)に螺着される。
【0034】
図6は、シリンジ21をホルダーに装填し、後側可動壁3にピストンロッド45の雄ねじ44を螺着した状態の、一部を断面とした注射器の側面図であり、シリンジ21及びホルダーは、図5に示した位置から軸回りに90°回転させてある。図に見られるように、シリンジ21の突条6の先端は、前部本体31の外周面とフラットになっている。
【0035】
図6に示した状態からピストンロッド45を押し込んで後側可動壁3、溶解液11及び前側可動壁2を前進させ、前側可動壁2が突条6の内側のバイパス溝の範囲内に入った後、後側可動壁3を前側可動壁2に当接するまで押し込んで溶解液11の全量をバイパス溝を通して前側スペース4内へ送り込み、乾燥薬剤10を溶解して注射液を調製することにより、図7に示した状態となり、その後は注射針を取り付け、1室式シリンジでの通常の注射と同様にエア抜きの後、患者に針を刺入し図8の状態となるまでピストンロッド45を押し込むことにより、注射を完了することができる。
【0036】
〔実施例2〕
図9は、実施例2のホルダーの概略円筒状の前部本体51とこれに装填されるルアー先の2室式プレフィルドシリンジ21とを示す側面図である。前部本体51において、54は側壁に設けられたスロットであり、シリンジ21を前部本体51に挿入するときにシリンジ21の突条6を受け入れる。前部本体51の胴部の肉厚は、スロット54内に入った突条6の先端と前部本体51の胴部の外周面とが等しい高さとなるように設定されている。スロット54の幅は、シリンジ21を前部本体51に挿入したときシリンジ21の突条6が丁度スロット54の両側の縁に挟まれて回動不能になるように設定されている。スロット54には、実施例1と同様に機能する1対の突起56、57が設けられている。
【0037】
図10は、シリンジ21を装填した前部本体51と、これに後方から螺着される後部本体60とを示す側面図である。図より明らかなように、スロット54の突起56、57も、実施例1の対応する突起と同様に、前部本体51内に奥まで挿入されたシリンジ21の突条6の後端に接しており、これにより組立ての際にシリンジ21が前部本体51から偶発的に抜け落ちるのが防止される。特に本実施例では、スロット54の長手方向に対して突起56、57の後側は斜めに、前側は垂直にそれぞれ立ち上がっており、シリンジ21の挿入に比して抜き取りに一層大きな抵抗を示すように構成されている。後部本体60にはその後端にある穴70にピストンロッド64が通されており、外周面には、長円形の板状に張り出した突出部よりなる指掛用の鍔部62が形成されている。
【0038】
図11は、シリンジ21を装填した前部本体51を後部本体60内へ挿入し始めた状態を示す、一部を断面とした側面図である。図に見られるように、ピストンロッド64は後退した位置にある。ピストンロッド64の先端寄りの部分の周囲には、つる巻きばね66が圧縮された状態で備えられ、ピストンロッド64を前方へ付勢しているが、ピストンロッド64は、次に述べるようにして当該位置に固定されている。ピストンロッド64の先端には雄ねじ68を有する短いボルトが前方へ突出している。
【0039】
図12は、ピストンロッド64を通している後部本体60の後端を後部本体60の内側から見たときの内壁面及び穴70の形状並びに穴70より後方にすなわち後部本体60の外部に位置するピストンロッド64の部分の断面形状を示す図である。図において(a)はピストンロッド64が固定されているときの状態を、(b)はピストンロッド64を解放した状態を示す。図(b)に見られるようにピストンロッド64は、穴70の後方において、大径部分64L及び小径部分64Sより構成されており、この断面形状に沿いこれを収容できるように、穴70は大径部分70L及び小径部分70Sをそれぞれ有している。従って、図(b)の状態ではピストンロッド64は穴70を通って自由に前進することができるが、ピストンロッド64を予め90°回転させておくことにより、図(a)に示すように、ピストンロッド64の大径部分64Lが穴70の小径部分70Sの背面に載るため、ピストンロッド64の前進が阻止され、図11に示した状態のように、つる巻きばね66による前方への付勢力を受けたまま、後退位置に留まることができる。穴70を横断しているピストンロッド64部分は、小径部分64Sと同径の円形断面を有する。
【0040】
図13は、前部本体51を後部本体60に挿入して両者を互いに対して回し螺合した状態を示す、一部を断面図とした側面図である。図において、前部本体51及びシリンジ21は、図11に示した状態から軸回りに90°回転させてある。図13の状態では、シリンジ21は後部本体69の最も奥まで達しており、ピストンロッド64の先端に備えられた雄ねじ68を有するボルトは、シリンジ21の後側可動壁2に設けられた対応するねじ穴に螺合している。この状態でも図11に示した状態と同様、ピストンロッドは後退位置に固定されており、従ってシリンジ21内の薬剤は、混合前の状態で維持されている。
【0041】
図14は、図13に示した状態から、キャップ23を除去し、ピストンロッドを90°回転させて図12(b)の状態にすることによって固定を解除し、つる巻きばね66の力によりピストンロッド64を前進させた後の状態を示す、一部を断面図とした側面図である。図に見られるとおり、つる巻きばね66がピストンロッド64を前方へ押してシリンジ21の後側可動壁3を前進させ、これにより前側可動壁2を(溶解液を介して)押して前進させて突条6の内側のバイパス溝の長さの範囲内に入らせ、これにより連通したバイパス溝を通して溶解液11を前側スペース4内に送り込んで薬剤を混合することによって注射液が調製されている。従って、その後は注射針(図示せず)を取り付け、1室式シリンジでの通常の注射と同様に図15に示したようにエア抜きした、患者に針を刺入しピストンロッド64を押し込むことにより、注射を完了することができる。
【0042】
〔実施例3〕
図16は、ルアー先の2室式プレフィルドシリンジ21を装填した実施例3のホルダーの前部本体81と、これに後方から螺着される後部本体90とを示す側面図である。概略円筒状の前部本体81において、84は側壁に設けられたスロットであり、これはシリンジ21を前部本体81に挿入するときにシリンジ21の突条6を受け入れる。前部本体81の胴部の肉厚は、スロット84内に入った突条6の先端と前部本体81の胴部の外周面とが等しい高さとなるように設定されている。スロット84の幅は、シリンジ21を前部本体81に装填したときシリンジ21の突条6が丁度スロット84の両側の縁に挟まれて回動不能になるように設定されている。スロット84には、実施例1と同様に機能する1対の突起86、87が設けられている。後部本体90に通されたピストンロッド94には、後部本体90の後方において、つる巻きばね95が取り付けられている。
【0043】
図17は、シリンジ21を装填した前部本体81を後部本体90内へ挿入し始めた状態を示す、一部を断面とした側面図である。図に見られるように、ピストンロッド94には、更に別のつる巻きばね96が後部本体90の内部に取り付けられており、つる巻きばね95及び96は、ピストンロッド94を後部本体90に対して、それぞれ後方及び前方へ付勢することができ、図に示した状態においてそれぞれ実質的に自然長にり、両者の均衡によりピストンロッド94は図に示した定位置に保持されている。
【0044】
図18は、シリンジ21を装填した前部本体81を後部本体90内へ途中まで挿入した状態を概念的に示す、一部を断面図とした側面図である。図において、前部本体81及びシリンジ21は、図17に示した状態から軸回りに90°回転させてある。図に見られるように、挿入されるシリンジの後側可動壁3によりピストンロッド94が押され、つる巻きばね96が圧縮されて、それによりピストンロッド94が前方へと付勢され、その結果、後側可動壁3が前方へ押し込まれる。前部本体81が後部本体90完全に挿入され螺着されたとき、図19に示されるように、溶解液は前側スペース内に送り込まれておりそこで乾燥薬剤10と混合して注射液が調製された状態となる。従って、その後は注射針を取り付け、1室式シリンジでの通常の注射と同様にエア抜きした後、患者に針を刺入しピストンロッド94を押し込むことにより、注射を完了することができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、2室式プレフィルドシリンジを用いた注射において、注射器を構成するホルダーの胴周りの外径の増大を抑制して操作性の改善された注射器を提供することができる。またばねを備えることによって、2室式プレフィルドシリンジをホルダーに装填してシリンジ内での薬剤の混合による注射液の調製を自動的に行わせることができるため、常に適正に注射液が調製されることを保障すると共に、更にストッパー手段を供えることにより、緊急時における迅速な注射を容易にする注射器も提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】2室式プレフィルドシリンジの一例の側面図
【図2】2室式プレフィルドシリンジの別の一例の側面図
【図3】実施例1のホルダーの前部本体とこれに装填される2室式プレフィルドシリンジと示す側面図
【図4】2室式プレフィルドシリンジを装填した前部本体と、これに後方から螺着される後部本体とを示す側面図
【図5】2室式プレフィルドシリンジを前部本体内に装填して後部本体を螺着した状態の実施例1のホルダーと、ピストンロッドとを示す側面図
【図6】2室式プレフィルドシリンジをホルダーに装填し、後側可動壁にピストンロッドを螺着した状態の、一部を断面とした注射器の側面図
【図7】乾燥薬剤を溶解して注射液を調製した状態を示す、一部を断面図とした注射器の側面図
【図8】注射を完了した状態を示す、一部を断面図とした注射器の側面図
【図9】実施例2のホルダーとこれに装填される2室式プレフィルドシリンジとを示す側面図
【図10】2室式プレフィルドシリンジを装填した前部本体と、これに後方から羅着される後部本体とを示す側面図
【図11】2室式プレフィルドシリンジを装填した前部本体を後部本体内へ挿入し始めた状態を示す一部を断面とした側面図
【図12】内側から見たときの後部本体の後端内壁面及び穴形状及び後方に位置するピストンロッド部分の断面形状を示す図
【図13】前部本体を後部本体に挿入して両者を螺合した状態を示す、一部を断面図とした側面図
【図14】ピストンロッドの固定を解除し、つる巻きばねの力によりピストンロッドを前進させた後の状態を示す、一部を断面図とした側面図
【図15】エア抜きした状態を示す注射器の一部を断面図とした側面図
【図16】2室式プレフィルドシリンジを装填した実施例3のホルダーの前部本体と、これに後方から螺着される後部本体とを示す側面図
【図17】2室式プレフィルドシリンジを装填した前部本体を後部本体内へ挿入し始めた状態を示す、一部を断面とした側面図
【図18】2室式プレフィルドシリンジを装填した前部本体を後部本体内へ途中まで挿入した状態を概念的に示す、一部を断面図とした側面図
【図19】注射液の調製が完了した状態の実施例3の注射器の、一部を断面図とした側面図
【符号の説明】
【0047】
1=2室式プレフィルドシリンジ、2=前側可動壁、3=後側可動壁、4=前側スペース、5=後側スペース、6=突条、10=乾燥薬剤、11=溶解液、15=両頭針、16=保護キャップ、22=オスルアー、23=キャップ、31=前部本体、34=スロット、36、37=突起、39=筒状部、42=鍔部、44=雄ねじ、45=ピストンロッド、51=前部本体、54=スロット、56、57=突起、60=後部本体、62=鍔部、64=ピストンロッド、64L=大径部分、64S=小径部分、66=つる巻きばね、68=雄ねじ、70=穴、70L=大径部分、70S=小径部分、81=前部本体、90=後部本体、84=スロット、86、87=突起、90=後部本体、94=ピストンロッド、95、96=つる巻きばね
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前端及び筒状の側壁を有し、該側壁内に液密にスライド可能にはめ込まれた前側可動壁及び後側可動壁と、該前端と該前側可動壁との間において該側壁の内面に該前側可動壁の厚みを跨ぐ前後長のバイパス溝を備え、該バイパス溝の位置に対応して外周面に突条が形成されている2室式プレフィルドシリンジの、該前端と該前側可動壁との間に規定される前側スペース内に第1の薬剤成分を収容し、該前側可動壁と該後側可動壁との間に規定される後側スペース内に液状の第2の薬剤成分を収容したものを装填して、該2室式プレフィルドシリンジ内において第1の薬剤成分及び第2の薬剤成分の混合及び得られた注射液の注射を行うためのホルダーであって、
該2室式プレフィルドシリンジを少なくとも該突条の後端まで挿入して収容することのできる概略筒状の前部本体であって、挿入に際して該突条を通過させる縦方向のスロットを側壁に有するものである前部本体と、
該前部本体に収容された状態の該2室式プレフィルドシリンジを該2室式プレフィルドシリンジの後端側から所定の深さまで挿入することができ該前部本体の少なくとも後部を覆ってこれを固定するように構成された概略筒状の胴部を有する後部本体と、
を含んでなり、該前部本体又は該後部本体に指掛用の鍔部が形成されているものであるホルダー。
【請求項2】
該固定が、該前部本体と該後部本体との間の嵌合又は螺合によるものである、請求項1のホルダー。
【請求項3】
収容された該2室式プレフィルドシリンジの該突条の後端部に接するように該スロットの縁に該スロットの中心線へ向けて突起が設けられており、該突起が、該突条がスロットを通過するとき該突条に押されてスロット幅を僅かに押し広げることにより該突条を通過させることのできるものである、請求項1又は2のホルダー。
【請求項4】
該後部本体にピストンロッドが前後にスライド可能に挿入されており、第1のばねが、自然長から圧縮されたとき該ピストンロッドを前方へ付勢するよう、該ピストンロッドの先端と該後部本体の後端との間の領域に設けられており、該第1のばねが、該後部本体に挿入された該2室式プレフィルドシリンジの後側可動壁を、該後側スペース内の第2の薬剤成分が該バイパス溝を通って該前側スペースへと流入するまでピストンロッドを介して押し込むことができるものである、請求項1ないし3の何れかのホルダー。
【請求項5】
該第1のばねの先端が該ピストンロッドの先端部をその背後から押すものである請求項4のホルダー。
【請求項6】
該第1のばねが、該ピストンロッドを介して該後側可動壁を該前側可動壁に当接するまで押すものである、請求項4又は5のホルダー。
【請求項7】
該第1のばねが、該ピストンロッドを中に通して配置されたつる巻きばねである、請求項4ないし6の何れかのホルダー。
【請求項8】
該第1のばねの付勢力に抗して該ピストンロッドを解除可能に該後部本体の定位置に固定しておくストッパー手段を更に含むものである、請求項4ないし7の何れかのホルダー。
【請求項9】
第2のばねが、自然長より圧縮されたときピストンロッドを後方へと付勢するよう、該後部本体から後方へ突出した該ピストンロッドの後端と該後部本体との間の領域に設けられており、該第1のばねと該第2のばねとが、その前後方向への付勢力の均衡によりピストンロッドを定位置に保持できるものである、請求項4ないし6の何れかのホルダー。
【請求項10】
該第2のばねが、該ピストンロッドを中に通して配置されたつる巻きばねである、請求項9のホルダー。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかのホルダーとこれに装填された2室式プレフィルドシリンジとを含んでなる、注射器。
【請求項1】
前端及び筒状の側壁を有し、該側壁内に液密にスライド可能にはめ込まれた前側可動壁及び後側可動壁と、該前端と該前側可動壁との間において該側壁の内面に該前側可動壁の厚みを跨ぐ前後長のバイパス溝を備え、該バイパス溝の位置に対応して外周面に突条が形成されている2室式プレフィルドシリンジの、該前端と該前側可動壁との間に規定される前側スペース内に第1の薬剤成分を収容し、該前側可動壁と該後側可動壁との間に規定される後側スペース内に液状の第2の薬剤成分を収容したものを装填して、該2室式プレフィルドシリンジ内において第1の薬剤成分及び第2の薬剤成分の混合及び得られた注射液の注射を行うためのホルダーであって、
該2室式プレフィルドシリンジを少なくとも該突条の後端まで挿入して収容することのできる概略筒状の前部本体であって、挿入に際して該突条を通過させる縦方向のスロットを側壁に有するものである前部本体と、
該前部本体に収容された状態の該2室式プレフィルドシリンジを該2室式プレフィルドシリンジの後端側から所定の深さまで挿入することができ該前部本体の少なくとも後部を覆ってこれを固定するように構成された概略筒状の胴部を有する後部本体と、
を含んでなり、該前部本体又は該後部本体に指掛用の鍔部が形成されているものであるホルダー。
【請求項2】
該固定が、該前部本体と該後部本体との間の嵌合又は螺合によるものである、請求項1のホルダー。
【請求項3】
収容された該2室式プレフィルドシリンジの該突条の後端部に接するように該スロットの縁に該スロットの中心線へ向けて突起が設けられており、該突起が、該突条がスロットを通過するとき該突条に押されてスロット幅を僅かに押し広げることにより該突条を通過させることのできるものである、請求項1又は2のホルダー。
【請求項4】
該後部本体にピストンロッドが前後にスライド可能に挿入されており、第1のばねが、自然長から圧縮されたとき該ピストンロッドを前方へ付勢するよう、該ピストンロッドの先端と該後部本体の後端との間の領域に設けられており、該第1のばねが、該後部本体に挿入された該2室式プレフィルドシリンジの後側可動壁を、該後側スペース内の第2の薬剤成分が該バイパス溝を通って該前側スペースへと流入するまでピストンロッドを介して押し込むことができるものである、請求項1ないし3の何れかのホルダー。
【請求項5】
該第1のばねの先端が該ピストンロッドの先端部をその背後から押すものである請求項4のホルダー。
【請求項6】
該第1のばねが、該ピストンロッドを介して該後側可動壁を該前側可動壁に当接するまで押すものである、請求項4又は5のホルダー。
【請求項7】
該第1のばねが、該ピストンロッドを中に通して配置されたつる巻きばねである、請求項4ないし6の何れかのホルダー。
【請求項8】
該第1のばねの付勢力に抗して該ピストンロッドを解除可能に該後部本体の定位置に固定しておくストッパー手段を更に含むものである、請求項4ないし7の何れかのホルダー。
【請求項9】
第2のばねが、自然長より圧縮されたときピストンロッドを後方へと付勢するよう、該後部本体から後方へ突出した該ピストンロッドの後端と該後部本体との間の領域に設けられており、該第1のばねと該第2のばねとが、その前後方向への付勢力の均衡によりピストンロッドを定位置に保持できるものである、請求項4ないし6の何れかのホルダー。
【請求項10】
該第2のばねが、該ピストンロッドを中に通して配置されたつる巻きばねである、請求項9のホルダー。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかのホルダーとこれに装填された2室式プレフィルドシリンジとを含んでなる、注射器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2007−312804(P2007−312804A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−142350(P2006−142350)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(591039540)前田産業株式会社 (9)
【出願人】(000228545)日本ケミカルリサーチ株式会社 (27)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(591039540)前田産業株式会社 (9)
【出願人】(000228545)日本ケミカルリサーチ株式会社 (27)
【Fターム(参考)】
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