説明

プロトンポンプ阻害剤

【課題】
安全性の点で心配がなく、長期にわたって日常的に摂取可能なプロトンポンプ阻害剤を提供すること。
【解決手段】
ウルソール酸を有効成分とするプロトンポンプ阻害剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウルソール酸を有効成分とするプロトンポンプ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
プロトンポンプ阻害剤は、強力な胃酸分泌抑制作用を有することから、消化性潰瘍、ゾリンジャー・エリソン(Zollinger−Ellison)症候群、胃炎、逆流性食道炎、食道炎を伴わない胃食道逆流症(Symptomatic GERD)、NUD(Non Ulcer Dyspepsia)胃癌、胃MALTリンパ腫、非ステロイド系抗炎症剤に起因する潰瘍、手術後ストレスによる胃酸過多と潰瘍、急性ストレス潰瘍、ストレス性潰瘍、胃粘膜病変、出血性胃炎、胃痛、胸焼け、胃もたれ、むかつきなどの治療に用いられる治療効果の高い薬物である。
【0003】
プロトンポンプ阻害剤は、ヘリコバクターピロリに起因する胃潰瘍にも有用であり、プロトンポンプ阻害剤と2種の抗生剤(アモキシシリン、クラリスロマイシン等)を併用した3剤併用療法による胃潰瘍の治療方法、及びヘリコバクターピロリの除菌方法が知られている(非特許文献1)。
【0004】
しかし、プロトンポンプ阻害作用を有する各種の有機合成化合物は、強力なプロトンポンプ阻害作用を有する一方で、重大な副作用が生じる場合がある。プロトンポンプ阻害剤は、症状の改善のために長期の投与が望ましい場合があるが、副作用のリスクを考慮して、投与期間には、通常は上限が設けられている。すなわち、プロトンポンプ阻害剤として知られる各種の有機合成化合物は、短期の集中的な投与には適しているが、慢性的な症状の改善のために、長期にわたって日常的に摂取することには適していない。
【0005】
ウルソール酸は、食品由来の成分であって、トリテルペン類化合物の一種とされ、ローズマリーエキス、セージエキス、シテイ(柿蔕)の他、りんごやサクランボ、キウイの果皮抽出物等に含まれる物質である。
【0006】
ウルソール酸は種々の生理活性が知られており、免疫抑制剤(特許文献1)、血球増加剤(特許文献2)、及び癌転移抑制剤(特許文献3)が開示されている。このように、ウルソール酸には多数の知見があるにもかかわらず、プロトンポンプ阻害活性はこれまで知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−287530号
【特許文献2】特開平7−48260号
【特許文献3】特開平9−143076号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「ヘリコバクター・ピロリ胃炎 エビデンスとプラクティス」坂本長逸編。75頁、2001年、金原出版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、安全性の点で心配がなく、長期にわたって日常的に摂取可能なプロトンポンプ阻害剤を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、安全に処方できる食品由来のプロトンポンプ阻害剤を開発すべく鋭意研究を重ね、ウルソール酸が顕著なプロトンポンプ阻害活性を有することを見出し、本発明を完成した。
前記課題を解決する本願第一の発明は、ウルソール酸を有効成分とするプロトンポンプ阻害剤である。本願第一の発明は、ウルソール酸を1000μM以上含有することが好ましい。
前記課題を解決する本願第二の発明は、ウルソール酸を有効成分とする抗潰瘍剤である。
前記課題を解決する本願第三の発明は、ウルソール酸を有効成分とする、潰瘍の予防及び/又は治療のための飲食品である。
【0011】
したがって、本発明は以下の[1]〜[2]にもある。
[1]
ウルソール酸を有効成分とするプロトンポンプ阻害剤。
[2]
1回の投与量(摂取量)として1000μmol(460mg)以上のウルソール酸を有効成分として含有する[1]に記載のプロトンポンプ阻害剤。
【0012】
さらに、本発明は、有効成分としてのウルソール酸又はその塩を含有するプロトンポンプ阻害剤にもあり、有効成分としてのウルソール酸又は製薬的に許容される塩を含有するプロトンポンプ阻害剤にもあり、有効成分としてのウルソール酸を含有するプロトンポンプ阻害用医薬組成物にもあり、有効成分としてのウルソール酸及び製薬的に許容される添加剤を含有してなるプロトンポンプ阻害用医薬組成物にもある。さらに、本発明は、経口投与用プロトンポンプ阻害剤、経口投与用プロトンポンプ阻害用医薬組成物にもある。さらに、本発明は、プロトンポンプ阻害用飲食品にもあり、プロトンポンプ阻害用食品添加剤にもある。
【0013】
さらに、本発明は以下の[3]〜[7]にもある。
[3]
ウルソール酸を投与することを含んでなる、プロトンポンプを阻害する方法。
[4]
ウルソール酸を1000μM(460mg/L)以上の濃度で投与する、[3]に記載の方法。
[5]
ウルソール酸を経口投与する、[3]又は[4]に記載の方法。
[6]
プロトンポンプを阻害するための、ウルソール酸の使用。
[7]
プロトンポンプ阻害剤を製造するための、ウルソール酸の使用。
【0014】
さらに、本発明は、ウルソール酸を添加してプロトンポンプ阻害用飲食品を製造する方法にもある。ウルソール酸として、ウルソール酸又はその塩を使用することができる。さらに、本発明は、有効成分としてのウルソール酸の有効量を投与することを含んでなる、プロトンポンプを阻害する方法にもあり、有効成分としてのウルソール酸の有効量を経口投与することを含んでなる、プロトンポンプを阻害する方法にもある。
【発明の効果】
【0015】
本発明のプロトンポンプ阻害剤は、胃内のプロトンポンプの働きを阻害し、胃酸の分泌を抑制することができる。胃酸の分泌が抑制される作用により、従来技術において上述した種々の疾患の治療又は予防のための医薬品及び飲食品として使用することができる。また、ヘリコバクターピロリを原因とする胃潰瘍等の疾患の場合には、本発明のプロトンポンプ阻害剤と抗菌剤を併用することで、胃壁への抗菌剤の浸透性を高め、効果的にヘリコバクターピロリの除去を行うことが可能となる。
【0016】
本発明のプロトンポンプ阻害剤は、有効成分であるウルソール酸が、食品由来であり、伝統的に飲食に供されてきたために、高い水準で安全性が担保されており、長期にわたって日常的に摂取しても副作用の心配がない。また、本発明のプロトンポンプ阻害剤は、さらに高いプロトンポンプ阻害作用を期待して摂取量を増やしても、安全性や副作用の点で心配がない。また、本発明のプロトンポンプ阻害剤は、有効成分であるウルソール酸が、食品由来であるために、有機合成化合物よりも、非常に安価に製造可能であり、経済的な心配なく、長期にわたって日常的に摂取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1はウルソール酸のウレアーゼ阻害活性を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができる。なお、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。
【0019】
〔ウルソール酸〕
ウルソール酸(3β−ヒドロキシウルサ−12−エン−28−酸、3β−ヒドロキシ−19β−メチル−30−ノルオレアナ−12−エン−28−酸)は、植物や果物に含まれる分子量約456.7のトリテルペンであって、図1に示す構造式で表される物質である。本発明のウルソール酸として、市販のウルソール酸を用いることができる。本発明のウルソール酸として、ウルソール酸又はその塩を使用することができる。本発明のウルソール酸として、ウルソール酸又は製薬上許容される塩を使用することができる。
【化1】

【0020】
また、本発明のウルソール酸は、ローズマリーエキス、セージエキス、シテイ(柿蔕)、りんごやキウイの果皮抽出物等から分画して、精製したものを用いることができる。
【0021】
〔プロトンポンプ阻害剤〕
本発明のプロトンポンプ阻害剤は、強力な胃酸分泌抑制作用を有することから、消化性潰瘍、ゾリンジャー・エリソン(Zollinger−Ellison)症候群、胃炎、逆流性食道炎、食道炎を伴わない胃食道逆流症(Symptomatic GERD)、NUD(Non Ulcer Dyspepsia)胃癌、胃MALTリンパ腫、非ステロイド系抗炎症剤に起因する潰瘍、手術後ストレスによる胃酸過多と潰瘍、急性ストレス潰瘍、ストレス性潰瘍、胃粘膜病変、胃痛、胸焼け、胃もたれ、むかつき等の治療に用いることができる。
【0022】
プロトンポンプとは、生物界に最も広く分布している水素イオン(H)の能動輸送系であって、胃酸分泌に関与する機構を担っている。胃酸分泌の最終的な機構は胃粘膜壁細胞膜上のH/KATPase、いわゆるプロトンポンプの働きによる水素イオン(H)とカリウムイオン(K)の交換反応である。プロトンポンプ阻害剤は、この酵素を特異的に阻害し、胃酸分泌を強力に抑制することから、上述した疾患や症状の治療や予防のための医薬として使用される。
【0023】
本発明のプロトンポンプ阻害剤は、プロトンポンプ阻害活性を有している。プロトンポンプ阻害活性を有するとは、本発明のプロトンポンプ阻害活性の測定方法において、H/KATPaseの活性に対する阻害率が50%以上であることを指す。プロトンポンプ阻害率が50%以上の場合、投与された際に胃酸の分泌が十分に抑制されるものと考えられることから、プロトンポンプ阻害剤として好適に使用できる。
プロトンポンプ阻害率は以下の方法で測定される。
【0024】
〔プロトンポンプ阻害活性〕
プロトンポンプ阻害活性の測定方法はNagayaらの方法(J.Pharmacol.Exp.Ther.248,799−805,(1989))に基づいて、市販の試薬とキットを用いて行う。
酵素(プロトンポンプ)として、ブタの胃等から抽出されたH/KATPaseを用いる。
【0025】
始めに、試料をDMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解し、DMSOの最終濃度が2%以下になるように調製する。
続いて、試料のDMSO溶液を緩衝液(20mM Tris−HCl,5mM MgCl,20mM KCl,100mM NaCl)中に混和し、さらに酵素(最終濃度30mU/ml)を添加し、37℃、15分間のインキュベーションを行う。試料は、最終濃度が1000μM(460mg/L)となるようにした。
その後、ATP(最終濃度3mM)を添加して37℃で60分間反応させた後、生成した無機リン酸量(後記する式中のA)を測定する。なお、酵素やATPの最終濃度とは、酵素やATPを混合した混合溶液中の濃度を指す。
【0026】
無機リン酸の測定は、市販のキット等(例えば、QuantiChrom ATPase/GTPase Assay Kit,Bioassay Systems社製)を用いることができる。
【0027】
上記の試験とは別に、酵素を添加しないで37℃、15分間のインキュベーションをした反応液について、試験物質を含む反応液と、試験物質を含まない反応液の各無機リン酸の量(後記する式中のBa及びBc)も測定する。さらに、酵素を含み、試料を含まない、反応液の無機リン酸量(C)を測定し、それらの測定値を次式に代入し、酵素活性の阻害率(I)(%)を求める。
【0028】
I=(1−(A−Ba)/(C−Bc))×100 (%)
A :試料の無機リン酸量
Ba:試料を添加して酵素を添加せずに測定した無機リン酸量
Bc:試料及び酵素を添加せずに測定した無機リン酸量
【0029】
〔プロトンポンプ阻害剤の投与方法〕
本発明のプロトンポンプ阻害剤は単独で使用することができ、他のプロトンポンプ阻害剤と併用することもできる。本発明のプロトンポンプ阻害剤と2種の抗生剤と併用して、いわゆる3剤併用療法としても使用することができる。
【0030】
本発明はウルソール酸を有効成分とするプロトンポンプ阻害剤であって、ウルソール酸は、投与(摂取)によって、100μM(46mg/L)以上、好ましくは500μM(230mg/L)以上、さらに好ましくは1000μM(460mg/L)以上の濃度となるように投与(摂取)されることが好ましく、一般には10000μM(4600mg/L)以下、好ましくは5000μM(2300mg/L)以下の濃度となるように投与(摂取)されることが好ましい。
本発明のプロトンポンプ阻害剤は、食品由来であることから安心して使用することができ、安価で入手しやすい。
【0031】
〔プロトンポンプ阻害剤の剤型〕
本発明のプロトンポンプ阻害剤は、ウルソール酸、若しくはこれらを製剤学的に許容される製剤担体と組み合わせて、経口または経管によりヒトを含む哺乳動物に投与することができる。本発明の医薬製剤の投与単位形態は特に限定されず、治療目的に応じて適宜選択でき、具体的には、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤、シロップ剤、エリキシル剤、坐剤、注射剤、軟膏剤、貼付剤、点眼剤、点鼻剤等を例示できる。製剤化にあたっては製剤担体として通常の薬剤に汎用される賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、流動性促進剤、矯味剤、矯臭剤、着色剤、香料、希釈剤、界面活性剤、注射剤用溶剤等の添加剤を使用できる。これらを用いて常法に従ってプロトンポンプ阻害剤の製剤を製造することができる。
【0032】
結合剤として、デンプン、デキストリン、アラビアゴム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等が例示される。
【0033】
崩壊剤としては、デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース等が例示される。
【0034】
界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート80等が例示される。
【0035】
滑沢剤としては、タルク、ロウ類、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコール等が例示される。
【0036】
流動性促進剤としては、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等が例示される。
【0037】
本発明の製剤中に含まれる有効成分であるウルソール酸の量は、1回の投与量(摂取量)あたり、100μmol(46mg)以上、好ましくは500μmol(230mg)以上、さらに好ましくは1000μmol(460mg)以上とすることができ、一般には10000μmol(4600mg)以下、好ましくは5000μmol(2300mg)以下とすることができる。
本発明の製剤の投与方法は特に限定されず、各種製剤形態、投与対象者(例えば、胃潰瘍の患者)の年齢、性別、その他の条件、投与対象者の栄養状態又は症状の程度等に応じて決定される。
【0038】
本発明の製剤の有効成分の投与量は、用法、投与対象者の年齢、性別、栄養状態又は疾患の程度、その他の条件により適宜選択される。通常有効成分としてのウルソール酸の量は、例えば、0.1mg〜1000mg/kg/日、好ましくは0.5〜500mg/kg/日、さらに好ましくは1mg〜100mg/kg/日の範囲となる量を目安とするのが良く、1日1回又は複数回に分けて投与することができる。本発明の有効成分であるウルソール酸は、食品由来の成分であるために、安全性や副作用の点で何ら心配がないために、慢性的な症状の改善のために長期間にわたって日常的に摂取することも可能であり、より高い効果を期待して摂取量を増加させることも可能である。
【0039】
本発明の有効成分であるウルソール酸は、食品又は飲料に対して、食品添加剤として添加して、飲食品の形態で製造することができ、経口または経管により摂取することが可能である。
【0040】
このような飲食品の形態としては、例えば、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果汁飲料、乳酸菌飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調製用粉末を含む);アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の氷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、チューインガム、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子等の菓子類;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、乳飲料、発酵乳、バター等の乳製品;惣菜、パン類;経腸栄養食品、流動食、スポーツ飲料;健康補助食品等の機能性食品等が例示される。
【0041】
機能性食品の形態としては、顆粒状、タブレット状又は液状のサプリメントであることが、有効成分の摂取量を把握し易いという点で好ましい。
【0042】
本発明の飲食品に含まれるウルソール酸の量は、1回の投与量(摂取量)あたり、100μmol(46mg)以上、好ましくは500μmol(230mg)以上、さらに好ましくは1000μmol(460mg)以上とすることができ、一般には10000μmol(4600mg)以下、好ましくは5000μmol(2300mg)以下とすることができる。
本発明の飲食品には、有効成分であるウルソール酸の他、例えば、ラクチュロース、マルチトール、及びラクチトール等のアルコール吸収抑制性の糖類、およびそれ以外の糖類、例えばデキストリン、デンプン等;ゼラチン、大豆タンパク、トウモロコシタンパク等のタンパク質;アラニン、グルタミン、イソロイシン等のアミノ酸類;セルロース、アラビアゴム等の多糖類;大豆油、中鎖脂肪酸トリグリセリド等の油脂類等を含有させることができる。
【0043】
また、本発明の飲食品としては、例えば、健康食品、機能性食品、経腸栄養食品、特別用途食品、保健機能食品、栄養機能食品、医薬用部外品等として提供することができる。
【0044】
〔H/KATPase阻害活性〕
本明細書において、プロトンポンプはH/KATPaseと言い換えることができるから、本発明のプロトンポンプ阻害剤は、H/KATPase阻害剤またはATPase阻害剤と言い換えることができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの記載に限定されるものではない。
〔実施例1〕
(錠剤)
炭酸カルシウム(白石カルシウム社製)118g、ピロリン酸第二鉄(富田製薬社製)2g、アスコルビン酸(DSMニュートリションジャパン社製)40g、微結晶セルロース40g(旭化成ケミカルズ社製)、還元麦芽糖水飴(東和化成社製)300g、ウルソール酸(東京化成社製)500gを均一に混合し、打錠機(畑鉄鋼所社製)を使用して、錠剤1錠当り1gとするプロトンポンプ阻害活性を有する錠剤950錠(約950g)を製造した。
錠剤1g中のウルソール酸の含有量は500mg(1095μモル)であった。
【0046】
〔実施例2〕
(パン)
小麦粉(日清製粉社製)3000g、ウルソール酸(東京化成社製)30g、イースト(三共社製)60g、イーストフード(キリン協和フーズ社製)3g、砂糖(大日本明治製糖社製)150g、食塩(塩事業センター社製)60g、ショートニング(ミヨシ油脂社製)150g、脱脂粉乳(森永乳業社製)60g、水2070gを用いて、常法によりドウを作成し、成型、焙焼してパンを製造した。パン100gに含まれるウルソール酸の含有量は590mg(1290μモル)であった。
【0047】
次に試験例を示して本発明を詳細に説明する。
〔試験例1〕
本試験は、ウルソール酸のプロトンポンプ阻害活性を確認することを目的とした。
(1)試料及び酵素の調製
試験試料として、ウルソール酸(東京化成社製)を用いた。また、対照試料として化学構造が類似するオレアノール酸(東京化成社製)を用いた。
酵素(プロトンポンプ)として、ブタの胃から抽出されたH/KATPase(SCIPAC社製)を用いた。
【0048】
(2)試験方法
プロトンポンプ阻害活性の測定方法はNagayaらの方法(J.Pharmacol.Exp.Ther.248,799−805,(1989))に基づいて、市販の試薬とキットを用いて行った。
なお、下記に記載する酵素やATPの最終濃度とは、酵素やATPを混合した混合溶液中の濃度を指す。
【0049】
始めに、試料を、DMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解し、DMSOの最終濃度が2%以下になるように調製した。
続いて、試料のDMSO溶液を緩衝液(20mM Tris−HCl,5mM MgCl,20mM KCl,100mM NaCl)中に混和し、さらに酵素(最終濃度30mU/ml)を添加し、37℃、15分間のインキュベーションを行った。試料は、最終濃度が1000μM(460mg/L)となるようにした。
その後、ATP(最終濃度3mM)を添加して37℃で60分間反応させた後、生成した無機リン酸量(後記する式中のA)を測定した。
【0050】
無機リン酸の測定は、市販のキット(QuantiChrom ATPase/GTPase Assay Kit,Bioassay Systems社製)を用いた。
【0051】
上記の試験とは別に、酵素を添加しないで37℃、15分間のインキュベーションをした反応液について、試験物質を含む反応液と、試験物質を含まない反応液の各無機リン酸の量(後記する式中のBa及びBc)も測定した。さらに、酵素を含み、試料を含まない、反応液の無機リン酸量(C)を測定し、それらの測定値を次式に代入し、酵素活性の阻害率(I)(%)を求めた。
【0052】
I=(1−(A−Ba)/(C−Bc))×100 (%)
A :試料の無機リン酸量
Ba:試料を添加して酵素を添加せずに測定した無機リン酸量
Bc:試料及び酵素を添加せずに測定した無機リン酸量
【0053】
(3)試験結果
本試験の結果は表1に示すとおりである。
ウルソール酸はプロトンポンプ阻害率が75%となり、顕著なプロトンポンプ阻害活性を示した。
一方、オレアノール酸のプロトンポンプ阻害率は17%と低いもので、本発明におけるプロトンポンプ阻害活性は有していなかった。
本試験から、ウルソール酸が顕著なプロトンポンプ阻害活性を有していることが明らかになった。
【0054】
【表1】

【0055】
〔試験例2〕
本試験は、ウルソール酸のウレアーゼ阻害活性について確認するために行った。
(1)試料の調製
試料として、ウルソール酸(東京化成社製)及びタンニン(和光純薬社製)を用いた。
なお、タンニンはウレアーゼ阻害活性を有することが知られている。
【0056】
(2)試験方法
ウレアーゼ活性の測定方法は、Ahmadらの方法(Chem.Pharm.Bull.51(6)719−723)に基づいて、ウレアーゼが尿素から生成するアンモニアを定量する方法で行った。
市販のウレアーゼ(長瀬生化学工業社製)及び尿素(SIGMA社製)を試料と混和し、37℃、20分の条件で反応させた。得られた反応物について、アンモニア定量試薬(和光純薬社製)を用い、630nmの吸光値を吸光光度計(コロナ社製)で測定した。
コントロールとして、試料を混和せずにウレアーゼのみで活性を測定し、測定値を比較して各サンプルの酵素阻害活性を算出した。この他、ブランク値として酵素と試料のみを混和したものについて吸光値を測定した。
【0057】
ウレアーゼ阻害活性は、測定した吸光値を以下の式に代入して相対活性を算出して求めた数値である。
【0058】
阻害活性 = (C−B)/A
A:ウレアーゼ及び尿素を添加した場合の吸光値
B:ウレアーゼ及び試料を添加した場合の吸光値
C:ウレアーゼ、試料、及び尿素を添加した場合の吸光値
【0059】
(3)試験結果
本試験の結果は図1に示すとおりである。
タンニンは、39.1μg/mL、625μg/mL、1250μg/mLの3点で試験した。
タンニンの濃度が39.1μg/mLのときは相対活性が1.0であったが、625μg/mLのときの相対活性が0.7、1250μg/mLのときの相対活性が0.24と濃度依存的にウレアーゼ阻害活性が高くなった。
一方、ウルソール酸では、濃度が31.3μg/mL、500μg/mL、1000μg/mLの3点で試験したが、いずれの場合もウレアーゼ阻害活性は見られなかった。
このように、ウルソール酸が、ウレアーゼ阻害活性を持たないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、安全性の点で心配がなく、長期にわたって日常的に摂取可能なプロトンポンプ阻害剤を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウルソール酸を有効成分とするプロトンポンプ阻害剤。

【図1】
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【公開番号】特開2012−25719(P2012−25719A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168884(P2010−168884)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】