説明

プロアントシアニジンオリゴマーの精製方法

【課題】プロアントシアニジンを含有する原料又はその粗精製物から、二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーを重合度別に分離精製する方法を提供する。
【解決手段】二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーを含有する原料又はその粗精製物から、ヘキサン/メタノール/酢酸エチル又はヘキサン/アセトンの混合溶媒を移動相として用いたイソクラティック溶出法による順相シリカゲル液体クロマトグラフィーにより、該プロアントシアニジンオリゴマーを重合度別に分離精製することを特徴とする重合度数の均一な二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーの精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗腫瘍、抗炎症、抗老化、抗酸化、抗アレルギー、抗菌、育毛等の多様な生理活性を有し、食品や化粧品あるいは医薬品等の用途に有用なプロアントシアニジンオリゴマーを高純度でしかも効率よく精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高等植物の生体防御物質として知られるプロアントシアニジンは、一般に、フラバン−7−オールを構成ユニットとして4β→6、4β→8、4β→8・2βO→7等の結合様式によって重合した二量体以上の重合体の総称であり、縮合型タンニンとも呼称される(非特許文献1及び2)。これらは、酸処理によりアントシアニジンを生成して紅色になることからプロアントシアニジンと総称されている。プロアントシアニジンは多様な生理活性を示すことが知られており、該活性としては、抗腫瘍、抗炎症、抗老化、抗酸化、抗アレルギー、抗菌、育毛等の活性が報告されている(非特許文献3及び4)。これらの生理活性とプロアントシアニジンの重合度数との構造活性相関に関しては、全て明確にされているわけではないが、例えば、育毛活性については、プロアントシアニジンのうち二〜五量体(特に二量体と三量体)のプロアントシアニジンオリゴマーが最も高い活性を有することが報告されている(特許文献1)。
【0003】
植物からのプロアントシアニジンの分離精製に関しては、従来より、ブドウ種子、松樹皮、イチョウ葉、ピーナッツ、カカオ豆等の各種植物体からの分離が試みられている。このうち、原料からの工業的抽出例としては、ブドウ種子(特許文献2〜4)あるいは松樹皮(特許文献5及び6)からの抽出等が挙げられる。特許文献2記載の方法では、白ブドウ種子と70℃未満の水とを接触させて前処理を行った後、熱水抽出に付し、得られた抽出液をセファデックスLH-20 カラムに通塔した後、70%エタノールで溶出し、純度約90%のプロアントシアニジン含有粉末を得ている。特許文献5記載の方法では、海岸松樹皮1tを加圧状態で温水抽出に付し、酢酸エチルによる溶出及びクロロホルム添加による沈殿を繰り返し、プロアントシアニジン含有粉末を得ている。しかしながら、前記の各方法で精製された精製物の中に、二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーのみを90%以上含有するものはなく、いずれの精製物も、モノマーや、六量体以上のポリマー、あるいは他の有機酸を含有するものである。
【0004】
向流液液分配法を用いたプロアントシアニジンの精製方法としては、例えば、水と酢酸エチルを用いる方法が、非特許文献5、特許文献7等に記載されている。
【0005】
また、固液抽出法を用いたプロアントシアニジンの精製方法として、酢酸エチルを用いる方法が、特許文献8及び9に記載されている。例えば、破砕したブドウの実100kg を水(1650L)、塩化ナトリウム(300kg )、アセトン(550 L)の混合溶液で抽出し、蒸留によってアセトンを除去して得た残留物を、酢酸エチルを用いた固液抽出に付し、次いでジクロロエタン(45L)を添加することにより、プロアントシアニジンの沈殿物1.5kg 〜2.5kg が得られる(特許文献9)。
【0006】
更に、クロマトグラフィーを用いたプロアントシアニジンの精製方法としては、前述のセファデックスLH-20 カラムを用いた方法(ブドウ種子からの抽出法、特許文献2)や、ポリスチレン系吸着樹脂を用いた方法(小豆からの抽出法、特許文献10)等が知られている。例えば、乾物小豆より得た浸漬水にポリスチレン系吸着樹脂「セパビーズSP-850」(三菱化成株式会社)を添加し攪拌してプロアントシアニジンを吸着させた後、70℃以下で樹脂を乾燥させ、70℃の80% (v/v) エタノールで溶出することにより、純度約60%の粗プロアントシアニジン含有粉末が得られる。
【0007】
しかしながら、これらの方法は、いずれも重合度数に無関係なプロアントシアニジン混合物の精製方法であり、二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーを選択的に効率よく得るための手法ではなく、二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーの回収率が低い。
【0008】
プロアントシアニジンの重合度数別分離に関しては、順相シリカゲル液体クロマトグラフィーを用いた方法(カカオ豆からの抽出法:非特許文献6、ブドウ種子からの抽出法:非特許文献7)が知られている。前者の場合、カカオ豆をメタノール抽出して得られたプロアントシアニジン含有試料液をシリカゲル充填カラムに負荷し、移動相にジクロロメタン:メタノール:ギ酸:水[(41→5 ):(7 →43):1 :1 ]の混合溶媒を用いてグラジエント溶出を行う。後者の場合、ブドウ種子をメタノール抽出して得られたプロアントシアニジン含有試料液をシリカゲル充填カラムに負荷し、移動相にジクロロメタン:メタノール:水:トリフルオロ酢酸[(82→10):(18→86):2 :0.05]の混合溶媒を用いてグラジエント溶出を行う。
【0009】
しかしながら、これらの方法では、使用溶媒に塩素系の溶媒が含まれており、かつ溶媒組成が複雑なため溶媒の回収再使用が難しく、また移動相に濃度勾配をかけるグラジエント溶出法が必須とされる等の問題があり、従って、これらの方法は、安全性や経済性の面から大量精製を目的とする工業的分離方法としては適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO96/00561
【特許文献2】特開平3-200781
【特許文献3】WO97/39632
【特許文献4】US5484594
【特許文献5】US4698360
【特許文献6】WO97/44407
【特許文献7】特開昭61-16982
【特許文献8】特開平8-176137
【特許文献9】EP 0707005
【特許文献10】特公平7-62014
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「スタインエッガー・ヘンゼル 生薬学[上] 化学・薬理学へのアプローチ」(糸川秀治他訳、(株)廣川書店発行)204〜208頁(1977年)
【非特許文献2】Porter L.J., Flavans and proanthocyanidins, In: Harborne J.B.(ed.), “The Flavonoids, Advances in Research Science 1986", Chapman & Hall, 1994, pp. 23-55
【非特許文献3】バート・シュビッタース/ジャック・マスケリエ著、「21世紀の生体防御物質OPC」(佐々木瞭訳、フレグレンスジャーナル社発行、1997年)50−135頁
【非特許文献4】Tomoya Takahashi, et al., Journal of Investigative Dermatology, 112, 310-316, 1999
【非特許文献5】Andrew G.H. Lea 著, J. Sci. Fd. Agric., 29, 471-477 (1978)
【非特許文献6】J. Rigaud et al., J. Chromatogr. A, 654, 255-260 (1993)
【非特許文献7】Corine Prieur et al., Phytochemistry, 36, 781-784 (1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、プロアントシアニジンを含有する原料又はその粗精製物から、二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーを高純度で効率よく精製する方法を提供することにある。
【0013】
従来の方法の組み合わせでは、目的成分である二〜五量体プロアントシアニジンオリゴマー以外のフラボノイド類、カテキン、エピカテキン等のプロアントシアニジン構成モノマー、六量体以上の高重合プロアントシアニジンポリマー、あるいは他の夾雑物を除去することは難しく、本発明の目的成分である二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーを高純度で効率よく得ることは困難である。また、従来知られている方法は、使用する溶媒の組成が複雑であったり、経済性や、安全性の面から工業化プロセスとしては不適当な例がほとんどである。
【0014】
本発明者らは、これらの問題点を解決すべく種々の検討を重ねた結果、高純度の二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーを効率的に精製する方法を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願第一の発明は、二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーを含有する原料又はその粗精製物から、酢酸メチルを液相として用いた固液抽出法により該プロアントシアニジンオリゴマーを抽出することを特徴とする二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーの精製方法である。
【0016】
前記液相としては、酢酸メチルの単一溶媒を用いてもよいが、酢酸メチルに酢酸メチルと混合可能な有機溶媒を加えて、酢酸メチル及び酢酸メチルと混合可能な有機溶媒の組み合わせからなる混合溶媒を用いてもよい。
【0017】
本願第二の発明は、二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーを含有する原料もしくはその粗精製物、又はそれらを含有する溶液を、予め加水分解酵素で処理することを特徴とする二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーの精製方法である。
【0018】
本願第三の発明は、二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーを含有する原料又はその粗精製物から、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒及びアルコール系溶媒からなる群から選ばれる単一溶媒又は2種以上の混合溶媒を移動相として用いた順相シリカゲル液体クロマトグラフィーにより、該プロアントシアニジンオリゴマーを重合度別に分離精製することを特徴とする重合度数の均一な二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーの精製方法である。前記移動相としては、2種以上の混合溶媒を使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
更に、本発明により、前記各精製方法により得ることができる純度90(w/w) %以上の二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマー精製物、純度90(w/w) %以上の二量体プロアントシアニジン精製物及び純度90(w/w) %以上の三量体プロアントシアニジン精製物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1−A】図1は、逆相液体クロマトグラフィーの結果を示す図である。図1中の符号の意味は以下のとおりである。
【0021】
1 PB1
2 (+)−カテキン
3 PB2
4 クロロゲン酸
5 カフェー酸
6 PC1
7 (−)−エピカテキン
8 p−クマル酸エステル
9 p−クマル酸
10 フロリジン
11 フロレチン
【図1−B】図1は、逆相液体クロマトグラフィーの結果を示す図である。図1中の符号の意味は以下のとおりである。
【0022】
1 PB1
2 (+)−カテキン
3 PB2
4 クロロゲン酸
5 カフェー酸
6 PC1
7 (−)−エピカテキン
8 p−クマル酸エステル
9 p−クマル酸
10 フロリジン
11 フロレチン
【図1−C】図1は、逆相液体クロマトグラフィーの結果を示す図である。図1中の符号の意味は以下のとおりである。
【0023】
1 PB1
2 (+)−カテキン
3 PB2
4 クロロゲン酸
5 カフェー酸
6 PC1
7 (−)−エピカテキン
8 p−クマル酸エステル
9 p−クマル酸
10 フロリジン
11 フロレチン
【図1−D】図1は、逆相液体クロマトグラフィーの結果を示す図である。図1中の符号の意味は以下のとおりである。
【0024】
1 PB1
2 (+)−カテキン
3 PB2
4 クロロゲン酸
5 カフェー酸
6 PC1
7 (−)−エピカテキン
8 p−クマル酸エステル
9 p−クマル酸
10 フロリジン
11 フロレチン
【図1−E】図1は、逆相液体クロマトグラフィーの結果を示す図である。図1中の符号の意味は以下のとおりである。
【0025】
1 PB1
2 (+)−カテキン
3 PB2
4 クロロゲン酸
5 カフェー酸
6 PC1
7 (−)−エピカテキン
8 p−クマル酸エステル
9 p−クマル酸
10 フロリジン
11 フロレチン
【図2】図2は、順相液体クロマトグラフィーの結果を示す図である。
【図3】図3は、順相液体クロマトグラフィーの結果を示す図である。
【図4−A】図4は、逆相液体クロマトグラフィーの結果を示す図である。図4中の符号の意味は以下のとおりである。
【0026】
1 PB1
2 (+)−カテキン
3 PB2
4 PC1
5 (−)−エピカテキン
[5],[6] 単量体画分、図3の分画番号に対応。
[7]〜[11] 二量体画分、図3の分画番号に対応。
[12]〜[20] 三量体画分、図3の分画番号に対応。
【図4−B】図4は、逆相液体クロマトグラフィーの結果を示す図である。図4中の符号の意味は以下のとおりである。
【0027】
1 PB1
2 (+)−カテキン
3 PB2
4 PC1
5 (−)−エピカテキン
[5],[6] 単量体画分、図3の分画番号に対応。
[7]〜[11] 二量体画分、図3の分画番号に対応。
[12]〜[20] 三量体画分、図3の分画番号に対応。
【図4−C】図4は、逆相液体クロマトグラフィーの結果を示す図である。図4中の符号の意味は以下のとおりである。
【0028】
1 PB1
2 (+)−カテキン
3 PB2
4 PC1
5 (−)−エピカテキン
[5],[6] 単量体画分、図3の分画番号に対応。
[7]〜[11] 二量体画分、図3の分画番号に対応。
[12]〜[20] 三量体画分、図3の分画番号に対応。
【図4−D】図4は、逆相液体クロマトグラフィーの結果を示す図である。図4中の符号の意味は以下のとおりである。
【0029】
1 PB1
2 (+)−カテキン
3 PB2
4 PC1
5 (−)−エピカテキン
[5],[6] 単量体画分、図3の分画番号に対応。
[7]〜[11] 二量体画分、図3の分画番号に対応。
[12]〜[20] 三量体画分、図3の分画番号に対応。
【図5】図5は、順相液体クロマトグラフィーの結果を示す図である。
【図6−A】図6は、逆相液体クロマトグラフィーの結果を示す図である。図6中の符号の意味は以下のとおりである。
【0030】
1 PB1
2 (+)−カテキン
3 PB2
4 PC1
5 (−)−エピカテキン
[2]〜[4] 単量体画分、図5の分画番号に対応。
[5]〜[9] 二量体画分、図5の分画番号に対応。
[10]〜[15] 三量体画分、図5の分画番号に対応。
【図6−B】図6は、逆相液体クロマトグラフィーの結果を示す図である。図6中の符号の意味は以下のとおりである。
【0031】
1 PB1
2 (+)−カテキン
3 PB2
4 PC1
5 (−)−エピカテキン
[2]〜[4] 単量体画分、図5の分画番号に対応。
[5]〜[9] 二量体画分、図5の分画番号に対応。
[10]〜[15] 三量体画分、図5の分画番号に対応。
【図6−C】図6は、逆相液体クロマトグラフィーの結果を示す図である。図6中の符号の意味は以下のとおりである。
【0032】
1 PB1
2 (+)−カテキン
3 PB2
4 PC1
5 (−)−エピカテキン
[2]〜[4] 単量体画分、図5の分画番号に対応。
[5]〜[9] 二量体画分、図5の分画番号に対応。
[10]〜[15] 三量体画分、図5の分画番号に対応。
【図7】図7は、プロアントシアニジンオリゴマーの重合度数分布の解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
プロアントシアニジンは、各種の植物体中に存在する縮合型タンニンで、フラバン−7−オールが、4β→6、4β→8、4β→8・2βO→7等の結合により順次縮合又は重合により結合した基本構造を有する。本明細書中では、これらのうち、二〜五量体のものをプロアントシアニジンオリゴマー、六量体以上のものをプロアントシアニジンポリマーと定義するものとする。また、フラバン−7−オールの単量体をプロアントシアニジン構成モノマーと定義するものとする。プロアントシアニジンオリゴマーとしては、プロシアニジン、プロデルフィニジン、プロペラルゴニジン等のプロアントシアニジン及びこれらの立体異性体が全て含まれる。プロアントシアニジン構成モノマーは、次式(I):
【0034】
【化1】



【0035】
(式中、R、R、R、R、R及びRは、同一又は異なり、水素、水酸基又はガロイル基を表す)で示される。
【0036】
本発明で用いる原料又はその粗精製物は、プロアントシアニジンオリゴマーを含有するものであればいずれでもよいが、特に植物の果実、果皮、種子、樹皮等の植物原料、これらの抽出物、又はそれらの粗精製物が好適である。例えば、ブドウ、柿、リンゴ、コケモモ等の果実の搾汁液又は果皮もしくは種子の抽出液、あるいはピーナッツや栗の渋皮、大麦フスマや蕎麦の殻、柿の葉、松樹皮、ヤシ等の抽出液等、プロアントシアニジンオリゴマーを多く含むものが望ましい。
【0037】
また、原料としては、非酵素的方法又は酵素的方法により得られる粗生成物又はその粗精製物を用いることもできる。プロアントシアニジンオリゴマーの合成法としては、エピカテキン又はカテキンの二量体の製造方法が、ジャーナル・オブ・ケミカル・ソサイエティー・パーキン・トランサクションI、1535〜1543頁(1983年)に、エピカテキン又はカテキンの三量体の製造方法が、ファイトケミストリー、25巻、1209〜1215頁(1986年)にそれぞれ記載されており、これらの方法あるいはこれらに準じて得られる粗生成物又はその粗精製物を本発明方法の原料として用いることもできる。
【0038】
本願第一の発明で用いる酢酸メチルと混合可能な有機溶媒としては揮発性のものが好ましく、その具体例として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒;アセトン等のケトン系溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;ヘキサン等の炭化水素系溶媒;酢酸等のカルボン酸系溶媒等が挙げられる。酢酸メチルと混合可能な有機溶媒を使用する場合、抽出溶媒全体中に酢酸メチルが50%(容量)以上含まれるのが好ましく、70%(容量)以上含まれるのがより好ましく、更には90%(容量)以上含まれるのが好ましい。
【0039】
本願第二の発明で用いる加水分解酵素としては、グリコシダーゼ、エステラーゼ等が挙げられる。
【0040】
グリコシダーゼとしては、アミラーゼ、セルラーゼ、グルカナーゼ、キシラナーゼ、グルコシダーゼ、デキストラナーゼ、キチナーゼ、ガラクツロナーゼ、ライソザイム、ガラクトシダーゼ、マンノシダーゼ、フルクトフラノシダーゼ、トレハラーゼ、グルコサミニダーゼ、プルラナーゼ、セラミダーゼ、フコシダーゼ、アガラーゼ等から選ばれる単独物又は2種以上の混合物が挙げられ、エステラーゼとしては、カルボキシエステラーゼ、アリールエステラーゼ、リパーゼ、アセチルエステラーゼ、コリンエステラーゼ、ペクチンエステラーゼ、コレステロールエステラーゼ、クロロフィラーゼ、ラクトナーゼ、タンナーゼ、ハイドロラーゼ等から選ばれる単独物又は2種以上の混合物が挙げられる。
【0041】
本願第二の発明において、二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーを含有する原料又はその粗精製物を含有する溶液としては、通常、水溶液、又は10%以下のアルコール、エステル、ケトン系等の有機溶媒を含有する水性溶液が用いられる。
【0042】
本願第三の発明において移動相として用いるエステル系溶媒としては、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸イソプロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸ブチル、酪酸イソブチル等が挙げられ、ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル tert-ブチルケトン、ジエチルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルビニルケトン、シクロブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等が挙げられ、炭化水素系溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ノナデカン、シクロヘキサン、キシレン、トルエン等が挙げられ、エーテル系溶媒としては、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン等が挙げられ、アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、sec-ブタノール、tert−ブタノール等が挙げられる。
【0043】
植物原料からの抽出・粗精製は、例えば次のような公知の方法で行うことができる。
植物の果実、果皮、種子、渋皮、殻、葉、樹皮等の植物原料は、通常空気乾燥等の乾燥工程に付した後、抽出原料とするが、そのまま抽出原料とすることもできる。
【0044】
前記抽出原料からのプロアントシアニジンの粗抽出は、公知の方法[Chem. Pharm. Bull., 38, 3218 (1990) 、同, 40, 889-898 (1992)]を参考にして行うことができる。例えば、植物原料を破砕又は細切した後、溶媒を用いて抽出を行う。抽出溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒等の親水性又は親油性の溶媒を単独で又は混合溶媒として用いることができる。抽出温度は、通常0〜100℃、好ましくは5〜50℃である。内部に油分を含有している種子等は、破砕せずにそのまま抽出処理に供することもできる。抽出操作は、必要に応じて2〜3回繰り返してもよい。前記の操作で得られる粗抽出液から、不溶性残渣をろ過又は遠心分離により取り除き、粗抽出液とする。植物原料が植物の搾汁液、樹液等の場合は、そのまま抽出原料として用いてもよいし、Agric. Biol. Chem., 45, 1885-1887 (1981)を参考に縮合型タンニンの濃縮粗抽出液を調製してもよい。
【0045】
非酵素的方法、酵素的方法等の化学的方法により得られる粗生成物からの抽出・粗精製も、前記と同様にして行うことができる。
【0046】
次に、本発明の精製方法について、例をあげて更に詳しく説明する。
本願第一の発明において、二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーは、該プロアントシアニジンオリゴマーを含有する原料又はその粗精製物を、酢酸メチルの単一溶媒、又は酢酸メチル及び酢酸メチルと混合可能な有機溶媒の組み合わせからなる混合溶媒のいずれかを液相に用いた固液抽出に付すことにより精製される。原料又はその粗精製物が液体の場合は、予めスプレードライや凍結乾燥により粉末化しておくのが好ましい。通常、固体と、酢酸メチル、又は酢酸メチル及び酢酸メチルと混合可能な有機溶媒の組み合わせからなる混合溶媒との混合比(w/v) は、1:1〜1:1000程度で、抽出は、室温下又は加熱しながら、撹拌を併用して短時間で行う。固体と、酢酸メチル、又は酢酸メチル及び酢酸メチルと混合可能な有機溶媒の組み合わせからなる混合溶媒との混合比(w/v) は、1:5〜1:100が好ましく、室温で約1時間程度抽出を行い、更に同条件で抽出残渣を数回再抽出すればより好ましい。また、効率よく固液抽出を行うには、粉末体の粒径は細かい方が望ましい。混合溶媒を用いて抽出を行う場合、該混合溶媒は、溶媒の混合により酢酸メチルと類似の溶媒極性を有することが望ましい。これら溶媒を用いた固液抽出法により、プロアントシアニジンポリマーや他の夾雑物質の溶出を抑制し、効率よく二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーを精製することができる。本願第一の発明においては、二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーは、得られた酢酸メチル抽出液を濃縮した後、濃縮残渣を水、又は緩衝液等の水性溶媒等に再溶解させ、凍結乾燥を行って回収してもよいし、スプレードライを行って回収してもよい。
【0047】
本願第二の発明において、二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーは、該プロアントシアニジンオリゴマーを含有する原料もしくはその粗精製物、又はそれらを含有する溶液を、予め加水分解酵素で処理することにより精製される。通常、該原料又はその粗精製物には、プロアントシアニジンオリゴマー以外の夾雑物が多く含まれ、特に原料又はその粗精製物が植物由来の場合、プロアントシアニジンオリゴマー以外のポリフェノール配糖体やエステル体が高い割合で存在する。夾雑成分である該配糖体や該エステル体を前記の加水分解酵素での処理により予めアグリコン化することにより、次精製工程における夾雑成分の除去を効率的に行うことができ、プロアントシアニジンオリゴマーの純度向上が図れる。例えば、タデ科のソバの全草に多く含まれるフラボノイド配糖体であるルチンは、β−グルコシダーゼで処理することによりケルセチンにアグリコン化される。双子葉植物の果実や葉に多く含まれるヒドロキシ桂皮酸エステル体であるクロロゲン酸及びp−クマリルキナ酸は、ヒドロキシ桂皮酸エステルハイドロラーゼで処理することにより分子内エステル結合であるデプシド結合が加水分解され、カフェー酸とキナ酸及びp−クマル酸とキナ酸となる。加水分解酵素処理の反応条件は、酵素の種類等により異なるが、通常、pH3〜8、25〜55℃、1〜24時間である。加水分解酵素処理によって生成した前述のアグリコン成分、遊離の糖類又はカルボン酸類は、冷却処理、液液もしくは固液抽出処理又はカラム吸着処理等の既存の方法、あるいはこれらと順相クロマトグラフィーとの組み合わせにより、容易に除去できる。以上の操作を行うことにより、二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーを含有する原料又はその粗精製物中の夾雑成分の除去が効果的に行われ、目的成分である二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーの純度を向上させることができる。
【0048】
本願第三の発明において、二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーを含有する原料又はその粗精製物から、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒及びアルコール系溶媒からなる群から選ばれる単一溶媒又は2種以上の混合溶媒を移動相として用いた順相シリカゲル液体クロマトグラフィーにより、該プロアントシアニジンオリゴマーを重合度別に分離精製し、重合度数の均一な二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーを得ることができる。前記順相シリカゲル液体クロマトグラフィーには、オープンカラムクロマトグラフィーによる方法及び高速液体クロマトグラフィーによる方法のいずれも適応可能である。二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーは、該プロアントシアニジンオリゴマーを含有する溶液から溶媒又は水を除去した後、あるいは該プロアントシアニジンオリゴマーを含有する原料又はその粗精製物が固体の場合はそのまま、移動相又は移動相に可溶な有機溶媒に溶解又は転溶させる。必要により、メンブランフィルター等でろ過後、カラムへチャージする。目的成分の溶出に際しては、移動相に濃度勾配をかけないイソクラティック溶出法で行うことが、作業簡素化の面でより望ましい。イソクラティック溶出法における移動相としては、ヘキサン/メタノール/酢酸エチル、ヘキサン/アセトン、ヘキサン/メタノール/テトラヒドロフラン/酢酸、ヘキサン/メタノール/テトラヒドロフラン/ギ酸、ヘキサン/メタノール/酢酸メチル/酢酸、ヘキサン/メタノール/酢酸メチル、ヘキサン/酢酸メチル/アセトン等の混合溶媒が好ましい。
【0049】
本願第三の発明の精製方法を用いることにより、夾雑成分である(+)−カテキン、(+)−ガロカテキン、(−)−エピカテキン、(−)−エピガロカテキン等のプロアントシアニジン構成モノマーや六量体以上のプロアントシアニジンポリマーの効果的な除去が可能になると同時に、目的成分である二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマー成分を重合度別に分離精製することができる。
【0050】
本願第一〜第三の発明による精製方法は、抽出源となる原料及び目的とする精製度等により、自由に選択し、繰り返しても組み合わせてもよい。
【0051】
二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーの精製には、本願第一〜第三の発明による精製方法の2種以上を組み合わせることが好ましく、重合度数の均一な二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーの精製には、本願第一の発明による精製方法及び/又は本願第二の発明による精製方法と、本願第三の発明による精製方法とを組み合わせることが好ましい。また、他の公知の方法と組み合わせてもよい。精製方法を組み合わせる場合の各精製方法の使用段階及び使用順番は自由である。
【0052】
これらの方法により、二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマー、二量体プロアントシアニジン及び三量体プロアントシアニジンの高純度体[純度90(w/w) %以上]を効率よく得ることができる。
【0053】
本発明の精製方法により精製された二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマー、二量体プロアントシアニジン及び三量体プロアントシアニジンは、食品、化粧品、医薬品等の製造原料として使用可能である。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例等に何ら制約されるものではない。
【0055】
(実施例1)固液抽出法による精製(A)
参考例1で得られたプロアントシアニジン画分 30gに酢酸メチル 300mlを加え、室温で1時間固液抽出を行った。抽出は計二回行い、二回分の抽出液を混合してろ別した後、少量の酢酸メチルで抽出残渣を洗浄した。酢酸メチル抽出液と洗浄液を合わせて減圧濃縮した後、少量の蒸留水を添加して再度減圧濃縮を行い、抽出成分を水溶液として転溶した。得られた水溶液を凍結乾燥し、酢酸メチル抽出粉末品 17.5gを得た。また、抽出残渣を乾燥し、酢酸メチル非抽出物の粉末品 12.5gを得た。更に、両粉末中に含まれる二量体プロアントシアニジン成分であるプロシアニジンB1(エピカテキン−(4β→8)−カテキン;以下PB1と略)及びプロシアニジンB2(エピカテキン−(4β→8)−エピカテキン;以下PB2と略)並びに三量体成分であるプロシアニジンC1(エピカテキン−(4β→8)−エピカテキン−(4β→8)ーエピカテキン;以下PC1と略)の含有量を、参考例2記載の逆相液体クロマトグラフィー法で定量した。酢酸メチル抽出時の固形分回収率とあわせて表1に結果を示す。
【0056】
【表1】



【0057】
表1から明らかなように、酢酸メチルによる固液抽出により、PB1、PB2及びPC1に代表されるプロアントシアニジンオリゴマー成分の選択的抽出と純度向上が効果的に達成された。
【0058】
(実施例2)固液抽出法による精製(B)
酢酸メチルと各種溶媒を9:1(酢酸メチル:ヘキサンは95:5)の容量比で混合し、固液抽出溶媒を用意した。該各種溶媒においては、酢酸メチルと混合可能な有機溶媒として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ギ酸エチル、酢酸エチル、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ヘキサン又は酢酸を使用した。参考例1で得られたプロアントシアニジン画分 1g に、各抽出溶媒10mlを加え、室温で1時間固液抽出(一回抽出)を行った。抽出液を遠心分離して固形成分を除いた後、一定量を蒸留水で 100倍希釈(0.01→ 1ml)して、抽出液中のPB1、PB2及びPC1の含有量を、参考例2記載の逆相液体クロマトグラフィー法で定量した。同時に、抽出液の1ml を分取して溶媒を除去した後、凍結乾燥して抽出固形分量を求めた。各抽出溶媒による固液抽出時のPB1、PB2及びPC1の抽出効率と固形分回収率をあわせて表2に示す。また、比較例として、前記と同様にして酢酸エチル単独で固液抽出を行った(但し、プロアントシアニジン画分 2g に酢酸エチル20mlを使用した)。その結果も表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
(実施例3)固液抽出法による精製(C)
酢酸メチルと酢酸エチルを表3に示す容量比で混合し、固液抽出を行った。参考例1で得られたプロアントシアニジン画分1gに、各容量比の抽出溶媒10mlを加え、30℃で1.5時間固液抽出を行い、これを3回繰り返した。これらの抽出液を合わせて減圧濃縮後、抽出成分を凍結乾燥して抽出粉末品を得た。粉末品中に含まれるPB1、PB2及びPC1の含有量を、参考例2記載の逆相液体クロマトグラフィー法で定量した。各容量比の溶媒により抽出したときの固形分回収率、PB1、PB2及びPC1のそれぞれの抽出量及び回収率、並びにPB1、PB2及びPC1の合計の抽出量、回収率及び純度を表3に示す。
【0061】
【表3】

表3から明らかなように、酢酸メチルを含む抽出溶媒を用いた固液抽出により、PB1、PB2及びPC1に代表されるプロアントシアニジンオリゴマー成分の選択的抽出と、回収率の向上が効果的に達成された。
【0062】
(実施例4)酵素分解処理を併用した精製
参考例1で得られたポリフェノール抽出液を食品加工用の市販酵素製剤で酵素処理した。酵素製剤としては、Aspergillus 属由来のリパーゼ製剤(リパーゼ三共、三共株式会社)及びハイドロラーゼ製剤(ヒドロキシ桂皮酸エステルハイドロラーゼ、株式会社盛進)を使用した。予めポリフェノール抽出液 100mlを 5mol/L NaOHで pH 5 に調整し、更に蒸留水で 10 倍希釈した試料液 1L に対し、前記リパーゼ製剤及び前記ハイドロラーゼ製剤をそれぞれ 1g(最終濃度:0.1%)ずつ添加し、45℃で 16 時間酵素反応を行った。反応前と反応後の試料液について参考例2記載の逆相液体クロマトグラフィー分析を行った結果をそれぞれ図1−aと図1−bに示す。図からもわかるように、前記酵素反応を行うことにより、主要な夾雑成分であるクロロゲン酸やフロリジンはほとんど消失し、代わりに遊離のカフェー酸、p−クマル酸及びフロレチンが増加した。次に、反応終了後の溶液を濃縮、スプレードライを行って粉末体 20gを得た。更に、酢酸メチルを 200ml添加し固液抽出を行い得られた酢酸メチル抽出液のクロマトグラムを図1−cに示した。図1−aや図1−bにおいてベースライン上の隆起として現れているプロアントシアニジンポリマー類が固液抽出処理により除去された。更に、本抽出液に少量の蒸留水を加えた後、減圧濃縮により酢酸メチルを除去することで抽出成分を水に転溶した。得られた水溶液 50ml に対し等量の酢酸エチル/n-ヘキサン(8/2)を加え、液液抽出を行った。その結果得られた有機溶媒層(上層)と水層(下層)のクロマトグラムをそれぞれ図1−dと図1−eに示した。結果として、酢酸エチル/n-ヘキサン(8/2)による液液抽出処理により、プロアントシアニジン構成モノマー(カテキン、エピカテキン)の一部と先の酵素処理時の反応主生成物である遊離のカフェー酸、p−クマル酸、フロレチンの大部分が有機溶媒層へと除去された(図1−d)。PB1、PB2及びPC1に代表される二〜五量体のプロシアニジンオリゴマーは、ほとんど液液抽出後の水層に残留した(図1−e)。最終的に得られた水層を濃縮後、凍結乾燥し、5.7gの粉末体を得た。一連の処理の結果、PB1+PB2+PC1の総固形分中純度は11.5%から40.3%へと約4倍向上した。このように、原料抽出液に対し酵素分解処理を行い、更に複数の精製方法を組み合わせることにより、目的成分である二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーの効果的な純度向上が達成された。
【0063】
(実施例5)順相液体クロマトグラフィーによる精製(A)
参考例1で得られたプロアントシアニジン画分 10gに酢酸メチル100ml を加えて固液抽出を行った。抽出液を減圧濃縮して 20ml 濃縮液として定容し、シリカゲルを充填剤とする順相液体クロマトグラフィー法による成分分離を行った。クロマトグラフィーの条件は、以下のとおりである。
カラム:Inertsil SIL(4.6mmI.D. ×150mm 、GLサイエンス)
イソクラティック分離用移動相:ヘキサン/メタノール/酢酸エチル(70/30/10)
試料負荷量:0.01ml
流速:1.8ml/分
検出:UV280nm
得られたクロマトグラムを図2に示す。本条件下では、プロアントシアニジンオリゴマー成分は、二量体から順に重合度数別に分離してカラムから溶出した。即ち、シリカゲルを充填剤とする順相液体クロマトグラフィー分離で、二量体、三量体等の目的に応じた重合度数の均一なオリゴマー成分の選択的な分離が達成されることが確認できた。
【0064】
更に、同一の濃縮液試料を用いて、分取スケールでの順相液体クロマトグラフィー分画を行った。分画条件は、以下のとおりである。
シリカゲル充填剤:球状多孔シリカゲル(75μm,120A)
カラムサイズ:6mmI.D. ×500mm ×2本
イソクラティック分離用移動相:ヘキサン/メタノール/酢酸エチル(70/30/10)
試料負荷量:0.5ml
流速:3ml/分
分画:15ml/5分/1画分
検出:UV280nm
このとき、図3に示したように、分取スケールにおいても、試料中のプロアントシアニジンオリゴマーは、重合度数別に分離された。
【0065】
次いで、クロマトグラム上の単量体、二量体、三量体に相当する溶出画分を分取し、参考例2記載の逆相液体クロマトグラフィーで各溶出画分中のオリゴマー成分の構成を調べた。その結果、図4−[5]及び図4−[6]に示すとおり、単量体画分は主としてカテキンとエピカテキン、図4−[7]〜[11]に示すとおり、二量体画分は主としてPB1とPB2、図4−[12]〜[20]に示すとおり、三量体画分は主としてPC1から構成されており、分離した各画分は、それぞれ重合度数の均一なオリゴマー成分から構成されていた。
【0066】
以上のようにして得られた二量体プロアントシアニジン精製物及び三量体プロアントシアニジン精製物の純度は、それぞれ93及び92(w/w) %であった。
【0067】
(実施例6)順相液体クロマトグラフィーによる精製(B)
実施例5で得られた濃縮液試料を用いて、順相液体クロマトグラフィー分画を行った。分画条件は、以下のとおりである。
シリカゲル充填剤:球状多孔シリカゲル(75μm,120A)
カラムサイズ:6mmI.D. ×500mm ×2本
イソクラティック分離用移動相:ヘキサン/アセトン(40/60 )
試料負荷量:0.05ml
流速:3ml/分
分画:15ml/5分/1画分
検出:UV280nm
得られたクロマトグラムを図5に示す。更に、クロマトグラム上の単量体、二量体、三量体に相当する溶出画分を分取し、参考例2記載の逆相液体クロマトグラフィーで各溶出画分中のオリゴマー成分の構成を調べた。その結果、図6−[2]〜[4]に示すとおり、単量体画分は主としてカテキンとエピカテキン、図6−[5]〜[9]に示すとおり、二量体画分は主としてPB1とPB2、図6−[10]〜[15]に示すとおり、三量体画分は主としてPC1から構成されており、実施例5と同様、分離した各画分はそれぞれ重合度数の均一なオリゴマー成分から構成されていた。
【0068】
以上のようにして得られた二量体プロアントシアニジン精製物及び三量体プロアントシアニジン精製物の純度は、それぞれ95及び93(w/w) %であった。
【0069】
(参考例1)リンゴ果実からのプロアントシアニジン画分の調製
Rapid Communication of Mass Spectrometry, 11, 31-36 (1997)に記載の方法に従い、リンゴ果実からのポリフェノール抽出液及びプロアントシアニジン画分の調製を行った。主要栽培品種である「ふじ」の未熟果実 3kgを原料とし、メタ重亜硫酸カリウム 3g を添加しながら果実を破砕、搾汁した。搾汁液を遠心分離及びろ過に付して清澄化処理を行い、1.8Lの清澄果汁液を得た。次に、該果汁液を Sepabeads SP-850 (日本練水)充填カラム(25mmI.D.×285mm )に通塔して果汁中のポリフェノール成分を吸着させ、300ml の蒸留水洗浄により果汁中に混在する糖類や有機酸類を除去した後、200ml の80%エタノール水溶液でポリフェノール成分を溶出させた。更に、回収溶出液を 65ml まで減圧濃縮し、ポリフェノール抽出液とした。得られたポリフェノール抽出液のうち 25ml を更に TSK-GEL toyopearl HW-40EC(東ソー)充填カラム(25mmI.D.×285mm )に通塔し、200ml の蒸留水で洗浄することにより夾雑成分であるフェノールカルボン酸類の大部分を除去し、次に、250ml の40%エタノール水溶液を通液して他の低分子ポリフェノール類を溶出させた後、100ml の60%アセトン水溶液を通液してプロアントシアニジン類の大部分を溶出、回収した。なお、40%エタノール水溶液溶出液中には二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーの一部が混在しているため、減圧濃縮により脱エタノールした溶出液を更に Sep-pak C18ENV カラム(Waters)に通液し、混在プロアントシアニジン成分のみを再精製、回収した。この回収溶液と先の60%アセトン水溶液溶出液を混合し、減圧濃縮後、凍結乾燥してプロアントシアニジン画分を得た(清澄果汁 1.8L → 8g )。別途質量分析の結果、本画分は、単量体〜15量体のプロアントシアニジン類により構成されていた。なお、必要に応じ、本工程をスケールアップし、個々の実施例における必要量のポリフェノール抽出液又はプロアントシアニジン画分を調製した。
【0070】
(参考例2)ポリフェノール分析
実施例に記載の各種試料中のポリフェノール成分組成については、必要に応じて、以下の条件に基づく逆相液体クロマトグラフィー法で分析した。
カラム:Inertsil ODS-3(4.6 ×15mm、GLサイエンス)
溶離液:A) 0.1mol/L リン酸緩衝液(pH 2)/メタノール(8/2)B) 0.1mol/L リン酸緩衝液(pH 2)/メタノール(5/5)
グラジエント溶出条件:0 →10分(100% A)、10分→50分(100% A→100% B)、50分→65分(100% B)
試料負荷量:10μl 、流速:1ml/分
検出:280nm
【0071】
(参考例3)プロアントシアニジンオリゴマーの重合度数分布の解析
実施例1で得られた酢酸メチル抽出物と酢酸メチル非抽出物の粉末品に含まれるプロアントシアニジンオリゴマーの重合度数分布を、ゲル浸透クロマトグラフィーにより解析した。解析条件は、以下のとおりである。
カラム:TSK-GEL toyopearl HW-40F (2.5 ×95cm, 東ソー)
溶離液:アセトン/8mol/L尿素(6/4)
流速:1.0ml/分
分画:3ml/3 分/1画分(最初の 80 mlは廃棄)
検出:フェノール試薬添加による比色法(VIS760nm検出)
また、カテキン類標準品混合物(エピカテキン、PB2、PC1/各2mg )、プロアントシアニジン混合物(10mg)、同混合物の酢酸メチル抽出粉末品(5.83mg)、酢酸メチル非抽出粉末品(4.17mg)を、それぞれ溶離液 0.5mlに溶解して分析に供した。結果を図7に示す。
【0072】
本分析条件下では、図7に示すように、試料中の構成プロアントシアニジンオリゴマーが充填剤の分子ふるい効果に基づき重合度数の大きいものから順番に溶出し、特に三量体、二量体、単量体成分については、独立したピークとしてクロマトグラム上に現れる。図7に示すように、酢酸メチル抽出粉末品は、主として単量体、及び二、三量体からなるプロアントシアニジンオリゴマー成分で構成されていた。一方、酢酸メチル非抽出物粉末品は、主として分子量の大きなプロアントシアニジンポリマー成分から構成されていた。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明により、プロアントシアニジンを含有する原料又はその粗精製物から、二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマー及び重合度数の均一な二量体、三量体プロアントシアニジンを高純度でしかも効率よく精製することができる。本発明により得られるプロアントシアニジンオリゴマーは、抗腫瘍、抗炎症、抗老化、抗酸化、抗アレルギー、抗菌、育毛等の多様な生理活性を有し、食品や化粧品あるいは医薬品等の用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーを含有する原料又はその粗精製物から、ヘキサン/メタノール/酢酸エチル又はヘキサン/アセトンの混合溶媒を移動相として用いたイソクラティック溶出法による順相シリカゲル液体クロマトグラフィーにより、該プロアントシアニジンオリゴマーを重合度別に分離精製することを特徴とする重合度数の均一な二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーの精製方法。
【請求項2】
二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーを含有する原料又はその粗精製物が植物由来である請求項1記載の精製方法。
【請求項3】
(i)二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーを含有する原料又はその粗精製物から、酢酸メチルを液相として用いた固液抽出法により該プロアントシアニジンオリゴマーを抽出することを含む二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーの精製方法及び/又は(ii)二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーを含有する原料もしくはその粗精製物、又はそれらを含有する溶液を、予め加水分解酵素で処理することを含む二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーの精製方法と、
(iii)請求項1記載の精製方法とを組み合わせる重合度数の均一な二〜五量体のプロアントシアニジンオリゴマーの精製方法。

【図1−A】
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【図1−B】
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【図1−C】
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【図1−D】
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【図1−E】
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【図2】
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【図3】
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【図4−A】
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【図4−B】
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【図4−C】
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【図4−D】
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【図5】
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【図6−A】
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【図6−B】
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【図6−C】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−241840(P2010−241840A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−167536(P2010−167536)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【分割の表示】特願2000−614235(P2000−614235)の分割
【原出願日】平成12年3月3日(2000.3.3)
【出願人】(308032666)協和発酵バイオ株式会社 (41)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】